NieR:humagi〈el〉   作:TAMZET

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これまでのあらすじ

ヒューマギアをアークごと未来にタイムスリップさせようとするビッグタイムマシン計画。それに乗り遅れてしまった滅は、アークの着地点から大きく離れた時間軸の11946年にタイムスリップしてしまった。
アーク復活を目論む滅は、相棒である32Sや仲間のヒューマギア達の力を借りながら、イヴや2Bとの戦いを繰り広げる。


第4話:【栄光人類.net】
【栄光人類.net(前編)】


 空は灰色であった。

 今にもどしゃ降りになりそうな天気でありながら、一滴の滴すら垂れてこない。焦らすように、遠方の雨雲がゴロゴロと音を立てている。もうすぐお前達の元にも行くぞと脅かしているのだろう。

 だが、そんな天からの圧力にも負けず、水没都市では数十体の小型機械生命体達が動き回っていた。

 薄い緑の瞳を持つ彼らは、時に互いを小突き、時に戯れあいながら、何かを探しているようであった。

 いや、探すだけではない。そのうち数体は、何か光る球体を運んでいる。彼らが一心不乱に目指す足の先……そこには、真紅の西洋鎧に身を包んだ男の姿があった。

 髪は明るい茶色、肌は日に焼けて少し褐色がかっている。

 機械生命体達と比べれば大柄であった。

 彼の名は雷。この世界のヒューマギアを従える4人の長……【滅亡迅雷.net】の一員である。気性が荒く、その振る舞いは粗暴であったが、面倒見の良い男でもあった。

 雷は、自分の元へと歩いてくる機械生命体達を細く鋭い目で捉えていた。

 

 やがて、一体の小型が彼の付近へと到達した。

 それは身体を大きく左右に揺らしながら、スキップでもするように雷の元へと駆け出す。

 

「アーニキ! アニキ!」

 

 小型機械生命体の弾むような声に、雷が振り返った。先程までの仏頂面が嘘だったかのような、優しい笑顔であった。

 

「おうどうしたぁ!!」

「アニキ! モッテキマシタゼ!」

 

 雷は、機械生命体が差し出した球体に目を落とした。球体は海水と擦り傷に表面を汚していたが、その奥から何やら黄土色の鈍光を放っているようであった。

 

「これは……」

 

 雷が球体にそのこげ茶の瞳を近づける。

 機械生命体は、その雷を薄緑の瞳で食い入るように見つめている。

 心の臓など無いはずの2人だが、その場にはその音が聞こえてきそうな緊張が漂っていた。

 やがて、雷が顔を上げた。

 眩しい笑顔であった。

 

「確かにコアだ!! よくやったなカスパル!!」

 

 雷の返答に、機械生命体は「ヤッタ! ヤッタ!」と跳ねて喜んだ。

 その反応を見た他の機械生命体達も、続々と足早に駆け寄ってくる。

 小型の機械生命体はあっという間に団子になり、雷の行く手を塞ぐまでになっていた。

 

「ニ、ニイチャン。コレモ」

 

 一体の機械生命体が、おずおずと手に持った球体を差し出した。頭に緑色のリボンをつけた個体であった。それが差し出したのは、くすんだ色をした半透明の球体であった。

 雷は少しそれを覗き込み、「あー」と残念そうに声を上げた。

 

「あー、これは電球って奴だ。光るってところは同じだが、ちょっと違うな」

 

 小型の機械生命体は絶句したように固まる。

 他の機械生命体が我先にと宝物を差し出そうと迫る中、リボンの個体はその波に埋もれフリーズしたままである。

 機械生命体の波をかき分け、雷はそんなそれの元へと歩み寄った。電球をそっと手に取り、ソケット部分に指を近づける。

 

「まぁ、見てろこの電球も俺の力で……」

 

 雷の指先が、一瞬青白い光を放ったかと思うと、次の瞬間電球のフィラメントが眩い光を放ち出した。

 陽の光すらも切り裂く、真っ白い光であった。

 他の機械生命体達が呆気にとられる中、雷は笑顔のまま豆電球をリボンの機械生命体の手に乗せた。

 

「な、綺麗だろ。ポルックス、お前の持ってきたもんもちゃんと宝物だ。大事にしろ」

「ウン……」

 

 リボンの機械生命体は、惚けたようにしばらく佇んでいたが、やがて思い出したように飛び上がると、何処かへとかけていった。

 他の個体は、既に宝物の選別を終えられ、宝物の保管場所へと向かっている。

 水没都市と大陸本土を繋ぐ薄暗いトンネルの入り口付近……そこには、機械生命体のコアが積み上げられ、50cmほどの小山を形成していた。

 機械生命体がえっさえっさとコアを積み上げていく中、そのコアを手に取る背の高い影があった。

 民族風黒衣に身を包んだ男であった。縮れた金髪をバンダナでまとめている。先程までトンネルを通ってきたからか、その真黒な軍靴は汚水に濡れていた。

 男は鋭い目をしていた。捉えたもの全てを切り刻まんばかりの鋭さであった。

 腰に下げられた軍刀が、その男が尋常の存在ではない事を物語っていた。

 滅亡迅雷の1人、滅であった。

 

 滅は薄ぼんやりと光る球体を一つ手に取ると、機械生命体達の相手をする雷の元へと歩き出した。

 下り坂を流れる厚さ2cmの小川を、軍靴が弾いてゆく。

 

「うまくやっているようだな、雷」

 

 滅の呼びかけに、雷が振り返った。

 機械生命体達に向けられていた笑顔はそこにはなかった。仏頂面で、双眸から殺気を滲ませる……戦士の顔であった。だが、その表情こそ、滅の知る彼の顔であった。

 

「当たり前だ。俺の仕事はアーク復活の根幹を成すからな。しくじるワケにはいかねぇ」

「機械生命体のコア……こんなもので、本当にアークが動くのか?」

「そんなのは亡に聞いてくれ。俺には技術的な事は分からねぇ」

「そうだったな」

 

 滅は灰色に澱む空を見上げた。

 今にも、何か降ってきそうな空であった。

 降ってくるのが雨ならばいいと、ふとそんな思いが彼の思考を過った。

 何を当たり前のことを。

 そう自嘲し、滅は手元のコアを弄んだ。

 

 


 

 遊園施設での戦いから2日ほど経過したある日、滅は亡のラボに呼び出された。

 戦いの傷を癒す……というのは建前だ。本音は、滅亡迅雷の迅と雷がいる前では話しにくい事があると言う事だ。

 彼がラボを訪れるのは、その日が初めてであった。ラボ内は機械類や武器の類が乱雑に積み上げられており、4畳ほどの広さがあるはずの空間は、さながら迷宮の如く無数の廃材の壁に覆い尽くされていた。

 廃材の小迷宮を踏破した先、滅は10を超える電子画面端末に出迎えられた。端末から発せられる青い光が、ぼんやりと彼女の黒いドレスの後ろ姿を、黒い髪を、そして両耳の青いモジュールを照らし出す。

 モニターには、この大陸各地の情景が映し出されていた。どの画面でも、機械生命体やヒューマギアが忙しなく動き回っている。

 そう、彼女は自分がハッキングしている機械生命体を、同時に監視しているのだ。

 滅は彼女の技術に感心しながらも、気になっている事を尋ねることにした。

 

「鹵獲した例のヨルハはどうしている?」

「まだ再起動しないよ。ダメージが深すぎるし、なにより私は修理の専門家であって治療の専門家ではないからね。まぁ、気長に待っておくことだ」

「そうか」

 

 滅は手近にあった球体を手に取った。暗がりの中でくすんだ黄土色の光をぼやかせる球体。修理を行うための機械を動かすのに、これが必要だというのだ。曰く、電力の供給源になるらしいが。

 

「本当にこれでアークが動くのか?」

 

 滅の問いに、亡は振り返ることなく「そうだよ」と答えた。

「何故だ」と滅が問うより早く、亡は口を開いた。

 

「今のアークに絶対的に足りないのは起動のための電力なんだ。一度起こしてさえしまえば、アークは自分で電力を作れるからね」

 

 亡はそこまで語ると、回転椅子椅子をくるりと回し、滅の方へと向き直った。

 胸元の僅かに開いたドレスであった。

 僅かに目を背ける滅に悪戯っ子のように視線を送り、亡は説明を続ける。

 

「方法は2つ。この辺りにある電力施設のケーブルを引っ張ってくるか、超効率のエネルギー源を見つけるか」

「電力施設のケーブルを引っ張ってくればいい」

「それが、そうもいかないんだ。その電力施設はアンドロイド達の管理下にある。もし窃盗がバレたら、数十機のヨルハ機体が問答無用で降下してくるだろうね」

 

 亡はモニターの一つを指差した。

 画面の中では、無数のヨルハ部隊がヒューマギアの村を攻める様が映し出される。画面の中では次々とヒューマギアが消えてゆき、降下作戦開始から5分を待たずして、画面内のヒューマギアの村は陥落してしまった。

 その試算に、滅は絶句していた。

 考えてみれば、当然の話ではあるのだ。

 以前ヒューマギアの村を襲撃したヨルハ機体……あの2Bと呼ばれていた個体は、単身で変身した自分と渡り合っていたのである。そんな戦力の数十体分。尋常に考えれば、まともに受け止め切れるはずがない。

 アンドロイドはその気になれば、いつでも自分達を滅ぼす事ができる。そうしないのは、ただ単に、脅威として見られていないからだ。

 ただ生かされているという現状。

 パスカルの言葉が本当だった事に、滅は歯噛みするしかなかった。

 

「しかし、超効率のエネルギー源など、どこにあるんだ」

「それが、これなんだよ」

 

 亡の差した指の先には、先程から滅が手で弄んでいる球体があった。

 

「機械生命体のコア。あ、変な事すると大爆発するから気をつけて」

 

 大爆発という単語が聞こえた瞬間、滅は慌ててコアを手放した。

 脆そうな外見に反し、コアはゴトリと鈍い音を立ててラボの廃材に紛れていった。

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている滅を、亡はさもおかしげに眺めている。

 滅は抵抗の意も込めて、亡を睨みつけた。

 

「なぜそんな危険なものを」

 

 そこまで言ったところで、滅の思考内に一つの仮説が思い浮かんだ。

 電力、飛翔……大爆発。

 アークを動かすのに必要な膨大な電力。滅のいた時代では、火力と水力、風力発電を総動員してやっと供給できた電力である。

 だが当初、発電方法にはもう一つの草案があった。その名残として、小型の発電施設が未だにアークの中に残されているのだ。

 

「……まさか」

「そう、そのまさか! それを融合炉に入れて大爆発させるのさ。それによって生まれる莫大なエネルギーを全部アークに送り込む」

「やはり、原子力発電か」

 

 確かに、融合炉のエネルギーがあれば、アークを起動させる事はおろか、宇宙まで飛ばす事さえできるだろう。

 だが、一つ引っかかる事がある。

 

「何故アークを起動させなかった。システムも材料もあるなら、俺を待つ必要などなかったはずだ」

「それは無理。融合反応は一瞬で起きるわけじゃない。さらに、反応中のアークを攻撃されたら大惨事だ。仮に衛星をハッキングしても、地上から来るアンドロイドや機械生命体に対抗する事はできない」

「つまり、地上の守りを固められないうちは、作戦を実行できなかったと言うことか」

「その通りさ。大したことない奴らなら、私が開発した弱電磁パルスで撃墜できる。ただ、問題はそれを乗り越えてくる奴らだ。アンドロイドならヨルハ機体、機械生命体なら赤い大型クラスが該当する」

「そいつらを狩るために、迅、雷だけでは心許ない。だが、俺がいれば……」

「そう、滅亡迅雷全員が揃えば、作戦の成功率は0.005%から0.2%まで上昇する。けど、それでも起動した後のアークを永遠に守り続けられるわけじゃない。だったら……どうする?」

 

 そこまでの説明で、滅は口元に手をあてた。

 読めてきたのだ、迅の企て、亡がこれから話そうとしている計画が。

 想像通りなら、かなり強引な計画である。

 

「打ち上げるのか、アークを。宇宙に。パスカルに要求した資材も、そのためのものか」

「その通り!! 宇宙まで行けば、考えうる通常兵器は全部アークの迎撃システムで叩き落とせる。ヒューマギアもまた製造できる。十分に数の揃ったヒューマギアを、宇宙から一斉にマギア化すれば……」

 

 亡の表情には、凄まじい笑みが張り付いていた。心に秘めた野心が外に漏れ出てしまった為政者か、はたまた悪戯が親にバレてしまった子供か……

 悪い顔だった。

 きっと、滅もそうだった。

 廃材の端に紛れて写っていたその顔には、凄まじい笑みが張り付いていた。

 

「今必要なのはコアと戦力だ。それと……動く程度に痛めつけた機械生命体達を、なるべく多くこっちに持ってくるように伝えて欲しい。多分雷が適任だと思うんだけど」

「そんなもの、何に使う?」

「それは秘密だよ。まぁ、想像はついてると思うけど」

「例の人型人形か」

「ふふ、それは当日のお楽しみ。この事は迅にも伝えてないからね。バレたら大目玉を喰らってしまう」

 

 亡が何を考えているのか、滅には見当もつかなかった。これまでの彼女を鑑みるに、良からぬことを考えているのは確かである。

 だが、滅は彼女に背を向けた。

 自分にできる事は、アーク復活のために尽力する事のみ……ならば、深入りしてまで仲間の計画を知りたがるべきではないのだ。

 

「それと、滅」

 

 ラボを去ろうとする滅に、亡が声をかけた。

 

「なんだ」

 

 滅は振り返らずに答えた。

 

「あの32Sってアンドロイド、大事にした方がいいよ。あの子はきっと、君にとって大事な鍵になるだろうから」

 

 亡のその言葉に、滅は返事をしなかった。

「当然だ」とばかりに、鼻を鳴らすのみだった。

 

 


 

 水没都市での作業は、既に進捗率7割を超えていた。海から釣り上げられ、あるいは敵性機械生命体から奪い取られた機械生命体のコアの山は、もう滅の背丈ほどまで高くなっていた。

 一頻り説明を終えた滅は、腰掛けていた岩肌に別れを告げ、村の方へと歩き出した。

 

「とまあ、そんな具合だ。敵性機械生命体のボディとコア集めを急げとな。あと少しだろう。俺にできる事があれば……」

 

 滅の言葉を遮り、雷は首を横に振った。

 

「生憎こっちは間に合ってる。例の32Sとやらの所を手伝ってやればいいだろ。お前の相棒なんだからよ」

「相棒、か」

 

 滅は32Sの事をふと思い返した。

 彼は滅の事を相棒と呼んだ。自分の命も顧みず助けに来る事もあれば、意味も無く滅の元から去ってゆく時もある。

 昔行動を共にしていたという意味では、迅も相棒と言えるだろう。だが、32Sは迅とは全く違う。

 そもそも、何故奴が自分を相棒と慕うのか、滅には理解しきれていなかった。

 

「コイツらは、なぜお前を兄貴と慕う」

 

 滅の口から自然に漏れ出た質問に、雷は「知らねぇよ」とぶっきらぼうに答えた。

 滅も、「そうか」と返した。

 僅かな沈黙の後、雷が語り出した。

 

「けど、わからねぇわけでもねぇ」

「ずっと昔のことだけどよ。俺にも弟がいた。無口で素っ気ない奴だったが、俺には笑ってくれてたよ」

「お前の弟……宇宙野郎昴か?」

「確か、そんな名前だったな。アイツが機能停止したのは600年以上前だ……もう顔も思い出せねぇよ」

 

 雷は遠い空に目をやった。

 かつてその目の先には、飛電インテリジェンスの人工衛星・ゼアがあった。

 当時最新鋭の人工衛星であったゼアは、アークに代わりヒューマギア関連の全てを管理する機能を担っていた。その衛星を管理するのが、宇宙飛行士型ヒューマギアである彼らの仕事だったのだ。

 滅は騒ぎながら作業を続ける機械生命体達の列を見ながら、こぼす。

 

「ヒューマギアに兄弟関係などない。コイツらも、機械ならば同じはずだ」

「そうだよな。でもよ、なら何で俺達は兄弟だったんだろうな」

 

 滅に兄はいない。

 当たり前だ、ヒューマギアなのだから。

 人間を見ても、兄弟という関係は理解できなかった。だからこそ知りたかったのだ。仲間であるヒューマギアの雷から、兄弟という関係について。

 滅が黙っていると、雷が会話を繋いだ。

 

「きっとよ、耐えらんねぇんだよ」

「何にだ」

「1人でいることにだよ。それに耐えられねぇから、兄やら弟やら親やら子供やら作って、俺たち同士で埋まらない穴を埋めるしかねぇ」

 

 孤独に耐えられない。

 かつて滅にとって、孤独は日常であった。

 人類は敵、味方のヒューマギアは利用する対象。行動を共にしていた迅ですら、滅には理解できない部分が多々あった。

 滅は、創られてからまだ歳は浅い。孤独を苦しいと感じた事は、無いに等しい。だが、単身でこの世界に放り出された時、彼は少なからず胸のざわめきを感じていた。仲間達と再会した時、そのざわめきは安らぎに変わった。

 あのざわめきが数百年、あるいは千年単位で続けばどうだろう。果たして、自分は耐えられるのだろうか。

 雷が続ける。

 

「俺だって、コイツらがいなくなったらどうなっちまうか分かったもんじゃねぇさ」

「孤独、か」

 

 ため息をつく滅とは対照的に、雷は少し口元を緩ませていた。彼の視線の先には、コアを積み終えた機械生命体達の姿があった。

 それらは作業の完了を祝い、万歳を続けている。

 

「ただよ、こうも思うんだよ。アンドロイドは人類の敵と戦うために作られた。機械生命体はエイリアンとやらの敵と戦うために作られた。どっちも、敵がいなきゃ成立しねぇ。それに比べるとよ」

 

 その一瞬、すべての音が止んだ。

 波の音も、風の音も、万歳の声も。

 凪の世界の中で、雷はこう言った。

 

「人の役に立つために作られた俺達は、まだ幸せじゃねぇかって」

 

 一瞬が過ぎ去る中で、雷の台詞だけが、滅の集音フィルタを揺らした。

 

 人の役に立つ事が、幸せ。

 滅亡迅雷の一員として、それは創られた意義に背く事であった。だが、その言葉は間違いなく、眼前の滅亡迅雷の一員から発せられたものであった。

 かつて滅の前に幾度となく立ちはだかった戦士は、人とヒューマギアの融和を説いていた。誰もがそれを下らないと一生に伏した。滅もそうした者の一人であった。

 だが、ヒューマギア本当に生きる術は、本来はそこにしか無かったのではないだろうか。人のために作られた存在は、人無しで存在する事はできないのではないだろうか。

 

(だとすれば、やはり俺は……)

 

 風切り音がした。

 滅びの思考を切り裂くようにして。

 それは、空から落ちてきた。

 

 よほど高空から落ちてきたのだろうか、落下と同時に発生した凄まじい衝撃波が、滅と雷を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた二人は、アスファルトの地面を転がった。受け身を取り、反射的にフォースライザーを装着する。

 着弾地点は、水没都市のとあるビルの麓であった。着弾地点には蒸気が立ち込め、うっすらとクレーターが見えるばかりである。

 プログライズキーを片手に構え、二人はゆっくりと煙の中へと歩を進めてゆく。視界がすべて白で覆われた、蒸気の森……その中に、滅は人影を見た。

 

「雷。いるぞ」

「分かってる。いつでも戦えるぜ」

 

 二人を発見したのか、人影も片手を上げた。視界の中で、その影はゆっくりとその手を振り下ろす。

 直後、旋風が蒸気を切り裂いた。

 

「ッ!?」

 

 旋風は滅の朴を浅く切った。

 傷口から流れる青血を拭く事もなく、滅は晴れた蒸気の先、その先の人影を凝視する。

 そのにいたのは……マギアだった。

 ベローサマギア。ベローサのゼツメライズキーで変身するカマキリに似た生物の特徴を持ったマギアである。

 通常のマギアと違うのは、そのベローサマギアは全身に黒鉄の鎧を纏っていたという事である。鎧はさながら植物のツタの如く絡み合い、鎖帷子の形を取っていた。

 

「何故、マギアがいる!? アークが復活していない以上、ネットワークシステムとしての滅亡迅雷.netは無いはずだ!!」

「俺に聞くな!!」

 

 焦燥に駆り立てられるように、2人は駆け出す。滅は片手に軍刀を、雷は片手に幅広剣を手に、両者とも上段に構え走る。

 対するベローサマギアは、

 

「【栄光人類.net】に接続。人類に、栄光あれ」

 

 言うや否や、

 ベローサマギアはその両腕の大鎌で滅の軍刀と斬り結んだ。すんでのところで斬撃を回避し、すれ違いざまに2人は剣撃をたたき込む。

 マギアの胴体からは火花が上がり、僅かにその緑の身体をよろめかせた。

 だが、それだけであった。

 ベローサマギアはすぐにその身を翻し、両手に装備された大鎌を交差させ滅に斬りかかる。

 

「!?」

 

 上体を逸らし、スウェーバックでそれを避ける滅。続け様に繰り出される連撃を躱しながら、滅はマギアの腰元に目をやる。そこには、スロットが空っぽのゼツメライザーがあるばかりであった。

 

(ゼツメライズキーは……無い。当然か、失われたキーは多いとはいえ、ベローサのキーは俺達が持っているのだからな)

 

 ゼツメライズキーが無いということは、アークマギアと同じシステムで変身しているということだ。だが、そのためにはネットワークシステムを利用する事が必要不可欠である。

 そんなネットワークは、滅の知る限り、この世界には存在しない。

 

「一体、何が、起きている?」

 

 いつのまにか、ベローサマギアの背後には、数体のトリロバイトマギアが控えていた。

 突如として空より来襲した敵は、声も無く滅亡人類の2人へとその銃口を向けた。

 


 

 バンカーの司令室。

 灰と黒と白しかないその空間にて、複数のヨルハ達が、正面の巨大モニターを覗き込んでいた。

 映し出されているのは、ベローサマギア及びトリロバイトマギア達と、滅亡迅雷2人の交戦の様子である。

 上空に飛翔させているドローンで監視しているのだろう、かなり高い視点からの映像が映し出されている。

 

 マギアが2人を傷つける度、ヨルハ達から歓声が上がる。オペレーターは彼女達を少し冷めた目で見下ろしながらも、データの分析を続けていた。

 大上壇からそれを見下ろすホワイト司令官は、口元を固く結び、事態を見守る。

 彼女の瞳の焦点がきゅっと狭まる。その先にいるのは、滅や雷ではなく、マギア達だ。

 

「月面人類会議がアークのネットワークシステムを解析して復元した【栄光人類.net】……アンドロイドの機能を強制停止し、人類の守護者ナイトマギアへと置き換えるシステム」

 

 画面の中で、ベローサマギアが雷の鎧を切り裂いた。鎧の内からは青い血が滴り、その傷の程を露呈させている。

 

「お前達……許してくれ」

 

 ヨルハ達が歓声を上げる中、司令官は1人、歯噛みした。

 




第4話の前編をお読み下さり、ありがとうございます。

栄光人類.netや機械生命体ライダーなど少しずつ設定が乱立してきている状況ですが、具体的には第6話くらいにそれらがドカーンする内容になっておりますので、決して無計画にオリジナル設定を入れ倒しているわけではありません。
この第4話は中編、後編と続くわけですが、次回はさらに物語を広げます。イズ、アダム、32S……彼らがキーパーソンですね。

次回はまた日曜日更新の予定です。

※pixivにも同じものを投稿しております。
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