TS変身ヒロイン動画配信!ヒーローだってチヤホヤされたい! 作:とやる
『……れ、……して……写………………不調……………………』
ジ……ジジ……ジ……
『……おか……い……昨日……………………っどわぁ!? ……今……見……………………んにゃろ……………………タイム………………タイムだって言ってるでしょう!?』
ジジ……ジ……ジジジジジッ
『ん? あ、直りました? ってかもう動画始まってる!? ……こほん。それじゃあ気を取り直しまして挨拶から行きましょうか……ってッ!! だから少し待てって! お前はちょっと吹っ飛んでろ!! 魔法ぱーんちっ!!』
『ふう。……あ、もう皆んな来てくれたんだ。わわ、コメントいっぱい。そうそう、あれが今日の敵。え? 大丈夫だよ。今日の奴は弱いしすぐにやっつけちゃうから。配信時間も短くなると思うから皆んな投げ銭は早めにお願いね〜?』
『……って、おっと。やっこさんも立ち上がってきたので始めちゃいたいと思います! タイトルコール一緒にお願いしまーす! せーっの! 【魔法少女配信 ちんからほい!】』
今から約半年前、突然日本に現れた怪人は『
ああしていればよかった、こんな事がしたかった。そういう『もう二度と手に入らない青春の日々』という人間の強い後悔の念の集合体である灰春怪人たちは、その内に溜まったフラストレーションをぶつけるように暴れまくる。
灰春怪人はその特性上人の多く集まる場所で発生しやすく、また現代兵器の効果が薄いという厄介な性質を持っていた。
そんな灰春怪人に極めて有効な攻撃手段を持っているのが、灰春怪人の出現と同時に現れた可憐な少女──通称、魔法少女。
つまりは俺こと出雲イズナである。
特にきっかけはない。
俺の住んでる街に最初の灰春怪人が現れ、パニックになる街を映した緊急ニュースを見ながら煎餅を齧っていたらなんか魔法少女になった。
まじでそれだけである。
そして紆曲左折を経て俺は灰春怪人たちとの戦いを動画配信してお金を稼ぐ配信者となったのだ!!
……いやまあね? 最初はあったよ? 正義に燃えたり使命感とかそういうの。
家が神社ってのもあって、神様から世界を救うために与えられた尊い力だーとか、たった一人の魔法少女として皆んなを守らなきゃーとか。
でもさあ……灰春怪人との戦いキツくてキツくて。
考えても見て欲しい。特徴的なことと言えば親を手伝って少し神事をやったりするぐらいの女子中学生がさ、いきなりダンプカーを蹴り飛ばせるぐらいの膂力とか魔法なんて不思議パワーを与えられてまともに扱えると思う?
出来るわけねえだろ取説ぐらいつけとけやぁ!! 平成仮面ライダーの時代は終わってんだぞ。
喧嘩の経験こそあれど相手を戦闘不能にさせるための"戦闘"なんて当然した事がない。
結果どうなるかは火を見るより明らかなわけで。
俺の初戦はへっぴり腰の改造ミニスカ巫女服を来た女の子が泥臭く殴り合いをする、業界の生き残りを賭けた底辺アイドルが出てる深夜番組みたいな絵面になってしまった。思い出したら軽く凹んできた。
相応に怪我もした。勿論怖かったし、死を覚悟したこともある。
まあでも使命感に燃えていた……言ってしまえば降って湧いた特別な自分ってやつに酔っていた俺はそれでも戦い続けて……ある日ふと思ったのだ。
あれ、俺なんでこんな事やってんだ? って。
痛い思いして灰春怪人を倒しても誰からも褒めてもらえない。なんの対価もない。
ヒーローは孤独って言うけどさ、辛いよ。
親に怪我を隠して涙を堪えて自分の部屋で手当てをするのも、俺ではない"魔法少女"に皆んなが感謝するのも。
平和になった街で笑って過ごす誰かを見て満足げに笑うなんてカッコいいこと、俺には出来なかった。
俺は平和を守った対価が欲しい。頑張ったんだから褒められたい。
具体的にはこんなにしんどいんだからもっとチヤホヤされたいしお金も欲しい。
花の女子中学生は色々と入用なのだ。
そこで思いついたのが動画配信だ。
いやー、これは天啓だったね。
世は正に大配信者時代。美少女がゲームをやるとお金を稼げる素晴らしい時代だ。
俺は魔法少女に変身している間はちょっと自分でも引くくらい可愛い。まじで可愛い。もうずっと変身しておきたいぐらい。まあすんごい疲れるから無理なんだけど。
話が逸れたけど、配信っていうのは元を辿れば見せ物……要は娯楽を提供してその対価に金銭を得る観劇が源流にある。人類史の中で一番に盛り上がった観劇が何かといえば、それは殺し合いに他ならない。
ちょっと物騒な物言いになったけど、何が言いたいかっていうと"戦闘"っていうのは多くの人を惹きつけるコンテンツなのだ。
美少女+戦闘=大勝利
俺の目に狂いはなく、魔法少女と灰春怪人との戦闘を配信する【魔法少女配信】は大成功も大成功。
チャンネル登録は滝を登る龍の如く凄まじい勢いで伸び、投稿した動画は国内トップの再生数を記録、収益化に伴い視聴者からの投げ銭だけでぼろ儲けなのだ。お陰様で俺の毎日のおやつは五ランクぐらいグレードが上がりました。
魔法で隠してるので身元がバレない安心感もあるし、その上でコメントで『可愛い』とか『いつもありがとう』とか自己肯定感をガンガン満たされる。
こういうの。こういうの俺求めてた。
ま、そんなわけで今日も元気に動画配信やってます!
「……っと、爆発?」
区切りを付けてシャーペンをノートに転がしたところで結構大きめの爆発音が聞こえた。
誰もいない放課後の教室の窓がビリビリと震える。空気の震えがここまで伝播するってことは結構近いな。
魔法少女になってから研ぎ澄まされた俺の勘も灰春怪人が現れたって言ってるし……被害が出る前に行きますか。
椅子を引いて立ち上がり、ノートとシャーペンを鞄の中に仕舞う。
魔法少女になってからの半年を気まぐれに纏めてみたものの……志し新たになる事もないし、新しい発見もなかったし……懐かしい気持ちになっただけだったな。
……あ、そういえば書き忘れてたけど。
俺が魔法少女に選ばれた理由って、もしかしたら小学校卒業前にTSしてる事もなんか関係あるのかもな。
「っとと、忘れずに忘れずにっと」
お年玉貯金で買ったハンディカメラをしっかりと手に持ってと。
これはインターネットにも繋げられる優れもので、最悪これさえあれば動画配信ができる俺の必須アイテムだ。
ガラッと窓を開ける。
ここは五階なので街を割と見渡せるのだ。黒煙発見っと。駅のほうね。
窓淵に足をかけ、そのまま俺は飛び降りる。
次の瞬間、眩い光に包まれた。
【VSトレインブルース】
「でーんでんでんでんでんっ!! 電車があるから制服デートの帰りに隣に並んで座って寝たフリをして肩に頭を預けてみたり満員電車で彼女を守るように立って押されて体が密着して『あっ』『……いいよ、仕方ないもん』『……ごめん』『……えっちな気持ちには……ならないでね』『……ごめん』『……へんたい』なんて甘酸っぱぁぁあああい事が起きるのです!!! そんな青春は灰となって散ってしまうがいい!! 我ら春を灰塵せし!! 手始めにまずはこの街の電車を制圧させてもらいましょう!!! 少年少女の青い春は痴漢専用電車によって真っ白な灰となるのです!!!」
「ダメです! 痴漢は犯罪です!! 痴漢電車なんて作られたら廃線になってしまう!?」
「でーんでんでんでん! 知りませんそんなことは! 右を見ても痴漢! 左を見ても痴漢! そのうち全国の電車を痴漢で埋め尽くしましょう!! ついでに満員電車も解消します!」
「や、やめてくれ!? この電車は妻に出会えた思い出の……!」
「うるさいですよさっきから! でんっ!!」
「ぐはぁ!?」
俺が駅のホームに乗り込んで見たのは、大小様々なドラム缶を人体のように取り付けたような灰春怪人が車掌さんと思わしき男の人を煩わしい虫をはたくようにぶん殴ってるところだった。
軽く五メートルぐらいぶっ飛んだ車掌さんは「痴漢は犯罪です……」と呟いてから力尽きた。まあ多分生きてるだろうけどそこのお姉さん一応救急車呼んであげて。
よく見れば電車は煙火を上げて止まってるし、ホームもあちこち物が壊れてる。パニックになったように人々が逃げ回ってないのは帰宅ラッシュから少し外れた時間帯で人が少なかったのと……。
「お、おい! あれ!」
「……っ!! 来てくれたのか!」
「あの黒髪をポニーテールにした改造ミニスカ巫女服は……! 間違いない!」
「「「魔法少女イズナん!!」」」
俺の存在だろうね。手、振り返しとこ。
「ででんっ! 来たな魔法少女! 我が名はトレインブルース! 今日という今日は貴様をひっ捕らえ、我が痴漢電車の映えある最初の痴漢専用駅員として雇用してやろう!! 完全週休二日で時給は二千円の八時間労働で今までの恨みを晴らし恥辱の限りをしてくれるわ!」
周囲の歓声で俺の存在に気づいたトレインブルースがびしぃと指を突きつける。
甘いな!
「法律で満十五歳未満の就労は認められていません! 貴方の勧誘に乗ることはこの胸の正義が許さない!」
「で、ででんっ!? では子役とはいったい……?」
「映画や演劇などは例外的に認められるんです。でも貴方がやろうとしているのは鉄道……条件を満たしていません!」
「えぇい喧しい! では痴漢の様子をカメラに収め配信してやろうぞ! 観念するのだ魔法少女!」
「そんな事はさせません! そもそも痴漢は犯罪です! 罪なき人々の明日を守るため、胸の鼓動が正義を刻む! 魔法少女イズナ、ただいま参上!」
掲げた右手を胸にググッと引き寄せて、宣戦布告をするようにばっと突き出して決めポーズ。
決まった。ギャラリーの反応もいい感じだ。
でもちょっと危ないから離れててね。
っとと、そうだ。今のうちに撮影開始っと。よし出来た。
じゃあ、始めますか!
「これ以上街に被害を出すわけにはいかない……! メタフィールド展開します!」
武器である竹箒をクルクルと回して地面に突き刺す。
すると、竹箒を中心に光の輪が爆発的に広がり、瞬く間に周囲を覆い尽くした。
一瞬の目も眩むような光の後には、幻想的な花々が咲き乱れる空間。
俺と俺が指定した対象だけを現実世界から俺が有利な空間に引き込むこの技を"メタフィールド"と俺は呼んでいる。
現実世界ではないので戦闘で街に被害が出ることを防げて、ついでにこっちの力も上がるので基本的に俺はこのメタフィールドを展開して戦う事にしてるんだよね。
あ、あと、このメタフィールドにはもう一つの名前があったりする。
『処刑ステージキターヾ(°∀° )/ー!』
『相変わらずクッソ綺麗だな』+3,000
『怪人致死率100%の処刑ステージ』
『この綺麗な花が灰春怪人の血で育ってるって思うとなんか怖くね?』
魔法で宙に浮かせてあるビデオカメラの液晶には怒涛の勢いでコメントが流れている。
そうなのだ。
このメタフィールドで灰春怪人を倒しているうちに、いつの間にか処刑ステージなんて名前をつけられてしまったのだ。
流石に物騒過ぎるので最初は訂正してって言ってたんだけど、私の知らないところで一人歩きし過ぎて定着してしまい、もういいやって感じ。SNSって怖いよね。
カメラの状態を軽くチェック。よしよし、問題ないな。
前方では引き込んだトレインブルースが臨戦態勢に移行していた。数秒後には戦いが始まるだろう。
「カメラOK! 音も聞こえてますか? よーし、それじゃあ時間もないので今回も始めて行きますよ〜、せーっの! 【魔法少女配信 ちんからほい!】」
『ちんからほい!』
『ちんからほい!』+10,000
「でんでんでんっ! 中学高校の六年間、気恥ずかしさから一度も女子の隣に座れず、社会人になって仕事の疲れでたまらずスマホを弄っている女子高生の隣に座ったら『くさっ』と一言呟かれ席を立たれた社会人の怨嗟の拳を喰らうがいいわ! 臭撃パンチ! 【
開戦の合図はトレインブルースの一撃。
腕に連結したドラム缶のようなモノが──小型の電車──ガコンッ! とコッキングし、薄茶色の気体が結合部から溢れ出す。
うねりをあげて迫るそれを難なく竹箒で弾くが……これはっ!
「お、お父さんからたまにする臭い! 臭いです!」
鼻が曲がるとまでは言わないけどそれなりに眉をしかめるやつ!
思わず反射的に片手で鼻を覆ってしまった。
美少女になんてもん嗅がせるんだ!
「最近は臭いを嗅いでも嗅がせても痴漢になるのです! でんでんでんっ! さあさあ鼻を抑えたまま捌き切れるかな!」
片腕だけでなく、両腕から薄茶色の気体を吹き出してトレインブルースが迫る。
一発一発の重さは大した事ないが、反撃に移ろう、攻勢に出ようとしたタイミングで絶妙にやる気を削ぎ落としていく臭気が動きの精細さを欠かせてくる。
「くっ……なんですかこの酸っぱい臭いは! 臭いです不愉快です!」
『俺ちょっと風呂入ってくる』
『俺は大丈夫俺は大丈夫俺は大丈夫』
『イズナんが俺の臭い嗅いでると思うと興奮して来た』+7,000
『メンタル強過ぎて草。風呂入れカス』
なんでか知らんけど魔法で脳内で直接閲覧できるようにしてるコメント欄が死屍累々って感じだった。
守りに集中するならしばらく保つだろうけど、それでは埒が明かない。
どうするか……!
「でーんでんっでんっ! なす術なしですか魔法少女! だが今のうちに慣れておいた方がいいですぞ! お前はこれから毎日この臭いを嗅いで生きていくんですからねえ!」
「そんな事にはなりません! こんなの息を止めれば……!」
「でんっ! そんな悪あがきがいつまで保つかな!?」
くっ。悔しいがトレインブルースの言う通りだ。魔法少女といえど人の体、無酸素で動くにはどうしても限界がある。
だが、一旦拳の乱打から抜け出して距離を取るぐらいは余裕で出来る。
両手で振るう竹箒で完璧に捌き切り、すかさず連続バックステップで後退。
ぷはぁ。マジで臭かった。しかもあの煙、なんか精神に作用するっぽい。精神系は不味い。魔法少女じゃなかったら洗脳されてるだろう。
なるほどね、これで痴漢電車を作る腹積りってわけか。
「でんっでんっでんっ、手も足も出ないようですねえ……! む? 今インスピレーションを得ました。つり革に手と足を括り付けての宙吊り拘束痴漢……これは素晴らしい! 是非取り入れましょう!」
「なんて事を!? そんな小さな支点で人体を支えたら負荷で手足が鬱血して壊死してしまいます!」
「だまらっしゃい! しっかりクッションを用意するわ! 電車は人を安全に運ぶ乗り物なのです! 怪我は言語道断!」
「接地面積の事を言っているんです! つり革の輪っかに取り付けられるクッション程度ではとても……ん?」
ガコンッ! と、トレインブルースが腕の電車をコッキング。
薄茶色の煙が噴き出る。
先ほども見た光景だ。というか、戦闘のときも合間合間でコッキングはやっていた。
あれ、もしかして……?
だよね。
気体が尽きれば一度コッキングを挟んで補充しないといけないのか。
だからわざわざ両手を使って殴りかかって来たのか。パンチを格闘に使うのなら、左で攻めて右を決め札に残しておくのが基本だ。
だが、トレインブルースは両腕を均等に使う戦い方をしていた。だから捌きやすかったわけだけど……その戦闘スタイルが気体の補充にあったのだというのなら説明がつく。
交互に絶妙なタイミングで補充していたのだ。
だが……種が割れてしまえばこっちのもの!
「もう同じ攻め方は通用しませんよ!」
叫ぶと同時、俺は魔法を使って加速。
だが、そのスピードはいつもより遅い。くそっ、やっぱり精神に干渉してくるやつはほんっとに厄介だな!
「我を失ったか魔法少女! 正面から来るのならイイ鴨です! 喰らうがいい、臭気砲!!」
トレインブルースが腕と腕を突き合わせる。
次の瞬間、一塊りとなった臭気が前方に射出された。
そう来たか!
「隙を突いて片腕をぶち壊すつもりでしたがそう来るのなら話は早いです! 私に力を、竹箒! 螺旋神風ッ!!」
腰ダメに地面と並行に構えた竹箒を横一線に薙ぎ払う。
瞬間的に巨大化した竹箒が爆発的な突風を生み出し、臭気を根こそぎ吹き飛ばした。
旋風が巻き起こり渦巻く風に花びらが荒れ狂う。その中心を突っ切る!
「でん!? こんな技を隠し持っていたのですか!?」
「隙が大きくてさっきまで使えなかったんです!」
驚きの声を上げるトレインブルースの両腕がガシャコンとコッキングするのが見えた。
つまり、今この瞬間奴は両腕を補充していて臭気を攻撃に使えない。
このチャンスを逃す手はない!
『ぶちかませイズナん!!』+2,000
『やっちまえ! イーズーナー!』+7,200
竹箒の柄の先端に収束する光。
火の粉のように光鱗を散らすそれは収斂された魔力の穂先だ。
地をえぐる踏み込み。背中が反り返るほど振り絞ったそれをトレインブルースの右腕、小さな電車と電車が繋がっている連結部分に突き刺す!
「神雲槍竹箒ッ!!!」
「でんんんんんんんっ!!? やってくれましたねえ……!!」
ガギョンッ!! と金属が貫かれる音が響き、トレインブルースの右腕が断線したように火花を散らし始める。
手は緩めない。続け様に回転させた竹箒の箒部分が魔力の光を帯び、ハンマーのように振り抜く。
駆け引きはいらない。臭気の元を潰した事で魔法の調子が良くなっているから。
正面から打ち破ってやる!
「させませんよ! 滲み出よ我が怨嗟! ずっと鞄を持ち上げて万歳して鍛えた防御形態ッ!! 鞄越しに触れても痴漢なのだ! 【
「関係ない! 打ち破って、槌竹箒ッ!」
「ぐっ──でーんっ!?」
拮抗すらしない。ビジネス鞄のように平たく長方形に広がったトレインブルースの左手に竹箒が接触した瞬間、ガラスのように粉々に破壊。
ははっ、悪いがもうお前は敵じゃない。魔法さえ十全に使えればこんなもんだ。
星に願いを。
魔法とは希望の光。明日を切り開く前へ進む意思が魔法の源だ。
そのため、精神に干渉してくる力を使ってくる相手とはすこぶる相性が悪い。やる気を削ぐトレインブルースの臭気で魔法をフルスペックで使えなかったが……それがなければ!
「覚悟はいいですね! は〜〜……っ!!」
槌竹箒で真上にかち上げたトレインブルースを追う飛翔。
竹箒の上に立つ俺の右拳を光が纏い臨界点へ。
オーバーロードした光がバチバチと弾ける。
『勝ったな風呂入ってくる』+4,000
『あの光は……!』
『全ての怪人を屠って来た……!』
『イズナんの必殺技だ!!』+10,000
全力全開。
最大まで収斂した光の拳を解き放つ!
「必殺! 魔法っ、パ──ンチッッッ!!!」
「でぇぇぇえええええええんっ!!!」
拳がトレインブルースの体を打ち抜いた瞬間スパーク。
膨大なエネルギーが一瞬で駆け抜ける。
「わ、私、は……ただ痴漢を心から楽しめる電車を……甘酸っぱい青春が憎かっただけ……なのに……」
「トレインブルース……貴方は間違っていたんです」
「でん……何、が……」
わからないのか。
くるりと背を向けて、俺は言ってやる。
「痴漢は犯罪です」
「この世全ての青春よ灰となれ──!」
爆発。
捨て台詞を残して汚え花火となったトレインブルースを背に俺は地面に降り立った。
ふぅ、終わった。
そんなに強い灰春怪人じゃなかったけど、精神系の能力持ってるやつが出てくるとまだヒヤリとするな。
『お疲れイズナん。ありがとうね』+3,600
『街を守ってくれてありがとう!』+2,200
『お疲れ様! いつもありがとうイズナん、カッコよかった!』+9,990
戦闘が終わり動画ではスパチャと賞賛のコメントが流れていた。
あーこれだよこれこれ。これがたまらないんです。
ゾクゾクと背中を這い上がるこの感覚。自己肯定感がブチ上がりますね。
「皆さん応援ありがとうございました! 次も灰春怪人が出たら配信するからお願いしまーす!」
始まりは使命感だった。
でも、それだけでは魔法少女であれなかった。
そんな時、俺は動画配信に出会った。
批判が全くないわけではない。正義の味方は高潔であるべきだ、なんて言う人がいる事も知っている。
だけど、俺はそうは思わない。
正義の味方だって人間なんだ。対価を求めたっていいじゃないか。
みんなの平和を守ってるんだから、ちょっとぐらい欲張りになったっていいじゃないか。
この不特定多数から"魔法少女イズナん"に直接向けられる感謝の声とお金が、俺が魔法少女を続けられる理由なのだ。
翌日。
トレインブルースが壊した電車はすっかり元通りになっていた。
何だかんだ電車が大好きなやつだったので、電車自体を直接壊してはいなかったのだろう。なんか一応美学めいたものがあったっぽいし。
まあ何にせよ復旧が早いのはいいことだ。電車ないと流石に不便だし色んな人が困ってしまう。
「ふぁ……ねむ……うゅ、あれは」
ホームでぽけっと電車が来るのを待っていると、見知った背中を見つけた。
暇だったし丁度いいや。声かけよ。
抜き足差し忍び足。バレないようにそいつの背後に移動した俺は、ガバッと勢いよく背中に飛びついた。
「はぁーっやた! おっはよー!」
「む。イズナか。おはよう」
のそりとした声の男が振り向く。相変わらずの鉄面皮。
こいつは寺本ハヤタ。一応幼馴染みになるのだろうか。
それにしてもこいつ、こんなガタイ良かったっけ。
「ちぇー、反応薄いなー。女の子に飛びつかれてるんだからもっと嬉しがったり慌てたりしてよね」
「ふむ。俺とて女子に同じようにされたら戸惑いもする」
「女の子だよ?」
「イズナは男だっただろう」
「でも今は女の子なのだ」
「知っている。だが俺とイズナは生まれたときからの付き合いだったのだ。重ねた月日というやつは早々忘れられんよ」
クソ真面目か。クソ真面目だった。
揶揄いがいのないやつーとぶーたれていると電車が来たので一緒に乗る。
俺たちが通う中学校はここから九駅ほど離れたところにある。
朝の通勤ラッシュの時間帯と若干かぶるため、電車の中は結構狭い。
なのでたまにこういう事も起こる。
「わぷっ、わわっ、つ、潰れる!」
「何をしている。コッチにこい」
「ふぅ、ありがとうハヤタ、助かったよ」
ぐいっと腕を引っ張られる。
人に押し潰されそうになっていたところを助けられてしまった。
俺は中学生女子としては平均的な身長で、ハヤタは男子の中でも結構でかい。
なので、いつも俺が潰されないように壁になってくれている。
俺だけだと簡単に埋もれてしまうからね……。
「そういえばさ、昨日駅で灰春怪人が出たんだって。知ってる?」
ふと気になって尋ねてみた。
ハヤタはチラリと俺を見下ろしてから「ああ。ニュースで見た」と。
ほうほう。
「大活躍だよね、魔法少女。あんなに強くて悪の怪人をばったばったやっつけられるのに、すごく綺麗で! いいよねー、憧れちゃうなー」
超自画自賛だけど俺の正体が魔法少女だと知っているのは俺だけなので問題ない。
そういえばハヤタが魔法少女についてどう思ってるか聞いたことがなかったので、ふと聞いてみたくなったのだ。
まあ肯定的な意見だろうけど! いやぁ、参っちゃうなあ。自分の人気に嫉妬しちゃう!
「そうだな。彼女は素晴らしい人物なのだと思う。だが、俺はあまり好きではない」
あれ?
「な、なんで? 正義の味方だよ? すごく可愛いよ?」
「そうだな」
「いつも灰春怪人から守ってくれてるんだよ?」
「ああ。尊敬に値する人物だ」
「じゃあなんで???」
その評価でどうして好きじゃないになるんだ??
本気で分からなくて首を傾げていると、ハキハキと喋るハヤタには珍しく少し篭った声で。
「一人で戦うことを選んだからだ」
「え、それってどういう──」
その時、電車が大きく揺れる。
バランスを崩した俺は前に大きくつんのめって、ハヤタの胸の中に飛び込んでしまった。
ぶつかる! と思ったけど、ふわりと優しく受け止められた。どんな体幹してるんだこいつ。
「ごめんね、ありがとハヤタ」
「構わない。今のイズナは小さいからな」
「むっ。確かに女の子だからハヤタよりも力も弱いし背も低いけど。ハヤタも結構無理してるの知ってるんだよ?」
「……? いや、俺は無理など……」
ははーん。とぼける気か。
ならば教えてやろう。俺は意地悪く笑いながら、さっき抱き留められたときに気づい事を指摘した。
「ハヤタの心臓の音、めっちゃ早かった。本当は結構力入れて踏ん張ってるんでしょ〜」
「──」
「ん?」
バレてしまったか。あたりの解答を想定してたのに。
なんで背中向けたんだ。
「気のせいだ」
「え?」
「気のせいだ」
「いや……」
「気のせいだ」
「無限ループ?」
結局、ハヤタは学校最寄りの駅に着くまで顔を見せてはくれなかった。
珍しい日もあるものだ。