気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜   作:二三一〇

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 いわゆる導入です。


02 インターミッション その1

「ははは……」

『いきなり笑うなんて失礼じゃないですかね? 殿田暦さん』

「いや、笑ってるんじゃないよ。声が震えてるんだよ、驚いて」

 

 玄関開けたら、即大空。

 見知らぬ電話に出たら、光って鉢植えの花がポンッと出てきたのだ。

 

 これは驚くに決まっている。

 いや、むしろよくこの程度で済んでいるな。

 普通なら卒倒してもおかしくない筈だ。

 あまりな異常体験は、正常な感覚を狂わ

すのかもしれない。

 

 俺は周りをあらためて見回す。

 部屋は間違いなく、俺の部屋だ。

 

 住み始めてもう五年目になる築二十年のマンションの一室。

 一人で住むには若干広いが年の離れた妹が時々押しかけるので普段は使わない部屋も含めた三LDK。

 割と高い家賃だが、趣味に使う金はあまり無いのでこれでもなんとかやっていけていたのだ。

 

 その一室が、お空に浮かんでいるらしい。

 よく見るとベランダからも空が見えていたが、いつもの都会の光景ではなかった。

 

 見渡す限りの空という、壮大な風景に圧倒される。

 それでは足元はと見てみると……吸い込まれるほどの青しかない。よく見ると雲海がかなり下にあるので相当に高い場所なのかもしれない。

 

 そのわりには空気の薄さとか寒さは感じない。息苦しさもなければ体の不調も特に感じない。

 

「ここは……いったい」

『ここは空と海の狭間の世界です』

「え? バイス○ン・ウェル?」

『それは陸と海の境目の世界です』

 

 俺のボケを普通に拾うその花は、なんと喋っていた。

 綺麗なあやめのような花が、頭を揺らすように軽く揺れている。

 細長い葉が、腕のように折れ曲がりやれやれと言わんがばかりに広げられる。

 外国人並みのジェスチャーを器用にこなすその花は、俺に向かい言葉を続ける。

 

『あなたは今、ここから出る事ができません』

「はあっ?」

『あなたの身体はとてもとてもエネルギーが足りない状態にあります。そのため、こちらに避難させました』

 

 エネルギーが足りない?

 そんなバカな。

 言っては悪いが、俺はこれでも自炊派であり、三度の食事を欠かしたことはほとんど無い。

 まあ、人並みに忙しい繁忙期は多少疎かになるが、それでもエネルギー不足になるような事はない筈だ。

 

 だが、その花は葉っぱをチッチっと指を振るように動かして否定してくる。

 

『カロリー云々ではなく、あなたの生きる活力が足りないのです!』

 

 ビシッと、葉っぱを突きつける。

 顔があったら、ドヤ顔してそうな雰囲気だ。

 

「生きる……活力?」

『生き甲斐と言えば分かりやすいですかね? 無為な生活に心をすり減らしていないですか?』

「いや、特に……」

 

 自覚はないが、そうなのだろうか?

 入社三年目に新規プロジェクトを任されて、それ以降は大きな訳ではないがコツコツと重ねてきた実績に、張りとは云わなくても生き甲斐は感じていたと思っていたが。

 

「あ、そう言えば! いま何時だ? えあっ? もう十二時って……」

 

 無断欠勤なんてしたことなかったのに。

 愕然とした。

 

 よく見るとアンテナが全滅しているし、wifiも途絶している。

 ここが本当に空中であるのなら、回線などは入るわけも無い。スマホに電話やRAINの着信もないのは当たり前な話だ。

 

「おいっ、ここって完全に孤立してるのか?」

 

 慌てて花に怒鳴り散らすが、彼か彼女か分からないそいつはしれっと答えてくる。

 

『ライフラインはありますし、電話回線もインターネット回線も入りますよ? いま、繋げますね』

 

 そう言えば電灯は点いているので、電気はきているようだ。どうやってきてるのかは甚だ疑問だけど。

 

 ともかく電波が回復すると、一斉にメールやRAINの着信が来る。電話も何件かあったが留守電を聞いてる暇はない。

 

「なんだこりゃあ……」

 

 

 同僚Á『突然の出向とか何やらかした?』

 同僚B『戻るのはいつになりますか、せんぱい』

 同僚C『すぱしーば本社ってロシアか? これ、栄転なのかな……』

 同僚D『テーブル片す暇あるなら引き継ぎ資料、纏めておけよ。まあ、ポイント稼げるからいいけどさ』

 上司E『私も聞いてない話なんだが、君、上の方に知り合いとかいるのか?』

 更に上の上司K『ヘッドハントにも仁義があると思うんだが、君が望んだのならそれもいい。励みなさい』

 

 

 ガクガクと身体が震えるのが分かる。

 たぶん顔も真っ白だろう。

 

「どういう事だっ、これは?」

『あなたは海外にあるSIの新規部門に引き抜かれたという設定です。まあ、実際そうなんですけどね』

「はあっ? 設定だと?」

 

 脳天気な声に、苛立つ。

 話を聞くところ、『СПАСИБО』という情報処理専門の会社が新規にwebコンテンツを中心とした部門、『すぱしーば』を立ち上げたという話だが……

 

「何それ、架空の会社(ペーパーカンパニー)じゃねえの?」

『いちおう、きちんと登記簿には載っていますよ? 魔法でちょちょいと作りましたから♪』

「おま……魔法て、そんな便利使いできるのかよ……」

 

 ……適当すぎる。

 会社ってそんな簡単に作れるものか?

 というか、こいつ花だろ?

 魔法なんて使える花って、何なんだろう?

 

『いやん、じっと見つめられたら、恥ずかしいですよぅ〜///』

 

 睨んでいたら、そんな事言ってくねくねと踊りだした。

 フラワーロック、懐かしいなぁ……

 新しいのもあったけど、昔の方が好きだったな。

 

「いや、そうじゃない。いいか、クールになれ」

『その言い回しがフラグなのは自覚してますか?』

 

 花にツッコまれるとは思わなかった。

 だが、たしかにフラグではある。

 気を取り直し、花に向かって俺は問いかける。

 

「俺をこんな所に閉じ込めて、どうする気だ? 金か? 言っておくが実家の権利は俺には無いし、保険金だって大して多くはないぞ?」

『お金なんて要りませんよ? 魔法を使えば簡単に稼げるものを、私が必要とすると思いますか?』

 

 ドヤァ……

 

 そんな表情が透けて見えるほどに清々しく言い切る。

 たしかにこの花の言う通り、金はこいつには必要無いのだろう。

 花なら必要なのは……

 

「まさか、俺から吸い取る気かっ?」

『そ、そんな事しませんよぉっ! 人を淫乱ビッチみたいに言わないで下さいっ』

 

 植物なら根を張って養分を吸い取るのかと思ったら、どうも違う事を連想したらしい。

 植物系モンスターだと思ったのに。

 

『ドライアドと同列に見られるなんて屈辱ですぅ! この高貴なわたくしを何だと思っているのですか?』

「え、だって花だろ?」

『あっ……あう、そうですね。そうでした』

 

 なんだかいきなり怒ったかと思えば意気消沈した。

 感情が乱高下するのは、空腹だからなのか?

 考えてて気づいたが、俺も腹が減っていた。

 

 

 会社のことも気になるが、とりあえず昼飯にしよう。

 

 台所に向かい、冷蔵庫を開ける。作りおきのタッパーをごろごろと取り出し、仕掛けてある炊飯器を開ける。

 

「本当に電気、来てるんだな」

『水だって出ますよ? お風呂も普通に入れます。お湯、張っておきますか?』

「いや、昼から入るのはやめておく……てゆうか、お前、動いてるな?」

 

 台所に来たのに声が聞こえるから、何かと思えば。

 

 この鉢植え、浮かんでやがる。

 

『今どきの植物は飛べるくらい出来ますよぅ♪』

「そんな植物あったら怖いわ」

 

 米もあるし作りおきの叉焼もある。

 卵が無いけど葱もあるから焼き飯にしておこう。

 

 野菜室のネギを細かく刻み、これも細かく刻んだ叉焼に適当に混ぜる。少ししおれ気味のレタスをたっぷりちぎり、一口大にしておく。がらスープの素をふり、砂糖一つまみ、塩一匙。熱したフライパンに油をひき、どんぶり一杯のご飯を投入。他の食材も次々にいれて炒めていけば……

 

 あっという間に自家製焼き飯の出来上がり。

 レタスが入っているから、少しは野菜不足にも貢献できる。

 

 出来上がった焼き飯を持ってリビングに戻ると、花もふよふよ付いてくる。

 

『なかなか手際が良いですねぇ♪』

「一人暮らしが長いからな。弁当ばかりじゃ身体を壊すから」

 

 お陰さまで肥満体型にならずにいる。少し腹が出てきた気もするが、傍目には気づかれてはいないと思う。

 

 冷蔵庫から出した麦茶をコップに注ぎ、レンゲを手に取る。

 

「いただきます」

 

 一口含むと、叉焼の香ばしい香りと焼いたご飯の香りが口の中に広がる。面倒だと乗っけるだけの叉焼ご飯とかにするけど、やはり火を入れると格別だ。

 

『たりー……』

 

 そんな声が聞こえる。

 

 よく見ると、テーブルに葉っぱを手のようにおいてこちらを見上げている花。

 

 その花弁から、なんか垂れている。蜜かな?

 

「食いたいの? てか、食えるの?」

『ぜ、ぜひ。一口くださいな♪』

 

 すると花は食べると言ってきた。

 どうやって食べるの?

 レンゲですくって、焼き飯を花の前に差し出すと……少し花がふるふる震えている。

 

「なんだ、やっぱり食えないのか」

『いえっ! そうではなく、頂きます!』

 

 そう大きな声で言うと、ぱくりと花弁を開いてレンゲに覆い被さった。

 

 そこ、口なんだ。

 

 もっきゅもっきゅ……そんな動きをして、嚥下する音とともに茎の中を何かが通った。

 

『ちょっ……美味しいじゃないですかー! 凄い、びっくりですよおっ』

「そ、そらどうも……もっといる?」

『はいっ!』

 

 勢いよく頷くので、立ち上がり食器棚へいく。小さめの皿と同じサイズのスプーンを持って戻り、寄り分ける。

 

『ふんふふーん♪』

「き、器用に食うのな……」

 

 葉っぱを手のように使ってスプーンを握り、花弁の口に焼き飯をひょいひょい運ぶ姿は、ちょっとホラーだった。

 

 

 

 腹が満たされてようやく人心地がついたところで、花に向かって聞いてみた。

 

「結局、お前は何なんだ? 俺をこんな所に監禁して、何が望みなんだ?」

『おや、そう言えば言ってませんでしたね』

 

 そう言うと花がテーブルの上に乗って花の部分をくりんと下に向ける。

 まるでお辞儀のようだが、まさにその通りらしい。

 

『はじめまして、殿田(とのだ)(こよみ)さん。わたくし、アイリスと申します』

「はあ……アイリスね」

 

 たしか、あやめはアイリスって名前だった気がする。

 この鉢植えの花がアイリスと名乗るのはある意味正しい。

 

『私があなたに望む事はただ一つです。命でもお金でもありません』

「ほう。では、なんだ?」

 

 

 

 

(わたくし)と契約して、バーチャルミャーチューバーになってよ!』

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

「はあぁぁ……?」

 

 

 言っている事が全く理解できなかったのは、言うまでもなかった。





 アイリスのイメージは、プリヤのステッキみたいに思って下さい(笑)
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