気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
がっこうぐらし編はこれで終わります。
毎度のことながら、誤字報告ありがとうございます。
ものすごい痛みが、肩のあたりに広がった。
振り向くと、そこには女の人が噛み付いていた。
「ひぐ……だぁれ?」
「ぐああ……」
けもののような唸り声を出しながら、あたしの肩の肉に齧りつく。その目はにごって、こちらを見てないのに。
あたしは、みうごきできなくなった。
やめて、と手をどけようとするけど。
大人の力にかなうはずもない。
「あ、あ……」
やけるようないたみ。でも、つめたい水をかけられたみたいに身体はさむい。
るーは、ぶじみたいだけど。
すごくおどろいていた。
『ないちゃ、だめだよ……』
はやくにげて。
ことばをいおうとするけど、いたみのせいかうまく言えない。
るーが、ちゃんとにげるまで。
くいとめないと。
あたしはそいつのかみをつかんで、おもいっきり下にひっぱった。いっしょにたおれちゃったけど、それでいい。
あたしのほうにむいてるあいだは、るーにはむかないから。
『ちゃんと、にげてね……』
さっきのおばさんが、やったように。
るーがにげるまでくい止めるんだ。
いたいけど。くるしいけど。
たぶん、もうたすからないから。
だから、るーだけでもいきてて。
押さえつけられて、大きな口があたしをまるのみするように近づいてくる。
ぐしゃ……
いつまでたっても、おわりのいたみがこない。うっすらと目を開けると。
「るー……ぅ?」
あたしのだいじな、ともだちが。
こぶしをまっすぐにつきだしているのが、みえた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あー、まりーちゃんがぁっ!
こよみん間に合わないな、これ
るーちゃん連れてかないとクリア出来んの?
出来るけど評価ガタ落ちやし、りーさんが……
あ、うん。理解した
生死不明の方が耐えられるんだよな
目の前で脂肪は一番ダメ
まりーはどうなの?
NPCだとマイナスにはならない。加点対象なだけ。
古詠未は接近する『かれら』に対して、素手で立ち回っている。その技は素人目にもかなりの熟達者の動きだ。
しかし、距離が離れすぎたせいか、立ち止まっていた時間が長すぎたせいか。万里花を助けるには間に合いそうもない。
「ああ、もうっ じゃまぁっ!」
勢い任せのラウンドキックが『かれら』の頭に当たり、その個体は動きを止める。十分に集めた筈なのに学校内に残っていた『かれら』が玄関付近に固まっていたせいで、ぽろぽろと現れてくる。
ゲームのくせに、細かすぎっ
※ ※ ※
回し蹴り一撃?
ぅゎょぅι゛ょっょぃ
すげ、くるみ以上のゴリラだなw
チートやね
他の動画にも出てこないし、タイアップの番宣なのかな?
すぱしーばならやりかねない草
そいや京介パイセンの話だと黒帯くらいらしいぞ、こよみん
マジか、リアルゴリラだなw
まりー、ガブられるぅー
あ、るーちゃん立った、え?
るーちゃんっ???
立ち上がった瑠莉は、拳をそのまま殴りつける。当ったのは『かれら』の口の上。
非力な子供の打突など、『かれら』に効くはずはない。
なのにその『かれら』は、ゆっくりと横に倒れ込んだ。
『かれら』のHPゼロ? 一撃なん?
るーちゃん、なんか持ってね?
んー? あ、ボールペン? 中指と薬指の間に挟んでるな
げ……
エグいつかいかた知ってるねぇ、るーちゃんw
でも、これ。本当に威力あるの?
割り箸刺して○んだ事件あったろ? あれと同じ。消しゴムに当てて握りこんで、そのまま殴ればおk
突然の暗殺講義、乙
瑠莉は持っていたボールペンを近くの『かれら』に投げつける。無雑作に投げたそれは違わず眼に直撃し、深々と突き刺さり……そのまま倒れ込む。
万里花の使っていた傘を手に取り、近づく『かれら』に例によって足払いをかける。しかし、その動きは先程の躊躇いがちなものではなかった。
スパンと小気味良い音を立てて『かれら』
が舞うように倒れ込む。そこに上からの一撃。
万里花のように体重をのせて、延髄を断ち切るように傘をえぐり込む。
その瞳に、光は無かった。
レイ○目キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
これは、“覚醒イベ”発動か?
三体あっさり撃破なら間違いないだろ?
かくじつに急所狙っててこわいw
こ、これがりーさんの妹か……
なんか、わかりみ草
若狭家なんなんだよ……暗殺者の血統かよ……
そこにようやく古詠未が辿り着く。
だが、近づく古詠未に瑠莉は……静かに傘を向ける。万里花を守るように。
※ ※ ※
「ちょ……冗談カマしてる場合じゃねぇだろ」
口からつく言葉は、こよみさんのような荒い言葉。そんなことは気にしている場合じゃない。
見たところ、正気を失っているみたいだけど……こよみさんの自我が出てきてる訳じゃなさそう。無意識に身に付けた闘争の技を反射的に繰り出しているように見える。
だとすれば、正気に戻せるか?
「瑠莉っ! 私だよっ? 分からないのっ?」
「こ、よみ……ちゃん?」
よかったっ 声かけで戻らない時は、物理的にお話しないとダメかもしれなかったので。
手に持った傘を取り落とすと、万里花に縋りつく瑠莉。
「まりー、まりーっ しっかりして」
「あ……るー……? よかっ……ぐぅっ!」
「血が、ああ、こんなに……」
「応急処置したいけど、こんな所で悠長なことは……」
そこへ、声がかけられた。
「チビども、平気かっ?」
「わ、大変っ!」
「怪我してるの?」
「るーちゃんっ!」
スコップを担いたツインテールと、猫耳帽子の女の子。それに制服ではない大人の女性。
先ほど説明を受けた学園生活部の面々だ。チョーカーを付けた少女は居ないけど、くるみ、ゆき、ゆうり、そして先生のめぐみ。
脇目も振らずに瑠莉に抱きつく少女。
「りーねぇ……りーねぇっ うえ、うええ……」
「ん、大丈夫よ。だいじょぶ? よくここまで来れたわね」
瑠莉の姉、悠里だろう。そのまま大きくなったらこんな感じの子になるのではないかという、可愛らしい人である。
おっと。ほっこりしてる場合じゃない!
「皆さん、屋上まで避難しましょう」
「ん? ああ、そうだなっ」
周りにはまだ『かれら』がいる。校庭におびき寄せたのはかなりの人数であり、動きが遅いと言ってもじっとしてたら飲み込まれてしまう。
「あなたのバイオリンスゴイねっ 校内のほとんど居なくなってた!」
「ありがとうございます?」
「おかげで降りてこられたけど、よいしょっ」
大人の先生が、万里花を担いでくれた。
傷口はハンカチで結んではあるけど、血がジクジクと滲んでいて痛々しい。
荒れた感じではあるが、校内に残っている『かれら』はすでに動かない躯であり、多くは階段から落ちて頭を強打したものと、鋭利な刃物でばっさりやられたようなものだ。
階段を駆け上がり、屋上に入ると扉を閉めた。そこで頭の中に声が響いた。
『サルベージっ開始ですっ!』
ここに来た時のような光が、周りを覆い尽くす。
こうして、ゲームの中という奇妙な旅が終わったのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アイリス様、起きてくださいまし」
お花の身体が揺すられる。この声はプリムラか。もう朝なのか……
「少々問題が発生しまして。その……ご裁可を仰ぎたく……」
「え……なぁに。ああ、ゲームの中から帰還したんだっけ……それで、なにが……」
目を覚ますと視界がクリアになる。
「どうかしたの? サルベージは成功したんでしょ?」
「成功は、成功なのですが……その」
言葉を濁すプリムラ。その視線の先には。
「…………あ”ぁ?」
「うぐが……」
「すぅー、すぅー……」
「くかー、くふふ……」
すっぱだかで眠る暦さんと……二人の幼女が、やはり裸でその上にすり寄っていた。
瑠莉が顔を胸板に擦り寄せ、万里花は暦の顔にコアラのように抱きついている。
「な、なん……? なんですと……?」
「このお嬢様がたはいったい……?」
電脳空間から出てくるとは。
さすがの私も、この事態は予測出来なかった。
とりあえず、気絶している暦さんと合体して莉姫になっておく。
『お空の結界』が張ってないのに分離している事を悟らせるわけにはいかない。
その間にダマスケナが状況を見て、調査をする。そして、莉姫の身体と同じく実体を持った存在だと判明した。
「そんなアホな……」
こよみさんがまだ起きないので、莉姫として会話している。ちなみに二人には莉姫用に買いためたスウェットを着せている。何着も要らないだろうと思っていたのだけど、こんな時に役に立つとは思わなかった。
「この莉姫の身体を作るのに、私がどれだけ苦労したと思ってるのよ……」
「RICモジュールが実体の構築を容易にしたためかと。あれは3Dモデルに仮想の実体を与えるものですが、データ自体の補完は可能です」
あれがそういうものだというのは知っている。だが、それはあくまで電脳空間という位相空間内での話だ。現実には肉の身体を構成するにはもっと別の術的方策が無いと……
「莉姫様の唱術式は電脳空間内にもあります。そこにアイリス様とだんな様という高い魔力収束率を持つ方が二人もいた。魔力が過剰に流入してお二人が実体化した……そう説明が出来ます」
「んな、アホな……」
そうは言ったが、そのくらいしか思い当たらない。
「あと、AtoG管理領域からのアクセスが観測されました。自体の推移の前後に」
「……被害は?」
「防壁で弾かれてますが、いくつかは潜入したようです。こちらの保守のカウンターで対処したようで、対処済みと報告が上がっています。実害は今のところ出ていません」
「アクセスした人間は分かる?」
「今のところは不明です。」
「そう。保守は総点検。スパイウェア蒔かれてたとか洒落にならないわ。悪いけどダマスケナ。あとでダイブして電脳空間の方からもチェックお願い」
「あう……畏まりました」
「フェティダに通達して今回の件が片付くまで仕事は延期にしてもらうわ。先方がしらを切るなら協力もしなくていいもの」
あるてま、ないしAtoGの関与が無いなら、その証拠をあげてほしいところだ。刑事的な訴訟も辞さないとなれば、少しは内偵にも力が入るだろう。先方のサーバーからのアクセス履歴、アカウント、などの提示くらいはしてもらいたい。こちらの調査で大体は把握できるが、裏取りも必要だろう。
そんなことをしていると、どうやらこよみさんが起き出したようだ。あとの事は莉姫経由で知らせると教えて、身体の優先度をこよみさんに渡す。
「……あれ。ああ、そうか……」
『おはようございます、こよみさん。気分はいかがです?』
「……あんま、よくない」
『それは仕方ないでしょうね。ゲームの中なんて、普通は入れませんし』
そう明るく答えたのだが。
いつものような軽口は返ってこなくて……膝を抱えて俯いてしまった。
『あ、あのー……こよみさん?』
どうした事だろうか?
この人が落ち込むなんて……あまり見た事がない。
「……こわいって、すごく……こわいな」
『……まあ、怖いんですからね』
「そうだよな……これが恐怖なんだよなぁ。今まで感じなかったけど、なんで分からなかったんだろう……」
肩を震わせて膝に顔を埋める。その様子は、恐怖に打ちひしがれる少女そのものだ。
ある意味、私にとっては喜ばしい誤算だった。
私と会った頃の彼女は、壊れていた。
怖い、恐怖というものを何も感じない、そんな人間だった。
心の情動全てが壊れていたわけではなく、恐れるという感情だけがぽっかり抜け落ちていた。
何回にも及ぶ記憶改竄によってもそれは治らずにいた。唯一の例外はヲタクグッズなどを捨てられる事に対しての恐怖だけだった。
そんなこの人が、世間一般的な恐怖を感じていたのだ。偶然の産物に私は感謝した。
「アイリス様。だんな様にもご説明した方が宜しいかと」
プリムラが遠慮がちに言う。それを聞いたこよみさんが「どうかしたの?」と問いかける。私は彼に、見たほうが早いと言って客間に行けと促す。
そこで眠りにつく二人の少女を見て、それまでの彼女とは雰囲気が変わった。恐怖を感じて青褪めた顔はにわかに熱を帯び、呆然とした瞳は光を取り戻す。
しかし、表情自体は変わらない。
それは夢うつつに浸る乙女のようであった。
「……びでおがーる? あいとま? それともありしぜーしょん?」
『……テンション上がって何よりだわ』
訳のわからない単語を言いながら静かに混乱するこよみさんに、私はざっと説明をした。
少女たちはまだ眠っているのでダイニングまで戻ってダマスケナからも説明を受ける。
そして、彼女は一言呟いた。
「そんなファンタジーな事、起こすなよ……」
『好き好んでやったわけじゃないわよ』
これは予測不能な事故である。
ダマスケナのサルベージの網に引っ掛かって、余計な魚が2匹も捕れたような状況なのだ。
「それで……あの子らは、ちゃんと人間に、なっちまったのか?」
「推定年齢十歳の日本人女子と考えて間違いありません。精密検査は出来てませんが、外傷もなく、血圧や脈拍も正常値。おそらく健康体と言えます」
ダマスケナの発言に考え込む莉姫。
そして、本題に切り込む。
「あの子達を戻せるのか?」
「……起きてないから分かりませんが、おそらく不可能かと思われます」
「根拠は?」
「あの子達はサルベージされた段階で唱術
式によって肉体を生成されています。すでに人間として出来てしまっているのです。元からあるデータはただの雛形で、あの子達は別個の存在になっているはずです」
仮に肉体を捨てて心だけをゲーム世界に戻しても、ゲームの中の人格とは違う。そういうことらしい。バグとして修正されてしまうだけだと彼女は結論づけた。
「……なんてこった。PCがキャベツ畑だなんて聞いてねえよ」
『こっちにもそういう言い回しってあるのね』
「ちなみに向こうだとどう言うんだ?」
『何処の泉から拾ってきたの?って言うわ』
「意味分かんないなぁ」
くだらない事を話していたら、プリムラかダイニングにやってきた。
「お子様たちが、お目覚めです」
そう言われると、なんだか嬉しくなる。
私にも少しはそういう感情が残っていたのか。こよみさんが席を立って客間に向かうと、二人の少女はお互いを見て笑い合っていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ポカポカするお布団の中で、目が覚めた。
自分の部屋とは違う、知らないところ。このお布団も、違う。でも、隣に寝ていた女の子は私も知っている子だ。きょろきょろと見回すと、部屋の中も全然違う。
着ているのも、いつものパジャマじゃない。
無地の灰色の、お父さんの部屋着のようなの。少しおっきいけど、そのへんは別に気にならない。
「まりー、起きて。このねぼすけさん、もう七時だよー、がっこう遅れちゃうよ」
「んー、あと、ごふん……」
「いつもそんな事言って。全然守れてないじゃない」
私がお泊りした時も、彼女がお泊りに来た時も。万里花が時間通りに起きたためしはない。
起こすのは大変だけど、この子と一緒にいるのはとても面白い。
ついさっきまで見ていたこわい夢の事も忘れて、彼女の頬をぺちぺちと叩く。
「うわー、やめてー」と言うけどやめたりはしない。起きるまで叩いたりつついたり。
そして、いきなりガバッと起きたと思うと、私のことを抱きしめてきた。
「るー、ぶじだったんだな!」
その言葉に、疑問を抱くけど。
いつものように元気な友人に、わたしは笑いをこらえられなかった。
話を聞くと、どうやら私たちは同じ夢を見ていたみたいである。おかしな事もあるものだ。
「そんでー、ココどこ?」
「わかんない……」
不安ではあるけど、不思議と怖くはない。
あんな夢を見ていたせいもありそうだけど……ここはこわい事をする人がいる感じがしない。
自分たちがお揃いの寝間着に着替えさせて、一緒に暖かなお布団で寝かせてくれていた事からも分かる。
襖の向こうに誰かが来た。
私が万里花の手を握ると、彼女も握り返してくれた。
がらりと襖が開くと、そこには女の子が立っていた。
私たちより少しだけ大人っぽいその子は、大きな声で元気よくこう言った。
「おはようございまーすっ!」
ゲーム世界の話は終わるけど、来ちゃった二人の話はまだ続きます。
やりすぎた感が強いッスけど、突き進むよっ!?