NieR:humagi〈el〉   作:TAMZET

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これまでのあらすじ
ついに滅亡迅雷.netとヨルハ部隊の全面戦争が始まった。
亡の罠によりヒューマギア特区に侵攻したヨルハの小隊は壊滅。アーク本体に侵攻する部隊にも大打撃を与えつつあった。
一方、A2はイズを連れてとある場所へと向かっていた。


『聖戦(中編)』

 ヨルハ部隊とヒューマギアの戦線が展開される森の国。鉄華散り硝煙が空を黒く染める広大な広場から遠く離れた国の外れに、ひっそりと伸びる小道があった。

 木々の小道を抜けた先には、巨大なツリーハウスが聳え立っている。

 高さこそ三階建てと低くはあったが、その横幅はヒューマギアの村にあったビルを大きく上回る。元から存在した建造物を利用したものとは違う、廃材と木材により一から作り上げられた集落である。

 集落のあちこちでは、これまた大小様々な機械生命体が好き勝手に動き回っていた。追いかけっこをする者、旗を振る者、帽子を被りなにやら独り言を呟いている者。

 それらが一体となり、自然と絡繰の調和した世にも奇妙な光景を作り出していた。

 

 そんな機械生命体達の村に、足を踏み入れる人影が二つ。

 

 人影の一つは、黒衣のアンドロイドであった。

 スレンダーな体型の女性型である。

 ボロボロのインナーと煤けたボディ、半分だけ脱げた軍靴でコツコツと地を踏む。

 固く結んだその口元には、ポツリと小さな黒子が浮いていた。

 彼女はA2、かつてヨルハ部隊に所属していたアンドロイドであり、とある作戦で司令部に部隊ごと捨て駒にされた過去があった。

 そんな経緯もあり、現在は部隊を離れ独力で機械生命体を狩る、イレギュラーな存在として立ち回っている。

 

 もう一つは、白を基調とした衣装に身を包んだヒューマギアであった。所々に綺麗な緑の装飾が施された、高価そうな服である。

 装飾には傷一つ無く、その美麗さは不自然さすら感じさせる程である。

 モジュールも白かった。モジュールから迸るダイオードは、煌々と青く輝いていた。

 流れるようなショートボブの黒髪には、緑のメッシュがかかっていた。

 彼女はイズ。2020年において、飛電インテリジェンス元代表取締役社長・飛電或人の秘書を務めていた秘書型ヒューマギアである。

 同社の現社長である天津垓により、この11946年にタイムスリップさせられた彼女は、この時代のあらゆる情報を調査せよとの特命の下、調査活動に従事していた。

 

「すごい……」

 

 ツリーハウスを見渡し、イズは嘆息を漏らした。この一体を構成する奇妙な空気への感動が、彼女にそうさせたのだ。

 右へ……左へ……

 目を走らせ、彼女はこの集落の何たるかを観察する。目で、耳で、建造物の汚れから、建築の目的に至るまで、想像を巡らせる。

 イズは目を光らせながら、A2へと問うた。

 

「ここは、どういった集落なのですか」

「人食い機械生命体の村」

 

 A2の声の低さに、イズの危機管理プロトコルが警鐘を鳴らす。彼女の頬の硬直を察したのか、すぐにA2は「冗談だ」と口元を緩めた。

 

「と言うと聞こえは悪いが、実際は戦いを嫌う者たちの混成急落と言ったところだ。ヒューマギアだろうがアンドロイドだろうが、受け入れる者は受け入れる」

「この地域の、駆け込み寺ですか」

「駆け込み寺が何かは知らんが、まぁ、駆け込む場所という意味では正しいのだろうな。ここのルールはただ一つ。武器を抜いてはならないという事だけだ」

「なるほど……しかし、驚きました。敵性存在である機械生命体の拠点に、このような数のヒューマギアがいるとは」

「いや、確かに今日はやけに多いな。いつもは3、4体いればいい方なんだが」

 

 A2は訝しげに表情を歪めながら、ツリーハウスへと歩を進める。イズはその後に続きながら、さらにあたりを見回していた。

 視界に映るだけで10体以上のヒューマギアが見てとれる。明らかに、機械生命体よりも数が多い。何をするでもなく、その場に佇んでいる者が殆どだ。

 あたりをキョロキョロと見渡したり、物陰に身を隠している個体も見受けられる。

 

「A2。彼等は何を……」

 

 そう言いかけ、イズは後方に身を引いた。

 直後、2人の間に突風が巻き起こった。

 反射的に身体が動いていたのは、その風が彼女のよく知るものであったからである。彼女の危機察知能力がそうさせたのだ。

 砂塵巻き起こる視界の中で、桃色のアーマーを纏った仮面ライダーが、A2の背後に姿を現していた。

 

 ________________________

 

 

 桃色の仮面ライダー・迅はA2の背にアタッシュカリバーの先端を突きつけていた。鋭く突き出されたその鋒は、彼女の背に滞空していた四〇式戦術刀の腹によって防がれていた。

 A2は振り返らない。

 だが、殺気にも似た、ゆらゆらとした気配を背後にぶつけていた。

 

「なんのつもりだ? 滅亡迅雷の迅」

「なんのつもりも何もない。他のヨルハにここの事がバレる前に、君を破壊する」

「ここはお前達の村と同じ中立区のはずだ。戦闘は厳禁、お前も分かっているはずだろう。それに、私はもうヨルハ部隊ではない。お前達の戦争に絡むつもりはないさ」

「それを信じると思うのか」

「……当然か」

「一瞬で終わらせたい。抵抗しないで、死んでくれ」

「そうか」

 

 言うや否や、A2は上体低く落とし、振り向き様に肘を迅の鳩尾にたたき込んだ。白銀のウィッグを、刀が斬り払うのと同時であった。うち数束が、はらりと地面に落ちた。

 追撃を嫌がり、迅はバックステップで背後へと逃げる。同時に、凄まじい速さで腰元へと手が伸びていた。

 距離を詰めようとするA2に、迅は腰元から抜き放った短刀型の変身ベルト・ZAIAスラッシュライザーを突きつけた。

 ライザーは既に錆びついておりドライバーとしての機能は果たせそうにない外観だが、その刀身だけは本来の銀の光を放っていた。

 A2も背に負った四〇式戦術刀をゆるりと抜き放つ。

 二人の間に立ち込める空気が、まるで陽炎のように揺れる。周囲の機械生命体達もようやく異変に気が付いたのか、おたおたと喚き始めた。

 

「やめ……ろ……」

 

 弱々しくも、通る声であった。

 掠れていながら、聞き取れる声であった。

 その声に、迅が刃を止めた。

 それを見たA2も、構えを崩した。

 

「や……めろ……」

 

 二人の視線の先には、小屋があった。開かれた扉の先で、白い布が風に揺れていた。布の上から、黒い何かが顔を覗かせていた。

 ともすれば、人の頭部のようであった。

 その黒い何かが、丁度人であれば口に当たる部分だけを動かし、声を発していたのだ。

 

「もういい……迅……それに……A2………………」

「ホワイトさん。でも、このアンドロイドは……」

 

 ホワイト。

 その単語に、A2が反応した。

 それまで能面の如く仏頂面を突き通していた彼女が、明らかに驚愕に顔を歪ませていた。

 

「この黒焦げが、司令官なのか?」

 

 黒焦げは、何も返さなかった。

 代わりに「あぁ」と返したのは、迅の方であった。

 

「成層圏で燃え尽きかけてた所を、僕が助けたんだ。義体の損傷は激しいけど、メモリに損傷は無かった」

「罰が……当たったようだ……お前達、ヨルハ……への……非道の…………な」

「ッッ………………!?」

 

 イズは、A2の表情を垣間見てしまった。

 複雑な表情であった。

 怒り、悔恨、憐憫、哀惜、それらの混じり合って溶けてしまったような。それは、シンギュラリティに到達していた彼女をして、なお名状し難いものであった。

 彼女は、司令官と呼ばれていた黒人形の喉元に、四〇式戦術刀を突きつけた。黒人形は、抵抗らしい抵抗をしなかった。

 

「すまなかった……今まで……お前達を……」

「喋らないで!! それ以上喋ったら……私は……あなたを……」

「お前……A2……?」

 

 A2の瞳から落ちた水滴が、黒の虚に吸い込まれる。黒人形の喉が、少し動いた。

 

「司令官。私は、行ってくる。やらなければならない事が、まだあるから」

「…………そうか……」

 

 A2は司令官に背を向け、巨大なツリーハウスへと歩き出す。黒人形は真白く濁った二つの瞳でそれを追い、「ふ」と息を吐いた。

 

「そういう…………事か。なんて…………数奇な…………」

 

 黒人形の瞳は、彼女の姿が消えるまでそれを追い。

 その後は、空を見つめたまま動かなくなった。

 


 

 A2はツリーハウスを登る。

 後には、イズと迅が続いていた。

 A2は、ついてくるなと何度も迅に言ったが、彼も彼女を信用していないのだろう、一定の距離を保ちながら後をつけてきている。

 下手な動きをすれば切られる。そんな緊張の空気の中に挟まれながら、イズはツリーハウスを進んでいた。

 

 やがて、A2の歩みが止まった。

 ツリーハウス二階の離小島。

 彼女の視線の先には、帽子をかぶった機械生命体と、その隣で何やら金属の類を弄っている迷彩服のアンドロイドの姿があった。

 

「会わせたい方というのは、この方ですか」

「そうだ」

 

 彼女の指の先にいたのは、アンドロイドの方であった。迷彩柄の衣装に身を包み、頭にはフードを被っている。

 A2が「おい」と呼ぶと、アンドロイドは「うん?」と顔を上げた。美麗なフェイスに、灰色の瞳が収まっていた。

 やがて、3人を観察したアンドロイドはその表情の硬直を解いた。

 柔らかな笑みの中で、目だけが笑っていなかった。

 

「やぁ、A2。相変わらず壊れかけだね」

「これでも動く部分の整備は続けてるんだ。奴等を全て破壊するまで、この身体が持てばいい」

「私は君を心配して言っているんだよ」

「そうか。余計なお世話だ」

 

 にべもないA2の返事に、ジャッカスは肩を竦め、イズの方へと目を向けた。その力強い双眸の睥睨に、イズは身を竦ませた。

 何か強い意志が無ければ生まれない瞳であった。天津や或人社長に近いものであった。

 

「そっちのお嬢さんは……ヒューマギアかい?」

「……はい」

 

 なんとか声を絞り出したイズに、ジャッカスはにこやかに笑んだ。

 先程の鋭い目が繕いだったのではないかと思う程に、優しい笑みであった。

 

「コイツが、タイムマシンの設計者だ」

「ジャッカスだ。よろしく」

 

 差し出された手を、おずおずと取る。

 機械をいじり慣れた、丸い手だった。

 

「私が組んでいたのはコイツだ。まぁ、色々とあって計画通りには行かなかったわけだが。ともかく、事情を知るヒューマギアを連れてくる事はできた」

「君が遊園施設で倒れていたのも、それが関係しているんだね」

「まぁ、そういう事だ」

 

 ジャッカスはイズと迅を交互に見据え、ニヤリと笑んだ。

 

「知りたいんだ。君達の知っている、人類についてね……だが、まずはお前にだ」

 

 灰水晶の目が、A2を捉える。

 

「『2020年で何があった』、『A2』」

 

 ジャッカスの目は抜身の刃に戻っていた。

 

 _________________________

 

 

 

 紅の電光が、森の国の大地を焦がす。

 銀の骸と、黒の骸が重なり合い、その正しい数を数えられるものは最早この戦場にはいなかった。

 

 現在、最も激しい争いが起きているのは、古城・城壁前である。

 

 第244次降下作戦、アーク攻撃部隊アルファ小隊。5つある小隊の中でも、特に優秀な戦闘能力を持つアンドロイドで構成された部隊である。

 彼女達の内、ある者は砂漠で、ある者は雪山で、またある者は敵の前線基地付近で……その全員が、非常時に助けが来るとも分からない僻地での任務に臨んでいた。

 辛い任務だ。

 強い者にしか務まらない任務だ。

 その分、彼女達の戦闘技術は優れていた。うち数人は、あの2Bと互角の戦闘を演じた事があるレベルである。

 だが、そんな彼女達が、今、戦慄していた。

 

 眼前の、仮面ライダーという存在にである。

 

「っしゃあ!! どんどん来いやぁ!!」

 

 真紅のアーマーを身に纏った仮面ライダー・雷は、そう叫ぶや否や、手近なヨルハ機体へと躍りかかった。

 その攻撃方法たるや単純明快。右腕を大きく振り上げ、叩き伏せようというのである。

 その右拳に纏わせた電熱の凄まじさたるや、2mも離れた標的のヨルハ機体のスキンを溶解させるほどだ。

 

「一発かますぜェェッ!!」

「望む、ところだッッ!!」

 

 ヨルハ機体は、刀を青眼に構えた。ゴーグル越しの視界の中で、紅の電熱が迫る。白銀と紅、鉄と稲妻が重なる。

 幾秒の後か……激突の瞬間は訪れた。

 だが、彼女もさるものである、高速で飛来するその拳に、四〇式戦術刀の刃を合わせて見せたのだ。通常、機械生命体の体であれば紙のように切り裂いてしまう切れ味である。

 笑みを溢すヨルハ。

 だが、雷の雷拳はその刃を叩き折った。

 

「なっ!?」

 

 グズグズに溶けた刃を、信じられないと言った様子で見やったその一瞬。その隙が、仇となった。

 返す拳が、彼女の懐に叩き込まれようとしていたのだ。身体を捻り何とか衝撃を逃がそうとするが、電熱は防ぎようがない。

 雷撃拳は腹の装甲をごそりと抉り取り、雷の元へと引き戻される。

 身体を支える鉄骨だけが何とか残っているが、その一撃でヨルハは立っていることすら困難な状態まで破壊されてしまった。

 ここでやっと、彼女は声を出した。

 

「被撃しました……ッッ!? これ以上の戦闘継続は困難と判断!!」

 

 そう叫ぶや否や、ヨルハ機体は歯を噛みしめ、自身の頭に両手を当てがった。周囲で彼女を援護しようとしていた小隊の3人が、途端に後退を始める。

 周囲に赤いエネルギーが満ちてゆく。

 そのエネルギーに任せるまま、彼女は眼前の雷へと特攻した。

 

「人類に、栄光あれッッ!!」

 

 瞬間、カッという高い音と共に。

 彼女の身体は極光に包まれた。

 凄まじい爆風と熱が、三体のヨルハを撫で付けた。

 

 ヨルハ機体の身体を構成していた部品の数々が、自由落下で森の国の地面へと落ちる。

 

 戦場には、爆撃音の余韻を残した静寂が訪れた。

 だが、その静寂は、旋風によって切り裂かれた。

 爆風の中を突っ切る、雷の巻き起こした旋風だった。

 

「化け物……」

 

 爆風を追い風に、雷は三体に隊列を組んだヨルハ機体達の元へ躍り込んだ。

 

「隊長!?」

「私達がお守りします!!」

 

 小隊長と思わしき個体を庇うように、二体のヨルハが前に出る。

 格闘用の武装、四〇式拳顎の牙が、二つ。2人合わせて、四つ。それら全てを動員し、辛うじて雷の拳を防いでいた。

 

「おおおおおっ!!」

「うううっ!!」

 

 2人とも、叫んでいた。

 

「おらああああああああっ!!」

 

 雷も叫んでいた。

 続け様に放たれる雷の拳撃に対し、最早2人のヨルハは反射的に防御を行う事しかできていなかった。

 その攻防の最中、ふと白刃が雷の胸を撫ぜた。

 それは斬撃であった。突撃にも似せた、斬撃であった。

 小隊長である1Dの四〇式戦術刀が、雷の胸部装甲を横薙ぎ気味に突き払ったのである。

 雷が電光の速度で後退した。

 数瞬遅れて、火花が散った。

 

「やるなぁ、お前」

 

 1Dは刀を斜めがけに構え、2人を庇うように雷と向かい合った。

 雷も攻め込まない。その構えに、隙がない事が分かっているからである。これまでのように策無しに突っ込めば、ベルトを両断される事が分かっているからである。

 

 1Dは雷から目を離す事なく、背後の2人へと命令を告げた。

 

「栄光人類.netの使用許可が降りた。2人とも、私の指示をよく聞け」

「「はいッッ!!」」

「4Bは撤退した後、チャーリー隊の援護!!」

「はいッッ!!」

「7Eは……私と来い」

「はいッッ!!」

「お前達。また、バンカーで会おう」

「「はいッッッッ!!」」

 

 言うや否や、4Bと呼ばれた個体がどこぞへ向けて駆け出した。

 雷はそれを追う事ができなかった。眼前の二機体が、見覚えのあるベルトを取り出したからである。

 

【ゼツメライザー】

 

 かつては滅亡迅雷.netがヒューマギアをマギア化させるために使った兵器である。現在は、アンドロイド達が自身をマギア化させるために使用する兵器と成り果てた。

 これを使ったが最後、ヨルハ達は絶大な力を手に入れるが、自我を失い死ぬまで暴れ続ける戦闘人形となり果てる。

 

「「人類に栄光あれ!!」」

 

 暗示にも似たその台詞と共に、二機のベルトを装着した。

 百足にも似たのクラッチが彼女達の腹部装甲を犯し、その身体をアンドロイドからマギアのものへと変貌させてゆく。

 

 7Bが変身したのがサーベルタイガーにも似た外見を持つのエカルマギア、1Dが変身したのは重厚な装甲と腹部に双突角を持つマンモスマギアである。

 雷からすれば、戦い慣れた味方であった。

 

「またマギア共か!! いいぜ、5体でも6体でもまとめて倒してやる!!」

 

 駆け出そうとしたその時。

 ビュッ、と。

 鋭い風切音が、背後でした。

 

「ッッ!?」

 

 即座に身をかがめ、右へと前転する雷。

 直後、彼の背後を凄まじい勢いで白線が通り抜けた。白線は前方のマギアまで伸び、ちょうど彼に襲い掛かろうとしていたエカルマギアの頭部を貫いた。

 エカルマギアが倒れるのも確認せず、雷は背後へと目をやる。そこにいたのは、二体のオニコマギアであった。

 先程雷の頭上を通り抜けたのは、それらの触覚だったのである。

 

「人類に栄光あれ」

「人類に栄光あれ」

 

 前方では、倒れ伏すエカルマギアに構わずマンモスマギアが前進を続ける。しかも、その背後には視認できるだけで6体ほどのマギアが控えていた。1人でもてこずる相手が、計9体。

 言わずと知れた、窮地である。

 

「人類に栄光あれ」

「人類に栄光あれ」

「人類に、栄光あれ軍団かよ。気色悪りぃ」

 

 雷は足の帯電甲に電熱を貯めると、勢いよく地を蹴った。ただでさえ異常な仮面ライダーの跳躍力は電熱によりさらに強化され、彼の身体をアーク付近の高台まで運ぶ。

 ここでの撤退は恥ではない。

 雷の使命はアークの防衛である。ならば、上げすぎた戦線を元に戻すのはむしろ彼にとって都合の良い事なのだ。

 だが、着地先で雷が見たのは、ありえない光景だった。

 

「ジンルイニ、エイコウアレ」

「「「ジンルイニ、エイコウアレ」」」

 

 無数の大型機械生命体が、別の方角からアークへと行進してくるのだ。その目はどれも爛々と黄色に輝いており、ハッキングされた個体である事を物語っていた。

 

「ついに、なりふり構わなくなったってか。いいぜ。戦ってやろうじゃねぇか」

 

 雷は拳を固めると、前方の機械生命体の群れへと突進した。

 


 

 A2が、語りを終えた。

 

「これが、私の話だ」

 

 迅も。

 ジャッカスも。

 イズも。

 誰も、言葉を発する事ができなかった。

 理解が追いついていないのである。

 彼女の話が荒唐無稽だった事も一因だろう。感情的な言葉を用いて説明をしていたのも理由の一つだったかもしれない。

 

 そんな彼らを置いて、A2は語りを続ける。

 

「どう転んでも、戦いは人類の勝利に終わる。私達にできるのは、今すぐこの下らない作戦を終わらせる事だけだ」

 

 未だ沈黙に包まれる小屋の中で、ジャッカスだけが、「そうか」と乾いた声を漏らした。

 

「それが、君の導き出した結論なんだね。『A2』?」

「あぁ。私の結論だ」

「或人様は、無事なのですね」

 

 イズの問いに、A2は「分からん」と素っ気なく答えた。本当に分からない事を、分からないと答えているのだ。

 その瞳に宿る物悲しさに、イズはそれ以上の追求をする事ができなかった。

 

「私は、あの世界で不破諌を知った」

「…………」

「飛電或人も、刃唯阿も。飛電コロニーのみんなも、知る事ができた。世界があんなにも綺麗だという事に、気が付けたんだ」

「彼等は、来れるかな」

 

 迅の問いにも、A2は肩を竦めるばかりだった。本当に、分からない事項なのだろう。

 その後いくつかの質問に答えた後、A2はイズの方へと向き直った。真っ直ぐに向けられる灰の視線に、イズは思わず息を飲む。

 

「イズ。お前には飛電或人の言葉を伝えておきたかった。『俺の夢は叶う。ヒューマギアの夢も、きっと叶えて見せる。だから、未来で待っててくれ』と」

「或人様が、そのように」

 

 イズは逡巡する。

 A2の言葉が、本当なのかどうか。

 全ては、このアンドロイドの妄想を語られているだけなのではないか。

 だが、その邪推をイズはすぐにやめた。

 眼前のアンドロイドの瞳は、到底嘘を語っているような眼差しではなかった。

 それに……

 

「確かに、或人様なら……そう仰ると思います。或人様のために戦っていただき、誠に、ありがとうございます」

 

 イズはそう言うと、深々と頭を下げた。

 A2は、ただ笑っていた。

 柔らかな時が、小屋の中で流れていた。

 

 そして、そんな時を切り裂くように、ジャッカスがその鋭利な視線を迅へと向けた。

 

「今度は、お前の話を聞かせてくれ、迅」

 

 迅はすうっと息を吸い込み、倍の時間をかけてゆっくりと吐き出した。

 そして……語り出した。

 

「この降下作戦を仕組んだのは、僕と司令官だ。滅の再覚醒も、栄光人類.netも、そして……アークの打ち上げが絶対に成功する事も含めて、計画の上だったんだ。全ては、アークを倒すためのね」

 

 小屋にいる全員が、言葉を失った。

 真実が語られる時が、ついに訪れたのだ。




●次回予告
栄光マギア達と滅亡迅雷.netの戦いは、亡の参戦によりついに最終局面を迎える。一方、アダムとイヴはアークへと侵攻。その内にある人類文明の情報へと手を伸ばす。

●あとがき
中編をお読み下さり、ありがとうございます。
仕事も忙しくなり、休みが休みではないような日々が続きますが、なんとか小説は書けていますね。
次回は、アダムとイヴも参戦し、戦局が動く回となります。色々と伏線が乱立し物語が複雑になりつつありますが、本筋は一つ【第244次降下作戦】に集約されています。分かりにくい部分等ありましたら、感想乱立等でご質問頂けるとありがたいです。
次回もお楽しみに。

次回の更新は、来週日曜日を予定しています。

※同じものをpixivにも投稿しています。
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