TS変身ヒロイン動画配信!ヒーローだってチヤホヤされたい!   作:とやる

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 前回の配信魔法少女はっ!!

 私、出雲イズナ!どこにでも居る女子中学生!
 だけど、実はクラスのみんなには言えない秘密があって……。
 神社で暮らす女子中学生は仮初の姿。その正体は悪しき灰春怪人と戦いその配信でお金を稼ぐ魔法少女なのだ!!

 最近は夏になった影響で灰春怪人が増えてもう大変っ!連日連夜の連戦に睡眠不足で気分は萎れた青菜みたいにしなしなになっちゃった。
 幼馴染みのハヤタに保健室に連れて行ってもらって仮眠を取ってると……出てきちゃった、灰春怪人!

 ショーツ・S・ブルースと名乗ったその灰春怪人に挑んだ私は、手も足も出ずに負けてしまった……。ショーツに異様な執着を見せる変態がどうしてあんなに強いのよっ!

 このままあいつを野放しにすれば、沢山の女の子がショーツを奪われて大変なことになっちゃう。
 そんなこと、絶対にさせないんだから!
 罪なき人々の明日を守るため、胸の鼓動が正義を刻む!
 魔法少女イズナ、ただいま参上!

 私のショーツ返せっ!!!


四話 恥辱の決意

 

 なす術もなく負けた、敗者の夜。

 魂を犯すような痛苦の残響が、心の内側に巣食っている。

 

 痛いのはいやだ。

 苦しいのはいやだ。

 戦うのだって、いやだ。

 

 それでも、灰春怪人を倒せるのは魔法少女だけで。

 魔法少女は、俺一人だから。

 

 戦って勝つしかないのだと、言い聞かせるように口にした。

 

 第二ラウンドでのリベンジを誓う、孤独な守護者の夜。

 

 

 

 そして、ノーパン帰宅をした夜だった。

 

 

 

 あいつ……! 絶対絶対ぜぇっっったいに許さない……!!! 

 

 人生初のノーパン帰宅……いや初じゃなかったらただの変態なんだけど。

 とにもかくにも、ノーパンでの帰宅という難題をどうにかこなして、俺は今自室にいる。

 

「最悪だよもう……!!」

 

 最初、コンビニで適当なショーツを買って帰ろうと思ったんだよね。

 でも、逃亡先の河川敷から通学用の定期券で乗れる電車の駅までまあまあの距離があったわけで。

 定期券が使える学校の最寄り駅まで電車に乗ることを考えると、所持金の残りはまさかの298円。

 こんな端金でショーツが買えるわけがない。愛とは違うんだよ! 

 

 知ってる? 

 人間って羞恥心が行くところまで行くと涙が出てくるようになってるんだよ。

 

 こっちの方がイズナちゃん可愛いよ! なんて言われて普段は折ってるスカートを限界まで伸ばして、それだけでは足りずスカートの裾をぎゅっと掴んで必死に下に伸ばしながら電車に乗った。

 ノーパンで。

 途中で恥ずかしいやら悔しいやら情けないやらでもうなんか涙出てきたよね……。

 

 親に迎えに来てもらうって手もあるにはあったんだけどね。

 夜に河川敷まで来てってお願いするなら、どうして河川敷に居るのかって説明がややこしいし……学校の最寄り駅まで行くなら結局ノーパン電車は避けられないし……。

 それに、なにより。

 

「こんな泥だらけになった制服、見せられないよね……」

 

 空中で力尽き、飛行能力がなくなったときにはもう、俺の服は改造巫女服ではなくなっていた。

 だから、河川敷を転げた俺の制服には泥がべっとりと付着している。

 娘がこんな姿になっていれば、親として気が気じゃなくなるだろう。

 色々と、悪い想像もさせてしまう。

 だから家にもこっそり入ったしね……。

 

 それに、魔法でほとんど治療しているとはいえ、細かな傷まで全てなくなったわけじゃない。

 体のあちこちに、確かな戦闘の痕が刻み込まれている。

 本当なら魔法で全部治せるんだけど……今の俺は、もうこれ以上魔法が使えない。

 むしろ、致命傷から軽傷まで回復するだけの魔法をよく使えたと言いたいぐらいだ。

 

 だから、自分で帰るしかなかった。

 ノーパンで。

 泣きながら。

 ノーパンで。

 

「マジで……絶対許さないんだから……! 絶対しばく……!!」

 

 リベンジマッチの気合は十分だ。

 絶対許さない。

 覚えとけよショーツ・S・ブルース……!!! 

 

 

 

『我が名はショーツ・S・ブルース! モテなかった男たちのおぱんちゅへの切なる願い、その体現者だ!』

 

 

 

 ショーツを盗られた怒りに燃える意識の狭間に、針を差し込むような痛みがあった。

 

 紳士服を着たパンツというふざけた格好が脳裏に浮かび上がり、ぶるりと体が震える。

 刻み込まれた痛みが、体を破壊される恐怖が、ゾワゾワと込み上げてきて。

 それらを一息に飲み込んで、飲み下して、自分の中から吐き出す様に息を吐いた。

 出ていけ、出ていけ、出て行って……と、そう念じながら。

 あいつを倒さないと、流れる涙があまりにも多いのだから。

 

「……そうだった。あいつに勝つためには……固有能力を解明しないといけない」

 

 固有能力。

 強力な灰春怪人が備えている、その灰春怪人だけのワンオフアビリティ。

 今まで色々な固有能力を見てきたけれど、そのどれもに共通するのが、世界の理を鼻で笑うかのように無茶苦茶で、凄まじく厄介かつ強力であるという点だ。

 

 特殊系の能力を持つ灰春怪人と似ているが、その性質は全くの別物。

 似て非なるものだ。

 特殊系能力が身体能力の延長にあるものだとすれば、固有能力はもう世界の書き換えとかそういう次元にある。

 

 例えば、ポカリブルースの吸収ポカリ。

 あれは『様々なエネルギーを吸収する』という能力を持っていた。

 俺はこの吸収ポカリを、ポカリの吸収量を上回る魔法力を打ち込むという力技で破った。

 

 けれど、もしこの吸収ポカリが固有能力だった場合。

 

『様々なエネルギーを吸収する』というポカリブルースの能力は、『全てのエネルギーは吸収される』という、世界に灰春怪人のルールを書き込まれたものになっていただろう。

 

 これは、似ている様で全く違う。

 前者の吸収ポカリがあくまで、そういう機能を持ったポカリを用いてるのに対して、後者は『ただのポカリが無限にエネルギーを吸収する』というルールを付与されているからだ。

 俺がいくら魔法をぶち込んだところで、この世界にルールを付与されたポカリの吸収量は上回れない。

 何故なら、そういう風に世界が書き換えられているから。

 

 固有能力とは、世界の書き換えに等しい。

 すべての物質は重力に引き寄せられるという万物普遍の真理を、追加するような物だからだ。

 

「けど。ルールの上に成り立つ強さは、イレギュラーには効果がない」

 

 そう。

 だから、固有能力を持つ灰春怪人を倒すためには、その灰春怪人のルール外で戦う必要がある。

 ルールの上では絶対に勝てないからだ。

 

 灰春怪人、ショーツ・S・ブルースの固有能力。

 その全貌を明かさなければならない。

 

 心当たりは、あった。

 

 

 

 

 

「よ、ハヤタ。おはよ」

 

「む。イズナか。おはよう」

 

 初夏といえど、早朝は少し肌寒い。

 会社や学校に行く人々が行き交う駅のホームで、電車を待つハヤタを見つけた。

 その左腕には、真新しい包帯が巻かれていた。

 

「ハヤタ、それ……」

 

「ああ。昨日の灰春怪人にやられたものだ。だが、電話でも話したように軽い打身のようなものだ。イズナが心配することではない」

 

 昨日のことだ。

 ノーパン帰宅を終えて、充電の切れていたスマホを充電すると、ハヤタから大量の着信があったことに気が付いた。

 

 

 

『イズナ!!! 無事か!? 今どこにいる!!』

 

『え、家だけど……』

 

『家だと!? くそっ、今助けに………………イズナの家か?』

 

『うん』

 

『灰春怪人は……いや、魔法少女が助けてくれたのか』

 

『あー……うん、そんなとこ』

 

『そうか。……とにかく、無事でよかった』

 

 

 

 凄まじい剣幕でびっくりした。

 どうやらハヤタは俺の身を案じて、怪我をした体を引き摺って方々を駆け回っていたらしい。

 あ。

 昨夜の電話の内容を思い出したら、なんか心配になってきた。

 こいつ昔から無茶しがちだからな……。

 釘刺しとこ。

 

「全くもー。大したことないって思ってても、怪我は怪我だよハヤタ。無茶しちゃってさ」

 

「無茶ではない。俺は走れた」

 

「走ること自体が無茶なの!」

 

「そう言われてもな。灰春怪人に気絶させられて、目を覚ますと灰春怪人もイズナもいない。直ぐにSNSをチェックしたが、魔法少女が灰春怪人を倒したという投稿もない。これで心配をするなと言う方が無茶だろう」

 

「ぐ……その言い方はズルい」

 

「……それに、お前は昔から一人で抱え込みがちだからな。幼馴染みの俺は、いつも肝を冷やしている」

 

「ならもっと普段から肝を冷やしたリアクションをしてほしい」

 

 お前いつも真顔から動かんだろ。

 

 ……それにして、も。

 

 昨夜、ハヤタと電話をした時点で違和感を持っていた疑惑が、確信に変わる。

 

「ねえ、ハヤタ」

 

「どうした?」

 

「本当に、怪我は軽い打身だけなの?」

 

「そう言っているだろう。全く、イズナは心配性だな」

 

「ハヤタには言われたくないなあ」

 

 これが、違和感。

 これはおかしい。

 どう考えてもおかしい。

 だってそうだろう? 

 

 

 

『──はっ!? あまりの光景に呆然としていた! イズナから離れろ、この変質者!!』

 

『あ、小生男の下着には一ミリも興味ないので』

 

『ぐふぅぁあああっ!?』

 

『は、はやたぁぁああああ!!!』

 

 

 

 ハヤタは奴に吹き飛ばされ、窓の外へ飛んでいった。

 

 でも、おかしくないか? 

 

 魔法の防御を正面から粉砕するほどの力を持つ奴にしばかれたハヤタが、なんで原型を留めて吹っ飛んだんだ? 

 

 戦闘時と非戦闘時? 

 俺の魔法のように付与してブーストするタイプの能力だった? 

 

 違う。それはありえない。

 

 なぜなら。

 

 

 

『おや。先程の一瞬で小生の拘束から逃れたのですか。さらに私に挑む気概を見せている。その小柄な体でかような身のこなし、そして胆力。……なるほど、レディ、やはり貴方が魔法少女ですね』

 

 

 

 やはり、と。確かにそう言った。

 あいつは、俺が魔法少女だと認識していた。

 

 俺はもうかなりの数の灰春怪人を倒してきている。

 いわば、灰春怪人にとって、俺は唯一の"己を倒しうる存在"。

 そんな俺の前で……能力を発動していない無防備のままでいるか? 

 ありえない。やつは、確実にあのとき固有能力を使っていた。

 ハヤタが割って入るまで、俺がやつの拘束から逃れられなかったのが何よりの証拠だ。

 

 そして、決定的だったのが。

 

 徹底的に体を破壊され、ボロ雑巾のようになった俺に近づいたショーツ・S・ブルースが俺のショーツに触れて、一瞬でショーツを脱がしたとき。

 

 

 

『──む、なに!?』

 

 

 

 苦し紛れに放った、死に体の俺の悪足掻きでしかなかった攻撃が当たった。

 

 油断していたからではありえない。

 人がどれほど不意を突かれても亀の歩みに当たることがないように、隔絶したスピード差とはそういうものだ。

 それに加えて、あの後逃げる俺を追ってこなかったも違和感があった。

 

 だって、逃す理由ないだろう? 

 

 だから。

 

 もし、俺を追って来なかったのではなく、追って来れなかったのだとしたら。

 

 俺の攻撃を避けなかったのではなく、避けられなかったのだとしたら。

 

 ショーツ・S・ブルースの強さに、ロジックを見つけることができる。

 

 ……最悪のロジックを。

 

「……まじむりぃ」

 

 いやほんとまじで。

 

「──む」

 

「あ! 今怪我してる方の腕で吊革掴もうとして辞めた! ほらみろ! やっぱり痛いんでしょ!」

 

「痛くない。こっちの腕でも吊り革を掴める」

 

「わざわざ両腕で掴まらなくても……。そこは意地を張るところじゃないと思うな」

 

「意地なんか張ってない」

 

「いや絶対意地張ってるじゃん……」

 

「張ってるのは湿布だ」

 

「ハヤタがそういうボケかますときってだいたい平常心が失われてる時なんだよね」

 

 吊り革を掴むハヤタの腕がプルプルし始める。

 ……平気な顔してるけど、結構痛いんだろうな。

 ハヤタは軽い打身って言ってるけど、ひょっとしたら骨にヒビぐらいは入ってるのかもしれない。

 

 ……はあ、まったくさーもう。

 

「そんな怪我してるのに私を探して走り回っちゃってさ。やっぱりバカだよね、ハヤタって」

 

「……その話は蒸し返すな」

 

「やーだ。蒸し返すもんね。いひひ、カッコつけられなくて残念だね、男の子」

 

 人差し指で胸の真ん中をぐりぐりしてやる。

 うりうり。

 どーだ、カッコつけようとして上手く決まらなかったのはさぞカッコ悪かろう。

 うんうん、分かるよ。俺も経験ある。

 ……あれ? あったっけ? 

 

「……イズナ、お前それ素でやってるのか……?」

 

「え? 何が?」

 

「いや……分からないのならいい……」

 

 ええ……気になるぶつ切りの仕方するじゃん……。

 

 ま、でもさ。

 

「痛いのならあんま無理しちゃダメだよ、ハヤタ。昨日走れたのだって、ドーパミンとかなんかそういうのがドバドバ出てただけかもしれないし。大体そういうのって一過性で、切れたとき死ぬほどキツいからね」

 

「いやに実感が篭ってるな……」

 

 気のせい気のせい。

 

 ああ、こうして誰かと会話をしてると思考が整理される。

 口に出して吐き出すことで情報が定着でもするのかな。

 

 ショーツ・S・ブルースが保有する固有能力について、おおよその検討はついた。

 けど、まだ確信には至っていない。

 ……確信が欲しい。

 

 確実に倒したいから、ではなく。

 どうか予想が外れててくれ、という意味で確信が欲しい。

 

 ゴクリ。

 思わず生唾を飲み込む。

 尋常じゃない緊張感だ。

 やばい。手汗出てきた。

 

 どうする? 

 え? 

 どうするの? 

 俺の予測が正解だった場合……俺、本当にソレをやるの? 

 

 でも……確認しないわけにもいかない。

 これは……これは、女として生きることに慣れきった俺の答えではなく。

 今を男して生きる人の答えが必要だ。

 

 でも、こんなこと誰にでも聞けるか! 

 そんなん痴女じゃん! 

 

 だから、ハヤタ……! 

 

「ねえ、ハヤタ」

 

「む。今度はなんだ」

 

「今から変なことを訊くけど、お願いだから私のことを変になったって思わないでね……?」

 

「……んん? 前置きの意図がよく分からんが……俺がイズナを変に思うわけがない。幼馴染みだからな。約束しよう」

 

 へへ……ありがと、ハヤタ。

 やっぱり頼れるのは幼馴染みだよね。

 この圧倒的な信頼感。

 ハヤタなら変に真に受けずに流してくれるっていう安心。

 これが幼馴染みなんだよね。

 この相互理解が心地よい。

 

 だから、俺は絶大な信頼を寄せて質問した。

 

「私のショーツ見たかったら何でもする?」

 

「狂ったか?」

 

 嘘つきぃ!!! 

 

 

 

 

 

 嘘つきハヤタを問い詰めること数十分。

 貴重な現役男子中学生の意見を持って、ショーツ・S・ブルースの固有能力は確定した。

 

 

 

『で、どうなのさ。ハヤタは女の子のショーツ見たいの? 見たくないの?』

 

『ええい! 躙り寄るな! スカートをひらひらさせるな! 周りから変な目で見られるだろう!?』

 

『そういう事を聞いてるんじゃない! 見たいか見たくないか訊いてるの! 私は命を懸けて訊いてるんだよ!? (この後の戦い的な意味で)』

 

『これそんなに重大な質問なのか!? 何をそこまでお前を駆り立てる……! くっ、これは答えなければ落ち着かないやつか……!』

 

『さあ、早く答えてよ』

 

『……見たくない』

 

『えっ。あ、えっと……そ、そういう人もいるよね! うん! 私は、その……そういうのに全然偏見とかないから! 愛っていろんな形があるもんね!』

 

『そう受け取られるのか!? いやまて、俺は……!』

 

『じゃあ見たいの?』

 

『……………………まあ……………………そういうことになる、な………………』

 

『ふーん。ハヤタのえっち』

 

『逃げ場がないんだが?』

 

『昨日の私のショーツもえっちな目で見てたんだ。ふーん』

 

『おい。俺から距離を取ろうとするな。これは流石に納得がいかん』

 

『ハヤタは女の子のショーツをどんな事をしてでも見たい、と……』

 

『ふりかけご飯をかき氷と言い張るレベルの脚色だぞ』

 

 

 

 色々あったが、最終的には『まあ……男なら、可愛い子のしょ……下着は、見れるなら見たいと思う……のでは無いだろうか。無理やりとまではいかなくても、チャンスがあれば……と考えるやつは相応にいるだろう。そろそろ死にたくなってきたんだが満足したか?』と、男の代表として答えてもらった。

 やっぱり男はケダモノだな。

 まあ、気持ちはわからんでもないけど。

 

 多分、俺が最初から女ならもっと気付くのが遅かった。

 男の心理を実感できるからこそ、直ぐに理解できた。

 

 可愛い子のぱんつには、理を書き換えるほどの魅惑がある。

 

「……ヴァアァァァァァアアッ!! ほんっっっとに最悪の固有能力だなぁ……!! エロ同人ブルースで打ち止めじゃなかったのこれ系……!!」

 

 夕暮れの校舎の屋上に俺の悲鳴が響く。

 

 まじむり。帰りたい。ほんと最悪。

 正直、まだどうか予想が外れますようにと祈ってしまいそうな自分がいる。

 てか祈った。

 それほど、ショーツ・S・ブルースの固有能力は最悪だ。俺の精神面への影響がデカすぎる。

 くそ、魔法が上手く使えなくなるだろうが……!! 

 

「……っ! 悲鳴!?」

 

 頭を抱える俺の耳を、女性の甲高い悲鳴が貫く。

 直後に感じる、濃密な強者のオーラ。

 場所はさほど離れていない。

 魔法少女であれば、ものの1分もないうちに駆け付けるだろう。

 

 覚悟を決めろ。

 やるしかない。

 やるしかないんだ。

 やらなければ、あいつに勝てない! 

 

「──いや、でもまだ予想が外れてる可能性あるし?」

 

 一応ね? 

 一応試してみるだけはありじゃん? 

 

 魔法少女に変身する。

 体を覆う光を突き破るように跳躍した俺の背後から、待ってましたとばかりに竹箒が飛来。

 飛び乗るように竹箒に両足を乗せ、爆発的な推進力を持って急降下した。

 

 赤灼けの夕日を背に、魔法の軌跡を残しながら街を飛ぶ。

 あまりの速さに引き伸ばしたように薄っぺらく映る建物を視界に収めながら。

 

「──見えた」

 

 忘れもしない。

 浅黒い肌にだらしのない体つき。そして、ショーツを丸めたような頭部にとってつけられたような目。

 ショーツ・S・ブルースは、女性の下着を手に匂いを堪能していた。

 

「んぁ〜べろべろべろべろ! ふぅ。溜まりませんねこの味蕾を刺激する芳醇な味と香り。性を実感する一瞬があるとすればこの瞬間を置いて他にはない。まだ未熟な蕾から漂う春の若葉のような香りも格別だが少女から女性へと階段を登り始めた蛹の女学生のみが持つ新緑が芽吹くように青く力強い香りもまた格別それに僅かに鼻腔を刺激するこれは──汗。それもこの時期特有の少し蒸れて据えた汗そして外で運動でもしていたのかほんの少し体操服の隙間から入り込んだ土埃のコントラストまさに芸術と呼ぶに相応しい香りだ。──ああ、おぱんちゅは人生を教えてくれるフレグランス。小生はおぱんちゅを通して少女の生を味わっているのですぅぅぅぅぅはぁああああああああああああああああ今、小生は生きている──!!」

 

 うっわキモい。(直球)

 くそが、相変わらず──! 

 

「早口で何言ってるか分からないんですよ貴方ッ!!」

 

「──来ましたか、魔法少女!!」

 

 空中で体勢を捻り、叩きつけるように振り下ろした竹箒と、ショーツ・S・ブルースの上段蹴りが激突する。

 激突の余波が一瞬で周囲に広がり、ビリビリと空気を震わせた。

 

「あれほどの大敗をものともせず再び挑みに来た気概は見事。しかし、気概で勝てると考えているのなら──そのおぱんちゅも、小生のものになる」

 

「昨日のショーツも貴方のものじゃありませんけど!? 私のショーツ返してください!!」

 

 あ、やっぱりいろんな液体でべたべたになってそうだからいいや! 

 気持ち悪いし! 

 

 激突の軍配はショーツ・S・ブルースに。

 拮抗は不可能だと判断した俺は、即座に力を受け流すように竹箒を捌く。

 そのまま勢いを殺さずに転がって、戦いの余波から守るために魔法のバリアを張っていた、ショーツを盗られた女性を庇うように立った。

 

「い、いぃ……いずなん……!! き、きでぐれてあびがどぅ……!!」

 

「変態に襲われて怖かったですね……助けるのが遅れてごめんなさい。でも、もう大丈夫です。あの灰春怪人は、必ず倒しますから」

 

 高校生ぐらいだろうか。

 よほど怖かったのだろう、顔をしわくちゃにして泣いている彼女を安心させるように笑ってみせる。

 

 さあ、名乗りをあげろ。

 

 魔法少女が来たぞと。

 灰春怪人を倒しに来たぞと。

 恐怖に震えなくてもいいと。

 

 もう、誰の涙も流れないのだと。

 

「罪なき人々の明日を守るため、胸の鼓動が正義を刻む!」

 

 掲げた右手を胸の中心にぐっと引き寄せて、勢いよく突き出す。

 その指先は、不敵に笑っているように見えるショーツ・S・ブルースに。

 

 今、お前の目の前に立っているのは──。

 

「魔法少女イズナ、ただいま参上!!」

 

 ──この世界で唯一お前を倒せる、灰春怪人たちの天敵だ。

 

「メタフィールド、展開っ!!」

 

 瞬間、世界が変貌する。

 アスファルトは満開の花畑に。

 夕焼けに染まる街は無窮の蒼空に。

 俺と灰春怪人だけを招待した、魔法少女のバトルフィールド。

 

 高揚感が心を満たしていくのが分かる。

 ショーツ・S・ブルースへの畏れ、刻み込まれた体の痛苦が薄れ、魂の奥底から魔法力が漲る。

 裏拳を叩き込むように広げた右腕の手に、空から滑空した竹箒が収まった。

 

 くるくると竹箒を手の中で回転させる。

 次の瞬間、爆発的な加速をもって飛翔した。

 

「──っ、アァッ!!!」

 

 裂帛の気合いを迸らせ、魔法の穂先を鋭く、薄く伸ばした竹箒の柄をショーツ・S・ブルースの顔面に叩き込むッ!!! 

 

「神雲槍竹箒ッ!!」

 

「甘い」

 

 ショーツ・S・ブルースの姿がブレる。

 昨日の戦いでも見せた、残像が残るほどの超速移動。

 魔法の穂先が、ショーツ・S・ブルースを捉えられず空気を穿つ。

 

 くる。

 あの魔法を飴菓子みたいに粉砕する理不尽な殴打が。

 予測しろ。

 奴の思考を測れ。

 狙いを絞れ。

 やつが攻撃する一点を見切り、そこに全魔法力を注ぎ込め! 

 さもないと死ぬぞ、出雲イズナッ!! 

 

「でも──貴方が狙うならここ以外はないでしょう、ショーツ・S・ブルースッ!」

 

「なに──!?」

 

 下半身……それもショーツのある腰回り。

 まるでショーツを剥ぎ取るかのように無造作に、しかしショーツ・S・ブルースのふざけた力であれば腰骨が粉々になっていたであろう一撃を、竹箒が受け止める。

 

 一瞬の拮抗。

 だが、その一瞬さえあれば十分だ。

 ショーツ・S・ブルースの一撃の威力を流した俺の体が、駒のように空中で回転する。

 あらゆるものが線になる視界の中で、ショーツ・S・ブルースのオーラだけがはっきりと分かる。

 

 前回は初見殺しでやられたが、お前が"そういうルールの書き換え"をしてくると分かってれば戦える。

 戦闘経験値が違うんだよ。

 たった1人で街を守ってきた魔法少女を舐めすぎたな、ショーツ・S・ブルース! 

 

「潰れてください! 槌ッ、竹箒ッ!!!」

 

 今の俺の最高出力の魔法を乗せた竹箒が、ショーツ・S・ブルースの頭部を捉えた。

 ゴギャン!!! と硬いものがひしゃげる音。

 衝撃による爆風で花弁が舞う。

 確かな手応えがあった。

 

 しかし。

 

「──先ほど、気概だけと言ったことは謝ろう。レディ……いや、魔法少女。その強さ、そして小生に敗れてなお肉弾戦を挑んだ勇気。賞賛に値する」

 

 それでも、ショーツ・S・ブルースはほんの少しのふらつきもなく、堂々とそこに立っていた。

 ショーツ・S・ブルースの強度に耐えられなかった竹箒が、粉々に砕け散る。

 

「だが、それでは小生には勝てない。……悲しいな。小生が小生であり、魔法少女が魔法少女である限り……小生の固有能力が、小生の勝利を定める」

 

 素早くバックステップで距離を取るが……ちぃ、安全圏に退避できた感覚がない。

 いや、固有能力を使うショーツ・S・ブルースに安全圏などないか。

 

「小生の生まれた意味を果たす。小生の内から湧き上がる激情が! 嘆きが! 悲願が!! 小生をおぱんちゅへと渇望させる!!」

 

 ショーツ・S・ブルースの雰囲気が、変わる。

 今までは遊びだったと言わんばかりの、本気の圧。

 命をとりにくると思わせるだけの、気迫が、痛いぐらいに肌に伝わる。

 

「その可憐なおぱんちゅをコレクションし、おぱんちゅを求める物に与えよう。それが、小生に与えられたオリジン。小生が望む生! ──我ら、春を灰塵せし。第二ラウンドだ、魔法少女」

 

 ブワッ!! と、全身に立つ鳥肌。

 や、ば、これ──来る!!! 

 

「ぅ、ァァァァァアアッ!?」

 

 思考を行動が追い越した。

 来ると直感した瞬間のバク転。

 直後、先ほどまで立っていた、丁度腰があってショーツを穿いていた位置に、抉り込むようにアッパーを放つショーツ・S・ブルースの右手が空を切る。

 ショーツを掴み損ねた右手が空気を掴み、それだけで発生した衝撃波が俺の体を叩いて吹き飛ばした。

 

「……避けられた、だと?」

 

 くそ、冗談が過ぎるぞ!! 

 明らかにスピードが上がってる!! 

 ヤロウ、昨日の戦いでも本気じゃなかったな!? 

 

 このままショーツ・S・ブルースに肉薄を許すのは不味い! 

 自分の戦闘経験値を信じないわけじゃないけど、このまま格闘戦を続ければ確実に戦闘不能にされてショーツを剥がれる! 

 

「ッ、竹箒!!」

 

 竹箒に捕まり、亜音速に迫る勢いで飛翔する。

 幾何学に飛び回り狙いを定めさせないにするしかない。

 あまりのスピードに俺の視界もかなり悪くなる。でも、ショーツ・S・ブルースの位置はオーラで分かる。

 どこまで効くかびみょいけど、魔法を遠距離から打ち込んで、とにかくあいつを近寄らせないように……って、いぃ!!? 

 

「魔法少女のおぱんちゅぅうううううううううう!!!!」

 

 驚いたように立っていたショーツ・S・ブルースの姿が掻き消える。

 刹那、耳を塞ぎたくなるような絶叫が眼前に。

 0から1。

 完全な静止状態から、影すら掴ませないトップスピードへ移行するのにゼロコンマ1秒もない!! 

 

「おぱんちゅおぱんちゅおぱんちゅ!!! ふぅぅぅ!!! くんかくんかすーはすーはああああああああああ!!! イズナたんイズナたん!! おぱんちゅ見せて!!!!」

 

 俺の竹箒の推進力より圧倒的に速い。

 ふざけたショーツ・S・ブルースの速度に大気が押し出され、パン! と弾けるようなソニックムーブが連続して炸裂音をかき鳴らす。

 真に強者として世界に君臨する生物は、ただ移動するだけで甚大な破壊を成す。

 

 幾何学模様を描くようにジグザグに、鋭角に急旋回しながらショーツ・S・ブルースの猛追をかわす、が……これもたない! 

 自転車で車と追いかけっこしてるようなものだ。逃げ切れるわけがない! 

 てか怖い! 

 奇声を上げながら自分のショーツを狙う変態が背後に迫ってる状況、なんか女の子として根源的な恐怖がある!!! 

 

「きゃああああああああああああ!?」

 

 このままじゃ捕まる! 

 何とかするしかない! 

 でも……! 

 あれを……やるの? 

 でもそれやったら色々と失うものが……多いというか……! 

 

「吸わせて! おぱんちゅ吸わせて!!!!」

 

「ショーツを吸うってなんですか!?」

 

 フッ、と吐き出されたショーツ・S・ブルースの息。

 それが、大砲と遜色ない密度と威力を持って竹箒に被弾、粉砕する。

 

 ふざけんなよ……!? 魔法を紙みたいに簡単に引き裂きさいて……! 

 いや、悪態をついてる場合じゃない! 

 竹箒の制動力をなくしたら上手く飛べない! 

 竹箒の再生──だめだ間に合わない! 

 ショーツ・S・ブルースの攻撃の方が速い!! 

 それを防ぐ手段……ああああああああもう!! ないんだよなぁ!!!! 

 

「おぱんちゅぅぅううううううううううっ!!!!!」

 

 うおおおおおおおおおお覚悟を決めろ! 覚悟を決めろ俺!!! 

 命と尊厳どっちが大事だ!? 

 どっちも大事だけど!! 

 命がないと尊厳すら守れないだろ、腹を括れイズナ!! 

 

 それに、あいつを今ここで倒さないと!! 

 この先で流れる涙があると知って、お前は死ねるのか! 

 

「もう──ヤケクソですぅううううううう!!!!!」

 

 一瞬の光に包まれる体。

 次の瞬間、音速で突っ込んできたショーツ・S・ブルースと激突する。

 振るわれた腕と迎え撃つ拳。

 両者のぶつかり合いによって大気が哭き、地が抉れ、花が舞い上がる。

 

「ぐ、ああァッ!?」

 

 そして、競り勝った俺の拳がショーツ・S・ブルースの頬を貫き、吹き飛ばした。

 

「な、何が……おこった!? く、魔法少女……!」

 

 驚愕を顕にするショーツ・S・ブルースの視線の先。

 そこには、

 

「ど、どんなもんですか。こ、こここれが、魔法少女の力です……!!!」

 

 ……顔を真っ赤にした俺がいるんだろうね、たぶん。

 いや、自分の顔見れないから知らんけど。

 

「何かの間違いだ。小生の固有能力が破れるなど……! 小生のルールが通じないはずが……!!」

 

 ショーツ・S・ブルースが動く。

 だが……あまりにも、遅い。

 姿を捉えることすら困難だったあの超スピードが、今はもう見る影もない。

 

「そこです!!」

 

「なんだと!?」

 

 完璧に捉えたローキックがショーツ・S・ブルースを打ち据える。

 確かな手応えを感じた。

 確実に腹に入った。

 その威力にショーツ・S・ブルースはお腹を抑え、荒い息を吐いている。

 

 出力全開の魔法力を乗せた槌竹箒を食らって平然としていた防御力が、跡形もない。

 

「小生の固有能力が効果を発揮していない……!? き、貴様、まさか……!!」

 

 へっ。

 流石に勘付くか。

 

 捉えられないはずのスピードを捉えた。

 与えられないはずのダメージを与えた。

 

 それは、ショーツ・S・ブルースが世界に書き加えていた"ルール外"の行動をしているからに他ならない。

 

 そう。

 ショーツ・S・ブルースは、"特定条件下でのみ、自身の行動が成功する"という固有能力を発動させていた。

 

 その固有能力とは! 

 

「戦闘の最中におぱんちゅを脱いだか、魔法少女……!!! この痴女め! 恥じらいはないのか!」

 

「流石にキレますよ!!!?!!!??!?」

 

 お前の固有能力のせいなんだよ!!!! 

 

 即ち、"女の子のパンツを見る、または脱がすという目的を持って行動する限り、そのアクションを妨害できない"能力。

 

 だから、パンツを見るために目にも止まらぬ速度で動けた。

 だから、パンツを脱がすために妨害する俺の魔法力を圧倒するパワーがあった。

 

 これがショーツ・S・ブルースの理不尽の正体。

 パンツを穿く相手には必ず勝てる能力。

 魔法少女にとっては、無条件で相性勝ちできる存在だ。

 いやノーパンの魔法少女とかおったら知らんけどね? 

 でも普通いないから。ノーパンの魔法少女。

 今の俺はノーパンなんだけど……うわ……恥ずかしすぎて死にそう……。

 

「小生の能力はおぱんちゅのためのもの……! ノーパンの痴女には能力が発動しない……!! さては、あの光に包まれた時におぱんちゅを脱いだな!!」

 

「解説しないでくださいぶっ殺しますよ!?」

 

 あああああああああああああもおおおおおおおおおお!!! 

 

 えーい! もうどうなってもいいやー! 

 

「カメラオン! SNSで告知! 準備OK!」

 

 あはははは! 

 ノーパンで戦うところ配信とか意味分かんないけど! 

 恥ずかしさで頭どうにかなってるなって、頭の冷静な部分が言ってるけど! 

 

 でも、こいつは被害を出しすぎた。

 こいつに恐怖を与えられた少女たちは、ずっとこいつに怯えて生きていく。

 それを防ぐためには、魔法少女がショーツ・S・ブルースを確実に倒したっていう、何よりも分かりやすい証拠がいる。

 

 というのが建前。

 

 あんだけ痛めつけられて辛酸を舐めさせられてるのに稼ぎが0なんかやってられるか!!!! 

 固有能力さえ破れば雑魚だからよ──!! 

 もう勝ち確! こっから負けはない!!! 

 たっぷり稼いでしばらくおやつをリッチにさせてもらわないと俺の気が済まない!!!! 

 おらあ!!! 

 しっかり俺に金を運んでくれよ!!!! 

 

 

 

『お、始まった』

 

『灰春怪人出たのに告知ないから心配してたよイズナん』

 

『やれ────!!! ぶっ殺せ────ー!!!』

 

『血管切れやすそうなニキがいるな』

 

 

 

 ああ、キタキタ。

 やっぱ、戦いはこうじゃないと調子が出ないよね。

 

 

 

『始まったー! あれ、終わりかけ?』

 

『灰春怪人もうやられかけで草』

 

『あれ、こいつ昨日暴れてたやつじゃん』

 

 

 

 俺は、配信魔法少女。

 灰春怪人との戦いを配信して金を稼ぐ、正義の風上にも置けない人間だ。

 きっと、小さい頃に憧れたヒーローたちが今の俺を見ると、失望させてしまうだろう。

 

 でも、それが俺の選んだ道。

 

「やあやあ、皆さんこんにちは! ちょっと色々あって遅れちゃいましたけど、今から魔法少女配信、始めたいと思います!」

 

 行くぜ、ショーツ・S・ブルース。

 第二ラウンドは終わりだ。

 こっからは俺のステージ。

 お前の負けを。そして、俺の勝ちを晒して金に変えてやる。

 

 第三ラウンドだ。

 

「それじゃあタイトルコール! 魔法少女配信〜〜、ちんからほい!」

 

 

 

『ちんからほい!』

 

『ちんからほいっ』

 

『ちんほ』

 

『最低の略し方するな』

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