インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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今回から二学期編に移り、色々とやっちゃったりします


亡国機業登場編
十話 文化祭とその前後


 

 夏休みが終了し、またいつもの学園生活に戻ってきたカナードは、日が昇りきったと同時に新たなストライカーを完成させた。セシリアのブルー・ティアーズを参考にした『閃光』の名を冠した狙撃特化ストライカー、その名もライトニングストライカー。特徴は左右に予備のシールドエネルギータンクが積まれており、任意のタイミングで供給出来、更に紅椿の『絢爛舞踏』と同じように僚機へのエネルギー譲渡が可能となっている。メイン武装はレールカノンを狙撃用に改造したロングレンジスナイパーライフルだ。

 新型の完成と同時にルームメイトの一夏が目を覚まし、カナードの脇からライトニングストライカーの設計図を覗き込む。しかし理解できない領域なのか、数秒もしない内に脳がオーバーヒート。肉眼でも一夏の頭部から湯気が立っているのが良くわかるくらい見える。

 

「おーい一夏、飯行くぞー」

 

「お、おー……」

 

 一応制服に着替えた二人はそのまま食堂へと向かう。その途中で箒、簪、本音と合流。最近よくこの面子で合流する事が多い。何の因果かよくそうなる事が多く、たまに鈴音も混じる事もある。

 箒と一夏が関係を深めた事で、鈴音は自ら一歩を引いて一夏の最高の友人になる事を決めた。そう言う訳で今では鈴音は異性の親友になっていた。

 

「…あー、そろそろ文化祭の時期か……」

 

 カナードが内心意識して言った。それに反応したのは姉が生徒会に属している簪と本音だ。

 

「…学園の生徒には、家族友人用の招待券を幾つか渡すみたい」

 

「いっぱい人来そうだねかなかな〜?」

 

「そだな……って事はだ、学年毎クラス毎で模擬店とか色々企画するんだろうなぁ……主に俺と一夏が景品のゲームとか出し物とか」

 

 最後の方を一夏達に聞こえない様に呟いたカナードは、何処か遠い目をしていた。

 

 

 

 

 本日一発目の授業は一年一組の文化祭の出し物だ。因みに鈴音は二組なので当然いない。

 クラス代表の一夏が教壇に立ち、サブとして彼のサポートを努めるのはカナード。彼は黒板に書き連ねていた出し物を順に読み通していく。

 

「男子とツイスター、ポッキーゲーム、耳に囁き、罵られたい、手を繋ぎたい、それ以上の領域に踏み込みたい………っけー、みんな話をしよう。 オノレらどーかしてるぜ!」

 

「却下、断然却下!」

 

「まず第一に、一般の人がくるので無し。 第二に、女尊男卑至上主義者の方も来ると思われるので無し。 俺が言って良いのかどうかわからんけど………万人受けするものがいいんじゃないかな? 先生方はどう思います?」

 

 カナードの質問に千冬は即答で 「お前らの好きにしろ」 と丸投げ、真耶はポッと頬を赤らめて何かブツブツと呟いて身体を少しくねらせている。期待できそうにないことは容易に理解できる。

 ここで、だったらとラウラが挙手。喫茶店の模擬店はどうだという。その案が意外と好評を得て可決。尚、没案は何故か模擬店でのミニゲームとして出すらしい。窓の外に広がる青空を見て、カナードは遠い目をした。主にミニゲームにだ。

 因みに、模擬店等の収益はボランティア活動の資金に寄付するそうだ。

 

「さて、話は纏まった所で授業を開始する。 お前らすぐに頭の中を切り換えろ」

 

 手を叩いて千冬が言う。壇上の一夏とカナードが自席に戻り、今日の授業が始まった。

 

 

 

 

 そして文化祭当日。クラスでの模擬店で休憩を貰ったカナードは、事前に渡したチケットを持った篝の案内をしていた。ほぼ半強制ではあったが、慣れきってしまった為最早どうとまでは思わなかった。

 篝も篝で普通なら年齢を考えれば女子高生。縁があればIS学園の生徒なのだが、篝は望んで今の道を選んだのだ。明日刃機業前代表取締役の渦巳(うずみ)が病に倒れたのが一昨年の暮れ、篝がその座に就いたのはそれから間もなくの事だった。

 今カナードの目に映るのは、年相応の少女そのもの。その視線に気が付いたのか、篝は模擬店で買ったタコ焼きを頬張りながら言った。

 

「ほひはははーほ(どしたカナード)?」

 

「食べっか喋っかどっちかにせい!」

 

「…んっ……、スマンスマン。 にしても凄いなIS学園(ここ)の模擬店のレベルは」

 

「や、クラス学年によるよそういうの。 それに勿体ないぜ、普通だったら篝は女子高生だろう?」

 

「何度目だよ、それ。 良いんだ、これは私が選んだんだかんな?」

 

「はいはい分かりました分かりましたよ。 分かりましたから爪楊枝で人を差しながら言わないの」

 

 少なくとももう篝に対しての心配は無用だと判断したカナードは、楯無の策略の時まで、正確には休憩終了まで篝と共に校内を歩き回った。

 

 

 

 

 それから少しして、ストライクと白式のカラーリングをイメージした王族の衣装を纏ったカナードと一夏が、舞台下で待機していた。そこでは訳が分からないと言った様な表情をする一夏が、隣で頭を抱えているルームメイトを見て疑問をぶつけた。

 

「なぁカナード、俺た…」

 

「覚悟しとけよ一夏、俺達はこれから戦場を見ることになる………気を引き締めねぇと、マジで死ぬぜ?!」

 

 その表情を読み取った一夏は、カナードの言う事が冗談でない事を悟り、一層気を引き締める。

 演劇が始まったのか、舞台装置が作動し一夏とカナードを舞台へと押し上げる。舞台から見た客席は満席の一言に尽きており、立ち見等もちらほら目立つ。観客の殆どはこの学園の生徒達で、白基調の一夏とトリコロール基調のカナードを彼女達は見比べていた。腐った妄想に浸っているのもちらほら見える。

 警戒している二人の頭上で、やや間延びしたナレーションが聞こえてきた。声の主は本音、そして恐らく彼女は楯無の書いたであろう台本を朗読している。

 

『シンデレラ…それは日食の日に生まれた魔法使いによって貧しい少女が王子と結ばれた話でぇ〜……貧しい少女の名前であった〜』

 

 最後まで読み切るのかとおもいきや、今度は楯無の声でナレーションが再開された。我慢ならなかったのだろうか、所々興奮している節が伺える。

 

『否ぁっ! それは既に名に在らず! 幾多の戦場をくぐり抜けた彼女達を、人は灰被り姫(シンデレラ)と呼んだのだぁっ! 彼女達は今宵も隣国の機密情報が隠された双子の王子の王冠を狙う!!』

 

「……ダメだあの人」

 

 半分絶望しきっているカナードは、微かに聞こえる風を切る音を聞き取った。ルームメイトに伝えようにも時間はない。すぐさまバックステップで避け、同時に一夏の襟を掴んで引くカナード。すると、さっきまで立っていた場所に青龍刀やら日本刀やらアーミーナイフ等が刺さっていた。

 次に現れたのは、それぞれ体型に合ったドレスを着た箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラそして簪の六人。しかし、立ち方というか並び方が異様だった。

 

「シンデレラ一号、篠ノ乃箒!」

 

「同じく二号、セシリア・オルコット!」

 

「同じく三号、凰鈴音!」

 

「同じく四号、窓木シャルロット!」

 

「同じく五号、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「…同じく六号、更識簪」

 

「天・下・御・免の灰被り部隊…シンデレラ!」

 

『参る!!』

 

「シンケンジャーかあんたらは!?」

 

 レッドポジションの箒を中心に並ぶ彼女達にカナードは律儀に突っ込んだ。恐らく布教したのは簪だ、彼女しかいない。

 

「侍じゃないの?」

 

「馬鹿、何のんびりしてんだ! 移動するぞ!」

 

 一夏にも突っ込んだカナードは、やけに広く丈夫に出来た城のセットを駆け上がる。

 

「ナメるな一夏にカナード! シンデレラソード!」

 

 ただの日本刀です。

 

「行きますわよ、シンデレライフル!」

 

 ただのスナイパーライフルです。

 

「張り切って行くわよ、シンデレラブレード!」

 

 ただの青龍刀です。

 

「僕も頑張るよ、シンデレラガン!」

 

 ただのアサルトライフルです。

 

「待っていろよ弟よ、シンデレラナイフ!」

 

 ただのアーミーナイフです。

 

「…カナードの相部屋が欲しい、シンデレランチャー!」

 

 ただのミサイルランチャーです。

 

 セットの上で彼女達の武装を見て、カナードはポツリと感想を呟いた。

 

「シンデレラって……何だっけ?」

 

 そのカナードの小さな疑問に誰も答えることなく、演劇だか鬼ごっこだかわからないモノが始まった。IS学園には銃刀法など有って無いようなもの、故にこの演劇では先程の装備が容認されている。

 実はシンデレラの彼女たちには、楯無からある約束を言い渡されていた。カナードは今この現状を出来る限り推理し、導き出した答えを呟いた。

 

「…まさかと思えば会長、奴ら願いを叶わせるとか言ったんじゃ…」

 

「…その通り」

 

 振り返る。そこにはミサイルランチャーを背中に背負った簪がカナードに接近していた。反射的に王冠を手で押さえるカナードに、簪が耳打ちする。

 

「…お姉ちゃんが、セシリア以外にはカナードか一夏のどっちかの王冠を手に入れれば同居できて、セシリアの場合は面白そうだからとか母国の威厳とかで、援護役」

 

「まるで意味が解らんぞ」

 

 やはり原作寄りだ。しかも無駄にプライドが高いセシリアがこんな事に手を貸すなどとは意外だった。友情的な何かがあるのだろうか、そこは彼女以外は分からない。

 

「ついでに、俺と一夏を狙っている奴は?」

 

「…一夏には箒と鈴。 カナードには、私とシャルロットとラウラ」

 

「あ、成程ね……ところでさっきの名のりはどっから?」

 

「…シンケンジャー」

 

「あ、やっぱりね……」

 

 程なくして、カナードと簪の鬼ごっこが始まった。

 一夏の方も進路をセシリアの弾丸に狭まれ、日本刀と青龍刀の刃筋が迫って来る。危険な幼馴染みを持ったものだと、呟いた一夏は尚も逃げ続ける。しかし、箒と鈴音には野望がある。セシリアには友人の為に援護をする意地がある。

 箒はもう一度、一夏と同室になりたい野望がある。シャルロットがシャルルとして来た時部屋割りが変わるのではないかと不安がっていた。しかし、シャルルはカナードと同室になった時、千冬と廊下でバッタリと会った時彼女は教師と言う立場ではなく幼馴染みの姉として箒に言った。 「感謝しろよ」 と。

 鈴音にも野望はあった。今でも一夏を諦めずにいたが、昨日まで…いや、楯無にこの話を聞かされるまでその感情を胸にしまっていたが、ついに楯無の言葉で解放された。ただそれだけだ。

 

「あ、おい一夏!」

 

 そこにカナードが合流。

 

「デストロイモードだ、一夏」

 

「お前ら……ここから出ていけぇ!」

 

 珍しく一夏がツッコミに回り、絶叫する。可能性の獣なんて存在しなかった。

 斬撃やら銃弾やらの攻撃を避け続ける男子二人に、会長さんは無慈悲な試練を与える。恐らく自分の満足(サティスファクション)を満たしたいが為なのだろうが、被害者二人からしたら迷惑以外の何物でもない。

 

『さぁ、ここでその他女子生徒たちの登場! 集え、青春を謳歌する同志達よぉっ!!』

 

「はぁっ?!」

 

「あれが簪の姉とか…信じらんねぇ」

 

 舞台のセットが稼働し、そこからわらわらと女子の群れが迫る。地獄の軍団とまではいかないが、そう易々と捕まっていられない。

 雪崩の様に押し寄せる女子の群れ。恐らく彼女らにも楯無は箒たちと同じ条件を出したのだろう。雪崩はエクシアだけで十分だ。しかしそうは思っても、現実は非情だ。心の底でカナードは楯無を恨んだ。が、今は逃げるしかない。

 セットを踏み台にしてカナードは移動する。行く手を何度かシャルロットとラウラが遮るが、意地だけでカナードはその包囲網を突破する。

 

「そっち行ったよ、ラウラ!」

 

「任せたシャルロット! ここはテコでも動かん!」

 

「……ところがギッチョン!」

 

 『機動戦士ガンダムOO』の影響か、ラウラとカナードが劇中の台詞を口にした。ラウラと言う壁を、カナードは脇道に逸れて脱出を図るが、その先には簪が待ち構えていた。

 

「いやはや意外とアグレッシブな事で…」

 

「…褒め言葉にしておく」

 

 すぐにカナードの背後にシャルロットとラウラが待機、更に下の方ではその他大勢の女子生徒達。逃げ場はある意味無いのに等しい。いや、一カ所ある。

 上を見るカナード。そこにはセットの一部だろうテラスがある。

 

「(無理だ…なら下ッ!)どっせぇぇい!!」

 

 今自分が乗っている屋根のセットを体重を目一杯かけて破壊し、自由落下を始めた。案の定その下はマットが敷かれていたが、何故そうなのかは深く考えないカナードはそのまま逃走を始めた。

 恨めしそうに穴を覗き込む簪ら三人。仕方なしに箒達の援護に回ろうとしたが、あちらもあちらで一夏を見失っていた。

 最早演劇でも何でもないこの状況下で、簪がポツリと呟いた。

 

「…シンデレラって何だっけ?」

 

 その小さな質問にはやはり誰も答えなかった。

 

 

 

 

 やってられるかと衣装と王冠を脱ぎ捨て学生服に着直したカナードは、屋上に逃げ延びていた。王冠のビリビリはどういう訳か作動はしなかったが、それは考えない事にした。

 大の字になって倒れて空を見上げると、澄み切った蒼い空を色んな形の雲が流れていく。穏やかな秋空である。

 

「私は、平穏がこの上ない好物でしてね、それを除外する人間がとてもではありませんが、大嫌いなんですよ。 特に貴女方がそれに当たります…亡国機業(ファントム・タスク)のスコールさん」

 

「あら意外。 これでも気配は殺しているのに」

 

「御冗談を」

 

 身を起こして屋上に設置されているベンチに目をやると、そこには胸元が開いたスーツを着こなした金髪美女が足を組んで座っていた。

 

「冗談なんかじゃないわよ。 それにしても、よくまぁ私の名前を知ってるのね」

 

「機密事項ですよ。 それよりも、目的は何ですか? 白式ですか?」

 

「あながち間違ってないわね。 それよりも、貴方もしかして転生者? ISを扱える第二の男なんて原作にはいなかったはずよ」

 

「そういう貴女もそうですか?」

 

 否定することなく金髪美女ことスコールが頷いた。

 

「いい機会だから、教えてあげるわ。 神とやらの手違いで前世の私は死んだわ。 元々普通のOLだったのよ、ISが好きな事を除けば。 ネットとかじゃファース党とかセカン党とか言ってるけど、私は断然スコールと言う人間が好きな女だったの。 で、その神曰く転生する際、本人が心の底で思い入れが強い世界に転生するそうよ。 私はISのスコールに強い思い入れがあって本人になりたかったのよ」

 

「…私の場合は、本来死ぬはずだった人間の代わりに内定を貰ってすぐに死んで神に説教されましたよ。 成程、私の場合は第三者となって一夏と箒を結ばせたいと言う思念があったから……」

 

 これで束もその類であることがハッキリできた。福音事件の時、彼女がカナードの正体を知っている理由が説明できた。しかし、相手は転生者であっても亡国機業。ここで束も同族である事を語れば、この世界は最悪な形で終わる。

 張りつめた空気の中、スコールの懐から通信機の音が鳴る。慣れた手つきでスコールは回線を開く。スピーカーから恐らくオータムだろう喧しい声が、少し離れたカナードの耳に届いた。

 

『スコール、剥離剤(リ・ムーバー)が効かねぇぞ! どうなってんだ!?』

 

「…何を言っているの? 剥離剤が効かない?」

 

「手は打たせて頂きました!」

 

「……まさか?!」

 

 にぃっと口角を吊り上げてしたり顔のカナードに、スコールは気が付いた。

 

「こんな事もあろうかと、対剥離剤プログラムを白式に組み込ませて頂きました。 私と言うイレギュラーが存在しても、大まかなイベントは原作通りなので! まさかとは思いますが、私がこの事態を想定できないとでも?」

 

 原作のスコールよりも、今ここに居るスコールは詰めが甘かった。程なくして、空を切る音がする。Мだ。

 

「…見逃してくれるかしら?」

 

「見逃すのではなくて、逃げられた。 貴女を拘束しようとしたら逃げられたって事で」

 

 制服を脱ぎ捨て、ストライクを起動したカナードはそのままМの方へと飛び立った。

 一人残された女性は、カナードの飛び立った先に向かって軽く手を振っていた。

 

 

 

 

 ハイパーセンサーがカナードに詳細な情報を伝える。先にМにエンカウントしたのだ。

 イギリスで開発されたBT二号機サイレントゼフィルス。その姿はどこか蝶のようにも思えた。浮遊しているビットは『Gジェネ』のフェニックスガンダムのファンネルに似ていた。

 

「…あんた誰」

 

「お前には用はない!」

 

 複数のビットがカナードに砲撃を開始する。が、カナードはそれらを両腕に装着している二枚のシールドで防ぎ、体を捻って回避する。狙いがセシリアよりも上だ。

 

「流石イギリスのBT二号機! 一号機の比じゃねぇな!!」

 

「分かったならそこをどけ!」

 

「断る。 静かな日常をぶっ壊すあんたらを俺は絶対に許さないからな!!」

 

 ビットのレーザーを掻い潜り、カナードはМに接近。左手でビームサーベルを抜刀し、切りかかるが、Мも接近武器を取り出して鍔迫り合いに持ち込んだ。力量、テクニック、そして覇気がほぼ互角だった。一対一ではどちらも歩が悪い。総合起動時間は恐らくМの方がカナードの倍以上上回っている為、下手をすればカナードが負ける。

 しかし、そこまで現実は非情じゃなかった。カナードの後ろから四枚のビットが飛来し、サイレントゼフィルスをロックする。

 

「ちぃっ!」

 

 鍔迫り合いを止めて距離を取ったМもビットを展開。四枚の蒼いビットを狙う。

 

「遅くなりましたわ!」

 

「…助太刀に来た」

 

「他はどうした? いや、やめとく後で聞く」

 

 援護に来たセシリア、簪の二人にカナードは安堵しつつ事情を察する。

 

「事情は後で説明しますが、あれはまさか……?!」

 

 サイレントゼフィルスに気付いたセシリア。母国にあるはずの二号機が、ブルー・ティアーズの姉妹機が何故今ここで、しかも敵と思われる女性が動かしているのかがセシリアには分からなかった。

 

「やっぱそうか、BT二号機サイレントゼフィルス……おかしいな確か聞いた話じゃ厳重に管理されてたと思うが……」

 

「あんなザル警備が厳重だと? 笑わせる」

 

 Мのその言葉にセシリアの頭に血が上った。そこまで母国を侮辱されたとなると、プライドが高い彼女にとって十分な起爆剤だ。

 原作及びアニメ二期の記憶を照らし合わせたカナードは、その場面を脳内再生していた。

 

「いや、セシリア。 お前の国の警備がザルじゃなくて、あいつが強すぎるってだけだって思えよ……あー、いや待てよ…逆効果か?」

 

 最後の方を小さく呟くが、セシリアは聞かずスターライトMarkⅢの銃口をМに向け、引き金を引いた。聞いても聞いていなくても結局こうなるオチだ。そう判断するしかないカナードは簪にアイコンタクトを送り、簪は頷き返した。

 ストライカーをパーフェクトに代え、シュベルトゲベールを握り締めМに接近。迎え撃つサイレントゼフィルスのビットを、簪が放った『山嵐』とセシリアの射撃で撃ち落とす。

 正直今のМではシュベルトゲベールの斬撃から避ける事しかできなかった。接近武器ではリーチが足りないし、ブルー・ティアーズの様に腰部にミサイルビットなど装着されていない。頼りになるのはレーザービットのオールレンジ攻撃しかない。が、乗って数日足らずのМにはいささかサイレントゼフィルスの本来の性能を発揮する事は難しかった。

 

「……オータムの奴、しくじったか?!」

 

「へっ、残念だったな。 今頃一夏の方は会長さんに軍人さん、そして一夏の幼馴染み二人が付いてんだ。 ムリゲーだろ?」

 

「ほざけ!」

 

 ついにМが本気を出した。レーザービットの旋回性が一気に向上していた。これは『山嵐』でも対処が効きにくい。避け続けるしかないカナード達から逃げ延びたМは、オータムの回収に向かった。

 何とか追いかけるカナード達。だが、既にМはオータムを回収し終え、アラクネ―の追加ユニットが地上にでた一夏達を襲う。

 

 

 

 

 アラクネ―の追加ユニットの爆発は、ラウラのAICではなく楯無のミステリアス・レイディの能力によって被害が拡大する事はなかったが、そのミステリアス・レイディが補修行となった。明らかに爆破の威力が原作より上回っていた。

 そんな事もあって、波乱の文化祭は幕を閉じ、生徒たちはそれぞれの出し物の片づけを行っていた。

 

「こ…れ…で……よし、おーい皆片づけ終わったぞー!」

 

 最後のごみ袋を閉じたカナードの一声が、一組の教室にいるクラスメートたちに届いた。それぞれ一息ついており、満足したようにも見えた。あんな騒動の後だと言うのに、逞しいの一言に尽きる。

 あとはごみ袋の山を学園内のごみ置き場に持っていくだけだ。こういう仕事はカナードと一夏の仕事である。出し物が模擬店なのに、ごみはごみ袋八つ分しか出なかった。片手に二袋ずつ持って、カナードと一夏はごみ袋を運び始めた。

 

「そういえば一夏」

 

「どしたカナード」

 

「俺、思ったんだけどさ…」

 

「何だよ」

 

「この学園、イベントごとに事件起き過ぎね? クラス代表戦、臨海学校、今日の文化祭」

 

「たまたまじゃないのか?」

 

「こうなると……確か専用機タッグトーナメントに、キャノンボール・ファスト、京都旅行にも襲撃来るぞ。 今日みたいにさ」

 

「……どうしてそこまで言える?」

 

「勘だよ。 外れて欲しい勘だ」

 

「勘ならいいや」

 

 少ししてごみ袋を指定の場所に置き、二人はすぐ近くの水道で手を洗いながら会話を続けた。

 

「そういえばカナード」

 

「どった?」

 

「簪と付き合ってるのか? ほら、夏休みの時」

 

「…お前いつからその手の勘が冴えたんだ? ついこの間までお前恋愛に関しては鈍感も鈍感でトーヘンボクだって、弾が言ってたぞ。 そう言えば今日来てたな」

 

「俺が招待券渡して呼んだ。 で、どうなんだ?」

 

「……まだ返事以前の問題。 今はどっちも踏み出せない状況」

 

 これは事実だ。カナードは簪に告白していないし、簪もカナードに告白していない。現状友達以上恋人未満だ。

 

「なんつーか、怖いんだよ…。 今は趣味が合う友達だけど、もしそれが壊れたら………ってな。 ったく、なっさけねぇな俺は」

 

 会話を強制的に終了したカナードは一夏を置いて足早にその場を去った。地雷を踏んだと後悔している一夏は、無理に追うのをやめた。

 

 

 

 

 購買で買った高カロリークッキーを片手に、カナードは整備室でライトニングストライカーの着工に入っていた。ブルーブースターにユニバースブースターに比べれば比較的楽な作業だ。

 元々カナードの機体は、前世で好きだった『機動戦士ガンダムSEED』のストライクガンダムをモチーフにしており、この世界に充分に合っており、現実にその性能を発揮していた。

 しかし、カナード自身の腕はそうそう上達しなかった。機械技術の腕はあれど、戦闘技術は今ひとつで正直言って一夏より劣っている。それでも彼より強いのは、ストライカーの性能があってこそだ。ただカナードはそれを充分に理解し、上手く扱っただけに過ぎない。

 作業に夢中になりすぎたのか、整備室に誰かが入って来た事に気が付かなかった。

 

「…カナード」

 

「………」

 

「…カナード?」

 

「………」

 

 その人物は二度カナードの名前を呼ぶが、呼ばれた本人は作業に夢中でその声に気付いていない。呼んだ人物…簪はカナードの顔が見える位置に移動して顔を覗く。そこには今まで見せた事の無い形相で、パネルだけを見つめていた。その表情の凄味に驚いた簪は後ずさり、足元の機材にぶつかった。その音で初めてカナードは簪の存在に気が付き、いつもの穏やかな表情で簪に語り掛ける。

 

「あっれ、簪いつの間に……ひどいなぁ、一言くらい声かけてくれりゃいいのに」

 

「…二度、声を掛けた。 なのに、何で気付かないの?」

 

「……そう、か」

 

 表情が一変暗くなり、データを保存して機器の電源を落とし、スクラップ機材に腰かけ頭を抱えて深いため息をついた。行き詰ったり、落ち込んだり、自分で自分を責める時によくやるカナードの癖。大抵は一人で人気のない場所でやっていた。それが今日だけは簪の目の前で、その癖をさらけ出した。

 一度も見た事がないカナードの落ち込み様に、簪は隣に座って彼の表情を覗く。頬の辺りでキラリと光る筋が一つ。

 二人の間に言葉はいらなかった。簪はカナードの頭を引き寄せ、優しく頭を撫で始めた。その瞬間、カナードの嗚咽が大きくなり、二人しかいない整備室に響いた。

 正直言って、カナードは一夏の飲み込みの良さを羨んでいた。その秘めたる才能を羨んでいた。それの代わりとして、夢中で新型ストライカーの着工を進めていたと言うのに、自分を見失っていた。

 Мを逃したことを今でも悔いている。やると決めた筈が、戦闘技術の差で負けてしまい、悔しさで一杯だった。

 イレギュラーと言う自分が、何の為に存在しているのか分からなくなった。

 

 

 

 

 某国のホテル。

 数十年前にミサイル問題で一時期問題視された国のホテルで、スコールはある人物と会食をしていた。その相手は、童話のようなドレス衣装にメカニカルなウサ耳を付けた稀代の天才科学者、篠ノ之束。

 

「それで、お話は受けていただけますか?」

 

「ん~……そだね、無理と言っておくよ」

 

「あらあら、残念ね、せっかく同族の好で頼んでいると言うのに」

 

「ん、転生者同士(・・・・・)全員がいつ仲間って決めたのかな? 束さんわけがわからないよ」

 

「なら仕方ないわね。 せっかく誰もいない様に手配したと言うのに、無駄になったかしら?」

 

 牛フィレ肉のフォアグラソースをフォークとナイフで食すスコールは、牛頬肉の赤ワイン煮にがっつく束を目を細めていった。

 

「あ、話は変わるけどさすーちゃん。 転生者君に会ったみたいだね。 あの子はすーちゃんの仲間になりそう? なるわけないよね、転生者君はいっくんと箒ちゃんをらぁぶらぶしてくれた功労者だもん」

 

「そういう貴女も私も、同じ転生者でしょ? 貴女は篠ノ之束に思い入れが強く、私はスコールに思い入れが強かった、それだけよ」

 

 メインディッシュを終えた所で、スコールは束に何度か目の頼みごとを持ちだした。

 

「もう一度言うわ、亡国企業(こちら)の専属メカニックとして来てくれないかしら?」

 

「ほーぅほーぅ、その心は?」

 

「こちらに付けば元々の目的だった宇宙開発に…」

 

「だが、断る! じゃねまたね御馳走様~!」

 

 颯爽と逃げ去った束を見送って、残念と言わんばかりにスコールは懐から通信機を取り出して、指定の相手に通信を掛けた。相手はオータムでもМでもない別の人間。

 3コール程で相手が通信に応じた。壮年の男性の声だった。

 

『私だ。 目標はどうした』

 

「申し訳ありませんわ社長(ボス)。 中々条件を飲んでくれませんの」

 

『…目標の性格や思考を考えればそうなる、お前は悪くない。 さて、次の仕事だ』

 

「承知しましたわ。 織斑春十(はると)社長」

 

 通信を終え、スコールはピストルの形をまねた右手を賑やかな町並みに向け、「ばーん」と言って右手のスナップを聞かせて引き金を引く動作を真似た。

 

 誰もいない、ホテルのレストランの一室で。

 

 

 

続く

 




亡国機業のボスの名前ですが、もしかしてももしかしなくても…
今のところは深くは追及できません。この後のお楽しみに

さて、何故束がカナードを転生者と見破ったかの謎(?)が解けたかと思いますが、転生の条件は自分の解釈ですご了承ください

何か色々とやっちゃいましたが…気にしない方向で行こうともいますすみません
次回は、専用機持ちタッグトーナメントisゴーレムⅢの話です
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