気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜 作:二三一〇
また、途中で時間経過や視点が変わります。
「いっ! いったあっ!」
ガタンッ、ドタンッ
不意に来た痛みに、思わず跳ね上がり椅子ごと後ろに倒れてしまった。
『わ、だ、だいじょぶですか?』
「お、おまえ……沸点低すぎだろ?」
『あう……スミマセン……』
「ちょっとさあ……安易にやるなよなぁ……」
椅子を直し、立ち上がる。
あーあ、スプーンを跳ね飛ばしてカレーが散乱してしまった。また片付けないと。
『こ、こよみさん! カメラ、平気ですか?』
「あっ!」
テーブル上のwebカメラを確認すると、放り出したスプーンの直撃を受けたらしくあさっての方向を向いて倒れていた。
「ほ……幸運? にも倒れてたよ。危なかった」
ところが。米粒のついたスマホの画面にはチャットが凄い勢いで加速している。
見た!
見えたっ!
見逃したっ
くっ、カレーが来なければ!
お前と話してなければっ
なんやと、工藤?
ホンディ組は、カレー食べて帰ってくれw
ちな、どんな感じだった?
なんか、お嬢っぽかった!
おかっぱ黒髪ロングをお嬢と思い込むのはどうか?
おかっぱって、最近聞かねえなぁ……
バルス、帰って(笑)
アレ?
なんかヤバ気な会話をしてないかな?
慌ててwebカメラのスイッチを切り、PCの前に行く。
俺の慌てた顔に連動して、画面の中の古詠未も目を
『あー……と。……見ましたか?』
恐る恐る、聞いてみた。
ちらっとだけどね
ブレてたし、一瞬だけど切りぬこうと思えば出来るかも?
キボンヌ
キボンヌ
クレクレ厨ウザッw
うああ……
俺はガクリと項垂れる。
顔出しは、Vtuberとしては一番ダメだろう。
「と、とりあえず今日の配信はこれまで。またね」
『今日の配信は終了しました』の文字が流れ、チャットはお別れの挨拶で埋められる。
おつかえー
お疲れさま
カレー美味しそうだった。これから作るw
切り抜きの報告とかつぶやいたーにするよー
怒られてもやめないで(真剣)
おつかれです。
そういや、ファンネームとか決めてないねw
まともに雑談してないもんね草
ずっと見てるわけにもいかないので、とりあえずPCのモニターを落とす。
「ふぁ〜」
『あ、あの。こよみさん?』
「……あのさ、顔バレとかはどうなんの? なんかペナルティとかあるわけ?」
未だに解除してないので、頭の中のアイリスに聞く。もし、顔バレがダメなら早々に俺はVtuberとしての活動は終わりとなってしまう。
『いえ? 特に何も無いですよ?』
「はぁ〜〜〜、よかった」
俺は心の底から安堵の声をあげて机に突っ伏した。
『お疲れのようですね。じゃあ、戻りますか?』
「ん」
ピカッと輝き、俺は元の姿に戻る。
アイリスも机の上でゆらゆらと揺れていた。
この花に聞いておかなければならない事があったので聞くことにする。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「顔出しオーケーなら、なんでVtuberなんだ? 普通の配信者でも良いだろうに」
その問いに、あっけらかんと答えるアイリス。
『話題性ですよ、もちろん』
「は……?」
『例えば、合体しないで暦さんが
いきなりリアルな話に変わったので面食らったが、冷静に考えることはできる。
「まあ、百万なんて一生かかっても無理だな」
『デスよねー』
はっきり言われると怒りたくもなるが、それは当たり前な事だ。
自己分析から言うと、俺はややコミュ障寄りなのであまり弁舌は立つ方ではない。
また、カリスマ性の様なものも無いので人から注目される事も少ない。
目立つ事が大前提の仕事なんて、無理なのだ。
裏方がせいぜいな人間であり、人気者になどなれるはずもない。
『やけに自分を過小評価していますね?』
「四十近くになれば現実は嫌でも理解するよ。魔法の世界のお花には理解できないかもしれんがな」
『……そうかもしれませんね』
アイリスが少し気落ちしたような声で呟く。
沈黙が暫く続いた。
『話を戻しますが、あなたがここに閉じ込められた理由はあなたの生きる活力、エナジーの不足です』
「その……エナジーってなんなんだ?」
『この世界の人には理解しづらい所が多いでしょうが、有り体に言えば心の力です』
ゑ……なんだか理解出来ない単語が出てきた。いや、言わんとする所は分かるが、理解しようとすると難しい。
『普通の人はそこまで深刻な事にはならないのですが、あなたは特別な人でして。心の力の再生が上手く出来ないのです』
「そ、そうなのか?」
そう言われると、人としてダメな人間だと自覚がある故に納得してしまう。
『正確には作り出す事が上手く出来てない。が、正しいですね。他の方から心の力、エナジーの供給を受けて、自らの中で作り出す。その工程に慣れる必要があるのです』
んん? どういう事だ?
今の俺は自力で動けない。だから何らかの補助的な物が必要で、それか心の力、エナジーというもの、でいいのか?
『現世において心の力は徐々に流出し、人は自らの内面よりエナジーを作り出して維持しています。普通の人は足りなくなっても病気になったりするだけですが……』
器用に顔を俯かせるように花弁を下に向ける。芸が細かい。
「……俺は、違うのか?」
『あなたは消えてしまうのです。現世から、いつの間にか』
かなり衝撃的な話なのに、あまり現実感がない。
この光景自体、現実感がないけどさ。
「……どうして、そうなるんだ?」
『それは私にも解りかねます。世界の真理は誰にも分かりません。あなたが特殊というか、特別なのか。ただ、エナジーの枯渇によって存在が消えてしまう事象は私の世界でも観測されていました。それ故に、私は対処法を知っています』
「そ、それは一体何なんだ?」
花がこちらを向いて。
『私と合体する事なのですよ♪』
ポカッ
……ドヤ顔をしているような気がしたので、殴ってやった。
後悔はしていない。
『ひっどーい? いきなり殴るなんて、DVですよ、DV!』
「やかましい! ここがDV訴えられる場所かどうか考えてから物言えや?」
『うわぅっ! 今度は恫喝ですか? きゃー、こわーい(笑)』
「ホントに花びら、むしってやろうかな……」
くねくねと動きながら、くだらない事を垂れ流すアイリス。
だが、不意に動きを止めてまともな事を言った。
『私と合体している状態のこよみさんは、心の力の流出を抑える事が出来ます。僅かずつは流れますが、そのままでいるよりは遥かにマシです』
……ふむ。
そういう利点があったのか。
可愛いのが好きだから、変身させたとかいう理由じゃなくて良かった。
『まあ、外見は私の趣味なんですけどね?』
「少し感心したと思ったら、すぐに落とすとかやめてくんない? ツッコむのも面倒になってきたよ……」
げんなりしていると、アイリスがまたマジメモードで話を始めた。
『この閉ざされた世界も同じです。ここにいる限り、あなたはエナジーの損耗により悩まされる事はありません。ただ、心の力を生み出す事のできないあなたにはただの延命措置にしか過ぎません』
「だから、他の人から心の力、エナジーを貰えと。そのためにVtuberになれと言う事なのか……」
こくりと頷く、花。
シリアスな場面のはずなのに、何故か締まらないなぁ……
「一つ、いいか?」
『なんでしょう?』
もう一つ、気になる事がある。
これはある意味一番大事な事だ。
「お前が俺を助ける理由は、なんだ?」
『……』
「今の話を聞く限り、俺が消えてもお前には何も害はない。勝手にやってきて、勝手に俺を助けるその理由は、なんだ?」
アイリスは、花びらをゆらゆらと動かしている。
表情が分かるわけもない。花だからな。
でも、その仕草に見覚えがあった。
遠い昔に見たような、気がする。
『私があなたを助ける理由は、実験です』
「実験?」
『私の世界でも報告があったと言ったでしょう? 対処法は出来たけど、治癒させる方法は確立していないのが現状です』
「そうなのか?」
『はい。魔力の豊富な世界なので、エナジーの流出を抑える閉鎖空間を構築するのに制限時間は無いのです。コチラと違って』
「ああ、なるほど。こっちは時間制限アリだもんな」
魔法とか魔力とかエナジーとか。
もう訳が分からない。
でも、意外と冷静に対応できている自分に驚く。思った以上に危機対処能力が高いのかもしれないな。
『こちらでのデータが取れれば私にとって大収穫なのです。私が無償でこんな事していないとご理解頂けましたか?』
「ああ、そこは理解した。ちゃんと目的がある方が信頼できるってもんだ」
アイリスはアイリスの都合でこちらを助けるのだから、こちらが負い目を感じる必要はない。
それが分かっただけでも、収穫だ。
『さて、私もお腹が空きました。お夕飯にしましょう♪』
「ああ、そうだな。俺も一口しか食ってないし。そういや、片付けないと」
『えー、後でいいじゃないですか?』
「カレーの色は落ちないんだよっ」
巻き散らかしたカレーやご飯やらを片付ける間、アイリスはまだかまだかとねだり続けた。
……この腹ペコ花め。
夕飯を食べて、ごろごろとする。
何故か東京圏のテレビも入るので、暇を潰すのは問題はない。
ビールの缶を開けて飲んでいると、アイリスが興味深げに覗き込んでくるので、半分分けてやった。
『あ、あふ……こるぇ……あるこるでしたか?』
「言わなかったか?」
『聞いてまへん、よぉ……』
あっという間に寝落ちするアイリス。
これから黙らせるのには、これを使おう。
つぶやいたーの方もチェックしてみる。
すぱしーば名義のアカウントとは別に個人のアカウントもあるので、そちらをチェックする。
趣味というか、献立表というか。
作った料理の写真をアップしているだけなんだが、そこそこ見てる奴らがいてくれるので続いているわけだ。
鍋のカレーを写して投稿しようとして止める。
「……古詠未の内容と被るかな?」
何処にでもある鍋だから大丈夫だとは思うけど……やはり今日はやめておくか。
代わりにすぱしーばのアカウントから投稿しよう。
「おう……なんだこれ」
いつの間にかフォロワーが三千を超えてる。
リプライなんかもある。本来のアカウントではほとんどされたことなかったなぁ。
「……んん?」
一つのつぶやきからのリンクを辿る。
「……やっぱり、見えてたか」
そこには、ボヤけてはいたけど椅子から転げ落ちる所を撮られたこよみの姿があった。
『……姿は趣味で作ったと言っていた。よくある素性を知られた魔法少女的な罰則はなさそうだよな』
その画像の少女を眺める。
鏡を見た時にも思ったが、何処かで会ったような気がするのだ。
どこにでもいそうな、とは言わないが。
髪に飾られたアヤメの花くらいしか目を引かないその姿が……なんだかとても懐かしく思えていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『ボクは運命を感じたんだよっ!』
『おまーの運命なんか知らないにゃっ!』
『つれないなぁー、黒猫さんたら。ボクのこの感動を分けてあげたいと思ったのにっ』
『そういうのは自分の配信でやれや、十六夜桜花ーっ』
その画像を巡って、黒猫の配信に凸するライバーがいたとかいう。
関係ないし、迷惑行為でしかないと思う(笑)
以上、説明回でした。
それと十六夜桜花さんのファンの方、申し訳ありません。
次回は暦以外の視点からのお届けになります。