つまるところ、猫はいる。   作:來夢檸檬

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動画を作るためにはネタが必要だ。
ねこは小屋を出ることも出来るのです。
さて、それではインタビューに行きましょうか。
幸いこれから行く場所は、熱い場所ではないようですし、ちおびたは持たなくても大丈夫ですね。
…ユイレさんにお留守番を任せるのは心配ですが……。


猫の気まぐれ

扉が開いた。いや、厳密には開いてはいなかったが…。

 

「……は?」

俺の第一声はこいつだ。そりゃそうだ。開くはずのねぇ扉が開いたら、誰だって驚くだろ?それによ、『扉が開いてもねぇのに部屋の中に誰かがいた』ら、驚くに決まってんだろ?

「誰だあんた、いつ入ってきたんだ」

目の前の、スーツ姿の女に問いかける。黒いスーツを全身に纏い、しっかりとネクタイを締めて…そのネクタイには…あぁ…こいつまさか…。

「ねこです」

 

……は?

 

部屋の中のパイプ椅子を1つ、この女に提供した。黒のスーツに白のネクタイ。そしてそのネクタイには、見知った三本矢印のマーク。頭には猫耳と来た。財団の人間だ。と、最初は思った。だがこいつは、どうやら財団の職員じゃあないらしい。よくよく考えてみれば、この部屋に扉を開けずに入ったのだ。だとすればこいつは…

「あんた、この部屋…いや、このデパートと同類か」

それ以外に候補はない。こんな事をやってのける異常な奴を、俺達はSCPと呼んでいる。この、俺がいる部屋…『放送室とデパート』も、それの一種だ。世界に散らばる異常。それを確保、収容、保護するのが、財団…SCP財団の仕事。俺はそこの使い捨ての駒だった。まぁ当然だ、人殺しの俺には、そういう扱いがお似合いだ。

「まぁあんたの事はとやかく聞かねぇよ。で、何の用だ」

「まぁ、ちょっとした取材です。よろしくお願いします」

「取材?俺にか?こんな所まで来て、ご苦労なこった。もしかして、財団の依頼か?」

「いえ、私の為の取材です。とりあえず、あなたがここに入るまでの経緯を説明してください」

財団の依頼じゃない…?何考えてんだ、こいつは。と、考えた所でこの部屋の中ではすることも何も無い。暇つぶしに、俺はずっと過去の話を目の前の女にした。首に着いていた、今ではもう劣化して錆び付いて机の上に置いてある爆弾首輪を付けられ、カメラを持たされ、俺はデパートの中に入った。アナウンスの度に、誰かに忘れられる異常。家族に、同僚に、友人に、俺を知っている人間の記憶から、俺が消えていく。それでも俺は階段を登り、放送室に辿り着いた。全てに忘れ去られた時扉は開き、そして…。

「で、女の子と入れ替わりでこの部屋に入ったって訳だ」

「なるほど、概ね、私の知っている情報と合致しますね」

「で、あんたが聞きたいのはこれじゃねぇだろ?聞きたいのは、それから今までのこと、だろ?」

「察しが早いですね。ではまず、あなたなりのこのデパートと放送室に関する考えを聞きたいです。もっと言えば、この放送室に関する、長い時をこの中で生きてきたあなたの感想を」

一体何にこのインタビューを使うかは知らないが、まぁいい。俺には暇潰しという大きなメリットがあるだけだ。

「な〜んにもやる事はねぇよ。誰かが入ってきたら、強制的にこの席に座らせられる。んで、後はアナウンスだ。アナウンスの内容は自然と口から出る。知らねぇ人間の名前が、勝手にな。んで、デパートからそいつが出ていったらまた自由。そんな生活さ。娯楽はねぇよ、見ての通りな。監視カメラのモニターと放送機材以外は何もねぇ。けど、まるで知識のねぇ俺にもこいつの使い方は分かる。例えば…」

俺はモニターの下のボタンを操作する。すると、画面には1階の玄関の様子が映し出された。

「やることは何もねぇ、とは言ったが、人がいない時にもこいつは使える。例えば、このマイクを使って歌を歌ったり、適当な事を喋ったりしてな。ま、返事もなければオーディエンスもいないが」

「…ただ虚しくなるだけでは?」

「あんた、中々いい趣味してるな。それくらいしかこの場所には暇つぶしがねぇんだよ。後は床で寝ることくらいだ。」

悪態をつきながら、俺は説明を続ける。

「腹も減らねぇ、喉も乾かねぇ。オマケに歳も取らねぇ。もうここに入ってどのくらい経つかは知らねぇが、時間の経過はあるんだ。」

「なるほど、時間の感覚はあるのですね。」

「…なぁ、教えてくれよ。俺がここに入って、どのくらい経ったんだ?それくらい知っても、問題はねぇだろ?」

「……ざっと、十数年は」

「マジかよ…そんなに経ってたのか。すげぇなぁ…そんなにここにいるのか。ま、外にいても変なSCPの実験道具にされて下手すりゃ死ぬんだし、ならここはある意味安全ではあるがな」

十数年…あの女の子は、今ではもういい歳した女に成長しているのだろう。そう、目の前のこの猫耳SCPと同じくらいの見た目に。

「そうだ、1つ興味深い話をしてやるよ。俺はここで1回、自殺を試みた。」

「…結果は?」

「見ての通りさ、ピンピンしてる。睡眠ができるって事は、意識が無くなるってことだが、俺の場合はあのコードを使って首を括った。ぐるっと回して、ドアノブに引っ掛けてな。でも死ねなかった。意識は吹っ飛んだが、誰かがデパートに入ってきた瞬間に意識が覚醒して、めっちゃ咳き込んで、けど放送までには完全に回復した。ンで、あとはいつも通りだ」

「死ぬ事は出来ないのですね。あなたの言う通り、興味深い話です。メモしておきます。」

目の前の女は、俺から聞いた話をこと細やかにパソコンに打ち込んでいる。まるで、あの財団の博士と同じように。

「この放送室を作ったやつも、あんた以上にいい趣味してるぜ。永遠に歳を取らず、死ぬ事も出来ず、アナウンスばかりし続ける部屋。人間という、機械以上に壊れない物を使って、しかも壊れても放送の役割を得た瞬間に即座に修復される。しかも、その人間は世界の全てから忘れ去られた人間。だから誰も心配しない。いなくても問題ない。」

「…一つだけ、訂正します。誰も心配しない、とあなたは言いましたが、1人だけいますよ。あなたを心配している人が。」

「そりゃ誰だ?世界の全てから忘れ去られた俺だぜ?そもそも誰も覚えていないのに、一体誰が………」

言葉の途中で、俺はもしかして、と言葉を止めた。いや、そんなはずはない。こんな俺の事を、まさか覚えているわけ…。

「……覚えているのか、あの女の子は。」

「…かつて、1人の財団の研究員がいました。彼女はかつて、1人の消防士に命を救われました。十数年の時が経ち、彼女はある電話と対面します。過去に通じる電話。過去に、電話した人間の命を救った相手に繋がる電話と。」

「………あぁそうか、そうかよ。覚えているのか、あの女の子は。はは…ったく……こんなしょうもねぇおっさんのことを覚えていても、意味ねぇってのに…」

危ない、危うく泣きそうになった。何とか涙は出なかったが、俺は少しだけ、報われた気がした。

「と、そろそろねこは帰ります。これから"編集"があるので。…私も、あなたの事を覚えておきます。○○○さん」

「名前を呼ばれるなんて、何年ぶりかね…」

「あなたがこの放送室に入る前ぶり、ですね。Dクラス職員は番号で呼ばれますが、あなたは同僚には名前で呼ばれていましたから」

「皮肉屋かあんた。……一つだけ、俺から、俺の考えを言わせてくれ。」

この放送室に入って、一つだけ考えた事がある。恐らくこのSCPに関して、とても重要な事。

「あのお嬢ちゃんの前にも、この部屋に入っていた奴がいるはずだ。そいつを探してやってくれ。おそらくそいつは今、新しい仲間と過ごしている。けど、そいつも一応被害者だ。こんな所にインタビューに来るくらいだ、興味はあるだろ?」

「…そうですね。見つけられれば、探しておきます。ありがとうございました。…あぁそうそう。私からも一つ。新しいお客さんですよ。しっかりと出迎えてあげてください。」

その言葉を聞いて、俺は思わずモニターに振り返った。いや、誰も映っていない。どういう事だと振り向いた時には、もうあの猫耳スーツの姿はなかった。…あの猫耳娘は、俺の幻覚だったのだろうか。と……。

 

扉が開いた。モニターの向こうで、デパートの扉が。俺の意識がモニターとマイクに強制的に向けられる。3人。若い女が入ってきた。見た目からして、財団の職員だろう。しかし、Dクラス職員ではない。そして、女が1人、ゆっくり1歩前に出て………。

 

「…覚えていますか?」

 

震えた声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あくまでもこれは彼の考察、さすがに動画に載せるのは良くないですね。私の考察の1つとして、1部は載せるとして…。あぁそうだ、あのモニターに、私の動画を見れる機能を付与してくれば良かったですね。そうすれば、私の動画の視聴回数……こほん、彼の暇つぶしになりましたが…。さて、ユイレさんが待っていますし、そろそろねこは小屋に帰りましょう。ちおびたを飲んで、動画を早くあげなくてはいけませんし。ユイレさん、何もやらかしてはないでしょうか………。

 

 

 




この小説はSCP財団のSCP-040-JP(http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp)、及びSCP-544-JP(http://scp-jp.wikidot.com/scp-544-jp)とそのtale「進路相談」(http://scp-jp.wikidot.com/sinro-soudan)を中心としたSCP二次創作SSになります。
この作品は、SCP-040-JP「ねこですよろしくおねがいします」、SCP-544-JP「孤独な放送室」に対して独自の解釈が有ります。
このコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元で利用可能です。

またこの小説は、YouTubeチャンネル「ねこのSCPレストラン」の応援小説です。
「ねこのSCPレストラン」に対しての独自の解釈が多く含まれています。
「ねこのSCPレストラン」チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCsUE9GXFRsb1ISA2PE0q96A
「ねこのSCPレストラン」Twitter 「‪@040_jp_resto」

登場SCP
SCP-544-JP「孤独な放送室」
SCP-243-JP「恩人へ」


SCP-040-JP「ねこですよろしくおねがいします」
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