気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
「いらっしゃい。ようこそー、今宵ちゃーん♪」
「お、おじゃま、します……」
年の瀬の迫った頃に、莉姫が今宵を連れてきた。
その日はアイリスと瑠莉、万理花がプリムラ、ダマスケナと共にお出掛けしていて、家には俺以外誰もいないという日だった。
『……今日は久々にのんびりできると思っていたのに』
一連の騒動が解決したため、俺は莉姫として配信する必要はなくなり。
年明けにはロシアに行く事になっているが、今のところやる事は特にない。
完全に無職のおっさんと化していた。
だからといって、家にいて暇なわけはない。
莉姫は莉姫で学校があるし、アイリスは国に帰るフェティダの代わりにすぱしーばの代表になったので家にいる事は殆ど無い。
家政婦が二人もいるじゃないかというが、ダマスケナはほぼその業務が出来てないので、プリムラのみだ。
そんなわけで、俺はこのところ主夫として奮闘していたのである。そのため、慣れない疲労がたまっていて疲れていたのだ。
「お前さ。カラオケ行くって言ってなかったか?」
今宵をダイニングテーブルに座らせて、手伝えとキッチンに引っ張りこんで莉姫に問いただす。
「えー、と。今日は他に人いないよって言ったら、家に来たいって言い出して、ね? 二人っきりで話がしたいって」
「……お前が言い出したんじゃないのか?」
「いや、そんなワケないじゃんw 今宵ちゃん、基本人が苦手だし」
「それなら来る理由ないだろ」
「……本気で言ってる?」
口元を
「そんなワケで私は部屋でゲームしてるから」
「お、おいっ! 流石に放置はやめてくれ」
情けない話だが、こんな年の差のある女の子と二人っきりとかヤバすぎる。
「あっちがお望みなんだから、付き合ってあげなよ。ふーん、それとも。本気でヤバいのかな?」
「そんなワケあるかっ!」
「きゃー♪」
怒鳴り散らすと自分の部屋へと逃げ込む莉姫。まったくと鼻を鳴らすと、一部始終を見ていた今宵がくすくすと笑っていた。
「あー……みっともないところを見せてすまないです」
「ぁぅ……、そ、そんなこと、ない、です……」
まさに借りてきた猫のような様子の今宵は、何度か見た印象とはかなり違う。
配信のときは、かなり突飛な感じでスケベだった。いつもの変わらぬ、黒猫燦だ。
莉姫として会った時は、引っ込み思案な少女だった。年頃になってますます可愛く、美しくなった彼女は、千影女史の若かりし頃に勝るとも劣らない美貌をこれでもかと魅せつけてくる。
それでも、内面は千影女史とはかなり違う。
あの人は戦う事を厭わず、迫りくる敵は蹴散らすか懐柔するか。そうして今まで今宵を守りながら生きてきた。
それに比べ、人と関わる事が苦手として陰キャを拗らせコミュ障に陥った今宵。
ハッキリ言えばダメな人間なのであるが、だからといって存在意義が無いかというとそんな筈はない。
コミュ障ながらに必死に克服しようとVtuberを志し、その地歩を固めた今宵には唯一無二の価値があり……それに打たれたのが、何を隠そう自分だったりするわけだ。
つまり、いま。俺は推しと対面させられているのだ。緊張しないわけはないっ!(ドンッ)
まあ、今の彼女ほどには緊張してないとは思うけどね。
今でも、細かく震えているのが分かる。
それなのに、逃げようとはしない。
何がそこまで彼女を駆り立てるのか、俺には全く分からないんだが……。
「と、とりあえず。何か、飲みますか?」
「……
「あ、はい」
振り返り台所に向かうとき、後ろから声をかけられた。小さな声で。
「け、敬語は、やめて。ふつうに話して、ください」
ガラスのティーポットに電子ケトルからお湯を注ぐ。中にはいつもの工芸茶が入れてあるので、ゆっくり花開くところを見せるように彼女の前に置いた。
「わぁ……」
「お茶受けは何がいい? チーズケーキとおはぎがあるけど」
どちらも手製である。無職だとやる事が無いんで、ついついこうした物を作っては娘や嫁に喜ばれたり、怒られたりしている。なんでやねん。
「え、チーズケーキと、おはぎ? ど、どっちに、しよっかな……」
「何なら、両方にする?」
「いいのっ……ですか?」
「俺に敬語使うなって言って、自分は敬語とかズルくないですか? 黒猫さん♪」
「にゃっ……わ、わかった……よ」
「うん。じゃあ、両方出すか」
「やった♪」
小さくガッツポーズする今宵。ちょっと正視できないくらい可愛くてヤバいな。あれっ? 俺こんな美少女と二人っきりの部屋にいるっておかしくない?
精神がグラついてるので振り向いて冷蔵庫からおはぎの入ったタッパーを出して皿に置いて電子レンジでちょいと温める。
その間にチーズケーキも取り出しておく。こちらはレアチーズなのでそのままだ。今日は土台はスポンジじゃなくてクッキー生地を使ったタルト風だ。
お茶がそろそろ良さそうなので、カップにケトルからお湯を注いで温める。業務用のカップウォーマー欲しいんだけど、アレ高いんだよなぁ……。
湯で温めたカップに茉莉花茶を注ぎ、皿と一緒に並べる。
「さあ、召し上がれ」
「い、いただきますっ」
気の弱い女の子でも、こういう時だけは元気になるものだ。
さてと、ウチのお姫様にも持っていくかね。
部屋の前に行って、トントンとノック。「あー……入っていいよ」と声がするのでドアを開ける。
莉姫は椅子に座ってPCでゲームをしていたようだ。こっちを恨めしそうに見てるので聞いてみると。
「もっとテキトーな感じで来れないかな? 他人行儀じゃんか」
「年頃の娘を慮っていたのだがねぇ」
「着替え最中に飛び込んできて、『きゃー、オヤジのえっち、ヘンタイッ!』って言いたかったのに」
「そういうテンプレはいらんから……」
ある意味、コイツは俺よりもオッサン臭いところがある。それを様式美のように求めていたりするのだから、こちらとしては対処に困るのだ。
「……まあ、いいや。あんがと。愛してるよ、親父♪」
「はいはい」
テーブルに置いて、部屋を出る。そこに、莉姫がボソリと呟いた。
「ちゃんと話、聞いてあげてね」
りょーかい。
態々そのために表で遊ぶのをやめたんだろうからな。
「ほんと、手作りなんだ……あむ……おいひぃ♪」
「ありがとさん」
はむはむと食べるところは、猫じゃなくてハムスターのようだ。ほほを一杯に膨らませて食べてる様子は、実に微笑ましい……あ、ダジャレじゃないからな(汗)
かわいい女の子が食べてるのを見るのは、とても良い。それは莉姫や瑠莉、万理花のような子供でも、アイリスやプリムラ、ダマスケナのような大人でも同じだ。
こんな動画があったらずっと見ててもいい。
そう考えていたら、今宵がジトッとした目でこちらを睨んでいた。
「見てられると……恥ずかしい」
「はうっ……す、スマン」
顔を背けると、今度は頬を膨らます。
「こっち見てないと……寂しい」
「むずかしい要望ですねぇっ」
「くすっ……うそ(ペロッ)」
うおお……小さく舌を出してはにかむ天使がここにいる。ヤベェ、とにかくやべえ。
「わたし……いつも、うそつき。ほんと、イヤになる」
訥々と語る今宵に、感情の動きは見られない。
違うか。不安な気持ちを抑え込むような……そんなふうに見える。
「本当の私を知られたくないから、ウソを重ねる。ウソがバレるのが怖いから、話したくなくなる。わたしのコミュ障はそうやって出来ていったものだから」
「そりゃあ、誰だってウソ位つくだろ? 一度もウソ言わない人間なんて、たぶんろくな事になってないと思うぞ?」
嘘も方便、知らぬが仏とも言うが、虚偽や既知でない事で回る事も多い。全てを知った叡智の存在に、人はなれないのだ。
「私のウソは……わたし、自身、だから」
はっきりと言う今宵だが、意味がよく分からない。私自身がウソ? どういう意味だ? おっちゃん、若い娘の感性にはついていけないんだよなぁー。
こちらを見据えてくる今宵。顔は少し紅潮していて、瞳も少し潤んでいる。表情は危ういが、その発した言葉とはつながらなかった。
「おとこ、だったの」
「え……? おとこのこ?」
あまりの爆弾発言。え、こんな美少女が男の娘だったとか? そういや、付いてるのを確認したことはなかったけど。
ファンタジーな存在だと思ってたら身近にいたとか。ああ、自分を取り巻く状況から鑑みるに、ファンタジーなんて幾らでも転がってるもんだろうからね。ははっ()
いや、そうじゃなくて。アレ?
なんか今宵、怒ってる?
ツリ目が鋭角になり、口元からは八重歯が牙のように光った。椅子から立ち上がりすごい剣幕で怒り始める。
「男の娘とかじゃないからっ! 死ねっ!」
「あ、はいっ! すみませんでしたぁー!」
「こ、これは本物。ほら、ばいんばいん?」
「あ、はいっ! そうッスね! でも、野郎の前でそういう事はしない方がいいと思いますっ! サーッ!」
両手で大きな胸をわさわさ揺するのは反則である。本人もはしたないと気付いたか、顔を真っ赤にして俯く。それにしても顔立ちが千影さんに似てきたせいか、彼女にアピールされてるみたいですごく気マズい。
──しばし大声を出した後の静寂というのは、格別に静かに感じるものだ。
「揉まないの?」
「揉むかっ! 阿呆ゥっ!」
いいタイミングで部屋から顔を出す莉姫に怒鳴る。キャー、と言いながら部屋に戻るけど……外からつっかえでもかましとくか?
「……揉まないの?」
「いや、揉まないし……」
そんな残念そうな顔しないの、勘違いしちゃうでしょ。おじさん、まだ死にたくないからね(真顔)
けど、そんな今宵は乾いた笑いを浮かべて独りごちる。
「わたしは、何度も揉んだよ?」
「いや、そういう赤裸々な告白は困るんだが」
何これ、性の相談なの?
それ、オレじゃなくて母親とか湊さんにすべき案件じゃねえの?
「自分の身体だけど、自分じゃないから……そんな感覚だったから。本当の自分の身体じゃないと思ってたから、なのかな?」
胸を押さえて、そう呟く今宵。何やら本当にお悩みのようにも聞こえてくる。でもなぁ……オレ女の子だった頃にそういうの無かったからなぁ……。
「今は完全に美少女なのっ! でも、前世はただのおっさんだったの」
そう語る今宵の姿は、まるでそのまま消えてしまうような危うさを漂わせていた。
「……あ、前世の記憶があるんだ」
「ちょっ……かるいっ! なにそれ!」
「前の記憶があっても、今宵は今宵だろ?」
姿形が変わることに比べたら、へーきへーき。大したことじゃないよ。そういう事を言っちゃう俺も大概だなぁ……
「……へ、そんにゃ……あぅぅ……」
「あー、その泣くなっ ああーと……」
ぽろぽろと涙を溢して泣く今宵。困り果てているとドアを開けてこっちを見る莉姫と目が合う。
『な、なんとかしてくれっ!』
『検討を祈りますっ ∠(`・ω・´)』
アイコンタクトでそんなことを言って、ドアを閉めた莉姫。……あのやろう……明日はおやつ抜きだ。
仕方がない。
覚悟を決めて立ち上がると、今宵の側まで回り……震える肩に手を置く。と。
「……ぅ」
ぽすん、と。
胸板に頭を預けてくる、今宵。
男の娘なんて、あるわけない。
こんなに可愛くて、良い匂いを放ち、柔らかい存在が男の娘なんて、あるわけがない。
さめざめと泣き続ける今宵は、この
悔やまなければいいなあ。
悲しまれると、辛いかな。
喜ばれると、それはそれで嫌だなぁ。
ただ、安らぎを得てくれていたなら……それが一番だな。
直接対決はしておかないと、な。
まあ、この感じだと今宵の判定勝ちのような気がしますね(笑)