気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
「関係筋に情報を送って、こちらの拠点を撤収させるように促しました」
「こっちがなんでも出来る訳じゃないからね。ゴミ処理は各自責任をもって」
こよみさんのレッスンが終わったあとに、フェティダと話すために分離した。彼にはすぱしーば内での自由行動を与えている。
娯楽施設はあまりないけど、食堂や売店などは開放されているので時間を潰すことはできるはず。たまには私と離れていた方がいい。
彼にとっては安らぎになるだろうから。
「当該の首脳部は『魅了済』ですが、上部機関だけでも相当な人数のため対処出来ていません。こよみ様の仰るように勝手な暴走等は起こりうると考えます」
「対策は考えている?」
「こちらの警察庁の方と相談したところ、彼らの
「国の重要な施策の為に民間人を利用する……ところ変わればという事かしら」
「私達が民間人を利用するのは非常事態にやむを得ない場合、ですものね……もっとも、こちらでは他に理由があるようですが」
「まあ、お金でしょうね」
年の離れた妹の言葉に、私は頷くしかなかった。しかし、世間話を興じている暇はないので話を変える。
「……押収した機材に関しては、何か分かった?」
「ええと、魔力とその発動した魔法に感応するタイプでした。機能が限定的なのは、地球上全てを観測するためのトレードオフだと推測されます。軍事衛星などを使う必要があったので、現時点では限定範囲でしか使用出来ません」
「提供した人物の捜索は?」
「名前はヴェルター=シュミット。現地の調査員からの報告では、西洋人、流暢な話しぶりに地元の人間だと思われていたようです。ですが、接触後に出国。USAからの消息は不明」
「向こうで接触して捕らえられたか、消されたか……そんな間抜けなわけはないか」
いずれにせよ、その人物は魔力を持つ世界の人間に他ならない。この世界の人は魔力の扱い方をほとんど知らないと思っていい。
「ダマスケナの私見ですが、魔法の発動形態の違う世界の可能性があるとの事です。こちらでの一般的な魔法のイメージに近い、発動体などを用いたもの……もしくはそれに近いのではないかと」
「理由は?」
「私達の奏具での魔法に反応しなかったこと、ですね」
「どういうこと?」
説明によると。
反応したのは口頭での唱術に対してのみらしい。
私達の世界では唱術は奏具を使って音を鳴らしつつ唄う。音の振動と魔力との共鳴により、より低い魔力適正の者でも容易に扱えるようになる。
本来、口頭での唱術は高等術式なのだ……ダジャレじゃないからね。
こちらの世界の魔法のイメージは、先程のダマスケナの推論にあったように発動体を通して魔力を魔法に転じさせるやり方だ。概念だけはあるという事は、かつては扱う者がいたのか?
プロセスの差によって、口頭での発動によってのみ反応するように作られているのではないか、とのことだ。
フラウレーティアの人間には理解しづらいのだが、魔力の扱い方が通り一片でない可能性はある。私達の知識は、万能でも全能でもない。あくまで扱い方の一つを知っているだけということか。
「私達以外の異世界人が……いる可能性がある」
「彼がそうだと断じる事は出来ませんが……高いかと。ヴェルター氏のいたウィーン郊外には空間の歪みも観測されています。もっとも、今では痕跡が残っているだけですが……」
「その、ヴェルター某のご両親は?」
「記憶改竄の後が見られましたが、普通の現地人だそうです。隣人に扮して監視を付けてありますが、期待は出来ないかと」
用心深い……か。もしくは現地の協力者としか見てないのか。今の足取りが追えないとなるとそこが接点かもしれないけど。
「そのヴェルター某の顔写真とか入手出来た?」
「はい、こちらがそうです。幼少期がこちらで、現在はこちらになります」
見たところ、普通の西洋人にしか見えない。
日本の防諜組織を頼る事は出来ないが、干渉もしてこないとのこと。
「魔力関係の事なら、こちらに接触してくる可能性が高いわ。一応、警戒してね」
「畏まりました」
「魔力の浸潤は予定通り?」
「転送ロスが若干見られますが、概ね順調です」
「こよみさんの方も順調よ。これできちんと元通りに出来る……“アカシアの木”へのアクセスで存在自体も元通りになる」
「そうですね……」
私の喜ぶ声に、フェティダは物憂げに答える。
元々、彼女はこの作戦に肯定的ではなかった。それは仕方がないとは思うけど。
しかし、莉姫の側にいると私の考えは正しかったと確信できる。彼女はもっと楽しさを享受していくべきだ。
あの姿を
「精霊珠があればもっと簡単だったのに……」
「あれは精霊様が下賜下さるものです。それにフラウレーティア人には扱えない決まりです」
来訪した異世界人にのみ下賜される、願いを叶える奇跡の結晶。
あんなもののせいで、こよみは……
でも、そのおかげで私たちが救われたのも事実なのだ。
その借りをきちんと返す。
そのためにこれだけ大掛かりな事をしているのだ。
「向こうとの連絡は出来てる?」
「はい。やや魔力濃度が薄くなっていますが、許容範囲との事です。こちらからのフィードバックで向こうは文明度が飛躍的に上がっているそうで……持ち帰った物品や資材などの研究も急ピッチで進められています」
「あまりいいことばかりではないけど……魔法にばかり頼ってもいられないものね」
こちらと接触することで、フラウレーティアでも魔力に頼らない科学知識という概念が生まれた。
こよみさんの事が解決したら、大々的に地球との交流も視野に入れている。その際にこちらの文明度が低すぎるというのは宜しくない。
「関係諸国との折衝で、お父様はクタクタだという話です。早く子を成してくれとの催促を受けてます」
「それは二人に任せてるでしょ? もっとも、奥手過ぎるせいか色気が無いせいか、そんな雰囲気にはなってないけど。あなたの方が適任かもしれないわよ?」
「わ、わ、わたしは……そんな」
慌てふためく姿がとても可愛く、抱きしめたくなる。この姿では様にならないからやらないけど。
「……お姉様を差し置いて、そんな事は出来ません」
「私にはもう無理だと、言ったでしょ?」
「ですが……」
「私にはその資格は無いし、子を成せるとは思えない」
もう何度も話し合った事だ。
私に引け目を感じる事はない。
精霊珠の力を受け入れた私は、ほぼ准精霊といっていい存在となった。魔力適正は高くなったが歳は取らない。人とは呼べない存在だ。
その証拠に、魂と体を切り分けて移し替えるなんて事も出来てしまった。これが人のはずはない。
「私のことはどうでもいいわ。その気になったらいつでも言いなさい。
「そ、そんなつもりはありません」
奥手なのは私たち兄妹の特徴なのかもしれない。私と同じ彼に、子が成せるかどうかも分からないのだが……出来なくても繋がりは残る。
「さて、と。それじゃそろそろ帰るかしら。こよみさんは何処にいるか、分かる?」
「ええと……定時報告によると、食堂ですね。ソルダムと話しているようです」
「ソルダム……こよみさんが助けたあいつか」
例の組織に囚われた際に大怪我を負っていたのだが、こよみさんの遡行治癒で完全に治った保守部門の人間だ。
「有り得ないわよね。あれは時間経過によって難易度が変わるから手当たり次第に使う術じゃないのに……」
「話によると二日ほど前に捕らえられたらしいので……私では治しきれません」
普通の治癒の唱術と違い、その怪我を負う前の状態に戻すために難易度は格段に変わってくる。ちなみに通常の治癒術でもあれくらいは治る。あんな高等術式を使う必要はなかったのだ。
「おかげで優秀な部下を失わずに済みました。ソルダムや他の者の忠誠心も高まり、お父様などは本当に欲しいと熱望するほどで」
「気持ちは分かるけど、それはだめ」
「……そうですね」
勇者が国王などになるべきではない。
それはあの人も分かっていたし、私もそう思う。理由は違うけど。
「何かあったら連絡してね」
「はい、アイリス様」
※ ※ ※
「最近の流行り? やっぱりリ○ロかな。二期も始まったし、ゲームも出たし」
食堂にいた男と話している。
彼はあの時に助けた男で名前をソルダムと名乗った。すもも好きなのかな? そんなわけで、なんとなく情報交換のような形になっている。
職場というのはわりとこういうのが必要だったりする。俺も得意ではないがこの道ウン年の社畜である。なんとはなしの会話を繋げていた。
「ははあ……調べてみましょう。さすがお詳しいですね」
「ヲタ知識をひけらかしてて褒められるなんて、珍しい経験だよ」
「私どもはほとんど何も知らないので……有り難いです」
「保守の人ってそういうのは見ないのか?」
「仕事が忙しいので、なかなか……」
警備とかに関わる人間は確かに自由になる時間は少ないかもな。
「今じゃスマホとかでも簡単に見られる。俺の若い頃なんてそんな物無かったから大変だったよ」
彼ら全員がヲタ集団ではない。
これが分かっただけでも収穫だ。
まあ、当たり前と言われれば確かにそうだ。こちらの世界でも『なんだ漫画か』と一瞥する人もいるし、生活に必要なものかと言われたら必要不可欠ではない。
「休日とかはどうしてるんだ?」
「そうですね……掃除とか洗濯とか。あとは酒ですかね」
「どこでもやる事は変わらんな」
「全くです」
そう考えて、ふと気になる事を聞いてみた。
「家ではやっぱり本来の姿なのかい?」
「え……? どういう事、ですか?」
「いや、仮の姿でいるの大変だろ? 俺なんかようやく慣れてきたけど……やっぱり元の姿の方が落ち着くからな」
「はあ……?」
なんだか、ソルダムが把握しきれていない様子だ。
「あれ? フラウレーティアの人って、お花なんじゃないの?」
俺の疑問に、彼は暫し呆然とし……そして頷いた。
「そうですね。私どももこの姿では寛げませんからね」
「だよな。やっぱり、家では楽な姿でいたいよなぁ」
ははは、と笑って彼は腕時計を眺め、時間だと言って立ち去った。今度機会があれば飲もうと誘うとイイですねと答えるなど、なかなかに順応性も高い。
まだアイリスの会話が終わらないようなので売店に向かう。ここはコンビニのような品揃えをしているので来る度にチェックしている。
店内に入るとロシア語が聞こえてくる。
彼らが対外的にはロシア人という肩書になっているのだが、これは彼らの世界と繋げた場所がロシアにあるから、らしい。彼らの先遣隊は現地人と交流し、ロシア語を覚えたのだとか。
その先遣隊とやらは十年前には来ていたというのだから恐れ入る。
声はレジカウンターから聞こえてくる。
「Здесь будет бесплатный подарок, но какой из них вы бы хотели?」
「あ……えっと……」
店員に問われてまごまごする女の子を発見。ロシア語が分からないようだ。
「Я не знаю, какой подарок подарить, поэтому покажите, пожалуйста.」
「я получил」
横から店員に言うと、彼はラバーストラップが三つほど付いた板を出してきた。お菓子を買った時に付いてくる景品だ。
「あ、これ。黒猫さん、下さい!」
少女が指を指すと店員は理解したらしく、包装紙に包まれたラバストを彼女に渡す。
俺は店員に話しかける。ここにいる連中は全員すぱしーばなので、問題はない。
「(こっちの言葉を早く覚えた方がいいぞ)」
「(お手間をかけさせてすいません、こよみ様)」
「(大したことじゃないよ……俺も買お)」
「(黒猫さんは今ので終わりっす)」
「(……残りは?)」
「(シャネルカと神夜姫ッス)」
「(……両方もらおう)」
これ、フラップイヤーのデビュー曲のタイアップ企画か。ポケットに入れられるサイズのチョコレート菓子の袋が六個ほど買った……後でプリムラとダマスケナにあげよ。
会計を済ませて廊下に出る。自動ドアの音はいつものミュージック。ついふぁみふぁみと歌いたくなるなぁ。
「あ、あの。どうもありがとうございました」
「え?」
さっきの少女が待っていた。
……出来ればスルーしてほしかった。
この状態で彼女と会うのは初めてだから。
「すぱしーばの中で、日本の方に会うのはあまりないので……ご迷惑でしたか?」
「ああ……いや、別に」
彼女の言うとおり、日本人はほぼいない。そんな中にいる彼女は当然関係者である。
膝丈のフレアスカートに少し長めの茶色のジレ、桃色のカーディガンを着ている。いつものようにガーリーな服装の少女はぺこりとお辞儀をした。
「はじめまして。私、葉桜六花といいます。殿田さん……と言うと、ひょっとして……?」
いつものようにおはよー、とは言えないよなぁ。俺の社員証を目ざとくチェックしていたのだろう。
仕方がないので挨拶するとしよう。
架空の娘とはいえ、その同僚だからな。
「娘がお世話になってます。父の殿田暦といいます」
「やっぱり♪ 外国に行ってるって聞いてたんですけど、帰ってたのですね?」
「ええ、まあ」
「莉姫ちゃんとは会いましたか? 今日もレッスンに来ている筈ですけど……」
すごく嬉しそうに喜んでくれている。
ええ子やなぁ……
「もう会いました」
「そうですか。あの……不躾ですが、海外赴任というのはいつまでなんですか?」
「今のところ、なんとも言えない状況でして。年内は無理でしょうね」
チャンネル登録数が百万超えればすぐにでも戻ってくるけど、年内は絶対ムリだし……場合によったら永遠に戻ってこれなくなる。実際はここにいるのだけどね。
そんなわけで、当たり障りのない嘘をつく。
「そうなんですか……莉姫ちゃんのことを考えると、ちょっと心配で」
「心配……?」
「お話してると、時々寂しそうな表情をするので……やっぱりお父さんが恋しいのかなって」
……それはないな。
なんか考えてる時の事じゃないだろうか?
配信の内容とか、今日の晩飯とか。他のVtuberの配信を見る順番とかも悩むし。
「ははっ」
「な、なんで笑うんですか?」
思わず笑ってしまったが、それに顔を赤くして反論してくる六花。意外と物怖じしない子なのだ。
「ああ、失礼。あいつがそんなしおらしいたまかと思いましてね。どうせゲームやアニメ三昧で喜んでるんじゃないですかね?」
俺自身の感想だから間違ってない。
そう言うと、彼女は少し頷く。やはり概ねそうは思っていたのだろう。
「いつも嬉しそうにしてるので、時折そうした顔をすると……とても気になるんです。私は年上だけど、なんにも出来なくて……だから、少しでも長く、一緒にいてあげて欲しいんです」
なるほど。そう見えてしまうというのは気付かなかった。立場や環境によって見方は様々。彼女はとても親身に考えてくれているらしい。
「分かりました。なるべくそう心掛けます」
「ありがとうございます。それに……すみませんでした。差し出口をたたいてしまって」
ぺこりとお辞儀をする葉桜さん。良く出来たお嬢さんだと思ってはいたが、とてもしっかりしている。黒猫はもう少し見習った方がいい。
「……でも、今宵ちゃんから聞かされていた感じと随分違うので驚きました。とっても優しそうで」
「いえ、優しそうだなんて……ははは……は?」
いま、なんて言ったのだろうか?
今宵、と言わなかったか?
「あれ? 今宵ちゃん、知りませんか? 彼女が知り合いだって言ってましたから、てっきり……」
い、いや。
知っている。
黒音専務の娘、今宵は知っている。
問題なのは、なぜここで、今宵が俺の話を六花にしたのか、だ。
すると、六花は先程のラバストを顔の前に出してちょこちょこと動かした。まるで人形劇のように。
「ふはは♪ まだ気付かないかにゃ?」
「…………ま、さ、か」
「はい♪ そのまさかですよっ 黒猫燦の中の人は、今宵ちゃんなのです!」
…………六花のモノマネは、とてもよく似ていたと思った。