気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
「ひゃ、ひゃい。終理永歌の中の人をやらせて頂いてます、黒井繍子といいますぅ」
気絶している間にすぱしーば内に拉致監禁されていた彼女は、外国人に周りを囲まれて涙目になっていた(カワイソス)
俺の顔を見るなりゴメンなさい、ごめんなさいと謝ってきた。その様は雛○沢症候群のようである。
「姫乃古詠未の中の人の殿田莉姫だ。早速だけど、朝方の会話を覚えているか?」
「はい……」
「なら話が早い。あれはなんだ?」
他の連中がいると怯えるので下がらせる。
一応威圧感を与えないように応接室を使い、落ち着けるためにお茶も淹れた。だが。
「ぴいっ、毒ですか? それとも自白剤?」
「ただの紅茶ですよ」
「お部屋の中もなんだか良い香り……はっ、まさかコレは気持ちの良くなるお香なのではっ」
「どんだけチキンやねん」
山盛り唐揚げ定食が出来そうなほどの弱腰っぷり。腹芸出来そうなタイプじゃないなぁ……
「ほら、未開封のペットボトルのお茶だよ」
「うう……ありがとうございます」
涙目になりながらペットボトルのお茶を飲む彼女を横目で見ながら、俺は纏められた資料を流し読みする。
黒井繍子。
年齢二十二歳。職業はVtuber以外は無い。つまり世間一般で言えば無職扱い。
高校2年の妹と、両親とマンションで暮らしている……て、ここ今宵のマンションじゃん。知り合いなのかな?
高校卒業後、アニメ声優を目指して専門学校に入り、卒業してから斜陽のプロダクションに在籍。今のところ活動らしい活動はなく、Vtuberとしての活動がメインになっている。というか、Vtuber活動のせいで何も出来てない可能性すらあるな。
動画の総再生時間が尋常じゃない。
日割りにすると一日平均六から七時間くらいアップしている。総時間でいえばあるてまの中でもぶっちぎりだ。
内容は……まあ、ニュースや芸能の雑談がメインでなかなかに面白い内容だが、いかんせん地味だ。自身のキャラを観測者というだけあって、自ら何かをするという事はほとんど無い。
ゲームもしないし、歌もあまり歌わない(下手なわけではない。実際にあるてまカラオケ大会ではちゃんと歌っていたのだ)
数少ない趣味の裁縫も、配信でアピールすることがない。この衣装も手縫いらしいが、かなり手間暇をかけて作られた物だと思われる。
「戸羽くんと被っちゃうし……」
「彼とは方向が違うって。自分でここまで縫える人なんてなかなかいないッスよ?」
戸羽君の趣味の裁縫というのは、どちらかというと補修、つまり擦り切れた所を繕う技術であり、彼女とは全く違う。料理できて繕いものが得意とか、戸羽くん、オカンですかね?
対して永歌のそれは被服の製作に特化している。自慢していいものだと思うのだが、彼女はそれでも消極的だ。
「いえいえいえ、そんな。私なんてゴミ虫が自分のことをアピールするなんて無理ですよ」
どうも極端に自信を持てないタイプなようだ。そういや雰囲気が『わた○ん』のみゃー姉に似てる気がする。
「妹さんは大好きですか?」
「はい♪」
即答だった。うん、知ってた(小並感)
「今宵ちゃんとお知り合いになれたって喜んでて……私と違って、あの子はやれるんです。これで灰色の高校生活から脱出できると思うと嬉しくて……」
妹さんの偉業を誉めて感涙に咽び泣くところ悪いけど、あの今宵が親しい友人になるとかSSR一発引きよりハードル高いぞ? それに一緒のマンションに居て、高校まで同じなのに今更お知り合いって……ヤバ、涙が出てきた。
「と、取り敢えずこの話はやめましょう。本題に戻るけど、あんたに取り憑いたアレは何なんだ?」
うっすら涙目で聞いてみると、彼女は俯いてしまう。話したくないのかな? ちょっと待ってみると、ポツリと呟いた。
「本人は意識体だと言ってました」
配信している最中にアレが取り憑いてきたらしい。それは始めてから一月ほど経ったあたりだそうだ。
「外に出る勇気のない私の代わりに、表に出てくれて……私にとってはすごい恩人でした」
ずっと取り憑いているわけではなく、一日の間に二時間ほど、一度離れると一日は戻ってこないらしい。つまり今日はもう来ないわけか。
「その……害になったことは無いの?」
「あの人も基本的に眺めるのが好きなので。私の嫌がる事をしたのは、あの時だけです。本当にごめんなさい……」
そしてまた謝罪する繍子。常に謝っているイメージだけど、こういう処世術の人もたしかにいるのだ。
「詳しく聞いてもいいか?」
「はい……あの人が中にいる時にDisRordに連絡があって……身体を操ってPCに凄い速さで入力してました。知識が無いのでよく分かりませんでしたが、その内にモニターが光り始めて……気が付いたら、古詠未ちゃんが小学校にいる画面になって」
おそらくだけど、すぱしーばの(ダマスケナとか)唱術を使った術式、もしくは似たようなものなんだと思う。電脳空間に引きずり込むとか言ってたし。
「不思議なことを言っていたわ。『古詠未が分かれたのは意外だ。アバターだと思っていたが、コレも実体……古詠未はモブの中か』……なんの事か分からなかったけど」
ふむ……古詠未と暦がごっちゃになってて分かりづらいよな。
「ゲームを眺めていたら、DisRordから『接触を弾かれた。すぱしーばの防壁をなんとかしてくれ』と連絡あったけど、『それくらい自分で対処しろ』ってすごく投げやりで。『余をなんと心得るか?』って言われても『知ったことか』と取り合わなくて……いけないと思っても笑っちゃいました」
気まずそうに、それでも笑みを抑えられないように繍子が笑う。ほんわりした雰囲気の優しそうな笑い方に、少し癒やされる。アイツとは別人なんだとようやく実感した。
「その、計画に関しては事前には聞いてなかった?」
「本当に知りませんでした。いつも一緒じゃないので、居ない時に別の所で彼と接触してたんじゃないかな……と思ってます」
たぶんそれで合ってると俺も思う。
それでも一応は聞いてみる。
「彼が俺を狙う理由……なにか聞いてる?」
「彼は言わないし、あの人も当然のように教えてはくれなかった。でも、なんとなく予想は出来た。彼はあなたの身体を求めているわ」
そう言ってから、顔を赤らめて「あ、その。性的な意味じゃなくってね?」と、フォローしてきた。いや、そんな意味にとってないから安心してよ。
むしろ言われてから気付いたよ(〃∇〃)
「話は変わるけど、魔力とか唱術とか、聞いたことある?」
「あの人が言ってたのは覚えてる。『魔力があっても受容量が足りなければ高度な術式は使えない。だからこそ、あの子の身体が欲しいのでしょう?』って。あなたは……魔法とか使えるの?」
その質問には答えられない。
彼女の側に寄って優しく首に手を回す。
「え……あの、わたし、そっちのケは……」
「協力ありがとうございました」
くい。
頸動脈を圧迫して気絶させる。毎回使っているけど、面白いように落ちるな。
『一連の記憶は消していいのね?』
「カタギの人には踏み込んで欲しくないからねぇ。再度侵入に対する対策は出来てるのか?」
『それもバッチリ。少し異物が入るけど、精神汚染対策にはなるわよ』
何でも術式を封じた物を肌下に入れるのだとか。インプラントか。
気を失った彼女をすぱしーばの女性職員に任せて、俺は部屋を出る。フェティダに後の指示をしようとしたが、報告を先にされてしまった。
「異変がありましたので報告を」
「? 緊急っぽいね」
「ヴェンデッド=ハルキオンが王国の樹立を宣言しました」
「はあっ?」
……余とか言ってたから彼だとは思ってたけど。
これは、予想外だった。
プリムラに二人の迎えを任せて、俺とダマスケナはすぱしーば本部にいた。万が一の事があるから二人には家のPCは触らせないように厳命しておく。
「シャットダウンして、電源抜いておいて」
まりーは一度スリープから起動させてるので心配なのだ。
『畏まりました。お夕飯は如何しますか?』
「流石に戻れない。夜は添い寝をしてやってくれ。まりーはともかく、瑠莉がむずがるから」
『承知しました』
とりま家の方はこれでいい。
家からこっちに来たダマスケナから報告を受ける。
「ハルキオンVR王国樹立を宣言したヴェンデッド=ハルキオンは自身の王国民、要するにシンパの内から望む者に王国への転入を大々的に受け付けるとの告知をしました」
「……なんともファンタジーな王国だなぁ。マイン○ラフトとかでやるならただの番組だろうけど」
「報告によれば、現実に人が消えたそうです。建国王ハルキオンもあるてまのマネージャーからの報告では自室から消え去っていたらしく、PCは閉じたままだったようです」
つまりモニターやPCが出入り口ではないということか。
「その王国とやらの情報は入ってないのか?」
「今のところ内部をモニターは出来ていません。あるてま側からの協力で得たヴェンデッド=ハルキオンのアドレスから辿ってはいますが途中で途切れてしまいます」
「途切れる?」
『アイツが絡んでいるなら、その王国とやらは電脳空間でない可能性が高いわ』
「仮初の世界か……」
世界の観測者……終理永歌に憑いていたものが関わっているなら、そうしたものもありえるかもしれない。
電脳空間でないなら電子的な観測は難しいだろう。それが可能なら、俺らは『あの子達の世界』を観測出来ているのだから。
「
そんなマメな国王様はイヤだな。
ダマスケナの報告によると、ヴェンデッド=ハルキオンのメンバーシップ登録から先着順のようである。メールが届いてそれにOKと答えるとその場で引き込まれる……軽くホラーな展開だ。
「あるてまの職員やVtuberにも被害は出ているようです」
「マジか……」
「世良祭さんからの報告では、オフコラボ中に来宮きりんが消えたとの報告が運営にありました。かなり狼狽えていたようで、マネージャーはかなり難儀をしたそうです」
きりんさんが……あの人、ヴェンデッドの登録とかしてたのか。社交性の高い人だから、仲間も登録とかも普通にしてそうだからね。
しかもオフコラボ中とか、世良さん大丈夫かな? 普通の一般人だから耐性なさそうだしなぁ。
「彼のメンバーシップ登録は同じVtuberでは相葉京介、戸羽乙葉、我王神太刀、黒猫燦の4名が登録していて、現状連絡の取れるのは我王神太刀だけでした。メールの詳細も彼の報告でして」
「うおぉいっ! いま、くろねこって言わなかったか?」
「はい。間違いなくあの方です。お母上からの連絡ですでに取り込まれたようです」
「……なんてこった……」
変な悪運に魅入られてるとは思ったけど、ここでも引っかかるとは思わなかった。ちなみに『連絡しろ』とか『お前のせいだろ?』とか言ってるらしい。
今回は俺は無関係……とは言えないけど、加害者ではない。そう言ってやりたいけど、話が長くなりそうだしなぁ。
「フェティダ様が黒音女史に電話で応対しております。だんな様と取り次いで欲しいと言われましたが……」
「いや、いま話しても長くなるだけだ。あるてま側からの対応に従って、落ち着いて欲しいと伝えてやってくれ。それより被害の規模は?」
「概算ですが、約三百人程度かと思われます。これはメンバーシップ登録のおよそ三分の一に相当します」
ハルキオン民はノリがいいけど、流石に全員引っかかるなんて訳もないか。そう考えるとあるてまのVtuberの比率は高いな。お前らノリ良すぎだ、特に燦。やれやれとしか言えないなぁ。
Vtuberでただ一人残っていた我王君と話して事情を聞く事にした。
DisRordで彼を呼び出し、通話をする。
『いきなり殿下のG○ailからだし驚いたよ。なんかのイベントかと思ったけど、忙しくてさ。あ、学祭とか興味あったりする? ウチのサークル超科学研究部っていうんだけど』
キャラを作ってない彼はどこにでもいる青年だ。こういう気さくな喋り口も嫌いじゃないが、今は少し控えてほしい。
「琴線に触れるワードではあるけど、それどころじゃないんスよ。そのメールを転送して頂けませんか?」
『あ、ああ。いいけど……』
我王君から届いたメールを開けると『ハルキオンVR王国への転入を致しますか?
はい/いいえ』
と書かれていた。
『あれ? メールが無くなってる?』
招待状のコピーは作らせないって事か。てことは、これに返信すればご招待頂けるのかな?
「ヘッダに唱術を用いた魔術励起術式がありました。構文から次元間転送門が読み取れますので、ほぼ間違いないかと」
ビンゴ。
これで切符は手に入った。
我王君との通話を切り、アイリスと分離する。ダマスケナを交えて会話するのに不便だからだ。
あとはお帰りの手段だけどどうするか。
「解析しましたが……転送門の座標は高度な暗号化が施されています。すぐには特定できません」
「かかる時間は?」
「早くて一日。最悪、一週間ほどかと」
「当てには出来ないか」
どんな世界なのかもわからない所に、一週間もみんなを放り出してはおけない。
「私がいるからそれは平気よ? 唱術には次元間を越える念話があるの。私くらいの力なら、座標を特定出来るわ」
当然のようにアイリスが言うが、俺はそれを止めた。
「いや、アイリスには残ってもらう」
「えっ?」
「電脳世界に行く時に俺と分離してたろ? 同じことが起こった時に、俺が動けなくなる可能性がある」
実際、瑠莉の中から出来た行動なんて微々たるものだった。そもそも瑠莉のような身体があるとも限らない。その場合、幽霊のような存在になってしまう可能性もある。
向こうに行くなら、俺は男のままで行くべきだ。
「そんな……」
「この姿でも唱術は使える。お前やダマスケナに合図をすれば、そこから座標は分かるだろ?」
「……座標さえ分かれば、こちらから転送門を繋ぐ事は可能です」
ダマスケナが少し躊躇いがちに付け加える。
「その際の留意事項ですが。転送門はずっと開けるわけじゃありません。開け始めてから最大で一時間、空間との距離が開くほど時間は短くなります。最悪十分ほどで消失する可能性もあります。あちら側に行った方々をなるべく近くに集めてからにして下さい」
とりあえず、失敗した時のことも聞いておこう。
「閉じた場合の再脱出は?」
「フラウレーティアからの魔力供給を最大にしても二週間はかかります。現状、この騒動でかなり魔力が減らされてますので」
「二週間か……ま、水さえあれば生きられるか」
バックパックに水とカロリーメイドを目一杯詰めておこう。
「……どうしても、いくの?」
アイリスが花を揺らして尋ねてくる。
後ろ髪を引くような言い方に胸が痛むけど。
「放置するのも寝覚めが悪い。それに子供みたいな連中だ。放ってはおけない」
幸いにしてすぱしーばの奴はいないけど、あるてまにだって関わった連中は多い。
──乙葉とはまた料理を作りたい。料理コラボの話は立ち消えのままだ。将来は主夫志望と言っていたが、まさかヒモに憧れているのか? そんな自堕落な奴には見えなかった。おそらく支えてあげたい誰かでもいるのだろう。
──京介だって、バイトづくめで生活が危なっかしい。こないだは乙葉に全部任せきりだったから、今度は二人で行くことにしよう。部屋の掃除に手間取ってたらしいからな。
──来宮きりんとは、まだ麻雀をしていない。ネットではなく実際に卓を囲みたいなと思う。神夜姫やアルマと……永歌は本人と取り憑いてたのとどっちだったのだろうか? 本人だったのならかなり手強い筈。アツイ戦いになるだろう。
──そして、黒猫……いや、今宵か。
「あいつは怖がりの泣き虫だから……助けないと」
「自分だって、震えてるのに?」
アイリスに言われて、はじめて気づいた。
僅かに脚が震えていたのだ。
「これが怖いってことか。瑠莉の中でも感じたけど、おっさんの姿でも怖いものは怖いらしいな」
「そんなの当たり前でしょ……あなたの心はどっちも同じなんだから」
呆れているようなアイリス。
たしかに中身は変わらないからな。
「ハルキオンがどんな世界を造ったのかは分からないけど……そんな状態で行くのは危険だわ」
アイリスが弱気なことを言うとは珍しい。
よほど心配なようで、少しむず痒い。
今までは恐怖というものを実感する事がほとんど無かったのだけど、これは悪いことばかりでないような気がする。
生きている感じが強くなった気がするのだ。
「現状、俺が行くのがベストだろう。お前にはサポートの方が合ってるし……待っててほしい」
「さっきはわからないって言ったけど……ハルキオンが人間なら人間の生活に則した世界になっているはず。だから空気が無いとか水だらけとか初見殺しのような世界にはなってないと思うわ」
諦めたような口振りなので、花弁を少し撫でてやる。くすぐったそうな動きが妙に愛らしく見えた。
「必ず戻るよ。異世界は慣れてるからな」
「えっ……」
「フェティダ、準備は出来てるな? ダマスケナはアイリスをサポートしてくれよ」
「こちらに。バックパックに水を8リットルと携行食糧を十日分用意しました」
「お任せ下さい。だんな様もお気を付けて」
スマホから転送されたメールを開いて、『はい』を押す。すると、周りを光が取り囲み……気が付くと俺は街の中にいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「んだっあらあっ!!」
「てめえ、汚えぞ!」
「騙される方がわりいのさっ! ひゃーっハッハッハ! ホゲぇッ!?」
「……精算するまでは、お前のものじゃない」
夜の街はそこかしこで暴動のような怒号が響いていた。主にスーパーマーケットというところで起こってはいるが、コンビニや弁当屋などでも似たような小競り合いをしている。
「一体全体、何なんだ? なんでみんな戦ってるんだ?」
一見すると東京の何処にでもある街のようだが……どうやらここは異世界に違いないらしい。とりあえず情報を集めてみよう。
ヴェンデッド=ハルキオンの世界へようこそ!
ちなみに『ベ○・トー』世界ではないので、氷結の……とか、湖の……とかは出てきませんよ(拙い予防線)