気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
「莉姫の父だと? バカなッ、有り得ん! 古詠未ではなく、莉姫でもなくっ! 親がノコノコと現れたのかっ?」
怒り心頭といった風情のヴェンデッド殿下。
いつものスカしたオレ様貴族言葉もなく、ただの暴言を吐き散らしております……そんなに古詠未とか莉姫に会いたかったのかよ、このロリコン(言われなき中傷)
来宮きりんを回収するために潜入してみれば、なんだか修羅場っぽい感じだし。
にしても、ヴェンデッド殿下変わりすぎだろ。なんかラオウみたいになってる(笑)
あと、なんか気になること言ってたな。
「ちょこまかと、逃げるなっ!」
「悪い、ちょっと考え事してて」
「なめるなァーッ!!」
お、お? 連撃が速くなった。だけど、速いだけでフェイントは雑だな。見せの攻撃にもちゃんと力乗せないと、あれ?
「くらえっ
「おわっ!?」
フェイントの拳からなんか飛んできた! 格闘マンガか? とっさに腕をクロスさせ、身体の奥から魔力を開放。ぶつかったのは圧縮された空気のようだが、そのわりには重く、動きを停められた。
「ぐうっ……」
「そこだっ」
低い姿勢からの足刀が膝を狙って放たれ、既のところで打点をそら……せなかった。左の膝の上辺りにマトモに当たり、ミシミシと骨が軋む。
「手応えあり! ハッ」
隙と見た奴が飛び込む。左のフックでレバー狙い。マトモに食らうな。仕方ない……ってそんなわけあるかっ!
「
頭の中に閃いた唱術を唄う。桜色の花弁が奴の拳の前に現れ、その勢いを止めてくれた。
その隙に距離を置くが、左膝上がかなりキテいた。
「
「……そっか。お前のそれも、魔法なんだって忘れてたよ。なら、こっちも使わんとな」
頭の中にかかる霧が晴れるような感覚。
唱術を使いながら戦う事を、俺は覚えている。アイツらと戦った時も、そうしていた筈だ。
「
右手を振り、タクトを動かすようにイメージ。本来は何小節か必要なプロセスを、魔力で強引にカットして起動。ヴェンデッドの周囲に茨の生け垣を展開する。
「こんな弱々しい結界など、ぐうっ!?」
「見た目通りの訳ないだろ?」
ヴェンデッドの拳が生け垣にぶつかると、茨が一本引きちぎられる。しかしその分の棘が奴の拳に刺さり、血を流させる。魔力で防御を張っていても、この棘は抜けてくるのだ。
大して長くは保たないだろうが、今のうちに出来るだけの
「♪れぃ、るーゆるぅー、てぃた、ふぁぞさふぁお……」
「な、なに……あの人の周りに、花びらが……」
傷の一時的鎮痛。身体の強化、一段、二段、三段。対魔力防御穿孔術、一段、二段。対物理防御穿孔術、一段、二段。攻撃属性変化と攻性強化はやめておこう。元の体は人間だ。
アイツらじゃない。
「このっ、小馬鹿にしおって!」
あらかた終わったから暫時牢獄を解く……あーあ、拳が傷だらけじゃんか。そういうキズって、治しづらいんだぜ?
「ウォルター!?」
「動かんで下さいな」
来宮きりんがかけ寄ろうとするので、
「こ、これは?」
「近寄ると危ない。その場に居て下さいな」
「七海にぃ、近づくなぁーっ」
こちらに殴りかかるヴェンデッド。恋は盲目ってのは、どの世界でも同じなんだな。
その顔面に向けて被せるように拳を放つ。
「ば……か、な?」
物理と魔法の防御を穿つ術式と、奴の体格を受け止めるだけの身体強化。あとは痛みでブレないようにしておけば、こんなものである。
ヴェンデッドの頬にめり込んだ拳は、正しく彼の本体に届き……その意識を失わせるのに十分な威力を発揮した。
倒れ伏すヴェンデッドに魔術の解除をかけると、大きな体躯は消え失せ、元のウォルター=スミスへと戻っていった。
「やれやれ。あっさり倒しおって」
俺の背後に現れたそいつが呟いた。殺意もなく攻撃してくる輩もいるけど、こいつに限ってはそれはないだろう。ゆっくりと振り向くと、前髪に隠れた眦が弧を描いているのが分かった。
「
白いドレスに、ウェーブした黒髪。前髪はその青い瞳を半分ほどに隠しながらも、ゆらゆらと揺らめいている。姿は終理永歌そのものだが、その存在は全く違う。呼びようが思い付かなかったから観測者と言ったが。
「興味本位、と言いたいが理由はあった。この世界自体に意味は無いが、これを成す理由はあったのだ」
そう言いながら捕縛された来宮のところへ歩いていく。いつの間にか気絶していた彼女を優しく抱きかかえ、近くのソファーへ寝かせる。
「主な理由はお主らすぱしーばにこそある」
「俺らが悪いってのか?」
「悪いとは言わんが……やり方が少々こそばゆくてな」
こそばゆい? 意味が分からないな。
「まあ、それはさておき。暦、お主がここにアイリスを連れてこなかったのは、どうしてなのだ?」
少し楽しげに聞いてくる。すぐにドンパチやるつもりがないのか。まあ、回復時間を稼ぐつもりで少し付き合ってやる。
「莉姫の状態だと、別の空間に入った時に分離する、と考えたからだ」
「ふむ……なぜそう考えた?」
「そりゃ、瑠莉の中に飛ばされたからさ。アイリスって楔が無いと、莉姫の体を維持出来ない。別の空間に入ると、アイリスは古詠未の身体の方が繋がりが強いから、そっちに移ってしまう。結果として俺の魂だけが宙ぶらりんになる。そう解釈した」
アイリスが介在すると、俺の身体が不安定になる。そう結論付けたのだが、何か間違っていたのか?
「いや、何ら間違っていない。君は君の身体である事が一番自然なんだ。むしろ莉姫という在り方の方が異質なんだよ」
そんなのは、言われなくても分かっている。おっさんが少女の姿でいる方が、おかしいのだ。
「その通りだ。“アカシアの木”にもそう記述がされている。“殿田暦は男性だ”とね。私が観測してきたんだから間違いない。時に、君よ。君はアイリスの言う事が“おかしい”という風に感じたことは無かったかな?」
「存在自体がおかしいからな」
「茶化して言ってはいるが、それは思考停止だ」
言いたい放題だな、こんにゃろ。まあ、確かに異世界の変な花の事だから、おかしいのは当たり前、みたいな感じで扱ってきたけど……
「誤解の無いように言っておくが、私はアイリスの事が嫌いなわけではない。むしろ、好ましいとも思える。世界の
アイリスの事を“おかしい”と言ったり“好ましい”と言ったり。こいつは何なんだ?
「話は戻るけど。この世界を作らせたのは、もちろん意味はない。この事態を収束させる事こそ、企図していたことなのだからね」
「ア”ア”?」
やべえ、言ってる意味が分からない。
「三百人近くの人間を元の世界に転送し、その記録自体を改竄する。世界に浸潤させた魔力の無駄遣いこそが私の目論んだ筋書きさ」
すぱしーばの連中がせっせこ貯め込んだ魔力を使う事が目的だとか。控えめに言ってもやな性格だと思う。
「質悪いな、お前」
「誉められたと、思っておくよ」
悪びれずにキメ顔で言い切る様は、確かにヴェンデッドとは格が違った。どう考えてもコイツがラスボスみたいに見える。
「ちなみに私のことを嫌がらせが趣味な悪質な存在だと思ったね? それは甚だ心外だ。善良とは言わないけど、悪と断ぜられるのは待って欲しい」
「そんじゃ、意味があるとでも言うのか?」
「あるとも、当然。先ほどの可哀想な亡国の王子が言っていたではないかね。
……確かにそんな言葉を言っていた。
「
「そうなのか……え? つまり、フラウレーティアもやられる可能性があるってことか!?」
「あそこに限っては、今のところは無いだろう。首領クラスの亡骸が横たわる地は、彼らも近寄ってはならない危険な土地だと判断する」
「そ、そうなのか……」
すぱしーばの連中の故郷が滅ぼされると聞いて動揺した。そこにやや呆れたような声音が追い打ちをする。
「まだ忘れているのかい? アイリス君の支配下から外したのだから、そろそろ思い出してもいいと思うがね」
「え……?」
「フラウレーティアを襲った
そう言うと、周囲はいきなり暗くなる。
まるで映画館のように、正面の空間に映像が現れた。
生っ白いつるりとした奇妙な生き物が、得も言われぬ断末魔をあげて地に伏す。
その前にはスーパーサ○ヤ人のように全身を光らせている子供がいた。
持っている剣を高く掲げ、力を送るとどんどん大きくなっていく。身の丈の数倍の大きな大剣は輝きを増し、その共鳴音は耳を覆わんばかりだ。
「光になぁれえぇぇぇーっ!!」
少年の振り下ろした剣とも言えない大きさのものは、その大きな化け物にぶつかり、その内部から光を漏らし始め……閃光と共に砕け散った。細かい光の粒子が一斉に撒き散らされ、幻想的な風景に見える。
「
「はあ……」
説明を聞いてはいるが、きちんと記憶出来たかは疑問だった。何故なら、俺はその映像に釘付けだったからだ。
倒した少年である俺ではない。
駆け寄り、抱きついて歓喜の涙に顔を綻ばせる少女に……目を奪われていた。
『こよみさんっ、こよみさんっ、こよみさぁんっ!』
『わ、アイリス……ちょ、な、なんで泣いてんの?』
『しんぱい、したからに……決まってだろっ』
銀色の髪を振り乱し、少女は言葉荒くそう少年に怒鳴る。そこに怒りはなく……単純に身を案じてのものだ。
『き、きみはほんとうに、とんでもない子だよ……』
『この身体じゃなかったら、無理だったけど、ね』
『……! ご、ごめんね。僕の身体を使わせたりして……ちゃんと、戻すからね』
少女の言葉が、心に響く。
『ちゃんと、戻すからね。いつか、必ず』
気が付くと、映像は消えていた。
周りは先ほどと変わらず、散乱した部屋の中にはヴェンデッドと来宮きりんの姿もある。
そして、正面の観測者は……あいも変わらず薄ら笑いを浮かべていた。
「
「……ああ。そうだ」
「だが、アイリスには力が……いや、そもそもの勇気が足らなかった。王家の中でも類稀な魔力と力を持ちながらも、戦うこと自体を忌避していた」
「アイリスは、優しいからな」
「そんな時に偶然、異なる世界の間に落ちてきたのが君だった」
俺の目の前に、一人の少女が現れた。
これもアイツの幻影なのだろう。
だが、その姿に俺は激しく動揺する。
光沢のある滑らかな銀の髪。
腰の長さまであるそれは、首元辺りで結ばれて二本のおさげにしている。
前髪はすっぱり切り落としたようなぱっつんで、瞳は黒。ややタレ目がちで幼くも見える。
公立の中学生のようなセーラー服に身を包んでいるが、背丈からすると小学生と間違われかねない。
「殿田暦ちゃん、と呼んだほうが正しいかな?」
その姿を見て、思い出した。
……本当の自分というものを。
おっさん。本当に女だった(笑)