気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
とりあえずコロナではないらしいけど、別の菌の感染症だとか(笑)
うらぶれた街の片隅で屯する学生服の男子や女子。その様子は戦いに破れた敗残兵のようでもあるが、受けている傷は主に格闘によるもので実際には打撲がいいところだ。
ただ、落ち込み方は半端ない。
「アイツ、強すぎだろ」
「あるてま実業高校の空手のエースって言ってたけど」
「厄介なやつが来たよなぁ……」
シリアルバーを口に含みながらそう話す連中。若いんだからもっといいもん食えばいいのにと思いつつも、情報収集のために話しかける。手土産は俺のカロリーメイドだ。
「ああ? なんだよおっさん」
「いや、しこたまやられたなと思ってな。見舞い代わりにコレでもどうだい?」
「おお♪ 助かるぜっ」
「アタシ、メープルがいい」
ガサゴソとビニール袋から取り出していく。こんなんで喜ぶとか、ひょっとして食糧事情の悪い世界なのか?
「なんでこんな有様だってか?」
「そりゃあ
「バトル? 賭け試合みたいなものか?」
「一品物を賭けたそういうのもあるって話だけど、俺たちゃしがない一般学生さ。狼どもの巣窟になんて行っても何にも得られやしないよ」
「日々の生活の為にやってるだけよ」
それから彼らに話を聞いて纏めてみると、どうやらろくでもない世界だと確信した。
親が子供を扶養するのは義務教育まで。その段階から子供は独り立ちさせられて各々一人で暮らす事になるらしい。
親が金を支援するのだが、それも上限額は決まっている。親元から離れる子供は一人で暮らす事を余儀なくされ、地代や学費は親が出せても光熱費や生活費はその分からやり繰りしないといけないという。
「民主主義国家から王政復古とは、なんともなあ……」
ベースとなっているのは現代日本に間違いはない。彼らと別れてから、コンビニで新聞と週刊誌を購入して調べてみた。通貨が普通に使えたのに些か適当な感じがするが、余計な手間が掛からない分有り難いと思おう。
「これが騒動の種か」
コンビニの弁当の棚の前に空になったワゴンがあり、そこには『50%off』とポップが貼られている。当然、ワゴンの中は空だ。
だからといって別に弁当が無いわけではない。棚にはきちんと弁当は並んでいる。
『半額弁当の購入を争って戦い合うとか、マトモじゃない』
どうもこの状況は新たに国家元首となったヴェンデッドのテコ入れで行われたものらしい。コンビニの店員さんも苦笑いしながら言った事を思い出す。
「廃棄前の弁当を半額で並べるのは分かるけど、その数は制限されている。それを超えた分はやはり廃棄さ。衛生的にも問題はあるのは分かるけど、私的に供与すると厳罰なんて……こんなの社会の弱体化の抑制に繋がると本気で思ってるのかな?」
店員のおっちゃんがわざわざ見せてくれたのはICカードリーダーだ。
「半額弁当を買うとポイントが貯まる。それが一定の水準になると、将来に様々な特典がついてくるって話だ。就職ではキャリアアップ、進学には加点だそうだ」
ちなみに店ごとに争うやり方は違うらしい。
このコンビニは『じゃんけん』という比較的平和な方法を指定していて、集まった十何人かの中で残った三人だけが半額弁当を購入出来るのだとか。
「でも、この方法ってのにも問題があってね。一番ポイントが高いのはやっぱりステゴロ。じゃんけんの二十倍なんだから、そういう店にみんな行っちゃうんだよね」
他のスーパーなどで起こっていた乱闘事件はそれだったのだ。為政者が暴力奨励とか頭おかしい。
ちなみに飲食店の場合、その日の限定メニューを賭けて戦うそうだ。控えめに言って世紀末な世界観である。
気になった事があったので聞いてみる事にした。
「おやっさん、アイツの頭の上にあるのはなんだい?」
表で話す連中の一人に頭の上にパイロンを逆さまにしたようなマークが浮いている。だが、おっちゃんはそれが見えないようだ。
「頭に? なんも浮かんでないぞ?」
「……そっか。邪魔したね」
俺には見える。そして、俺の頭にもそれは浮かんでいる。おっちゃんには無いし、さっきの学生や他の奴にもそれは無いのに、たった一人だけそのアイコンが浮かんでいるのがいる。
つまり、これは転入者の印だ。
他の人たちは世界が創造されたときに出来上がった、いわばNPCのような存在なのだろう。
とは言っても見た目は人間に変わりはない。
外の世界の者からしたらデータとか空想とかの存在なのだろうけど、この世界の中ではちゃんと血や肉を得た人間なのだ。
あくまで推論だけど。
それを確かめる為に、俺は集めた情報から一人の転生者に会いに向かった。
時刻は夜の二十二時。良い子はおねんねの時間だが、この世界では中学生までの話らしい。
夜の高校には普通に学生がウロウロしている。夜間学部があるわけでもなく、なんでこんなに学生がいるのかと思えば、炊き出しをしているからだ。
この強者全盛の時代に奇矯な真似をする者なんてそんなに多くはない。
「一人一杯ずつですよ」
「貰ったらさっさと散れ。邪魔だ」
厳つい体躯を窮屈そうな学ランに収めた長身の男が未練がましい連中に恫喝し、やや細身の学生が笑顔で炊き出しをよそっている。その二人に、懐かしい面影を見た。
「相葉京介に戸羽乙葉か」
二人の頭には間違いなくアイコンがある。そう言った俺の方をにらみつける京介と怪訝そうな乙葉。
「アンタ、何モンだ?」
「京介、やめなよ……ここに来てから暴力的だよ?」
京介が暴力的になったのなら、ならざるを得なかったからに違いない。
見ての通り乙葉は荒事には向かないし。
「政府の人間じゃないから安心しろ。ただの酔狂な親父だよ」
そう答えると、京介が前に出てきた。挑発するつもりはなかったんだけどな。
「ここでの事を広める訳にはいかん」
これだけ大人数に振る舞ってるんだから、いずれバレるとは思うけどな。
そんな正論を言うまもなく、京介が飛びかかってきた。
「セェイ!!」
「よっ」
飛び蹴り一閃。彼の体重と勢いの乗った右脚を避ける。着地と同時に反転して裏拳。そして、ジャブ三連からの正拳。手加減とかナシの
動きを止めるつもりで右手の親指を取り、左へと捻る。するとこいつ、合わせて自分も回転しやがった。その隙に脚蹴りを放ち、俺の手を外している。思わず一言言ってしまった。
「やるじゃない?」
「でりゃあっ!」
怒ったような裂帛の気合の連撃。そして
「なにっ!」
「連撃後の回し蹴りはフェイク。本命は裏拳……だよな?」
裏拳を左の手で固め、右の二の腕で逆から抑え込む。態勢を崩された京介は耐えようとするが、左足で足払いをかました。下手に耐えられると折れちゃうからね。ここは倒れてくださいな。
「あうっ」
「京介ェ!?」
「お、おい。あの京介さんをあっさりと……」
「なにもんだ、あのおっさん……?」
地面をダブルタップしているので立ち上がりつつ離す。すかさず距離をとってから、手の具合を確かめる京介。離した瞬間に打ち下ろしでも警戒したのだろう。記憶は消しても身体に染み付いた技は忘れていないらしい。
「子供扱いとは……ヤキが回ったかな」
「いや、年齢的には子供で間違いなけどさ」
たしかコイツらもう少し上の設定年齢だと思ってたんだけど、四〜五歳下な感じに見える。学ランが似合っているからだ。てことは俺も五歳若い? 三十後半が前半になっても対して変わらんか。
「きょーすけたちをいじめんなーっ!」
おっと。
棒切れを持った中学生くらいの女の子が殴りかかってきたので、さっと避ける。
「あうっ」
ズベシッ、 と倒れるその子。短いスカートの中のぱんつが丸見えである。慌てて起き上がって隠すけど、特に感慨は無いのであしからず。ちなみに柄は黒猫。……あれ?
「おまえ……燦か?」
「知らん奴に呼び捨てにされるとはこの黒猫燦、舐められたものよな!」
「いや、そりゃあ舐められますよね。コケてるし(クスッ)」
「笑うな、乙葉アぁっ!」
俺が会った事のあるのは小学校に入る前だが、今とその中間辺りのその少女はたしかに面影が似ていた。ややツリ目気味な黒い瞳、艷やかな癖のある長い髪、ろくに表で遊んでなさそうな生っ白い肌の色。
「……ライダーは昭和が正義だ」
「! 平成に決まってんだろ、頭トーフかよ!」
俺の言葉に条件反射のように答える燦。
本人もビックリしているようで、少し固まっていた。
理解が追いついて。
その瞳に涙が滲む。
「まさか……暦?」
「こんなトコで再会とは、奇遇だな」
こちらに駆けて来るので手を広げて待ってやる。こんな状況だとやっぱり可愛くなるもんだね。
「隙アリーッ!」
「あぐっ?」
全速力で勢いつけたパンチを、ガンジー以外が放つとは……。それでも筋力よわよわな今宵のパンチなんて大したダメージじゃない。
「おせえよ、ばかやろー。現実で来いよ、てめー」
「……口が悪くなってませんかね? 今宵さん?」
涙に塗れて悪態をつく黒猫の顔がニヤけていたのは、照れ隠しだと思いたい。
……そうでないと、本当にキビシイんで……
今回は短めで。
体力的にキツイんよ……