気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
『こんばんは。十七時半になりました。昔はこの時間にガンダムの再放送がやっていたそうッスね。あの作品が本放送時に低迷していたとは今では信じられませんが、世の中には信じられない事って起こるものなんですよね……まさにいま、俺が信じられない状況なんスから。はぁ……』
こんばんわー
どこかで聞いた事あるローテンションな声w
こら、挨拶しなさいっ! ヽ(`Д´)ノプンプン 姫乃 古詠未 ✓
お、その姉が来た草
ちゃんと見張ってるからね 姫乃 古詠未 ✓
私も見てるよー、頑張ってね 立花 アスカ ✓
花梨ちゃんの配信が始まった。
十七時半という時間は姉の莉姫ちゃんの一時間前。古詠未のイトコという設定である彼女のアバター、『崎守奏(さきもりかなで)』は一歳年下の男の子、という設定である。
姉と同じ声なのに、少し低くするだけでこんなにもカッコ可愛い少年の声になるのだから……正直恐ろしい。
とりあえず、コメントを送ろう。
頑張って、奏くん(ง •̀ω•́)ง✧ 夏波 結 ✓
『……みなさん、ありがとうございます。こんな温かい言葉を送られると、少し嬉しくなりますね。あと、姉貴は黙ってて。あるてまの夏波結さんも、ありがとうございます』
あの頃の莉姫ちゃんとも違う、落ち着いた丁寧な語り口。やはり花梨ちゃんは彼女とは違うのだ。顔立ちや声が似てるだけで初期の古詠未が彼女だったなどと邪推するのは、やはり間違っていたのだろう。
『色々と話していて挨拶が遅れてしまいました。すぱしーば二期生の新人バーチャルミャーチューバー、崎守奏と言います。一期生の姫乃古詠未のイトコです。今後とも宜しくお願いします(ペコリ)』
ご丁寧にどうも
見た目に反して礼儀正しい
こよみんとやり合ってた時と比べて落ち着き過ぎ(笑)
莉姫という奔放な姉がいるせいか、この子はとてもしっかりしている印象がある。家庭という小さな環境においても役割分担というものが出来てくるので、彼女はそういう役割になっているのであろう。
今のところ歪んでいる所は見えないけど、家庭環境はあまり宜しくない。若すぎる母とその娘とは血が繋がっておらず、肝心の父は仕事にかまけてろくに家に帰ってない。莉姫にはアイリスという母がいるからまだマシだけど、花梨にはその父しかいないのだ。そのろくでもない父しか。
…………
思わず、マウスを持つ手に力が入る。
暦というあの父親は、なぜ莉姫や花梨の側にいてやらないのか。千影さんが会いに行った時も彼はおらず、花梨とアイリスさんと話す事になったらしい。
莉姫が古詠未として活動するようになった経緯は分からないけど、海外に住む父親にその姿を見せる事が目的であったように思えるのは穿ち過ぎだろうか?
はじめの頃は不安そうな表情の多かった莉姫も最近では元気過ぎるくらいである。これもアイリスという母親の存在無しには語れないだろう。あのくらいの子供は、やはり笑顔でいてほしいものだ。
『ほんでは、届いていたマシュマロから良さげなのをチョイスして、タイトルやらファンネームなんかを決めていきたいと思います』
進行が平坦。もっと緩急つけて喋れ 姫乃 古詠未 ✓
先輩ヅラしてて草
ま、たしかにまったりトークだねw
『アレと話してると実際疲れる。俺はもっとのんべんだらりとした生活を送りたいのだ』
ふふんとドヤ顔で言う奏くん。ふにゃふにゃした顔が可愛らしいw 気持ちは分かるけど、年若い子の言う事でもない気もする。古詠未もそう思ったのか、コメントで抗議してきた。
こぉらっ! だらけないのっ お仕事中だよっ! 姫乃 古詠未 ✓
こ、こよみんが珍しくマトモな事を!
明日は雪かな?
『あー、はいはい。とりま設定の確認しとこうか。“崎守奏、十四歳。おとこのこ”……なんで平仮名なん? “古詠未のイトコでなし崩しに連れ込まれた”……はは、ここはそのままだね。だいたいこんな感じだったよ。“姉に振り回されている事が多い苦労人”……アイリスは俺に手綱を取らせようと考えてるフシがあるけど、それはごめんこうむりたい。さっきも言ったけど俺はダラダラしたいのだ(フンス)』
設定を言いつつ自身のコメントを返していく。手慣れた感じに話してるし、言葉の端々からも発声には問題なさそう。古詠未ちゃんの初配信の時より落ち着いた感じで気負いはなさそうだ。
社長を呼び捨てとかつおいw
奏なら仕方ない アイリス ✓
おるやんけっ!
こよみんにはコメント一つ流さなかったのに
ま、ママっ? 姫乃 古詠未 ✓
私の息子をヨロシクね♡ アイリス ✓
はいっ!
イエッサー∠(`・ω・´)
そこは“マム”だ、バカ者ッ!
いえす、あいまむッく(`・ω・´)
訓練されすぎて草
『あ、まだ職場だよね? 夕飯はクラムチャウダーにしてみたよ。ホンビノス無かったから蛤で代用しちゃったけど』
うん。たのしみ♪ アイリス ✓
うまかった(味見担当) 姫乃 古詠未 ✓
コメント欄で会話するなw
人んちの団欒見せつけられて草
これはなごやか家族w
独り身にはつらい流れ
わかりみ
でもほっこりしてる顔はいいね
(ー﹏ー)←こんな顔されたら笑うわw
垣間見えた会話から、アイリスさんと奏(花梨)との関係は良好な様子。それにしても、クラムチャウダーか……私が本格的に調理を始めたのは高校の二年くらい。それと比べると明らかに早い。それだけ早熟にならざるを得なかった背景があるのは間違いない。
『“好きな食べ物は寿司”……これは本当ッス。ロシアでもお寿司はフツーに食べられるし、美味しいお店もいっぱい。親父も好きなんだ。“嫌いな食べ物、特になし”……だいたい食べられるからね。だけどシュールストレミング、てめーはダメだ』
お寿司……ワイもすし
回転する方しか行けない……
立ち食いで二、三つまむのがマイブーム(死語)
親父……もしかして
おい、やめろw ヤツの話はするな
アイリスとこよみんの関係者ならアイツしか居ねえよなw
アイツはどこまで俺らを煽るのか……
生物兵器(?)は食べられないよ?
『親父、相変わらず嫌われてるね。まあ、そりゃあそうか。一見すると女の子に囲まれてるみたいなモンだからね』
キナ臭くなるコメントにやや呆れ口調で答える奏。『おとこのこ』という立場からこう言わざるをえないようだ。
莉姫と花梨の父親である殿田暦氏は、すぱしーばでは誰よりも知名度がある。古詠未の配信で顔出ししてしまったのもあるが、あれだけ可愛い娘たちと若くて可愛らしい妻のアイリスに囲まれているのだ。世のリスナー達にとっては穏やかにはなれない筈だ。
匿名掲示板のアンチスレは実質、彼の個人スレとなっているらしいし、彼の個人的なつぶやいたーアカウントは炎上から消失してしまっている。個人だけに留まらず、すぱしーば、彼の元いた会社であるHLインテグリティにも非難の声が届いているそうだ。
その問題が波及したかどうかは分からないが、出向先から契約を解除されて元の会社には辞表が出されているというつぶやきが拡散された。稼いでいる妻や娘に寄生するためと噂されているが当人からのコメントは無い。
しかしながら、私の方に入ってきた情報からするとゲスの勘繰りとしか言いようがない。
彼は海外でVtuber界隈の起業をするために独立することになったという話なのだ。花梨はそれに付いて行こうとしていた、というわけらしい。
やっかみ半分の意見はともかく、個人的には彼は好ましくない。それは仕事にかまける姿勢が私の父にそっくりであるからだ。神代の娘を嫁を迎えたせいか、仕事詰めの彼が家に帰ることなど滅多になく、私も母も世間一般の家族の団らんなどは一度も無かった。
──ああ。
だからなのか。
暦氏はそうであるにも関わらず、娘や妻に慕われている。私と違って……彼女達は暦氏を信頼し、愛している。
翻って、私が父に対する感情はお世辞にも良い印象ではないものばかり。父を慕うという事も、どこか絵空事だ。
彼を好ましく思わないのは、ただの羨望であり。
莉姫や花梨が心配だと思うのも、重ね合わせた自分のことだ。
『嫌われるのはイヤだろうけど、全員から好かれるのもムリな話だし。本人もそう思ってるんじゃないかな、と思うよ?』
花梨の言葉を奏として話す。莉姫のように好き好きと公言しないけど、その声音は優しく。嫌いな人間の事を話すような感じではない。
『男なんだから強く生きろ、としか言えないよね。……セクハラ発言だな、訂正しないと。まあ、強く生きろ、だな』
なでくん、オトコマエw
アンチのミンナ、聞いてるー?
この程度じゃ曲がらないという信頼、スゲェ
強く生きろ、か。
ずっと年下の子に言われてしまった。
『(ガチャ)もー、なにマジトークしちゃってんの?』
『おまっ……配信中には邪魔しないって約束だろ?』
『初配信なんだからもっとドカーンってやらかさんと! リシェやアンヘルにも抜かれちゃうよ?』
『別にアイツらと競争するつもりないし。ダラダラと配信したいだけの人生なんスよー ( 一﹏一)』
莉姫ちゃんが乱入してきた……一緒に住んでるのなら当たり前だろうけど、配信ではやってはいけない事のハズ。けど、どうやらこの二人はこのやり取りもお約束のようにしてしまっている。従来のVtuberには無いアプローチなので少し面白い。
お姉ーちゃんキチャーw
慌ててアバター起動するなでくん有能
さらっと後輩の宣伝もするパイセン草
だらけたいのは本心らしい……なでくんパネェ
一緒にデビューする二期生は三人。リーシェ、アンヘル、大神露樹で全員女の子。皆成人してるアバターだけど、中の人は莉姫と同じ学校の生徒らしい。すぱしーばは若年層かつ女子で固める方針なのかもしれない。
『そっちがその気ならっ! エイッ』
『ふひゃっ?』
お、おしおきかっ!?
つか、奏くんもおしおき枠なのかっ!
おとこのこの矯声……イイネッ
エッ、女の子じゃん?
お前、なでくんの中の人は女のコだぞ?
し、知らんかった……トウロクシヨ
リスナーの大半は男性だろうから、こういうのはとても良く効くのだけど……あの二人の『おしおき』というものがどういうものなのか、分からない(ここは社外秘なんだそうだ) くすぐられてるようであり、それは楽しそうではあるんだけど、ね。
さて、そろそろ出ようかな。
『テメェ、倍返しだぁっ!』
『あひぃっ!?こ、この……姉より強い弟などおらぬわっ!』
『あうっ!?誰が姉だっ、このアバズレッ』
『きゃうんっ! やべ、きもちいじゃなくてっ! この童貞っ!』
『おふっ!ど、どど、童貞ちゃうわっ!』
『あひいっ?』
ああ……また不毛な争いが……
かれこれ十分くらいヤッてるね
俺ら的には嬉しいけど、どうなのこれ?
そのうちBANされるかもなw
『いーかげんにしなさいっ! あなた達っ!』
『ゆ、ゆいさんっ?』
『なんでここに?』
『アイリスさんから合鍵預かってるのっ! 配信中にケンカするようなら止めてって頼まれてるのよ』
『『な、なんだってー!?』』
ナ、ナンダッテー!?
他企業のVtuberにストッパー頼むとかいいの?
あるてまと結本人に許可は取ったわよ アイリス ✓
彼女には逆らえないからね、あの子達は♪ アイリス ✓
『ええ……そりゃそうだけど』
『ママ、ズルいっ! 汚いっ!』
『ほらっ古詠未ちゃん、部屋に戻るわよ。奏くんは配信の続きね。まだ時間あるんでしょ?』
『あ、は、はい』
『うえーん』
バタンッ
『えー……と、とりあえず今起こったことを話すぜっ? あるてまの夏波結さんが突然部屋に入ってきて古詠未連れてってくれたっ!』
まあ、そうだなww
ゆい、なにしてんのォ? にゃ 黒猫 燦 ✓
取ってつけた語尾やめろ黒猫w
あの黒猫がゆいママにツッコむとは……ホロリ
成長したな、黒猫草
↑なんか薬草みたいで草
黒猫に手がかからなくなったと思ったらw
ああ、古詠未&奏の育児になるとは……
ゆいママバブみてぇてぇ……
『そ、そうは思うけど……なんか肯定するのはすごく照れ臭いな。なんにしても、配信中にケンカとか社会人失格だね。はんせい。さて、時間もまだあるし募集していたマロを少し消化しようかな?……』
ボクの事もねー様と呼んで構わないんだよ? 今度コラボしないかい? 十六夜桜花 マシュマロ ❏〟 |
『……あの、初っ端からネタぶっこむのやめてくれませんかね、ざよいぃっ!』
草
募集初めてすぐ投稿したのかな、桜花サマw
ランダムだと思いたい。これは草
ねー様、ブレねえなぁ(笑)
ざよいェ…… 黒猫 燦 ✓
呼んだ? 十六夜 桜花 ✓
やっぱり居たぁw
『前向きに検討しますので三ヶ月ほどお待ち下さい。あと、マシュマロ経由のお誘いはマジで勘弁して下さいね』
スゲなくあしらわれてるw
ねー様ほんと変わんないな
つか奏くんおとこのこだけどエエの?
可愛ければ構わないんだよ♡ 十六夜 桜花 ✓
悲報。ねー様、節操無しだったw
ガチ百合かと思ったらショタもおーけーとか……あると思います
フウ……
『えーっと。オチも付いたし、そろそろ終わりとさせて頂きます。出来ましたらチャンネル登録、高評価などなど下さいませ。やる気無くても漲ってくるかもしれませんよ(ニコッ)。この後、本来なら姫乃古詠未センパイの時間ですが、二期生のデビュー配信が続きます。詳しい事は概要欄にも記載して有りますので、ご確認下さい』
おう、もう終わりか
二期生……次はアンヘルか
ドイツ語で『天使』だっけ?
アバターもそんな感じらしい
『アンヘルさんとはわりと気が合うんですよ。もう一人のリーシェって子の守護天使って事になってるけど、まあ振り回される事が多くて……親近感が湧いてくるんだよなぁ』
こよみんに振り回されてるもんねw
そういう意味か
つまりそのリーシェとやらも問題児なわけねw
『それでは、ご視聴ありがとうございました。次回の配信でも、会えたらイイね。お相手は崎守奏でした』
「ふう……」
リビングで莉姫とスマホで配信を眺めていたのだけど、彼女は大きくため息をついた。
「どうだった?」
「なんとか無難に終わりましたけど……正直どうかな?」
「花梨ちゃん、ちゃんと喋れていたよ? 莉姫ちゃんのおかげでインパクトもあったし」
「ぜんぶゆいママに取られちゃったけどね」
「そ、それは……」
そう言われるとちょっと申し訳なく思う。
彼女もそれは承知の上らしく、テヘッと笑った。天真爛漫な笑顔がとてもかわいい。
「湊さんが来てくれたから自然な形で退場出来たし。今日はありがとうございました」
「こちらこそ。花梨ちゃんの手助けが出来てよかった」
今宵にも助けられてばかりの私が、人の手助けが出来るようになるとは思わなかった。その機会を与えてくれた事に感謝したい。……箱内の後輩には出来てないけど、まあそれはそれとして。
『あー、終わったーぁ (´Д`)ハァ…』
部屋のドアが開いて、疲れたような花梨がやってくる。おつかれーと莉姫が麦茶を渡すとさんきゅーと答えて一気に飲み干す。まさにツーカーなやり取りに思わずくすりと笑いが溢れる。
「お疲れ様、花梨ちゃん」
「お手間かけさせて、スイマセンでした」
丁寧に頭を下げる仕草は、やはりどことなく男の子っぽい。莉姫にもそういう所があった事を思い出す。
父親のそういう姿を見て育ったから。
そう考えると二人が似てるのも分かる。
「お父さんとは、仲いい?」
「え?……ま、まあ。いい、とは思いますよ?」
「そう。なら、よかった」
後で電話をかけてみようかな。
そんな気持ちになったのは、もう何年ぶりだろうか。
夕食にお呼ばれしたのでその日は結局かけられなかったけど、次の日にかけてみたら。
『もしもし?』
「……いま、平気?」
『娘の電話を拒む親がいるか』
「……そっか」
ごく普通に話すことが出来ていた。
「わたしね、最近楽しいんだ」
最初は自宅で見ていて、騒動が起こったら古詠未(莉姫)の家まで行く湊さん(ゆいママ)。この話では家が近いという設定なのでw(ご都合とも言う)