今を去ること二十数年前にちょっとした読み物を作った以来の作品なので、至らない点や、「これってどこかで聞いたことがある」みたいな点が多々あると思います。笑って許して頂けたら幸いです。
なお戦闘シーンはない、といいますか、どう書いたら皆様のように読み応えがあるものを書けるのかと悩んでいます。すみません。
「どうしよう、あのエンタープライズが来るんだって」瑞鶴は声をあげた。
ここは空母たちの控え室。一航戦の赤城、加賀のみならず、二航戦の蒼龍、飛龍、更には翔鶴が控えていた。
「エンタープライズ。因縁ある相手ね」赤城が普段とは違ったやや緊張感のある声をあげた。
皆一様に緊張したような面持ちであった。
それもそのはず。「あの戦争」でここにいるほぼ全ての空母たちの撃沈に関与した敵の空母の名前だったからだ。
「何でまだアメリカはこの時期に使節を送ってきたのかしら?」翔鶴が疑問の声をあげた。
「詳しいことは分からないけど、提督から『今は西部諸国が、深海棲艦との戦いで不利な立場にあるため、アメリカは救援にかかりきりになっているが、いずれはわが国と共同戦線を組みたいと考えているらしい』って聞いたわ。今回はそのための地ならしといったところかしら」赤城は答える。
「だからって、よりによってエンタープライズが来ることはないじゃない。アメリカは何を考えているんだろう?」瑞鶴は言わずにはいられないといった表情で言った。
「それは私たちには分からないわ。あるいはエンタープライズ自身がその理由を知っているかもしれないけど。いずれにしてもアメリカからの正式な使節じゃあ、こちらも受け入れ準備を進めないとね」と赤城が答える。
瑞鶴は「使節に手を出しちゃいけないのは分かっているけど、私、大丈夫かな。エンタープライズを見たらいきなり殴りかかっちゃうかも」とつぶやくように言う。
こういったとき、普段であれば、加賀あたりが冷静な態度を求めるのであるが、誰も口を出さない。
やはり、自分だけならまだしも、ここにいる仲間たちの撃沈のほぼ全てに関与した「あの戦争」の敵の名前はそれだけ空母たちを刺激しているようであった。
「・・私たちは『あの戦争』のことを忘れることはできない。でも今回の敵はアメリカではなく深海棲艦。しかもそのアメリカも深海棲艦と戦っているわ。使節に殴りかかるのだけはやめないと。提督が処罰されるどころじゃ済まないわ。どうしても殴りかかりそうになるなら、・・・そうね、お互いの腕を縛り付けましょう」赤城が絞り出すように冷静に努めようとする声を出した。
さすがに、自分たちの感情だけで深海棲艦とのを戦いを不利にすることはできない、と何とか感情を押さえ込めることにした。
講堂には緊急事態に対応するためのごく一部の艦娘を除いた全員が、使節に敵意がないことを示すため通常は外さない武装をあえて外した上、正装で集合していた。
最前列には艦娘代表の長門と空母代表として赤城が並んでいる。
2人のみならず、この場にいる全員が、「あの戦争」の敵、しかもこの場にいる仲間の多くを撃沈させた敵が使節としてやって来るということで、緊張のみならず、恐怖心やら敵愾心やら復讐心、中には殺気まで入り交じっていた。
そこに提督と初めて実際に見る日本以外の艦娘たちがひな壇に現れた。彼女たちのうち、ひときわ背の高い空母型の艦娘こそ、事前に写真で確認したエンタープライズその人であった。
瑞鶴たちからは距離があるため顔色まではうかがえないが、それでもエンタープライズたちにも緊張した様子がうかがえる。
長門が「気をーつけー」と号令をかけると、全員が提督とエンタープライズたちに敬礼を捧げる。
提督とエンタープライズたちは答礼を返し、右腕を元に戻すと提督が長門に目で合図を送る。それを受け、長門が「休め」と号令をかける。
提督は、マイクで全員に「皆も知っているとおり、今日、アメリカから空母エンタープライズたちが使節としてやって来た。私は『あの戦争』のことは君たちから聞いたこと以上は知らない。それでも『あの戦争』で君たちの多くを沈めたエンタープライズがこの場にいることに複雑な心境を持つ者が少なからずいることは理解できる。
しかし、そのことはエンタープライズ自身も十分知った上で、相当な覚悟を持ってこの場に来ている。そういう者に対しては、礼を尽くすべきだと私は思う。エンタープライズたちに対し、無礼な言動を行う者は私が許さないので皆心するように」と告げた。
艦娘たちは、交戦中以外に聞いたことのないような厳しい口調の提督の言葉に雷にうたれたように背筋を伸ばす。またこのとき提督は、アメリカから直ちにが共同戦線組めない代わりにいくつか技術提供されたことを告げたが、それはまた別のお話。
誤字報告を頂きました。ご指摘ありがとうございます。