気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜   作:二三一〇

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 説明回ですね。少し長めです。


09 すぱしーばへ出社する

 都内某所にあるオフィスビル。

 その前に立つ俺は、にわかに緊張していた。

 

「おい、ここで間違いないのか?」

『すぱしーばのロゴが……ほら、あるでしょう?』

 

 確かにある。十八階建てのビルの中層階に『すぱしーば』とひらがなで書かれたパネルが鎮座しているので間違いはない。

 

「本当にぶち上げてたんだなぁ……」

 

 中に入り、受付のお姉さんに取り次いでもらう。ロビーのふかふか過ぎるソファーに座って待っていると、声をかけられた。

 

 

「殿田暦さまですか? 初めまして、フェティダと申します」

「あ……はい。こちらこそ、初めまして」

 

 ジャケットの内ポケットの名刺入れを出そうとして、ジャケットを着てない事を思い出す。慌ててスカートのポケットから取り出して交換する。

 

「凛々しいですね」

「褒められるとは思いませんでした。ただの老けたおっさんですよ?」

 

 くすりと笑う彼女は、欧風な美女だ。髪は金髪でボブヘア、理知的な容姿でありオフィススーツもしっかり着こなしている。

 まあ、こんな娘がおっさんの写真付きの名刺を渡すとか、笑うのは間違いないな。

 

「こちら、社員証となります。正式な物はこれから作るのでとりあえずゲスト用です。当然ご存知でしょうが、来社する際は提示が必要になります。紛失されたらすぐにご連絡下さいね」

 

 この辺は会社づとめの常識。ループを首にかけて、フェティダ氏の後に続く。

 

 

 エレベータで目的階に着くと、俺はしばし言葉を失った。

 

 まるでフォンタジー世界の王宮のような造りに圧倒されたのだ。壁は上品な白亜と、精緻な彫刻によって整えられている。床には赤く毛の長い絨毯が敷かれていて、正面に置かれた台に鎮座する花瓶には大量の花が活けられている。

 

「おお……」

「向こうの控えの間をイメージして造らせました。こちらへどうぞ」

 

 フェティダ氏に導かれて部屋の奥へ向かう。扉じゃなくてカーテンというのがなんともお洒落だが、セキュリティ的にはどうなのかな?

 

 

 

「「こよみ様。すぱしーばへようこそっ」」

 

 おう?

 何やら大合唱で迎えられた。

 なんだかすごい人数が並んでいた。

 百人近くいないか?

 しかも一斉に拍手ときた。度肝抜かれる。

 

「あ、あの? なに、これ?」

「こよみ様のご出社を、すぱしーば一同で出迎えました。これにあるは貴方の覇道を推進させるために尽力してゆくスタッフ達であります」

 

 ズラリと並ぶ、スーツ姿の社員たち。よく見ると黒髪の人間は一人もいない。それどころか、この世界には有り得ない髪の色をした人もいる。なんだよ真っ青な髪って。

 しかもどいつも美人か、美男子、美丈夫といった言葉が当てはまるような奴らだ。

 正直言えば、コイツらがデビューした方が稼げると思う。

 

「はい、では皆さん業務に戻って下さい」

 

 パンパンとフェティダ氏が手を叩くと、彼らは蜘蛛の子を散らすように居なくなった。正確には各々のデスクに付いたり、別の部屋に行ったりしているのだが。

 

「あの……フェティダさんはひょっとして」

「すぱしーばの代表取締役を務めさせて頂いております。こちらへどうぞ」

 

 俺は少し狭い部屋に誘導された。

 中には二人の女性スタッフがいる。

 リクルートスーツが初々しい感じがするのは、二人の顔立ちがまだ幼いからだ。ぱっと見、まだ高校生くらいにしか見えない。

 

「あとは宜しくね、プリムラ、ダマスケナ」

「「はい、お任せ下さい。フェティダ様」」

「では、後ほど」

 

 フェティダ氏は会釈をして立ち去った。

 

 と、二人から声がかけられる。

 

「では、お召し物をお預かりします」

「は?」

 

 二人がいきなり俺の服に手をかけて脱がそうとする。

 

「え、あ、ちょっと待てぇっ!」

 

 俺が手を振り解くと、二人はビックリしたような表情でこちらを見ている。驚くのはこっちだよ。

 

「なに、なに? ここは美人局でもやってるのか? 金なら無いぞ!」

『そうじゃないわよ、こよみさん! 服、脱がないと分離した時に破けちゃうでしょ?』

 

 はあ? 何故そうなるのか。

 

「だって、ここで分離したら不味くない? 俺、消えちまうんじゃないの?」

『ここも結界の張られているエリアだから平気ですよぅ。そんなわけで、抵抗しないで下さいね♪』

 

 あ、はぁ……それを早く言ってくれよ。

 その言葉を合図にしたように、女性二人が躙りよってきた。

 

「じ、自分で脱ぐから。出てってくれないか?」

「お手伝い、いらない?」

「……? でしたら、こちらにお召替え下さい。ダマスケナ、いきましょう」

「はい、お姉さま」

 

 俺に男物の一式を手渡し、しずしずと退出するお二人。てか、姉妹だったんね。

 

 外国人らしく、プリムラは淡い金髪、ダマスケナはピンクに近い髪の色をしていて二人とも片方のお団子(シニヨン)で纏めている。

 プリムラは右、ダマスケナは左に纏めていた。

 

 姉妹と言うより双子の方が正しいかもしれないな。

 

 

 

 そんな次第なので、服を脱いでゆく。

 

 なんで素直に応じているかというと、実は先ほどアイリスが言ったのは実際にあったからだ。

 

 天使ちゃんこと、みなとさんに選んでもらった一番目のコーディネートが不用意な分離によって犠牲になっていたのだ。

 

 伸縮性の高いパンツだけは残ったけど、キュロットスカートもTシャツも、ブラも一切合切千切れ飛んだのである。

 

 HKのような状態になっているのを、アイリスがのたうち回りながらスマホの写真を撮っていた。

 当然、後で消去したが。

 誰得な写真じゃないか。

 

 そんなわけで、今日の服装は二番目の森ガール風だったのだが……まさか家以外で脱ぐ事になろうとは。

 

 ぞろっとしたワンピースを脱いで、肌着のみになった姿が鏡に映る。

 

『……綺麗ですよ、こよみさん』

「お前な……この姿は、お前の趣味なんだろ? 俺を褒めてどうする?」

『……そうでしたね。でも、いいじゃないですか〜』

 

 確かに、一瞬目を奪われた。

 

 ほっそりとした肩から緩やかな双丘、細すぎておれんばかりの腰になだらかながらきちんと主張するお尻のライン。さらさらと流れる黒髪は、何もしてないのに艷やかだ。

 

 思春期入りたて特有の危うい可憐さと美しさの絶妙なバランスに、僅かながらに興奮を覚える。というか、この説明、めっさオッサンくさいなぁ……

 

『いちいち視線を逸らして脱ぐの、面倒くさくありません?』

「言いたい事は分かるのだが、それだけは勘弁してくだせぇ……」

 

 下着姿でこの状態なのだ。

 この上、一糸纏わぬ姿など見ようものなら、今日の夢に出てきそうで怖い。もちろん性的な意味の。

 

「なぁ。魔法なんだから服とかいっぺんに変身できないのか?」

『この術を構築する時には思い至りませんでしたし、余分に魔力を消費しますよ。具体的には登録者数がさらに二十万ほど』

「……仕方ねえなぁ……」

 

 目を瞑って、最後の一枚を脱ぐ。

 それを図っていたアイリスが分離する。

 

『おっと、失礼(〃∇〃)』

 

 くるりと背を向ける宙に浮かんだお花……シュールだ。

 渡された服を着ていくと、誂えたかのようにピッタリだった。俺のスーツよりも格段高そうで、お値段を聞くのがわりと怖い。

 

「宜しいでしょうか?」

『どうぞ、おいでませプリムラちゃん、ダマスケナちゃん♪』

 

 部屋の外から二人の声がかけられ、アイリスが応じる。

 

「「……!」」

 

 ん? なんかヤバかった? なんで固まってるのこの子達。

 アイリスがふわーっと浮かんで葉っぱで目の前をさっさと動かすと、ようやく気がついたようだ。

 

「「し、失礼しました」」

 

 いや、別に気にはしてないけど。とりあえず脱いだ服を纏めて持ってきていたトートバッグに入れておく。帰りにはこれに着替えねばならないからな。

 

「では、参りましょう。こよみ様」

「フェティダ様がお待ちです」

 

 お、おう。

 なんかさっきからナチュラルに様付で呼ばれてるけど、なにこれ。

 意味の分からなさが天元突破してるのだが、ここはアウェイなのでドナドナされるに任せる。

 

 

 

「まあ、よくお似合いでございます」

「あ、ああ。ありがとう?」

 

 応接室にはフェティダ氏がいた。テーブルに置かれたティーポットからは良い香りがする。なんだか別世界に来てしまったかのようだ。

 ふと、窓の外を見て家と同じ異空間にいるんだと気が付いた。……別世界ではあるのか。

 

「お久しぶりです、アイリス様」

『畏まらないで。それに私は博士ですよ?』

「そうでしたね、失礼しました」

 

 そんな会話をしている一人と、お花。

 俺は気になったので聞いてみた。

 

「アイリスと同郷の方……ですか?」

「はい、そうですわ」

 

 ほんわりと微笑む美女に思わず頬が赤らむのを抑えられない。

 

「アイリスと同じような容姿かと思いまして」

「ああ、そうでしたね。今の私どもは擬態している状態なので」

『合体している状態、と言えば分かるわよね?』

「なるほど」

 

 つまり皆さんもやっぱりお花なんですね……少しがっかりしたのは内緒だ。

 

「今日はご足労頂きありがとうございました、暦様。今回のプロジェクトに関わるスタッフ一同の士気を上げるために必要でしたので」

「……イマイチ、よく分かりませんが?」

 

 率直に言うと、こんな事に割く人数多すぎな気がするし。彼女は言葉を続ける。

 

「アイリス博士の研究をサポートするのが私達の任務です。その対象たる暦様を知らずにいては、私どもも十全とサポートは出来ないと考えた次第です」

「……なるほど。確かによく知らない相手と仕事をするのは厄介ですからね。お考えは分かりました」

 

 実際、コミュニケーションの取れない相手との仕事はかなり難易度が高くなる。接待などを行うのも、そうした意味合いがあるからやるのだ。ただ単に酒を飲む為の席じゃない。あれだってちゃんと仕事の側面はあるのだ。

 

「付きましては、今後の方針を打ち合わせしたいと思います」

『あー、そう言えば。こよみさん、あの件は聞かなくていいんですか?』

「ん? ああ、そうだな」

「どうかなさいましたか?」

「いえ、実は……」

 

 昨日の配信でコラボの申請があったと伝えると、彼女はメモを見ながら確認した。

 

「ええ、ありました。あるてま所属のVtuber様からの申請ですね。こちらでは特に制限はしていないので暦様にご連絡していただければ、とお話しましたが」

「その場合はすぱしーば側で一旦止めておいて、こちらにDisRoadで伝えて下さい。マシュマロ経由とか読まれなければ分からないし、危うく画面に出しそうになったし……先方にも迷惑をかけてしまいます」

「そ、そうでしたね。分かりました、そのような手順を取りましょう」

「連絡の齟齬は後々大事にも成りかねません。常識が違うかもしれませんが、覚えていってください」

 

 こんな会社を作って運営しているのだから、この程度の事は理解しているだろう。世界が違っても、人間やることはあまり変わらない筈だ。

 ……あ、お花だっけ。コイツラ……。

 色々常識が無いのも仕方ないか。

 

「今回はこちらで連絡します。日程は後日報せますので」

「分かりました。アイリス様、よろしいですね?」

『うん、問題ないよ〜』

 

 まあ、コラボ内容とかは相手と相談という事になるけど……正直言うと初手にあの人というのは些か抵抗があるなぁ。

 

 話してみて分かったのだけど、意外と気のおけない会話が好きなのかしれない。なら、こちらも堅苦しくないようにした方がいいかもな。

 

「それでは、こちらからの今後の方針についてお話があります。暦様にはこれよりしばらくの間、レッスンを受けて頂くことになります」

「レッスン……レッスン?」

 

 むむ、アレか?

 ダンスとかボイトレとか基礎トレーニングとか。

 最近あまりジムに通えなかったから、少し体力が落ちてるかもしれないんだよな。いい機会かもしれない。

 

「それは、毎日ッスか?」

「そうですね。フィジカルなものと座学その他の講座を交互に、日曜日は休養日に当てます。時間は午前に二時間、午後二時間といった具合で考えています」

 

 ふむ……時間の短い学校の様なものか。

 ちょうど仕事が無い状況なのだ。昼の日中に家でゴロゴロするのもたまにはいいけど、ルーティンワークがないと暇を持て余す。

 

 と、ここで大事な事を思い出した。

 

「あの、俺、出向って事でロシアに行ったらしいですが、マジですか?」

 

 それについてフェティダさんは丁寧に謝罪してきた。

 

「勝手な真似をして申し訳ありませんでした。事態が緊急を要した為、工作員にやらせました。現在、向こうの本社ではその工作員が暦さんとして従事しておりますが、問題が解決した折には速やかに撤収させる手筈になっております」

「……そんな、簡単に出来るものなんスかね?」

「人事や役員などの心理は掌握済みです。もちろん魔法によってです」

「あ、はあ……なるほど」

 

 便利だなぁ、魔法。

 それ使えばチャンネル登録者数百万なんて簡単に集められそうなんだけど。

 まあ、数が多すぎるのかもな。

 

「それでは、現場復帰に問題はないと見ておK?」

「おそらくは……ですが、情勢によって変わってしまうかもしれないので確約は出来ません。こちらも全ての事態を想定してはおりませんので。ですが、不便のないように便宜は図らせて頂く所存です」

「ほぼ事後報告だけど、選択の余地が無いのなら仕方ないッスね。そのまま消えるのを何とかしてくれるっていうのに、これ以上望むのはバチが当たるってモンでしょ」

 

 そう語ると、フェティダ氏は不安げに問うてきた。

 

「あの……私が言うのもなんですが、お信じになるのでしょうか?」

 

 ああ。そこが気になったのか。

 俺は出された紅茶に口をつけてから答える。

 

「騙すつもりなら、もっと狡猾なやり方があるっスよね。魔法、ですか? そんな便利なものがあるなら俺に疑問の余地も無いようにするだろうし、態々(わざわざ)説明する必要がない」

 

 フェティダ氏やアイリスの事を全面的に信じたわけではないが、少なくとも誠意は感じた。

 ならばそれに応えるくらいはしないとこちらも格好がつかない。

 ただそれだけの事だ。

 

「ここまでの事をする訳だから、信頼してもいいかな、と考えた訳ッスよ」

「ありがとうございます、暦様。その信頼に応えられますよう、誠心誠意お仕え致します」

「いや、そんな畏まらんでも。主君じゃあるまいし(笑)」

 

 そう言うと、彼女は困ったような表情をした。ん? なんで?

 

『そんな事より、あの事伝えた方がいいんじゃないの、フェティダ?』

「そ、そうでしたね。二人とも、おいでなさい」

「「はい、フェティダ様」」

 

 

 彼女の声に、応接室へ入ってきたのは先ほどの二人だ。俺たちの前に立ち、すっと会釈をする。

 

「プリムラと、ダマスケナです。身の周りのお世話をさせますので、何なりとご命令なさって下さい」

 

 その言葉に二人は胸に手を当ててお辞儀をする。

 

「プリムラと申します。旦那様」

「ダマスケナと申します。今後とも宜しくです」

「あ、はい……どうも。え、なに? なんで?」

 

 彼女の言った言葉が、文字通りの意味だった事を知るのは、もう少し後だった。

 

 

 





 新キャラのモデルはラ○とレ○です……隠れてないな、コレ(笑)
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