気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
「ふむ……時間か」
私は読みかけの本に栞を差し、勉強机に着く。小さめのノートパソコンだから見るのに少し辛いけど……スマホで見るよりは楽だ。
『十八時半になりました。皆さん、こんよみー♪ 姫乃古詠未です』
配信が始まるとスマホにRINEのメッセージが届く。エルゼのようなので、無視。というかこのタイミングでメッセージ送るのなんてあいつ以外いない。
しまいに電話が来た。
なんやこいつ。
まったく面倒な……仕方ないので電話に出る。
『ちょっと、琴ちゃん! なんでメッセ見ないのよ?』
『会長権限で古詠未の配信見ろって言ったの、アナタでしょ?』
『あ、ちゃんと見てるんだ。良かったー、琴ちゃん本読んでると他見えなくなっちゃうからさぁー』
漫画アニメを語る時の自分の姿でも見るといい。そう言いたかったけど、面倒なのでじゃあね、言って切った。メッセージが何件か着てるけど、後で見ればいいだろう。まったく、面倒な……。
『今日もゲストの方がいらっしゃってます。あるてま所属のVtuber、一期生の相葉京介さんと、二期生のリース=エル=リスリットさんです!』
『あ、どうも。こんあいば、相葉京介です』
『皆さん、はじまリット。リース=エル=リスリットです。今日はお会いできて嬉しいです、古詠未さん』
『告知では京介さんとのオフコラボだったのですが、急遽リースさんもお越し頂きました。初めまして♪』
※
今日の配信がオフコラボ、要するにリアルに対面しての配信という事は事前に知らされていた。そんな理由から六時限目には早退すると話していた。私は鹿取と殿田の学校での会話を思い出す。
『え、でも。相葉京介って、男の人でしょ? 平気なの? オフコラボなんて』
意外と常識的な鹿取はそう言って心配していたけど、当の本人はあっけらかんとしたものだ。
『? 他に大人もいるし、平気だよ?』
『そう。ならいいけど、殿田さんちっちゃくて可愛いから、心配だな……』
『おふ……ありがと』
鹿取の言葉に赤面している。恥ずかしがり屋なのかな? そういえば、エルゼに抱きつかれてワタワタしてたし。
たしかにかわいかった、うん。
周りにいる生徒も話を聞きに群がっている。そのうちの一人が彼女に聞く。
『けど、すごいね。男の人と会うのに物怖じしてないなんて。さすが、有名人♪』
『そんなんじゃなくて。別に怖くなんてないよ? むしろ落ち着くもん』
『え?』
『あ、あの、ほら。私、親父と暮らしてたから、その、男の人に苦手意識とか無いんだよね』
『……えっと、それはウチもだけど』
『あ、うん。そうだった。普通は、そうだね』
彼女らの会話をなんとはなしに聴いている。
決して盗み聞きではない。二つしか離れてない席の会話なんて聞こえるのが当たり前だ。
他の生徒に聞かれて、彼女は答えに窮したようだ。
『うち、お母さん居なくてさ。親父も今は海外だから、家政婦さんが通いで来るだけだし』
そんな答えに、今度はこちらが静まった。
下手にズカズカと聞くからそういう目に合うのだ。だいたい、会話の流れから読めないものだろうか?
「家政婦さんて、この間配信で聞いたあの人達だよね?」
「あ、うん。プリムラとダマスケナって言ってね。すっごい可愛い人たちなんだ」
「あ、私も見た事あるー。あの双子の人たちだよね?」
鹿取が話題をそらしたので、事なきを得たようだ。流石に外見はしっかり系だなぁ。本当はエルゼ大好きのぽんこつなのに。
おっと、物思いに耽っていて聞き逃していた。
ちゃんと見ないとな。
※
『なんか、オフコラはいいけど。なんでスタジオなんですかね? しかも3Dキャラだし』
『私も実装初なんですが……』
『それはですね。すぱしーばの技術陣の成果をお見せしようかと思ったからです。どうよ! すぱしーばやるやんけっ! てな、感じであいったあっ!?』
『リアルおしおき……これはまた』
『ホントにアイリスさん居ないんだな……なに、遠隔で操作してんの?』
莉姫が痛みに呻く。あ、いや3Dキャラの古詠未が、だが。
しかしいい声だな。そういう趣味のない私でも聞いていたくなる。コメントも早くなるので少し追うか。
おしおきハアハア
リアルに見れてるお二人が裏山w
京介っ、代われ!(涙)
なんか3Dキャラも少し手直しされてるな
だよな。京介氏の顔もスッキリしてる
バタ臭い言うの禁止なw
リース様もおうつくしひ……
まるで某エ○ゲから抜け出てきたようなデザインだが……
まあ、姫騎士やからね( ゚д゚ )クワッ
さすがくっころさん
こよみんはなんかスポーティだね
黒T、ライン入のハーフパンツにキャップか
今までのイメージからは変えてきたね
髪もセイバー風に纏めてるね
ボーイッシュという奴か、これもええな
アバターの話題が多い。
この辺は全く興味が無いのでどうでもいい。
というか、私はつい最近まで部活でも率先して活動しては来なかった。鹿取とエルゼが夏コミに参加すると息巻いていた時も、私は本を読んでいたのだ。
なので、あるてまのVtuberと言われてもよく知らない。黒猫の事だけは知っているが、これもエルゼが口喧しく言ってくるから調べただけだ。
『いたた……そんなわけで今日のオフコラはプレゼンみたいなモノですね?』
『社会人キャラ押してくるな。このちっこい子が言うと違和感が凄いんだが』
『京介さん、少し黙って』
『イエス、アイマム』
『ナチュラルに仕切られてますわよ?』
『小さくてもレディだからな』
『それは正しい判断です』
『はい、ではご覧頂きたい』
そう言うと、古詠未が被っているキャップを掴み、外した。
……?
私には意味が分からなかったが、中の二人やコメントは違った。
『え……古詠未さんの被ってる帽子が、外れた?』
『……マジか。被り直しても平気なのか?』
『はい。ほら、ちゃんと被ってますよ。しかも、向きを変えても破綻しません』
そう言って、彼女はキャップを野球のキャッチャーのように後ろ向きにする。中の二人が、驚くが彼女はさらに靴を脱いでぷらぷらと前に見せつける。
『すぱしーば技術陣の結晶、RICinVRです。仮想世界に構築されたデータを実像のように展開します。いま、これによって仮想データの私は実像のように、帽子や靴等を装備する事が出来ます』
『いや、みんなには見えないけど……いま古詠未は靴を脱いで持ってるんだよ。これ、
『京介氏のアーミーキャップもこれが施してあります。どうぞ、取ってみて下さい』
『なんで被ってろと言われたのか、ようやく分かったわ……お、ホントに外してる。てか、髪型崩れてるとかリアル過ぎるわ!』
『リース様の方は、残念ですが何も出来てません。事前に知っていたら可能だったとは思いますけど』
『いえ……というか、これ凄い技術ですね』
おおお……?
すげぇっ
帽子外してる所まで再現してる
驚くのはそこじゃないぞ?
ポリゴンが……実体化してるのか?
正しくはないな、実体化したように演算出来ていると言うべきか
CG齧った奴なら分かるけどとんでもないぞ
どんな圧縮してんだよw
見せかけるだけなら現行でもなんとか
リアルに連動させて動かすとか無茶すぐる
しかも回線とかに負荷がかかってないな
膨大なデータ量になる筈なのにな
そういうのに詳しい人間が湧いてきてコメントがやたらと専門的になっている。
これ、すごい事なのか……
『とまあ、今のところはこのくらいしか出来ませんが。おいおいあるてまのライバーの皆さんも出来ていくと思います。どうぞ、ご期待下さいね』
『へえ……すごいもんだ』
『と言うわけで京介氏。せっかくなんで型を見せて下さいよ』
『え? 俺、空手やってるって教えたっけ?』
『そ、それくらい把握してますよ。すぱしーばの情報網を甘く見ないで下さいっ』
『それ、言っていいことかな……まあ、構わんが』
どうやら相葉京介が空手の演舞? をするらしい。これだけ精巧なモデルなら、確かに見栄えはいいだろう。
古詠未とリースは画面端に寄って、京介だけが画面中央に残る。正直、空手なんて見ても分からない。コメントの方に集中しよう。
お、きれいな構え
型がきれいって事はフルコンタクトじゃないかな?
そうとは限らん。どこも型はやってるよ
お、こよみんの目がしいたけに(笑)
そんな表情まであるのかw
逆にリース様の顔には縦線w
感情表現に漫符を自動で付けるとか草
しいたけ……?
あ、なるほど
たしかに、漫画のように表現されてる。感情の機微って意外と分かりづらいのだけど、これなら喜怒哀楽の表現もしやすいだろう。
『凄いっ! 京介さん強いじゃないですか!』
『あ、ああ。まあ、ね。そんなに食いつくとは思わなかった』
『ワンツーからの裏拳、後ろ廻し蹴りのコンビネーションがすごい滑らかだった! でも、たぶんホントのコンボは右正拳だよね?』
『……! 正解だ。よく分かったな』
『派手な技を態々見せてくれたんだよね? やっぱり!』
京介氏に近付き、ワイワイと盛り上がる古詠未。その姿は教室でのおとなしい様子は感じられない。思った以上に活動的な子なのかもしれない。
『あんまりはしゃがないの』
『ううー、僕もちょっとやってみたい! いいでしょ、フェティダー?』
『ほんの少しだけですよー』
『頑張れ』
『うん』
画面中央にいる京介が一歩下りつつそう激励し、古詠未がそれに答える。
と、いきなり古詠未が飛び跳ねた。
その足元を何かが通り過ぎ、古詠未は空中で反転して後ろに蹴りを放つ。
だが、それが効果を出す事は無かった。
蹴りを凌いだ京介の一撃が古詠未の意識を刈り取ったようで……彼はそのまま落とさない様に抱きかかえた。
『なっ!』
『こよみ様!?』
スタジオにどよめきが広まるが、京介が何かを床に叩きつけると大きな音がして。
二人のアバターは、そのまま動かなくなった。
「……なに? 演出?」
こっちには事情がよく分からない。たぶんアバターが止まっているという事から、カメラに映らなくなったのだろう。喧騒の中で『配信、止めて』との声があり、そこで配信は終了した。
「なに……どういうこと?」
言いようもない不安を感じていると、エルゼと鹿取から通話が入った。
「What's happend? なになに、コレ! ドッキリ? それとも暴力事件?」
「あ、慌てようから事件みたい、だけど。そういう演出かもしれないし」
「私たちが慌てても仕方ないよ」
「それはそうかもだけどー(泣)」
目撃者ではあるが見ていたのはアバターの動きであり、実際はどうなっているのかすら分からない。それは他のリスナーも同様らしい。
なんだなんだ?
殴っただと? 京介、てめぇ……
これは炎上案件だな
てか、それどころじゃないよ。刑事事件だよ
おいおい、あるてまマジか
不祥事ってか、マズいよな
婦女暴行になるの、これ?
アバターの挙動から普通に傷害かと
ただ、アバターの絵が証拠になるか?
現場にすぱしーばの連中がいるからな。
あるてま側の奴もいるだろ? 二人も出てたんだし
リース様、無事ならいいけど
いまそっちを心配してるお前すげえなw
……こんな事が起こるとは。
あーだこーだと騒ぐ同級生の会話を聞きながら、現実感を欠いたままに流れるコメントを眺めていた。
まさかのシリアス回。