・キミコ 同じ大学に通うマリエと同棲中
・マリエ キミコの同棲相手
・サキ 男の噂が絶えないテニスサークルの姫
雨が降っている。天気的にも私の心の中にも。コンビニのビニール傘を窓の窪みに引っ掛け玄関の鍵を回す。家の中はシンと静まり返っていて、なんだか不気味な気がした。そう思うのは私の精神状態も影響してるのだろう。
「ただいま~。って起きてるわけないか」
真っ暗な家の中、玄関にだけ明かりをつけて呟いた。
時刻は早朝。この時間に起きている人間は珍しい部類にカウントされる時間だ。同居人のマリエを気遣い、音を立てないように廊下を進みリビングのドアを開ける。
「おかえりキミコ」
「マリエっ!? 起きてたんだ」
「ん~どうだろう? ちょっと眠たくなって突っ伏してたから」
テーブルをトントンと指で小突きながらマリエは笑った。ちょっと物を置いただけですぐいっぱいになっちゃうような小さなそれは、同棲するとき二人で選んだ物だ。テーブルだけじゃない。茶碗に箸、タンスや壁にかかった絵も一緒に決めた。そういう意味では、この家は私とマリエが二人で作り上げた作品と言えなくもない。
「朝帰りだね。キミコに裏切られるとは思ってなかったよ」
「ごめん」
「否定しないんだ。相手は男? キミコは美人だから結構狙ってる人いたの知ってるよ」
私が何も答えずにいると、座ったまま伸びをしたマリエが言葉を続けた。
「男だったらいいな~。少し諦めがつくもん。ああ、元に戻ったんだって。もともとキミコみたいな子が同性の私と付き合う方がおかしいところあったし」
伸びを終えたマリエの視線が私に突き刺さる。目の下のクマのせいか、いつもより凄みがあるように見えた。
「何か喋りなよ。さっきから私ばっか喋ってるじゃん」
「ごめん」
「それはもういいよ。もしかして言えような相手だったの? うちんとこの教授とか? そんな甲斐性のある連中じゃないか」
吐き捨てるようにマリエは言った。時計の針の音がカチカチとうるさい。
「相手は女の人」
「そっか。なんかそんな気はしてた。私も知ってる人かな?」
「たぶん…。テニスサークルのサキさん」
「ウソでしょ!? あっははははは。だってあの人しょっちゅう男取り替えてるような人じゃん。絶対ノーマルだと思ってた」
ひとしきり笑った後、マリエは声を震わせて言った。
「私、出てくね。しばらくは実家から通うよ。幸い大学からそんな遠くないし」
「マリエ…」
「そうするしかないじゃん。男ならまだしも他の女に寝取られるなんて、惨めでやってられないもん。ほ~んと、男相手だったらよかったのに」
たぶんそれは本心だったと思う。同性愛者として長く付き合ってきたマリエにとって、私を同性に盗られたのは男に取られるよりも屈辱を受けたに違いない。
それが分かっていたから、私もただ静かにマリエを見送ったんだと思う。
高校から付き合い始めて4年。こうして私たちは、初めて離れ離れになった。