気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
『さて、山百合女子学園中等部放送部によるお昼休みのオビ番組、『ヤマ中』の時間になりました。お相手は放送部員の良心、糀町花代がお送りします』
弁当箱を開けていると、正面上部にある大型テレビにいつもの人がにこやかに話し始めた。
一般的な校内放送は音声のみの放送なのだが、お昼だけはケーブルテレビのような番組が流れるのだ。
こんなお嬢様学校でも時代の流れというのはやってくるものだ。なから呆れながらも、テレビがついていれば見てしまうのは人の
山百合には大小合わせて三十近くの部活があるそうで、月1でそんな部活の紹介をするというのがある。
『ところでみんなはアニメとかゲームとか好きかな? 私はそんなに出来ないんだー、よよよ。そんなわけで、今日ご紹介するクラブはこちら!』
『SOE同好会でーすっ!』
「ブプッぅ?」
「わっ? 莉姫さんっ?」
「ご、ごめんなさい!」
前の席の子にご飯粒を吹き付けてしまうとは、なんたる失態。謝りながら付いたものを拭き取る。
「手伝うよ」
「鹿取さん?」
「エルゼのせいだもん。ちょっと責任感じるし」
隣の鹿取も手伝ってくれるらしい。同じ部活仲間なので気が引けたみたいだ。
ゴメンねと謝ると、気にしてないからと笑ってくれた。この学校の子は天使ばかりか。
いや、一人は小悪魔かな?
視線をテレビに戻すとその小悪魔であるエルゼが楽しげに話していた。
『代表のエルゼさん、この同好会はどんな活動をなさっているのですか?』
『私達SOE同好会は、日本のサブカルチャーを心より楽しみ、その有用性を世界に配信する事を最終的な目標と掲げています!』
『えっと、平たく言うと?』
『漫画、アニメなどを見たり、ゲームなどで遊びます!』
『なんとびっくり! 遊ぶためのクラブなのですか?』
『そうですっ!』
『なんと清々しい態度っ わたくし、少し感動しております!』
『今日は部員の戌絵琴子ちゃんのオススメのゲームをするために準備してきました!』
「せっかくだから一緒に食べないかな? いやならいいけど」
「ううん、そんなことないよ? ありがとう鹿取さん♪」
お誘いを受けたので机をくっつけて向かい合わせになって昼飯を再開する。
彼女も弁当だが、なかなかに美味そうだ。
冷凍物が少ないので聞いてみると、なんと手作りらしい。頑張り屋さんだなぁ、エルゼと違って(笑)
「卵焼きなんてキレイに出来てるよ。ダマスケナより上手〜」
「そ、それはほめすぎだよ、莉姫さん。本職の人にかなうわけないもの」
ところがダマスケナは相変わらず下手なんだよなぁ……中学生の鹿取が出来るのになんで出来ないのか。
お互いの卵焼きを交換して食べてみる。うん、甘めの卵焼き♪ クール系な鹿取さんだけど実は甘いものが大好きである。ちなみにこっちも少し甘めになっている。
昔は塩気が強い方の方が好みだったのだけど、やっぱり女の子の身体というのは甘味を求めてしまうらしい……ヤレヤレ
「ふんわり感がスゴイよね。さすが本職」
「プリムラに言っておくよ」
最近、俺以外の人の感想を聞くと嬉しそうにするんだよな。分かりづらいけど。
「今日の放送の事は教えてくれなくて。大丈夫かなぁ?」
「あれ? 戌絵は一緒なんだろ?」
「だから、心配なんだよなぁ……」
本ばかり読んでる真面目そうな子なので、しっかり手綱を握ってくれそうだけど?
そう言ったらため息を吐かれた。
「あの子は基本的にはそうなんだけど……悪戯が好きなんだよ」
「いたずら……」
「ちょ……なんで顔赤らめてるのっ? そっちじゃない! 普通の驚かせる悪戯よ」
まさか中学生ですでに硝子の○園とか? 愕然としてしまったが、勘違いらしい。
彼女が声を落として耳打ちしてくる。
「エルゼって単純でしょ? 簡単に引っ掛かるから味をしめたみたいで、何回もやってるのよ。あの子も人がいいから謝るとすぐ許しちゃうし……ほんと、困っちゃうわ」
「はあ……」
コミニュケーションの手段とも言えなくないけどね。それにしても、校則では化粧は禁止となっていてもやはり年頃の女の子は色々と気を使うものらしい。ほんのわずかに香るシトラス系に、少しドキリとした。
『長いことバージョンアップを重ねて、ようやく新バージョンが発売されたロングヒット作。その名も『がっこうぐらし -alternative-』!』
『では、いきますよーっ! Let's go, look at me!』
「ぶふうっ!!」
「きゃあっ?」
盛大に米粒を吹きまくるマシンと化してしまった。謝りながら米を取っていくと、彼女は頬についた米粒を取って口へ運ぶ。
「あ……」
「ゴメンね、エルゼのせいで……」
「いや、その。そうなんだけど」
うむ。この子は少し天然系?
クラスメイトとはいえあんまり知らん奴の吐き出したもの口に入れるとか、女の子として良くない。エルゼとの付き合いが長いせいか、そういうことを自然にやっちゃう人なのかもしれない。
まあ、実際エルゼのせいというのは間違ってない。ほっこりしてる場合じゃないし。
「そ、それより止めないと!」
「え? 放送のこと?」
こてんと首を傾げる鹿取。ち、かわいいな。
『えーとopはカットしますね?』
エルゼがxボタンを押してさっさと始めてしまう。ヤベッ……
『ああー……』
『おいっ、何やってんだっ! うわっ!』
『きゃああっ!?』
『ぐわ……は、はなれろ、え、びす、ざ……』
『な、なにしてんだっ、おまえーっ!』
「……うぷ……」
「な、なんですの……」
「ひいっ……」
教室のモニターに映される、惨劇。
本編では描かれなかった校庭での一部始終を再現したそれは、某有名ゾンビゲームに劣らないクオリティであった。
俺も見たが、気持ち悪くなった。
内戦の最中を逃げ惑った時に倒れていた民兵の亡き骸はいくつも見た。
中からハミ出てたり、片方が無かったり。身体だけしか無いというのも転がっていた。
そういうのを再現してしまったのである。
「ふう……」
「あああ……」
「ええ?……」
そういうものを見てきた俺でさえそうなのだ。耐性のないお嬢様たちにはキツかろう。
「ひ、ひいっ!」
「お、鹿取さん?」
と、思って眺めていたら鹿取が抱きついてきた。うおお、俺より上背あるから、む……胸が……当たる。
『えー? なんスか、この状況は?』
『今のは飛ばせないンですよねー。でも、こっから本編、ストーリーモードに入りますよ? キャラはデフォで四人いて……』
『あ、え? 切るの? マジで? ああもう、みなさんごめんなさい! 今日の放送はここまででーす! またねーっ!』
『え、コレから始まるのに〜!』
そんなやり取りをぶった切るように、画面が暗転した。
教室を見ると、三割くらいが放心していた。
残り三割は目を瞑ったり、耳を塞いだり。いわゆる逃避行動を取っている。
んで、残りはというと。
こちらを見ていた。
「あ、あの鹿取、さん?」
「うう……こ、こわいよぉ」
「ほ、ほら! もう、映ってないよ? 怖くないよぉ?」
「いやぁ……はなしゃないでぇ……」
莉姫より背も高く、ボーイッシュでカッコいい女の子が……縋りついて泣いていたからだ。
「ふえぇ……」
「あ、ほーら♪ よしよし こわくなーい、こわくなーい」
グズつきそうだったから、赤ん坊をあやすように言ってみる。中身おっさんで、母性の欠片も無さそうな少女体型だけど、効果はあったようだ。
「もう、平気? だいじょうぶだから。ねっ?」
「ぅ……うん」
「じゃ、じゃあ。離してくれるかな?」
「ぇ……」
「あー、いいよ♪ 落ち着くまで幾らでも♪」
けっきょく。
六時限目が終わっても、抱きついたままの鹿取だった。
クラスメイトや担当教諭が可哀想にとそのままでの授業を認めたため、彼女にがっちりホールドされながら午後の授業を受けることになった。
「莉姫ちゃん……ありがと」
「あ、うん。いいよ、うん」
まるで幼児退行したみたいなので引き離すわけにもいかない。
くっついたまま安心している鹿取は……ただの可愛い女の子だった。
「予想外だったけど……これは面白い……」
聞こえてんぞ、戌絵。
こいつとエルゼは、鹿取と同じくらいの恐怖を感じた方がいい。
クラスメイトの生暖かい視線に見守られて、鹿取が安らかなのが唯一の救いだった。
戌絵が仕掛けて、エルゼが実行し、鹿取が被害を受ける。SOE同好会はだいたいこんな感じ。
(鹿取、辞めたほうがイイんじゃね?)