命知らずの義足のヒーロー   作:オクタン……いいよね!

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オクタビオ・シルバ観察記録!

 オクタビオ・シルバに対し、警察はある理由で手を拱いていた。

 

 一つ目は"個性の無断使用“、それ自体は軽微な犯罪であること。例えば加速したり、空を飛んだらする個性は日常の中でも度々使う者がいる。その全てを厳罰化して取り締まれば、随分と息苦しい社会になってしまう。

 

 二つ目は犯行の目撃時に市民に与えられる私人逮捕権。個性を他人を害する目的で振るえばそれは重篤な犯罪となるが、(ヴィラン)の鎮圧のために行われた場合、やりすぎなければほとんどの場合が無罪になる。実際、それを理解していたオクタビオは(ヴィラン)に対して必要以上の被害を与えることはなかった。

 

 三つ目は彼が世界のシルバ製薬のCEOの御曹子であること。シルバ製薬は今や世界でもトップの製薬企業であり、その資産は計り知れない。日本警察内部にもその関係者は多く、彼は内側からも擁護されているのだ。

 

 そして四つ目、彼のリスナー達だ。今までにいなかった形式の配信者である彼には熱烈なリスナー達が大量に付いている。彼のチャンネルをBANしようとしても、配信サイトの運営内部にもシルバ製薬の息のかかった人間がいる……と言う具合だ。

 

 

 ……しかしまあ、要注意人物としてその身辺を調べて損はない。

 これはただの名もなき警官たる俺が奴について調べた手帳だ。

 

 

 

 

 まず奴の住処は普通のサイズの一軒家。世界の大企業の御曹子としては質素だが、一人暮らしには大き過ぎるくらいだ。そもそも彼は贅沢を好まないのか、父親には豪邸をプレゼントされそうになったが、全力で断ったと彼も配信で言っていた。

 いやぁ……あの時の配信は神回だったな……硬質化の個性に対して速さで翻弄し、最後には関節技でフィニッシュ! 一人称の臨場感も相まってあれはファンの中でも発見の映像だった……いや! 俺はあいつのファンなんかじゃないぞ! 捜査の一環として見てるだけだ! 

 

 おや、出てきたな。今日は水曜日、普段は真面目に学生をやってる彼はもう通学の時間だ。スペイン系にルーツを持つ彼らしく、彫りが深く鼻が高い顔立ちだ。最近は黒髪をジェットモヒカンにセットするのが気に入っているらしい。

 

 通学中、特に目立つところはないな。いや、明らかに個性を使ったスピードで走ってはいるが、それくらいは日常茶飯事なのだ。

 

 到着。彼が通うのは特に何かに秀でたところもない私立高校だ。御曹子として英才教育を受けてきた彼からすれば、かなり緩い授業だろう。因みにこれもいつだかの配信で言っていた。確かあれは市街地コースの自己記録を塗り替えるための配信だったはずだ。(ヴィラン)との戦いよりは地味で人気もないが、彼の成長が見て取れると言うことでディープなファンには人気のシリーズだ。抜かりない情報収集を行っている俺だからわかる。

 

 さて、俺も早めに昼飯を食った後に学校の方も昼休みが来たらしい。彼は快活にグラウンドでサッカーに興じている。個性を抜きにしても運動神経は高いらしく、得点を量産している。しかしどうやら、ここのグラウンドは彼にとっては手狭らしいな。

 

 学校では5、6限が始まる。流石に離れるほどの時間でもないので、俺は彼のファンが編集してアップした切り抜き動画でも見ておくとしよう。

 

 

『3分でわかる恐れ知らずのオクタン!』

 

『ようリスナー諸君! 今回の(ヴィラン)は巨大化だ! 普通に跳んでも顔まで届かねえからな、今回はこのワイヤーとフックを使って擬似スパイダーマンだ! なかなかにスリリングでエキサイティングな映像になるぜこれは!』

 

『foo!!! 炎熱系の個性相手だとケツの穴が引き締まるな! いつだったかも話したと思うが、俺のこの足が義足になったのはタイムアタック中に遭遇した(ヴィラン)に立ち向かって、両足を焼かれちまったからだ! ただそのあとは腕だけでひっついて最後には締め落としてやったけどな!』

 

『おお! 見ろよみんな、インゲニウムだぜ! 流石に早えな! ほら、鬼ごっこだ!』

 

 

 3分でわかる(大嘘)の30分程の動画を見終わり、また彼の他の動画を探す。

 日本独自のニヤニヤ動画をホームとする物にも彼のファンは多く、その動画投稿数も凄まじいものがある。ランキングの項目には『ヒーロー』と言うものもあるが、彼は正式なヒーローではないにもかかわらず、そのランキングでもトップの再生数を獲得している。私もいくつも切り抜きを投稿したものだ……いや、ファンじゃないからな! あれだ! 彼のネガキャンのためにスタント失敗集とかも上げたし! オクタビオ本人が配信中に触れてくれたけど別に嬉しくとかなかったし! 

 

 ほら! 動画を見ていたら彼も授業が終わって外に出てきた! 向かう先は……校舎裏? いったいなんの用があるのだろう。えっと……向かう先には金髪の少年と、その取り巻きと思われる2人の少年がいる。その三人の前にはモサモサの髪の少年。……いじめか。確かにこの個性社会になってから、個性の優劣という新たないじめの材料が増え、いじめの件数も上昇傾向にある。警察官からしたら非常によろしくない話だ。

 

 さて、オクタビオを見るや否や、取り巻きの2人はさっさと逃げてしまった。残った金髪の少年は……掴みかかるが、簡単に捻り上げられてしまったらしい。彼もどこかへ行って、残ったのは2人だけだ。

 彼はモサモサの少年の手を取って立ち上がらせ、最後に背中を叩いて去っていった。オクタン……私生活でもヒーローとは、やっぱりかっこい……いやいや、違う違う。

 

 さて、私も彼を追わねば。

 

 どうやら彼の日課は学校の後の買い食いのようだ。取り出した財布を見ると、パンパンだな。父親からの仕送りは最低限、と言っていたが、世界中にファンを持つ彼ならば、配信に対するスーパーチャット(投げ銭)や動画の広告収入だけでも一般人とは比較にならない収入のはずだ。体を酷使する自分の食料のために使い、残りは貯金か寄付らしい。寄付の先は主に手足に不自由を抱えた子供達の支援施設。なんだこいつヒーローかよ。

 

 

「兄ちゃん、さっきからそこで何してんの?」

「俺らさぁ、ちょっと今月厳しいから恵んでくんね?」

 

 

 ……声をかけてきたのは二人組の不良だ。そのまま路地に連れ込まれる。カツアゲか。言っておくが、警察官というのはそうヤワなものではない。不良の2人程度、強固性持ちだとしても……

 

 

「おう、何してんだ!?」

 

 

 聞こえたのは、配信で嫌というほど聞いた男の声だ。

 そちらを向くと……ワイシャツとスラックスと言う学生服に、いつものオクタンの覆面をつけた彼がいた。

 

「やべぇオクタンだ!」

「縛られて市中引き摺り回されるぞ! 逃げろ!」

 

 不良達にも彼の存在は知られているらしい。彼の顔を見た2人は脱兎の如く逃げ出し、その場には俺と彼だけが残った。

 

「兄ちゃん、災難だったな! ここはああいう奴がよくいるからよ、気をつけた方がいいぜ! それじゃ、ちょうどさっきタレコミが入ったから俺は行かないとなんだ! ほらこれサイン! じゃあ動画のチェックとチャンネル登録、頼んだぜー!」

 

 彼はカバンから取り出したサイン色紙に素早くサインを書き込み、瞬く間に去っていった。

 そして右ポケットの携帯から通知のバイブが鳴り、見てみるとそこには『オクタンさんがライブ配信を開始しました』と……

 

 

『ようリスナー諸君! 今日の(ヴィラン)は滑走の個性、ひったくりなんぞをして逃げ回っているらしい! なかなかに早いらしいから、楽しみだな!』

 

 

 笑みが溢れるのを感じながら、コメントを打ち込んだ。

 

「オクタン! 今日も楽しみにしてるぞ!」

『おうポリくん! 最初期からのリスナーのあんたから言われたら、俺もやる気が出るぜ! 今日もスリリングでエキサイティングに行くから、見てくれよな!』

 

 

 

 

 彼は非合法(イリーガル)とは言っても本物のヒーローなのだ。

 困っている人がいれば現れ、最速で解決してどこかへ走り去っていく。

 それは、俺が子供の頃に憧れたヒーローと全く変わらない。

 

 いつの日か、彼が国に認められたプロヒーローとなれば……俺も、自信を持ってファンだって言えるんだけどなぁ。

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