気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
実況席に来宮きりんが戻ってくる。
『残念じゃったのう』
『永歌ちゃん、読みづら過ぎだよぅ』
『お疲れ様です、きりんさん』
『二人とも頑張ってね〜』
と言って二人を送り出すきりんさん。そこに通話が入ってきた。
「どうしました? きりん先輩」
『コッチ、おいで♪』
……ええ? 何言ってんの、この人。
『解説がいないの。キミ、テーブルゲーム好きなんでしょ?』
「あんな適当な公式設定、拾わないで下さい」
『それに、気になるでしょ?』
「……なにが、ですか?」
『ねー様と結ちゃんの対局だよ? 気にならないの?』
前々から思っていたけど、この人は人の関係に対してストレート過ぎる。付き合っちゃえとか平気で言っちゃうし、頭が軽い女子みたいだぞ? 麻雀打ってる時みたくクレバーになって欲しい。
「い、いいんですか? 部外者が解説なんて……」
『うちの認識から言うと、キミはもう仲間だよ? 友達の友達は皆、友達ってね』
「……僕はツッコんだらダメな設定なんですけど、あんまり言わないほうが……」
『あっ! そうだね、失敬しっけい♪ で、どう?』
おちゃらけた態度から一転して真面目に聞いてくる。こういう聞き方はずるいと思った。
「わかりましたよ……」
『ありがと、さんきゅー♪』
『予選Cグループの対局がそろそろ始まります。実況は戻って参りました来宮きりんです。そして、解説には、な、ナントびっくりゲストの姫乃古詠未ちゃんをお呼びしております!』
『あ、あー……初めまして。姫乃古詠未と言います』
『古詠未ちゃんは麻雀、得意ですか?』
『ま、まあ……好きではあります』
『あんまり固くならないでね。思った通りに言ってくれればいいからねー』
押しも強いけど、こういった後輩への気配りが出来るのが彼女の強みだ。
『さて、Cグループのメンツはこんな感じです。一期生二期生二人ずつだけど、古詠未ちゃん的にはどう思う?』
「あ、と。桜花ねー様には頑張って欲しいですね。気合入れて配信してましたし」
『私も見てたよ〜。古詠未ちゃんに怒られて、しょげる桜花ちゃん。良かったよぅ♪』
「そ、そうですか?」
あれ? この人、少しSっ気あるのかな?
若干の身の危険を感じたけど。
『桜花ちゃんもゲーム好きだけど、ウチのアルマもなかなか強いんだ』
「では、きりん先輩はアルマ先輩が勝つと考えているんですか?」
『いやー、神夜姫さんでしょ、たぶん』
やっぱりね。
そういう所は冷静なんだ。
『気になると言えば、結ちゃんかな?』
「え、マジですか?」
『この中に放り込まれて可哀想だなって』
「あー……それは、そうですね」
桜花ねー様はことゲームに関してはガチ勢なので、打ち筋は安定していて強い。それに良いところを見せたいからって自身の配信で何度も練習をするほどだ。このルールの定石はすでに把握している筈。
朱音アルマ先輩もゲームに対する姿勢は真摯であり、おそらくは並ではないかと思われる。こちらはわざわざ対策を見せてくるような真似をしてないのでさらに厄介か。
さらに、神夜姫咲夜もいる。解説で広げていたその知識は経験に裏打ちされた確かなモノだと、俺は感じた。たぶん雀力なるモノが数値されるなら彼女が、一番高いと予想できる。
そんな中、結さんが善戦できるとはとても思えない。
ゲームをあまりやらないタイプな事もあってほぼ初心者なのではなかろうか。
「健闘を祈ります」
『……本当に子供らしくない。お姉さんは、悲しいっ!』
「えっ?」
え、なに言ってんの、この人?
そう言うと古詠未のアバターを引き寄せてしまう。うお、なんだこれ? あったかくていい匂いがするっ?
『気を遣ったり、様子なんて見なくていいの。子供はのびのび育つのが一番なんだから♪』
『ちょちょちょ、離して下さい! 困りますっ』
『あー、本当にへんな感じがするぅ。画面越しの筈なのに、古詠未ちゃんがそばにいるみたい〜』
『離せっ』
『あうんっ!』
無理やり手を顔面に置いて引き離す。
きりんのアバターが向こうでぷるぷる震えてるけど、知ったことではない。
『悪ふざけするなら帰ります!』
『あーん、ゴメンね。可愛くて、つい
(*ノω・*)テヘ』
『まったく……』
そんなこんなで、Cグループの対局が始まった。
東家 十六夜桜花
南家 神夜姫咲夜
西家 夏波結
北家 朱音アルマ
東一局
『
『その説明だと本当の姉妹のように聞こえますっ ねー様はあくまで義兄弟のようなモノです。例えれば、桃園の誓いのような!』
『いきなり男臭い例えに、さすがのきりんさんもドン引きでーす』
『で、でも。そんなものです、よね?』
『それはともかく、みんなの手牌の状態を軽く解説、お願いします』
この……先輩だけあってやりづらい事!
でも、来宮きりんという人は周囲への気配りとVtuberという仕事に対して真摯に向き合う人な筈だ。仕事を振るという事に異論は無いので答えていくとしよう。
『一番速そうなのは桜花選手で中張牌で既に二面子が出来てます。次に手の速そうなのは夏波結選手ですね。東と南の対子があるので特急券が使えます。朱音アルマ選手は萬子の染め手が近そうですが、東と南が一枚ずつあるのが少し気になります。神夜姫咲夜選手は、手が遅くなりそうな雰囲気です。チャンタを目指しつつ流動的な対応を迫られそうですね』
よし、こんなものかな?
なんだかきりんさんがこっちを見て笑ってるけど……なんか間違いました?
『いや、全然。ていうか、マトモな解説になるとは思わなかった』
『……なんだか、スミマセン』
『いやいや、落ち込まないで? 別にボケろって言ったわけじゃないから』
ココロはおっさんだと公言してる筈なのに。
そこに、アイリスの声が聞こえてきた。
『こよみさん、黒猫さんも時々そんな事言ってますけど。あの子、おっさんだと思いますか?』
……え? そんなわけ無いだろ。
あんなかわいい声しておっさんとか両声類とかってレベルじゃないぞ?
『そういう事ですよ。ほんと、自分の事は分からないんですね』
……解せないけど、言いたい事は分かった。
俺が悩んでいる最中も、対局は続いている。
『チーじゃな』
『神夜姫選手、萬子の二を鳴いて一と三を倒します』
『チャンタへ舵を切ったようですね。もう少し様子を見るかと思いましたが』
『んと、ポンです』
『アルマ選手の東を結選手がポン』
『チーだ』
『今度はアルマ選手が結選手の三萬を鳴いて三四五と晒します』
『流れが速くなってきましたね』
『ふふ、ポンだね』
『アルマ選手の八索を桜花選手がポン! これで桜花選手、四七、六筒の三面待ちです』
『ツモ。タンヤオ、赤五にドラの六筒で三十符三翻、2000オール』
十六夜桜花 ドラ {⑥}
{三四五234⑤⑤赤⑤⑥} {横888} ツモ{④}
わりと本気で感心してしまう速さだ。
十六夜桜花 31000
神夜姫咲夜 23000
夏波結 23000
朱音アルマ 23000
『へえ。やるもんだ』
『姉という立場になったからね。先輩だとて、弱い姿は見せられないよ』
また、臆面もなく語り始めた。
頭の回転も速く、声もきれいだし、女の子に人気なのもよく分かるのだけど……少々鬱陶しいのが玉にキズなのである。自己陶酔に入りやすいので面白いのだけど、こういう場でそう言うのはやめて頂きたいと切に願う。
『あの
『愛してると言ってもいいね!』
コメントに絶叫と悲鳴と、古詠未タヒれの文字が羅列していく。……なに言ってんの、あの人?
『相変わらず、ストレートな人よね〜♪』
アイリスにとっては他人事だろうけど、当事者としては居た堪れなさ過ぎる。穴があったら入りたい。
入りたいが、解説から離れるわけにはいかないので空気になったかのように気配を消す。
しかし、実況の女がそれを許さない。
『愛されてるねっ』
『いや、そういうのいいから』
『妾も童の姉になりたくなった。桜花よ、妾の義妹となれ』
『なっ……?』
『孫
『最低な発言を堂々としてくれるな、神夜姫』
『面白そうだな、あたしも混ぜろ。結、お前もだ』
『ええっ? そんな急に……』
『何人来ようが鎧袖一触。今の私は、阿修羅すら凌駕する存在さっ!』
いや、どこのグラ○ムさんだよ。
『おーっと、ここで妙な展開になってきたー!』
『……』
『トップはこの中の好きな相手を義妹に出来るってのはどうだい? もちろん、拒否も出来る。トップなら古詠未ちゃんは守れるって寸法だ』
『望むところさ。僕たちの絆の強さ、思い知るがいい』
……あーあ。ノリだけで返事しちゃったよ、ねー様。
『いや、それでは面白くないのう。桜花がドベなら皆の義妹になるのはどうじゃ?』
『……エゲツない事考えるね、神夜姫』
『くふふ♪
『いいさ、やってやるよ』
……たぶん、十六夜桜花は事の本質を理解していないと思う。
最初の条件は『トップを取る』、次に出された条件は『ドベにならない』だ。後者の方が容易に見えるかもしれないが、それは誤りである。
明確に狙い撃ちが可能なのだ。牌を絞るとかそういう嫌がらせ程度から直撃狙いまで、桜花ねー様が的として存在している。桜花ねー様を潰すために結託する事すらあり得る。
もっとも。それと予選突破はまた違う話だし、俺やねー様を義妹にする事を優先するとは思えない。なんだかんだと面白い話に乗っては見たけど、実際は勝負優先なんて話だろうと思っている。
『なんだか燃える展開になってきたね? こよみん的にはどうなの?』
『呼び方云々なんで大したことでは。それよりねー様の煽り耐性の無さが今後の課題ですね』
『義妹ちゃんは徹底的にクールでしたっ 対局は東一局一本場に移ってます』
東一局一本場
まあ、先程のように打つならそうそうは負けないだろう。俺は安易にそう思っていたのだが……一期生の壁は厚いと知ることになる。
『ポン』
『アルマ選手、白をポン』
『タンヤオも目指せそうなのに、一鳴き。焦る局面でも無いのに?』
『フフ、まあ見てなさい』
まるで解説者のように語るきりん先輩だが、俺は疑問だ。白は役牌だから便利だが、タンヤオより利便性は低い。しかも現状老頭牌が一枚もないし、ドラは六筒。たしかに筒子絡みは少ないけど、手を確定するのは早すぎる。
『チーです』
『夏波選手、筒子の七を鳴いて六七八と晒す』
『タンヤオドラ一赤五一、手が伸びれば三色同順もありそうですが』
『チーだな』
『鳴いて索子の一二三……』
白がある以上、なんでもいいのだけど。……なんだか気になる。
『! カンじゃ』
『おっと、神夜姫選手、萬子の九を引いてアンカン。ドラが増えて、え、中? てことは……』
『アルマ選手の手が大化けしましたね。白ドラ三で満貫確定。しかも』
今のカンがキモのカンチャンに入った。これで神夜姫は役無しだが、聴牌。当然……
『立直、じゃよ』
『神夜姫選手、立直! みんなこの大会のルール覚えてる? 鳴かないと和了れないのにすでに二回目の立直がかかりました!』
『そもそもカンがかかり過ぎです。めったに出ないんですよ?』
『ゲームの性質上、刻子が出来やすいんですがこれは凄い!』
『まあ、立直ドラ一ですが。符は六十と高いですけど、今のところ3900点です』
裏ドラ期待? 神夜姫がそんな下手打つような真似をするとは思えない。親への牽制目的にしてはリスクが高い。
『……』
『一発を警戒して、現物牌を切る桜花選手』
『この辺りは通りそうに見えますからね。ツモが別の塔子に繋がったので手は落ちてません』
冷静に打てている。さすがねー様。練習の成果は出ているね!
ところがその二萬をアルマが鳴いた。
『こっちも見てなよ?』
『くっ……』
対子の二萬を倒して、白の横に繋げる。一見染め手に見えるけど、なんでも和了れる満貫手。しかももう聴牌だ。萬子を警戒してるとこの六九筒はなかなかに難敵だ。
ちなみに神夜姫の待ちは三六九筒。河に示すような牌はほぼ視えない。
ちなみに結さんはこの状況についていけてないらしい。というか手牌の確認中だ。一索と九筒がダブついている……やべえな。ダブロンされるかも。
『チーだ』
『アルマ選手の捨て牌を鳴いた桜花選手。だけど、切れるのはどれも危険牌!』
『なんで鳴くの? 索子の下の方に共通安牌があるし、ここはオリでしょ?』
『えっ? こよみんはここでオリちゃうんですか?』
『満貫確定にドラ増えた立直なんて突っ張る意味ないッス。あうっ!』
『おっと、生で見るのは初めてのアイリスチェック! 可愛い悲鳴が堪りませんねぇ!』
ここんところ女言葉に慣れてきたから油断してた。ていうか、これくらい許してくれよ。
『これやらないと、私が忘れられちゃうので!』
いや、そんなこと……ないよな?
『ロンじゃ』
『くっ……』
『悩んだ末、三筒を切り出した桜花選手、神夜姫選手の魔の手に捕まったぁ!』
『裏ドラが一つ乗って7700の8000。まあ、ダブロンよりはマシですか』
神夜姫咲夜 ドラ {⑥白} 裏ドラ {⑦1}
{四四789④⑤⑥⑦⑧} {裏九九裏} ロン {③}
なかなかに見応えのある対局になっている。
たかがVtuberの余興だと思ってナメていた。
桜花の親番が終わり、次は東二局。
神夜姫の親である。
『お似合いと書き込んだ者は月の牢獄に放り込むゆえ』
『すでに書き込んだひとー、早く謝ってよねー(笑)』
俺もそう思ったが、口には出さないし顔色も変えない。厄介な親である事に変わりはない。
十六夜桜花 23000
神夜姫咲夜 31000
夏波結 23000
朱音アルマ 23000
Cグループは真面目に麻雀する感じですかね?