気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜   作:二三一〇

48 / 59
 ヴェンデッド戦は、簡単に終わります(冒頭からネタバレw)


47 観測者の思惑

莉姫の父だと? バカなッ、有り得ん! 古詠未ではなく、莉姫でもなくっ! 親がノコノコと現れたのかっ?

 

 怒り心頭といった風情のヴェンデッド殿下。

 いつものスカしたオレ様貴族言葉もなく、ただの暴言を吐き散らしております……そんなに古詠未とか莉姫に会いたかったのかよ、このロリコン(言われなき中傷)

 

 来宮きりんを回収するために潜入してみれば、なんだか修羅場っぽい感じだし。

 

 にしても、ヴェンデッド殿下変わりすぎだろ。なんかラオウみたいになってる(笑)

 あと、なんか気になること言ってたな。代わるもの(アルター)とか? スクラ○ドのアルター……じゃねぇよな。あれは物質変換……みたいなモンだったし……ちがう。別のところで聞いた言葉だ。

 

ちょこまかと、逃げるなっ!

「悪い、ちょっと考え事してて」

なめるなァーッ!!

 

 お、お? 連撃が速くなった。だけど、速いだけでフェイントは雑だな。見せの攻撃にもちゃんと力乗せないと、あれ?

 

くらえっ 咆哮(ルギートゥス)

「おわっ!?」

 

 フェイントの拳からなんか飛んできた! 格闘マンガか? とっさに腕をクロスさせ、身体の奥から魔力を開放。ぶつかったのは圧縮された空気のようだが、そのわりには重く、動きを停められた。

 

「ぐうっ……」

そこだっ

 

 低い姿勢からの足刀が膝を狙って放たれ、既のところで打点をそら……せなかった。左の膝の上辺りにマトモに当たり、ミシミシと骨が軋む。

 

手応えあり! ハッ

 

 隙と見た奴が飛び込む。左のフックでレバー狙い。マトモに食らうな。仕方ない……ってそんなわけあるかっ!

 

(にのぅ)!」

 

 頭の中に閃いた唱術を唄う。桜色の花弁が奴の拳の前に現れ、その勢いを止めてくれた。

 その隙に距離を置くが、左膝上がかなりキテいた。

 

魔術士(マギ)だとっ?

「……そっか。お前のそれも、魔法なんだって忘れてたよ。なら、こっちも使わんとな」

 

 頭の中にかかる霧が晴れるような感覚。

 唱術を使いながら戦う事を、俺は覚えている。アイツらと戦った時も、そうしていた筈だ。

 

暫時牢獄(らぇ、かぇけー)

 

 右手を振り、タクトを動かすようにイメージ。本来は何小節か必要なプロセスを、魔力で強引にカットして起動。ヴェンデッドの周囲に茨の生け垣を展開する。

 

こんな弱々しい結界など、ぐうっ!?

「見た目通りの訳ないだろ?」

 

 ヴェンデッドの拳が生け垣にぶつかると、茨が一本引きちぎられる。しかしその分の棘が奴の拳に刺さり、血を流させる。魔力で防御を張っていても、この棘は抜けてくるのだ。

 

 大して長くは保たないだろうが、今のうちに出来るだけの強化(バフ)をかける。

 

「♪れぃ、るーゆるぅー、てぃた、ふぁぞさふぁお……」

 

な、なに……あの人の周りに、花びらが……

 

 傷の一時的鎮痛。身体の強化、一段、二段、三段。対魔力防御穿孔術、一段、二段。対物理防御穿孔術、一段、二段。攻撃属性変化と攻性強化はやめておこう。元の体は人間だ。

 アイツらじゃない。

 

このっ、小馬鹿にしおって!

 

 あらかた終わったから暫時牢獄を解く……あーあ、拳が傷だらけじゃんか。そういうキズって、治しづらいんだぜ?

 

ウォルター!?

「動かんで下さいな」

 

 来宮きりんがかけ寄ろうとするので、蔓の戒め(うーみす、てれぇも)でその場に縛り付ける。

 

こ、これは?

「近寄ると危ない。その場に居て下さいな」

七海にぃ、近づくなぁーっ

 

 こちらに殴りかかるヴェンデッド。恋は盲目ってのは、どの世界でも同じなんだな。

 その顔面に向けて被せるように拳を放つ。

 

 

 

 

ば……か、な?

 

 物理と魔法の防御を穿つ術式と、奴の体格を受け止めるだけの身体強化。あとは痛みでブレないようにしておけば、こんなものである。

 

 ヴェンデッドの頬にめり込んだ拳は、正しく彼の本体に届き……その意識を失わせるのに十分な威力を発揮した。

 

 倒れ伏すヴェンデッドに魔術の解除をかけると、大きな体躯は消え失せ、元のウォルター=スミスへと戻っていった。

 

 

 

やれやれ。あっさり倒しおって

 

 俺の背後に現れたそいつが呟いた。殺意もなく攻撃してくる輩もいるけど、こいつに限ってはそれはないだろう。ゆっくりと振り向くと、前髪に隠れた眦が弧を描いているのが分かった。

 

代わるもの(アルター)に比べたら、大したことない。そんなの分かっていたのに、なんで焚き付けた? 観測者」

 

 白いドレスに、ウェーブした黒髪。前髪はその青い瞳を半分ほどに隠しながらも、ゆらゆらと揺らめいている。姿は終理永歌そのものだが、その存在は全く違う。呼びようが思い付かなかったから観測者と言ったが。

 

興味本位、と言いたいが理由はあった。この世界自体に意味は無いが、これを成す理由はあったのだ

 

 そう言いながら捕縛された来宮のところへ歩いていく。いつの間にか気絶していた彼女を優しく抱きかかえ、近くのソファーへ寝かせる。

 

主な理由はお主らすぱしーばにこそある

「俺らが悪いってのか?」

悪いとは言わんが……やり方が少々こそばゆくてな

 

 こそばゆい? 意味が分からないな。

 

まあ、それはさておき。暦、お主がここにアイリスを連れてこなかったのは、どうしてなのだ?

 

 少し楽しげに聞いてくる。すぐにドンパチやるつもりがないのか。まあ、回復時間を稼ぐつもりで少し付き合ってやる。

 

「莉姫の状態だと、別の空間に入った時に分離する、と考えたからだ」

ふむ……なぜそう考えた?

「そりゃ、瑠莉の中に飛ばされたからさ。アイリスって楔が無いと、莉姫の体を維持出来ない。別の空間に入ると、アイリスは古詠未の身体の方が繋がりが強いから、そっちに移ってしまう。結果として俺の魂だけが宙ぶらりんになる。そう解釈した」

 

 アイリスが介在すると、俺の身体が不安定になる。そう結論付けたのだが、何か間違っていたのか?

 

いや、何ら間違っていない。君は君の身体である事が一番自然なんだ。むしろ莉姫という在り方の方が異質なんだよ

 

 そんなのは、言われなくても分かっている。おっさんが少女の姿でいる方が、おかしいのだ。

 

その通りだ。“アカシアの木”にもそう記述がされている。“殿田暦は男性だ”とね。私が観測してきたんだから間違いない。時に、君よ。君はアイリスの言う事が“おかしい”という風に感じたことは無かったかな?

「存在自体がおかしいからな」

茶化して言ってはいるが、それは思考停止だ

 

 言いたい放題だな、こんにゃろ。まあ、確かに異世界の変な花の事だから、おかしいのは当たり前、みたいな感じで扱ってきたけど……

 

誤解の無いように言っておくが、私はアイリスの事が嫌いなわけではない。むしろ、好ましいとも思える。世界の(ことわり)を捻じ曲げてまで自分の想いを成し遂げようとする心意気。実に好ましい

 

 アイリスの事を“おかしい”と言ったり“好ましい”と言ったり。こいつは何なんだ?

 

話は戻るけど。この世界を作らせたのは、もちろん意味はない。この事態を収束させる事こそ、企図していたことなのだからね

「ア”ア”?」

 

 やべえ、言ってる意味が分からない。

 

三百人近くの人間を元の世界に転送し、その記録自体を改竄する。世界に浸潤させた魔力の無駄遣いこそが私の目論んだ筋書きさ

 

 すぱしーばの連中がせっせこ貯め込んだ魔力を使う事が目的だとか。控えめに言ってもやな性格だと思う。

 

「質悪いな、お前」

誉められたと、思っておくよ

 

 悪びれずにキメ顔で言い切る様は、確かにヴェンデッドとは格が違った。どう考えてもコイツがラスボスみたいに見える。

 

ちなみに私のことを嫌がらせが趣味な悪質な存在だと思ったね? それは甚だ心外だ。善良とは言わないけど、悪と断ぜられるのは待って欲しい

「そんじゃ、意味があるとでも言うのか?」

あるとも、当然。先ほどの可哀想な亡国の王子が言っていたではないかね。代わるもの(アルター)に滅ぼされた、と

 

 ……確かにそんな言葉を言っていた。

 

代わるもの(アルター)は、魔力の満ちる地に寄ってくる性質がある。彼の世界も、その国も、そのため滅ぼされたのさ

「そうなのか……え? つまり、フラウレーティアもやられる可能性があるってことか!?」

あそこに限っては、今のところは無いだろう。首領クラスの亡骸が横たわる地は、彼らも近寄ってはならない危険な土地だと判断する

「そ、そうなのか……」

 

 すぱしーばの連中の故郷が滅ぼされると聞いて動揺した。そこにやや呆れたような声音が追い打ちをする。

 

まだ忘れているのかい? アイリス君の支配下から外したのだから、そろそろ思い出してもいいと思うがね

「え……?」

フラウレーティアを襲った代わるもの(アルター)達を殲滅したのは君なんだよ? 殿田暦くん

 

 

 

 

 そう言うと、周囲はいきなり暗くなる。

 まるで映画館のように、正面の空間に映像が現れた。

 

 生っ白いつるりとした奇妙な生き物が、得も言われぬ断末魔をあげて地に伏す。

 その前にはスーパーサ○ヤ人のように全身を光らせている子供がいた。

 持っている剣を高く掲げ、力を送るとどんどん大きくなっていく。身の丈の数倍の大きな大剣は輝きを増し、その共鳴音は耳を覆わんばかりだ。

 

「光になぁれえぇぇぇーっ!!」

 

 少年の振り下ろした剣とも言えない大きさのものは、その大きな化け物にぶつかり、その内部から光を漏らし始め……閃光と共に砕け散った。細かい光の粒子が一斉に撒き散らされ、幻想的な風景に見える。

 

代わるもの(アルター)の骸はごくごく小さいレベルに分解され、あの世界を覆っている。代わるもの(アルター)にとって、あそこは関わってはいけない場所だと本能的に察知するのさ

「はあ……」

 

 説明を聞いてはいるが、きちんと記憶出来たかは疑問だった。何故なら、俺はその映像に釘付けだったからだ。

 倒した少年である俺ではない。

 

 駆け寄り、抱きついて歓喜の涙に顔を綻ばせる少女に……目を奪われていた。

 

 

 

 

 

 

こよみさんっ、こよみさんっ、こよみさぁんっ!

わ、アイリス……ちょ、な、なんで泣いてんの?

しんぱい、したからに……決まってだろっ

 

 銀色の髪を振り乱し、少女は言葉荒くそう少年に怒鳴る。そこに怒りはなく……単純に身を案じてのものだ。

 

き、きみはほんとうに、とんでもない子だよ……

この身体じゃなかったら、無理だったけど、ね

……! ご、ごめんね。僕の身体を使わせたりして……ちゃんと、戻すからね

 

 少女の言葉が、心に響く。

 

ちゃんと、戻すからね。いつか、必ず

 

 

 

 

 気が付くと、映像は消えていた。

 周りは先ほどと変わらず、散乱した部屋の中にはヴェンデッドと来宮きりんの姿もある。

 そして、正面の観測者は……あいも変わらず薄ら笑いを浮かべていた。

 

 

代わるもの(アルター)を倒すためには魔力と物理的な力の融合が必須だ。本来、それはアイリスの仕事だった

 

「……ああ。そうだ」

 

だが、アイリスには力が……いや、そもそもの勇気が足らなかった。王家の中でも類稀な魔力と力を持ちながらも、戦うこと自体を忌避していた

 

「アイリスは、優しいからな」

 

そんな時に偶然、異なる世界の間に落ちてきたのが君だった

 

 

 俺の目の前に、一人の少女が現れた。

 これもアイツの幻影なのだろう。

 だが、その姿に俺は激しく動揺する。

 

 光沢のある滑らかな銀の髪。

 腰の長さまであるそれは、首元辺りで結ばれて二本のおさげにしている。

 

 前髪はすっぱり切り落としたようなぱっつんで、瞳は黒。ややタレ目がちで幼くも見える。

 

 公立の中学生のようなセーラー服に身を包んでいるが、背丈からすると小学生と間違われかねない。

 

殿田暦ちゃん、と呼んだほうが正しいかな?

 

 その姿を見て、思い出した。

 ……本当の自分というものを。

 

 

 




 おっさん。本当に女だった(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。