気付いたらVTUBERを強要されていたおっさんJC 〜お空に監禁されて仕方なく〜   作:二三一〇

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 前回の少し前から始まります。
今回は暦視点からになります。



07 お着替え大作戦!

『今日はお買い物に行きましょう♪』

 

 翌日、朝のトーストを食べながらアイリスが唐突に発言をした。

 

「あー、と。俺はここに閉じ込められているんだよな? エナジーとやらが流出しないように」

『そうですよ?』

「それじゃあ、出掛けちゃダメだろう?」

 

 外に出たら、俺のエナジーが無くなってしまうのではないの?

 

『それでは死んでしまいます。食糧とかはどうするのですか?』

「……まあ、確かにいずれは無くなるな」

『水や電気や電波は届きますが、食べ物は届きません。通販を頼んでも、宅配ボックスまでは取りに行かないといけません』

「うん、至極もっともな意見だ」

『人はずっと引き篭もってはいられないのです。それではヒキニートになってしまいますよ、ぷーくすくす(笑)

「なんで、いま、笑われたんスかねぇ……」

 

 非常識な奴に正論言われると、なんでこんなにもムカつくのか。

 

『いひゃい、いひゃいれふよぉっ』

 

 とりあえず花弁を引っ張って溜飲を下げる。

 インスタントのコーヒーを啜りながら話を再開を促すと、アイリスはあまり気にしないように話し始める。

 

『私と合体したままなら、エナジーの流出は極力抑えられます。ぶっちゃけ、ずっとそのままでいるならこの世界に隔離する必要もないのですが』

「あー、それは。勘弁してつかぁさい。俺が耐えられない」

 

 女のコの身体になるのもそうだけど、アイリスがずっと頭の中で話してくるとかうんざりしてきそうだ。

 

『さもありなん。ともかく、買い出し程度なら問題は無いのです』

 

 えっへんと胸を反らすような仕草をするアイリス。……その茎のほっそい所が胸なのかな?

 

『と、いう訳で今日はお買い物です』

「まあ、買い物自体はいいけど」

 

 洗濯はもう済んでいるので、これからやる事は何もない。

 幸いにして手元にはそこそこ纏まった金があるので暫くは問題は無いと思うが……収入が無いのは厳しいな。

 

「ときに、俺ってすぱしーば所属扱いなんだろ? 給料って出るの?」

『もちろん出ますよ? 基本これこれで、収益化や販売とかが進めばもっと増えます』

 

 俺の知らない所で決まった就労条件は大した金額ではないのだが、家賃、共益費、光熱費、社会保険料等は全部すぱしーば持ちになっているらしい。何、その甘やかしプランは。

 

『すぱしーば自体、暦さんをバックアップするために作った会社なので。ただし、離職出来ませんのであしからず(笑)』

「ホワイトかブラック、判断迷うな、おい」

 

 実際にはありえないのだが、コイツは常識の埒外の存在だ。何があっても不思議ではない。

 

『すぱしーばは私の部下が運営してます。挨拶をしたいと言っていたので、そのうち伺うつもりです』

「お前の部下か……やっぱりお花なのか?」

『ご想像にお任せします♪ では、行きましょうか』

 

 アイリスがそう言うので、着替えに隣の部屋に行って、カーテンを閉める。

 

 手早く下着を着替え、少し小さめのスウェットに着替えた。これも新しく何着か買った方がいいかもな。

 

『では、合体(パーイルフォーメーション)!』

「やめんかっ」

 

 適当な掛け声とともに光に包まれ、俺はまた女の子になってしまった。

 

 

 

「あー、そうかぁ」

『どうかしましたか?』

「靴も、買わないとだな」

 

 中学生程度の体格なんだから、靴が合うはずもない。仕方ないのでクロッグタイプのサンダルにする。

 

 玄関に来ると、アイリスが何か頭の中で呟いている。たぶん、呪文なんだろう。

 

『さ、現世に戻しましたよ』

「おう」

 

 玄関の扉を開けると、久しぶりに眺めるマンションの廊下だ。

 

「う……」

『廊下を見て涙ぐむ人は、こよみさんくらいでしょうね』

 

 もう二度と眺める事が出来ないと思っていた風景を見れたのだ。泣いて何が悪い。

 

 鍵をかけて、エレベータで一階へ。

 宅配ボックスを確認すると、幾つかの荷物と郵送物が数枚あった。

 

「これさ、書留とか来た時、詰まないか?」

『そうですねぇ』

「他人事のように流すなよ、ちきしょうめ」

 

 とりあえず荷物はそのままで出かける事にする。ビールの箱とか持って歩けないし。

 

 

 

「あっつ……」

 

 快適な部屋から出てみると、圧倒的な季節感が押し寄せる。まだ九月半ばなので、多少和らいだとはいえまだまだ暑い。

 

『それじゃあ、こよみさん。お洋服を買いに行きましょう!』

「えっ?」

 

 頭の中で話すアイリスに思わず返事をしてしまい、前を行くご婦人にジロリと睨まれた。

 とりあえず口に手を当てて愛想笑いをして誤魔化す。

 

『こよみさん、スウェットしか無いし。女のコなんだから下着もきちんと着けないと』

「そんな、無茶な……」

 

 家にスウェットしかないのは謝るけど、女物の服とか下着なんてあるわけ無いだろ。キレていい筈なのに、あまりに大きすぎる課題の前に萎縮してしまった。

 

「おま、お前……俺に女物の服を買えと云うのか?」

「私は買えませんから。分離しても、お花ですしw 」

 

 がっでむ……

 

 女みたいな言動が多くて、えっちな絵とかに過剰反応するからメスだと思ってたんだが……大前提として、お花なんだよな。

 

 今の姿なら、確かに違和感はないだろう。

 妹の買い物に付き合わされて、下着売り場で恥ずかしい思いをする事もおそらくはない。

 

 だが、どれをどう選べば良いのかがさっぱり分からん(笑)

 

 部屋着がスウェットなのも、服飾のセンスがあまり良くないせいでもある。

 

 

 

『お兄ちゃん、休みの日にもスーツって何なの?』

『コーディネートのセンスが壊滅的とお前に言われたせいだよ』

『なにそれ、ウケるーw』

 

 

 

 今年JKになった妹の、心無い一言がどれだけ俺を傷つけたのか。それは、俺にしか分かるまい。

 

 それに。

 女物の下着となると、裸にならなければならない。

 いや、語弊があるか。

 少なくともこの身体の、センシティブな部分を見なくてはならない。

 

 それはなんとなく気が引ける。

 見てはいけないものを見てしまう気がするのだ。

 

 トボトボと近くの公園に歩いて行き、ベンチに座る。

 

『どうしよう……』

 

 その呟きを聴くものは、誰もいなかった。

 

 

 

 

 ベンチに腰を下ろしてはや三十分。

 

『こよみさん、いい加減に覚悟決めましょうよ〜』

「うるさいだまれ」

『お店に行って、適当に見繕って下さいって言うだけですよ? あとは店員さんのおもちゃになるだけですって』

「それが嫌だって言ってるんだろ?」

『じゃあ、ご自分で選びなさいよぅ』

「それが出来たら、悩まないわっ」

 

 こんな言い争いをしていたら、小さなお子さんを連れた奥さんが慌てて離れていった。

 周りから見ると、独り言にしか聞こえない。

 アブない奴だと思われても仕方ないな。

 

 陽射しが徐々にキツくなってくる。

 汗がだらだら流れるが、ここを動くとろくな事にならない様な気がして動けなかった。

 余りの重圧(プレッシャー)に、まるでベンチに縫い付けられたようになっていた。

 

 

 そんな時に、声をかけてきた人がいた。

 

 綺麗な女性だ。

 まだ若く、おそらくは大学生のような彼女は見ず知らずの俺を気遣ってきた。

 

 腕を引いて日陰になったベンチへ移動させて、ハンカチまで貸して、水も買ってきてくれた。

 

 あれよあれよと世話を焼いてくれるその姿は、まさに天使であった。

 

 だから、つい。

 頼んだら助けてくれそうな、この人に助けを求めたのだ。

 

「お、お姉さん。お……僕に、服を見立ててくれませんか?」

 

 

 

 しばし呆けたような顔をしたが、俺の様子を見て溜息をつく。くしくしとサイドテールの髪をいじり、俺の恰好を採点するように眺めた。

 

「……素材の良さが全く活かされてない。これは由々しき問題よね、たしかに」

 

 諦めたように呟くその言葉に、俺は微かな希望を感じた。

 

「じゃあ……」

「お姉さん、あんまり時間ないからコーディネートはワンセットだけ。それでいいなら」

「それでいいッス。助かります」

 

 

 ようやく助けてくれそうな人が見つかった。

 お人好しなお姉さんに感謝しかない。

 

 

「な、な、なんで男物なのっ?」

 

 駅前のショッピングモールのティーンズ向けの専門店で、その人は声を荒げて驚いていた。

 適当に見繕ってくれた服を合わせるため、試着室に入る。イマイチ自信が無いのでお姉さんにも同席してもらった。渋々ながら付き合ってくれるこの人は、やっぱり天使だと思う。

 

 そして、スウェットを脱いだ俺の肌着を見て叫んだのがさっきの声だ。

 

 まあ、サイズも合ってないので袖は下がるし、下なんかスウェットの紐で上から結んでないと落ちてしまうのだ。

 

「え……コレしか無いので……」

「……育児放棄? 男物って事は母親、お母さんはいないのね? 本当にヤバい案件じゃないの、コレ……」

 

 ああ! お姉さんが勝手に問題を大きくしてる。

 そんなんじゃないねん! ホントにコレしか無いんだって。

 

「お、親父は悪くないよ? 金だって渡してくれたし、買って来いって」

 

 急いでポケットの長財布からカードを取り出す。

 現金もあるけど万札一枚なので足りないかもしれないので。デビットカードなら問題なく使えるだろう。

 

「本当に、親御さんに虐められてるとかじゃないのね?」

「違うって」

 

 俺の手のカードを見て、彼女が呟く。

 

「KOYOMI TONODA……ふぅん」

「ともかく、変な誤解しないでくれよ?」

 

 カードをしまいつつ、お姉さんに釘を刺す。

 いちおう納得はいったようだ。

 

「ともかくそれじゃあ、肌着類も買わないとダメね。もう、仕方ないなぁ……」

 

 腕時計を見ているので時間があまり無いらしい。

 

「あ、あの……急ぐのならコレだけでいいんで」

「ここまで付き合って帰れる訳ないでしょ。とりあえず、それは持って。こっち、いらっしゃい」

 

 断ろうと思ったら、ぐいぐいと引っ張られてしまった。その勢いのまま、肌着まで見繕ってくれた。

 

 

 

「うん、良いわね」

「か、可愛すぎやしませんかね?」

「女の子が可愛くて何が問題なの?」

「……うう」

 

 お姉さんコーディネート一番目。

 ダボッとしたTシャツとミニ丈の二段フリルのキュロットスカート。帽子にパナマ帽とかオシャレだ。お姉さんはミニスカート推しだったけど、そこは固辞した。

 

「若い子は活動的じゃなきゃね」

「その発言て、いいの?」

「う、うん。私は若い、まだ。うん」

 

 お姉さんコーディネート二番目。

 一番目とあったら二番目もあるんだよなぁ……

 ともかく、次はぞろりとした長さのワンピースとホワッとした帽子、キャスケットって言うのかな? なんだかゆるふわな感じだ。

 

「森ガールも似合うわね」

「ほう……長いから安心だね」

「綺麗な脚なのに勿体ないかな?」

「いや、見せないよ。出来ればズボンで!」

 

 という俺の意向を組んでの三番目。

 黒のTシャツにハーフのカーゴパンツ。足元もサイズを変えたクロッグで、帽子はなんか横文字の書かれたキャップ。

 これでいーじゃん!

 

「うーん、悪くないけど、可愛くない」

「いや、可愛さは二の次でいいの! 着やすさ、重要、超重要」

「まあ、似合うけど……」

 

 本当にしぶしぶオーケーを出すお姉さん。

 どれだけ可愛いの追究するのよ……哲学者?

 

 アンダーや靴、帽子も含めて全部買ったらなんとびっくり十二万。少し乾いた笑いが出そうだったけど、親の金という体を崩さぬために笑顔でお支払い。くう……殺せぇ……

 

 

「うん、初めはどうなるかと思ったけど。久々の着せ替え人形は面白かったわ♪」

「さいですか……こっちもありがたかったです、はい」

 

 ややテンションが下がったけど、とりあえず動きやすい恰好になれたので良しとしよう。なんだかんだでお姉さんもノリノリで、ワンセットと言いつつ三セットも選んでくれたし。

 

 ちなみに今は一番目の格好だ。

 着ていきますと言ったら、店員さんが驚いていたが……まあ、それはそうか。

 何から何までお店で着替えて帰るなんて、男でもやらんものな。

 

「せっかくなので、ご飯でも? お礼に御馳走するよ」

 

 これだけ色々としてくれたのだから、お礼くらいはしないとな。だけど彼女は急ぐ用があるらしく、またの機会にということになった。

 

「それに、お父さんのお金なんだから。見ず知らずのお姉さんに奢るなんてダメだよ。割り勘ね」

 

 恩人なんだから別にいいのに。後日会うために連絡先を交換しようと聞くと、あっさりOKしてくれた。天使ちゃん、警戒心ゆるくない? と思ったけど、いまさらか。

 

「RINEでいい?」

「え、あ、はい。どうぞ」

 

 QRコードを出して、交換する。

 

「こよみちゃん、ね」

「はい。え、と」

 

 天使なお姉さんの名前はみなとさん。

 プロフィールなので本名とは限らないが、その方が気が楽でもある。

 

「日が暮れるのも早くなったから、なるべく早く帰りなさい」

「わ、分かった」

「ん、それじゃあね」

 

 モールで彼女と別れると、しばらく黙っていたアイリスが声をかけてきた。

 

『助かりましたね、こよみさん』

「ああ、本当に。天使みたいだったよ」

 

 そう言えば。

 

「お前、ヘアピンにもなれたのか」

『お花のままだと帽子の邪魔になりますからね』

 

 いっそ消えてくれたらいいのに、とかは言わない。少女のまま戻れなくなったら、困るのはこっちだからな。

 

『うへへ、そのお洋服、お似合いですよぉ』

「おま……変態ちっくに言うなよ、キモい」

『それ言われると、意外と効きますね……』

 

 なら、今後は止めてもらいたい。

 足元がスースーする感覚は慣れてないけど、案外心地良かった。日が落ちて暑さが和らいだせいかもしれない。

 

 

 

 

 

『こんゆいー♪ いやー、今日も暑かったね。まだまだ残暑厳しい折、いかがお過ごしですか? 夏波結でーす』

 

『あれ? 別のライバーさんの見てますね』

「ああ、黒猫とコラボ雑談らしい」

 

『こんばんにゃー、あるてまのリーサルウェポン。黒猫燦ですにゃ』

『燦は今日はどうだった? ちゃんと勉強してた?』

『…………当然、にゃ』

『なに、その間は? まさか学校行ってないとか言わないわよね?』

『ちゃ、ちゃんと行ってるよ? ……早引きしたけど』

『え? 大丈夫? 体調崩したんじゃないの?』

『へ、平気だよー。ゲームし過ぎで寝不足だっただけだし!』

『……へえ。少し問い詰めたいんだけど、いいかしら?』

『にゃ、にゃあァァ〜!!!』

 

 コメント欄では『ああ、またか』『ゆいまま怖い』『手がかかる子は可愛い』など書かれている。

 あるてまの2期生の中でも人気の二人は、もはや仮想家族を超えた繋がりがあるように見えて微笑ましい。

 

『あれ? この声……』

「ん? どうかしたか」

 

 PCの前で葉っぱで腕組みのような形をするアイリス。

 本当に器用に動くよなぁ。

 

『聞き覚えありません?』

「え?」

 

『今日は知り合いの子とお洋服を見てきたんだ。レクチャーしてくれって頼まれてね』

『えっ!? だ、だれ……?』

『えっとねぇー、燦の知らない子♪』

『う……うぅ、ままが、NTRれたー!』

『ちょ……人聞き悪いし、言い方っ!!』

 

 ……この、怒った時の口調……もしかして。

 

『ゆい=みなと、なんでしょうねぇ。世界って意外と狭いですね?』

 

 あっさりと言うアイリス。

 俺はしばらく、開いた口が塞がらなかった。

 

 




 黒猫さんに寝取られ性癖は、ない筈ですよね?
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