ぐらんぶる〜もう1人の少年を添えて〜   作:夢見969

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お気に入り600ありがとうございます。
皆様は普段からウーロン茶を愛飲でもしてるんでしょうか?

今回は丸っきりのオリジナル回の為、面白くないかもしれません。と先に予防線を張っておくチキンです。お許しください。


妖精の空

「さて、私は今日の夜にはあちらに戻らないといけないのですが……聞いていますかキリト」

 

「あー…聞いている…」

 

「チサ、キリトはいつもこの様な?」

 

歓迎会から一夜明け。

全裸の状態で「Grand Blue」の床に伊織や耕平と共にぐったりとしている様子を見てアリスはキッチンで朝食を準備している千紗に訊ねるが、彼女はそうだよ、とひとつ返事をして彼らに一瞥もくれない。

 

「アスナが知ったらどう思うのでしょうね」

 

「うぐっ…」

 

「ユージオと共に過ごしていた時よりも自堕落になっているのでは」

 

「がはっ…」

 

あまりにもピンポイントに痛い所を疲れてぐうの音も出ない和人にアリスは苦笑しながら一つ…と指を立てて口を開く。

 

「今回の私の行動は独断です。アスナ達も知りません。故に条件次第では黙っておきましょう」

 

「本当か!?」

 

「はい、私をダイビングに連れていってください」

 

無理だァァァァァァァァ!!!!

ロボットだぞ!? 高性能とはいえ今のアリスのボディは水中には対応してない…っ!

 

「どうしましたキリト?」

 

知ってか知らずか微笑みながらこちらを見てくるアリスが悪魔に見えた。 ついでに千紗はダイビングの本を持ってアリスの周囲をぐるぐる回っている。 キッチンではスクランブルエッグが煙を上げている。

 

「和人、こんな事もあろうかと!」

 

「俺たちがいいものを用意しておいた!」

 

「はっ!? 先輩方!?」

 

扉を開け放ち朝日を背にしながら仁王立ちする寿と時田に和人は目を向ける。 朝日のおかげで丁度股間部が光っているため朝から見苦しいものを見ずに済んだ。 立地が良い店だなここ。

 

「前々から相談を受けていたものだがな。 お前のアイデアを元に大学の方で試作品を作った。 もちろん細かい設定は和人がしなければならないが」

 

ほれ、と渡された箱の中には和人が作成した通信用プローブが少しごつくなったモノが入っていた。

 

「元々ダイビング用に使えるカメラもあるんだ。 その外装を使用してプローブを水から守る物を作ってみた。まぁ、試作品だから数回の使用でガタがくるかもしれないが…」

 

「あとは電波の問題だなぁ」

 

「いえ、プローブには元々ローカルストレージも付けてたんで…これならユイもアリスも一緒にダイビングが出来るかもしれません…寿先輩! 時田先輩! ありがとうございますっ」

 

ナイスなタイミングだった。というか昨夜アリスに会ったから持ってきてくれたのだろうか…?

何にせよこれなら問題は解決だ。 アスナには昨夜の醜態がバレない。

 

「その代わり、今度俺たちの研究に付き合ってくれ人手が足りなくてな」

 

「もちろんですよ。ここまでしてもらいましたから!」

 

このセリフ、よく覚えておいて欲しい。

 

まぁとりあえず目の前の問題は解決したし、ご飯を食べてダイビングに行こう!とみんなで言っていたのだが伊織と耕平は准教授にレポートを出さないといけないのを忘れていたらしくグロッキーな状態(パンツ一丁)で大学へと向かった。愛菜も諸事情…というか旅行の疲れが取れていなく寝ているのか未だに連絡が取れない。

朝食を終え、ダイビングの準備を始めるといつの間にかアリスもダイビングスーツを身にまとっていた。もちろん潜る訳ではないが奈々華さんが着ているだけでも気分が変わるということで貸してくれたものだが。

 

「今日は透明度が高そうだな!」

 

「ダイビング日和だっ」

 

「アリス、今のうちにプローブの方に移れるか?」

 

「分かりました……」

 

カクンッとスイッチが切れるようにアリスの身体が傾くとボディを壁へともたれかけさせておく。

プローブのカメラが上下左右に動き始めアリスと意識がしっかりと移ったようだ。

 

「よし…OKです」

 

「それじゃあバディチェックするぞー」

 

互いに身の回り品やバルブチェックを行って順に海へと入っていく。 残念ながら試作水中用プローブには通話機能が未実装のためアリスの声は聞こえないが、潜行を始めると仕切りカメラが稼働して海の中を見つめていた。

少しは興味を持ってくれているといいんだがな。

奈々華さん達の後ろを付きながら泳いで行くと大きなサンゴがあり、隙間からは様々な魚が顔を出したりしており見ていて飽きることがない。 今日は透明度も高いから遠くまで見通せる。

惜しむらくは伊織と耕平、愛菜が居ないことか。

 

普段は存在そのものがアレだが居なかったら居ないで少し物足りなく感じてしまう。四六時中一緒に居るせいだろう。

水の中を気泡が上がっていく音が、海中で石と石がぶつかり合う音が聴こえる世界を記憶しようと眺める。 いつか仮想(あちら)の世界でもこれほど美しい風景を再現出来たならば…現実の空と海のように電子の海で世界のどこに居ても誰かと共に居られるようになるのならば。

その時はきっと、彼らと。

 

 

 

「……とても、とても美しい世界でした」

 

「だろう? UWには海が無かったもんな」

 

「はい。湖はありましたが…ここまで深く広くは無かったので」

 

感動したのか饒舌になっているアリスは「Grand Blue」のカウンターでこの1時間ほどずっと海中で見たものについて語っている。 後で録画したデータも見返すといい千紗や奈々華さん、それに防水仕様の準備をしてくれた先輩方の手を取り感謝して回っていた。 ここまで喜んでくれたなら一緒に潜った甲斐が有るものだ。

 

「決めました。次回は私もこのカラダで潜ります」

 

「え゛!? いや、それは…」

 

凛子さん、比嘉さん…申し訳ないが頑張ってほしい。

 

「さて、私はそろそろ帰らなくてはなりませんが…」

 

「え、もう帰るのか? 夜って言ってただろ」

 

「私はキリトほど暇ではないので」

 

痛い所を突いてくれるな…本当に。

 

「む、折角レポートを終えて帰ってきたと思えば」

 

「もう帰るのかアリス?」

 

「コウヘイ、イオリ。 腰を据えてあまりしっかり話せていませんでしたね」

 

腰を据えて話せなかったのはコイツらがアルコールを飲んでいたからであって時間がなかった訳ではない。

 

「キリトは知っての通りバカです」

 

おい。

 

「ですがキリトは何かと人の為に動き自分で背負い込んでしまう所があります」

 

「そうか?」

 

「寧ろこいつは嬉嬉として俺たちを貶めようとしているが」

 

「それはきっと貴方々を友として見ているからでしょう」

 

それは無い。それは無いからそんなニヤニヤした目でこっちを見るな伊織、耕平…!

 

「どうか彼が無茶しないように見守ってください」

 

「ま、女の子の頼みとなっちゃ」

 

「叶えない訳には行かないな」

 

いい話風にまとめようとしないでくれないか?

アリスはその光景にクスりと微笑むとイタズラが上手くいったような…彼女にしては珍しい表情を浮かべて店の外へと向かって歩き始める。

 

「それでは私は行きます。 最後にひとつだけ」

 

扉に手をかけ振り返るとアリスは和人を見つめて口を開く。

 

「私が入ってきた箱の底にキリトがクリスハイトに頼んでいたものが入っています」

 

なるほど、菊岡さんもこのアリスの襲来に一枚噛んでいたのか…とんだサプライズだよ、全く…。

 

「それではPaBの皆様、またお会いしましょう」

 

「「「おうっ! またなアリス」」」

 

ふっ、と口角を上げて出ていった彼女を見送る。 ありがとうなアリス。 それに業腹だが彼女を一人の人間として扱ってくれた伊織と耕平にも口には出さないが礼を言っておく。

 

とりあえず頼んでいたものが届いたんだし耕平にだけは教えておくか。

 

「耕平、少し良いか?」

 

「どうした我が友、桐ヶ谷くん?」

 

心底腹が立つ笑顔を見せた耕平を蹴り飛ばして一度部屋へと戻った。 やるのは天気の悪い日…だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、沖縄から帰ってきて早数日。和人の伊豆滞在も二ヶ月以上となり最近は茹だるような暑さの日々が続いているのだが外は暴風雨の為にダイビングが出来ずにいた。

それでも耕平と愛菜は店に来て皆でダラダラと過ごしていたのだがそんな状況を見て和人は今こそ皆をあの場所へ連れて行こうと思い立つ。

 

「みんな聞いてくれ」

 

「「「「?」」」」

 

何故か前もって打ち合わせをしていた耕平も間抜けな顔をして和人を見つめているが、まぁバカだからなと解決し話を続ける。

 

「みんなに体験して貰いたいものがあるんだ」

 

「体験…? 外は雨だぞ」

 

「天候関係なく出来るものだよ。まぁゲームなんだけどさ」

 

ちょっと待ってろ。と部屋へ足早に向かった和人は3人分のアミュスフィアを持って戻ってくる。 それを見てようやく合点がいった耕平もカバンから同じくアミュスフィアを取り出し腹の立つ笑顔を浮かべている。

 

「おぉ、アミュスフィアじゃねーか! これどうしたんだ!?」

 

「ちょっとアリス関係で出来たコネがあってな。 タダで譲ってもらったんだ」

 

「これって高そう…」

 

「私も話にしか聞いた事なくて…あはは」

 

「まぁ、俺がみんなと遊びたくて用意したものだって考えてくれればいいよ。 俺に新しい世界を見せてくれたみんなには…俺が居た場所を見せたかったしな」

 

照れ隠しのように頬を掻き目を逸らす和人の姿に愛菜と千紗は同じ様に少し気恥ずかしく感じ、伊織と耕平は気持ち悪いものを見た目で和人から距離を取っていた。

 

「どんなゲームをするの?」

 

「アルヴヘイムオンライン、通称ALOって呼ばれているゲームだな。 妖精のアバターを使うんだけどこのゲームの売りは宙を飛べることなんだ」

 

「宙を?」

 

「って、そう言えば3人ともVRMMO自体初めてなんだもんな。 説明するよりも先にやってみる方がいいか」

 

アミュスフィアの使い方だけ大まかに説明をし、伊織、耕平は俺の部屋に。 愛菜は千紗の部屋で各々アミュスフィアを付けて電源を入れる。

あぁ、思い返せばこんなに長い期間ログインしていなかったことは無かったな…

 

「リンクスタート!」

 

久しぶりのフルダイブの感覚に少し目頭が熱くなる。来る日も来る日も飲み会で気が付いたら日が昇り。 研究室に行っては色んなことを学び、帰ってきてまた飲み会…そんな二ヶ月を過して来たのだから仕方がない。

 

目を開けると二ヶ月前にログアウトした街の一角だった。 いや、本当に久しぶりだな…

おっと、感傷に浸るよりも先に3人を探さないと。

と、思ったんだが傍から見ても分かる。

何故か()()()()()()()()()()()()闇妖精の男。

それを呆れた様子で見る水妖精の女の子。

そして浮かれた様子で周りをはしゃいで見回り暖かい目で見られている今地面にすっ転んだ、和人と同じ影妖精の女の子。

 

どうみても伊織と千紗、愛菜だ。

いやなんでハラスメントコードギリギリの褌一枚なんだあのバカは。

 

「お、かず……じゃなくてキリト。こっちこっち」

 

「その姿で呼ぶな寄るな!? 変人の知り合いと思われたくない!」

 

「服の違和感が凄くてな」

 

何を言っているんだ、このバカは。

一応ゲームを始める前に和人は自分のアバターの見た目とプレイヤーネームを教えておいた。いきなりリアルネームを呼ばれるのも知り合いとはいえ周囲の目があればマナー的な問題もあるからだ。

 

「キリト、凄いんだね今のゲームって!? うはー! 風も気持ちいいっ」

 

「あー…ケバ子」

 

「ケバ子言うな! よく分からなかったからアイよ」

 

「俺は「スピリタスか」違うわ!? 俺もアイツと同じで無難にイオだ」

 

愛菜がアイで伊織がイオか。まぁ分かりやすいというかそのまんまだな。裸でも良かったんじゃないか?

チラリと千紗を見ると目を逸らされた。

 

「……マレ」

 

「なるほど。らしいな」

 

Mare…ラテン語で海だったよな。確か

千紗らしい名前だ。

 

「あれ? いまむ…じゃなくてえーと…うーん…オタクは?」

 

「名前がわからないからってそういう呼び方をするか。 いや、誰か分かるから問題ないけど」

 

「待たせたな」

 

背後から声をかけてきたのはリーファと同じ風妖精の緑がかった金髪をした男。耕平だろう。初期装備の3人とは違いしっかりとした片手剣に魔法耐性の高い防具をつけていて中々歴が長そうな感じだった。

 

「ふっ、初期装備か。雑魚め」

 

「運動出来ないくせに装備で威張りやがってバカめ」

 

「そんで、プレイヤーネーム聞き忘れていたんだが」

 

「キリト、俺は考えたんだ。プレイヤーネームは皆が、それこそNPCも呼んでくれる名前だろう?」

 

「ん? まぁ確かにそうかもな」

 

「だから《お兄ちゃん》と言う名前にすれば妹キャラからもそう呼ばれるのではと気がついた!」

 

「続けろ変態」

 

「まぁだが、そんな名前にすれば屈強なNPCにも《お兄ちゃん》と呼ばれることと、KAYA様のお声がするキャラに呼ばれたら死ぬ事に気が付き、RaRaKoにした」

 

「ららこ…って確か好きなアニメの?」

 

「あぁ、俺如きが名乗っていい名前では無いのだが…若気の至りでな。 まぁそれで仲良くなったプレイヤーも居た…つまりららこたんは人の輪を繋ぐ!!」

 

あー、はいはいと誰もが空返事。

とりあえず全員揃ったので郊外へとゾロゾロと並んで出ていく。 ユイは最後のログアウト前にアスナに預かってもらっているので意識的にキリトのログイン歴を調べない限りはこの連中と居ることはバレないだろう。

イグドラシルを出て比較的モンスターのポップがないエリアに着くと今回のメインである空を飛ぶ為に翅を出す。

それぞれ四人、自ら選んだ種族の色をした翅を出すと感心したように互いの翅を見て喜んでいる姿を見ると…これだけでもこの四人(耕平は元々やっていたが)をここに連れてきて良かったと思う。

 

「最初はこの補助スティックを使って飛んでみようか」

 

「ん、キリトくんは使わないの?」

 

「あぁ、慣れてきたら翅も身体の一部に感じるようになるからな意識するだけで自在に飛べるよ」

 

軽く飛翔し左右に揺れるように飛んでみるとアイとイオは目を輝かせていた。

 

「ららこは出来るのかよ」

 

「ふ、当然だ。 そこで見ているんだビギナーくん」

 

ふらふら〜…ふらふら〜…と浮かび上がるららこ。

そしてドヤ顔で戻ってくるららこ。

 

「ふっ、どうだ」

 

「瀕死の蛾の様な飛び方だったな」

 

「気持ち悪かった」

 

「うん」

 

「ま、まぁまぁ…補助なしじゃ本当に難しいんだよ。 とりあえずイオ達も飛んでみようぜ?」

 

みんなが補助スティックを操作するとフワリと…身体が軽く浮き上がり始める。

 

「わ、わっ!?」

 

「おぉ…!? 俺飛んでるぞっ!! すげー!」

 

「本当に飛んでるみたい…いや、本当に飛んでるんだけど…っ」

 

三人はゆっくりと宙に上がりながらくるりと回転してみたりと初飛行を楽しんでいるようだ。

もっとも何時ものごとくアイはあまり上手くいってないようなので少し教えに行こう。なんて思いながらキリトは翅を動かし飛行が上手くいっていない彼女の横に付く。

 

「き、キリトっ! これどうしたら…っ」

 

「落ち着け落ち着け…! とりあえずその場で留まれるように…」

 

左手は補助スティックを握っているためアイの片手を取って引くようにし宙での動きを身体へ覚えさせるように手伝ってあげている。

 

「えーと、アイ…大丈夫?」

 

「マレ…う、うん…何とかキリトのお陰で慣れてきた…かな?」

 

暫くしてやっと慣れてきたアイ(愛菜)マレ(千紗)と一緒に宙を舞っている。

新生アインクラッドの一層辺りでモンスターと戦ってみるのも面白そうだな。と思っているとイオが寄ってきた。

 

「キリト、スティック無しの飛び方教えてくれよ」

 

「お、イオ興味あるのか?」

 

「あのクズ(耕平)に負けっぱなしは屈辱だ」

 

なるほど。一理ある。

それでは、とかつてこのゲームに来たばかりの時にリーファに教わったようにイオの翅を触り仮想の筋肉があることを把握させ、彼もそれを動かすように意識していく。

ジジ…っ…と翅を振動させる音をさせるとそのまま一気に飛び上がった。

 

「おぉ、すっげぇ!? 俺マジで飛んでるって!」

 

「凄いぞイオ! バッチリ飛べてるっ」

 

あっという間に『随意飛行』をモノにしたイオはかつてのキリトよりも飲み込みが早く、自在に飛んでいる。

並走するように飛ぶといつの間にか速度を競うようなバトルになっていたけど…

 

 

「いやー、すっげぇな今のゲームって!」

 

「リリースはだいぶ前なんだけどな。 やっぱり本体は高いから手を出せない人も多いみたいだ」

 

「風を切るってあんなに気持ちいいんだーっ!」

 

「う、海の次くらいに楽しかったかも…?」

 

マレがそこまでの感想を言ってくれたなら本望だな。

 

「でも本当に貰ってよかったの? そこまで高いもの…」

 

「いいんだって。 いつかは他のPaBのメンバーも呼んでみたいもんだしな」

 

ゲームとはいえ、この世界でも疲労はある。

少し休憩ということでみんなで一度街に戻りゲーム内での食事を楽しみその途中でららこ(耕平)の知り合いが現れる。

 

「あ、ららこくん。今日はお友達と? 随分と久しぶりのログインだね」

 

「あぁ、久しぶりだ。 友達という訳では無いが…まぁそんなところだな」

 

ららこ()が女性プレイヤーと話しているだと…!?」

 

イオは驚愕を表した顔で(というかALOでそんな顔出来たのか)ららこを見つめて固まっている。

 

「そちらは?」

 

「たまに俺とパーティーを組むKAYA様の同士だ」

 

「へぇ、俺はキリトです。よろしく」

 

「NANAです。よろしくねブラッキー先生」

 

「うっ、その呼び方は…」

 

「有名だからね」

 

「そっちが、マレとアイ。それとバカだ」

 

「イオだよ! バカはお前だろ!?」

 

「はっ、よく言う工学20点」

 

「お前はカンペを使って22点だろーが」

 

ワイワイと騒ぐ二人を他所にナナはくすくす笑いながらそろそろ時間だからと挨拶を済ませて店を出ていった。

とりあえず二人を鎮圧しこの世界の飯でも味わってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「酔わないアルコールって苦痛だ」」」

 

「アンタらねぇ…」

 

「結局そこなんだね…」

 

何を飲んでもアルコールを感じられずにゲンナリしながらもう一度飛びたいという彼らの為に少しエリアを変えてみた。

イグドラシルから降り、地上街の外…どちらかと言えばららこ(耕平)の種族、風妖精の首都であるスイルベーンよりの場所でモンスター狩りもしてみた。

 

イオは持ち前の運動神経と場馴れを最大限に活かして難なく倒し、マレとアイも協力して倒し…

ららこは吹っ飛ばされていた。

 

「おまえ…」

 

「俺は普段パーティーを組んでいるからな。後衛職だ」

 

「にしたって限度があるだろ」

 

イオから前々から聴いていたが本当に苦手なのかこういうの。

その時、森の方から高速で何かが飛んでくる音を察知した。 もちろんスキルなんかではなく長年こちらの世界で培ってきた環境音や周りにいるプレイヤーが出す音とは別、ある程度距離のある所から聞こえる音はノイズのように聞こえ始めて徐々に鮮明になってくる…なんてシステム上の事から気がついた察知能力みたいなものだが。

PKもあるゲームだ。初心者丸出しの3人がふよふよと飛んでいたらそれを進んで狩ろうとするやつもいる。

背に担いだ剣に手を掛けて音のする方向を睨み付ける。

 

「ららこ! プレイヤーが来るかもしれないっ。三人を落とされないようするぞっ」

 

「悪いが対人は苦手だ」

 

「お前は何が出来るんだ!?」

 

彼の申し分に呆れてつい目を逸らしたその瞬間、森から一人飛び出してきた。 抜剣は間に合わない…二ヶ月の間にかなり腕が鈍ったと歯噛みしながら兎に角、一撃目は避けなければと意識するが予想外にもそのプレイヤーはキリトの胸へ飛び込んできた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

「す、スグ!?」

 

桐ヶ谷直葉。

一つ下の実は血の繋がっていない妹。

ALOでは風妖精のリーファという名前でかなり有名なプレイヤーになっている。

そんな彼女がキリトを突進気味に抱きしめて反動そのままごろごろと地面を転がった。

 

「もう! 全然連絡ないから心配してたんだよ!?」

 

「ご、ごめん…ってなんで俺がここに居るって分かったんだ?」

 

「さっきイグドラシルの方でブラッキー先生が見た事ない奴らとツルんでたって話が聞こえて…」

 

色んな意味で名前が売れているキリトは良くも悪くも動いているだけでユージーンやサクヤ達のレベルで噂になる。

今回はそれが悪い方向で成果を出してしまっただけである。

 

「それでお兄ちゃ…キリトくん。この人たちは?」

 

キョトン、とした顔でこちらを見つめている女性二人と傍から見れば…いやアバターだけど綺麗な女の子に抱き締められているキリトを見て両手剣を無言で引き抜き今にも首を取らんとしているイオを眺めてリーファは立ち上がる。

 

「えっと、この4人は俺が今下宿させてもらっている所で知り合った友達……知り合い? いや、被害者と加害者? だ」

 

「キリトの妹さん…なんだよね? 前に写真見せてもらったけど姿が違うから…私はアイだよ」

 

「えっと、マレ…です」

 

「なんだ妹なのか…俺にも妹はいるしな? イオだ。いつもキリトには迷惑をかけられている」

 

「おいおい、いつも俺に迷惑をかけているのはお前だろイオ」

 

「「あっはっはっはっ…」」

 

「「受けて立とうじゃねぇかこのクズ(バカ)!!」」

 

「えーと…?」

 

目を点にしながら睨み合うキリトとイオを指さしているリーファにマレとアイは無表情で首を振る。

 

「いつもの事だから…」

 

「いつも何ですか!? あんなキリトくん初めて見ますよ…」

 

「確かに最初来た時はもう少し大人びた感じだった。イオやららこに比べてだけど」

 

「へ、へー…そうなんですか…なんだか意外だけど…少し嬉しいかも」

 

「どうして?」

 

「んー、お兄ちゃんってあまり同年代の友達と遊んでいた事、私の記憶ではほとんど無くて…もちろん友達は居るんですよ。 仮想世界(こっち)では友達も戦友もライバルも沢山居ますし。 それでもこうやって同年代の人と遊んでいるのが珍しくって」

 

リーファがなんだか余計なことを喋っている気がするが今は目の前のイオから目が離せない。

キャラのスキルは始めたばかりだから初期のはずなのに如何せんプレイヤースキルが異様に高い。体捌きや先程会得したばかりの『随意飛行』まで用いて攻撃を仕掛けてくる。

 

「おいキリト」

 

「なんだイオ」

 

「あのバカ。やけに静かじゃないか?」

 

そう言えばららこ(耕平)は…?

ふと、2人して地上に居る彼を見るとそこには…

 

「ウゥ…ァァァ…」

 

邪神が誕生しようとしていた。

 

「逃げろキリト!? アレは止められる気がしないぞ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「キィrIがYaaaa!!!!!!!!!!!!」

 

ヒィ!?

 

翅を震わせ最大速度で一気に更に宙へと逃げ始める。 ららこの『随意飛行』はお世辞でも上手くはなかったから余裕で逃げられ…

 

「Koろ…kokokororrrrr」

 

振り向いたら眼前まで邪神は迫っていた。

その後ろには恐らくイオのリメインライトが浮いている。 瞬殺してきたのか!?

 

「こ、の…ッ!!」

 

片手剣を振るい悪しき敵を斬り倒そうとするもバレルロールの如く身を捻り回避したららこはその手に持った槍(先端がイカの形になっている、アニメコラボ武器)でキリトの腹部を貫く。

 

「キリトくんが押し負けてる…!? あの人何者なんですかっ!?」

 

「あー…」

 

「うん…」

 

このままではHPが削り取られると焦りが生まれた辺りでららこのアバターが強制的に消えた。

 

「あれ? どうしたの?」

 

「急激な脈拍の上昇を感知して強制ログアウトしたのかもしれない…それにしても危なかった…」

 

「いや、それならもっと危ないんじゃないか?」

 

復活魔法をリーファにかけてもらったイオがキリトに近寄りながら口を開く。

 

「だって俺たちの身体って今、同じ部屋にあるだろ」

 

「あ」

 

リーファも含めた四人の前から唐突にキリトのアバターが消えた。

 

「俺達もログアウトとするか」

 

「街に行かないと直ぐにログアウトできないんだよね?」

 

「うん、キリトくんが言ってた」

 

「ちょ、皆さん!? なんで何も無かったかのような振る舞いを!?」

 

焦るリーファにイオ達は頬を掻き肩を竦める。

 

「「「いつもの事だから」」」

 

とりあえず、リーファは彼ら3人を街まで見送り今日の事をアスナに話そうか悩んでいたのだが…

 

「あ、来週伊豆に行くってお兄ちゃんに伝えるの忘れてた…」

 

母に様子を見て来いと言われていたことを思い出し彼らの事を思い出す。

喧嘩とかはしてたけど普段はきっと仲が良くてキャンパスライフを一緒に送ってるんだろうなぁ…やっぱり内緒で会いに行こっと…




やめて!妹の直葉の登場で、今の桐ヶ谷・スピリタス・和人を見られたら、PaBのゲームで下着姿で梓さんと遊んでいる和人の精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで和人!あんたが今ここで倒れたら、伊織や耕平との約束はどうなっちゃうの? パンツはまだ残ってる。ここを耐えれば、梓さんをポロリさせられるのだから!


次回! 妹襲来? 和人、伊織死す!
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