気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
なんか書いてたら今宵ちゃんあんまり喋ってなかったよ……正直すまんかったm(__)m
……ふう。
湯を張った浴槽に身を委ねて、ようやく人心地がついた。
『んもー、爺臭いなぁ。その格好で言うことじゃないでしょう?』
「おまーなぁ……誰のせいだと思っとんの?」
『かわいい莉姫ちゃんのせいでーす♪』
「うわ、うぜぇー」
浴室に響く声はボイスチェンジャー風の莉姫の声と、今は昔のかつての暦ちゃんの声。中身おっさんとは思えない、年若い女子の声だ。
『ママが頑張って構築した身体はどう?』
「こんなの作る為に残業してたんじゃないだろうな?」
アイリスがすぱしーばの代表取締役になるので、その関係で深夜帰りや泊まり込みが続いていたのだと思っていた。だが、どうもこちらの方に注力していたようにも思える。
『封じていた記憶の断片から身体のデータを補整していたけど、作成自体はそんなにかかってないらしいよ? ダマスケナのおかげだって言ってた』
「それならいいけどさ……ブクブク」
浴槽に顔をうずめて泡を作る。子供みたいなことしてるけど、今の姿なら相応じゃないかな? お肌ぴちぴちだし、長めの髪も艶やかで銀の光沢を帯びている。昔々の山の中でドラム缶風呂に入っていた時の感覚そのままである。
「つうか、あいつまだ諦めてなかったのかよ」
『ママにとっては贖罪だからね』
「俺と結婚してるのに?」
『それとコレとは別なんでしょ? わたし、ママじゃないから分かんないしw』
「さいで」
手を動かして、お湯をすくう。しばらくおっさん状態だったので違和感はあるものの、莉姫の時と変わらない感じだ。
『親父、ちょっと力抜いてて』
「おーう……」
言われるまでもない。
と、左手が勝手に動いて髪に刺してある髪飾りを抜き取った。
「あ?」
『ふははっ 隙あり〜っ!』
ポンッと光を帯びながら俺の前に飛び出て来たのは先ほどと同じ格好の莉姫だ。浴槽に突っ込みそうになって慌てて避けたけど、お前そのニーソもう濡れてるからな(笑)
「お前は漏らしてないのか?」
「痛覚はあるけど漏らす身体は無いからね♪ お陰様で」
「くっそ……やられ損じゃねえかよ、オレ」
「わぷっ!?」
得意げな莉姫に掌で水鉄砲をかましてやる。
「く……まあ、親父の可愛い姿に免じて許してやろう」
「お前、いい性格してんね。それと俺のどこが可愛いだって? おっさんからかうんじゃないよ?」
分離した以上俺は昔の姿じゃない……あれ?
なんか、手がそのままな気がするけど?
「いやー、やっぱカワイイよなぁ。黒髪もいいんだけど、銀の髪とか憧れるよ♪」
「……おゐ、分離したのに……なんで?」
外したら、戻るって言ってなかったっけ?
愛しの愛娘は、にっこりと満面の笑みを浮かべてこう言った。
「ママの娘の僕が、本当のこと言うわけ無いでしょ?」
ああ……そう言えば、そうだったな。
はは……
「嘘ですむかっ! ボケェッ!」
「きゃーっ♪」
湯船から飛び起き捕まえようとするも、するりと躱す莉姫。おのれ、我が娘だけあってすばしっこいっ!
浴室から逃げ出すのを追って俺も飛び出す。どうせ家にいるのは今宵だけだ。ドスケベなあいつは喜びこそすれ悲鳴を上げたりはしないっ!
「たすけてっ」
「ふえっ!?」
「ちっ!」
廊下にいた人影の影に隠れる莉姫に舌打ちする。おのれ、猪口才なっ!
「え? れきちゃん、がふたり?」
「たすけてゆいママっ! ニセモノに襲われるぅ♪」
「うおおお……」
ん? 後ろから今宵の声?
んじゃあ、あっちの人ってだれだって……
湊さんじゃんっ!
「え、あの、どういうことか、分かんないけど……服は着たほうがいいよ?」
あ”……
「%@¥£⇄*ー々<=?!」
あ”ー……しにたい。
湊さんに二回も裸体を晒すとか……まぢふざけんなよ。
素っ裸のままでいるわけにもいかないので、莉姫の服を借りる事にする。
「さぁさぁ、親父♪ どれでもいいよ?」
「なんで喜んでんの、お前?」
外面が変わっていても親父に自分の下着やら服やら貸すのに喜んでるっておかしくね?
しかもこいつ。いつの間にかすげえ数増やしてて草である。
「ふむぅ……かわいくない。似合ってるけど」
「お前、自分とほぼ変わんないこと忘れてないか?」
「そういやそうだった。ぼく、カッコいい♪」
ハーフパンツにタートルネックのセーターという無難なチョイスだが、サイズもピッタリ。
ちなみにインナーも借りてはいるんだけど、こいつ色気づきやがってフリルいっぱいのかわいいやつばっかりにしてやがった。
「中坊のウチからこんなん履いてんなよっ」
「かわいい方がいいに決まってんでしょ?」
「十年早いっ!」
「うわー、親父が横暴だーっ!」
そんな会話をしたのも少し面白かったけど……やっぱ、恥ずかしいわ。無地のパンツとストレッチブラという無難な選択をしておいた。
昔の記憶が戻ったせいもあってか、そんなに抵抗は無いのだけど……おっさんとしては複雑である。はあ……
ゴチン、ゴチン
「うぐぅ……いたい」
「な、んでわたしまで……ぐす」
「ま、まあまあ。落ち着いて、ね? 女の子同士なんだし、ね」
「ふんっ」
いたずらをした二人へのお仕置きをする。
とりあえず事の発端の莉姫と、勝手に湊さん呼びつけた今宵にはげんこつを落としておいた。莉姫はともかく今宵は一般人なので軽めにしたはずだけど、すっごく泣いてるので少し罪悪感。でも、これは躾だから(キリッ)
「粗末なものをお見せして申し訳ありませんでした」
「いえいえ、けっこうなものでした。若いっていいわね」
ぺこりぺこりと、二人で頭を下げる。少し間抜けだが、親しき仲にも礼儀あり、だ。
「それで……莉姫ちゃんの、妹さん、かな?」
「えっ?」
「腹違いの妹なんだー♪」
「おまっ……!」
口元をによによさせる莉姫をにらみつける。こういう時は言ったもの勝ちなんだろうが、くそ……。
「い、妹の……
「花梨ちゃん、ね。よろしく」
にっこり笑顔の湊さん。まったく疑問は抱いてないみたいだ。その後ろでニヤニヤ笑う
ちなみに名乗った花梨という名前は、アイリスと間で出来た子につけようと思っていた名前だ。ロシア語の暦(カリンダーリ)と植物がらみの名前ということで考えていたんだけど……まさかまた偽名として使うことになろうとは。
まあ、落としどころとしては悪くはない。
俺としても湊さんに『実はおっさんでした、テヘッ♪』なんてカミングアウトするのはイヤだ。悩み事を打ち明けた今宵に教えるのは仕方ないとしても、彼女にまで教えるのは流石に勘弁願いたい。
その湊さんだけど、なんだか腕組みをして頭をひねっている……どうしましたん?
「もしかして……最初に会った莉姫ちゃんて、あなた?」
「えっ?」
「雰囲気が似てるの。こう……丁寧かと思ったら荒っぽくて。あんまり女の子らしくない所とかも、ね」
うおお……さすがゆいママ。よく見てらっしゃる。しかしそれを肯定するわけにはいかない。
「ただ似てるだけ、ですよ? ほら、姉妹ですから」
「あの頃は右も左も分からなかったからねー。親父の肌着とかいい思い出ッス」
話を合わせてくれた莉姫だけど、湊さんは何かに気付いた。
「! そう言えば、花梨ちゃんはきちんと着けてる?」
「ふぇっ?」
じろじろと眺める湊さんの視線。
うう……なんか恥ずい。
「ちゃんと見繕ってるから安心してよ。さすがに僕と同じ思いさせるわけにはいかないもん」
「そう……なら、良かった」
しかし。気遣いの鬼である湊さんはまだ何か気になるようである。
「どうしたの?」
「いえね。少しは見直したんだけど……やっぱり一言申し上げたいのよね、お父様に」
「!」
びくっ!
何やら剣呑な様子でつぶやく湊さんの瞳から、ハイライトが消えている……
「莉姫ちゃん以外に子供作ってたとか、不誠実でしょう? そもそもアイリスさんの扱いにも問題あるし!」
あ……これは、しばらくおっさんに戻るのはやめたほうがよさそうだな(悟り)
「あ、あの。みーちゃん。ここで言うのはちょっと……」
「そうね。ごめんなさい、二人とも。子供に罪は無いものね」
おお……今宵が成長している。空気を読んでおっさんへのヘイトを防ぐとか、メイン盾来たよ! これで勝つるっ!(フラグ乙)
「それで……花梨ちゃんは一時的な来日なの? それとも一緒に住むのかな?」
「い、いちおう年明けにはロシアに行きます」
「そうなんだ。てっきり住むのかと思ってた」
「親父にくっついて行くんだって」
にひひ、と笑いつつ答える莉姫だが、湊は少し渋い顔をする。
「……差し出がましい事だけど、正直に言わせてもらえれば私は反対だわ」
「「えっ?」」
俺と莉姫の声が重なる。
「お父様に付いて根無し草な生活をするより、居を構えていた方がいいと思う。きちんと学校に行って、それなりの知識を蓄えて、今できる事をやるべきよ」
「み、みーちゃん?」
「ご家庭の事に口を出すのは良くないと思うけど。子供を自分の都合で振り回すのは看過できないわ」
み、湊さんが義憤に駆られている……。
いや、フツーにええ子やと思うけど……責められてる我が身としたらかなり居た堪れない。
今宵はアワアワしてるし、莉姫はというと感心している。いや、お前のせいだからな。
「莉姫ちゃん。今日はご両親は遅いの?」
「あ、はい。親父はさっき急用で出たんで今日は戻らないし……ママももう少し後かな?」
そう聞くと、湊さんは立ち上がってハンドバッグを肩にかけた。あれ、もう帰るの?
「分かったわ。この件は日を改めてにしましょ。今宵、帰るわよ」
「ええ? もう?」
「莉姫ちゃんは今日の配信があるんだし、遅くなったら迷惑よ。それじゃあ、またね。花梨ちゃん、莉姫ちゃんも」
あれよあれよと言う間に、帰ってしまった二人。
残されたのは未だに女の子形態の俺と、我が娘だけ。
「さーてと。配信準備でもしてくるかな」
「お、おい。おれ、このままなのかよっ!」
「僕も知らないのよー。ママが知ってる筈だから帰ってきたら聞いたらいいじゃん」
「おまえ、本当に無責任だよな……」
こんな子に育てた覚えはない。
そう言いたかったけど、そもそも育ててなかったわ(自爆)
自分の仕事を思い出して作業にかかる事しばし。玄関の鍵が開いて、「ただいまー」とアイリスに子どもたちの声が響いた。ちなみに莉姫は配信の時間なのでお出迎えは出来なかった。
「おー、莉姫がふりょーだー♪」
「……ふわぁ、きれい」
「お、ついに乙女に返り咲く気になったわね?」
すっかり我が家の一員となった万理花と瑠莉は莉姫だと思っていた。さらに愛する妻の追い打ちだ。
かつて女の子だった事は思い出しても、本質的にはおっさんのつもりなのだ。このギャップは容易には埋まらない。そんなわけでアイリスには一言だけ文句を言う。
「お前が余計なことしてたせいでこっちは酷い目にあったんだぞ?」
「私は本懐を遂げるために努力してただけよ?」
パチリとウインクしていい笑顔をされたら何も言えない。アイリスにとっては返したい贖罪なのだし。
ところが続く爆弾が投下されるとは思わなかった。
「それと、千影さんから電話があってね。花梨ちゃんはきちんと学校に通わせるようにって」
「ファッ!?」
み、湊さん。行動が早すぎるっ!
「あ、いやだって、さ」
「ちなみに戸籍が無いとか理由にはならないわよ?」
「うぐ」
莉姫や万理花、瑠莉などの戸籍やアイリスやすぱしーばの連中などの在留カードやらなんやらも唱術でクリアしてしまっている。データとして間違っていなければ存在する人間に出来てしまうのが恐ろしい。
そこでアイリスがこちらを振り向いて覗き込んでくる。仕事に行くようになって髪型もツインテールからゆるふわに纏めているので少しだけ大人びて見えるのだ。
「それに。莉姫も実は気にしてるのよ?」
「……え?」
あいつにそんな素振りは見えなかったけど。
話によると。
莉姫は自分が実体を持ってしまった事で、俺が女の子としての活動が出来なくなった、と感じたようなのだ。
「いや、それは……違うだろ?」
「私もそう言ったわよ? でもねー。あの子もそういうトコは気になっちゃうみたいなのよ」
この時まで、俺は莉姫が楽しい事だけを追求する少々おバカな子だと思っていたのだけど……どうも実際はそうでもないらしい。
「あなたの居た場所に自分が横入りした感じがとっても気になるんだって。だからその身体を作るのにも協力してたし、導入も自分からやるって言ってたの。誰に似たのか、ね」
くすりと笑うアイリス。
まったく誰に似たのやら。
「……はあ。ともかく元に戻す方法を教えてくれ。莉姫の服借りたままだと何だか落ち着かない」
「父親と服を共有するなんて、普通の親子じゃ出来ないもんね♪」
そう言いながら渡してきたのは小さな髪飾り。濃いピンクの花梨の花がモチーフになっていた。
髪飾りを付けた状態なら任意で代われるらしい。しかも、おっさん状態、女の子状態共に服を着用したままいけるそうで、着実な進歩に笑うしかない。
着替えるために部屋に入るアイリスが振り向いて聞いてくる。
「どうしてもダメなら千影さんには私から言うわ。自分の子供じゃない花梨となんて暮らせないって」
「……お前に嫌な役押し付けたくはないよ」
子供のわがままに振り回されるのは、なんとなくお父さんらしいじゃないか。そう思い込もう。俺の言葉に、彼女はフフッと笑う。相変わらず、可愛い(絶対正義)
さて。
それじゃあ、逃げ道塞いでおくか。
俺は配信中の莉姫の部屋の前に行く。
「おーい、姉貴ー、親父がメシだってー♪」
『ふえっ? ちょ、いまはいしんちゅ……』
「入るよー……、なにしとん?」
ヘッドセットを付けた莉姫が慌てふためいてこちらを見る。モニターのコメント欄には『誰?』『女の子の声だー』『あねき? 妹さんかな?』などのコメントが次々と書き込まれている。
「んも、な……」
「あー、コレが配信画面なんだね? もしかして本番中かな? おーい、もしもし。聞こえるー?」
莉姫のマイクに寄って声をかける。
コメントはさらに加速し、名前を聞いてくるリスナーもいる。親フラなどと呼ばれているけど、他のVtuberでもこうした事は起こったりするのだ。なので、俺は。
「あ、どうも。妹ッス。初めまして」
近くで見ていた莉姫が、少しだけ涙を滲ませて嬉しそうに笑う。
「もー、配信するんだから来ちゃダメって言ったっしょー? あー、この子は腹違いの妹なんだー♪ みんなヨロシクね(ニッコリ)」
「わりぃ。見た事なかったから分かんなかった」
詫びて部屋から出る。ドアの向こうでは、『妹いるのって知らなくってさー(笑)』とか『私にそっくりなんよ。もー、超美少女でね♪』とか『あ”? 自画自賛だと?』とか、色々と喋りまくっている。
この調子なら莉姫の妹として認知はされるだろう。わざわざ自分を追い込むとか、意味分かんないがね。
「……本当。思った以上に親バカなのねw」
着替えが終わったアイリスに廊下でそう言われた。
そうかもしれないな。
娘が妙に気を遣ったりするよりははるかにマシだと思うがね。少なくとも、間違ったとは思いたくない。
むしろ、自分を誉めたい気分だったので、アイリスが頭を撫でてくれたのが素直に嬉しかった。……おっさん状態じゃなくて良かった(笑)
追記。
やっぱり間違えてた。
いつの間にかVtuberにデビュー予定とか嘘八百並べやがった、あんちくしょう!
「名前どーする? ガワは古詠未と色違いかな? それじゃあ2Pカラーになっちゃうよね。いっそ男の子にしちゃう?」
妻よ……嬉々としてデビューさせないでくれ。でも、なんだか止められそうもないかなぁ……
はぁ……(笑)