インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
意識して長く書こうとすると、構成に時間がかかってしまいました。
ネタを詰め込んだりシリアスを入れ込んだりと、捻りだすのに一苦労です。
そんなこんなで書き上げました。
まだまだ未熟だと自分自身分かっているつもりですが、これからの応援よろしくお願いいたします。
では十三話の始まりです
『第一回! チキチキIS学園最大鬼ごっこ〜〜!!』
「もうほんとやだこの会長……」
「ホントにごめんカナード、あんなお姉ちゃんで」
襲撃に終わったキャノンボール・ファストから間もないIS学園。毎回イベントには襲撃が付き物になった今年度、まともに完了できず生徒の多くは不完全燃焼と言ったところだ。そこを生徒会が付け込んで今日の様な妙なイベントを開催したのだ。
盛り上がる女子生徒たちの中で、一年の専用機持ち達は全員呆れた様子だ。
因みに、一夏は倉持技研第二研究所の篝火ヒカルノと言う人物の元へと出向中で今は学園にいない。
『ルールを説明するわ! 鬼ごっこの範囲は学園内で行います』
「あ、意外と普通だ」
「気を付けてカナード、お姉ちゃんはそんなにふつうじゃないから」
『でも普通の鬼ごっこは流石につまらない、そこで女子生徒全員が鬼となり大和カナード君を追っかけます』
「あ、やっぱりいつもの会長だ」
「ホントごめんカナード、も、あの人とは縁を切りたい」
白々しい表情をする二人。しかし楯無はその視線に等気が付かず、騒ぎ立てる女子生徒たちに開催の経緯とルール説明を述べていた。
まずは開催の経緯であるが、これは一夏とカナードが未だに何処の部活にも所属していないからであるのと、先程楯無も言った通り今までのイベントには襲撃に遭い不完全燃焼な為にこのイベントが開催された。カナードにとってはとても迷惑に感じていたが、生徒会側から見れば当然なのだろうと取り敢えず納得する。続いてはルール説明だ。先程も楯無が述べた通り、学園内だけ。その範囲外に出られないように、教師たちが嫌々待ち構えていたりする。学園内であれば、どこに行こうが逃げようが規定は無し。
規定時刻の正午までカナードが逃げ切るか、それまでにカナードが捕まればゲーム終了。カナードが捕まった場合、捕まえた女子生徒の所属する部活動に強制入部させられ、ついで程度だが部費が増量される。もしカナードが逃げ切ればの場合の賞品は、特に何もない。理不尽である。
次に追うものと追われるもの、つまりはカナードと残りの女子生徒達についてだ。人数が多すぎる故にハンデとして女子生徒たちはアイマスクで目隠しをして、カナードは両腕に鈴付きのブレスレットを装備する事。
「あれ、これ俺……目ェ見えないから当然か」
『それじゃあ大和君には鈴を、他の皆にはアイマスを配布するわ。 大和君は装着次第すぐに逃げはじめてね~…あ、そうそう、鬼の皆なんだけど、大和君を捕まえる時は大和君の身体のどこかを掴んで、その箇所名を宣言しないと捕まった事にはならないからね~!』
「つまり、頭だったら『大和君の頭を捕まえた』って言わないと駄目なんだ」
「ぅわおっ! えぐいな」
鈴を鳴らしながら逃げ始めるカナードはこれからどう動くかを思案する。両腕に装着されている鈴は手で掴んで音を抑えようとするが、気休め程度にしかならない。視覚を奪われると、その分を補おうとその他の感覚が鋭くなると言う。いくら音を抑えようとも、微かな音で大体は気付かれ追われるオチだ。しかも一度装着すると自動的にロックされるので外して囮には使えないし、鈴を抑えながら走っても腕組みの体勢では些か走りづらい。
今カナードは鈴を鳴らしながら校舎内を移動している。ここに来るまで教師らしき人物の姿は見えていない。正午の時間までこのイベント中学園の外郭にいるのだから当然とも言える。そもそもIS学園は人工島の上にある。ここに来るのであればモノレールを利用するか、海を渡るしかない。
二階から三階に通じる階段を駆け上がっている時に、体育館と校舎に通じる通路を目隠ししている女子生徒たちがぶつかりながらも進んでいるのが見えた。
「毎度毎度阿呆な事を立案されるな生徒会長殿!」
強く独り言ちるが、まずはどこへ向かうか思案する。
足跡が近づいて来たら物陰に隠れてやり過ごすか、はたまた常に動いて回るか二つに一つ。匂いでばれるか音でばれるか。
手近な教室に入り、壁に身を潜め階段の方を見ると、安物のゾンビ映画さながらな歩き方をしている女子生徒達。リボンの色からして先輩方だ。口々にカナードの名を呼ぶ所を見る限り、女尊男卑主義者ではない事が分かる。
「どこにいるの、大和くん!」
「さっさとアタシらに捕まえられなさい!」
「大人しくしてよ部費の為にね!」
この声には聞き覚えがある。夏休みの時因縁つけて来た三年女子生徒の三人だ。態度が粗方変わったようで前より穏やかな感じを出していた。
しかしその後ろでは一部の主義者たちの声も少なからず聞こえてくる。しかしあくまでそれは少数であり、辛うじて聞き取れる程度だ。
とにかく今のカナードに出来る事は、先輩方の足音が聞こえなくなるまで身を潜める事それしかない。もっとも、少しでも鈴が鳴ればおじゃんである。何気に楽しんでいるカナードであった。
やがて先輩方の姿が見えなくなり、足音が遠退いていったのを確認して移動を開始した。出来るだけ鈴の音を鳴らさないようにするのが困難であるとカナードは理解するが、そうしたところでそう簡単に対処は出来ない。出来ても音を少しだけ抑える程度だ、気休めにしかならない。
逃げていく内に、段々と楽しさを感じてきたカナードは、二度目に逃げ込んだ教室に掛けられた電子時計に目をやった。まだ始まって一時間も立ってない上に、制限時間の正午まで時間はまだある。このまま逃げ切れるかどうか、カナードの腕の見せ所と言える。
多少鈴の音を抑えながら彼が向かったのは図書室だ。楯無は『鬼ごっこの範囲は学園内に限る』と宣言していた。学園内であれば、図書室の本棚の陰に身を潜めても問題は無い筈だ。目隠している女子生徒たちは恐らく大半は自分が何処に居るかを把握していない。
「しかしま、流石に司書の方がいないのは驚いた驚いた。 仕様……なのか? まぁ、どうでもいいか」
また十数人ほどの足音が聞こえてくる。通り過ぎるモノかと思いきや、足取りを悪くしながら図書室のドアを開けてぞろぞろと入って来た。カナードの見知った同じクラスの女子生徒、本音やモブ系のその中に一人だけ違うクラスの簪の姿も見える。
壁伝いに歩きながら本棚や壁に手を添え、空いてる手で進行方向に何があるかを探る手つきでそれぞれカナードを探していた。もはや満足に歩けない訳ではないが、少し歩けばすぐに捕まってしまうほどだ。しかし道がない訳ではない。道がないなら作るしかないのだ。
「(道は……本棚の上!)よっ!」
少ないアクションで本棚をよじ登り、鈴を鳴らしながらも本棚の天辺に到着するが、その音に女子生徒たちは気が付いた。カナードが上った本棚に少しずつ集まりだし、人が集中しはじめる。そんな中カナードは鈴を鳴らしながらも別の本棚に飛び移り始めた。飛び移った先の本棚に群がる前に、次の本棚、次の本棚へと繰り返し移動しはじめる。その度に女子生徒たちはその音のなる方へと移動して、いつの間にか入り口を開けてしまう。その空いている隙にカナードは図書室から脱出、次なる潜伏先を鈴を鳴らしながら探し始めた。
音を抑えながら走る事すら忘れて走るだけ自分の居場所を知らされるだけ。しかし、カナードはそれでも敵わない。楽しんでいた、この現状を、腹の底からいつの間にか楽しめるようになっていた。つかの間の安息と言うのはこういうのを指しているのだと改めて理解し、歩き、隠れ、走り出した。
◇
終了時刻まで30分を切った頃。
カナードは籠城するを得ない状況に居た。いや、実際それに近いだろう。
この状況までカナードはISの訓練で培った身体能力を駆使して逃げつづけた。大浴場の更衣室に潜入したり、空き段ボールで身を隠したり、その他無人と化している 教室でやり過ごしたりと終了までの時刻を待っていた。追う方の欲望が声になって丸出しになっており、『玉の輿』やら『奴隷』やらで狂気すら感じられた。
しかし、現状は今までのそれとは違った。
楯無のお得意『後からルール』が発動して、制限時間一時間を切った瞬間から専用機持ちのみ頭部ハイパーセンサーのみだが展開を許可するとのこと。目隠しをしようともハイパーセンサーで居場所が分かってしまう。その専用機持ち達が筆頭となり、何グループかに分かれてそれぞれでカナードを捜索し始めた。そこからは面白いように(カナードにとっては面白くもないが)遭遇しては見つかって、見つかっては逃げ切るしかできない。
そして、カナードは今ある意味窮地に立たされていた。すぐ近くには内側から鍵を掛けられるタイプの物置が、それに対し目の前には簪筆頭の女子生徒たちの一部の群れが近づいてくる。もはやのがれることはできぬ。
「ぐえーっ!」
変な声を上げながら物置…用具入れの中に逃げ込んだ。が、何故か鍵が掛けられないよう細工されていた。この時カナードの脳裏にとある人物の顔が走る。
「あんただったか、会長さんよぉっ!!」
しかし今更外に逃げる事は出来ない。出た瞬間捕まるだけだ。
「…ったく、一時間前の俺を殴りたい。 それよか最悪こんな出鱈目ルールが出ることくらい予想すべきだった!」
体全体で戸を閉め、外からの開ける力に対抗していた。
◇
「か、カナードの…カナードの胴体を捕まえました!」
制限時間一秒を残して、ゲームは終了した。
男子一人の力に女子数十人の力に参ってしまい、最終的には簪に捕まってしまった。
この後、カナードは語る。「俺を捕まえたのが簪で正直ホッとした」とやけにつやつやした肌で一夏に語っていたが、それはまた別のお話。
捕まえられたカナードは簪が生徒会所属な為、強制的に生徒会に名を連ねる事となった。
次は一夏が餌食になる番だと、学園全員が同じように考えていた。
◇
カナードの鬼ごっこイベントが終わった日の夜。生徒会(どちらかと言えば楯無)から解放されたカナードは、食堂へ向かう途中のシャルロットと鈴音と合流する。何だかんだで珍しい組み合わせだ。シャルロットはラウラと共に行動する場合が多いし、鈴音はセシリアとここ最近つるむ事が多くなっている。
「まぁ、あれだね。 俺じゃ荷ぃ重いわ」
外は既に日が沈み夜の闇が広がっている。昼間とは違い雲が空全体を覆っている様に見え、星々の輝きすら見えない。
生徒会室での出来事を明かりが点いた廊下を進みながらシャルロット鈴音に伝えた。この学園の生徒会長の性格や嗜好を知っている者であれば、誰でも彼に同情してしまう。現に疲れ気味のカナードの肩を、鈴音とシャルロットが叩いて無言で慰めていた。この時カナードは、心底良い友人を持ったと小さく二人に聴こえないような声で呟いた。
それから他愛もない世間話が三人の口から出ていた。
「やっぱ『スクライド』は良いよ、カズマの生き様が良いね」
「へー、僕まだ見たことないけど鈴は?」
「私は見てたわね。 君島が死んだ時は信じきれなかったわ」
「てか、あれってさ『機動戦士ガンダムSEED』の前身だと思うんだ俺は。 キャラデザと主人公の声」
「そうなんだ、僕も見てみたいなぁ」
「ってゆーか、カナードってカズマとか大とかキラとか智樹に声似てない?」
「一夏とバナージの声が似てんのと同じじゃね?」
少しメタい話が出る三人の会話を急に遮るかのように、突然廊下の明かりが消えうせた。停電か?いや違うとカナードは鈴音に停電してからの時間を聞いた。
「なぁ鈴…停電してからどれぐらい経った?」
「ざっと一分」
「おかしいよね、確か二秒で内部電源に切り替わるはずだよ?」
「ってこたぁ……システムを掌握されたって事かよ!」
IS学園は最新鋭のホストコンピュータを有しており、主に学園内におけるISのコアの管理などに使用され、特別なファイアウォールによって外からのクラッキング対策もされておりそう簡単に外部からの攻撃は受けない程なのだが……。
どこの誰がこんなマネをしているのは容易に想像できる。事件が起きれば大体そいつらの仕業だ。三人は顔を見合わせて頷き、生徒会室へと向かった。
◇
臨時の作戦室となっているのは生徒会室。
原作八巻の記憶を思い出してみると、場所や人員も多少異なることが分かる。
外部のクラッキングを受け掌握された今、サブコンピュータも役には立たないと言う。しかし完全にシステムを奪い返せない訳ではない。ISのコアネットワークを使い、使用者の意識をシステム領域に送り付けて問題を解消すると言うものだ。
「これ漫画版のエグゼに似たようなの有りましたね」
「パルストランスミッションか? 実はそれを参考にしている」
千冬のそのカミングアウトにカナードは驚き、簪は納得する。しかし元ネタを知らない箒達は戸惑いがちに緊急時だと言うのに和んで同調しているカナードと千冬の二人を見ていた。
「ちなみに私は2以降は通常、ブルームーン、カーネル、ファルザーを購入した」
「私とは別ですね。 私は2以降はブラック、レッドサン、ブルース、グレイガの順でした。 やはりサーチソウルは万能ですね」
そのままエグゼの会話に花を咲かせると思いきや、当の本人らは事の重要さを思い出し、シリアスモードに突入。周囲も引くほどの変わり映えである。
しかしそのシステムは一人分の意識しか送り込めないと言う。元々は五人分あったのだが、何処かの天災兎がかっぱらっていったと言う。何が目的か定かではないが、とにかく今はその方法しかない訳だ。訳なのだが、誰が適任かを決めている最中にカナードが挙手して名乗り出た。
「私がやります。 と言うより、やらせてください」
「何故だ大和」
「恐らくシステムを掌握した人物らは、掌握しただけで終わるとは限りません。 私がもし敵であれば、掌握してタイミング次第で襲撃します。 そこで襲撃者がいつ、どの様に、どこからどう攻め入るか分かりませんので、箒達に対処して頂ければ問題ないと思います」
「異議あり、その選出は認められません」
冷静に簪がカナードの考えを否定する。
「例えそのやり方で撃退に成功したとしても、もしシステムトラップに掛かったりしたら後遺症でも出たら…!」
「更識妹、それは何の立場での意見だ? 私には明らかに私情が含まれている気がするが、もしそうであればその意見は却下だ」
その指摘に簪は一瞬だけ怯んでしまう。
「簪ちゃん、ここは大和君の意思を尊重するの。 それに、ここには各国の代表や代表候補が勢ぞろいしてるんだからね」
確かにそうだ。襲撃者が来ようとなかろうと、この学園の防衛力は駐屯地のそれ以上とも言われている。今生徒会室にはイギリス、中国、ドイツ、日本の代表候補に、ロシア代表、元フランス代表候補。そして
改めて現状を見直した簪もそれに賛同。しかし最低でもカナードにはサブが一人必要だ。原因を突き止めに行くのがカナードの役目であるならばサブはその道を開く役割がある。その役目は簪が名乗り出た。
「よし、ならばよく聞け。 何処かの馬鹿共が学園のシステムを掌握した。 しかしそれで終わるとは思えない為、大和と更識妹にはシステムの奪還を担当し、それ以外の諸君たちにはコンディションイエローを発令する。 いつ襲撃者が来ても良いように各自待機し、以後の判断は更識姉を司令塔とし行動する事。 各員の武運を祈る」
かくして、作戦会議は終了した。
解散して間もなく、シャルロットがカナードの近くに来る。同僚として心配はしてくれるのだろう。
「心配はありがたいよシャルロット。 それよか、ストライカーの方は大丈夫か?」
「うん、『ノワール』を昨日まで何時間も起動してたから、上手くいくよ」
「その意気だ。 ラファール・リヴァイブ・カスタムの時より若干の誤差や違和感とかが生じると思うが、そこは各部調整していけばいい。 機体色は前の様にオレンジで良かったか?」
「うん。 むしろその色がしっくり来るよ」
「じゃ、その意気だ。 存分に発揮しろよ?」
「そのつもりだよ」
炎を灯したかのように燃えるシャルロットの目を見て、カナードは安堵し簪と共に移動を開始する。例の装置がある部屋までの道中、カナードは簪にある提案を持ちかけた。
「この作戦が完了したらよ、今度簪の親父さんに会わせてくれないか? 一度挨拶しようかと思うんだ」
「……え?」
突然のカナードの申し入れに、簪の思考は一時フリーズしてしまった。いきなりすぎてどう反応して良いのか、どう返せばいいのか答えが定まらない。そしてその答えを理解した簪は急に顔を赤くして金魚の様に口をパクパクと開け閉めしてしまう。
「俺が簪の事が好きでいい付き合いしているって俺の父さんも知ってるし、そろそろってね。 それにもう殴られる覚悟もあるしさ」
「……分かった。 でも、必ず帰って来て。 約束」
「ああ、約束だ」
かくして目的の部屋に到着する。そこにあるのはシングルサイズのベッドが一つに、数十にも及ぶ配線の数々、そしてパソコンが数台並んでいる。
千冬に言われたとおりにセッティングを進めていく。待機状態のストライクにコードを接続し、カナードには配線コードが何本も付いたヘルメットがかぶせられる。準備は完了した。簪サポートの下、カナードの意識はシステム領域へと旅立った。
キィを叩いて自分の仕事を全うする簪は、一瞬たりとも気を緩めたりはしなかった。自分を必要としてくれた彼の為に、彼が無事で帰ってこれるように、簪は手を休めなかった。掌握されたシステムの奪還は容易でない事は理解できる。
手順を進めていく途中、ディスプレイに不吉な文字が並んだ。
「システム……エラー…? え…、嘘でしょ……カナー…ド?」
◇
カナードの意識がストライクのコアネットワークを通じてシステム領域を進んでいるその時、巨大な幹に一枚の扉がある大樹が目の前に聳え立っていた。北欧神話のユグドラシルに似たその巨木とカナードの意識以外、何もない空間。前世での死後、神とやらに説教されたあの時と感覚が似ている。
扉の向こうに行けば、システムが復旧するのかもしれない。そう思ったカナードはノブに手を伸ばした。その瞬間、カナードの周囲が瞬く間に変わる。
周囲は前世のカナードが住んでいた家のリビング。記憶が正しければ、家具の配置を見るにこれは確か中学生の時だ。ソファに座る生前のカナードの正面に座しているのは当時の父親だ。
『…小説家になる夢は諦めろ。 それだけで食っていけると思うな』
『……』
『お前は黙って父さんや母さんの言う事を聞きなさい。 それが出来なければ、お前など必要ない好きにしろ。 やはり、お前の弟の方を期待した方がよさそうだったな』
この時は進路希望調査で、父親と話していた時の事だ。この時の夢は小説家。読書好きは生前から今も変わらない。母親はどっちにも付かず、まるで興味の無いと言わんばかりで夫と息子の進路相談など眼中になかった。しかし問題は、何故今こんな光景を見なければならないのかだ。罠か?勘ぐるカナードだが、周囲の景色が変わり中学の時のグラウンドに。
当時はサッカー部に所属していた彼は、それ程上手くも下手でも無いこれと言って特(に)長(所)が無いのが特徴であった。練習中のこの時、サッカー部の顧問がわざと当時のカナードに聞こえる様に言った。
『……これと言って上手くなる気配は見えないな。 やはりあいつは、居ても居なくても同じだな』
記憶の中のカナードも、今この光景を見ていた現在のカナードもその顧問の言葉を聞いて急に胃の中の物が吐き出されるか、血の気が一気に引いた感じがした。
他の部員達はその顧問に同調するかのように笑い、誰一人として当時のカナードを擁護しなかった。これが彼らにとって軽い冗談だと思われるが、カナードにとっては言葉の暴力以外の何でもない。
それから何度も、何度も何度も顧問の言葉が何度も何度も聞こえてくる。
居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。居ても居なくても同じ。
いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。いてもいなくてもおなじ。
イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。イテモイナクテモオナジ。
それに続いて、父親の言葉も何度も何度も何度も聞こえてきた。
お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。お前など必要ない。
おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。おまえなどひつようない。
オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。オマエナドヒツヨウナイ。
呪詛の様にカナードを雁字搦めにしていった。
やめろ、やめてくれ!何で、何でそんな事を言うんだ!
居ても居なくても同じなら何故俺を迎え入れてくれたんだ。必要ないと言うならどうしてそこまで育ててくれたんだ。何故笑うだけなんだ、何故興味を持たないんだ。
気が付けばカナードの周囲は暗くなり、転生前と転生後の今の見知った顔が浮かび上がり、一斉に無機質にカナードを傷つける。
『大和、貴様の実力はストライカーの性能によってだ。 それが無ければただのゴミだ、クズだ』
「やめてくれ、やめてください、織斑先生!」
『カナードの様になりたいって思った俺がバカみたいだったよ。 やっぱ、必要ないよカナードは』
「一夏ぁ、やめてくれよ!」
『カナードが居ても居なくても所詮世界は変わらん。 小さい存在だ、ミジンコ以下のな』
「箒ぃっ! お前本当はそんな事言わないだろ! なぁ、やめてくれよ!」
『正直貴方が存在する意味など分かりませんわ。 微生物以下の貴方など誰も必要としてないのですわ』
「うわああああああ! やめろ、やめてくれぇぇぇ!!」
『アンタがいなくなっても皆困らないわよ!』
「やめろって……! やめろって言ってんだろ!!」
『本当は僕はカナードなんていらないって思うんだ』
「やめろぉぉ……やめてくれぇぇぇ…」
『貴様に言葉などかける価値など無い』
「や、め……く…」
『んー、おねーさんの立場から言わせてもらうけど、正直君は居ても居なくても同じかなー』
「……ろ…」
そこから何人、何十人のカナードと知り合った人々から精神的苦痛を受け続け、カナードはついに言葉すら発しなくなった。
今のカナードは再起不能の状態に近い。
これが幻影だと分かっている。これが敵の罠であることは分かっている。分かっている、分かっているはずだった。なのにこれが事実や真実と信じてしまう。信じてはいけないのに、まともな判断が出来ず、反論も次第に出来なくなった。彼らがカナードを精神的に追い詰める事も、蔑むことも、見下す事も無いことは分かっている筈なのに。
やがて浮かんでいた顔達は一斉に消え去り、簪の顔が空間いっぱいに浮かび上がり、曇り切った瞳で見つめていた。ここに来て何が来るんだ。希望なのか。淡い期待等の気持ちでいっぱいだった。
彼女なら、彼女なら今の自分を救ってくれる。
『 あ な た な ん て だ い き ら い 』
その言葉を聞くまでは……。
◇
カナードの予想の通り、月明かりに照らされた薄暗いIS学園に、見慣れない装備のラファールが編隊を組んで進行しているのを確認した楯無の指示の下で一夏達は動いていた。通信内容は傍受されない様に暗号伝達。各機に送信が完了し、受信が成功した時それぞれの母国語で指示が伝わる仕組みとなっていた。
「ストライクEの力、見せてあげるよ!」
その中で、ノワールストライカーを装備したシャルロットのストライクEはいい意味で目立つ。シャルロットは連射や乱射が得意らしく、ストライクEとは相性がいい。サイドアーマーにマウントされている拳銃型のレーザーライフルショーティー、ノワールストライカーのレールカノンの二つがシャルロットの指示を受けて火を噴いた。
相手の
「楯無さん、零落白夜の発動タイミングは?!」
合流してきた一夏が楯無から指示を聞く。
「敵さんが一か所に集まったその瞬間だけよ、それまではシールドエネルギーを温存させるの! 箒ちゃん、絢爛舞踏は発動できる?」
「いつでも行けます!」
楯無の指示は正確だ。気が付けば既に名もなき部隊は完全に包囲されていた。逃げ場を模索する部隊員達だったが、一夏の零落白夜が逃げ場が無くなった名もなき部隊の彼女達に直撃する。
◇
「ポニーテールにするのは…何年振りだろうな」
千冬が言った。彼女の腰には打鉄用のブレードが六本装着されており、別口から来た侵入者達を出迎えた。相手方はラファールが三機。しかし、ブリュンヒルデの称号持つ千冬にとってはその力量など関係ない。
三機のラファールが発砲を開始したかと思えば、千冬が低い姿勢で走りだしラファールの駆動部にブレードを突きさした。例えシールドエネルギーに残量が有ろうと無かろうと、そこを突かれれば動作に若干の支障が出る。三機とも動きにくくなったところで千冬の仕事は終わった。
「真耶、メインディッシュは取っておいたぞ」
「ハイ!」
影から現れたのはガトリングを八連装に装備した濃緑色のラファール。かつての真耶の専用機だ。モチーフは真耶の好きな『ヘビーアームズ改カスタム』だそうだ。
銃弾の雨に打ち付けられているのを見ながら、千冬は真耶が持って来たコーヒーを啜る。
「うむ、やはり真耶の淹れるコーヒーはうまいな」
「それ、インスタントですよ」
しばらくは発砲音と排出された薬莢が床に弾かれた音しか響かなかった。
外と中の侵入者たちは、同時刻に無力化されIS学園側に確保されたのだった。
◇
日が昇り、カナードの身体は保健室とは違う医療関係の設備が整った部屋にあった。顔には酸素吸引のマスクが付けられ、その周囲には生命維持装置の類が置かれ、画面には様々なデータが映し出されている。
掌握されたはずのシステムは既に復旧されており、敵の本来の目的はカナードにあった事が良くわかる。
「身体的な問題はありません。 ありませんが、精神の方が大きなダメージを受けている模様です。 恐らく、その類の罠…本人にとってのトラウマが再発される罠が仕組まれたと思われます」
それが医師の見解だ。カルテを見た千冬と楯無が納得した様子。
「それで大和の回復の兆しはどうなんだ?」
「命に別状がないとはいえ、目が覚めたとしても後遺症が確認されると思われます。 彼の精神を大きくすり減らした原因が何か分かれば何とかなるんですが、プライベートを含めた彼にそう言った類はありませんか?」
それを聞いて楯無と千冬は心当たりを探るがどうも思い浮かばないようだ。いや、楯無にはあった。昨日のイベントにおいて、カナードが半強制的に生徒会に入ったあの時、小さく呟いた言葉が楯無の耳に入っていた。
「…『必要としてくれるだけでうれしい』……そう呟いていたのを聞いています」
「どう言う事だ?」
「詳しい事は何も……妹から聞いたところだと、家族や研究員たちとの仲は良好、この学園にも主義者たちはいても苦にはならなかったようで…」
またも行き詰まってしまった。
ここはやはり、と千冬は楯無と共にその部屋を出ると、移動を開始した。
◇
千冬からカナードの現状を聞いた一夏達一年専用機持ちは現在生徒会室に呼び出されていた。
「やっぱり…俺のせい……なのか?」
第一声は一夏だ。事情を知っていた千冬は「一夏の責任ではない」と言って、彼を宥める。
今度はセシリア達だ。カナードと出会ってからの印象などを上げていく。それらを聞いて千冬が注目していたのは集中してストライカーの設計をしている時の彼の事だ。何かに夢中になるのは誰しも同じ事、しかしそれとは違う何かを鈴音とシャルロットは感じ取っていたのだった。
「兎に角、その他の生徒達にはこの事は伏せておけ。 大和の事は私の方から言っておく」
それだけ言って千冬は一夏達を下がらせて、頭を抱える。
「……更識、お前は何処の馬鹿がこの事態を招いたと思う?」
「十中八九亡国機業かと」
「そのやつらのちょっかいは日に日に面倒になっている…」
頭を抱えているのは楯無も同じ。妹の大切な人を傷つけられた事に何もできていない自分に腹が立っていた。所詮学園最強はお山の大将と言う事か。
何か方法はないかと二人は思案する。その答えは一つしかないのだった。
◇
その頃自習中の一年一組の教室では、生徒会室に呼ばれていた一夏達に一気に詰め寄って来る。それは二組と四組でも変わらない。呼び出された理由を知りたがる者もいれば、カナードがいない理由を聞きたがる者もいる。答えてあげたい一夏だが、言ったら言ったであの姉からどんな制裁が来るかを想像すると途端に言えなくなった。
シャルロットが一夏の変わりに言えることだけを伝えた。
「ごめんね皆織斑先生から口止めされてるから…」
手を合わせてそれらしい意思表示を見せたシャルロットに皆それぞれ納得し、席に着く。
そして時間が経ち、千冬が教室に来た。
「さて、授業を始める前にだが…皆大和の事が気になるようだな、目を見れば分かる。 ただの体調不良だ心配ない」
千冬のそれはあながち間違いではない。精神に傷を負い、今も尚集中治療室、良くて保健室のベッドの上で眠っている。
「ただ、念の為実家の研究所の方が引き取りがてら様子を見に来るとの事だ。 廊下で会ったとしても失礼のないようにな」
それでは授業を開始する。そう言って千冬は強制的にその話題を終わらせた。
◇
様子を見に来たのは小次郎ともう一人の少年だった。窓木は分かるとしても、もう一人の少年が来た意味が分からない。出迎えた千冬とシャルロット以外の一年専用機持ち経ちが疑問に思っていると、視線に気が付いた小次郎が説明する。
少年の名は
「義父さん!」
「シャルロット、早速で悪いが彼をストライクの所に案内してくれ」
「解った。 じゃ、真こっち」
「はい!」
シャルロットが真をストライクが保管してある場所へ向かい、小次郎は千冬案内の元カナードの所へと向かう。その道中千冬は小次郎からカナードのトラウマに関して聞き出していた。
「トラウマ……と言っていいのかどうか解らないのですが、彼は中学時代に立案したシステムやプログラム発表の際、『必要ない』『要らない』『無い方がいい』と言う言葉を受けた際酷く落ち込んだり…まぁその度に篝に慰められてたりして立ち直ってたよ」
「それがいつどこで受けたものなのかご存知でしょうか」
目的地手前の角に差し掛かったところで千冬が質問する。その答えに小次郎はノーと答えた。
「恐らく、研究所のメンバーでも原因は分かっていません。 無論親であるユーレン教授も奥様も」
やはりわからない。千冬はそう思う。
カナードがどこで受けたかも解らない心の傷。その原因を探りたかった千冬達はもはやお手上げ状態だ。
目的地である集中治療室。その部屋のベッドの上に、カナードはいる。
千冬がドアノブに手を掛け開けると、そこにはあわただしく動く保険医の姿。その奥のガラスの向こう、千冬たち…特に簪は釘づけになっていた。
『やだぁっ! ずでないでっ! うぉれを…ずでないでよ!! だーのぅがらぁっ! 要らないっで言わないで!!』
目からは涙、鼻からは鼻水、口から唾液が流れてベッドの上で数人の保険医に押さえつけられながらも暴れるカナードがそこにいた。長く綺麗だったこげ茶の髪は激しく暴れたのかふり乱れていた。
初めてみる壊れたカナードの姿に、千冬たちは唖然とした。保険医の一人があとから来た千冬たちに説明する。
「目が覚めたのは三十分前、同時にあのように『捨てないで』『要らないって言わないで』等と叫びながら暴れています。 鎮静剤を打ち込もうとしたのですが、私の判断ではとてもじゃありませんが決断できませんでした。 このままだと、いずれ舌を噛み切って窒息死してしまう恐れがあります」
「…ならばすぐに処置を。 鎮静剤の用意をしろ、私の生徒だ死なさせるな! 私たちも出来る事は手伝う!」
そこからの手筈は迅速だった。一夏と小次郎がカナードを押さえるのを手伝い、残りの千冬たちは棚から鎮静剤の入った容器を保険医に手渡したり、計器の異常を報告をしていた。
保険医の一人が暴れ続けるカナードの首筋に鎮静剤が入った注射器を刺し、中身をカナードの体内に流し込んだ。ものの数秒経って、暴れていたカナードは大人しくなり、やがて静かに眠りについた。
この時小次郎の頭の中には、あるモノが浮かんでいた。しかしまだ実験段階にすら入っておらず、すぐに使えるか不安であった。だが躊躇う暇も理由もない。
「使うしかないのか」
◇
その後の土曜。千冬同伴の下、一夏達は大和生物機械技術研究所に訪れていた。今いるのは夏休みにカナードに案内された場所より深い所で、会議に参加していた更識姉妹や、職員であるシャルロットすら知らないコードSSSと呼ばれる区画にいる。
そこには眠っているカナードを中心に大小様々なコードが繋がれており、特にその中の数本の先にはISに繋げる為の端子規格がついてあった。
真がユーレンや静子、小次郎に代わって一夏達に装置の説明をする。
「今からストライクを通してカナード先輩の深層心理に皆さんに行ってもらいます。 このパルストランスミッションはIS学園にある物と同様ですけど、違うのはISを装着している状態でシステムではなく人の深層心理に無理なく入り込むことが可能です……
「理論…上……?」
真の説明に、一夏が珍しく引っかかった。
「まだ完成したばかりなんです。 下手をしたら、カナード先輩かあなた達…あるいは全員命を落とすリスクさえあるんですよ。 皆さん、カナード先輩助けるのに、自分の命賭ける勇気はありますか?」
彼の赤い瞳を見ていた一夏達が事の重要さを再認識している中、簪が前に出た。
「私、やります。
カナードと簪の約束。帰ってこれたら簪の両親に挨拶に行く事。それを果たすべく、簪は志願する。すると、それに続いて一夏達も一人一人手を上げていく。
話は纏まった。真が顎でしゃくって一夏達を装置に向かわせる。白式、紅椿、ブルー・ティアーズ、甲龍、ストライクE、シュバルツェア・レーゲン、打鉄二式がそれぞれ展開された。それぞれの端子に
まるでエヴァのサルベージだと、誰かが言った。今の状況は正にそれに近い。方法や救助対象は違えども、想いは同じであった。
ユーレンら研究員たちがそれぞれの位置でキィを叩きはじめる。
簪の意識がカナードに流れ始めるのに、時間はかからない。
◇
一夏達は気が付けば見慣れない住宅街の中にいた。目の前には二階建ての一軒家、その家のドアを開ける。これがカナードの意識内でなければ住居侵入罪で御用となるはずだ。しかしそれでも一夏達はドアを開けた。
玄関かと思えば今自分たちがいるのはリビングルーム。その一か所で、父親と息子の進路相談とそれに興味を示さない母親の図が一夏達の目の前で起きていた。
『…そいつは前世での俺の記憶だ』
声のする方にカナードはいた。しかし色素は半透明のそれで、表情すら読み取れない。
『皆には言わなかったが、俺には前世の記憶が残ってんだ。 この光景はその一部。 当時の親父から夢を否定された瞬間だ』
「カナード、お前一体何言って…どぇっ?!」
触ろうとする一夏の手はカナードには触れられず、そのままカナードの身体を貫いた。虚像だ。
ここはカナードの深窓心理。つまり今のカナードは誰にも触れられたくないということなのだろう。
「…カナード、私達は貴方を迎えに来たの」
簪が触れられないと知りつつもカナードに近付き、彼の胸の位置に手を置いた。心音は聞こえなかったが、そこにカナードはいると簪は感じ取っていた。一夏達はそれを見守る中、周囲の景色は変わって前世でのカナードの母校の中学校のグラウンド。それが変わって、一夏達の耳にカナードの存在を拒む様な音と声がエコーで聞こえてきた。これがカナードの闇の正体か。そう思う一夏達は次第に身構えつつ、カナードと簪を囲む。
カナードの深層心理には誰かに存在を拒まれる恐怖心が少なからず存在していた。夏休みのあの日、楯無と会話したあの日、カナードは簪にこの時の自分と同じ目に合わせたくない思いであった。その元にカナードは生徒会長でもある楯無に強く出たのだ。シャルロットの時もそう。やはり自分と同じ目に遭いたくないカナードが彼女を今の居場所を見つけ出した。
次は彼女達がカナードを救う番だ。
「戻ってきてよカナード。 君は僕に居場所を見いだせてくれたんだ! まだ僕はその恩を返し切れてないんだ! だから帰ろうよ、カナード!」
『…シャルロット……』
「貴方は私を…楯無の妹としてじゃなく……更式簪としての私と接してくれた! この空間にいて解る。 前世で存在を蔑ろにされた貴方を救う! カナード、私は貴方が……貴方が必要なの!」
『か……ん…ざし…』
その瞬間、総てが終わった。
◇
目を開けると、見慣れた部屋の中。そこにカナードはいた。
実家の部屋のベッドの上で、カナードは目を覚ました。棚には今まで趣味程度に作った素組のガンプラの数々、テレビには複数台のテレビゲーム機がセッティングされているいつものカナードの部屋。
その中に、今カナードの側で、彼が愛している大切な人がいた。
内側に癖の着いた蒼く伸びた髪。更式簪はカナードの部屋にあった読んでいた漫画本から視線をカナードに移す。
「良かった。 目が覚めて」
「あぁ、わりぃな心配かけちまってよ。 見ちまったんならよ信じるかい? 俺の前世ってのをよ」
「…前世が何だろうと、カナードはカナード。 今を生きる貴方は大和カナードであって、それ以上でもそれ以下でもないわ」
そう言って微笑む簪に、カナードは微笑み返す。その時、部屋のドアを誰かがノックする。部屋の主が招き入れたのは父のユーレンだ。入って来るなり、ユーレンは目覚めた息子の顔を見るなり、しかめた顔を柔らめた。
「…無事で良かった」
「あはは…、ごめん父さん」
「アホ、子は親に迷惑かけてなんぼだ。 ま、程々なのが良いが……無事で何よりだ。 話は一夏君達から聞いていたが…カナード、お前はお前だ。 父さんの自慢の息子だ、私達大和の夫婦にとって大切な宝だ!」
乱暴にカナードの頭を撫でながらユーレンはそう言った。
父のその言葉に、カナードは救われた感じがした。この世界は自分を必要としてくれる。ならば今自分がやるべきことはそれらの期待に応える事だ。この世界に転生して、改めて喜びを感じたカナードは、輝かしい笑顔をしていた。
◇
カナードが目覚めたのと時同じくして、春十はスコールと共に某国某所の研究所にいた。二人の目の前には液体の詰まったカプセルがあり、その中には呼吸器を付けたマドカが使っていた。春十はディスプレイの細かな数値の変動を見逃さず、隣に立つ部下に声を掛ける。
「…キャノンボール・ファストの件だが、お前にしては珍しい負傷だな。 ワザとか?」
「いえ、更識家現当主の腕を正直なめた結果ですわ」
「侮るなよ?
「次こそは必ず」
「今度こそは全力でやれ」
「承知いたしました」
頭を下げたスコールはその場から去り、残った春十はコンソールパネルを操作する。
数値を上げ下げしてマドカのパラメータを調節する。ビットの大量操作の秘訣の一つだ。
「……経過は上々だな」
口角を吊り上げ、一人で小さく狂った笑いを上げる。
「まったく、今日の今日まで運がいい。 待っていろ一夏ぁっ! 千冬ぅっ! そして……
小さく狂った笑いは次第に大きくなり、彼しかいない部屋に木霊する。その顔はカプセルの中のマドカの目にも映っていた。
あれが……父親と言う人間なのか。
カプセルの中に届かないはずの春十の笑い声が、マドカ自身聞こえる気がしてきたのだった。
続く
謎がまだ残るまま終わりました十三話。
カナードの挨拶は次回になります。
物語は9巻辺に入ると思いますが、カナードの原作知識が『アニメ一期と二期』『原作八巻まで』なのと、自分自身まだ9巻を読んでいないのでそのままオリジナル展開となりますご了承ください。
それではまた次回をお楽しみに
感想お待ちしております。