気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
「あ。やられた……」
「粘ると思ってたら終わる時はあっさりだな」
「もっと投擲使うべき。囲まれる前に潰さんと」
「お前らが先にやられてなければいい話だろ。特に我王、ゆき使ってんならちゃんと避けろ」
「殿下が突出し過ぎるから守りづらいんだよ」
「しかし、アタッカー単騎じゃ難しいか。キャラ変えてみよう」
今日はまったり他のVtuberさん達の配信を眺めている。正確には自分の配信はついさっき終わったところで、そのままPCの前に座っているのだ。
眺めているのはねー様こと十六夜桜花のチャンネルであり、コラボ配信のため三人のゲストが招かれている。
「ねー様、三人とコラボとか……成長したなぁ」
「そうなのですか?」
おにぎりを持ってきたプリムラが聞いてくる。彼女はダマスケナよりは見ないので知らないのか。
「それまでコラボ一人が普通だったのに、いきなり三人とか。キャパ超えてフリーズしたりはしないだろうけど……感慨深いねえ」
思わず腕組み勢になっちゃうけど、これは快挙なのである。常ながらに『粘着質』『ガチの百合』など言われ続けた彼女に付き合ってくれる人が増えるなんて……感動巨編とも言える。
「なるべく早くお召し上がり下さい。九時を超えての食事は体に良くないらしいので」
「へーい。いただきます」
手を合わせてから、おにぎりを頬張る。鮭といくらの入った豪華版のおにぎりだ。程よい力加減で作られたそれは、口に入れるとほろほろとほどけ、具材とまぶした塩と、米の甘みが渾然一体となって味わえる。
「うーん……やっぱ、日本人だなぁー」
おっさん臭いこと言うけど、今ここには身内しかいないので問題はない。
『配信中ならおしおきするところよ?』
「固いこと言うない」
アイリスが小言のように言う。
一応彼女もラインは決めてあるようで、配信中以外の言動には寛容なのだ。
いつもいつも女の子らしい喋り方なんてしてたら、そのうち女の子みたいになっちまう。
そいつは少し勘弁して下せぇってな。
『このゲーム、学校でエルゼとか言う子がやってたアレよね?』
「ああ。あっちはストーリーモードだけど、こっちはCo-opモードだな。イベントごとのチェックポイントを通過してゴールに着くまでの得点を競うんだ」
倒した『かれら』の数、コンボ、タイムによって算出されたスコアはオンライン上で代表アカウントの名前で登録される。
世界には色んなTPSがあったりするが、その中でも今一番注目されているタイトルである。
その名も『がっこうぐらし-オルタナティブ-』。前作がバージョンアップを繰り返す中で得られたデータを最大限に利用する事で様々なキャラクターを使用することが可能になった。
デフォルトでは『くるみ』『ゆうり』『みき』『ゆき』の四人しか使えないが、ストーリーモードをクリアする事でその他のプレイアブルキャラが開放されていく。
元々は生存していない『めぐみ』や『たかえ』の他、前作でのその他のキャラ作成からランダムに出てきたキャラクターもほぼ出てくるようになった。
もちろん派生ストーリーなども存在しているのでストーリーモードだけでも面白いのだが、Co-opもアツい。
代表アカウント以外が開放したキャラも使えるので、自分の所にいないキャラを使えるのだ。これはお試しのようなもので、気に入ったら出てくるまでキャラメイクを繰り返すか、面倒なら有償石を購入してのスカウトで入手出来る。
そんな面倒な事はしないと言うならデフォルトキャラを使うまでだが、これがなかなかに厳しい。元々の設定が普通の高校生なのでどれも似たようなスペックであり、近接戦に関してはくるみが抜けている、となっている。
「魔法を使える子はいないの?」
「流石にいないな……と言いたいところだが似た感じのやつはいる。イマジナリー化すると攻撃は喰らわなくなるし、設置物や石ころなんかを投げてぶつけるとか出来る。死んでるけどね」
「こわっ!」
「死んだめぐねぇを生きてるみたいに見てたゆき視点みたいなもんだ。成長もできないし身体能力とかスペックも全部均一で正直キャラ絵が違うだけなんだけど」
「意味なくない?」
「イマジナリー化しても得るものはない。でも、原作が好きな人はテイストとして受け入れてる。あとストーリーモードもめぐねぇ以外無いし」
めぐねぇのイマジナリーストーリーに泣いたファンは多かろう。かく言う俺もその一人だ。
「あーはいはい。もっぺん行こうか」
「是非もなし。余を怒らせるとどうなるか思い知らせてくれる」
「我も構わぬぞ。まだ……あと二時間くらいは」
「意外と早寝だな。お前のことだからゲームで徹夜とか普通だと思ったのに」
「課題が……いや、所用があってな」
「課題言っちゃってるじゃん。まあ、いいや。んじゃ一時までね」
ねー様がそう言ってキャラを選び始める。さっき使っていた『くるみ』が、スコップを振る勇ましい姿が映し出される。RTA界隈ではゴリラの通称で親しまれているが生半可な男キャラより高い筋力はその証か。不動のアタッカーであるが正気度も体力も標準なので回復役は必須。
次に決定したのはベントー王子ことハルキオン殿下。キャラは『ゆうり』。原作では後方での活動が多いし、ここでもヒーラーとなっている。ただ本人の正気度が低いから自ら戦うのは最後の手段とも言える。基本は他の応急処置と食事で体力と正気度を援護するスタイルだ。煌めく包丁が怖いなぁ……
我王のキャラは『ゆき』。近接戦に弱いが飛び道具のトイガンと長モップでの牽制が得意。体が小さいせいで通常攻撃のつかみかかりが半分の確率でスカるという防御の強さもある。ただ、自身でかれらを仕留めるのはかなり難しい。実質タンクの位置にいるけど回避盾なので集団戦は苦手だが正気度はデフォでは一番高い。イマジナリーめぐねぇ見てるのに謎であるが、それを乗り越えたゆえの強さか。
朱音アルマの選んだのは『たかえ』。先ほどは『みき』を使っていたのだが、前衛という事で変更したのだろう。体力、正気度は標準ながら『ゆき』とのコンビネーションがあり、単騎で戦えない彼女のサポート役にもなる。
シャウトによる挑発行動なども出来るので別働隊として動かすと戦力の分散が図れるという側面もある。攻撃手段はモップから金属バットなどの近接から牽制のピックなど。弱点は特に見えないバランス型。原作で助けられたらもう少し楽になってただろうにと思わざるを得ない。
「原作キャラ準拠は見てる方には有り難いけど、オリジナルキャラの方が強いんだよな」
前作までは、主役は原作にいないキャラだった。ランダムで作成されたキャラであり、世界の破滅から学園生活部を手助けして生き抜くのである。ストーリーの骨子は取得スキルや生まれから大体決まっているのだが、その中でも秀逸だったキャラが実装されているのだ。
「『しずく』とか暗闇でも行動出来るし、『もえか』とかくるみ以上のゴリラだし。感染してるけど」
『それって大丈夫なの?』
「関係の強いキャラがいると抑止効果を出してくれる。いきなり発症してガブリっていうのは序盤では起こりづらくて、ステージクリア時に抑制効果のある薬も入手出来る」
『けど、治るわけじゃないんでしょ?』
「まあ、都合よく治るわけはないよ。原作ではくるみも感染してるけど治るまでには紆余曲折あってね」
このゲームは基本的に序盤の私立巡ヶ丘学院からの卒業までしかサポートしていない。つまり、ゲーム中では『治る』ということはないのである。
『なんだか可哀想な話ね』
「ゲームだし、創作だからな?」
「分かってるわよ。でも、希望が無いって状況で生きるのって辛いから……」
「まあ、そうだな。辛い現実に見舞われても明るく生きる事を選んで、最後まで諦めないという強さを見せてくれる。初見で騙された諸兄も多いけど、それだけに留まらない名作だと思うよ」
『少し興味が出てきたわね』
アイリスが乗り気になったので、別画面でゲームを起動する。購入してから立ち上げて、オープニングを見ただけなのでちょうどいい。
配信の方は学校三階での戦闘をしている。
本来は全員屋上まで逃げるとステージクリアだが、ある程度戦って数を減らしておく必要がある。
あと、スキル取得のために経験値を稼ぐ意味もある。
後の成長のために正気度が下がり過ぎないように戦っておくのである。
実際は、普通の生活をしていた高校生女子がモップとかスコップとかですぐ戦い始めるとかありえんのだろうが……まあ、ゲームなので(今更感)
「我王、合わせなっ」
「おうっ!
「勝手に変な名前付けんなっ」
お、ゆき(我王)とたかえ(アルマ)のコンビ技が炸裂した。パチン、というノイズが出るがすぱしーば側からは対処済みらしいので魔法の暴発とかはしない。
画面の中ではかれらに対して足と胸元に同時にモップを叩き込み、倒れた所に二人が頭を踏み付けて叩き潰すというアクションをしている。
たかえはともかく、ゆきのこの戦いぶりは少しアレな気もするが……まあ、ゲームだし戦えないと面白くないものな。
あと、デフォルトの装備以外にも廊下にある物なども大概使えたりする。消火器は殴ってよし、噴霧して撹乱してよしの重要アイテムだし、ロッカーの中には箒やモップ、バケツなんかもある。牽制しか出来ない誰かの靴とか、落ちると音がするキーホルダーなんかも陽動には使えたりするのだ。
「余の
「あ、こら。りーさんで前行くなって言ってるだろっ!」
「オラオラオラオラッ」
「やだこのりーさん、男前ェ……」
ベントー王子がゆうりのフェイタルアタックを使ってる……いや、怖えよ……かれらがズタズタになって倒れる所で笑うとか、りーさんマジやばい。血塗れの包丁とか夢に出るよ。
フェイタルアタックは高威力だけどリスクも大きい。
正気度が下がるし、体力も少し削れる。さらに隙きが大きいので包囲されてる時にやるとマズい事もある。
特にりーさんの『こっちこないでよ』は、一体に与えるダメージは極大だが周りへの巻き込みは殆ど無い。
りーさん(ベントー王子)の周りに迫るかれらをくるみ(ねー様)が薙ぎ払う。
『あれっ? なんかおかしくない?』
「ん?」
アイリスが言うのでゲーム画面の方を覗く。なんだか真っ白の画面になっている。画面上をクリックしてもうんともすんとも言わないので、起動に失敗したみたいだ。たまにあるんだよなぁー。
タスクから閉じるものの、タブも操作出来ない。こりゃあ、PC再起動とかしなきゃならんかな? そう思っていたら、画面が明るくなり始めた。
「なんだ、これ? モニターの光量いじるバグとかあるん?」
『な、なんだか違うような気がする! 魔力反応が高過ぎるわ!』
「ああ? なんだそりゃっ?」
明るかった画面がフラッシュグレネードのように瞬く。俺は正視できずに目を閉じた。
「ねえ、帰ったら一緒に遊ばない?」
「ごめん、今日は塾なんだー」
「えー、ざんねーん」
「は?」
目の前でそう会話する女の子たち。見た感じ小学生のようだが、問題はそこじゃない。
俺は自分の部屋でPCの前にいたはずだ。
周りを見回すと、やはり同じような世代の男の子や女の子がわちゃわちゃと騒いでいる。どうも教室のようであり、俺はそこの席の一つに座っていた。
「……瞬間移動とか?」
「よしんばそうだとしても、昼間になった理由はどうするの?」
なるほど、たしかに。
いつもより明瞭なアイリスの声が横から飛んでくる。
そちらを見るとよく知る顔が立っていた。
「お、お前……アイリスか? なんでその恰好なん?」
俺の隣には、少し幼い感じのアバターの古詠未が座っていた。しかし、そこから出てくるセリフはまさしくアイリスである。
「……あー、私のことより自分の方を心配したほうがいいかも」
「え? てか分離してる? 俺、おっさん化してんの?」
「それならまだ分かるんだけど……ねえ」
「んー? なに、こよみちゃん?」
アイリスが近くの橙色の髪の女の子に声をかけた。手鏡を借りたようで、それをこちらに向けると知らない幼女が映し出された。こちらを見てポカンとしている。
「は……? え、なに。誰これ」
「名前は『若狭瑠莉』って書いてあるわね」
「はあっ?」
胸元の名札を指差す古詠未の姿をしたアイリス。
そこには確かに四年三組、若狭瑠莉と書いてあった。ちなみにアイリスの名札は姫乃古詠未と書かれていた。服装は山百合初等部の制服で、花冠は付けておらずスミレの髪飾りである。
対して俺の恰好は、どこにでもいるような小学生女子である。顔立ちは莉姫ではなくてもっと幼く、人懐っこそうな感じだ。手をにぎにぎしてみると、自分の身体だと分かるんだけど……また別の身体かー。
「それにしても……なんだこの状況は?」
「この恰好から推測するに、電脳空間っぽいけど」
古詠未(混乱するのでこれで統一する)がそう答えた。となると……ここはまさか。
教室の掲示板に貼られている告知の紙に書かれている署名がそれを表していた。
『公立
あの惨劇が始まる、ほんの少し前。
その渦中に放り込まれたと、ようやく理解した。
ゲームの世界へご招待となりましたが、どうなりますやら。なお、原作がっこうぐらしにおいては悠里の妹の名前は『るーちゃん』としか呼ばれてません。