気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
あるてま実業高校では京介が番を張っているらしい。乙葉とは腐れ縁で炊き出しを手伝う為にバトルに参加していたのだという。
「勝者は別に買わなくてもいいんですよ。レジを通す時に別の物と交換もできるのです」
乙葉の説明によると、バトル勝者が得るポイントとはお金としても使えるらしい。しかもかなりの高額だ。自ら料理なんてしない奴がほとんどの為知られていないが、一回あたり金額にすると約五万相当になるらしい。
普通は貯めておくのだけど、この世界に未練のないあるてま勢には効率の良い食材の購入に当ててしまっていたのだ。
「誰か救助が来ると思ってたんですが、まさか莉姫さんのお父さんが来られるとは思いませんでした」
「あ、あー。娘が世話になってるようで」
こんなことを言う日が来るとは思わなかったなぁ。しかもその娘、俺の別の姿だし。
「すぱしーばは今回の事に関わってる、という事ですか?」
「直接ではない。ヴェンデッドに利用されたってところだと思ってくれ。俺は君たち転入に乗った人たちをサルベージするためにここに来たんだ。その意味を理解してほしい」
「……分かりました。莉姫の父である貴方を、信用します」
京介の緊張がようやく解けたので、こちらも飯に預かる事にする。具沢山の豚汁とご飯という、若い男子には堪らないメニューだ。
ちなみにここは学校のとある部屋である。
その名も『家庭科準備室』であり、簡単な台所と冷蔵庫、貯蔵庫等も備えていた。
「わたしは乙葉の妹って設定になってた。撤回を要求する!」
「そのおかげで食いっぱぐれてない事に感謝の意は有りますか?」
「うう……ありがと」
「ご理解頂けて光栄です」
「君たちは、この世界に染まってないように見えるが……他の転入者も同様なのか?」
「半々……いや3分の2は染まりきれてないな。そういった連中はここに来てメシにありついてる」
話によると。
この世界のモブ、NPC達はそんなに強い相手ではないらしい。なので転入者なら一対一だと勝てるのだ。京介レベルになると十人いても無双出来るそうだ。
にしても。乙葉の妹とはな。
一人きりじゃ寂しくて動けないと思っていたら、そんな救済措置をされていたとは。アイツも無理だと思ったんだろうな。
「向こうではどうなってますか?」
「いきなり失踪した奴等が三百人近くいる……だけどあるてまが関わっているとは考えられてはいないようだ」
当たり前な話だが。
同時期に三百人もの人間を行方不明にする事など、国家レベルの力でもないと不可能だ。
あの政府には魔法や魔術といったもので立件は出来ないので、政府関係者は様子見、という所だろう。
スケープゴートにされるのはどちらかというとすぱしーばの方かもしれないが、これは今言っても不安を煽るだけだ。
「マ、いや、お母さん平気だった?」
食いつくように聞いてくるけど、近くに寄り過ぎて離れながら距離を測る今宵、すごい可愛い。ヤバいな、本当に美少女じゃないか(今更感)
「すげえ心配してたらしい。直接話してはいない」
「ど、どうして?」
「まず手が出てくるから」
「「ぷ」」
「あ、あ~。それはたしかに……」
娘からのご理解、頂けました。
ひいては待遇の改善を要求するものですと、
「僕は上京組だし、京介は天涯孤独だから親御さんの事は気にしなくていいんだよね?」
「ああ。こっちの世界の仮初の両親には会ってすらいないし」
「それはそうだよ。だってどう見ても、そんなにキャパシティ大きそうじゃないもの、この世界」
東京の中野区と新宿区辺りを切り取ったような土地。それがこの歪な世界の正体だ。世界の端に行くことは禁忌としてNPCには行えない。
おそらく端は時空の狭間であり、落ちたら最後二度と戻れないだろう。
「なぜ、こんな中途半端な世界を造ったのか。アイツは完璧主義だから……正直、納得できない」
「叩き台のようなものなら分かりますが……転入者を連れ込むのは時期尚早な気もしましたね」
「……ん」
いつの間にか俺に寄っかかって寝ている燦に自分の上着を掛けてやる乙葉。きちんとお兄ちゃんしてるじゃないか。
「ここに来て二日ですが、この子が僕にここまで気を許したことは無かったですよ? 僕としては怒っていいと思いますがね」
「……俺もここまで懐かれるとか思わなかったしw」
ジト目で追求する乙葉が少し怖い。
転入者ゆえの設定が影響しているからだろう。
「寝る時には必ず内鍵のかかる部屋を希望してたしな」
「ほんとう、手のかかる子猫だよ」
「……ありがとう。燦……今宵を守ってくれて」
素直に感謝を述べると、二人は少し黙った。やはり照れ臭いのか、言葉少なにこう返してきた。
「いいんですよ。設定上、妹だし」
「親友の妹なら、守らなきゃな」
うん。
いい子達じゃないか。
なら、ちゃんと帰してやらんとなぁ。
「転入者は転入者を視覚できるのは分かった。集めるのも、まあ炊き出ししてれば余裕かもしれないが……」
時間がかかり過ぎるかもしれない。
なにせ事態が急変してからすぐに来たのにも関わらず、ここでは2日も経っていた。時間の流れが違う世界間に繋げられる転送門とは一体どこまで保つものなのか。
一度連絡を入れる必要があるな。
立ち上がろうとすると、くん、と裾を引っ張られる。燦が控えめに掴んでいたらしい。
「寝床に連れて行った方がいいな」
「僕は非力なので。暦さん、お願いします」
「こっちです」
えええ……まあ、いいけどさ。
横抱きにして抱えると、あの頃よりは少し大きくなった程度の身体であり……胸だけは今のような存在感を感じさせる成長をしていた。
「く……」
「なんか悔しそうですね?」
「気のせいだ」
男の俺が胸の大きい女の子に嫉妬するとか有り得んだろ。最近、莉姫の身体でいた事が多かったせいか引きづられている気がする。
成人男子おっさんとしては、欲情するのが正しいはずなのに……なんでこうなったのか。
まあ、燦に手を出さないというのはありがたいがね。
「莉姫さんはまだ子供ですから。比べるのは酷ってもんですよ」
「あ、ハイ……」
なんかへんな勘違いをフォローする乙葉。
娘の成長に嫉妬してた訳でもないんだけど……まあ、いいか。親バカくらいになった方がらしいかもな。
彼の案内で用務員室に送り届けて、寝かしつける。
流石に服は脱がせられないのでそのまま布団に放り込んだ。燦なら制服のシワとか気にはしないだろう。
……恨まれるとは、思います(確信)
「時に。お前ら家は無いのか?」
「有りますけど、襲撃されてゴミだらけっすよ」
「人間相手だからか、やり方も色々、陰湿さも際立つよねぇ」
なるほどね。
まあ、学校に寝泊まりして文句を言うNPCは居ないらしいし。根城にするにはもってこいだな。
「そうだ。あるてまの転入者があと一人いるんだ」
「来宮さん、ですよね」
「知ってたか。今どこにいるか、分かるか?」
「きりんが居るのは、あそこだ」
京介が指差す先には、二本の高い塔のようなビルがある。
「ヴェンデッドが宣言していたよ。『伴侶として来宮きりんを迎える』とね」
あー……
やる事が増えてしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ね、もういいでしょ? 異世界を作って自分が王様になって。もう楽しんだでしょ?」
そう言う私の言葉に、彼は耳を貸さない。
それは、生殺与奪の権利を持つのが自分だと分かっているからだ。
彼が目を離さない都庁の展望フロアからは、今でも煌々と街が輝きを照らしている。
ある一帯までは。
これが如何に奇妙なことであるのかは、現実の世界を知る私達には理解出来るけど。
彼の取り巻きの人達は何も疑問に感じていないし、それは彼も同様だった
「フン。余はこの世界を本当の世界へとランクアップさせねばならん。この王国が確固たる力を勝ち得るまで、止まることなどないのだよ」
こちらを振り向きもせずに語るヴェンデッド。本来はやや貧弱そうな体型の外国人の彼は、今は世紀末救世主伝説に出てくるような拳法家のように逞しくなっている。
「なんで……こんなこと」
「前にも言ったろう? ハルキオンの復活の為だ。我が国は亡くなってしまったからなぁ。父や、母や、兄や、妹や、同胞、朋輩達のためにも。この悲願は達成せねばならんっ!」
それは、Vtuberとしての設定のはずだ。
妄想を現実と取り違えて、ありもしないこんなVR空間に私達を閉じ込めるなんて正気の沙汰じゃない。
そう考えた私の心を見透かしたように、彼は笑う。
「そうだな。安穏とした暮らしをしていたお前たちには分かるまい。だが、そうも言ってはいられなくなる。我らの世界“ハルキオン”を滅ぼした“
また、訳のわからない事を言い始めた。
彼の言葉はいつもこうなる。
独善的で他者を理解せず、分かりやすい説明もせずに謎掛けのようなポエムをつらつらと垂れ流す。
これでは誰も付いてこないし、浮いてしまう。あるてまの一期生をまとめる者としては、断じて認められないから……茶化しながら、煽てながら。
彼のこれは個性だと。
演出しているだけなんだと。
「ねえ……もしかして。貴方の“設定”って、“本当”なの?」
「余は嘘や冗談と言った覚えはない。真摯に聞いていたお前は信じていた、と思っていたのだが……どうも違ったようだな」
国を失った亡国の王子。
Vtuberとして財を集めて臣を取り戻し、ゆくゆくは国を再興する。
こんな話を真に受ける人間、居るはずがない。
「いずれにせよ、どうする事もできん。奴らが来るまで、面白くもない眺望を肴に女王のような生活を愉しんでおけばいい」
部屋にはテーブルに乗り切らないほどの料理や酒が、ところ狭しと置かれている。
「こんなに要らないでしょう?」
「残った分は下げ渡すだけだ。王族の暮らしとは贅を尽くすもの。正しく高貴な者が食いたいもの、飲みたいものを我慢するなぞ、余の理と反する」
「……あんたね」
ツカツカと近寄り平手打ちをしようとした。
でも、その手は簡単に捻られて、そのままねじあげられた。力もそうだけど、格闘に心得がある人に敵う筈もない。
「くぅ……」
「気が強いことだ。七海のそういうところ、好きなのだがな」
「くっ……いまのアンタは最低よ。自分のために多くの人を巻き込んで、こんな独りよがりの世界で王様ごっこ? そんなんじゃなかったでしょっ! ウォルター!」
「……変わらねば、成せぬ事もあるのだ」
「むぐ……どこの人も言うよな、そういうの」
「「!?」」
咄嗟に私を背中に隠し、声の方を向くウォルター。テーブルの影に、男が一人いた。
口に
「料理の質は悪くないが、下げ渡し前提なら質は下げた方がいいなぁ。食材が幾らあっても持たないぜ?」
「下郎、どこから入った?」
立ち上がりながらそう言う男に、
僅かに空いた扉の外には、屈強な衛兵が倒れていた。
「真っ向勝負はそれなりにやるけど、気配感知とかが甘い。殺しちゃいないが、暫くは起きれないぜ」
「京介……じゃないな。このIDは我王?」
この世界のモデレーターである彼には偽装は通じない、はず。しかし、どうも困惑している。
「彼の切符を借りただけだよ」
「なんだ、と?」
「俺の名前は殿田暦。古詠未の中の人、莉姫の親、って事になってる」
立ち上がると背は成人男性としても高い方ではない。
中肉中背で、顔は凡庸……というのは少し可哀想か。
無精髭のせいでいい印象はないけど、人並み以上には整っていて……確かにどこか莉姫との繋がりを感じる所がある。
それが青みがかった黒髪だと気付くのは、かなりあとの話なのだけど。
「本来、子供の喧嘩には親は出ないってのが不文律なんだが……ま、色々とイジったらしいからちょうどいいか」
口に加えた骨が、一瞬で消え。
パアンッ、と破裂音が響く。
「きさま……人間か?」
「いちおうな。身体自体はイジっちゃいないんでね」
ヴェンデッドの逞しい鉄板のような掌に、その骨が叩きつけられて粉々になっていたのだ。
直後来る強風に煽られると、ヴェンデッドの右手が支えてくれた。
突如現れた莉姫の親という男性。
この歪んだ世界を止める救世主なのか。
この時の私は、何も分からなかった。
今回も短め。インフルやコロナで無いにしても、今回は色々と辛いンゴ……ンゴ可愛いッスね(唐突なV語)