気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
今回も配信ではないです。
申し訳ない。学校の話になります。
「……いってきます」
「行ってらっしゃいませ、莉姫様」
「いってきまーす」
「ダマスケナ、くれぐれも粗相のないように」
「分かってるよぅ、お姉さまの心配性」
朝早くに俺とダマスケナが家を出る。これがこれからの日課になるかと思うと、げんなりしてしまう。
「駅まで一緒ですね!」
「おまえは朝から元気だねぃ……」
久しぶりに袖を通すスーツ姿に、少しウキウキしているようなダマスケナ。その様子にリアルな年齢差が実感出来てしまう。
今の俺は山百合女子学園中等部の制服を着ている女子ではあるが、中身は四十近くのおっさんだ。内包するパワーでは圧倒的な敗北感を禁じ得ない。
朝の電車はかなりの混雑だ。ダマスケナは反対方向なのでここでお別れ。手を振って別れる彼女は大げさだ。今生の別れじゃあるまいし。
黄色い電車で五つほど、そこからバスに揺られる訳だが……通学時間のこのバスにはすでにかなりの学生の姿がある。一般の利用者がかなり肩身の狭い状況となっていた。
ああ……あのおじさん、必死に手を上げて痴漢冤罪かけられないようにしてるな。
その中に放り込まれた身としては、同情するしか出来ない。何せ、こっちも慣れない環境で耐えるのみだからなぁ……
同じような制服を着ているけど、明らかに年齢が違う人もいる。たぶん、高等部の生徒なんだろう。よく見るとすでに冬服に着替えている人もいる。
『……みんな大きいな』
同世代と思しき少女と比べても若干低い気がする。やっぱ、チビなんだなぁ……野郎の時でもそんなに高くはなかったけど、ここまでちっこいとは思わなかった。
中学を卒業してから何年ぶりだろうか。
少なくとも俺が通ったのは共学の公立校であり、施設という意味で言えば雲泥の差である。
落書きの多い机、薄汚れた壁、効きの悪いエアコンに、夏は暑さに、冬は寒さに苦しめられたものだ。
ところが、この学校は全然違う。
改修されたばかりというのもあるのだろうけど、机や椅子などの備品は変わってはいないはずだ。だというのに、意図的に付けられた傷はほとんどなく、落書きなどは見当たらない。
壁は当然新しく、塗装や接着剤の化学臭もほとんどしない。エアコンも最新式のようで、冷えすぎない。湿度が下がりすぎないようになっているようで、多感な少女達のお肌や髪にも配慮している。
そしてもっと驚いたのは授業だ。
殆どの授業がタブレット端末で行われていたのだ。国語や英語等の書き取りが必須な科目は普通だったけど、流石に如何なものかと思う。
「殿田さん、使い方分かる?」
隣の席の子がそう聞いてきた。
「いちおう説明は受けたし、今のところは」
「何か分からない所があったら聞いてね?」
「うん、ありがとう……えっと」
「わたし、鹿取杏樹」
「ありがとう、鹿取さん」
「うん」
気さくに声をかけてくれたので、返答にまごつかなくてすんだ。ショートボブでスッキリした顔立ちの鹿取さんは、この学校では珍しいお嬢様然としていないタイプだ。
担任の先生もそれを見越して隣にしたのだろう。なんとはなしにこちらの様子を見ているので、おそらく面倒見のよい子なのだ。
いくつかわからない所を聞くと、やはり気さくに応対してくれる。
そんなわけで初めての授業はつつがなく終わった。
隣の鹿取さんのおかげもあるけど、基本的には習った事なので見れば思い出せる。再確認て大事だなと、思う事も多かったけどね。概ね問題は無かった。
その他はなにか無かったのか、だって?
うん、何も。
転校生がちやほやされたり、イジメられたり、そんなイベントは特に発生せずに終わった。
鹿取さんも、必要な事以外は聞いても来ない。クラスの他の子は、ちらちら見てるけど……自分から声をかけるとかハードル高過ぎて無理ゲである。
向こうから接触して来ないならありがたい。
さっさと帰ることにしようと席を立つ。そこに隣の鹿取さんが声をかけてきた。
「そう言えば、殿田さん。部活とかは決めたかな?」
「えっと……習い事があるので」
曖昧に笑ってそう答えると、「ああ、なるほど」と納得してくれた。こっちを知っているかはともかく、授業以上に余計な時間は取られたくない。これから帰る前にすぱしーばに寄ってレッスンなのだ。なので、習い事というのは嘘ではない。
「では、むやみに勧誘するのはやめた方がいいな」
爽やかに笑って彼女は引き下がった。うん、引き際が良すぎてこっちが気になるな。ちなみになんの部活なん? と聞いたら変わった答えが返ってきた。
「SOE同好会」
「…………最近はそんな部活もあるのか……」
現代社会の闇は深い。
こんな頃から経済的なアプローチを部活で学んでいかねばならないとか……いや、どっちかと言うと経営側の観点なのか。管理側のトップダウンよりも現場に則したボトムアップの方が正しい事は多いからな。この頃からそういう事をしっかり学んでおくことで、将来経営に携わる人材を育成していくということか……。
「……? な、なんだか難しい顔をしているね? まあ、常識的に考えても意味分からない名前だよね?」
「? System of Engagementの略だよね?」
「えっ?」
鹿取さんの驚く顔に、俺も固まる。
……あれ? 違ったっけ?
「SoE……顧客のニーズ合わせた管理システムのこと。近年広まりつつある概念であり、浸透しつつあるとの話を聴いたことがある」
窓際に残っていた生徒が、そう呟いていた。
黒い長い髪を三つ編みにして、今でも本から目を離さない。
「私も最初はそう思ってたけど、違ったの。入ってみたら経済とか情報とかは全く扱ってなかったわ」
「……はあ」
入ってみたと言ってるから、この子も関係者か。それはそうと、君のほうもかなり変だよね? というツッコミは、あえてしなかった。
というか、出来なかった。
扉を勢いよく開ける音が響き、そこにいた少女が高らかに声を上げたからだ。
「アンジュ! 転入生はかくほ出来た!?」
「あ、ああ。とりあえず話をしているところ……」
「ふああっ! マジすか、かわいいっ! さすこよ! good! excellent! Magnificent!」
なんでその順番に言ったの。
最後の方で散弾銃で生徒殺しちゃう先生かよ。
心の中のツッコミはさておき、入ってくるなり俺の肩を叩いたり、握手したりするハイテンションな外国人の女子生徒に、俺は声が出せなかった。
あ、あの手が柔らかくていいですね。あの、あ、ハグとかマズいって! ああ、良い香りがするし、やわらけ〜! こんなん、ヤバいってばよ!
「エルゼ、殿田さんが固まってるよ? その辺にしといた方がいいんじゃない?」
「あっ、ゴメンね! ちょっとテンション上がっちゃって。いやー、リアルこよみんとか、マジ天使♪ イイ香りにドキドキしちゃったよ♪」
「あ、えと、そちらもいい香り、でしたよ?」
「いや、もう。テレテレこよみん、すげーいい! ヤバい、もうヤバいわ。アンジュ、これ飼っていい? ちゃんとお世話するからー」
「飼えるわけないでしょ? バカなこと言ってないで、自己紹介しなさいっての。彼女、用があるらしいんだから」
呆れるように言う鹿取さんに、ようやく落ち着くその子は自己紹介をした。
「わたし、エルゼ=リースエッタですっ! 日本のアニメ、漫画大好き! 今はVtuberも大好きっ! 姫乃古詠未ちゃんに会えて、わたし大興奮でっす!」
キラキラした目で、そうまくしたてる少女。
……超めんどくさそうな予感がしたよ。
「世界を、面白くする、エルゼ=リースエッタの同好会というのが正式名称なんだけど。」
他のクラスからやって来たエルゼから逃げるように他の子達は教室から居なくなり……気付けば彼女達しか残ってなかった。
あ、三つ編みの子もいた。
話の輪に入ってこないのにこの距離に留まるとか、わりと正体が読めないけど。
「そこの子は戌絵琴子。SOE同好会の最後の一人。エルゼに本読んでたってだけで拉致られたの」
「やり方はどうかと思ったけど、面白いから別にいい」
クールにそう呟く少女だが、少し耳が赤かったりする。あれか、ツンデレか? いや、クーデレの方か!
「私達同好会は、日本の漫画、アニメ等を研究し、世界を大いに面白くするという大義名分の元に、遊ぶための部活よ!」
エルゼさんがフンスと鼻息荒く言うけど、自分で遊ぶためってバラしてるやん。やれやれといった鹿取さんが、横から説明してくれる。
「この学校は古くからあるけど、こういった部活は実例がなくてね。エルゼが発起人になって創部したんだよ」
まあ、そうだよな。
こんな古めかしい学校にはそぐわない感じがする。それにこの話の流れ。なんだか嫌な予感がする。
「あの……まさか入ってくれ、とか言わないよね? 人数足りないから廃部になっちゃうとか……」
「さすが最年少Vtuber! お約束は理解しているね! でも、そういう事は無いから安心してねー」
エルゼの屈託のない笑みに安堵する。
そして、彼女は続けて手を差し出してきた。
「お友達に、なって下さい。ええと……」
「殿田
「ありがと、アンジュ♪ あらためて、お友達になって下さい」
俺の名前を知らずに友達になりたい。
言葉の端々に古詠未の中の人だと知っていて声をかけてきたのは間違いないだろう。
だからと言うわけではないが、俺の返答は決まっていた。
「ごめんなさい(_ _;)」
「ア"ーッ! まさかの断られたぁー!」
すぐに頭を抱えてのたうち回るエルゼ。
ああ、アイボリーの制服だから、ホコリが目立つよう……それにしてもアグレッシブな子だなぁ。
そんな様子を見ている鹿取さんは、満足したのか彼女の肩を叩いて立つよう促す。
「言っただろ? いきなり言っても無理だって。悪いね、殿田さん」
「いえ。あの、こちらこそすいません……」
──罵倒されると思っていたのに。
友達くらいなってくれてもいいのにと、そんな言葉をかけられると思っていた。
しかし鹿取さんは、こちらの言い分を認めてくれた。単に、エルゼの奇行が見るに耐えなかった可能性は否定出来ないけど。
「……もう顔見知りなんだから、それでいいでしょ?」
「「「えっ?」」」
もう一人の少女が、そう呟いた。
言った瞬間に本に目を落とし、こちらを見ようともしないけど。
その心遣いが、とてもありがたかった。
「と、とりあえずは顔見知りから、で……お願いします」
へらり、と笑う俺に、エルゼは破顔して抱きついてきた。ちょっ、待って! ステイ! 鹿取さん、コイツ止めてっ!
「こよみん、だーい好き!」
「だから、はなせぇっ!」
『……なんで友達にならなかったんですか?』
「え?」
帰りの電車に揺られる最中に、アイリスがそんなことを言ってきた。
『学び舎での学友。イイじゃないですか。それともあの子達じゃイヤだったとか?』
「選り好みとかじゃねえよ」
実際のところ、いい子達だと思う。
鹿取さんにはお世話になっていた。
知らない環境に馴染む様に色々と心を砕いていたようで、すでに中学生とは思えない精神性だ。背も高かったし、高等部にいても違和感無さそうだ。
エルゼは……行動は奇矯だし、ややオーバーなスキンシップをしてくる。まあ、外国人の場合はある事だし。漫画アニメが大好きで、その流れでVtuberに興味を持って、俺のことを気に入ったのだろう。
自分の好きを訴えても、それを押し付けないというのはなかなか出来ない。
戌絵琴子に関しては……正直、知り合いくらいの距離感がお互い楽な気がする。あの子、あんまりぐいぐい来られるの好きじゃないだろ? あ、でも……そういうのがいい人もいるしな。一概には言えないか。
『部活するんなら、レッスンの時間くらい調整するわよ?』
「いや……それはダメだろ」
『なんで?』
「只でさえ時間が無いのに。歌も踊りも演奏も、まだまだ全然ダメだ。これ以上、レッスンの時間は減らせない」
悠長に遊んでいる場合ではない。
三年の間にチャンネル登録数百万に到達しなければいけないのだ。
学生として社会の流行に触れるのは有意義だとは思うけど、部活と称して遊びに興じる時間などはありはしない。
『あの部活は、遊びだと?』
「そうとしか、思えない。そもそもVtuberとしての仕事が配信である以上、これ以上遊ぶ事に意味があるとは思えない」
配信は基本として遊ぶ事で視聴者にアプローチしていく。ゲームをしたり、雑談したり、歌を歌ったり。
リスナーは日々の疲れを遊ぶVtuberを見て仮想体験し、ストレスを発散させる。そうして次の日の活力とするわけだ。つまり、基本としてVtuberは『遊ぶこと』を生業としている。
「遊んでばかりはいられない。自己研鑽の時間が、無くなる」
『そんな、頭でっかちな……』
「でないと、消えるんだろ? なら、やるしかないじゃないか」
最近、緩んできた気がしてた。
学校に放り込まれて緩い学生生活がまた出来ると喜んでいた所もある。
でも、気付いてしまったのだ。
この学校を卒業するころに、俺はいなくなる。
そう考えた時に、余裕など無いと自覚した。
学校にも来ない方がいいと考えた。
最悪、最後の方は不登校になると思う。
アイリスと合体したままでいればいいって?
確かに、切羽つまればその選択をするかもしれない。
しかし、それは俺にとっても、アイリスにとっても。最善の選択ではないだろう。
エナジーの喪失による消失現象を食い止める事が出来ないとして。その権威であるアイリスを俺に拘束するなんてあってはならないと思う。
よって。目標に達することが出来なければ、俺は消える事を選択する。これはまだ誰にも話してもいない決意だ。
『あんまり焦らないで。登録数も伸びてるし、まだまだよ』
アイリスが宥めるように言う。
珍しく優しいその声音を聞いても、俺の不安は拭えなかった。
出てきた新キャラは……まあ、あまりツッコまないで下さい。あくまでイメージですので、キャラちゃうぞとかはナシでお願いします。m(_ _)m