提督がほかに回る時間がなくなるということでエンタープライズを連れて移動した後、空母たちはしばらく黙っていた。戦場をくぐり抜けた勘が、エンタープライズの語る思いにいささかの嘘や誇張も含まれていないことを告げていた。
赤城が「ミッドウェーで私たちが沈められたのは慢心があったから。そして、そのせいで翔鶴や瑞鶴はずっとつらい戦いを強いられた。少なくとも私にはエンタープライズをどうこうする資格はないわ」とつぶやいた。すると、加賀や蒼龍、そして飛龍がうなずく。
「五航戦がエンタープライズをどうするか決めてちょうだい。もし、五航戦が『撃沈する』って言うなら撃沈する。『許す』って言うならそれでもいい。でも、私たちの仇討ちだっていうなら、それは赤城さんが言うように、私たちの慢心が招いたことで、むしろそれを突いたエンタープライズたちを褒めるべきこと。五航戦のそれぞれの気持ちだけで決めていいのよ」瑞鶴は、いつもは加賀の「五航戦」という言い方が挑発的に聞こえるため好きではなかったが、このときは不思議とそのまま受け取ることができた。
また、このとき赤城は、加賀がわずかに意外そうな表情を浮かべるのを見逃さなかったが、それに気づいた者はほかにはいなかった。
翔鶴と瑞鶴は、エンタープライズのことを話しているうち、お互い自分自身を撃沈させたことについては納得しているものの、自分以外の仲間を撃沈させられたことにわだかまりを感じていることに気付いた。
翔鶴が「みんな自分のことはエンタープライズさんが強かった、仕方ないという気持ちなのかもしれないけど・・」とつぶやくように話す。
「・・でも、自分以外、私にとっては先輩たちや翔鶴姉を撃沈させられたことは・・」と瑞鶴は続ける。
しかし、その一方で翔鶴と瑞鶴は、ホーネットを撃沈させていることにも思いが至る。
「おそらく、エンタープライズさんも、ホーネットさんを撃沈させた私たちに、私たちと同じような気持ちを持っているわよね」と翔鶴は言う。
「うん、その中には私たちを許せないという気持ちもあると思う」
「それでも、エンタープライズさんは、私たちに何をされてもいいという気持ちでここに来ている」
「エンタープライズとトコトン話してみたい。気持ちは全部理解することはできないかもしれないけど、なるべく理解できるようにしたい。そうした上でエンタープライズをどうするか決めないと失礼だと思う」
「あなたらしいわね、瑞鶴。そう思うなら、あなたが1人でエンタープライズさんとトコトンまで話してきなさい」
「私1人で?」
「そう。あなたがエンタープライズさんとの付き合いが一番長いんだから」
「一番長いって言っても、翔鶴姉と4か月しか違わないじゃん」
「こういうのは1日でも長い方なの」
「そうなの?」
「そう。エンタープライズさんもあなた以外には本音の本音は話さないと思うし、1対1じゃないとエンタープライズさんも話しづらいと思うわ」
「そうかなあ。何かうまく押しつけられた感じもするんだけど・・」そう言ったものの、瑞鶴は乗り気であった。
瑞鶴は、エンタープライズの部屋のドアをノックした。中から「どうぞ」と返事が聞こえたのでドアを開けるとエンタープライズが椅子から立ち上がる。
「ズイカクさん、やはりあなたが来ましたか」エンタープライズは予想が的中したような顔をした。
「私は、あなたを『さん』付けしないから、あなたも私を呼び捨てにして欲しいの」
「分かったわ、ズイカク。・・それでズイカクは私をどうするつもり?沈めるつもりなのかしら」
「・・それを決めに来たといったところかな」
「問答無用で沈められるのだけは避けられたみたいね」
「・・それでエンタープライズ、逆にあなたは私や翔鶴姉を沈めたくないの?理由はあるよね」
「やっぱり、ズイカクは痛いところを突くわね」
「・・質問に答えていないよね」
「・・私もカガさんと同じで、あの戦争のことは忘れられない。仲間を、そしてホーネットを沈めたあなたたちを許せない気持ちがどうしても消えない。だから・・」
「だから?」
「・・私は、ズイカクたちにも私と同じ気持ちがあると思った。・・この気持ちを消し去らなければ共に深海棲艦と戦えない。でも、私にはどうしてもそれができそうにない・・」
「じゃあ、エンタープライズはどうしたいの?」瑞鶴は自分でも驚くほど冷静に尋ねた。
「・・どちらかが消えるしかないと思うわ」エンタープライズも静かに答える。
「そう。・・でも、いくらなんでも、わずかな護衛しか連れてきていないあなたを沈めることなんてできないよ」
「ズイカクならそう言うと思ったわ」
「それじゃあ、どうするの?」
「・・それじゃあ」エンタープライズの口調が突然変わる。「・・まず、目の前にいるあなたを沈めるとするかしら」突如殺気をみなぎらせながら瑞鶴を突き倒す。
上半身を起こした瑞鶴がエンタープライズを見上げると、エンタープライズは阿修羅のような顔をして瑞鶴をにらみつけた上で正確に瑞鶴の眉間を矢で狙っていた。
感想を寄せてくださった方、お気に入りに登録してくださった方、評価してくださった方及び読んでくださった方みなさんに感謝しております。
ご期待にお応えできるか分かりませんが、できの善し悪しはともかく、最後まで投稿を続けますので、よろしくお願い致します。