気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
謝らなければならない。
というか、湊に告げ口しない様に口止めしないといけない。当然、私に殺害とか脅迫とかはできるわけないので、謝って許してもらうしかないのだ。
『荒らしの後に燦のコメントが来て、安心した』
湊は私がアカウントの切り替えが出来ないと思いこんでいるみたいだけど、舞い上がってなければそれぐらいよゆーなのだ。
まあ……配信が終わる頃にはなんだか悪い気がして、『ゴメン』とメッセージは送ったけど。
あの子は年のわりに頭が回りそうなので、その言葉だけでも理解してくれそうな気もした。
でも、湊に告げ口しないとは限らない。私みたく、ぽろっと口を滑らせる事もあるんだ。
会って、きちんと釘を刺しておきたい。
そんなわけで、ママに話を聞いてみた。最近交流があったという話は聞いていたけど、あの子の事はまともに聞いてなかった気がする。
戦いに勝つには敵を知る。わたし、なんて頭いいんだろうか? 天才じゃない?
ママは少し躊躇いながら話してくれた。
──少し、考え過ぎだったかも、しれない。
というか、疑心暗鬼というか……先入観というか。
私のことを(燦のことだよ?)を推しと言って憚らないあの子は、ママから見てもしっかりした子のようだ。お父さんの海外赴任を中学生でありながら受け入れてしまうなんて、私にはムリだ。
日本語を普通に話しているけど(少し口が悪くておしおきされてばかり)、どうやら海外の国で産まれた……所謂ハーフというやつらしい。日本人にしては、あの青い瞳はおかしいとは思ったけど、それならなっとく。
ママも全部知ってる訳じゃないみたいで、それでも『同業者なら、仲良くしてあげてほしい』と私に言ってくるくらいには認めている感じだ。
正直言っちゃうと、なんかくやしい。
私より年下でちっちゃいのに、ママに気に入られている。アイツの娘という付加価値がそうさせているのだろう。
私は、意を決して聞いてみた。
「再婚とか……考えてる? その、アイツと」
私だって、もう高校生。
ママがそう考えているなら、後押ししてもいいかなとも思えるようになっている。
子供の頃は、取られまいと必死に抵抗したけど……わかるでしょ? 知らないおっさんにママが取られるとか、イヤじゃん!
私自身は前世おっさんで、そういうもんだと理解はできる。でも、感情はそうじゃなかった。身体の持つ感情に、引っ張られた感覚はこの頃自覚した。
思うに、人に対して距離を取るようになったのも、この事件がきっかけのような気もする。
人の考えがわからない。
様子を見るために距離をおこう。
私の大切なものを奪うやつかもしれない。
用心のためにもっと離れよう。
そうしているうちに、私は人との距離が分からなくなった……のかもしれない。こじつけの様な気もするけど、アイツのせいと思っておけば気持ちが落ち着いたのでそう思いこんだ。うん、アイツが悪い。
たぶん、その先入観から……こよみという名に嫌悪感を抱くようになったのだと、思う。
『そんなつもりはない。私にはお前がいるから……』
ママはそう言うけど。たぶんそれは嘘だ。今でも未練があるに違いない。
でなければ、その子供のことをこんなに気にするはずがない。
『湊に聞いていたのとは些か違っていた。お前には言っておいた方がいいかもしれないから教えておくが……』
え。
ホントに?
ママから聞いた言葉に、俄然私は興味を引いた。
だって……娘なのに、アイツの事が好きみたいって……どどど、同衾までしてるって……ちゅーがくせいなのに……?
はっきり言いましょう。
私は性根がおっさんなので、こういう話は大好きである!
前のめりになって聞く姿に、ママがドン引きしているけどかまやしない。私は彼女の事を、より知りたくなった。
ただ、ママもそんなに多くの事は知らないようだった。それはまあ、そうだろう。今までいるかどうかも分からない子供の事なんて分かるわけもない。
なら、自分で調べるしかない。
私にしては、たぶん激レアな行動と言えたけど……それでもこの衝動は抑え難い。
私はDisRoad越しに連絡をとった。
『余人を交えず、貴殿と二人きりにて話し合いたく候』
『(笑)。早めに行かないとダメですか?』
やはりこのノリについてくるか。
本当にやられるとあの子が補導されちゃうので、十六時に駅前とだけ書いて、送信。
この頃には、謝らなきゃという重圧を感じることは無かった。
アイツだと……たぶん気後れしただろう。
ただ、その娘だと話は変わってくる。
『可愛かった……もんね』
日本人形のような外見、髪は黒だけど光の加減で青っぽく見える艷やかなロングヘア。あどけない丸めの顔に、やや垂れ目気味のくりくりとした青い瞳。見た目だけでどストライクだった。
背が小さいことを悩んでいた自分よりさらに背が低い事も好印象だ。これは向こうが年下だという事もある。ただ、経験上中学生くらいからぐんぐんと伸びる子はあんまりいない。自分もそうだったのだ。もちろん運動部に属していたりすると違うのだろうけど……おそらく、体型は変わらないだろう。
それと、ほぼ凹凸のなさそうな胸。
これもいい。
Vtuberとして胸の無いのを揶揄されてキレる事はある。だが、勘違いしないで欲しい。
無い胸が嫌いとは言っていないっ!
あえて二度言おう。
貧乳がキライなんて、一言も言ってはいないっ!
胸が無い事を気にして恥ずかしがったり、負け惜しみを言ったり、平静を装おうとしてキョドったり、ジト目で睨んできたり、落ち込んだり……そういったシチュは、前世から大好物なのだ。
自分がそう扱われるのは嫌だけど、見る分にはいい。わたしは自己中なのである。うん。
あの子もその辺は気にしているのか、自分の体型の話が振られるとキョどるフシがある。その辺でマウントとって優越感に浸るなど……愉悦としか言えない。グフフ
そんなわけでわたしはすっかり楽しみにしていたのだ。放課後に居残りしていたのもそんな理由。
普通の人は外で待てばいいじゃん、と言うかもしれない。でも、私にはムリだ。一人でス○バでコーヒータイムを洒落こみつつ待ち時間を過ごすなんてムリムリ。
だから学校で時間を潰す。教室は基本的に放課後に来る人はあんまりいない(いないとは言ってない)。これは私がよくやる作戦なのである。
「黒音さん、まだ帰らないの?」
「にゃっ? あ、うん……」
いないとは言ってない(二度目)
たまにこうしてニアミスする事もある。ただ、この人で助かった。
何度か会ってるし、何度か強引なお誘いを受けた時に助けてくれたのだ。しかも、自分からその恩を着せたりしないナイスガイ(注、女の子です)
名前も聞いたはずだけど、基本ぼっちの私は人の顔を覚えるのが苦手なのでまだ記憶するに至っていない。そろそろ覚えられると思うけど。
「学園祭、大変だったっしょ。あいつら悪ノリするから。黒音さんも、イヤならちゃんと言ったほうがいいよ? なんなら私から言うし」
「ふえっ? だ、だいじょうぶ、だよ? 楽しかったし」
私が嫌だと言ったから注意したとか、後で私に矛先向くじゃん。そんな事言わんでええから。
そんな他愛もない話をしてたら、予定していた時間に遅れてしまった。あの人のせいだ……むぐぐ。
焦って走っても、歩くのとそんなに変わらない。でも、やっぱり遅れるのは失礼だし。そんな感じで駅前に来ると……あの子がいた。
「まあ、ガバ言うほどではないか」
ガバ? M1911のこと?(←アリアで知った)
ともかく誰かと電話してるみたいだ。声をかけようとするも、やはりうまくは出ない。
「まっ……た?」
あの子が振り向く。
山百合の制服のスカートがひらりと舞い、二つに纏めた長い髪も同じように揺れる。
振り向いたあの子は、なんだかぼうっとしていた。……なに?
私が再度聞くと、しどろもどろといった感じで答えてきた。
「……あ、ああ。はい、一応そうなってます、はい」
配信の時に聞くような整った声じゃない。
たぶんこれが普段の声なんだろう。子供らしい少し低音の残る、でも基本は高めの声色……ヤバいな、この声もいい。
「殿田
咳払いをしてからキリッとした表情になって挨拶をしてくる。こっちも返すけど、うまくいかない。くそう、コミュ障の身が恨めしい。
立ち話もなんだからとあの子が言うけど、外食系の店はあんまり得意じゃない。湊かママがいないと私にはムリ。
なので考えておいた場所を提示した。
祭先輩と行ったカラオケなら、何度も入った事もある。それに……やっぱりいた。ざよいがこっちを見て驚いている。
「いらっしゃいませー……て、古詠未? それにまあ、君もか」
む。それに、だと。あの子の方が優先順位が高くなったということですか、そうですか。ふーん……まあいいや。
「サラッと名前出さんでよ、ねー様」
「そっちも仕返ししてるじゃんw」
人前でライバー名を出すのはNG。ざよいさん、分かってる?
それはそうと、自然に『ねー様』とか言っちゃうんだ……へえー。
あの過度なアプローチのため、私はコイツが苦手なのだ。だが、あの子は全く気にせずに親しげに話している。私もアーカイブで見たけど、執拗なアプローチにめげてたにも関わらずこの関係でいられるというのは……にわかに信じ難い。
「……本当に、仲いいんだ。びっくり」
そう呟いたけど、二人は気にした様子もなくやり取りしている。
……なんだ。
コミュ障なんて、嘘じゃん。
時間を聞いてきたので二時間と答えると大丈夫? と心配された。
「わ、私も少しずつ、成長してるから……話もあるし」
全く成長してないのに、対抗心からそう答えた……一時間でよかったかも、とは言えない。
ざよいの押さえた部屋は、いつものお部屋である。まあ、慣れてる所の方がありがたいので定位置に座る。何か飲む? と聞いてくるので『なんでも』と答える。
わたしの推しを公言するなら、私の好きな飲み物くらい分かるだらぁ?(←クズい)
そんな感じでマウント取ろうとしたら、普通にお茶いれてきたよ! 違うだろ? マク○ナルド好きな人間なんだから、コ○ラやろが!
世界一売れてるから一番美味しいんじゃ、そんなこともわからんのか 素人が!(←Q.E.D.)
……と、イキろうと思ってたんだけど……ママの好きなジャスミン茶じゃねえの。
……私も嫌いじゃないんだよね……
「それは良かった。コーヒーとか苦手そうなイメージだったからこれにしたけど、苦手な人もいるからね〜」
爽やかに笑いやがって……ち、許してやらァっ(クソ雑魚感)
二人して茶を飲んでいると、ざよいが頼みもしないケーキを持ってきた。さては、賄賂か? お主も悪よのぅ。
どうも私に対しての賄賂ではなく、あの子への援護らしい。ま、いいけど。あと、自然にウインクとかやめてね、キモい。
どうでもいいけど、この二人本当の姉妹じゃないのってくらい仲いいな。軽口の応酬とか私なんかしたことない。……羨ましくなんかないから。
ケーキは二種類。チョコレートケーキに手を伸ばそうとしたけど、年下に先に選ばせた方がいいよね。聞いたら、両方いってもいいとか言うし。一人で二つも食えるかって。体裁悪いやろっ!
そしたら、ざよい召喚して半分ずつにしやがった。……ま、まあ。そっちも気にはなってたけどね。
「ざよいって……気の回る人だったんだね」
「可愛い女の子見ると張り切り過ぎちゃうだけッスよ?」
可愛いとか、とーぜんだし。
まあ……本当のところはこの子のためだろうなとは分かってる。
和んでいる場合でもないので話を始める事にする。時間はあまり無いんだ。
話そうと意気込むと、あの子はこちらをじっと見てくる。……うう、やめろ……人に見られるのは慣れてないんだ……
私の思いが通じたのか、視線を外してくれた。なんだか顔が赤い気がするけど、少し暖房がキツイのかも。
父親と関係を確認してから、まず切り出した。
「わたしは、あの人が嫌いだった」
親を嫌いと言われて、納得する子供はあんまりいないと思う。私なんて絶対しないし。でも、この子は「あー……」と呟いてから肯定するような事を言ってきた。
「デリカシー無いッスからね、親父」
父親と母親との差もあるのかもしれない。
しょうがねえよなって、思う所も理解は出来るからね。ほら、前世男だし。
でも、ここはそれを追求するところじゃない。私の罪をさらけ出すところなんだ。
彼女の父親に対しての気持ち。
うまく伝えられたか、自信はなかったけど……あの子は理解してくれたみたいだ。
小学校に入る前くらいに会った彼に対して強く反発したこと。
ママを取られたくない一心でやったということ。
そんな気持ちとごちゃまぜにして、あなたを嫌っていたということ。
「迷惑でしたか?」
「め、迷惑とかじゃなくって……その、どう応えていいか、分からなくて」
目をそらしながら、彼女が聞いてくる。答えた私の言葉は、半分正解で半分は間違いだった。
あの子の動画が流れていたのは、二回目の配信後らしい。はじめは『可愛い子の慌てふためく神動画!』と思って眺めていた。
私は彼女の名前は知らなかった。
彼女の名前を知ったのは、リスナーの書き込みからである。私を『推し』ている、別企業のVtuber。
名前は『姫乃古詠未』……こよみ。
このときはまだ、ささくれのようなものだった。
だけど、その後で湊に接触していたことを知り……段々と歪んでいったのだ。
気がついたら、配信に荒らしコメ書き込むようになっていた。別のパソコンで、別のアカウントでログインして。
まるで懺悔をするような気持ちだった。
なのに。
「それは、気にしてないのでいいッス」
あっさり許しやがった。
湊といちゃいちゃしてたのを腹を立ててたように言っちゃうし。そんなんじゃないわいっ (そうだけど)
それから、彼女は湊と会った時の話を始めた。
困り果てていた自分を見かねて助け舟を出した湊の事を聞いて、私はちょっと感動してしまった。
いかに可愛い子だからって、そんなふうに手を貸せる人はそうはいない。やっぱりゆいままは天使だったんだっ!(素直)
話してる最中に、こっちにショコラトルテの乗った皿を押してくるので聞いてみたら、「ご飯が食べられなくなると家政婦が悲しむ」とか言ってた。それじゃ仕方ないねっ♪
話してみて分かったけど、コイツ自身はすごく良い子なんじゃないかって、思えてきた。(←だまされやすい)
悪しざまな言い方にも反論はしないし、かわいいし、お父さん嫌いって言っても反発しないし、湊の良さを理解してるし、ケーキもくれるし。
話すことは苦手だけど……そうすることでわかる事もある。
はにかむように笑うこの子を見ていると、やっぱり来てよかったと思えた。
本当にあっという間の時間が過ぎて、辺りはすっかり夜になっていた。さっきママに連絡をしたら、彼女にも来てもらえと連絡があったのでそうしてもらう事にした。
……こ、怖くなんてないからね?
一人で帰る事だって出来るんだから(夜はムリ)
そんなふうに尻込みしてたら、左手に暖かい感触。
「あ……」
「いやなら、やめるけど」
「ううん、大丈夫。ありがと」
彼女が、手をつないでくれていた。
私よりちっちゃい手で。
私が怖がりだという事を知っているから。
ウハーッ! かわいいなァーッ!!
こんな妹ほしいなーっ
ざよいなんかにゃ勿体ないよ、私の
内面では浮かれまくっていても、それを表に出さないのがわたしクオリティ。オーケー?
穏やかに安心したように笑うと、彼女もにへらっと笑ってくれた。
『もう……満足』
感謝っ……! 圧倒的感謝っ……!(←言わずもがな)
途中、警官が呼び掛けてきたけど。
「お姉ちゃんと帰るところですっ」
はっきり答えて追い返した(彼女の主観です)
私ならキョどるの間違いナシなのに、堂々と『お姉ちゃん』と言ってくれた……
さっき満足と言ったけど、アレはナシ。
こう言うべきだろう。
『私に……天使が舞い降りた』
いや、自分よりおっきい私を身を呈して守ってくれるとか、どう考えても天使でしょ? あ? 落ち着け? 馬鹿な、私は冷静だっ(←坊やかよ)
そんなこんなで帰宅したら、ママが下で待っていた。そのまま車で送るらしいので、私もついて行った。
後部座席の彼女は、借りてきた猫のようにちんまりしている。ママの前だと萎縮しているのかもしれない。……まあ、怖いからねっ!
「「ありがとうございました」」
「気を付けて下さいね」
意外と大きめのマンションの下で、家政婦の双子と一緒に見送ってくれた。小さい手をブンブンと振る姿が微笑ましい……
送り届けたあと、帰宅する最中にママに聞いてみた。
「ママ。ホントに再婚する気はないの?」
「無いわよ。なんでそんなこと聞くの?」
「んにゃー……べつに」
「ふうん……」
なんとなく悟られているような気がする……すると、ママは呟くように言う。
「あの子とは、もう会わない方がいいわ」
「…………え?」
いきなり冷水ぶっかけられる感じに、驚く私。
続けた言葉はもっと辛辣だった。
「『姫乃古詠未』との接触も控えて。あるてまの方にも連絡は入れるけど、それまではあの子と接触しないで」
何を言っているのか、分からない。
え? だって……気にかけてほしいって、同業者なら仲良くしてやってって、言ったじゃない?
「思った以上にヤバいことになってるの。たぶんこの車も盗聴されてるし」
「ママ、何言ってるの? そんな映画みたいなこと……」
確かにすぱしーばが先進的な技術を有しているという話は出ていたけど……そんなまさか。
「ともかく。お願い」
あまりにも真面目すぎるママの横顔に。
私は、それ以上何も言えなかった。
ウチの黒猫さんはかなりネタ好き。
異論は認めます(当たり前)
あと、黒猫の人物像もかなり変わっちゃってるかと思います。色々とご指摘あれば、感想の方へ宜しくお願いしますm(_ _)m