気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
原作無視とは言えませんが、曲解してるなとの自覚はあります(笑)
「え? ウチに来るの?」
「「はい、旦那様」」
すぱしーばでの会合を終えて帰宅する時に、あの姉妹がついて来るのが見えた。
何か用なのかと聞いたら、そう答えられたのだ。わけわかめ。
「いや、ウチ狭いぞ? 女の子二人も入ると」
「狭くても平気です」
「お姉さまと一緒ならどこでも。お泊りの用意も万全ですよ?」
「はっ?」
え、なに。コイツらウチに泊まるつもりなの?
「いやいやいやいや、ちょっ、ちょっと待てよぉ? そういう訳にはイカンでしょ。男の部屋に来るなんてそんなのダメ、だめです、お父さん許しません!」
『こよみさん、少し落ち着いてください。周りの人が変な目で見てますよー?』
はっ
すぱしーばから出る時に、俺はまたアイリスと合体している。
つまり、今の俺はおっさんではなく可憐な少女だ。少なくとも見た目は。
つまり今のやり取りは、女の子が三人で会話しているという図式になる。
こほんと小さく咳払いをして、二人の腕の掴んでビルの谷間の路地へと向かう。路地といっても雑居ビルの立ち並ぶ街じゃないのでそれなりに幅はあるけど人通りは少ない。
「旦那様、少し痛い」
「こんな所でナニするんですかー?」
「ナニもせんわっ」
二人を解放したのは都会の真ん中にポツンとあった児童公園だ。ここなら多少大きな声で話しても迷惑にはならないだろう。
「んで……なんでお泊りなの?」
「身の周りのお世話を仰せつかりました」
「会社でのレッスンとかの時じゃないの、それ?」
「常にお側に侍りますよ、旦那様♪」
「ホントに文字通り身の回りの世話なのか……」
がくりと項垂れる、俺。
「いらん、帰れ」
「「え……?」」
その茫然とした表情はやめろよぉっ!
なんか俺が悪い事してる気になっちゃうだろ?
「いや、一人暮らし長いから要らん。むしろ邪魔」
「「がーん……」」
たぶん、今がーんという文字が頭に落ちてるんだろうな。
『さすがに同居ではないでしょ? 計画だと隣室を押さえたからそこから通うって話だけど』
「そうなのか?」
俺が聞くと彼女達は子首を傾げる。
……あ、アイリスの声は俺しか聞こえないんだっけ。仕方ないのでそのように問いかけると、淡い金髪の少女、プリムラが答えてくる。
「フェティダ様からそのように伺っております。速やかに転居手続きを致しませんと、暦様のお宅に厄介になる羽目になるやもしれません」
抑揚のない声で語るが、感情が無いわけではないようだ。そこへ薄いピンクの髪の少女が割って入る。
「私はそれでもいいよー? 寝る時もお側におりますので♪ きゃはっ」
こちらは妹のダマスケナ。会社にいた時は猫を被っていたらしく、楽しげに口元を綻ばしている。
「……帰れって言ったらどうなる?」
試しに聞いてみる。
「家具その他の生活必需品は既に引越し業者の手に委ねてあります。元の仮住まいも引き払っておりますので、いわゆる一つの路頭に迷うという状態かと」
用意周到なコイツらの事だから、退路を潰してくるとは思っていた。要領の良さそうなダマスケナは手を顎のそばで握ってうるうると涙ぐんでいたりする。これ、勝てないだろ。
「分かった……。引っ越すのがお隣なら、俺がとやかく言うのは筋違いだからなぁ」
「うわーい、こよみさまぁ、だぁーい好きっ!」
「うわーい」
抱きついてくる二人だが、コイツらの方が背が高いのでうっとおしい。うわっ、柔らかっ? ちょ、おっさんになんてことしてんの。
「お、落ち着けお前らっ 離せ、胸を押し付けるなっ」
「きゃーん、こよみちゃんも可愛いー♪」
「いいこ、いいこ」
「おお? 姉ちゃんたち、仲いいねぇ」
不意にかけられた、おっさんの声。もちろん、俺じゃないよ?
見ると、年の頃三十代後半、まさに俺と同年代っぽい野郎が三人いた。
尤も、年が近いくらいしか俺と被る要素は無い。
「どうだい、俺らと飲まない?」
「そんなナリなら大人だろ? あ、そっちの子は無理かぁ」
「みんな可愛いねぇ〜、おじさん奢っちゃうゾ?」
すでに二、三杯は引っ掛けているであろう三人組は、見るからにろくでもない質の人種に見えた。うへぇ、みっともない連中だなぁと少し引くと、プリムラが彼らとの間に立ち塞がった。
「旦那様が怖がっております。疾く立ち去りなさい、下郎共」
キッパリと言い切る。
一瞬、何を言われたか理解出来なかった連中だが、下郎呼ばわりされた事に気付くと腹を立てた。
「な、生意気な口ききやがって」
「こりゃあ、詫び入れてもらわんとなぁ」
「お前らも連帯責任だ、朝まで返さねえぞコラ」
口々に罵る連中。
ふと、俺にしがみつくダマスケナが震えているのに気が付いた。
よく見ればプリムラだって震えている。それなのに俺を庇って前に出たのだ。
そんなこと、頼んでないのに。
「……あー、しょうがないなぁ」
「だ、だんなさま?」
しがみつくダマスケナの手を解き、プリムラの前へと歩み出る。
「お、なんだ嬢ちゃん?」
「お前がお酌してくれんのか。子供の出る幕じゃねえよ」
「何なら別のマクを破ってやってもイイぜぇ?」
「うわ、アニキ、鬼畜ロリコンー」
「ぎゃはははっ」
何だかいいテンションになってるな、酒以外になんかキメてないだろうな?
「俺らは帰るとこだから邪魔しないでくれ」
そう言うと、目の前までつかつかと歩いていく。見上げると、少し首が痛い。身長差は三十センチ以上か、体重は倍近くあるかもな。
「おーっと、通せんぼ♪」
男の手が俺の肩に触れたので、俺は奴の顔を見てにっこりと笑う。
「触ったね?」
「へ? ひ、ひぎぃぃ?」
触った右手の手首を下から押さえ、捻る。掌の指がばらけたところで小指を左手で握り、上へ引く。痛みに身体が捩れたら右足の膝を踏むように蹴り、膝を突かせる。この間に右手を捻りあげて後ろ手にしてから手首を極める。
「ぐぎぎっ?」
「下手に動くと後遺症残るかもしれんからおとなしくしとけな」
大の大人に子供の体格でも、やり様によっては無力化出来る。平和な日本なればこその対処だけどね。外国だといきなりズドンとかもあるから、あんまりナメた真似は出来ない。
「な、何だこのガキ……」
「お、おい、アニキを離せ」
「いやー、離したらまた襲いかかって来るかもだしー」
ぐいっと捻る力を加えると、男の脂汗が一段と多くなる。手首ってかなり痛いからね。
「いだいだだ……は、離しやがれ」
「わー、こわーい」
全く思ってもいない事を言ってさらに少し力を込める。男が悲鳴に近い声を上げるので、そろそろやめておこう。これ以上はいけない。手を離して距離を取る。
「アニキっ」
「大丈夫かい?」
「いででで……」
やり合うつもりはないらしく、アニキとやらの介抱をする二人。まあ、好都合だ。このままバックレよう。
「さ、逃げるよ?」
「「は、はい」」
児童公園から足早に立ち去る俺たち。
やはり追いかけてはこないけど、なるべくここからは離れた方がいい。急いで地下鉄に乗り込むと、我が家を目指した。
電車に乗ったところで一息つけたので、二人に声をかけた。
「プリムラ、平気だったか?」
「も、問題ありません」
「私も平気だよー」
思った以上にヘタれていないのは良かった。
威圧されるだけでも引きずる奴は多いので、上出来と言える。
「旦那様、スゴイね。さすが」
「お守り出来ずに……すみません」
ダマスケナはあっけらかんとしているけど、プリムラの方は少ししょんぼりしていた。よく見ると性格がかなり違うようだ。
「お前たちは護衛じゃなくて身の周りの世話に来たんだろ? あんま気にすんなって」
プリムラの頭に手を置いて撫でてやる。
今は俺の方が小さいので違和感あるけど、プリムラは少し笑ってくれた。
頬を染めるその様は深窓のお嬢さんのようだ。
「お姉さまばっかりズルいっ 私もわたしもー」
「はいはい」
対抗するようにダマスケナがぐりぐりと頭を押し付けてくる。まるで『オレを撫でろっ、撫でるんだ』と迫る小型犬のようである。ぐじぐじ撫で回すと髪が乱れるのもお構いなしで喜んでいる。
電車の中でやる事ではないな。
そう思いながらも、震えていた彼女達を労う必要を感じたので、そのまま撫で続ける。周りの奇異な目に気付く余裕はなかった。
『んー、かわいいですね〜♪』
「……そうだな」
そう答えるのは、嫌ではなかった。
家に帰ると隣の綿貫さんちが居なくなってて、電力会社やガス会社の封筒がぶら下がっていた。どうやら本当にここに引っ越してくるらしい。
中には何も無いので、さすがにここに寝かせる訳にはいかないなと、こちらの部屋に入れることにした。
「俺は部屋いるから邪魔はするなよ?」
「はい、お料理はお任せを」
「ダマスケナは、お掃除するよ?」
「うるさいからダメだ。お前はちょっと買い物行ってきてくれ」
長財布を渡して適当に何か飲み物やお菓子を頼む。あ、そういや。
「お前たちって、幾つなの?」
「「二十歳です」」
何故かハモって答えられた。
「んじゃ、アルコールとかも買っていいぞ」
『んにゃ? こよみさんってば、また私を寝かすつもりですか?』
「飲まなきゃいいんだろ?」
『ま、まあその通りですが』
「了解でーす♪ ふんふふーん♫」
プリムラを台所、ダマスケナを買い物に出す事で静かな空間を作り出した俺は、おもむろにPCを起動させる。
あの女と話さなければならないからな。
俺はこの時、まだ甘く見ていたのだろう。
『おはよう、古詠未ちゃん』
「……あ、おはようございます? 姫乃古詠未です」
『アレ、テンション低いね。ボクはこんなに昂ぶっているのに!』
いきなり声、大きい。
というか、DisRordだとしても名乗るのが礼儀ではないのかな?
「あの、十六夜桜花さんで間違いありませんか?」
『はじめましてだなぁ。古詠未ちゃん』
「は、はあ……」
『ボクは十六夜桜花。キミの存在に心奪われた女さ!!!』
うおお。意味分かんねぇ……。
コイツなに言ってんの? バカなの?
てかそれ○ラハムさんじゃねぇか!
「あのですね、今回のコラボの……」
『こちらの申し出を受けて頂きありがとう。すぱしーばさんは妙な所だから近づくなと運営が言うけど、話してみれば全然普通に会話が出来るし。あるてまはなんであんな風に言うのか、理解に苦しむよ』
「はあ、それは……え? 今、なんと?」
何か聞き捨てならない言葉があった気がするのだが。
『あるてまが理解出来ないと言ったのだけど?』
「いや、その前……近づくなとか聞こえましたが」
『 ? 運営がキミに接触するなと言っていてね。個人VですらOKなのにオカシイよね?』
「それでは、運営に許可は取れたのですね?」
『ううん? キミとのコラボ許可が取れてからゴリ押ししようかなという作戦でね』
「ひえ……」
コイツ、やべぇ(笑)
無断の行動に、既成事実から事後承諾させようとしてやがる。横紙破りを平然とするその行動力は凄いが、社会人としては問題行動だぞ?
「それはどうかと思います、桜花さん」
『え?』
「まず、運営に一報入れてからこちらに連絡なさるのが筋ではないかと」
『アレ? ひょっとしてかなりマジメちゃんかな? イイねそういうのも』
「僕の事はともかく。こちらもあるてま様の方に連絡しますので、正式に許可を取った上でもう一度ご連絡致します」
『ええ〜? もう告知しちゃったのに』
「はあっ? ええっと、どんな内容で?」
『とりま雑談で。興が乗ったらゲームとかお歌とか混ぜてもいいかな、と♫』
……じ、自由にやり過ぎな気がする。
これがあるてまだと知ってはいたが、ならば何故ウチとの接触を禁じるのか……まあ、理解出来るけど。
それはさておき。
雑談はともかくとしても、ゲームとか歌とかを一緒にぶち込むのは初のコラボ相手とでは荷が勝ち過ぎませんかね?
「そ、それで予定は」
『今日の二十一時からだね』
……
「一度、切りますね」
『あ、ちょっ……』
プツン
あー、間違いなくやべぇ。
勢いだけで行動するタイプだ。
正直、振り回されるのは勘弁なのだけど。
初コラボでブッチとかやるのはさすがにマズイしなぁ。
黒猫さんがわりとぞんざいな扱いしてる理由が分かったわ。マジメに付き合うと振り回される。総じてあるてまのVtuberはその傾向が強いんだけど……そんな相手に警戒されるとか。
とりあえず、あるてまに連絡しよ……
十六夜桜花が愛が強すぎ。
そしてよく見ると。こよみさん、みんなに振り回されてますねw