NieR:humagi〈el〉   作:TAMZET

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これまでのあらすじ
天津との戦いで死に至ったはずの滅……彼が目覚めたのは、11946年の未来の世界であった。
その世界で滅亡迅雷.netの仲間と合流した滅は、地元で知り合った32Sと共に、アークを復活させるべく行動を開始する。
燃料を集め、資材も集めきった彼等はいよいよ計画を最終段階へと移行させようとするが、その最中、32Sがヨルハ部隊の2Bに拐われてしまう事件が起こる。


第5話:『32S』
『32S(前編)』


 レジスタンスキャンプやパスカルの村がある地域は、昼の国と呼ばれる。

 その名は、一日中太陽が沈まず、白夜が続くことに由来する。

 昼の国は遊園施設や砂漠地帯、水没都市等、複数のエリアに分かれている。鬱蒼と木々が生い茂り、動物達の住処となっている森林地帯も、その中の一つだ。

 森林地帯への入り口の一つであるショッピングモールから少し進んだところには、小さな滝があった。高さは10m程で、滝と呼ぶには少し小さすぎるかもしれない。

 

 聖櫃は、その滝の下に捨てられていた。

 

 かつて真紅の霊光を放っていたであろう巨大なレンズは塵と泥により曇り果て、内部の高度なテクノロジーを守る外装には無数のツタが巻きついている。

 だが、その外見は紛れもなくヒューマギアの聖櫃……アークであった。アンドロイドや機械生命体にとっては、かつての人類文明の名残が見て取れる貴重な遺産である。

 

 その上に腰を下ろす、2人のアンドロイドの姿があった。黒衣のバトルドレスを見に纏ったヨルハの女性隊員である。

 両者とも、重装を背に負い、ヨルハの正式兵装である真黒のゴーグルを装着していた。

 彼女達の大きな違いは、ウィッグの色であった。方や薔薇色のウィッグをつけ、もう1人は真白のウィッグを装着している。

 薔薇色のウィッグをつけたヨルハ隊員の名は64B、かつて廃墟地帯の防衛任務を担当していた戦闘特化モデルのヨルハ機体である。

 上空を舞う木葉の雨を眺めていた64Bの軍服の裾を、白髪のヨルハ隊員が摘んだ。

 

「今回の作戦、本当にやるんですかぁ……」

 

 不安に押しつぶされそうな、か弱い声だ。

 彼女の名は22B。64Bと同じく戦闘特化モデルのヨルハ機体である。

 彼女の手には、栄光人類.netに接続するためのベルト・ゼツメライザーが握られている。

 震えながら己の身を抱く彼女の額を、64Bが肘で小突く。

 

「何するんですかぁ!!」

「気合入れてやったんだよ」

 

 22Bからの抗議の視線を躱し、64Bはすっくと立ち上がった。

 

「やるに決まってんだろ、22B。司令官直々の命令だ。それに、戦わずして何がB型だよ」

「でも、でもぉ……」

 

 脚にすがり付こうとする22Bを鬱陶しげに振り払い、64Bは聖櫃の段差から飛び降りた。

 聖櫃から地面まではかなりの高度があったが、彼女は着地の瞬間に全身の可動部の力を抜く事で衝撃を緩和した。

 戦闘特化モデル特有の、しなやかな動きである。

 

「なんだよ。栄光の仮面ライダーサマを相手にすんのに、あたしじゃ役不足か?」

「違いますっ!! 違います、けど」

 

 雛鳥が親鳥の後を追うように、22Bは必死に小さな段差を降りてゆく。その様子を眺めながら、64Bは穏やかに笑った。

 

「これ変身したら、64Bの記憶もデータもリセットされちゃうんですよね!! 私とこうやって喋ってる記憶も!!」

 

 最後の段差を折り切った22Bは、脇目も振らず64Bの方へとかけてきた。

 息が切れているようであった。

 よしよしと64Bが頭部を撫ぜてやると、彼女は口先を尖らせ「真面目に聞いてください」と抗議した。

 

「そんなにしてまで、この作戦、やる意味があるんですか? 変身しなきゃダメなんですか? ヨルハの身体のままじゃ、ダメなんですか?」

 

 今にも泣きそうな声色で、22Bが64Bに縋り付いた。その全身をして、彼女の前進を止めようとしているようであった。

 ゴーグル越しにも、彼女の瞳が潤んでいる事が分かる。

 64Bはそんな彼女の頭に掌を乗せると、それを垂直に立て、思い切り振り下ろした。

 

「ぎゃっ!?」

 

 水平チョップならぬ、垂直チョップである。

 彼女から素直な悲鳴が漏れた事に、64Bは満足げに笑んだ。

 

「何するんですか!?」

「難しい事考えんな。あたし達はグンタイだろ? 上の命令は素直に聞いときゃいいんだよ」

 

 抗議の視線を向ける22Bを己の胸元から突き放し、64Bは森の奥へと歩き出す。

 

「大丈夫、あたしのデータは全部バンカーの中に保管されてる。お前がバンカーに帰る頃には、また元通りだ」

 

 ひらひらと手を振り、64Bは二本のゼツメライザーを掲げてみせた。

 22Bは慌てて背嚢を確認するが、どこにもゼツメライザーは無い。

 

「それ私のゼツメライザー!! 返してくださいよぉ!!」

「嫌だ。あたしだけが変身したい。お前みたいな臆病者と並びたくない」

「意地悪言わないでくださいよぉ!!」

 

 駆け出す22Bに合わせ、64Bも駆け出した。

 同型モデルのはずだが、64Bの方がわずかに速かった。

 

「お前はあたしの戦い様を見てろ!! あたしがどう戦って、どう仮面ライダーを倒すのかをな!!」

「うぅ……」

 

 22Bの速度が上がった。

 追いつかれまいと、64Bも速度を上げた。

 空気が揺れ、鳥達が逃げるほどに、彼女達の鬼ごっこは速度を増していた。

 風切音と草木の囀りを感じながら、64Bは目を閉じる。

 

 64Bは、全て分かっていた。

 この作戦が勝利を目的にしていない事も、自分達が捨て駒である事も。

 

 メモリを消される前の自分が、与えられていた任務から脱走した事を、64Bは知っていた。一度任務から逃げたヨルハ機体は、基本的にまともな任務にはつけない。

 その証拠が、このゼツメライザーだ。

 これは、ヨルハ機体の理性を破壊するシステム。理性の破壊は、そのままアンドロイドの死を意味する。そんなものを、22Bに使わせるわけにはいかない。

 

 これを使えば、64Bは64Bで無くなる。

 彼女の暖かい思い出も、消えて無くなる。

 

 だが……

 

(あたしは、アイツが守れれば、それでいい)

 

 全て分かっていて、彼女はそれでも笑った。

 


 

 ヒューマギアが自治を行う少都市・ヒューマギアの村。

 一見すると平和そのものに見えるその集落の地下には広大な地下空洞が存在していた。今やその地下空洞の大半は、亡の資料と実験器具に埋め尽くされている。

 暗闇の中に、電子画面の光と電子機器のダイオード光だけが散っている空間。現在、そこには3人のヒューマギアが集結していた。ヒューマギアを統括する長……滅亡迅雷.netの面々である。

 

「アーク復活計画、進捗率86%……ようやく、ここまで来たね」

 

 王族のような煌びやかな衣装に身を包んだヒューマギア・迅は、暗闇の中に映し出される電子画面を眺め、そう呟いた。

 

 残りの2人、亡と雷も、喜びを隠せないのか口端を歪めたり、目を閉じたりしている。

 そんな彼等の気持ちを諫めるように、迅は声色を低くして「ここが正念場だよ」と続けた。

 

「計画の決行は、3日後に決めた。マギアを使う敵が現れたとすると、僕の考える通りなら、僕等に残された時間は少ないはずだ。依存ないかい?」

 

 迅の真っ直ぐな視線に、2人も真っ直ぐに彼を見つめた。決意の固い瞳であった。

 

「私は依存無いよ」

「俺もだ。アーク復活は俺達、滅亡迅雷の悲願だからな」

 

 2人の気迫に、迅は頼もしげに「ふふ」と笑ってみせた。

 すり減った指先が、電子画面を操作する。

 

 すると、今まで平坦な地図を写していた画面が、巨大な遺跡を映し出した。

 所々がツタと泥に覆われ、滝に打たれている巨大な建造物。

 僅かに見える隙間から、人工物らしい銀の輝きが漏れている。

 

 迅はそれを指で示し、「これが今のアークだ」と説明した。

 亡は「そんな事は知っているよ」とばかりに欠伸をこいていたが、対する雷は目を大きく開けて驚いていた。どうやら、それがアークであった事すら知らなかったようであった。

 

「今日の作戦は、アーク復活の中でも1番の関門になる。これに失敗すれば、今までの僕らの計画も水の泡だ」

「ちょっといいか?」

 

 手を挙げたのは、雷だった。

 話についていけていなかったのか、彼は何度か「あー」やら「うー」やら繰り返した後、やっと質問を捻り出した。

 

「今回の作戦って、結局何すんだ? 亡に言われた通りコアは集めた。物資だって集まってんだろ?」

「そうだね。アークを宇宙に飛ばすための準備は全部完了した。でも、あと一つ僕らには大事な仕事がある」

「だから、そいつは何なんだよ」

 

 雷の眉間に刻まれたシワが深くなってゆく。

 困り果てる迅の横から、亡はやれやれとばかりに雷に質問を投げかける。

 

「雷、君は昔、ロケットを打ち上げた時、物資と火薬だけで打ち上げてたのかい?」

「そんな何千年も前のことなんざ、覚えてるわけねぇだろ」

「呆れたものだ。君の本職はそれだろう」

「あ? テメェ喧嘩売ってんのか」

 

 亡の胸ぐらを掴み上げた雷だが、瞬間、亡の身体が揺れるように動いた。彼の手首を捻り、体制を崩させたのである。

 

「!?」

 

 鉄が地面に落ちる、鈍い音がした。

 気がつくと雷は、仰向けに地面に転がっていた。自分に起きた事が認識できなかったのか、彼はしばらくそのまま大の字になっていたが、ふと何か閃いたようにポンと手を打った。

 

「分かったぜ、お前の言いたい事」

 

 雷の返答に、亡は「やっとか」とため息をついたが、迅は何やら嫌な予感がするといった表情を浮かべていた。

 雷は起き上がると、徐にフォースライザーを腰元に装着した。

 

「確かに、ロケットを打ち上げるのに必要なのは、材料でも火薬でもねぇ。それ以上大事なモンがあった」

「だろう? アークを打ち上げるためには……」

「情熱だ」

「は?」

 

 亡の目が狐の如く細くなった。

 迅はそんな2人から目を背け、肩を小刻みに振るわせている。

 

「思い出したぜ。衛星を打ち上げるのは、何もエンジンやブースターだけじゃねぇ。一番必要なのは、そこに関わる奴等の情熱だ」

「雷? 少し落ち着いてくれないか」

 

 亡の制止にも構わず、雷は錆の落ちた発動機の如く口を回してゆく。最早その場に居る誰も、彼を止められない。

 

「ロケットを飛ばすには、僅かなミスも許されねぇ。バルブ一つ、ネジの一本に至るまで、マイクロ単位で調整する。そこには、技術者達の想いが篭ってんだ」

「今回の部品は全部装置で作ってるけど……」

「俺はその情熱を、弟と、いや、もっとたくさんの仲間達と燃やした!! 思い出さしてくれて、ありがとうよ!!」

「話聞いてよ」

 

 ロケットについて語る雷の瞳は、まるで子供のようにキラキラと輝いていた。

 最早誰も彼を止めようとはしなかった。

 両腕を高く掲げ、雷は雄々しく叫ぶ。

 

「ロケットは、情熱だ!! 情熱は爆発だ!! 天を切り裂く真紅の稲妻、宇宙野郎雷電!!」

 

 その流れのまま、雷はゼツメライズキーのスイッチを入れた。

 

【Do……】

 

 みなまで言うのに待たせず、キーをフォースライザーの口へと滑り込ませる。ベルトのスイッチを入れると共に、雷は脚を丸め、真黒な天井へと飛び上がった。

 天井は鋼鉄製である。

 しかも、ただの鋼鉄ではない。敵の対空砲をも防ぎ切る凄まじい硬度を誇る鋼鉄だ。だが、その重厚さを嘲笑うように、雷は雷電を纏った頭突きでそれを破壊した。

 

「先に向かってるぞォォォッ!!」

 

 雷の身体は実験室の外へと消えた。

 ポッカリと開いた穴から漏れ込む日差しを、2人は呆然と眺めていた。

 

「熱いなぁ」

「熱いというよりは、ただの馬鹿だね。けど、なんで実験室の天井を……」

「僕にもさっぱりだ。けど、雷がアレなら、戦力に関しては心配無いかな」

 

 日に照らされた迅の表情。

 そこには、明らかな陰りがあった。

 憂虞の中に焦燥が隠されたような、複雑な表情であった。

 亡は彼に声をかける事はしなかった。

 その陰りの理由に、察しが付いていたからであった。

 

「滅との連絡が途絶えてもう3日……まぁ、滅の事だから、大丈夫だとは思うけど」

 

 硬く握られた迅の拳の上に、柔らかな手が置かれた。

 亡の手だ。

 彼を慰めるように、亡は目元を緩ませて微笑みかける。

 

「和達は、私達に出来る事をするだけさ」

「……亡…………」

 

 亡の笑顔に呼応するように、迅の頬の硬直も解けていった。

 申し訳なさげに目を伏せる迅。亡はその硬い腕に柔らかな自身の腕を絡めた。

 冷え切ったその身体を温めるように、熱を帯びた亡の身体が迅の背に被さった。

 

「アークに巣食う機械生命体達の大掃除と、ラウンチのセッティング。しっかり終わらせよう、迅」

「……そうだね」

 

 少々の沈黙の後、2人は立ち上がった。

 立ち上がり、歩き出した。

 

 


 

 

 遊園施設の遥か奥、劇場の外れから続くエレベーターを降りた先に、その空間は存在した。

 暗がりに、誰が設置したかくすんだ橙のダイオード光が輝いている細い通路。

 異様な化粧が施された機械生命体の死体が、通路を所狭しと埋め尽くしている。

 その死体群を踏みつけ、滅亡迅雷.netの一員・滅は最奥の広間へとたどり着いた。

 

 広間の情景に、滅は言葉を失った。

 

 そこには、巨大なテレビの山があった。

 テレビには、砂嵐が映し出されているようであった。どれ一つとして、生産的な映像を映し出してはいなかった。

 そして、その頂上に、彼女の姿はあった。

 

「やっと来たね、46B」

 

 そう滅を呼ぶのは、黒衣に身を包んだアンドロイド、ヨルハ機体2Bである。薄暗いこの地においても、彼女の肌は白く、白銀の髪はさらに白かった。

 かつて邂逅した時より幾ばくか柔らかい口調だと、滅は感じていた。以前の敵意に満ちた口調ではない、仲間や知り合いに向けるそれであると感じたのだ。

 ゴーグルは外されていた。綺麗な薄灰の瞳が、滅を真っ直ぐに捉えていた。

 

 滅は懐から何やら小さく折られた紙を取り出すと、2Bの元へと放った。

 彼女はそれを手に取り、開いた。

 紙の内には、主に曲線と波線で構成された奇妙な図形が描かれていた。ミミズの這いずり回ったような絵であった。

 彼女はそれを数秒眺め、「これ、私の書いた地図」と溢した。

 

「パスカルから場所を聞いてから3日かかった。なんだその地図は。お陰で散々迷い明かした」

「……ごめん。いつもバンカーのマップに頼ってるから、慣れてなくて」

 

 申し訳なさそうに、2Bは目を伏せた。

 滅もそれ以上追求する気は無かったのか、ため息をつくばかりであった。

 

「元より敵の情報を頼るつもりはない」

「……ごめん」

「謝るな、俺の落ち度だ」

「………………」

「……遊園施設にこんな区域があったとはな」

「……本当、不思議」

 

 2人の間に、何やらぎこちなくも暖かい空気が流れた。滅が敵意を解いたことの証左でもあった。互いに敵意が無いからこそ、生まれた暖かさであった。

 

 そして、それを打ち消すように、滅は「さて」と発した。

 

「32Sを返してもらう。必要なら、力ずくでな」

「彼なら、あそこ」

 

 2Bはテレビ山の一角を指差した。

 黒いテレビの山……よく見ないと分からなかったが、そこにはヨルハ機体が倒れているようであった。

 煤と埃に汚れた黒の軍服。黒いウィッグに汚れた四肢。

 32Sであった。

 黒いその身体は、死んだように動かない。

 

「貴様……!!」

 

 腰を低く構えようとする滅を、2Bは「待って」と鋭く制した。

 本来なら問答無用で斬りかかる所ではあった。

 だが、32Sが敵の手にあること、そして敵の口から放たれたのが、圧倒的優位者が放つ言葉ではなかった事が、滅の判断を止めた。

 滅が動かない事を確認した2Bは、四肢の硬直を解いた。

 

「大丈夫、スリープモードにさせてるだけだから。私の言う事に応じてくれれば、無事に返す」

 

 そう言い、2Bはテレビの山から降り立った。背には何も負っていない……武装は山の上に置いてきたようだ。

 それ故の、身軽な動きであった。

 滅もようやく構えを解き、彼女を真っ向から見据えた。

 

「あなたへの要求はたった一つ」

 

 2Bは丸腰のまま、滅の元へと歩み寄る。

 

「話を、聞かせて欲しい」

 

 真剣なその瞳に、滅は「分かった」と答えるしかなかった。

 


 

 遊園施設の地下、暗がりに満ちたその場所。無数のテレビが見下ろす広間の上にて、2人は向かい合っていた。

 テレビの端には32Sと、破壊されたポッドの破片が転がっている。

 沈黙を破り、先に口を開いたのは2Bであった。

 

「記憶を失ったって話、本当なの?」

「32Sに聞いたのか」

 

 2Bは少しの間の後、頷いた。

 滅は睨むように32Sの方へ目をやり、やがてため息と共に「本当だ」と返した。

 その返答に、2Bは少し目を伏せた。

 

「俺には、コイツと一緒にいたヨルハ時代の記憶が無いらしい」

「なら、まずは私から話す事になりそう。あなたと、E型について」

 

 2Bは懐からリモコンを取り出すと、テレビの方へ向けてボタンを押した。

 それまで一心不乱に砂嵐を映し出していたテレビは少し戸惑ったように画面を揺らした後、それぞれの画面を映し出した。

 

 音声は無い、白黒の映像のみだ。

 

 テレビはどれも、戦闘の様子を映し出しているようであった。黒衣のアンドロイドが機械生命体と戦っている記録であった。

 2Bはそれのうち一つを手に取り、滅の近くの高台に置いた。ブラウン管のコードが悲鳴をあげそうになっていたので、滅は少々前進し、その映像に薄灰色目の焦点を合わせた。

 映像の内に映し出されているのは、2B自身の戦闘の様子であるようだった。

 画面内の彼女は、大型の機械生命体の攻撃を躱しながら、その装甲の隙間に刃をすり入れてゆく。

 

「私達ヨルハには、個体識別のためのコードがあるの。私は2号B型。B型は戦闘特化型のB、2は私の個体番号が2号ということ」

「BはバトルのBという事か」

「いや、バトラーのB。まぁ、どっちにしても変わらない」

「それなら、B2の方がいいだろう」

「昔はそうだったらしい。何故変わったかまでは、知らない」

 

 2Bの説明の奥で、画面の中の2Bが敵の機械生命体を倒し終えた。彼女は涼しい顔をしながら息を整えている。

 やがて、画面が切り替わった。

 そこには、また別のアンドロイドの姿が映し出されていた。ウィッグを金髪に染めた男性型のアンドロイドである。体格は少年型よりひと回り大きく、担いだ武器も大振りだ。

 アンドロイドは機械生命体の大群を前に、嬉々として突っ込んでゆく。前に機械生命体をしてはその身体に斬りかかり、内部を貫いてはその身体を盾に次なる機械生命体の攻撃を防ぐ。

 凄まじく荒い戦い方であった。

 滅はその姿を注視し、「俺か」と溢した。

 2Bはコクリと頷く事で、それを肯定した。

 

「あなたはヨルハ機体46号B型。特殊環境での戦闘を想定して作られたモデル。データ上での製造時期は私よりも早い」

「それなら、俺が1Bであるべきだろう」

「あなたは例外。あなたの個体番号は、あなたの素体がヒューマギアである事に起因してる……んだと思う。滅亡迅雷.netの滅、ホロビ、ホロB、46Bといった具合に」

「語呂合わせで番号を決められたのか」

 

 ヨルハ部隊の適当さに半ば呆れる滅を置いて、2Bはさらに説明を続ける。

 

「私も、時々任務には同行させてもらった。あの時のあなたの戦いぶりはよく言えば豪快で、悪く言えば」

 

 画面の中で、46Bが機械生命体の設置した砲台を乗っ取っていた。仲間のアンドロイド達が混戦の中で機械生命体達を倒す中、彼は所構わず機械生命体達へ砲弾を発射する。

 

「滅茶苦茶だった。飛空挺を落下させて敵拠点を破壊したり、飛行ユニットをミサイル代わりに使ったり」

「俺が、そんな事をしていたのか」

 

 滅にとって、それは遽には信じがたい……というか、信じたくない事項であった。彼の立ち回りは隠密や奇襲を基としており、このような大立ち回りは性に合わなかったのだ。

 だが、このテレビのうちに映し出されているものが真実なら、それを否定する事もできないだろう。

 やがて、テレビに映し出された映像が変化した。

 そこには、32Sと語り合う滅の姿が映し出されていた。音声は無く、何を話しているのかは分からない。だが、2人の笑顔が、流れる空気の暖かさを物語っていた。

 

「でも、あなたが本当に担っていた任務は違う。あなたの本当の識別番号は46号E型」

「E型……だと……?」

 

 B型はバトラー型であった。

 では、E型はなんだというのか。

 そのアルファベットには、何やら恐ろしい感覚が仕込まれているのではないか。

 恐ろしい想像に苛まれかけた滅は、黙って2Bの次の言葉を待つ事にした。

 

「Eはエクセキューショナーの、E」

 

 エクセキューショナー……つまり、処刑者。その文字列が滅の想像を悪い方向にかき立てた。

 

「仲間のアンドロイドの処刑を行うタイプ。私も同じ、2E。相棒であり、処刑対象であった9Sを、何度も、何度も破壊した」

 

 2Bの苦悶に呼応するように、テレビの画面が何度も揺れた。

 そこには、かつて滅が対峙した白いウィッグの少年型アンドロイドの姿が映し出されていた。

 彼が9Sなのだと、滅は直感した。

 彼の死体は何度も映し出された。

 それこそ何度も、何度も。

 

 滅は迅に聞いた事を思い出していた。ヨルハ機体はバンカーにバックアップがあり、記憶を消されて何度でも復活すると。

 このアンドロイドは、きっと相棒殺しを繰り返してきたのだ。それを後悔する暇が無くなる程に、何度も。

 

 滅は32Sに目をやった。

 嫌な想像をした。

 

「俺も、コイツを殺したのか」

 

 2Bはフルフルと首を振った。

 その仕草で、滅は少し安心した。

 

「あなたは、破壊しなかった。機密情報を持ち逃げしたこのアンドロイドを手引きし、地上に雲隠れした」

 

 2Bは滅を真正面から見据えた。

 

「だから、聞きたい。何故あなたが、32Sを破壊しなかったのか、その理由を」

 

 滅の瞳の中で、テレビの中の32Sが、微笑んでいた。




・次回予告
2Bと対話する内、滅はかつての自分の過去を思い出してゆく。それは32Sと築き上げた、暖かくも悲しい思い出であった。一方、雷はアンドロイド達と交戦を開始、彼女達の強力な攻撃力に苦しめられる。

第5話(前編)をお読みくださり、ありがとうございます。

今回の話は、2Bと滅の対話がメインになるので、中々台詞の多い回になりそうです。また、クエスト『裏切りのヨルハ』の面々も登場しますが、彼女達がレギュラー入りするかは、今回の話での活躍にかかっています。

次回の投稿は、また来週の日曜日です。

※pixivにも同じものを投稿しております。
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