インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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今回はカナードが一夏に激突したり、ゴーレムⅢの乱入回でもあり、この世界で見つけたカナードの目的が出ます。


十一話 Cの爆発/乱入のGⅢ

 

 世界というモノは非常だ。望んでないモノが存在し、望んでいるモノが存在しない。無理に納得する事しかできない。それが世界だ。

 数日後に専用機持ち限定のタッグトーナメント戦を控えたIS学園の寮長室。脱ぎ散らかした衣類だらけの部屋で、昼間の職員会議で渡されたトーナメント戦の資料を備え付けのデスクに置いた千冬はビールを片手に夜空を見上げていた。

 

「……暫く見ていないと思えば、何処をほっつき歩いていた?」

 

「やぁやぁちぃちゃん。 ある国でね、牛頬肉の赤ワイン煮込みご馳走になっちゃったんだ♪」

 

「……自慢か?」

 

「うんっ!」

 

 語り掛けた先、寮長室の窓枠に腰掛ける束は嬉々とした表情で答える。

 

「そういえばお前、福音事件の時私に聞いたな。 この世界は楽しいかと」

 

「ちぃちゃん、それがどーかした?」

 

「確かにそれなりに楽しめるさ、亡国機業がちょっかいを出さない限りな」

 

 冷蔵庫から缶ビールを取り出してそれを束に渡した千冬は、束の答えを待っている。

 

「いやいやー、ごっつぁん! 束さんもね、あいつらは嫌いだよ。 スカウトされても束さんは行かないよ」

 

 片手で器用に缶を開けた束はグビッとビールを胃へと流し込み、プハーッと一呼吸。

 

「機業とは言うが……、私でもそのトップを知らん。 お前は……いや、良い。 酒がまずくなる」

 

「ちぃちゃんと飲む酒が、世界中のどんな高級な酒よりも、束さんにとってはとっても美味しいし何よりとっても……とっても価値があるんだ」

 

 静かな夜。季節柄鈴虫等の虫の羽音が聞こえて来る。人工島と言えど、鈴虫はいるしそれを主食にする海鳥なんかも飛来する。稀にスズメやツバメすらも。

 涼しい夜風が、散らかった千冬の部屋に流れ換気される。それだけでもたいへん心地よく感じる千冬は、飲み終えたビールの缶をテスクの上に置いた。丁度良い酔い加減と言ったところだろう、小さな飲み会の参加者二人は会話を続ける。

 

「例えば……例えばだ束。 ここに二人の…ISの操縦者がいる。 一人は機体の性能を充分に活かしているが、実力が伴わない。 もう一人は実力が着々と付いて行っている半面、機体性能を充分に発揮できていない。 その二人が戦うとして、どっちの方が勝率が多い?」

 

「ふぅむ、束さんにはちと難解だけど……五分と五分ってところかな」

 

「……疑問詞でないと言う事は、やはり束もそう思うか」

 

 束もビールを飲み終えたようで、片手で器用に空き缶を握りつぶした。

 

「だって、いっくんともう一人のISを扱う男の子が戦っても……」

 

「…おいおい、何も私は一度も一夏と大和だとは言っていないが?」

 

「おっとっと、そうだったねちぃちゃん。 ま、おおざっぱな話、対決じゃなくて二人には共闘と言う言葉が丁度良いんだよ。 お互いの苦手なところをカバーし合うってことで」

 

「質問の答えになってない。 どうだ、秋の夜長と言う言葉もある。 もう一杯付き合え」

 

「むふふのふー……今夜は寝かさないよちぃちゃん」

 

「冗談だ馬鹿者が。 もう行け、さもなくば政府の人間に突きだす」

 

 手で追い返す仕草を束にする千冬は、もう一度トーナメント戦の資料に目を通す。窓枠に腰かけていた旧友は既にどこかへ行った。追うつもりもないし、政府に突きだすつもりも毛頭ない。

 面倒なことが起きない事を祈る千冬。

 しかし、世界は非情だ。望んでないモノが存在し、望んでいるモノが存在しない。望まない喧騒が存在し、臨んだ平穏が存在しない。千冬も、カナードと同じように平穏を望んでいたのだった。

 

 

 

 

「なぁカナード」

 

「トーナメント戦の事なら俺は簪と出る事に決まった。 お前は箒と出ろよ」

 

「いやそれはもう決まってるから。 そうじゃなくて、放課後やらないか」

 

「何をやるつもりだ、主語を付けろ馬鹿野郎が。 俺はホモでもゲイでも同性愛者でもねぇし、周り見ろ」

 

 専用機持ちトーナメント戦を数日後に控えたIS学園の食堂の隅で、最後に取っておいたきつねうどんの御揚げにかじりつきながらカナードは一夏の視線を顎でしゃくって誘導する。その先にいたのは口々に腐った妄想を語り合う女子生徒達の姿が見える。

 最近その手のプレッシャーに敏感になってきた一夏は、先程の言葉を訂正する。お互いにタッグトーナメント戦のパートナーが決まっている事を再確認して、一夏はたぬきそばを啜る。

 そういえば、と一夏はカナードに先日の文化祭でのオータム襲撃の事について礼を言った。

 

「対剥離剤に関しての礼は良いが、お前も気をつけろよ? ただでさえ俺とお前は数少ないISを扱える男だ。 白式やストライクのコアを狙う阿呆がこの世にはわんさかいるんだからな」

 

 残った汁を飲み干して、ついでにとカナードは一夏に放課後の戦闘訓練を申し出た。対する一夏は元々そのつもりで二つ返事で了承し、二人はハイタッチを交わす。

 そこを先程の腐女子達がメモに何やら走り書きで何かを書いていたが、カナードと一夏にとってはどうでもいいことだ。二人して気にしないフリをする。

 

 

 

 

 そして放課後。始まる前に、カナードは標準装備のエールストライカー、レーザーライフル、コーティングシールを収納し、アーマーシュナイダーだけを両手に逆手にして持つ。あれだけで勝負するつもりなのか、一夏は怪しみつつ雪片弐型を構える。

 アリーナ観客席では、箒たち一年専用機持ち達とシャルロットが観戦しており、カナードの行動に誰もが戸惑っていた。それは当のカナードでさえも気が付いている。

 疑問に思った一夏がカナードに真意を問うが、カナードは答えず一夏に接近する。

 

「……!」

 

「おわっ、おいカナード!」

 

 アーマーシュナイダーの軌道を読みながら一夏は雪片で防ぐ。

 

「どうした一夏。 何故雪羅を使わない」

 

「だけど…げふぉっ!」

 

 間合いが無いほぼ密着状態での蹴りが一夏の鳩尾に直撃。白式の絶対防御が作動し、シールドエネルギーが削げていく。

 この時一夏は悟る。今のカナードは自分を糧にする勢いでかかっている。ならば決着をつけるしかない。

 今度は一夏が接近。瞬時加速で迫りながら『零落白夜』を作動して雪片を振り下ろす。

 

「大振りだってことを忘れたか!」

 

 紙一重でギリギリ横に避け、脇腹にアーマーシュナイダーを突き出した。しかしそれを読んでの事か、一夏は完全に振り下ろす前に行平をカナードの方へと薙ぎ払う。アーマーシュナイダーのダメージと零落白夜のコストダメージが白式のシールドエネルギーを削ぎ、零落白夜のダメージがストライクのシールドエネルギーを削いでいく。

 二人のシールドエネルギーがそこを着いたのは同時。PICの機能が停止され、二人は愛機を待機状態にしてアリーナの更衣室に向かう。

 

 

 

 

 箒達は二人の着替えが終わったであろう時間を計らって、アリーナの更衣室へと向かっていた。その道中、彼女たちはカナードの変わり様に疑問を持ち始めていた。今までの彼ならば、豊富なストライカーの特徴を活かした戦法を得意としており、アーマーシュナイダーは所謂非常用。それをメインウェポンにすることは、いかにもカナードらしくはない。

 この中でカナードの事をある程度知っている簪は、文化祭後からのカナードに違和感を持っていた。新型ストライカーの着工を急いでいるようにも思えた。いや、実際はそうなのだろう。

 彼女たちがアリーナの更衣室に足を踏み入れた途端、強い衝撃がロッカー一列に当たった。その方を見ると、カナードが一夏の胸ぐらを掴んで空きロッカーに押し付けている姿が見えた。

 

「…テメェ、ふざけんじゃねぇよ。 何で本気で来ねぇんだよ、アレか? テメェの中で俺はテメェの格下なのか? ふざけんじゃねぇよ!!!!」

 

 言い終えてまたカナードは一夏をロッカーに叩き付けた。

 

「……テメェの目指す先なんざ俺ぁ知らねぇよ、知らねぇけどよ! テメェの目指す先は、格下をンな目で見る事なのか!!! 俺ぁな、テメェが羨ましかったんだよ! 白式のデビュー戦からテメェはメキメキと腕上げてよ、最悪高燃費のISをそれなりに上手く使いこなして……それに対してよ、俺ぁ何だ? 自分で作った機体の性能ばっかに助けられて…その癖俺ぁ………俺ぁ一度だって…実感した事ねぇんだ。 一度だってな…。 だからよ、俺ぁアーマーシュナイダーだけでテメェに挑んだ。 その結果がアレだよふざけんな稀代の大馬鹿野郎! 情けないか? テメェ、俺が情けねぇと思うか? 俺もそう思うよ! 実戦経験を積んで、ストライカーの性能だけを頼りにしない………腕が欲しかったんだ!!!! みっともねぇと思うか? こんな俺を、こんな俺をお前はみっともねぇと思うか?!!!! ナぁ、答えろよ! 答えろよ、織斑一夏ぁ!!!!!」

 

 その後も、カナードは一夏をロッカーに押さえ付けつづけ、目を見開いて続けた。流石の箒達も黙って見過ごせず、無理にでもカナードを一夏から引き離す。しかし、カナードからしてみれば彼女達は余計な邪魔である事他ならない。尚も足掻くが、軍人であるラウラの技によって昏倒するカナードを簪とシャルロットが二人掛かりでシートに寝かせた。

 この事態に一夏は気を失っているカナードを見た。今まで見たことなかった彼の顔を見て、吐き出された彼の思いを聞いて、何処か引っ掛かっていた。

 一夏も、カナードを羨んでいた。技術力や知識が一夏より上であることも、制作者故に自機の得意不得意を重々理解していることも、そして何より誰よりも愛機に掛ける愛情が誰よりも深く感じており、それらがとても羨ましかった。

 更なる可能性を見出だすのは、腕か知識か。それを理解するには、とても簡単なことではない。

 

「……カナードは、俺が部屋まで連れてくよ。 ルームメイトだし」

 

「あ、ああ。 そうだな」

 

「…私も行く」

 

「いや、良いんだ。 本気でやらなかった俺に責任があるかもしれないんだ」

 

 簪の申し出を断った一夏は、カナードを背負うと更衣室を出て部屋へと向かう。

 その後を箒達が見ていた。

 

 

 

 

 食堂の一角で、箒達がアリーナの更衣室での事を話題にしていた。

 

「カナードさんなんですが、初めて私と戦った時、まるで長時間……代表候補に準じる程の機動時間を有しているかの様でした。 今考えると、やはりストライカーの特製をカナードさん自身がよく理解している事が、勝因だと思うんです」

 

「それに、何かあいつ……熱中っていうか何て言うか……アタシがここに来てすぐあいつの部屋でコーヒー飲んだことあるんだけど、部屋にいるときのあいつって、ずぅっと画面と睨めっこしてんのよ」

 

「僕が相部屋の時も、アニメ観賞以外はずっと……」

 

「私は我が弟(カナード)の事を深くは知らないが、本物の技術屋……愛機の調整を文字通り欠かさないな」

 

 セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラが順にカナードの感想を並べる。

 今日のように、感情を激しく表したのは一度も見たことはなかった。それこそ最初の頃のセシリアとの口論以降でも、それ以上に感情を出しているところを見た事はなかった。

 

「今日に限ってどうしたんだお前ら、通夜でもあるまいし」

 

 そこにジャージ姿の千冬がトレーを持って登場。ちょうど良いとばかりに鈴音が放課後のアリーナであった事、その後の更衣室での事を千冬に告げた。その際簪とシャルロットが鈴音を黙らそうとするが、徒労に終わってしまい千冬に総て伝わった。

 最後まで聞いていた千冬は、溜息をついた。

 

「…今まで溜まりに溜まっていたのがモノが発散したんだ、今は余計な茶々を入れないほうが利口だ。 それに男の問題は男で、女の問題は女で片付けると言う言葉がある。 ま、私の言葉だがな」

 

 右手の人差指以外を軽く曲げ、その指先を天井に向けながら言った千冬。簪の「カブト派かぁ…」の呟きを聞き流した彼女は、コーヒーにスティックシュガーの中身をカップの中に入れ、スプーンで軽く掻き混ぜて一口飲む。

 確かにその通りだ。今はそっとしていた方がよっぽど良い。今はカナードの頭が冷やされるのを待つだけだ。待つだけなのだが、いつになく簪が忙しない様子で食堂の出入口に何度も視線を移していた。それを千冬達は見逃さずに視界の端で捕らえていた。気になったラウラが代表として簪に尋ねた。

 

「簪、先程から入口を何度も見ているようだが、カナードの事がそんなに心配か? まぁ、惚れた男の豹変に戸惑ったのだからな、無理もないか」

 

「…そ、そんなわけ……ない」

 

 顔を俯かせ、口ごもりながらも否定する。

 箒達の中で、答えは確定した。

 

 

 

 

 いよいよタッグトーナメントを明日に控えたIS学園では、各パートナーが最終確認に入っていた。

 精神的に落ち着いたカナードと、彼を心配する簪は屋上で投影ディスプレイで編成を確認する。

 

「準々決勝の前辺りまで俺がオフェンスで、簪がサブ。 そんでそれからは簪がオフェンスで俺がサブ。 これまで何か質問は?」

 

「…何故こんな編成に?」

 

「トーナメント前半で俺が主役だ主戦力だとアピールして、後半簪に変えて相手を少しさせる。 他の連中は簪は支援向けだと勘違いしてるしな。 荷電粒子砲『春雷(しゅんらい)』と近接近系統武器『夢現(ゆめうつつ)』を、よく今日まで隠せたね」

 

「…取って置きのつもりで」

 

「成る程、じゃ作戦に異存は?」

 

「……無い」

 

 小さな作戦会議が終了すると、カナードは屋上にある人工芝生の上に大の字でねっころがる。上空でゆっくりと形を変えながら動く雲を眺めていた。いつもなら直ぐにでも、新型の着工、プログラムの構成、そしてインストール作業に没頭するのだが、今日は何故かゆっくりと青空を眺めたかった。

 その隣に簪が座り、共に空を見上げた。

 二人が眺めた空は平穏そのもの。澄み切った青い空に綿飴の様な白い雲が、二人の目には映っていた。ISを装着すれば、あそこまで簡単に飛べる。それが当たり前に思えてしまうこの時代、この時間にカナードは生きている。友や家族とともに、生きている。

 

「……いよいよ明日か…」

 

「…うん」

 

「……お互いにベストを尽くす。 それで行こうか」

 

「…うん」

 

 目標まで決めた二人の視線は、まだ空に向けられている。

 

 

 

 

 タッグトーナメント当日。一回戦第一試合の映像を、カナードと簪の二人は整備室で観戦しながら新装備の展開作業を行っていた。何も装備していないストライクの胸部と背部、そして両手にそれが形となる。

 胸部のプロテクターは背部のライトニングストライカーの一部であり、両手のスナイパーレールカノンもケーブルでライトニングストライカーに直結されている。

 一流の狙撃手のように構えて、スナイパーレールカノンの調子を見る。

 

「っし、問題無いな。 簪、俺達の試合はいつ頃だっけ?」

 

「…一回戦の大トリ」

 

 簪が投影ディスプレイにトーナメント表を映し出してカナードに見せる。簪が見る分は自分の眼鏡がディスプレイ機能付きで問題無い。線を指先で辿ると、一夏&箒組に当たるのが準決勝、楯無と当たるのが決勝戦になっている。

 作業がひと段落ついた所で、簪が口ごもりながらあの日の事をカナードに聞いた。何故アーマーシュナイダーだけで一夏に挑み、本気で来るように望んだのかを。

 

「…理由はあの時、簪らが聞いた通りだ。 俺は知識だけが向上して、技術が向上しないのが悩みなんだ。 福音戦が特に顕著だ。 あの時はストライカーの特徴を作った俺が完全に理解していたからこそ、止められた……何か無茶苦茶言ってるようだけど、俺自身どう表わしたらいいか分からないんだなこれが」

 

「…でも、私はカナードに助けられた。 初めて会った時も、あの時も。 教えて、カナード。 貴女のその先にあるゴールは何なの? 何で新型を作るのに必死なの?! 何があなたをそうにまでさせるの?!! 一夏に勝つとかそう言うのじゃない!! 貴方の……貴方の本当の目的は何なの?!!」

 

「俺は……」

 

 重く開くカナードの口から答えが出るその瞬間、整備室中のハザードランプや警報が騒ぎ出し、トーナメント戦を映していたモニターも避難経路図へと切り替わる。切り替わる直前に見えた異形の影、それをカナードは見た。新型無人機『ゴーレムⅢ』のその姿を。恐らくこのアリーナに数機以上襲来している。

 警戒する二人、待機状態の愛機に手を置く。

 壁伝いに振動が来る。数は少なく見積もって十機以上、正確な数をカナードは忘れていた。原作記憶はそんなに細かく覚えている訳でも無い。ゴーレムⅢの数よりも、今大切なのは簪をその手から守る事だけ。それが今のカナードの優先事項だ。自然と身体が簪の側から離れない。

 次の瞬間、整備室の壁が激しい音を立てて崩壊。外の景色と、ゴーレムⅢの姿がそこにあった。ゴーレムⅢの遥か後方では火線が飛んでいる。

 

「ストライク、機動!」

 

「…ふっ!」

 

 ストライクと打鉄弐式の装着に反応して、ゴーレムⅢは心電図の様なカメラアイを光らせて、左肩に内蔵されたキャノンを連射する。砲台から撃ちだされるのではなく、左肩自体が砲台と砲門になっており、そこから何十発も光弾を射出する。

 光弾の嵐を掲げたコーティングシールドで凌ぎつつ、かい潜りながらカナードと簪はビームサーベルと夢現の斬撃がゴーレムⅢに直撃。がさほど効いてはいないらしく、ゴーレムⅢは反撃行動に移る。

 以前とは違い細身なボディ、見た目通りトリッキーな武装。発展機にしてはやや飛躍的だ。

 

「さてと簪、奴さんをぶっ飛ばすの手伝ってくんねぇか?」

 

「…うん。 もう、あの時の様に……私は守られる立場じゃない」

 

「へぇ…んじゃ今は?」

 

「…カナードが私を守ってくれるように、私もカナードを守る!」

 

「……へっ? あ、いや……お、応! せ、背中は任せた!!」

 

 簪の答えに戸惑いながらも、カナードはレーザーライフルの引き金を引いた。

 

 

 

 

 突然の無人機の襲来に、一夏は戸惑っていた。どこの誰かが何の目的でこんな事をしているのか彼には解らない。分かる事はただ一つ。

 

「箒、行くぞ!」

 

「応!」

 

 無人機の群れを相手に戦うだけだ。

 雪片弐型を両手で強く握り、出来る限り無人機に接近。下段の構えからの逆袈裟、続くは箒の天月の刺突によるエネルギー弾。今大会に置いてダークホースの中のダークホースの二人は、シールドエネルギーを浪費する機体と生成する機体。正直敵に回すと厄介この上極まりない。

 しかしそれは『絢爛舞踏』が発動すればの話だ。現状、箒は発動出来ずにいる。それは彼女のパートナーである一夏も既に承知している。機動時間からすれば一夏が上回っており、その分一夏は箒のカバーを必然的に行わなければならない。

 戦況が不利に傾いたその時、紅椿に異変が起きた。それは好機と言っても良い。

 そもそも紅椿は世間が第三世代に踏み切った最中に、篠ノ之束によって開発された第四世代IS。パッケージ換装をせずとも、単機でオールラウンドな性能を発揮し、何よりも展開装甲と言うものが特徴だ。そんな紅椿の初期装備は雨月と空裂の二振りのみ、だが、この瞬間、紅椿に…それを駆る箒にメッセージが届いた。

 

「何だこれは……『穿千(うがち)』…射撃武器か?!」

 

 紅椿の特徴、それは箒の姉である篠ノ之束が独自開発した『無段階移行(シームレス・シフト)』と言うシステムが組み込まれており、蓄積された経験値によって性能強化やパーツ単位での自己開発が随時行われる。穿千はそれにより生成された。しかし、箒は射撃と言うものが苦手だ。剣の道を生きた彼女にとって畑違いに等しいが、パートナーの一夏も射撃武器はある。彼も射撃は苦手だ。

 ならば撃つしかないと踏み切った箒は、パートナーに一声かける。

 

「一夏、一旦引け。 新装備を試す!」

 

「試すって、何を?」

 

 ゴーレムⅢを振り切り、箒の後方に言われるがままに後退する。

 穿千の引き金を引く。刹那、ボウガン状の武器の銃口から収束されたレーザーが照射され、ゴーレムⅢを貫き、その先のグラウンドの表面を焼き焦がした。あまりに強力、あまりに危険。しかし、リミッターを設ければ性能としては申し訳のないレベル。

 機能停止したゴーレムⅢの剥き出た中身からコアだけ回収すると、一夏はオープンチャネル回線で管制室に通信を掛け、状況報告を行った。既にその他の、セシリア&鈴音ペアとラウラ&シャルロットペアでも戦闘は終了しており、同じようにコアも回収して今頃は解析班に回されているそうだ。

 

『それとだ織斑。 良いニュースと悪いニュースがあるが、どっちを先に聞く?』

 

 いつに無い千冬の問いに、一夏は戸惑いながらも良いニュースから聞いた。

 

「えと…良いニュースから」

 

『良いニュースは、残る無人機は一機だ』

 

「では悪いニュースは何ですか、織斑先生」

 

 箒の問いに、千冬は一拍おいて深刻な声音で伝える。

 

『…大和の、ストライクの信号が……消えた』

 

 

 

 

 予想もしない事態と言うものに弱い人間と強い人間がいる。

 簪は恐らく予想もしない事態に弱い方の人間だ。

 目の前にいるのは、やっとの思いで左腕を肩部ごと破壊できたゴーレムⅢ。しかし完全に停止できていない。背後にいるのは、少量のコンクリート片に埋もれたカナード。しかも気を失っている上にストライクが強制的に待機状態に戻っている。

 現状を要約すると、

 

 ①二人でやっとゴーレムⅢの左腕を破壊できた。

 ↓

 ②しかしそれでもゴーレムⅢを機能停止に至る事は出来なかった。

 ↓

 ③奮戦するも一瞬の隙を突かれカナードが壁に打ち付けられて戦闘不能。

 ↓

 ④そして今に至る。

 

 と言う事になる。

 日本の代表候補の彼女の心は、恐怖に支配されている。

 心強い味方が、信頼している仲間が、好意の感情を向けている相手が戦えない今、自分が戦うしかない。それは理解している。理解している筈なのに、夢現を握る強さが次第によわっていく。

 最後には腰が抜け、その場でへたりと座り込んでしまった。

 嗚呼、無念。彼女はまだやる事が残っている。まだ姉を超えていない、まだ正式に日本の代表になっていない、そして何より……。

 ゴーレムⅢの右腕の手の平には銃口が埋め込まれている。簪の眼前にその銃口が光り、チャージが始まる。これが放たれれば、絶対防御が働きはするものの、最終的には死ぬのだろう。絶対防御と言うものは完ぺきではない、死ぬ危険性も孕む。

 どうしようもないその時、ゴーレムⅢの右腕の付け根…右肩部が何かに刺し貫かれていた。それは西洋で言うランス。先が円錐状になっており、刺突による一撃が最も強い。簪の知る限り、それを主兵装にしているISはただ一つ。

 

「この学園の生徒会長って言うのはね、生徒の中で最強じゃないと駄目なのよ」

 

 物言わぬ無人機にそう言ったのは、この学園の生徒会長であり学園最強の生徒、そして、簪の姉であって、簪の目指す先にある人物。更識楯無そのものである。

 楯無が纏っているのは『ミステリアス・レイディ』、別名『霧纏の淑女』。そしてその主兵装である槍の名は『ミストルテインの槍』である。

 

「…お姉ちゃん……」

 

「貴女のパートナーの信号が途絶えたって聞いて、居ても立っても居られなくなって……私の大切な妹を心配しないおねーちゃんなんて…おねーちゃんじゃないモノ。 私が守ってあげるから、貴女には傍に居て欲しい(・・・・・・・)から」

 

 傍に居て欲しい。その一言を、簪は聞きたかった。

 何もしなくていいと言われたあの日から、簪は楯無…刀奈を避け始めた。そして今日、やっとその一言が聞けた。次第に彼女から、恐怖が少しずつ消えていった。しかし完全に払拭されたわけではない。しかしそれでも、やるしかなかった。

 まだ、不安要素は残っている。

 それでも、やるしかなかった。

 カナードの代わりとは言え、楯無の腕前は申し分ない。が、楯無もここに来る前は連戦に続く連戦。シールドエネルギーは少ない方だ。故に、押され気味である。そもそもミステリアス・レイディは所謂紙装甲だ。装甲の殆どをナノマシンの入った水によって形成されており、それは攻撃の手段ともなり、防御の手段に切り替えが可能となっている。今はそれを防御形態に移行している。

 今の更識姉妹のフォーメーションは楯無のサブとして簪が援護と言ったところだ。姉妹の呼吸に乱れは認められない。しかし、先にもあった通り、楯無の機体のシールドエネルギーは少ない方で、簪もそれは同じこと。

 その逆境の最中、彼女たち姉妹は奮闘の末に頭部を破壊することが出来た。

 しかし、それがリミッターなのか破壊したかのように思えた両腕が、もとあった部位に戻された。合体ロボの様な元の戻り方。思えばその他のゴーレムⅢは頭部を破壊していなかった。

 ここで、楯無は最後の一手に出た。

 ミストルテインの槍を構え、体に纏っていたナノマシン水を矛先に集中する。

 

「簪ちゃん、行くわよ!」

 

「うん!」

 

 姉の意図を理解した妹は、姉の推力を担う。

 ミストルテインの槍の矛先が、打鉄弐式の推力を得て、威力の増した刺突をゴーレムⅢの腹部を捉えた。

 防御手段か、ゴーレムⅢの左肩のキャノン砲を撃ちだしてきた。当然前に出ている楯無に直撃し、赤い雫が垂れ下がる。

 

「お姉ちゃん?!!」

 

「大丈夫! 私は大丈夫だから、推力に集中して!!」

 

 言われて集中し直す簪ではあった、姉が傷ついて行くことにやるせなさを感じた。

 もう、ここまでなのか、と諦めていたその時、ゴーレムⅢのキャノン砲が突然潰れた。それは打鉄弐式の春雷ではない。では、何か?その答えとして、簪にプライベートチャネルが届く。

 

「諦めるなよ、折角の美味しいポジションなんだ。 胸を張ってけよ」

 

 声の主は、カナードだった。

 続けてゴーレムⅢの両手がピンポイントに狙撃された。セシリアのブルー・ティアーズではないカノン砲。

 

「ストライクの新型ストライカー、狙撃特化のライトニングストライカーの初陣だ!!」

 

 慣れない姿勢で銃身を構えるカナード。実は彼が意識を取り戻したのは、ゴーレムⅢの頭部が撥ねて両腕が戻ったその時。運よく展開とストライカーの交換をする分のシールドエネルギーは残されていた。展開した後は、ライトニングストライカーを展開してサブタンクの中の予備シールドエネルギーをストライクに供給して、援護射撃に回ったのだ。

 

「簪、今は君の力が必要だ。 持っている力を、存分に出し切るんだ! 決勝で会長と戦えなかった分、今ここで全力を出すんだ!!」

 

 カナードの言葉が後押しとなって、簪はスラスターにだけ集中する。

 気が付いたときは、ゴーレムⅢの上半身と下半身が分かれたときだった。

 

 

 

 

 真耶と千冬は、学園の地下深くにある区画に訪れていた。今回襲撃してきた無人機のコアの解析。と言ってもどこの国に所属されているコアかを調べるだけなのだが、千冬の中では既に見当がついていた。

 キィ叩いて答えを見つけだした真耶は、溜息をついてから千冬に顔を向けた。

 

「今回も同じくです」

 

「また所属不明のコアか……真耶、ここでの情報は…」

 

「ふふっ、分かってますよ、二人だけの秘密…ですね♪」

 

「ああ。 (一体何が目的なんだ、束)そろそろ戻ろう。 上に対する回答も考えなければならない」

 

 そう言う千冬の表情は、笑っていた。

 

 

 

 

 保健室から出た簪を待っていたのは、鉢巻のように頭に巻かれた包帯をしたカナードだ。

 

「臨海学校の時とは逆だな。 どうだい、会長と仲直りは出来たかい?」

 

「うん。 本当だったら、決勝で私の実力を見せたかったんだけどね」

 

「ま、結果オーライだわな……」

 

 道中、簪は無人機襲撃で聞けなかったカナードの目指す先の答えをもう一度問う。昼間とは違い、邪魔者はいない。気兼ねなくカナードは笑顔で語る。

 

「俺は、俺の最終目的は……ISを本来の使い方…宇宙開発の為の代物に戻すこと。 既に研究所ではそれについての会議は何度かやってる。 機械ってのは、本来の役割を全うするのが普通なんだ。 それを、今じゃ国のお偉いさんや軍の将校さんたちが戦争の道具にしている。 それが気に入らないんだ」

 

「それが……カナードの夢。 目指す先」

 

「そ。 それと、これあまりオープンに言っちゃうと、風当たりが酷くならぁ」

 

「大丈夫。 お姉ちゃんより口は堅い方だよ、私は」

 

「ありがたい事っすね」

 

 向き合って二人は笑い合い、会話は進む。

 その最中、話しながらカナードは周囲を見回して何かを気にしていた。

 そして、学生寮に続く道すがら、誰もいない事を確認し、深く深呼吸をするカナード。思えば前世でも、似たような事は経験したが結果は惨敗。今回も同じ道を辿らぬ事を祈りつつ、カナードは意を決して両頬を叩いて気を引き締める

 

「っし。 な、なぁ簪……実ぁちと…話が、あるんだ。 うん」

 

「…じ、実は……私も…」

 

 偶然にも簪もカナードに言いたいことがあったようだ。

 

 

 

 

 亡国機業。ある一人の男は、スコール・ミューゼルからの通信を終え、革張りの椅子に全身を預けた。

 男の名は織斑春十。現在の亡国機業トップの人間である。その春十のデスクにある写真立て、彼はそこに映る十年以上前の自分と家族を懐かしげに眺めていた。

 赤子を抱く自分、その隣には自分自身が愛した妻、そして二人の間には勝気な表情をした娘の姿。今の自分の心の支えとなっているそれを眺めた。

 

「道のりはまだ長い、まだ長いが………それまで、この愚かで哀れな父を赦してくれ。 いつか会うその日、その日まで許してくれ……千冬、そして一夏よ」

 

 春十の目的、その道のりは、春十しか知らない。

 

 

 

続く




カナードと簪については今後未定。

前回気付いた方もいるでしょうが、今作のラスボスポジは織斑春十です。

独自解釈のタグやネタ多しのタグを近々追記いたします。

これからも精進致しますので、よろしくお願いいたします。
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