気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
場面は放課後の教室。
教室の中で談笑する子どもたちの中に瑠莉と、古詠未の姿がある。そこに橙色の髪の女の子が近づき、瑠莉に手鏡を貸していた。
瑠莉(るり)って字が違うよね?
瑠璃が正解だね
るーちゃんだから別にいいよ
にしても、るーちゃんかわいい♪
どことなくこよみんの中の人に似てるな
おかっぱロングな。でもりーさんみたく髪まとめてるよね
しかも両側。これがグーマちゃんと被った理由か
わかりみ。クマの耳みたいだね
鏡見てるおしゃれさん
うわー、千寿万里花ちゃんいるぅーw
なんか無駄にクオリティ高いな
本編より細かくね?
カメラは三人の少女に近づく。
今まで聞こえなかった会話も聞こえてきた。
「るー。むずかしい顔して、どした?」
「りーねぇ……巡ヶ丘学院に寄ろうかなって思って。ここからだとどれくらいかかるかな?」
「こうこう? こっからだと歩いて三十分くらいじゃね? なんだー、りーねぇの所に行くのか? なら、アタシも行くぞー♪」
「なら、私も行くわ。一人じゃ帰り方もわからないし」
「ゴメンね、こよみちゃん」
「いいわよー。この街に慣れるにはいい機会だもん」
古詠未は転校生なのね
こんな時に転校とか不幸すぎるw
どこでも起こってるからカンケーなくね?
むしろ豪運かも
巡ヶ丘学院があるからな
けどこのタイミングだと着く前にガブられね?
ここに居ても同じだし
「よみはおとなりさんなんだよな。いーなー」
「いや、よみって略し方やめてくんない?」
「なんでぇー?」
「なんか太りやすくなりそうなの」
「? 意味わかんない」
「そういう漫画が昔あったの!」
こよみん、若狭さんちのお隣なのね
るーちゃんとの接点あるだろうからね
ここでもヲタかよ、こよみんw
性根からヲタクやぞ
三子の魂ってやつか……
あずま○が大王、知ってる?
しって……いや、知らんな(すっとぼけ)
年がバレるか
いやいや、親の本やで? ホンマやで
てか、るーちゃんなんで筆箱開けてんの?
ポッケに入れたな
まさか準備してる?
んなアホな。とは言い切れんか
昇降口で傘二本持ったな
これから起こること理解してそうで草
こよみん、傘断っとるな
ヴァイオリンケースあるしな
これ初期装備っぽいし
中の絶対壊れるわw
校庭から通学路へ。しかし、先導する万里花がすぐ側の路地へと入る。
おいおい、裏道歩き始めたぞ?
ああ、でも確かに間違っちゃいないかな?
ガキの頃、こんなトコ通ったな
俺も。近所のじーさんとか怒ってたw
ワイはそんなガキ共に菓子をやったぞ?(自語)
じーさま乙
じーさんいてワロタ
懐かれて何度も来てくれたぞ?(隙自語)
唐突にイイ話やめろよ
ほっこりしたw
ドブ川を渡るときに爆発が響き、驚く瑠莉が橋から落ちそうになる。QTEが発生して、咄嗟に古詠未が手を伸ばして助ける事に成功する。
あ、爆発した
そろそろ来てるな
うん、QTE成功
これイベントだったのか
るーちゃん、なんかまりーと力比べ始めた
あっさり負けたw
るーちゃん、最低筋力だもんな、たぶん
はぐはぐ♪
こんなハグされてぇ
百合の間に挟まると……死ぬぜ?
こよみんジト目草
こよみんなら挟まってもいいか
なにそれ天国かよw
次は塀の上を歩く。
コントローラーを左右に動かし、難なく移動する古詠未。前を行く万里花と瑠莉も、そろそろと動いている。
あー、女の子がそんな塀とか歩いちゃいけませんw
カメラアングルが絶妙すぎて笑う
見えるか見えないかのギリギリ狙ってるねw
みえ、みえ……ないっ!
マンションの横を抜ける時のアクシデントのシーン。コメントの流れがにわかに早くなる。
うわ……凄いな、質感
本編より作り込んでて草
いや、リアルだな〜
三人とも顔引きつってるじゃん
ようじょの泣き顔、ハアハア
おまわりさんコイツですw
正直な話、こうなると警察とか役立たんもんなぁ
るーちゃん、ナイスプレイ!
おう、ちゃんと逃げられたな
見てるほうがヒヤヒヤするよ
公園で休む三人。
そこに子供の『かれら』がやってきた。
すると、瑠莉が立ち上がり傘を持って相対する。
「るー、だめだよ!」
「じゃあ、どうするのっ?」
「逃げるわよっ」
持ち物を持って反対側に行こうとする三人だが、そちらからは二人の大人の『かれら』が来る。虚ろな目に、血に汚れた恰好。どう見ても正常な様子ではない。
「あ、」
「ひぐっ?」
「まりー、その学校の方向はどっち? 今までみたいな道で行けるの?」
「あ、あっちだよっ でも、こっからはおっきい通りしかなくて」
大人たちが来たほうを指差す万里花。そこへ走ってくる別の大人がいた。
「シュ!」
そして、あっという間に大人の『かれら』を叩き伏せる。的確に首の辺りに突きこまれた凶器で引き倒し、頭を蹴り飛ばす。まるでサッカーボールのように頭が転がる様子を目の当たりにして、幼子たちは声を引きつらせる。
「君たち、平気かい?」
「「ひぐっ……」」
「もう少し配慮しなさいよ。こっちは子供なのよ?」
「ああ、ゴメン。それよりこの先の巡ヶ丘学院に避難したまえ。あそこなら避難所としては申し分ない」
……だれ?
たぶん『お兄さん』じゃね?
顔が少し違くない?
ランダムメイクのキャラだし、たぶん
使ってるのピッケルだからそうだろ
なんにしても天の助け
「案内したいのも山々だが、そういうわけにもいかなくてね。早くなさい」
彼はそう言うと、行きがけの駄賃のように子供の『かれら』も蹴り飛ばしていく。
呆然とする彼女たちだが、すぐに行くべき場所へと移動を開始する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
戦うかと思ったが、身体がすくんだ。
今まで一度も経験したことが無かった。
やらなければやられるという危機感に苛まれていたのに、身体が動かなかった。
少しずつ躙りよる子供の『かれら』に二人の大人の『かれら』。涙がこぼれそうになっているが、目を逸らすことも出来ない。
『こんなに、こわいことなんだ』
今まで感じたことの無かった『恐怖心』というもの。
そして、それは抱き合うようにしている万里花や古詠未も同じだ。
突然現れた大人が、二人の大人の『かれら』をなぎ倒す。その光景も、なから呆然と眺めていた。
「君たち平気かい?」
なんでもないように言うその男は、当たり前のように『かれら』を殺した。その精神性に恐怖を感じ声がひきつるが、古詠未は気丈にも男に食ってかかった。
「もう少し配慮しなさいよ。こっちは子供なのよ?」
全然済まないように見えない謝罪をして、彼は後ろに近づいていた子供の『かれら』も倒して行ってしまった。
ガクガクと震える俺と万里花を焚きつけるように古詠未が言う。
「さあ、行くわよ。避難所ならまともな大人もいるかもしれないし」
差し出した手を握る。
思えば、古詠未として手を握ることはあったけど。
大通りをとてとて走る。
その有様は凄惨というしかない。
あちこちにぶつかったりした車が止まり、そのために立ち往生する車。そこに逃げ惑う人々と『かれら』が右往左往する。飛び込んできたバイクに飛ばされる『かれら』。転倒した人間に覆い被さる『かれら』に鉄パイプのような物を振り下ろし、その横合いから別の『かれら』が組み付いて腕の肉をかみちぎり。そうしてまた『かれら』が増えていく。
絶叫と悲鳴と、怒号と悲嘆と。
それらがまた、『かれら』を呼び寄せる。幼子が泣き叫び、その母親もろとも『かれら』に飲み込まれる。
車に飛び込んで逃げようとする人に、乗せてくれと哀願するサラリーマン。だが、彼を跳ね飛ばして車が発進する。その先の道は、もう通れないのに。
「やっぱり、音によって来るんだ」
「そうみたいね」
確認のために呟いた言葉に、後ろを走る古詠未が答える。
「こっちでいいんだよね?」
「う、うん」
万里花が言葉少なく答える。
と、ふらりと来た『かれら』が立ち塞がる。
こころを強く持って、握りこんだ傘を振る。
狙いは足元。
非力な少女でも、上手く狙えれば転倒ぐらいさせられる。目論見は成功して、それが前のめりに倒れる横を散開して避ける。
「るー、すごっ!」
「まりー、声出しちゃメッ」
「よい、しょっ」
万里花の声に俯いていた『かれら』が顔を上げるが、古詠未が狙いすましたようにヴァイオリンケースで殴り飛ばす。そいつは首が変な方向に曲がったまま、倒れ伏す。
「よみもやるなっ」
「あー、ケース汚れちゃった」
「むだばなししない。いくよっ」
倒れただけの『かれら』が起き上がる前に離れる。周りの喧騒も相まって、意外とこちらに向かってくるのは少なかった。
「つぎはあたしも」
傘を持つ手を握りしめ、万里花がやる気を見せている。でも、出来れば倒さない方が良いのだ。トドメとか刺すと間違いなく正気度が下がるだろう。先ほどからの恐怖心とかもこれが関わっているに違いない。
「無理に戦わなくていいのよ?」
「いのちをだいじに、ね」
「そ、そう?」
実のところ、接触するだけでも感染のリスクがある。傷や粘膜に相手の体液とか入るのも危険だ。
だから、逃げる。
小さな体躯を最大限に使って、なんとか学校まで辿り着くが……そこはそこで何も変わらない地獄なのだ。
でも、学園生活部の面々と接触したければならない。巡ヶ丘学園の屋上に辿り着くか、日没を迎えるか。それがストーリー第一章目のクリア条件だ。
校庭のあちこちで流血の惨事が行われているが、対処出来ないので無視する。広いだけあって距離を取ればなんてことはない。
「はあっ、はあっ、はあっ」
この瑠莉の体力のなさ以外は。
息が切れて、立ち止まってしまう。
「るー! はやくぅ!」
万里花が涙目になって慌ててるけど、走り通しの瑠莉にはキツい。この経験もご無沙汰だ。走って息を切らすなんて、おっさん時代でもなかったのだが。
「仕方ないわね」
少し上気しただけの古詠未が、ヴァイオリンをケースから取り出す。
「玄関の辺りまで行って。あいつら引き寄せとくわ」
「よみっ?」
「瑠莉を頼むわ」
そう言うと、彼女は走り出す。
先程までよりも早く。
「あぅ、ちーとくさい、ですぅ……」
他者からみた古詠未のとんでもスペックに、俺は息も絶え絶えにそう呟いた。
校門の近くの木まで行くと、おもむろにヴァイオリンを奏で始める古詠未。不思議なことに、アンプもスピーカーも無しに響く音色がこちらまで届く。
つまり。
こちらに寄ってきていた『かれら』が、吸い寄せられるかのように彼女の方へと集まっていく。よたよたと歩く俺に肩を貸す万里花が素直に驚いている。
「よみ、すげー!」
「むちゃ、しないでよぉ……」
玄関から出てくる『かれら』もいる。
こちらを見ずに、一心に進むはハーメルンに呼び寄せられる鼠のようだ。
十分に集めたと判断したのか古詠未が演奏を止める。当然のように足元には恐ろしい量の『かれら』が居るわけだが、彼女はヴァイオリンを仕舞うと塀に向かってジャンプした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よいしょっ!」
危なげなく狭い塀に着地する。
音に寄せられた『かれら』は学校の中にも外にもいる。落ちたらやられるのは間違いない。
「この程度は造作もないけど」
ゲームの中とはいえ、精霊の力を受け入れた準精霊である自分にはなんてことはない。自分だけならばすぐにでもこの世界から離脱する事すら可能なのだ。
それをしないのは、電脳空間に引きずり込まれた暦(莉姫)の事があるからだ。
『すぐにでも出たいけど、難しいかな?』
アイリスが古詠未のアバターに入るのは、これは当たり前だ。もともと自身の身体であり、電脳空間に借り置きしているのだから。
配信の際にリンクを繋いで莉姫の動きに合わせるのも、その高い追従性もそうした事があったなのだ。
莉姫の身体も、おっさん形態の時は電脳空間に保管される。自動的に保管場所に移るので、問題はないかと思うけど、一抹の不安は残る。
現実で莉姫となっている時のおっさんの身体、つまり暦の身体も同じところに保管されている。電脳空間なので質量云々は大した問題ではない。
むしろ問題は今の暦の存在が、現実に全て無いという事だ。この状態が長く続くと、“アカシアの木”の観測から外れて消失してしまう。
文字通りに存在が抹消されるのだ。
暦の身体はどちらも現実にはあらず、心はなぜか別のキャラクターに入り込んでいる。話し方とかが違い過ぎるけど、こよみさんに間違いはない。ゲームの知識とか私の事をアイリスと分かっているのがその証拠だ。
現実への繋がりが消失しているという事は、そちらの世界が
それは取りも直さず、こよみがかつてそうなったのと同じとなってしまう。
年単位の事でなければ問題は無いだろうが、早く戻るに越した事はない。
『ダマスケナと繋がってたらなぁ』
年の離れた妹は、この手の天才だ。自分がこの世界に来て五年を掛けて構築したものをあっさり数ヶ月で追い抜いた。魔力と電脳空間の扱いで言えば、彼女以上の使い手は居ないだろう。
『
たかがゲームとは侮れない。
ここは魔力の浸潤した本来の意味での仮想現実だ。受けた傷が精神にダメージを与える可能性は否定できない。
『アイリス様っ 聞こえますか?』
「ダマスケナ? 良かった」
願っていた人物からの通信。塀の上に立ったまま、彼女は耳を傾ける。
『現状すぱしーば鯖に不正行為でのアクセスはありません』
「ハッカーとかの仕業じゃないのね?」
『はい。依然として防壁は機能してます。さらにアイリス様がその姿と言う事は、そのゲームの鯖で実行されてはいません。コピーされた物をすぱしーば鯖で展開したため、発生したイレギュラーと推測されます』
このアバターはすぱしーばで管理されている。それと暦さんのPCもすぱしーばに直接アクセス出来る。がぐオルが暦さんのPC経由ですぱしーば鯖にインストールされたということなのだろうか?
『ゲームが進行中のため、サルベージ作業は出来ません。オートセーブって、厄介だなぁっ』
「屋上に行けば章が終わるってこよみが言ってたわ。とりあえず私とこよみが着いたら後はお願い」
『えっ? だんな様が、居るのですか? だって、ストレージ内に……あれ? だんな様と、莉姫様もいる?』
「こよみの心、というか魂が瑠莉ってこの中にいるのっ そっちでは観測出来てないのね?」
『ぱ、パラメータではNPCのままです。隣の万里花、では無いんですね?』
「万里花が、どうかしたの?」
『そちらはプレイヤー選択可能キャラなので』
なるほど。言われてみれば他のクラスメイトより古詠未に興味を持ったり瑠莉の姉と接点があったりと主要キャラのように見える。
「ともかく、サルベージの準備よろしく」
『ご武運を!』
通信を切ると校舎の前に居る二人の方を見る。接近してくる『かれら』に、万里花が傘を振り回して近づけまいとしていた。
「さっせる、もんかぁっ!」
塀の上を全力疾走する古詠未。
『かれら』の少なくなった所に降りると、校舎へ向けて猛ダッシュをする。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「このっ、くんな! あっちいけっ」
傘を振り回す万里花。『かれら』は動きが遅く、回避などは考えない。だから振り回している傘に当たりはする。しかしながら、その程度で動きを止めることはない。
もっと正確に当てなければ。
たとえ傘でも、力がなくても、倒しようはあるのだ。
「えいっ」
持ち手を替えて、柄の方で『かれら』の足を引っ掛ける。思い切り引くと、そのまま脚をすくわれて仰向けに倒れ込んだ。倒すだけならこの方がやりやすいかもしれない。
運が良かったのか、その『かれら』は頭を勢いよくぶつけたようで動かなくなる。
これで少し時間が稼げた。
万里花の方に向くと同じように手を伸ばし、傘の柄で転ばせる。
「おおっ、るーすげぇっ!」
「倒れただけだから。すぐ起き上がってくるよっ」
倒れた間を走り抜ける。
と、その手が動いた。
「ひゃっ!」
「るーっ!?」
足を掴まれ、盛大にコケた。傘が手から離れてしまい手元には武器がない。
じわり。
恐怖が、躙りよってくる。
「ひうっ……」
今までの人生の中で。
一番、無力を感じた。
もっと力が欲しい。
怖くない、怖がらない、心が欲しい。
「だぁあーっ!」
迫りくる死が、地に縫い止められた。
「ふぇ……」
「るーに、てをだすなぁーっ!!」
目を見開いて、歯を食いしばり。
恐ろしい蛮行に手を染める少女が、いた。
上からのしかかり、体重をかけて首の根本に深々と傘を突き刺す。それは違わず『かれら』の共通する弱点を貫いていた。
瑠莉が倒れたとわかるとすぐに戻ってきて、万里花は傘の鋭い方で上から突き刺したのだ。
体重の軽い子供でも、一点に乗せればそれなりの威力になる。やりようによっては子供でも『かれら』と戦うことは出来るということが証明されたわけだ。
なのに、こころは晴れはしない。
友人の有様を見れば、喜べるはずもないのだ。
天真爛漫で、いつもおひさまのように笑っていた万里花の顔に浮かぶのは……凶相といって間違いないものだった。
人だった『かれら』を殺す。
その恐ろしさが、彼女を苦しめているに違いないのだ。
そのせいで。
周りの注意がそれたせいで。
万里花の影から迫る『かれら』に気付けなかった。
「あぐっ!」
「ひっ!」
万里花の肩に。
『かれら』の牙が突き立てられていた。
数の暴力と恐怖心の克服が鍵だと思いますが……簡単にできたら苦労はないよねェ……