気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
大会中に寝落ちとか、普通ならバッシングものだが子供という事もあって特に炎上はしなかった。あるてまの大会ということもあり、ゲストがどうなろうと関係はないだろうし。
ちなみに大会の優勝者は驚異のバグウサギ、シャネルカ=ラビリットだった。
必ずドラが手牌にあるとか、字牌が揃ってるとか。鳴き麻雀で勝てとか無茶が過ぎる。終始点数をリードして、半荘が終わる前に相葉京介がハコを被って終了した。
「勝ちましたよ! フラップイヤーのめんもくやくじょですっ!」
「お主に麻雀教えたの、失敗だったかのう……」
神夜姫昨夜の呟きが憐れを誘ったのは言うまでもない。ちなみに、後でアーカイブで確認したけどなかなかにひどい有様だった。
フリテンしてるのに和了れなくて『どうしてですかー?』と卓で騒いだり、両面待ちで聴牌してる所を一面子崩して愚形のペンチャン待ちに変えてツモったり。
最後に振り込んだ京介氏なんか、捨て牌からは完全に染め手に見えない清一色、一気通貫、ドラ三の倍満喰らったりしていた。
『ひどい対局だったね……』
『豪運とド素人が絡むと手がつけられんのう……』
実況と解説の二人の簡単な総括が、すべてを表していた。
ある意味、俺が寝落ちしたのは危険回避の為だったのかもしれないな。
そう、納得出来るくらい、ひどい内容だった。
見てる分には楽しかったけどね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『大丈夫? 寝落ちって聞いたけど、おしおきのせいじゃないの?』
「僕もよく覚えてないんですけど。身体に異常もないし、平気ですよ」
翌朝、RINEで結さんが連絡してきた。
とても心配してくれたのだけど、頭痛とか無いし体調は悪くないのでそう答えた。
「それより、決勝に行けなくてすみませんでした」
『私も負けちゃったし。今度、神夜姫さんが麻雀の配信やるらしいの。キミも呼ぶって言ってたからその時に、ね』
「それは楽しみです。どうせならちゃんとした形でやりたいですからね」
出先での通話らしいので、そんな会話だけで終わった。
「……あのさ。寝起きいきなりで通話があったから助かったけど、できればやめて欲しい、かな? なんて思ったりするんだよね」
『
……アイリスの言う事は、たぶん正しい。
結さん=みなとさんの通話に、脊髄反射で出てしまったのは自分だ。
もし、おっさんの暦状態だったとしたら。
レキにかけたと思ったら、知りもしないおっさんが出た時のみなとさんの心中を察すると、アイリスには感謝しかない。
「ありがとうございました。アイリス様の先見の明にこの私、感服致しました」
『うむうむ。よきにはからえ♪』
ベッドの上でそんなやりとりをしていたら、ドアがノックされた。
「宜しいでしょうか、レキさま、アイリス様」
いつものように感情の変化の乏しいプリムラが俺たちを客間へと連れてくる。そこには見事な土下座で迎えたダマスケナがいた。
「お命ばかりはお助けを〜」
「……命乞いとは穏やかじゃないね」
なんの小芝居なのか。
理由を聞いてみたら、意味が分かった。
『ほほう……するとダマスケナ。アンタがあれをやったっていうのね?』
「は、はい……」
アイリスが分離していた方が楽なので分離してもらった。結界は昨日から張ってなかったようなので、無事お空の部屋になっている。朝の所用も男で済ませられてラッキーだし、一度張ったらある程度は戻せないので午前中は男のままでいられるわけだ。
俺の内心とは別にアイリスは何故かお冠だ。なんか怒るような事でもあったか?
『不用意にこちらの通信網にアクセスしてはいけないと言った筈ですよね? どんな影響を与えるか分からないから、何人かで検証してからじゃないと許可を出さないとフェティダからも言われてたでしょ?』
「……はい」
「なんで、あんな事をしたの?」
「旦那さまに、喜んで欲しくて……」
ダマスケナがちらりとこちらを見てくるが、矛先がこちらに向くのは勘弁くだせぇ。
「お、おれは知らんぞ? ダマスケナに要望とか指示とかしてないからな」
『とりあえず何をしたかはフェティダに報告して。おそらくだけど保守の方から叱られるからそのつもりで』
そう言われると涙目になるダマスケナ。救いを求めるように俺を見るけど、俺からするとなんで叱られているのかが分からない。
「アイリス様。わたくしは知りながら止めませんでした。どうか同罪として罰して下さい」
「お姉さま……」
プリムラに尊敬の眼差しを向けるダマスケナ。アイリスが怪訝そうに見る(花だからよく分からんけど、そんな感じに見えた)とため息をつく。
『プリムラ? どちらか一人でも構わないと私が言っていた事は分かるわね?』
「存じております」
『場合によったら、二人とも送還かもしれないのよ?』
「わたしは姉ですので。妹に罪を被せて一人栄誉に預かることは出来ません」
『……そう。なら、二人で行きなさい』
そう言うと、アイリスは話が終わったとばかりに部屋から出ていく。項垂れるダマスケナの肩に手をかけるプリムラ。
「お、おい」
居たたまれない空気に、アイリスを追いかける俺。ふよふよと浮く鉢植えに声をかけると、アイリスはくるりとこちらを向いた。
『……なんでついてくるんですか?』
「いや、なんか知らんが怒り過ぎじゃないのかと思ってな」
『サーバーに手を加えて、あるてまに迷惑をかけた。重大な犯罪行為ですよ? まあ、この世界の捜査機関には絶対立件出来ませんが、だからといって罪がない訳じゃないわ』
詳しくは知らないが、どうやらあるてまのサーバーに侵入したダマスケナがあるてまのVtuberたちのデータを改竄したようだ。
魔力の概念なんて無いだろうから、アイリスの言うとおりネット犯罪として立件は出来ないだろう。
『私はこれからフェティダと話しますので。こよみさんは二人の側にでも居てやってください』
そう言うと、速度を上げて俺の部屋に入り、カチャリと鍵をかけた。……葉っぱの手なのに器用にやるなあ。
仕方ないので戻ろうと思ったけど。
妙齢の女の子を慰めるなんて……無理だな。
そう考えて、台所に行った。
スマホでつぶやいたーのチェックをすると、まあフォロワーさん達からのリプライが貯まりまくってた。
おしおきされ過ぎて気絶したと思われてるらしいので、きちんと寝落ちだと説明しておいた。『ぱんつ、平気だった?』とのコメントが多数あったけど意味がよく分からない。とりあえず、『のーぷろぶれむ』と打って誤魔化す。
なんだか途中からの記憶が曖昧だ。かなり眠かったのかもしれない。
すると、台所にダマスケナがやってきた。
「……旦那さま」
「ん……ダマスケナか。なんか飲むか?」
憔悴しているようなので、落ち着かせる為に俺のとっておきを出すとするか。棚の奥にしまった缶から小さな塊を一つ取り出し、ティーポットに入れる。熱湯を注ぐとしゅるしゅると花開いていくように茶葉が広がっていく。
「ふわ……」
「
「綺麗ですね……」
「見た目だけじゃないぞ? 味も効能もいいんだぜ」
茶碗に注いで出してやる。ジャスミンの香りが広まり、得も言われぬ癒やしの空間となる。
「おいしいです……」
「それはなにより」
受け答えはするけど、立ち入るつもりは無い。元々、女子と平気で話せる人間じゃないし、今はおっさんだ。なんとなく照れくさいのだ。
「旦那さまは、叱らないんですか?」
「何をしたかは知らないから、怒りようがない。でもアイリスがあれだけ怒ってるんだから、俺まで怒るのは良くないだろう?」
これは例えとしてだが。
もし俺が父、アイリスが母だとして。当然、あの二人は子供なわけだ。
二人が叱られるような事をしたとする。
母親が強く叱った後に父親まで叱ってくるというのは、子供としてはかなり辛いのではなかろうか。
そんな理由だ。
「旦那さま……そんな」
「ん? なにか言った?」
「い、いえ!」
ダマスケナの顔色がまた少し悪くなった。仕方ないな。ちょっと早いけど買い置きのカステラを切って出そうか。文化堂のカステラは今でもお菓子のホームラン王だぜ? あ、そりゃ別の商品か。
立ち上がり、冷蔵庫に入れたカステラを取り出すと、背中になにか温かい感触があった。
「……」
「あの、ダマスケナ、さん?」
いつの間にか背中に寄り添うように身体を預けているダマスケナに、俺は身体が強ばるのを感じた。
殺気とか攻撃衝動とかならいくらでも感じ取れる自信はあるけど、こういうのは対処出来ない。
しかも小さく嗚咽を漏らして泣いているようだ。
「私のせいで……」
「? 何を言ってるんだ?」
「ダマスケナ?」
「うおっ!?」
こちらもいつの間にか来ていたのか。
台所の扉の側から伺うようにプリムラが声をかけてきていた。
「ああ、いや……これはダマスケナが勝手にな?」
なんだか言い訳がましく聞こえるが、気分としては浮気現場を見られた男のそれだ。
だが、プリムラはそんな事はせずにダマスケナに近寄り俺からそっと引き離すように促した。
「お情けを頂戴するのは罪を償ってからです」
「はい……」
そこにアイリスが戻ってくる。
『二人とも。午後からすぱしーばへ行って。フェティダからの指示があるからそれに従うこと。こよみさんも同行してね』
「あれ? 今日はレッスン休みじゃなかったっけ?」
『別件らしいわ。会ってほしい人がいるらしいの』
ふむ……。まあ、用は特にないし。仕方ないか。
午後になってアイリスと合体して、莉姫となった俺はプリムラとダマスケナを連れてすぱしーばへと赴いた。
「おはようございます、莉姫さま」
「おはよう、フェティダ。二人を連れてきたよ」
フェティダが頷くと、黒いスーツの男二人が寄ってきた。……わりとやる方だな。
「あなた達は保守部門で聞き取りがあります。莉姫さまはこちらへ」
「あの」
「なんでしょう?」
「今日のご飯には帰れるように頼むよ。少し作り過ぎちゃうから」
そう言うと、理解してくれたのか笑ってくれた。黒服の男たちに連れられて双子の姉妹が部屋から退出する。
「では、莉姫さま。お客人との面接がございます」
「め、めんせつ?」
なんと懐かしい言葉が出てきた。というか、俺どこかに飛ばされるのか?
慌ててる俺にフェティダがくすりと笑って補足してきた。
「面接する側の方ですわ」
……余計に意味が分からなくなったんだが。
豪華な調度品の並ぶ応接間に連れられてきた。普通、面接というのはこう……味も素っ気もない部屋でパイプ椅子と簡易テーブルで行われるものだと思うのだが。
その対象たる人物もそう感じていたらしく、入室するといきなりで立ち上がって直立不動の姿勢となった。
「は、
「ああ、楽にしてて、葉桜さん。こちらからお招きしたのだから」
「は、はあ……、あ」
その少女と、視線があった。
亜麻色の髪が特徴的できれいというより可愛いという印象の少女。それでもおそらく大人なので、こちらよりは背が高く少し見上げるような感じになる。
「ひ……」
「?」
「姫乃古詠未ちゃんの、中の人!?」
「はあ。まあ、そうだけど……アナタは?」
こっちは色々と身バレしてるのでこういう事も意外とあったりする。変装用のメガネや帽子、マスクなんかも多用しないと街中を歩けない時もあったりするのだ。
「莉姫さま、こちらは葉桜六花さん。個人Vtuberの立花アスカを演じておられます」
立花アスカ。
昨日の大会に参加していたもう一人のゲストか。
確か黒猫燦が推している個人Vtuberだったはずだ。
「立花アスカの、中の人です」
ぺこりとお辞儀してくる礼儀正しいお嬢さん。居住まいもきちんとしている。
しかしその人と、なぜここで会うのかが分からない。フェティダの方を見ると彼女は微笑みながらこう答えてきた。
「実は葉桜さまをスカウト致したいと考えております」
フェティダがやんわりと、でもはっきり声にしてそう言った。それはつまり、彼女の中ではほぼ決定事項と見なしていると言うことだ。
にも関わらず、俺をこの場に呼び出した事が解せない。その奇妙な感じは、おそらく六花にも伝わっている筈だ。
「フェティダさん、僕に態々言わなくてもいいのに。相変わらずだね」
「そうでしたね。ゴメンなさい」
こと、すぱしーばの連中はフェティダをはじめに俺を最上位の存在に置こうとするフシがある。今はこんなナリだし、元はと言ってもただのおっさんだ。会社の取締役がほいほい頭を下げるのはおかしいだろう。
もっとも、こんな事はフェティダだって知っている筈だ。だから、それとなく六花に悟らせようとしているのだろう。
すぱしーばが最優先にしているのが誰なのか。
まあ、このナリならばそう思わせる事も出来るだろう。
「昨日はあんまりお話できなくてすみませんでした。姫乃古詠未の中の人をしてます、殿田
葉桜六花にきちんとお辞儀をすると、向こうも「ご、ご丁寧にどうも」と頭を下げる。
「でもフェティダさん。なんでいきなりスカウトなん?」
「そうです。私もそれが聞きたかったんです。なんで私なんですか?」
この疑問は六花も思っていた事らしい。
それをやんわりと抑えて席へ座ることを促すフェティダ。俺もその隣に座るとフェティダがニコリと笑う。
……そっちの席には座らないからね。
「私どもは個人バーチャルミャーチューバーとして活動なされてきたあなたの事を高く評価しております」
え。
そう呟く声が聞こえた。
「企業勢、私どもを含めて五社。個人勢は正確な数も捕捉できないほどの中で、抜きん出た存在と言えます」
「そ、それは……黒猫さんとのコラボがあったからで……」
確かに、黒猫燦との一件が無かったらここまでは注目される事は無かったと言われている。かく言う俺も知らなかったし。
それでも高い歌唱力と全て自分で用意しなければならない個人Vtuberとしては総合力は高いと言える。
「私どもは姫乃古詠未を売り出してはおりますが、なにぶん日本の文化に疎いです。そこであなた。立花アスカさんにご教示戴きたいと考えたのです」
「それはつまり……」
「単なるチューターをさせるつもりは当然ありません。当社がバックアップをしていく企業勢としての活動も続けていただきたく思います」
なるほど。
フェティダの考えは凄く理解できる。
個人勢ゆえに芽が出ていなかったアスカをすぱしーばでバックアップする代わりに、そのノウハウを得る。これはwin-winと言えると思う。
契約期間や給与なんかの対応次第で、アスカはもっと活動に力を入れる事が出来るようになる。
「けど、フェティダさん。アスカちゃんはあるてまの黒猫さんと仲いいんだよ? 仲違いさせる事に、ならない?」
この言葉に、六花の顔が強張る。
ゆりゆりしい二人の会話は、結さんとは違った趣きで楽しかったりはする。俺としては思うところが無いではないけど、それとこれとは話は別。
彼女自身が、黒猫とは違う陣営に与する事を良しとするか。
「……そう思っていたらここにはいらっしゃらないわよね?」
フェティダの視線は六花に向いている。
そして彼女も、強い視線で迎えうつ。
「古詠未ちゃん……いえ、莉姫ちゃんだっけ。燦ちゃんとは仲良しだけど……同じVtuberでもあるの。同じ舞台に立ちたいと思った事なんて、何度もあったわ」
個人勢ということで、どうしても求心力は低い。黒猫のおかげで有名になれたと後ろ指をさされた事もあったようだし。
「かわいいだけじゃないんだね、やっぱり」
「燦ちゃんには感謝はしてる。大好き。でも、負けたくもない。だから」
フェティダに視線を戻し、はっきり答える。
凛とした戦士が、そこにはいた。
「ところで、なんで今日呼び出したの?」
「うわー、髪すべすべ」
話が落ち着いたと見るや、六花は俺の側によって色々と眺めたり話を聞いてきたりしている。ちょっ……少しうっとおしいんですけど。
早く帰りたいのでそう聞くと、フェティダが後ろから紙袋を出してきた。
「……服?」
「あっ、それ。山百合の」
中から出てきたのはアイボリーカラーのワンピース。襟元はセーラータイプでわりと長めだ。季節的にはもう秋口なので長袖である。
「莉姫ちゃんには、中学生になってもらいま〜す♪」
フェティダが今まで出したこともないような声で、あり得ない事を言った。
ゑ…………マジで?
「そんな話が来てるんだけど、どうしよう燦ちゃん!」
「すぱしーばの古詠未は、結をNTRしようとする悪者だ。内側から威力偵察してほしいにゃ!」
「分かった! 頑張るよ!」
こんなおバカな会話をしてたらいいなあ、なんて思いました。