気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
少々分かりづらいかもしれません。
「おはようございます、旦那様」
「朝だよー、起きて下さいませっ、だんな様ー」
ついぞ聞かない少女の声で目を覚ます。実家にいた頃は母が起こされる事もあったが、それと同列に並べるのは可哀想だろう。
「んー……いま、なんじ?」
「10時になります。さすがに起こすべきかと思いまして」
プリムラがそう答える。普段着にエプロンといった姿がよく似合っている。二十歳と言っていたけど童顔なので高校生くらいにしか見えない。
「だんな様、朝ご飯はダマスケナが作ったんだ! 食べて食べてっ」
こちらは俺の割烹着を拝借したダマスケナだが、行動やら言動が幼いせいか高校生すら疑わしく見える。
台所のテーブルにはすでに用意が出来ていた。俺の分しかないが、先に食べてくれていたのは助かる。
昨日の夕飯の肉野菜炒めと、ほうれん草の和え物と、味噌汁と……ほとんどプリムラが作ったのを並べただけで卵焼きがちょこんと申し訳程度に乗っかっているだけだ。
一品作っただけで自分が用意したと言い切るダマスケナは、イイ性格をしていると思う。
「卵焼き、作ったのか? なんでこんなサイズなん?」
「ちょっと失敗しちゃって。形崩れちゃったから」
照れ隠しに笑っているが、正直褒められない。油が足りないのか火を通りすぎて焦げが残っている。これでマシな所を渡したのなら、他の所は可食不能になっていたのだろう。
「お前らはもう食べたのか」
「はい、荷物が届きますので。アイリス様にもお願いして僭越ながら合体して頂いております。勝手をしてしまい、申し訳ありません」
プリムラの謝罪で気付いたけど、俺はいつの間にか合体していた。
「おい、アイリス。合体って俺の許可なくても出来るのか?」
『出来ますよ? 言いませんでしたっけ?』
……聞いてないよ。先に言えよ。
「まあ、いい。トイレ行くから戻せ」
寝てたので溜まっているのだ。
体が小さいせいか、女ゆえかは知らないがもう我慢できそうにない。
『無理ですよ?』
「は?」
『空と海の間の世界への結界は、切り替える度に二時間ほど感覚を空けないとダメなんです。このまま解除すると暦さん、消えちゃいますよ?』
「……ま、マジか。くっ」
話す間にも、すでにトイレには駆け込んでいる。
だが……果たして、そんな。いいのか?
でも、二時間我慢など到底無理な感じだ。スウェットの下を下げた所で躊躇う。
『我慢は毒ですよ? 経験上、感覚に大した差異はありませんので気にする事は無いですよ?』
「……う、くぅ……」
──
───
また一つ、やってはイケないことをしてしまった、気がした。
『もう慣れてもいいも思うんですが、無理ですか?』
「お花の感覚と違って、人間はデリケートでナイーブなの」
『……排尿プレイとか言ったら萌えます?』
「お前は少し恥じらいを持てっ!」
手を洗いながら、アホな脳内のお花に返事をする。
それはともかくウチのトイレ、ウォシュレット装備で良かった、うん。
トイレから出ると、二人が玄関から出ていくところが見える。表から人の声がするので引っ越し業者が来たのだろう。
手伝おうかと思ったが、今のこの身は中学生女子、いや発育がいい小学生にも負ける程度でしかない。体力勝負の引っ越し作業には役に立たないだろう。
それも織り込み済みらしく、女性スタッフなどもいるようだし、手を出す必要はなさそうだ。
「そんじゃ、食べてますか」
『プリムラのご飯は美味しかったわ』
それはつまり、この卵焼きはマズいと言ってるのかな?
……うん、努力が必要だな、かなり。
それと違ってプリムラの作った料理はどれも及第点を超えてくる。この味噌汁とか、何これという感じだ。自分でもここまでの味噌汁は作れた事がないので、素直に感心した。これなら毎日でも食べられる。
少し重めの朝食に舌鼓を打っているとアイリスが声をかけてきた。
『フェティダから、今日はレッスンは無いから二人の面倒をお願いしますって』
「ま、しゃあないか」
見るからに外国人の二人が日本の街で買い物とか不便すぎる。でも、生活雑貨とかならなんとでもなるけど、女の子特有の物とかはさっぱりだ。
どうしたものか。
『おはよう。連絡がないから、忘れたのかと思った』
『う、そ。まだ一週間も経ってないでしょ?』
『今日?』
『……話し言葉は砕けてるのに、チャットだと丁寧なんだね』
『んーと、君って人見知りとかする? 私、今日友達と会う予定で、その子と一緒ならありがたいんだけど。当然、女の子だよ?』
『カタイなぁー、ギャップがあって面白いけど』
『んーん、特には。でも、二の三で五人か。こっちの指定した場所でもいい?』
『おっけ。待ち合わせは十四時に、駅前ね』
『カタイって。お仕事の連絡みたいだよ?』
『ま、いいか。それじゃ、後で。今日は二番目で来てね?』
あの子から連絡があってからすぐに彼女に電話をすると、彼女は即答で了承した。喰い気味の返事に、少し引いたけど。
『黒猫だけでなく古詠未にまで手を出してたなんて、相変わらず年下キラーママですわね』
「キラーでもママでもないわ。ただ単にほっとけなかっただけなんだから。それより絶対その言葉、配信で使わないでよね」
リスナーのみんなには見ててくれて嬉しいし、感謝もしてる。でも、困る事も多い。
まだ恋愛も結婚もしてないのにママとか言われても、戸惑うばかりである。
別に嫌とかではない、けど。それとこれとは違う話なのだ。
「それで、予約はおっけ?」
『ええ、今じいやに連絡させてますわ。庶民派の枠内での当日予約はなかなか難しいですが。いざとなればお金でなんとかなるっ!』
「キャラのセリフを言うのはヤメテ。最近混ざりすぎよ?」
『意外とストレス解消にいいのよ。思った事が言えるっていい環境よね』
「あんまり言い過ぎると周りに迷惑かかるからね」
『はいはい。心配性なママねぇ』
「ママじゃないし!」
ともあれ、食事の算段は整った。
後は、着ていく服だけど……今日はなににしようか、少し迷う。
今宵と会うときはなるべく露出少なめにしてるけど、あの子ならどうかな? シャイな感じだからフェミニン系とかが良いかも。
あれこれ悩むと時間なんてあっという間だ。いつものように彼女が車でやって来ると駅前までもあっという間だ。時間ギリギリまで悩めるなんてとても贅沢な話である。
「じいやさん、ありがとうございました」
白い外車の助手席に座る女性に、私はそう声をかける。妙齢の外国人であり、少なくとも私が彼女と知り合った時からいた近侍の人だ。
ちなみにジーヤというのが本来の発音だが、彼女の呼び名が移ってしまっているので直せないでいる。ジーヤさん自身は全く気にしてない様子である。柔らかく微笑み、私に返事をする。
「いえ、大した事はありません。お嬢様、ご帰宅の際はご一報下さいね」
「子供ではありませんですわよ?」
「子供はいつもそう言いますので。湊様も宜しくお願いします」
彼女にとっては、いつまでもお嬢様らしい。
車が走り出すと、彼女はつまらなそうにため息をする。
そのお嬢様は、今日は桃色のノースリーブワンピースに薄手のロングジレといった装いだ。惜しげもなく肩を出して、日焼け対策は完璧なのだろう。
対して私はライトブルーのトップスにミントのワイドパンツ。七分丈のブラウスに緩く巻いたスカーフをあしらっている。ゆったりとしたワイドパンツはシルエットで見ればスカートなので、意外といい感じに纏まったと思う。
「どうせその辺で監視してるのだから態々言わなくてもいいでしょうに」
「まあまあ。じいやさんも心配なんでしょ?」
じいやさん達の調べによると。
不明な点が多過ぎるためにすぱしーばとの接触は止めるべきだと言われたようで、それをまだ怒っているようなのだ。
その隙を桜花に掠め取られた事が腹に据えかねたとか。少々自信過剰と言われても反論できない。
先に手を出せば手に入るわけではないと思う。あくまで仮の『お姉さま』なわけだし。
それにあの子は誰の所有物でもない。
私なんかが言わなくても分かっているかもしれないから、敢えては言わない。プライドの高い彼女に過ぎた干渉は良い結果にならないし、それが彼女らしいとも思えるから。
待ち合わせの場所までは少し歩く。
外車で横付けとか引かせてしまうだろうし。
「そういえば、つぶやいたーのトレンド。見た?」
「え? 今日は見てないな」
「
「うそ……あの配信だけで?」
「そちらはどうも後付ですわね」
チャッチャッと、スマホを動かしこちらに見せてくる。そこに上がっていたのは。
「……これ」
「そうね。例の切り抜きよりも鮮明で、動画で声まで入ってる」
電車の中らしいが、少し年上の外国人の子達とじゃれ合う姿がそこには映されていた。
自然と顔が綻ぶような、他愛のないその動画の再生数はなんと十万に届きそうな勢いだった。
こよみそのものも目を惹くのだけど。
周りの二人は双子のようで、その顔立ちもかなり可愛かったりする。
これはバズるのは仕方ないなぁとぼんやり考えていたら、何かがはまる音がした。
「……二人?」
「ちょっ……どうなさったの? 湊さん」
いきなり走り出したのは悪いけど、場所は知ってるだろう。それより今の状況はマズい。
「……なんか、こっち見てるの多いな」
「だんな様が可愛いからだよっ?」
「だんな様はやめい……」
「では、お嬢様」
「むず痒いよ、それ。名前でいいだろ」
「では、こよみ様で」
「んー、それもどうかなと、思うけどな」
駅前の指定の場所は、前衛芸術のモニュメントのある広場である。
『世界の平和を願う』などと御大層な表題が付いてるけど、地元の人間の呼び名は専ら『鳩の像』『ハトの前』だ。
待ち合わせに便利なので、休日にはカップルや若人達が
この年になってここで待ち合わせとかと思ったが、今の見た目なら浮く事はないだろう。
プリムラとダマスケナを連れて20分前には着いていたのだが、それからしばらくして広場は人だかりになっていた。やっぱり午後になると人が多いな。
気のせいかもしれないけど、こちらを見ているような素振りの人間も多い。自意識過剰かな?
そこへ、走ってくるお姉さんが見えた。
? なんで走ってるん?
俺は手を振って声をかける。
「お姉さーん♪」
ザワッ
あの子の声が高らかに響き渡る。
雑踏の中なのに憎らしいほど良く通る。
注目を集めるには十分すぎるけど、もう躊躇はしてられない。急いで彼女の腕を取り、周りの二人にも声をかける。
「走って! 逃げるわよ!」
「へ?」
「かけっこ?」
「了承しました」
周りの二人は理解が早く、私達についてくる。
分かってないのはこの子だけだ。
「お、お姉さん? な、なに?」
「周りにバレてるわよっ」
『おい、間違いないぞ?』
『姫乃古詠未の中の人か』
『あの動画の子だよね?』
『うわぁ、かわいいなぁ〜』
来た方に戻ると姫穣さんが走ってくるのが見える。
「どうなさったの、て、こよみちゃんではないですか?」
「呑気な事言ってないで走って! 巻き添え食らうわよ?」
「へ?」
後ろからちらほらと追っかけてくる人達が見える。
逃げれば追うものだと人は言うけど、こういう状況だと開き直るのも難しい。
とりあえず一般の人が雪崩れ込まないエリアに逃げ込む必要がありそうだった。
駅前のモールは諦めて、神代家の出資するホテルに駆け込む事でようやく人心地がついた。
まだ暑い時期なので、みんな汗だくだ。
支配人に一言二言でスイートルームを押さえるとか、いつもの非常識ぶりなので驚きはしない。どちらかというと呆れるばかりだ。
それにこういう状況だと、素直にありがたい。
さすがに高級ホテルに押し寄せる事は出来ずにいるようで、彼らも三々五々といった感じに解散していく。
そもそも突発的な事なのでそこまで執着する人も少ないのだろう。しばらくしたら出られると思う。
「あなたねぇ……自分が注目されている自覚無いの?」
落ち着いた所でこよみに問いかける。彼女はとても驚いていたようだ。
「そ、そんなこと言われても、さ。たかがVtuberだろ?」
「……姫穣さん、さっきの見せてあげて」
「いいですけど。なんだか気安いですわね、あなた方」
不満げながら先ほどの動画を起動して一時停止。それを差し出すとこよみは遠慮がちに受け取る。
そして、あの子は絶句した。
「な……」
「わたくし達でございますね」
「わー、本当に映ってるー♪」
撮られていた、という事も気づいてなかったのだろう。自分の容姿がどれだけ人を惹きつけるのか、理解出来てないらしい。
どういう事情かは知らないけど。
今日のテーマははっきりした。
この目立ち過ぎる子達を、なんとかしないといけない。
苦労人の湊お姉さん(笑)
黒猫以外にも振り回されてますね。
再生数を修正しました。流石に一日やそこらで百万は無いかな、と。