NieR:humagi〈el〉   作:TAMZET

6 / 29
これまでのあらすじ

サウザーとの戦いに敗れた滅は、何故か11946年の世界にタイムスリップしてしまっていた。アンドロイド・ヨルハ機体32Sの案内でヒューマギアの村を訪ねたホロビは、新世界に適応した仲間達の姿を目撃し、元いた時代とのギャップを感じてしまう。
一方、32Sは彼を追ってきた2Bに発見されてしまう。ホロビに迷惑をかけまいと戦場をヒューマギアの村から離した32Sだが、9Sのハッキングによって敗北してしまうのだった。


『ヒューマギアの村(後編)』

 2Bの意識は、強烈な妨害プログラムに押し出された。ふらつく視界の中で、9Sが抵抗する32Sの身体を押さえつけている。

 

「僕の宝物に、勝手に触るなっ!!」

「はいはい。もう見ないから。大人しくしててよッッ!!」

 

 9Sの軍靴が32Sの小さな頭を蹴り抜いた。体勢を崩した彼は、受け身も取れず、水没都市の硬い床に打ち付けられる。

 獣のように唸り声上げながら威嚇する彼を、2Bは揺れる視界の中に辛うじて捉えていた。

 

(視界に多少のノイズが見られる。電子ドラッグを摂取した時の感覚のアレだ。やっぱり、ハッキングは苦手。あんなのをずっとやってられる9Sはすごい)

 

 頭を振り、冷静な思考を続ける事で症状を緩和してゆく。薄く漏れる涎と気怠げな仕草に、32Sを拘束していた9Sの視線が吸い寄せられる。

 

「さっきのは?」

「32Sの記録と推測」

 

 彼女の質問に答えたのは、ポッド042であった。

 32Sの記録、脱走兵の記録。

 話していた相手には、見覚えがあった。

 46B……ヨルハ46号B型。

 鹵獲したヒューマギアの素体をもとに作られた、特殊なヨルハ機体である。かなり古くから残存するモデルであり、2B自身、よく行動を共にすることがあった。

 よく隊員のスカートを覗いたり、胸を触ったりするような、軽薄な男であった。

 彼と一緒にいると、妙に胸がざわついた。

 

(そういえば、46Bにも捕縛命令は出ていた。もしかして、この2人は一緒に……)

 

 そこまで思考が及んだ時、2Bは近くに足音を聞いた。硬い軍靴の足音であった。

 撃鉄を起こす音が、聞こえた。

 刹那、2Bが喉を震わせた。

 

「9S!! そいつから離れて!!」

 

 9Sが怪訝そうに2Bの方を振り返る。

 瞬間、鋭い発砲音と共に、彼の右肩を銃撃が襲った。

 

「ッッ!?」

「9Sッッ!!」

 

 バン、バン、バン。

 続け様に撃ち込まれる銃弾は9Sの小さな身体を後退させ、32Sから引き剥がした。右肩を抑える9Sの元に、2Bが駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「へっちゃら、ですよ。あんな旧式の兵器、全然効きません」

 

 内容に反し苦しそうな9Sの口調に、2Bは口元を固く閉じた。

 

「分かった。私が前に出るから、後方支援に徹して」

 

 そう言い残し、2Bは銃撃の主の方を睨みつける。視線の先にいたのは、民族然とした衣装に身を包んだ長身の男……46Bであった。

 

「随分な有様だな、サニーズ」

「ホロビ!? なんでここに?」

「爆発があった。お前の姿も無かった。それが理由だ」

 

 32Sは少し考え、目を丸くして問い返す。

 

「それってつまり、助けに来てくれたって事?」

「好きに受け取れ」

 

 倒れたままの32Sに手を伸ばす46B。

 だが、その手は途中で止められた。

 凄まじい殺気が、彼の背を撫ぜたのである。

 殺気の主は、2Bであった。

 両手で白の約定を構える戦闘スタイル……速度特化のスタイルである。

 

「46B……あなたも、いたんだね」

「ヨルハ機体46Bは脱走兵として登録済。推奨:早急な破壊」

「当然」

 

 2Bが地を蹴り、駆け出した。

 刀の鋒が地を滑り、火花を散らす程低姿勢での走行。真っ直ぐに突っ込んでくる黒の弾丸を前に、滅もヨルハ式制刀を抜き払った。

 

「ホロビ、ここは……」

 

 32Sのか細い声をかき消し、二つの刀が激突する。金と金のぶつかり合う甲高い音が、彼の集音フィルタを限界まで揺さぶる。

 ぶつかり合いは、互角……否、若干に2Bの方が有利であった。助走の加速が乗っていた分、滅の身体が後退したのである。

 軍靴が地を擦り、白の約定が滅の後ろでうずくまる32S目掛けて迫る。

 滅の、脇をすり抜けて。

 だが、そこまでであった。

 彼女の突進は、32Sへと刃が到達する前に、滅の馬力に乗って止められていた。

 

「どうしてあなたは、この子を守るの。討伐対象、なのに」

「コイツは俺がこの世界を知るための光だ。それを失うわけにはいかない」

 

 滅は身体に力を込めると、2Bを弾き飛ばした。右手にはヨルハ式制刀、逆の手には、紫色のプログライズキーが握られている。

 コートの裾を広げ、彼は32Sを隠すように2Bの前に立ちはだかる。

 

「俺は自分がヒューマギアかも分からん。人類もいない。正直どうすればいいかは分からん。だから……」

 

 滅の、指が動いた。

 

『poison』

 

 プログライズキーのスイッチを入れると共に、コートを脱ぎ捨てる。腰には、迅から託されたフォースライザーが装着されていた。

 

「俺は、俺の目に映る光を守る。変身!」

 

 鋭い発声と共に、滅はフォースライザーのスイッチを入れた。

 

『FORCE……RIZES.STING! SCORPION!』

 

 腰に巻かれたベルトより紫の光が溢れ出し、アーマーを形成してゆく。警戒の面持ちで刀を構え直す2Bの眼前で、滅のアーマーが完成した。

 

『BREAK……DOWN』

 

 紫のボディに、胸元を覆う銀のアーマー。片手には小弓・アタッシュアローを持ち、両目が爛々と黄光を放っている。

 

「俺は仮面ライダー滅。まずはお前から、亡き者になれ」

 

 瞬間、滅の身体が風のように動いた。

 拳撃であった。

 それなら、受けて流し、斬り返せばいい。

 そう判断した2Bは、あえて彼の攻撃を待った。その判断が間違っていたと知ったのは、彼が彼女の間合いに飛び込んできてからの事であった。

 弾丸。

 衝突の刹那、2Bの脳裏をよぎったのはその二文字だった。

 拳撃であるはずだった。

 だが、威力が違っていた。

 フルメタルジャケットに包まれた鉄鋼弾が、サブマシンガンの速度で飛んでくる。それも、矢継ぎ早に。

 

「ッ!! アンドロイドの馬力じゃない!」

 

 背負った大槍・白の契約で前方を薙ぐと共に、2Bはバックステップで距離を取る。滅も同じく半歩ほど引いて構え直した。

 両者の間に生まれた距離は凄まじい。それこそ、大砲でもかわせそうな間合いだ。

 軽く火照る身体を木陰で冷却させ、2Bは荒い息でポッドに質問を投げかける。

 

「ポッド、あのベルトは何?」

「不明。衛星アークにより再現された、過去の人類文明の遺産と推測」

「他は?」

「不明。データが不足」

 

 つまり、何も分かっていないという事だ。

 差し障りのない回答に、2Bはため息を漏らす。敵はほぼ正体不明のヒューマギア。

 

「へぇ、なんかかっこい……おっかないですね、2B」

「かっこいいのは、私にもわかる」

 

 2Bは自身の心のざわつきが収まっているのを感じた。敵への恐怖、情報不足からの緊張、それらはなりを潜め、四肢を包んでいた不安の波がいつの間にか消えている。

 

(ありがとう、9S)

 

 心中でそう言い残し、2Bは地を蹴った。

 若干遅れて9Sも駆け出す。

 二体のポッドが後を追う中、9Sが前を征く2Bに問いかける。

 

「2B、何か作戦があるんですか?」

「ある。アイツを、前後から挟む」

「そんなの、どうやって!?」

 

 問いに、2Bは返事をしない。

 言いたいのに、言ってしまいたいのに心と喉の間にある蓋が、邪魔をする。

 滅との距離が徐々に縮まってゆく。

 やがて、滅との間合いがあと踏み込み一つというところまできた具合のところで……2Bの口元が、微かに動いた。

 

「信じてるから、ナインェズ」

 

 今度は、背後から声が聞こえなくなった。

 ずっと言いたかった言葉を口にした時、何故か胸の奥が少し軽くなった気がした。

 重苦しいはずの鉄の身体が、まるで一歩踏み出しただけで空を飛べるんじゃ無いかってくらい、強い力に満ちていた。

 一瞬遅れ、背後から聞こえる足音が少しだけ、強くなった。

 

「私が、先に行く。援護は任せた!!」

「はいッッッ!!」

 

 長い長い数瞬間を乗り越え、ようやく2Bの黒身が滅の間合いに飛び込んだ。

 小刀を抜き放ち、斬りかかる彼女に対し滅がとった行動は、アタッシュアローを近接用に持ち替えての防御。

 接触と共に、轟音と火花が集音フィルタを揺らす。同時に伝わってくる、小刀の奥の重圧。まるで岩か鋼がその向こうにあるかのような、重苦しい圧力。

 

(だからって、止められない!!)

 

 2Bは身体をひねり、連撃の体勢を取った。

 目にも止まらない白刃の雨、紫撃の応酬が、滅と2Bの間で交わされる。

 馬力で圧倒的に勝る滅の打撃斬撃だが、速度だけなら彼女の方が優っていた。

 雨霰の如く交わされる一撃一撃を、ミスなく捌き、ミスなく打ち込む。

 相手が半身を引いた。きっと斬撃が来る。なら、攻撃が形になる前に、小刀でボディを斬ってしまえばいい。

 上がる火花に惑わされるな。

 小刀で切り抜けたら、迷わず反転。

 相手が振り向き様に振り回してきた手を、両手で受け止める。片手ならダメでも、両手なら受け止め切れる。

 動き続けていた戦局が、止まった。

 2Bの息は、とっくに切れていた。

 受け止めるというより、縋るに近かった。

 滅は息一つ乱れていなかった。

 押さえつけるよりは、支えるに近かった。

 

「受け止めたからと言ってなんだ。ここは既に、俺の刀の射程範囲内だ」

「分かってる。ハァッ……でも、私は……ッッ……1人じゃ、ないから」

「お前の仲間も諦めているようだ。ここで散れ、アンドロイド」

「どう、かな?」

 

 滅の発言は、恐らく熱源反応のことだろうと2Bは予測していた。彼女達アンドロイドの攻撃はどれも熱を伴う。それを事前に察知することができれば、回避が可能なのだ。

 だが、9Sには得意技がある。

 B型では決して実現できない、高度な技が。熱を全く伴わない、技が。

 滅の背後で、9Sが手を掲げていた。ゴーグル越しに、目が大きく見開かれているのがわかる。

 S型の特権、ハッキングの構えだ。

 

 ほら、挟めた。

 

 ハッキングへの抵抗か、それとも注意力が分散したか。無尽蔵にすら思えていた滅の馬力がわずかに緩む。

 その機を逃す2Bではない。

 

「隙ありッッッ!!」

 

 気合一閃、腰を入れた槍突撃が、滅の身体を吹き飛ばした。胸元から上がる火花、掌に残る、明らかな手応えの感触。

 紫の鎧軀はヒューマギアの村の外壁まで吹き飛び、鉄製の壁に巨大なクレーターを作る。

 

 火照り尽くす身体で、2Bは寄りかかるように、9Sの肩に手をかけた。

 彼の身体も、同じように熱かった。

 先の応酬で負ったダメージは決して少ないものでは無かった。身体も脚もガタが来ている。正直、立っているのがやっとだ。

 その小さな身体に支えられるようにして、彼女はゆっくりと体勢を整える。

 

(ありがとう9S。あなたのおかげで、私はこうして戦える。あなたを信じるから、無茶もできる。私は、あなたが……)

 

 そこまで考えたところで、2Bは思考する事をやめた。ヨルハは感情を持つ事を禁止されているから。

 規律を言い訳に、彼女は自分の心を抑えた。

 放っておけばどこまででも走っていってしまいそうな、心を。

 

「2B!! 危ない!!」

 

 瞬間、9Sの悲鳴に、2Bは反射的に回避行動を取っていた。それとほぼ同時に、頬をエネルギーの矢がかすめてゆく。

 擦れるだけで肌の導線が露出する程の高出力エネルギー。脅威と呼ぶに相応しいそれは、浮かれていた彼女の心を一瞬で冷やした。

 

「ラーニングで強くなるのが人工知能だ。何者かは知らんが、俺たちを追ってくるなら、ここで倒す」

 

 眼前では、滅がアタッシュアローを構えていた。胸元から火花が上がっている、画面の一部も欠けており、中から青血まみれの素顔がのぞいている。

 だが、それだけだ。

 戦意は、消えていない。

 眼前で、エネルギーを纏った弓が引かれる。

 瞬間、2Bは叫んでいた。

 

「ポッド!」

 

 一瞬遅れて、滅の手が弦から離れる。

 

『カバン・シュート』

 

 2Bの背後でチャージされていたポッド042の光弾と、アタッシュアローから放たれた紫の矢は、2人の中間地点で激突した。

 交差する攻撃。ぶつかり合うエネルギーの波は辺りを揺らし、海波を大海へと押し戻す。

 やがて、エネルギーはその力を失い、両者の間には沈黙が戻った。

 なおも武器を構え続ける2Bに、滅も再び弓を構え直した。滅の砲門は一つに対し、2B側は二つ…….若干の優位をとっている。

 

「これがお前達ヨルハというわけか。その強さ、十分に堪能した」

「裏切り者のヨルハは……斬る!!」

「いや、もう十分だ」

 

 2Bが白の矜持を手に地を蹴ろうとしたその時……天空より、無数の光弾が降り注いだ。

 

「ッッッ!?」

 

 光弾の雨は地を揺らし、2Bと9Sを後退させる。32Sも両腕で顔を覆う中、ただ滅だけが何をするでもなく、その場に立っていた。

 光弾は周囲の波を掻き分け、熱と共に水蒸気爆発を引き起こす。巻き起こる霧が辺りを白で埋め尽くし、そこにいる全てのアンドロイドの視界を奪う。

 

「ホロビ……これはッッッ!?」

「心配するな32S。俺達の勝ちだ」

 

 霧が晴れた時、そこには、新たな3人の戦士がいた。黒いドレスに身を包んだヒューマギア、亡。王族然とした衣装に身を包むのは迅……その横にて剣を構える騎士は雷だ。

 

「お客人には手を出さない決まりなってるんだけどね」

「お前達が俺達の仲間を攻撃するなら、話は別だよな」

 

 彼らのただものでは無い面構えに、2Bは槍に加え、白の約定も抜き放った。双剣双槍……完全な攻撃体勢である。

 9Sも片手剣……黒の約定を右手に持ち直した。傷を負ったのだろうか、左腕はだらんと垂れ下がり、息は少し乱れている。

 

「9S、大丈夫?」

「大丈夫、です。ちょっと、さっきの攻撃で左手をやられただけで……NFCSは生きてますから」

「………………ッッ」

 

 2人の戦闘態勢に応えるように、対する3人も、それぞれ手に持ったプログライズキーのスイッチに手をかけた。

 

『DODO』!! 

 

『WING』!! 

 

『JAPANESE WOLF』!! 

 

 その動作に、2Bは目を見開いた。

 彼らは、全員が、ベルトを装着していたのだ。滅のものと同じ、フォースライザーである。

 

「アイツらも、仮面ライダーなの」

 

 困惑の声を漏らす彼女に、ポッド042が答える。

 

「滅亡迅雷.netのヒューマギア、迅、雷、亡。それぞれが独立した、仮面ライダーとしての戦闘能力を持つ。彼等を同時に相手にした場合の該当目的の達成、困難」

「あんなのが、三体も……」

 

 9Sの声が、震えていた。

 無理もない。2人でも苦戦する敵が、4体に増えたのだ。

 敵はまだ変身していない、今なら被害は最小限に抑えられる。

 だが、彼らの背後には、討伐対象となっている32Sの姿がある。

 

「どうします、2B……援軍を呼びますか?」

 

 2Bの思考を急かすように、9Sが荒い息を漏らす。

 歯を食いしばりながら武器を構えるその姿は、手負いの獣のようで、尋常な様子ではなかった。

 

「いや、ここは一旦退こう」

「でも……」

「いいからッッッ!!」

 

 尋常ではない2Bの剣幕に、9Sはとっさに構えを解いた。その行動に、ヒューマギア側も構えたプログライズキーを下ろす。

 9Sは一つ舌打ちをすると、右手の先をヒューマギア達へと掲げた。

 

「ポッドッッ!!」

 

 9Sの指令と共に、ポッド153の銃口が火を吹いた。発射口より放たれた光弾はヒューマギア達の足元に着弾し、爆発と共に地面の水分を蒸発させる。

 やがて、霧が晴れた時、そこにはヒューマギア達と32Sの姿がだけが残っていた。

 


 

 周囲から波音と滝の音以外が消えたのを確認し、滅は変身を解除した。

 滅亡迅雷達も警戒を解き、辺りに鳥の声が戻ってくる。ヒューマギアの村で起きた騒乱に終わりが告げられたのだ。

 亡と雷が被害状況を確認しに村に戻る中、迅が2人の元に歩いてきた。そのゆったりとした歩みは、先程まで凄まじい殺気を放っていたヒューマギアとは思えないほどに優雅なものであった。

 

「敵は逃げたみたいだ。2人とも大丈夫?」

「俺は平気だ。だが、コイツが」

 

 滅の視線の先では、32Sが木に手をつきながら立ち上がろうとしていた。動きのぎこちなさから、駆動系に異常があるように見受けられる。

 滅が近づくと、彼はビクッと身を震わせ、千鳥足で後ずさった。ゴーグルにより表情は窺えない。だが、高く結ばれたその口元からは、拒絶に近い負の感情が感じられた。

 

「どうした。お前……」

「ぼ、僕なら、大丈夫だよ。このくらいなら、自分で修理、できるから」

「ダメだよ。ヒューマギアにも、メカニックはいる。彼に頼んで直してもらおう」

 

 迅が32Sへと手を差し出す。

 ゆっくりと差し伸べられる、細く大きな手。

 だが、32Sはその手を振り払った。その勢いに、迅の目がクルリと丸くなる。

 

「いいって言ってるだろッッ!!」

 

 叫ぶようにそう言い残し、32Sはヒューマギアの村からは逆の方角へと駆け出した。滅は舌打ちと共に駆け出すが、その時には既に32Sの姿は見えなくなってしまっていた。

 

「あの手負いで、素早いな」

「彼も、きっと見失ってるんだろう」

「見失う?」

 

 滅の問いに、迅はすぐには答えなかった。

 その瞳の先は、海の先に向けられていた。蜃気楼の如く続く、海の向こうの都市群へ。

 容姿は滅の知る迅とはかけ離れているというのに、その背姿はかつて孤独に理想を追い求めていた彼の同胞と被った。

「君はー」と、迅が口を開いた。その声色はひどく暗く、悲しみに満ちていた。

 

「滅、君はさっき、生きている理由がわからないと言ったよね。この世界に自分が存在している事に、意味はあるのかって」

「ああ。俺は目的を失った。人類に手が出せなくなったこの世界で、俺に何ができる」

 

 そこまで口にしたところで、滅は短くため息をついた。その口調が、先の迅のものと酷似していたからだ。

 目的地を見失った旅人のような、暗く、悲しみに満ちた口調であったからだ。

 

「お前も、同じなのか」

「ああ。人類がいない未来に来て、僕達はずっと自分を探してきた。いや、今も探し続けてる」

「お前が言っていた、ヒューマギアの解放。それを成した先には、何もなかったようだな」

「そんな事もあったね」

 

 そう答える迅は、やはり、滅の知る過去の彼とは違っていた。

 かつての迅は、ヒューマギアの解放のみを考え、精力的に活動していた。飛電或人と手を組み、元々は敵であったZAIA研究主任の刃唯阿すら仲間に引き入れた。

 一見非合理に見える行動の数々。

 しかしそれらは、全てヒューマギアの解放にのみ向けられていたのだ。

 それを、『そんな事もあったね』と言い切る。滅の知る彼であれば、あり得ない事であった。

 どれほど長い時間を過ごせば、そこまでの変心が起こるのか、想像もつかない。

 

「滅。僕達は、確かに目的を見失った。けど、今の僕にはやらなきゃいけない事がある。僕にはこの村の長として、みんなを守る使命がある。光を、受け継ぐ義務があるんだ」

 

 そこまで語ったところで、迅はようやく滅の方を振り向いた。

 あの時と変わらない、笑顔であった。

 彼が仲間にだけ向ける、どこか儚げな笑顔。

 彼が背に負ったヒューマギアの白旗が、ビルの頂上ではためいている。

 赤マントを広げ、迅は滅に手を差し出した。

 

「僕に協力して欲しい。一緒に、アークを直そう」

 

 その言葉は、その日滅が聴いたどんな言葉より、光に満ちていた。




後編をお読みくださり、ありがとうございます。

前中後編と分かれることになってしまった今回の編でしたが、今後も一回の話は1万字程度に留めていこうと考えています。
今回で、滅達の目的が定まりました。次回からは、具体的には3編ほど、アークを復活させるための活動が始まります。
オートマタ側のキャラをなるべく出していこうと考えているので、ご期待下さい。

次回の更新は、また日曜日を予定しております。

※同じものを、pixivにも投稿しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。