「一誠っ!?おい、しっかりしろ!!」
倒れ伏す友人に駆け寄り、必死で声をかける。しかし一誠はいまだ蹲ったまま、視線だけを龍摩に向ける。
「た……龍、摩……」
「待ってろ、今救急車を呼んでやるから!!」
「に……げ……」
しかし、一誠の友への忠告は、すべて伝えることはできなかった。
「……迂闊だった。まさか人間が来るとはな」
「っ!?テメエがやったのか!?」
ジロリと、怒りのこもった視線を目の前の男に向ける。
「ほう?臆するどころか、そのような眼をするとは……なかなか胆が据わっている」
「ごちゃごちゃウッセエ!よくも一誠を──―」
言い終わる前に、龍摩はその場から咄嗟に飛び退いた。
直後、先程まで龍摩がいたところを、光が通過する。
「何?」
(あっぶねえ!何だ今の、
龍摩は男が投げた光の槍を、見て避けたわけではない。投擲される一瞬前に、ゾワリとした嫌な感覚があり、それに従った結果避けれただけ、要するに偶然だ。
しかし、既に男の手には第二射の槍が握られている。おまけに回避後の硬直で数瞬だけだが行動が遅れる。偶然は二度続かないということか。
「まぐれでも避けたのは誉めてやろう。だが、これで終わりだ」
「ヤベッ──―」
その時、不思議なことが起こった。男のすぐ近くで爆発が起こり、すぐさま男は龍摩達から距離をとった。
「そこまでにしてもらえるかしら」
凛とした、威厳のある声が深夜の公園に響いた。一誠の、そして龍摩の横を、紅い髪を靡かせた女性が通りすぎる。
「……紅い髪……グレモリー家の者か……」
「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。これ以上この子たちに手を出すのであれば、容赦しないわ」
その名に龍摩達は聞き覚えがあった。学校で噂の有名人の先輩、その人だった。
「成る程、そこの悪魔はそちらの眷属というわけか。だがそこの人間は関係あるまい?」
「いいえ、この子も私の関係者よ。そもそも、私の管轄の土地での狼藉、見過ごせると思う?」
紅髪の女性、リアス・グレモリーがそう言うと、男は口許を歪ませた。
「……ふっ、それもそうだ。今日のことは詫びよう。だが、下僕は放し飼いにしないことだ。私のような者が、散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」
「ご忠告痛み入るわ。けれど、次は無いわよ?」
「その台詞、そっくりそのまま返そう、グレモリー家の次期当主よ。我が名はドーナシーク。再び見えないことを願う」
そう残して男は背中の翼を羽ばたかせ、夜の闇へと消えていく。
目の前で行われたことに龍摩はついていけなかったが、男が去ったことで余裕ができ、意識を今だ動けないでいる一誠に向ける。
「一誠、大丈夫か!?返事をしろ!!」
「……」
声をかけて揺さぶる。しかし、一誠から返事はない。
「ま、まさか……おい!死ぬな一誠!!死ぬんじゃない!!」
「安心しなさい。気絶しているだけよ」
最悪の事態を想像して気が動転している龍摩に、優しい声がかけられる。
「グレモリー、先輩……」
「この子のことは私に任せて、あなたは帰りなさい」
「ば、バカ言わんでください!こんな状態のダチを置いて帰れないっすよ!それと、さっきの男は……」
それ以上は何も言えなかった。リアスの鋭い目線に射ぬかれ、まるで身体中が凍ったように冷たくなっていくのを感じた。
「そうね。巻き込まれてしまった以上、あなたにも知る権利があるわ。後日説明するから、今日のところは帰ってもらえるかしら?」
「あ、う……っす」
再び優しい口調に戻ったものの、先の感覚から今度は反論できず、龍摩はその場を去った。
帰宅した龍摩は、疲労からベッドに潜り込んだものの、一誠のことなどが気になり、全く眠れなかった。
◇
翌朝。結局寝付くことができなかった龍摩は、寝ぼけ眼を擦りながら通学路を登校していた。
(結局昨日は先輩に任せて帰っちまったが、一誠は大丈夫なのか……?)
どれだけエロに忠実でも友達には違いがない。一誠の心配をしながら登校した龍磨だったが、学校に入った瞬間、驚くべき光景を目にした。
何と、一誠がいつもと変わらぬ制服姿で登校していたのだ。近くにはエロ友達の松田と元浜の姿もあり、なにやら話し込んでいる様子。
龍磨は一誠に駆け寄ると、肩を掴んで自分の方に振り向かせる。
「お、おう龍」
「一誠!大丈夫なのか!?」
がっくんがっくんと一誠の首が前後に大きく揺れる。龍真が動揺しているのも無理はない。何故なら昨夜一誠が負った怪我は、とても一晩で治るようなものではなかった。それなのに目の前の一誠は、とても酷い怪我をしているようには見えない。
「お前怪我は!?ちゃんと治療したのか!?なあおい!?」
「おおお落ち着けえええ──」
松田と元浜の二人に制止されて、ハッとした龍摩は一誠から手を離が、揺さぶられた一誠はたまったものじゃなく、軽く目を回している。
「す、すまん。つい……」
「い、いいって、気にすんなよ……」
そうは言うものの、明らかに消耗している。しかし、そんな状況でも、訊かねばならないことがあった。
「一誠、昨日あの後何があったんだ?」
その問いに、一誠は少しだけ間を空けてから答えた、
「──龍摩、生乳を見たことがあるか?」
次の瞬間、校庭にロンドン名物が建築された。
◇
その日の放課後。帰り支度をしている龍磨に一誠が声をかけた。
「なあ、いい加減機嫌直してくれって」
「……知るか、色ボケ野猿野郎」
随分な言い草である。朝からずっとこの調子であるが、それもまあ仕方ない。今の龍磨からは不機嫌なオーラが溢れているが、それで引き下がる一誠ではない。
朝のHRから今に至るまで、龍真に機嫌を直してもらおうと色々やっていた。
「だから謝っているだろ?それに昼休み焼きそばパンやったじゃねえか」
「それとこれとは話が別だ。まったく、俺がどんだけ心配したと……」
そう言おうとしたところで龍磨は帰り支度の手を止めた。苛立ちのせいでつい口を滑らせたと言った感じである。
「……すまん。それと、ありがとな」
「……うっせ」
その言葉を聞いた龍磨は、小さくそう返した。その姿からは先程までの不機嫌な雰囲気は収まり、いつもの空気になっていた。
われながらちょろいな。そう龍磨が思った時、教室のドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。その生徒は、一誠と龍磨を見つけると、二人の方に歩み寄った。
「や。どうも。二人ともちょっといいかい?」
「お前は、木場、だったか?」
木場祐斗。学校一のイケメンで、当然女子人気が高い。現に今も女子から黄色い声援を受けている。
「で、何の御用ですかね?」
「おい一誠……」
さっきまでと変わり、今度は一誠が不機嫌になる。それも仕方ないことではあるが。相手は学校一のモテ男。対するこちらは非モテ代表みたいなもの。対極も対極である。
「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」
「「──っ」」
二人にとって、その名前だけで充分だった。
「……分かった。で?」
「俺達はどうしたらいい?」
「僕について来てほしい」
その言葉に、二人は一瞬視線を合わせてから返答する。
「OK」
「分かった」
そう答えて、二人は荷物を持って木場の後に続いて教室を出ていく。途中、木場×兵藤だとか神崎×木場とか神崎>木場×兵藤だとか聞こえてきたり、松田がエロDVDをかざしたりとあったが、すべて無視した二人であった。
◇
木場の後に続いて暫く歩くと、校舎の裏手にある旧校舎にたどり着いた。
「ここに部長がいるんだよ」
木場が二人にそう告げる。
部長とは先輩の事だろうか?二人は疑問に思ったが、それもすぐに分かることだ。再び木場の後に続き、旧校舎の内部を進んでいく。
意外にも内部は綺麗で、廊下や階段の手すり、窓のサッシにも埃一つ見当たらない。
(まめに掃除しているのか?しかし誰が……)
龍磨がそう思っている内に目的の場所に着いたのか、木場の足が止まる。
目の前の教室には、『オカルト研究部』と書かれたプレートがかかっている。
「部長、二人を連れてきました」
戸の前から木場が中に確認を取ると、「ええ、入ってちょうだい」と声が聞こえた。
(どうやら中にいるみたいだな)
(ああ)
木場が戸を開け、二人も続いて中に入る。
「「────なっ!?」」
中に入った二人は驚愕した。室内のいたるところには謎の文字が記され、床の中央には謎の陣が描かれている。
ふと、ソファーに目を向けた。そこにはこの空間には不釣り合いな小柄な少女が腰かけ、黙々とお菓子を食べている。
その視線に気づいたのか、少女が二人の方に視線を向ける。
「こちら、兵藤一誠くんと神崎龍磨くん」
木場が二人を紹介すると、少女は頭を軽く下げて会釈し、二人もつられて頭を下げる。
「あ、どうも」
「……ぅす」
それ以上の会話などはなく、少女はまた黙々とお菓子を食べ始める。
すると部屋の奥からシャーと水の流れる音が聞こえる。見ればそこにはシャワーカーテンに区切られた一角があり、カーテンには女性の人影が映っている。それを見た一誠は興奮し、龍磨も顔を赤くして視線をそらした。
キュッ。と水を止める音が聞こえ、また別の声が聞こえる。
「部長、これを」
「ありがとう、朱乃」
どうやら奥で着替えてるらしい。すると一誠の顔がさらに赤くなる。
「……いやらしい顔」
ボソリと呟く声が聞こえた。その声がした方向には先程の少女。龍磨が、(いや、俺は違うぞ!)という想いを込めて視線を送るが、少女は只お菓子をほおばっている。
そのうちにカーテンが開き、そこから女性が現れた。
リアス・グレモリー。その人だ。
「ゴメンなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊りして、シャワーを浴びていなかったから、今汗を流していたの」
初めに言っておくが、リアス・グレモリーは校内では有名人で。男女問わずファンがいる。その彼女が、とんでもない発言をした。
それを聞いて、龍磨は隣に立つ友人に視線を向け、当の本人は勢いよく視線をそらした。
そして、先程声が聞こえた、もう一人の女性も姿を現した。その姿を見た時、一誠は絶句した。綺麗な黒髪をポニーテールで纏めた、大和撫子感あふれる女性。
姫島朱乃。リアス・グレモリーと合わせて「二大お姉さま」と称される、これまた校内の有名人である。
「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」
「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、こちらこそ、はじめまして!」
「は、はじめまして。神崎龍磨っす」
至極丁寧な挨拶に、二人も緊張しながらもかしこまった挨拶を返す。
「これで全員揃ったわね。まずは兵藤一誠くん。いえ、イッセー」
「は、はい」
「私たち、オカルト研究部はあなたを歓迎するわ……悪魔としてね」
……どうやら、まだ何か、波乱が起きそうだ。
龍磨と一誠は、そう思わずにはいられなかった。
まだ山も何もないですが、感想など、お待ちしています!