気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜   作:二三一〇

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 少し遅れてしまいました。
 個人的な要件ですが、ちょっと遅れがちになるかもしれません。


14 女が四人いると賑やかすぎる(一人はおっさん)

「あらためて挨拶するわね。私は暁湊。あるてまの二期生、夏波結の中の人、というやつね。こっちは……」

「神代姫穣ですわ。リース=エル=リスリットでもあります。はじめまして、姫乃古詠未さんの中の方、ですわね?」

 

 天使なお姉さんが結って事は知っていたけど、もう一人の人がリースだとは知らなかった。

 ……え? 神代?

 

「え、と。失礼ですが、あの神代ですか?」

「あら。お若いのに御存知?」

「ええ、まあ。仕事の関係で……、父の」

 

 咄嗟に『父の』と付けたのは、さすがにマズイと思ったからだ。

 何度も言うけど、今の俺の姿は中学生くらいにしか見えない女子だ。政財界にどっぷり浸かりこんでる旧家の事なんて、知り得るわけはないからな。

 

「わたくしの事は知っているのに、あなたは名乗らないのは少し不公平ね? お名前、聞かせて欲しいわ」

「姫穣、相手は子供よ?」

 

 湊さんが嗜めるように言うが、姫穣はこちらの値踏みするように眺めている。

 ……しゃあないなぁ。

 

「殿田レキと言います。すぱしーば所属のVtuber、姫乃古詠未の中の人です。先輩とは知らず挨拶が遅れまして、大変失礼しました」

 

 

 正面を向いてお辞儀をする。営業の時のように、角度は45度。下げた頭は10秒静止。

 戻した時に湊さんは驚いていたけど、姫穣はなんだか楽しそうな顔をしていた。

 

 

 レキと名乗ったのは、元の(こよみ)古詠未(こよみ)と同一の読みの名前だと問題になると思ったからだ。

 

 音読みにしたこのあだ名は、ガキの頃に呼ばれていたものである。

 

「……レキちゃんか。漢字はどう書くの?」

「あ、と……茉莉花(ジャスミン)の莉に、姫、です」

莉姫(れき)、ね」

 

 

 苦し紛れに付けたにしては、まあマシかもしれない。思い付いた理由だが、これは俺がジャスミン茶好きだからだ。

 暑い時期なので最近は飲まないけど、そろそろ温かいお茶もいい時期だ。

 

「こよみ様はレキ様?」

「ダマスケナ。旦那さま方の会話に割り込んではいけません」

「でも、お姉さま?」

「この子達は?」

 

 

 おっといけない。この姉妹のことを忘れてた。慌てて紹介するけど、少々改変せねばならないからな。

 

「金髪の方がプリムラ、ピンク髪の方がダマスケナ。親父が海外に行くんで付けてくれたお世話係の姉妹です」

 

 紹介されるとぴしりとして、お辞儀をする。こういう所はよく躾けられてるんだなぁ。

 

「え……お世話係? ひょっとして姫穣と同じ?」

「あら、わたくしは専属だけで五人いますけど?」

 

 驚く湊さんに対して、神代姫穣の反応は若干ズレていた。相変わらず妙にプライドが高いようである。

 

 子供の頃に会ったと言っても分からないだろうな。その頃、俺まだ男だし。

 

「海外赴任で子供残して行くから、知人の娘さんに面倒見てくれと頼んだそうです」

 

 スラスラと嘘を垂れ流す自分にちょっと怖くなる。オレ、子持ちになってるぞ? しかもその子供は俺自身だったりする。わけわかめ。

 

「プリムラと申します。旦那さまより仰せつかりました。今後とも宜しくお願いいたします。神代姫穣さま、暁湊さま」

「ダマスケナですっ。ヨロシクねっ」

 

 二人はそれぞれに挨拶をする。

 その様子に二人とも笑顔で迎えてくれるが、ダマスケナは少し丁寧に言おうな。

 

「でも、この子達も子供じゃない?」

「ダマスケナ、大人だよっ?」

「こちらをご覧下さい」

 

 姫穣さんにプリムラが手提げから出した免許証を見せる。お、免許あるんだ。

 

「姫乃=ロサ=プリムラ。二十歳……本当に?」

「私もあるよっ」

「……本物ですわね。公安委員会の印字もあるし」

 

 ……魔法でやりたい放題だなぁ。

 それよりも姫乃という名字が気になる。

 その名は古詠未の姓なので、関係者だと丸わかりなんだが。あと、ハーフ扱いも無理があるかと。

 

 

 

 

 

 それから、お近づきの印にお互いのスマホで写真を撮り合う。なんで? これが果たして女子の文化なのかは俺にはよくわからない。

 

「前も思ったけど、綺麗な髪よね」

「そ、そうッスか?」

 

 湊さんがさらりと髪を撫でるように触る。

 誉められるのがむず痒いけど、湊さんだと素直に受け止められる。

 

「悔しいですけど、髪質は負けですわね」

 

 スルリ、スルリと手櫛で髪をいじる姫穣さん。湊さんとの違いは何なのか、よく分かんないけど……なんだか背筋にぞわぞわしてきた!

 

「あ、あの? あんまり触らないでくれ、下さいっ」

「もっと砕けて下さいましたら、止めますわ」

「え? やめろって言えばいいの?」

 

 姫穣、変わってるな?

 

「姫穣はそういう世界の人だから。友人には壁を作って欲しくないんだって」

「そういう事ですの」

 

 パチンとウインクをして、彼女は手を離してくれた。

 

 昔会ったのはたしか中学に入るかどうかの頃であり、その時は物静かなお嬢様として振る舞っていた気がする。

 随分変わったなぁと感慨深く思ったけど、それは俺もだったね。……はぁ。

 

 

 

 

 

 自己紹介の後に、少し歓談をしているとドアをノックする音が聞こえる。

 

『お嬢様、じいやです』

「合言葉は?」

『そんなもの決めてないです』

「いいわ、入って」

 

 ……ええ。それ合言葉なの?

 金持ちのお嬢の考えることはよく分からん。

 見ると、湊さんも苦笑している。

 

「まるでスパイ映画ね?」

「そうッスね……」

 

 ドアからずらずらっと何人かの人が入ってくる。その人たちは手には大きな箱を抱えていた。

 

「ご希望の品です」

「三人分ね?」

「はい。黒のロングが二つにショート一つです。髪質までは選べませんでした」

「まあ、いきなりですものね。仕方ありませんわ」

 

 箱から取り出されたのは、人の頭の模型だ。

 

「かつら?」

「ウィッグと言いなさい」

「あはは……。まあ、似たような物だけどね」

 

 手提げ鞄からブラシを取り出すと俺の髪を梳き始める湊さん。……うん、やっぱり気持ちいい。何でだろう?

 

「似てるようで違うのね」

「なにが、スか?」

「あ、と。ううん、何でもない」

 

 聞いてはいけない事だったようなので、そのまま黙る。すると、彼女は自分から打ち明けた。

 

「燦の中の人も、黒髪ロングなの。それで違うんだな、と思ったの」

 

 ……黒猫燦にもこうしているのか。

 少し、羨ましいなと思った。

 

 丁寧に梳いた後に、髪をピンで留めていく。

 さらにストッキングみたいな網を被せてきた。

 

 背中の真ん中辺りまである髪が、きっちり畳まれてしまった。そこに軽くウェーブのあたったウィッグを乗せるとあら不思議。

 

「おおお……」

 

 今までの前髪ぱっつんの姫カットより自然な感じで、中学生くらいの女の子がよくしているような髪型に見える。

 

「うーん」

「これはこれで目立つ気がするわ」

 

 ところがお二人はあまりお気に召さなかったようだ。なんでも、普通に可愛くなっただけだとか。やはり無難にキャスケットを被る事になった。

 

 いつの間にか、プリムラとダマスケナもウィッグを付けていた。

 

 プリムラはセミロングの内巻きボブヘアで、ダマスケナはロングのポニーテールだ。

 ただ、瞳が青だし肌も白いので変装だとバレる可能性が高いと思う。

 

「このウィッグは進呈しますわ」

「いえ、すぱしーば本社の方へ回して下さい。経費で落とせる類の物はそうするべきッス」

 

 こう答えたら、湊さんと姫穣がとても驚いていた。いや、必要な物品を計上するのは当たり前でしょ?

 

「あなた、本当に中学生ですの?」

「心は社会人を自負しております」

 

 二人が笑ったのは言うまでもなかった。

 

 解せないけど、まあいいか。

 

 

 

 

 

 結局、食事はホテルで取ることになった。

 こちらも経費で落とすために領収書を切ってもらい、ブリーフケースにまとめる。

 

「別に宜しいですのに」

「割り勘、て言った筈だよね?」

 

 大人な二人が文句を言うけど、同じくらい大人の筈のダマスケナは美味しい食事にゴキゲンだ。

 

「旨かったわ〜♪ お姉さまの料理にはかなわないけど」

「大変美味でした。それと、ダマスケナは黙るように」

「……はい、お姉さま」

 

 テンションアゲアゲだった彼女を一言で沈黙させた。プリムラはやはり強い。頬に朱がさしているので、誉められてからの照れ隠しみたいだ。

 

「それでは移動しましょう」

 

 

 

 

 

 今日の目的はこれからだったりする。

 まあ、アドバイザーが二人に増えてるのだから、不安はない。じいやさん達が乗ってきたワゴンに乗って移動すると、やって来たのはなんと渋谷。

 

「えええ、大丈夫ッスか?」

「普通にしてれば平気よ。人も多いし」

 

 湊さんはそう言うけど、姫穣はサングラスに幅の広い帽子なんか付けてカモフラージュしてる。

 

「あの子は有名人だから」

 

 たしかに。子供の頃の可愛さはなりを潜め、すっかり大人の女性の美しさに変わっている。

 

「湊さんは、何もしないで平気なんスか?」

「私は有名人じゃないし」

 

 笑ってそう言う湊さん。

 そういえば、と。

 少し大きめのポーチから出したのはメガネケースだ。元々俺は眼鏡使用者である。

 

「……ぐわぁぁ」

『合体状態の視力はたぶん2.0くらいですから、その眼鏡かけるのは無茶だと思いますよ?』

 

 言われるまで気付かなかった俺も悪いけど、先に言ってほしかった。アイリスはこういう機転が効かないよなぁ。

 仕方ないので鼻に引っ掛けるようにかける。どのみち大きいからズリ下がるし。

 

 視界が歪むのでなるべく下を見ないようにすると、二人がこちらを見ながら何か言っていた。

 

「あざとさが出たから、古詠未とは分からなくなったわ……」

「そうですわね。これはあざとい」

 

 狙ってないもん、これは不可抗力やねん。

 そう言いたかったけど、頭が痛くてそれどころではなかった。

 

 はやく、度無しのメガネ、買おう。

 

 そんなこんなで、俺たちは渋谷1050に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 女の買い物は、総じて長い。

 買うつもりのないウィンドウショッピングだとそれは当たり前のようになる。

 だが、本当に必要な場合はそんな事は言っていられない。湊さんはもちろん、姫穣さんやじいやさんまで動員してのプリムラ、ダマスケナのコーディネートが始まる。

 

 適当に合うのを手当たり次第に合わせていくのかと思ったら、何故か決まったサイズの服しか選んでいない事に気がついた。

 

「もしかして、二人のサイズとか把握してるッスか?」

「ええ、さっきの写真でね」

 

 姫穣さんが見せてくれたスマホの中には、プリムラの写真とそこから測定された各種数値だ。

 

 こういったアプリはあるけど、体のラインの出る服でないと正確には出なかったはずだ。たしか姿勢とかも一定にしないといけなかったと思うが、これは何気なく撮られたもので腰のラインなんかほぼ見えてない。なのに数値が出ている。

 

「え……マジ? 何よこのアプリ」

 

 湊さんも知らなかったようだ。

 

「『HLインテグリティ』の計測型AIを応用して作成した試作アプリですわ。服の形状から内部のサイズまで予測してくれますの」

 

 言いつつ、彼女は湊さんの写真を呼び出してアプリに読ませる。

 

「あら、また少し成長したようですわね」

 

「身長161cm、体重52kg、B88、W61、H84……アンダー70のD「ちょっと!」」

 

 慌ててスマホを奪い取る湊さん。

 ジト目、猫口でフフンと笑う姫穣とは対照的だ。

 

 

 『HLインテグリティ』

 それは懐かしい我が古巣である。

 

 ……そういや、馬場山がそんなAI作ったとか言ってたのを思い出した。

 服の素材やたるみだけじゃなくて人体の構造を統計から類推して服の上から見えないウエストまで弾き出すとか豪語してたっけ。

 

 まさかのウチの会社が絡んでいたとか、勘弁してくだせぇ……。

 

「ここここれ、まだ配信してないわよね?」

「まだベータ版なので、一部のテスターだけですわ。それもごく僅かで私以外は全国で五人程ですわね。それに、試用期限で使えなくなりますのでご安心を」

「……安心したわ。ほんと、怖いもの作ったわね……」

 

 何気ない写真でサイズ公開とか、シャレにならんものな……湊さんじゃなくても怖い。

 

 でも、湊さん、Dか。

 意外とあるなとは思ってたけど。

 そんな邪な考えが透けたのか、彼女は顔を赤らめる。

 

「……へ、変なトコ見せちゃったわね」

「自分の体を見られるのは、やっぱり恥ずかしいッスよね」

「う、うん……」

「ちなみに。莉姫(レキ)さんの写真も撮ってますけどw」

 

 

 ──え。

 マジ?

 いつの間にか姫穣の手に戻っていたスマホが、有無を言わせる間もなく計算を終える。

 

 そして、その無慈悲なアプリによって女の子形態(莉姫)のサイズが暴かれたのである。

 

「身長141cm、体重37kg、B68、W54、H70……アンダー60のAA……」

 

 ……淡々と読み上げる姫穣。

 彼女に悪気が無いのは分かっている。

 だから、こう思うことにした。

 

『馬場山っ、お前を殺す!』

『わっ、ビックリしたっ。こよみさんアブない発言しないでくださいよ〜』

 

 

 人は簡単に殺意を抱くのだな、と。

 この年になって初めて知った。

 

 

 

 

 こうして、悪魔のアプリと援軍のおかげで二人の服がどんどん決まった。

 なぜか俺の分も、かなり増えてたけど。

 

 

「うん、似合う似合う♪」

「そうッスかね……?」

 

 姿見の前にいる少女は、普通に可愛かった。

 装いとしてはもう冬物が出始めていた。

 厚手のトップスに膝丈のフレアスカート、靴下はオーバーニーソで靴は茶色のローファー。

 肩にかけているオーガンジーのストールとかお洒落過ぎる。おっさんにはこういう発想は無いんだよなぁ……

 

 だけど、中身が男でおっさんだとしても。

 見た目にはなんにも関係ないらしい。

 

 湊さんが肩越しに笑って、というので笑ってみる。主に背中に立って肩に手を置く湊さんに対して。

 

 

「うん、可愛い♪」

『可愛いですよぉ』

 

 だまれ、アイリス。

 そう言いたかったけど、言えなかった。

 

 

 満面の笑みを浮かべる少女は、確かに見惚れる程に可愛かったのだから。

 

 

 

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