気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
夜中にふと、目を覚ます。
抱きついて眠るのは昔からそうしてきたからで、それが誰であれ抱き枕のようにしてしまうだけ。
この人もその一人である。
頭にしがみつくまりーに苦しそうな声をあげるけど、やめさせるわけでもなく眠り続けている女の子。
私の姉、悠里よりも年の若いこの人が、今の私の親の代わりである。
「ここは……どこですか?」
「ここは私の家。若狭おじさんから君を預かったんだ」
若狭とは私の名字。つまり、この子は私のしんせきなんだろうか……そういえばいたような気がする。あんまり会わないけどお正月に見た覚えがあった。
私はすこし落ち着いた。
たしか、おじさんはこよみさん。
お父さんよりは少し若いひとだ。
「りーさんのこと、思い出してた?」
「そうだ。りーねぇは、どこですか?」
「りーさんとおじさん、おばさんはもう外国に行っちゃったよ。今頃は飛行機の上かな?」
「そうだっ……け?」
そういえば、そうだった。
姉の悠里は両親と一緒に外国に行くと言う話だった。
私も行きたいとグズりまくったんだけど、私にはとても危ないと言って親戚のおうち、つまりここに預けられたのだ。
何があぶないのかよく分からないけど、両親や姉が悲しむのは見たくはない。イヤイヤながらに分かったと言ったあと、与えられた部屋に戻って泣き続けた。泣き疲れた末に眠ってしまったのだと気付いて、少し恥ずかしくなった。
月に一度は姉が連絡してくれる。
その約束を支えになんとか頑張って生きるんだ。
姉の歳は十七歳だから、あと七年たったら両親の側に来ても構わないと言われた。
なら、がんばるしかない。
「私の名前は
理想の姉よりも少しこどものその人は、そう名乗った。とてもかわいいひとだ。さらさらの長い髪は一本に纏めて前に流している。りーねぇも時々やっている。
そんな彼女の目を見ておどろいた。
外国の人のように青いのだ。
日本語がすごくじょうずなので気付かなかった。
おどろく私のそばで、くかーというマヌケなねいきが聞こえた。見てみると、私の一番の友だち。万里花が大口をあけて寝ていたのだ。
幸せそうなねすがたに、すこしイラついたのはナイショ。
「ところで、なんでまりーも居るんですか?」
「実は千寿さんの所も同じ国に行くらしいんだ。だからウチで預かる事にしたんだ」
そうなんだ。
まりーのおうちが何をしていたのかは知らないけど、うちと同じようなお仕事とは思わなかった。
「二人一緒なら、寂しくはないでしょ?」
たしかにそのとおりだ。
よく分からない所に住むのはやっぱり怖い。
でも、まりーが一緒ならたぶん大丈夫。
彼女とは親友なのだから。
なので、お寝坊なまりーを起こす事にする。
ぺちぺちと叩くと「んあー?」と言いながら起きてきた。
「るーはらんぼうだなぁ。りーねぇみたくやさしくおこしてよ」
「りーねぇだって私には厳しいんだよ?」
「そうなんか? りーねぇ、ねこかぶりかぁ」
「……ねこさんかぶるの? かわいそう」
「あー、ほんもののねこじゃなくって……おい、れきー。どういうことなんだ?」
まりーはぜんぜん気にしないように莉姫さんに話しかけている。人見知りしないとは思ってたけど、こういうところはすごいと思う。
そんなふうに聞かれた彼女は、にこにこしながら答えてくる。
「“猫を被る”っていうのは、本当の自分を隠すときのことわざだよ」
「かくす?」
「ことわざ?」
「そ。なお、私も猫を被っています♪」
「えー、そうなの? 猫さんどこ?」
自分で本物じゃないって言ってたのに。
まりーは彼女の周りを調べ始める。
莉姫さんがコホン、と言ってから私たちの寝ていたベッドにごろんと横になった。
「あー、もー。女の子っぽい言葉ってホント疲れる。もーや、やってらんねー。俺ももっと寝てたいよー、ぐだぐだしたーい、勉強めんどーい」
さっきまでのおすましお姉さんから一変して……とてもだらしないお姉さんになってしまった。まりーはというと「おー、オレもオレも」と一緒になって横になっている。
「も、もー。朝なんだからしゃんとしなくちゃだめーっ! れきもまりーも起きてー」
いつもの習慣というのは、カンタンには抜けない。朝の九時を過ぎてお布団の中にいるなんて、風邪でお休みしたときくらいだ。お休みの日でも、そのくらいには起きてお布団を畳んでしまうのだから。
そんな怒っている私を放って、莉姫はよいしょっと起き上がる。
「あははーっ♪ 以上、実演“猫を被る”でした」
ニッコリ笑ってまりーも立たせている。
よく分からないけど、最初のときよりもずっとやさしく感じた。
「さ。朝飯にしよう。プリムラの料理は旨いぞぉ」
プリムラというのが家政婦さんなのはそのすぐ後に分かった。外国の人が家政婦さんだとか、ここのお家はとてもお金持ちなのかもしれない。
出された朝のご飯は、ご飯にお味噌汁、卵焼き、お魚、納豆、お漬物に海苔など。ほとんどうちと変わらない。
まりーはうめーうめーと食べてるけど。
あんまり食欲は無かった。
プリムラさんも莉姫も、無理強いはしてこない。
なんだか悪いことをしているみたいな気分だ。
「食べたくないなら別にいいよ。一回食べなくても人は平気だから」
突き放されたような言い方が気になったけど。
でも、何も言い返せなかった。
りーねぇだったら、そんなこと言わない。
そう思っても言えなかった。
お昼までの時間にやることは特にない。
莉姫は、御用があると言って出掛けてしまった。
そんなわけで、まりーにくっついて家の中の探検に出発した。
このお家は部屋が四つある。今の私たちがいる居間、さっき寝ていた客間、莉姫と今はいないお父さんの使っている部屋、それとダイニング。他にはトイレと、お風呂場もある。
どこもうちと比べて広くて、とても驚いた。お風呂場なんて浴槽もすごく広くて、私たちが全員で入っても問題ないくらいだ。
よく考えてみるとさっきのお部屋も広いし、居間に置いてあるテレビだってすごく大きい。
家の中を探検していると、もう一人の家政婦さんと会った。
「おはよー。ダマスケナっていうんだ」
「だ、だますけなさん……?」
「じゃあ、だまちゃんだなー」
「あらー、ありがとう♪ あだ名で呼ばれるなんて光栄だわー」
朗らかな感じがプリムラさんと違う。
ちなみにまりーはプリムラさんの事をぷりちゃんと呼んで睨まれていた。それからあとは「ぷりむらさん」と敬語で呼んでいる。
プリムラさん、怒ってないと思うんだけど、まりーには怖く感じたんだろう。
お掃除の最中だったので居間に行っていてね、と言われたので居間でテレビを見ている。
番組はあんまり変わらない気がする。
そう言うと、まりーが当たり前だと答えた。
「とうきょうなんだから変わらないよ。今日はにちようびだから……あー、おめんどらいばーおわっちゃってる……」
「日曜日だったの……」
昨日は月曜だったような気がするんだけど……気のせいなのかな?
大人になると時間が早くなるっていうから、私も大人なのだろうか? それならみんなに付いて行きたかったな……そんなことを考えてしまう。
「まりーは、お父さんやお母さんから離れても平気なの?」
「んー? へーきじゃないぞ。さびしいし、会いたいよ」
よかった。
万里花もそうだったんだ。
自分だけがそう思っている弱虫なのかと。
「理由があったから置いていった。ここは安全で安心できるところだから。だから、あたしはとーちゃんとかーちゃんの言ったことを信じて待つんだ。なんて言ってたかは忘れちゃったけどな。ははは♪」
あっけらかんと答えているまりーが羨ましい。
わたしもそうは思っている。
でも、何かがひっかかる。
なんで安全とか、安心とか言うのか。
なぜ、わたしやまりーを連れて行ってくれなかったのか。
そんなに危ないところなら、行かなければいいのではないか、と。
まだ子供だから、うまく答えが見つけられないけど。戻ってくるまでには分かるようになりたい。
帰ってきた莉姫は、プリムラとは違う人と一緒にいた。とっても美人なお姉さんはフェティダという名前だ。
「あらあら、本当に可愛らしい♪」
私が挨拶をすると嬉しそうに笑い、しゃがんで抱き寄せてくれた。
いい香りがする。
でも……なにかちがう。
お母さんでもなく、りーねぇとも違う。お父さんのゴツゴツした腕とは全然違った。
優しくてきれいだけど、なにかがちがう。
やっぱり、家族が一番いいな。
「よっし。んじゃあ、お昼ごはん作るどー♪」
「あの……宜しいのですか? 本当に」
「ああ。夕食は頼むから」
なんと。
莉姫は、自分でお料理をするらしい。
私たちよりは年上だけど、それでもプリムラさんやフェティダさんに比べれば子供のはずだ。
でも、すぐにそれは間違いだとわかった。
玉葱をみじん切りにしたり、人参の皮を剥いたり。すいすいと包丁を使っていた。あれなら危ないからとは言われないだろう。
まりーは他の人たちとゲームをして遊んでいたけど、私は莉姫の側でずっと見ていた。
「遊んでていーんだぞ?」
「んーん」
挽き肉と玉葱とピーマンのみじん切りを混ぜ込んでいるのを見ながらそう答える。
ゲームもいいけど、私にとってはお料理のほうがよっぽど面白い。りーねぇのやっていたように、いつかはなりたいなぁ……
人参や玉葱は皮を剥いていたのに、じゃが芋だけはちょっと小さめのたわしでゴシゴシと洗い始めた。
「たわしでお芋洗うの?」
「一緒に蒸すと美味しいんだよ」
「皮も一緒に?」
「皮がついてると美味しさが抜けづらいんだ。これにバターと醤油だけでも旨いぜ」
「へえー」
お芋を蒸し始めてから、彼女は玉葱の皮とか人参の皮なんかを洗い始めた。捨てちゃうのになんで洗うんだろう? すると、冷蔵庫から同じような野菜のクズを出してきて、お鍋に入れてしまった。水を入れて火をかける。
「なんで、捨てるところを煮るの?」
「ん? ああ、これ? これは野菜のお出汁だよ」
「やさいの……おだし?」
お出汁は知ってる。おみそ汁とかに入れる粉末のだ。
「お味噌汁でもいいけど、お鍋とかスープでも美味しくなるんだ」
そう言いながら、今度はさきほど混ぜてたのを小分けにしてパシンパシンと手の平に打ちつけてる。ハンバーグを美味しく作るコツだとりーねぇも教えてくれた。
「ん」
「お、意外とうまいな」
私とまりーの分を作ってみる? と聞かれたのでうんと答えた。手を洗って小さなエプロンを付けて、言われたとおりに手の平に投げて、その繰り返し。なんだかちゃんとお手伝い出来ている気持ちになって少しうれしい♪
「なんでこうするのかは知ってる?」
「中からこわれちゃうのをふせぐため、ってりーねぇは言ってた」
「さすがりーさん。しっかりしてる」
りーねぇの事をほめてるみたい。
私がほめられたみたいで、なんかへんな気分。
くすぐったくて、なんだか恥ずかしいに似てる。
ハンバーグを焼き始めた所でお鍋の蓋を開ける莉姫。火を止めたのに開けなかったのはなんでだろう? 菜箸で器用にお皿に取り分けていく。
蒸したお芋はとってもいいかおり。今まで食べてきたお芋より美味しそうに見える……うれしいのに少しだけ悲しく感じた。
一緒に食べる家族が居たのなら、もっとよかったのに。
「ちょっと食べてみ?」
莉姫が小皿に小さなのを取り分けてくれた。
冷蔵庫からバターの入ったタッパーを出してさっさと一口大に切り分け、お芋の切り込みに差し込む。じわじわと溶けていくバターの上から、ちょろちょろっとお醤油を垂らす。
「はい。味見」
お箸を持って切り込みに沿って差し込む。ホロリと割れて、そこからも美味しそうな香りが出てくる。ひとつまみつまんで、口に入れる。
あつい。でも、やけどするほどじゃない。
最初に取り分けていたから冷めるのも早かったんじゃないかな? お鍋から出した時から私に味見させるつもりだったのかもしれない。
「……おいしい……」
「朝食べてなかったからお腹空いてたろ? すぐ出来るから。あと」
莉姫がそう言ってしゃがんできた。
目を合わせると、その瞳がよく見える。
とってもきれいな青色の目は、見慣れてないのに怖くない。
「まりーにはナイショだ」
ぱちりとウインクしてのひとこと。
「うん。ないしょ」
まりーはちゃんとご飯食べてたし、わたしはこれくらいいいよね。大事な友達に心の中であやまる。
しばらくして出来たハンバーグは、とてもおいしかった。私とまりーのハンバーグは私が作ったやつだ。付け合せのお芋と人参もおいしかった。
まりーは相変わらず野菜に手をつけなかったけど、私がもらうよと言って食べるのを見てたら、「わたしもたべるっ」と言い出した。フェティダさんやプリムラさんが笑いながら分けてくれた(ハンバーグも分けてもらっていた。ちゃっかりしてる)。
莉姫が自分の分のハンバーグを分けて、私のお皿にのせてくれる。
「おてつだいのお礼♪」
「ありがとう」
「ん♪」
家族とは一緒に居られないけど。
この人たちとなら平気かもしれない。
とおい空の下にいるりーねぇと両親に、「わたしはげんきです!」と言いたかった。
幼女言葉難しいッス。どこまで漢字でどこからひらがなにしたらいいのかすごく判断に迷うです。
二人は一応記憶の改竄をされてますが、本人の名前と両親や姉との記憶は消しませんでした。そのあたりは次のネタになりますので。