インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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皆さまお久しぶりです15話京都旅行回とカナード乗り換えの回です

因みに、サブタイの訳は後書きにて


十五話 Sword Alight

 

 たった今明かされた衝撃の真実とやらを知ってしまった一夏と、箒達は今も尚唖然としており、それとは打って変わりカナードと千冬に束そしてラウラだけは目の前にいる壮年の男…織斑春十を見据えつつ一夏の盾のかわりとなり、その男の魔の手を防いでいた。

 それを見た春十は、やれやれと言わんばかりに後ろで構えていたスコールに指示を出す。

 

「…交渉は決裂……か、ならば仕方ない。 スコール、やれ」

 

「はっ!」

 

 待機していたスコールが、春十の指示の下、ゴールデン・ドーンを展開しダブルオーに接近。しかし直前にストライクを展開したカナードが、シールドを掲げて突撃して無理に軌道を変えさせた。

 軌道を無理やり変えられたスコールはオータムとМを呼び出す。亡国機業(やつら)の目的は『ダブルオー』にある。それに気が付いたラウラと楯無が展開、それと同時に現れたオータムやМの対処に入った。それに続き、一夏達もISを展開。それぞれの援護に入る中、束と千冬がダブルオーを待機状態にして脱出を図る。

 

「逃げるつもりかい千冬。 大人しくダブルオーをこちらに渡すんだ」

 

「残念だが、今の貴方の言う事は聞く事は出来ない。 思えば貴方は…、貴方はあの頃から変わっていない! 束っ!」

 

「あいあいさー、もうダブルオーの収容は終わってるよー!」

 

「М、候補生はオータムに任せてお前は篠ノ之束を追え」

 

「了解した!」

 

 春十の指示を受けたМはビットを大量展開し、シャルロット、ラウラ、セシリアを振り切って束に突撃。束と千冬をビットで強引に引き離し、自分に有利になるようにМはフィールドを作る。相手はISの生みの親とはいえ生身、しかもダブルオーともども捕まえることが出来れば、自分自身の価値も力も気に入らない連中全てに知らしめることが出来る。少なくともМはそう思い込んでいた。

 非情な現実は、唐突にМに訪れた。

 ダブルオーと束へと伸ばされたМの腕が、サイレントゼフィルスの腕が寸断(・・)されていたのだ。

 ハイパーセンサーを用いてもはっきりとしかわからなかったが、一瞬、ただほんの一瞬だけだったのだが、青いブレードが横切ったのだ。それはサイレントゼフィルスの腕を切り裂き、地に突き刺さって刀身にオイルを滴らせていたシュベルトゲベール。

 

「な、なん……だ、と?!」

 

 その剣は間違いなくカナードの物。スコールの相手をしているはずだが、何故この様な事が起きたのだろうか。

 答えは、楯無にあった。

 彼女は一夏と箒にオータムを任せた事により、スコールと対峙していたカナードの援護に入り、その隙にストライカーをユニバースに変更したカナードが雪羅から放たれる荷電粒子砲を吸収し、それによる超スピードでシュベルトゲベールを呼び出して投擲したのだった。それは一瞬の出来事と言ってもいいだろう。それをカナード達はやってのけたのだから。

 

「ふむ、こうなっては仕方ないな。 三人とも、ここは退こう」

 

「あァ?! 何言ってんだ社長(ボス)、折角の獲物が目の前にいるってのに…!! ったくよぉ……」

 

 春十の突然の撤退命令に納得がいかない様子のオータム。しかしそこは社長命令な為か渋々従い、撤退していく。

 去り際に春十はスコールのゴールデン・ドーンに足をかけながら、織斑姉弟に父親として二人の方を見た。

 

「今日はこのくらいにしておく。 千冬、それに一夏。 今はまだ言えないが、いつの日か母さんを取り戻してマドカを入れた五人で共に暮らそう」

 

 そう言って、春十はスコールに発進の指示を出し、IS学園の空域から離脱していった。

 侵入者の撃退が完了した今、カナードはストライクを待機状態にしてふとある事を疑問に思った。何故教員部隊が来なかったのだろうと。そして、後に原因は学園のセンサーが正常に作動していなかったため、スコールら侵入者に反応しなかった。原因だったこれをカナードが知るのは、もう少し後の事。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。一週間後に京都旅行がある事をホームルームで聞いたカナードはパソコンのモニターに映る事に、忌々しげに舌を打った。

 今日で確信してしまった。ストライクが限界を迎えてきたのだ。

 

「(…フリーダムの完成を早めにゃなんねぇな。 今日の今日で無理したのが原因かねぇ…)仕方ねぇな、オーバーホールに回して時間を稼ぐしかない」

 

 キィを打ちながらそう呟いたカナードは、同室の一夏が戻ってきたことに気が付いた。

 声を掛けようと思ったが、カナードはそれを躊躇った。

 物心つく前に別れた父との再会、自分がISを扱える訳、白式のコアの秘密。衝撃的事実の連発だったからか、心なしか一夏の目が死んだ魚のそれの様な感じになっていた。今の彼にどう対処しても追い打ちをかけるに等しいと感じたカナードは、そっと静かに部屋を出て食堂へと歩き出した。空腹なのと、今はそっとしておきたいと言う理由から来ている。

 食堂に到着して、視界の端で女子生徒たちの人だかりが出来ているのが見えたカナードは、少々行儀悪いと自嘲しつつも耳を傾ける。やはり噂話というものはどう言う訳か無性に聞きたくなるものだ。

 

「……で……けどね…」

 

「えーっ?!」

 

「それどこじょうほーぅ?! マジでそれどこじょうほーぅ?!!」

 

 聞く限りでは意外性の高い話題のようで、その盛り上がり様はカナードの存在には気が付いていない。

 取り敢えず深入りしない事にしたカナードはから揚げ定食を注文して窓際のボックス席に腰を下ろす。

 から揚げを咀嚼するなか、彼は純粋にその味を楽しむ事は出来なかった。ほんのりと生姜のアクセントが効いている筈なのに、どうにも……。

 そうして既に完食していたことに気が付いたカナードは、未だに暗い表情のまま食器をカウンターに戻し、一度部屋へ向かおうとした瞬間、先程まで集まっていた女子生徒達がどっとカナードに押し寄せてきた。何事かと戸惑う彼に女子生徒の一人が口火を切る。

 

「ねぇねぇ大和君! 織斑先生がお見合いするって本当?!」

 

「篠ノ之博士と新型のISを作ってるって言うのも?!!」

 

 口々に女子生徒たちの口から出ることに困惑し始めたカナードは、一体どこからそんな情報が漏れだしたのかと気になり始めた。兎に角のらりくらりで受け流すしかないと決めていたが、如何せん十代女子の好奇心や詰め寄りは思っていたより強く、精神年齢アラフォーのカナードは参るばかりだ。

 この状況をどう切り抜けるべきか考えているカナードだったが、幸いにもセシリアとラウラが食堂に現れ、女子生徒たちの波から解放された。

 深いため息を漏らし、恩人二人に対してカナードは礼を述べると同時に、何処から情報が漏れだしたのか気になり始めた。同じようにセシリアとラウラも気になり始め考えていたところ、寮の方へと向かう通路の壁に誰かが隠れたのに気が付く。

 気配を殺しながらラウラが近づくと、そこにいたのは二年生の黛薫子である。

 そういえば彼女は新聞部だった、とカナードは思い出すと同時に一つの仮説を見出していた。

 

「黛さん、不躾な質問を失礼します。 情報を漏らしたのは、貴女で間違いないでしょうか?」

 

「…………な、なんにょことかなぁ~?」

 

 そういう彼女の目は真っ直ぐ前を向いてはいたが、額に少量ではあるが冷や汗が流れていた。

 三人は薫子を囲み、無言で睨みつけていた。

 

「…………はい、そうです。 私が漏らしましたその特ダネ」

 

 この瞬間、彼女は堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 それから少しした生徒会室。

 漏えいした薫子を中心とし、楯無とカナードそして千冬といった面々がソファーに腰を下ろしていた。

 問題なのは千冬の見合い話ではなく、『ダブルオー』についてだ。これは仮とは言え第五世代相当のスペック、及び開発には篠ノ之束が関わっていると言う事で、特ダネと言う理由だけで生徒たちにその情報を流すと言うのは本来ならあってはならない事だ。が、薫子が見たのはアリーナで『ダブルオー』を披露する束がカナード達の面々に見せ付けた所だ。話を聞いていく内に、彼女の中で何かが暴走して今回のような事態が起きたのだと言う。

 その後の亡国機業襲来の時には既にアリーナを出ていたようで、織斑姉弟の父親の事は知らないようだ。

 見合い話の件については、千冬とカナードが話し合っているところをたまたま偶然耳に入れてしまったとの事。これについては仕方がないので、その点については不問。しかし、事を大きくする前に釘をさす事でこの場はお開きとなった。

 これ以上話が大事にならない事を祈りつつ、カナード達も解散。それぞれ自室への帰路についていた。

 そうして部屋に戻ったカナードは、ノートパソコンを立ち上げ設計途中のフリーダムの作業に入る。とは言っても残るマルチロックシステムだけが唯一難点であった。自作するにもあまりにも時間が掛かるし、その上理論すらカナードは把握していない。一度たりともそのシステムの設計に携わっていないのだから仕方がないと言えば仕方がないのだろう。

 手元には携帯電話。アドレス帳を開いて簪の名前を見つけ出す。

 今ここで彼女にコールしてマルチロックシステムに関する事を聞き出す事は容易だ。が、カナード自身それを拒んでいる。簪を、彼女を良いように利用してしまうのではないかと危惧していたのだ。

 

「さーてと、どぅすっかなぁ……」

 

 結局、諦めて電源を切ってその日はもう寝る事にした。

 ここ最近ヘタレ気味になっていくことに、カナード自身痛感していた。

 

 

 

 

 翌日の放課後、簪と二人で整備室でお互いのISの整備をしていたカナードは、気難しい表情でマルチロックシステムについて簪に話を切り出した。システムの作成自体は出来ないことは無いのだが、簪の打鉄弐式にそれが採用されているため、それをカナード自身が躊躇っている事。それを聞いた簪は、一度鳩が豆鉄砲を食ったような表情を取ったかと思えば、不意に笑い出した。

 

「……そんなに…おかしい事か? 俺としてはすんごい悩みなんすけど…」

 

「あはは……ごめん。 でも大丈夫だよ、打鉄弐式(あの子)のマルチロックシステムは殆ど私が作った様なものだから、カナードが自分のシステム作っちゃ駄目な道理はないんだよ」

 

 それはカナードにとって意外な回答で、いつの間にかそれを望んでいた。

 

「確かに開発には倉持技研が関わってるけどね、データとかは私オリジナルなの」

 

「あ、そうなんすか。 えーと……じ、じゃあ…簪が良ければよ、……その…構築とか手伝ってくれねぇかな? 機体(フリーダム)そのものは出来てるっちゃできてんだけど…その……プログラム関連で少し参考にしたいし」

 

「うん、喜んで!」

 

 その後二人は整備室を後にカナードの自室へ向かうのだが、道中に二人の姿を見たその他の女子生徒達からは吐血ならぬ吐糖症状を発症したそうだ。その他にも、未だにパートナーがいない女子生徒たちからは血の涙が流れ出ていたそうな。

 

 

 

 

 時間は経って、カナード達一年の京都旅行の日。移動中の最新式リニアの中でカナードは睡魔に負け、静かに寝息を立てていた。隣に座る一夏は、先日の塞がりようが嘘のようにいつもの明るさを取り戻していた。が、彼をよく知る専用機持ち達からは、取り戻している"様"にしか見えなかった。その一夏を見ていた箒は、困惑した表情で顔を俯かせていた。それは幼馴染としての感情なのか、または恋人としての感情なのか、当の箒本人にも分からない。

 そもそも、父親が自分を誘拐した組織のトップで、母親がISの…それも自分の専用機のコアに取り込まれていて、その恩恵で操縦できるなど、誰が想像できただろう。否、そんなことは誰も想像できないはずだ。誰しもその様な体験は出来もしないし、起きもしない。

 やがてリニアは目的に到着。同時にカナードの目も覚め、揃ってリニアからぞくぞく降りていく。

 秋も深まりつつある京都は、筆舌しがたい程の絶景であった。

 まずはここからバスに乗り換えてから旅館に向かう。到着した先で先に送っていた荷物を受け取るのだが、必要最低限の荷物だけの一夏とカナードとは違い、その他の女子生徒たちの荷物が異様に多い。

 

「……二泊三日じゃなかったのか? 何泊する気だよ」

 

 ふと、異様に大きくその他の女子生徒たちの物よりも目立つ黄色い箱がカナードの視界に入る。これが何か感づいたカナードは、同じものを感じた簪と共にゆっくりと蓋を開ける。

 

「やっは…ってちょ、二人ともなっ…!」

 

 中から現れた一人の少女。その正体を知った二人は即座に、問答無用に蓋を閉め、更にガムテープとどこで販売しているのか分からない怪しい札で念入りに封をして運送トラックのコンテナに紛れ込ませコンテナの扉を閉める。到着して早々にある意味面倒な人物に巡り会ってしまったカナードと簪はどっと疲労感に襲われた。

 漸く落ち着いたカナードはふと、生前の世界を思い出していた。前世で一度中学の修学旅行で訪れた事があり、その趣のある風景や落ち着いた空気をとても気に入っている。

 初日の今日はホテルから自由行動。さっそくカナードは簪を見つけて行動を共にする……のだが、オプションなのか分からないが、どう言う訳か本音まで一緒に行動する事になった。ホテルの柱の物陰に、更識楯無が不敵な笑みで隠れていたのを千冬以外誰も知らぬまま。

 

「…野暮な質問で悪ぃんだけどさぁ、何で谷本とか相川辺りと回んないの?」

 

「ん~、何かねぇかんちゃんとかなかなのカメラ役を任されたのだ~」

 

「一夏じゃねぇんかよ! てか何で俺ら?」

 

「おりむーと、おしのさんのばっくが怖い」

 

「でぇすよねぇー…」

 

 改めて織斑千冬と篠ノ之束の脅威を思い知ったカナード。確かに下手に一夏と箒を茶化し過ぎると、後で二人の姉が怖い事になると誰もが予測は出来る。

 だからこそのカナードと簪なのだろう。だとしても楯無生徒会長の場合でも同じなのかもしれない。

 

「因みにお嬢様からもお目付けを任されたのだ~」

 

「…………もう好きにしてくだせぇや」

 

 もうこの事に関して考えることをやめたカナードは、やはり同じ心境である簪と共に本音を受け入れる。

 その後は北野天満宮や金閣寺を訪れたり、舞妓の衣装を簪が着てカナードと本音が鼻血を流したり、記念写真を撮ったりと充分京都旅行を満喫していく。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、清水寺の一角にてふとカナードはある違和感を感じ取る。それが何かを知っている彼は、簪と本音に先に行くように言って少し外れに足を向ける。奥に進むと日の光が少なくなっていき、同時に肌に突き刺すような異様な空気をカナードはその身で感じ取る。いつか体感したこの空気に見覚えがある。それでいてスコールとも、Мとも違うナニか。

 ここ最近やけに殺気を読み取れるようになって、やや胃痛気味のカナードはその方向に目を遣った。

 

「誰なんです、こんなところに誘導させておいて」

 

 柱の影が盛り上がったかと思えば、それは人影で、一人の女性だった。荒々しさをその顔に秘めた人物…オータム。彼女は目に見えて分かるように狂った笑みを浮かべてISアラクネーを展開する。

 ちらりと見えた彼女の目。猛禽類を思わせるほどの鋭さと、理性さを感じさせない程の狂気さ。その二つを秘め、アラクネーから見下ろす彼女はいまやカナードを捕食せんとする獣。対するカナードは左腕に待機させた愛機に手をかけ、起動する。やや不調気味のカナードのISストライクではあるが、無いよりかはマシだ。

 右手のレーザーライフルを拡張領域内に収納し、エールストライカーからビームサーベルを引き抜くと、アラクネーの猛攻を捌いていく。

 

「くぅっ…(まだか……時間稼ぎになりゃいいんだけど…)」

 

 絶不調の愛機以上に目の前の相手が厄介この上極まりなく、それでも勝たなければならない。いくら相手が狂化されていようとも、信頼する友と、愛する彼女を守る為にもカナードは闘う。

 もう一方のビームサーベルの柄を握り締め、二刀流でアラクネーにダメもとで切りかかる。

 

「これで!」

 

「らぁっ!!」

 

 対するオータムも多脚を活かした蹴り技、両手に持ったナイフ状の武装を駆使し、カナードに対してIS操縦者としてのキャリアの差を見せつけていた。

 世代が違うとはいえ、機体の良し悪しがあるとはいえ、結局は腕の良し悪しで決まる。故に、カナードは蹂躙されていく。恐らくは薬物で強化されたのであろうスコールの猛攻に機体は悲鳴を上げ始め、絶対防御も働き始めてシールドエネルギーも消費されていく。

 防ぎきれない。

 捌ききれない。

 そして何よりも、彼女と合流できそうにない。

 ストライカーをソード、あるいはI.W.S.P.のどちらかに変更すれば少なからず勝率は上がるだろうが、換装する余裕は無く終始圧倒されていく。

 

「おらぁぁぁぁっ!!!!」

 

 そして、アラクネーの一撃が止めとなり、ストライクはコアを残して機体は崩壊。カナードは大破した機体から転げ落ちながらもどうにかコアをつかみ取る。

 勝利の雄たけびの如く叫びを上げるオータム。眼下で尚をコアを取られまいと警戒し続けるカナードなど眼中にないのか、それともまだ遊び足りないのかその場から飛翔して消えていった。

 運がいいのか悪いのか、残されたカナードは、襲い掛かる痛みに耐えながらも無理をして立ち上がる。しかし、先程の戦闘で蓄積されたダメージが襲う。痛みに負け倒れこみ、小さく呻きを漏らす。

 こんなところで寝ていられるか!

 そんな時、カナードの視界によく知ったロゴがプリントされている鉛色のコンテナと数人の男女が入った。それは、カナードの新たな剣の現出を意味していた。

 

 

 

 

 IS学園の生徒を乗せたリニア内部では、千冬が頭痛に悩まされていた。集合時間だと言うのに一夏は兎も角、真面目な部類に入るだろうカナードやセシリア、それと箒までもが集合時間を過ぎても姿を見せない。まだカナードは直前まで共に行動していた本音と簪に声を掛けていたとは言うが、どうも腑に落ちない。

 事前に『集合時間に遅れた場合は一度連絡を入れる』『出発時間に遅れた場合、その他交通機関を使用し次の目的地に行く』と言うこの二つは伝えているので、過度に心配する必要はない……のだが、やはり嫌な予感しかしないのだ。

 これ以上待っていても時間に余裕も無いのでリニアの扉は閉まり、静かに動くとやがては速度を上げ走り出す。その後は安定な速度を一定に保ち走行するはずなのだが、どう言う訳かリニアは急に速度を上げ、暴走状態になってしまった。

 各駅停車であるはずのリニアは停止することなく暴走。体中に掛かるGに耐えながらも千冬は先頭車両運転席を確認する。しかし、そこには誰もおらず無人。では誰がこのような事態を引き起こしたのだろうか。心当たりはただ一つ、亡国機業だけである。

 現状、リニアは弾道ミサイルと何ら変わらない危険な代物と言ってもいいだろう。その上棺桶とも変わりない。

 パニック状態の生徒達の中で、簪が待機状態の打鉄弐式を繋いだ端末と運転席のコンソールパネルを繋ぐ。そこから奥深くのプログラムに侵入。自動運転機能だったのを手動操作に切り返し、ブレーキと思われるレバーを思いっきり引いた。そして漸く止まったリニア。慣性の法則からか、他の生徒たちは進行方向側へと投げ飛ばされてしまったがそれ程ひどいけがをしている人物は誰一人としていなかった。

 状況確認の為、千冬と真耶が生徒一人一人の確認をしていると車内スピーカーから動画投稿サイトなどでよく聞く音声ソフトでのアナウンスが流れだした。

 

<初めまして、IS学園の諸君。 暴走車両の停止にまずは称賛の言葉を贈りましょう。 ですが、ゲームは始まったばかりです>

 

「ゲーム……だと? ふざけているのか?!」

 

 千冬が言った。あまりにも人命を軽んじているような言葉に憤り、奥歯を噛みしめる。

 

<ゲームと言うのは、このリニアに設置されている時限爆弾の探索と解除を制限時間内に行う事。 開始はこのメッセージが終わるころ、制限時間はそれから5分。 それでは、ゲーム開始5秒前。 5……4……3……2……1……Game Start>

 

 アナウンスが止むと、社内のモニターがカウントダウンを映し始めた。それにより一部女子生徒たちは半狂乱に陥り、ある者は泣き喚き、ある者は気を失い、またある者は過呼吸に陥っていた。そんな女子生徒達を真耶に任せた千冬は、鈴音、簪、ラウラ、シャルロットに指示を出す。

 簪はリニアに設置された時限爆弾を端末を使用して捜索。ラウラは発見次第回収及び解除、もしくは解除が間に合わず爆破しそうであればAICでそれを拘束。そして鈴音とシャルロットは千冬と共に真耶のアシストに入る事。それが彼女たちに課せられた任務だ。

 早速簪が停車した時と同じように運転席のコンソールを通し、車体スキャンシステムのプログラムを起動する。

 近年の科学技術はISの登場により実に進歩していた。その一つに車体スキャンシステムがある。車両点検時に主に使用されるプログラムで、これにより従来よりも車体の不具合が見つけやすくなっていった。まさかこの様な非常事態に、しかもIS学園の生徒に使用されるとは、開発者も元々の運転手も予想だに出来なかったであろう。

 残り時間3分を切った頃、3車両目の上部ユニット内部に爆弾が発見。そこからのラウラの行動は速かった。一番近くの窓ガラスを部分展開したシュヴァルツェア・レーゲンの右腕部で突き破り、そのまま外に飛び出て完全展開し3車両目の上部ユニットを開き、爆弾の解除作業に入る。現役軍人であるラウラからすれば、今回仕掛けられた爆弾は粗末な出来としか思えない。

 

「こちらラウラ。 爆弾の解除に成功」

 

『こちら簪。 了解、こちらでも解除を確認。 他のクラスの子は皆軽傷で済んだみたい』

 

「そうか(しかし妙だ……こんな粗末な爆弾…わざわざ解除してくれと言った物だ。 例えるなら爆破物処理班を呼び出すまでもない位だが……どういうことだ、何を考えているんだ亡国機業)」

 

 この事態に疑問を持ち始めるラウラだが、突如として耳をつんざく様なアラートが鳴る。

 識別信号はアラクネー。ハイパーセンサーやレーダーを頼りにラウラはそれが飛来してくる方向に視線を向ける。

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハっっ!!!!」

 

 会敵と同時に幾つもの足から来る蹴り技を喰らい、打ち所を悪くして大型レールカノンが使い物にならなくなってしまった。これでレーゲンに残された武装はプラズマ手刀とアンカーワイヤーのみである。それだけでもやるしかない、戦うしかない、とラウラは標的を確認して迎撃行動に出る。

 一方のアラクネー(オータム)。ラウラは知らないが、カナードを堕とした時と同じ武装であるナイフ状の武器。一般的にはククリと呼称されるネパールやインド等で戦闘の際に用いられる武器をオータムは両手に逆手に握っている。無論軍人であるラウラはククリナイフを知らない筈がない。しかし、だからと言って簡単に相手を撃退、又は撃破する事はできない。

 プラズマ手刀とククリナイフが何度もぶつかり合い、その度に甲高い金属音を打ち鳴らしていた。ある時は一定に、またある時は不規則に撃ち合っていたが、戦況はアラクネーに若干ではあるが軍配が上がっている。

 動きが読めない。ランダムな攻撃パターンにより、行動予測が先読みできないラウラは苦戦を強いられているのだ。

 

「くっ…(何と言う事だ……それにしても…以前より攻撃性が増しているだと…?!)」

 

 オータムの攻撃性の増した理由。ラウラはその理由を薬物投与による強化と推測する。以前部下であるクラリッサから身体能力が向上する代わりに精神が崩壊すると言う違法薬物が流通しているとの情報を、受けていた彼女は恐らくそれであろうと結論付ける。そしてそれは正解であった。

 薬物強化による身体能力及び操縦技術の向上により、現役軍人であるラウラを押しているスコールは尚も攻撃の手を緩めはしない。今の彼女が満足する事は、目の前の敵を殲滅するだけだ。

 

 

 

 

 清水の舞台から愛用のカメラを落としてしまい下まで取りに行った一夏と、それが心配になった箒とセシリア達は落としたカメラではなくとんでもないモノと遭遇してしまった。

 蒼い装甲を纏い、それを中心として揺れる花弁のように浮遊する複数のビット。サイレントゼフィルスが、聖書等に登場する天使のように、または唐突な死を宣告する冥界の悪魔のように一夏達の前に降り立った。元はイギリスが所有するISで、セシリアの愛機であるブルー・ティアーズの姉妹機とされている。それが今では目の前に、しかも亡国機業所属のМが纏っているのだ。

 そのМはカナードによって寸断された部位を白式の雪羅にも似通った武装に変わっていた。恐らくスペアパーツが無いのか、はたまた戦力増強の為かは定かではない。

 

「………やるしかないのか。 やるしかないのかよッ!」

 

 白式を展開。雪片弐型を構え、そのままサイレントゼフィルスに突っ込んでいく。

 いつに無い過ぎた一夏の無鉄砲、それに戸惑いつつ箒とセシリアも愛機を展開し援護に入る。

 一夏がこうなってしまったのは、父である春十の存在が大きい。

 何故自分達姉弟を置き去りにしたのか、何故Мを、マドカに駒のようにこんなことをさせるのか。

 しかしそれは目の前のサイレントゼフィルスを倒さない限り、直接聞きださない限り、確かめる方法はない。

 だから一夏は雪片を振るう。

 

「雑魚が、何度来ても同じだ。 お前が……お前がいなくなればァァァァッ!!!」

 

 怒号と共に花弁が舞う。サイレントゼフィルスのビットだ。それぞれが独立した意志を持っているかのようにМの指示を受け付け一夏達を襲う。対抗すべく、セシリアも入学当時から上達したビット射撃を繰り出すが、やはりサイレントゼフィルスには掠りもしない。

 雪羅のクロー攻撃も、雨月の弾道も斬撃も、ミサイルビットでさえも掠りはしない。

 

「織斑一夏、貴様さえ……貴様さえいなくなればァッ!」

 

「誰がッ! イエスって! 言うかよ! 俺は知りたいんだ、父さんの事、母さんの事!!」

 

「一夏落ち着け、前に出過ぎだ!!」

 

 諭す箒の声もむなしく、隠された真相に突き動かされている一夏。

 その時、何かが、何かが割れる様な音が一夏達の耳に入り、一斉にその方へと目を向けた。

 モノレールの車両先頭にそれはあった。翼を広げ、神々しさを秘めた輝きを見せていた。

 白い四肢、青い八枚の翼。そして関節部分からは眩い金色の輝きが見えていた。

 

 

 

 

 突然だが、まず話を逆行する事を赦してほしい。

 サイレントゼフィルスが一夏達と邂逅する少し前に、カナードは「こんなこともあろうかと!」とフリーダムが格納されてあるトレーラーの助手席から豪語するシャルロットの義父である窓木小次郎と、彼の部下たちと遭遇。実は事前にこうなる事を予測していたカナード自身が仕組んだことだった。名目上では旅行先で最終チェックに入る事で、生徒会長及び千冬からも事前に許可も取っており、前世記憶を余すことなく思い出した結果がこれだ。

 駆け寄って来た小次郎は大破したストライクを見て事情を察し、コンテナの扉を開ける。中に入ると、そこには天使の様な鎧がそこにあった。

 ストライクに次ぐ新たなIS。

 即座にカナードはストライクのコアをフリーダムに繋げ、同調作業に即座に入る。ISのコアと言う物は違うISにインストールする場合、コア自身が拒否反応を出す事があると言う。仮にその反応が出なくても、インストール作業から初起動まで早くても十時間以上かかる事もあると言う。しかしそれでもカナードはキィを一心不乱に叩き続け、小次郎達もそれに続く。

 難航に思われたコアの同調作業だったが、カナードがその身を預けた瞬間に身体が包まれた。

 

「何でこんなに……いや、考えても仕方ない。 出ます!」

 

「ま、待てカナード! まだフィッティングもパーソナライズも……それに細かな調整もまだなんだぞ!」

 

「なモン後でやりまさぁ!」

 

 小次郎の制止も振り切り虚空を切り裂くように飛び出した。

 急上昇した後に、瞬時にアラクネーの位置をフリーダムが算出。即座に位置が割れるとその方角に向け、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で空を駆ける。すると、一度の瞬時加速で一次移行(ファーストシフト)が行われ、畳まれていた青と黒の十枚の翼が広がり、灰色の機体に色が付く。二度目の瞬時加速で、奇跡が起きた。その軌跡は起きるべくして起きたのか、はたまた偶然なのかは分からない。

 ただ一つ。地表に取り残された小次郎達にはただ一つだけ分かる事があった。

 

「…愛故って奴か。 っかー、若いねぇカナード」

 

「そういう主任だってブリュンヒルデとお見合いするって言うじゃないですか」

 

「何で今そういう話題だすかなー………」

 

 それが一夏達が見た進化の輝きの顛末である。

 

 

 

 

 モノレールの運転席前で翼を広げ、両手にはレーザーライフルが握られており、ラウラを振り切りったアラクネーを見据えるはフリーダムに乗り換えた大和カナード。しかし、乗り換えたフリーダムは一次移行をすっ飛ばし二次移行を迎えていた。

 収束荷電粒子砲バラエーナが内包された十枚の翼は、ガンバレルストライカーの有線式ビットの発展型である八基のドラグーンと呼ばれる無線式のビットが装備された八枚の翼に、三つ折りだったクスィフィアスが二つ折りに小型化し、一丁だったレーザーライフルも形状が変わり二丁に変化し、腹部には装甲と砲門が、そしてコーティングシールドも無くなり代わりとして前腕部にビームシールド発生装置が追加されていた。

 運転席にいた簪は以前カナードから見せてもらった図面に記されていたのとは違う、目の前のカナードの纏うフリーダムに目を奪われていた。

 ドアの開錠作業中にラウラから振り切ったアラクネーに運転席を狙われたかと思えば、投擲したククリナイフをレーザーライフルで撃ち落として現れたカナードに、簪は改めて惚れ直していた。

 

「簪を……、殺すってんなら……俺が全力で貴女を撃つ!!」

 

「ひぃぃぃひゃははははははは!!」

 

 再度対決するカナード。リベンジも兼ね、フリーダム第二形態ストライクフリーダムの調子を確かめる。

 接近して持っていたレーザーライフルの持ち方を変え、トンファーの様に拳銃で言う撃鉄に当たる部位をぶつける。ライフルをトンファー代わりにする相手に戸惑いを見せたオータム。薬物強化されているとはいえ、本能的にそう感じた。

 

「はーははははは!!!」

 

 サブレッグも交えた攻撃はクスィフィアスによって殆ど破壊され、残る武装は学園祭で使用した奥の手。しかし自我が保てていない今のオータムでは発動できないが、事前に誰かがこの事態を予測していたのか、オートでその奥の手が作動する。

 本能的に動くオータムはすぐにその場を離脱。一夏達の相手をしていたМが舌を打って回収していった。

 どうにか敵を退けたカナード達。が、安心はまだできない。誰よりも先にカナードが奥の手として切り離され時限爆弾となったアラクネーの下部ユニットを持ち上げる。

 

「皆、こいつを空中で爆発させる! 手伝ってくれ!」

 

「カナード……ああ、やろう!!」

 

 一夏に続き、箒、鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラそして簪もそれぞれ下部ユニットを持ち上げ、飛翔。そして辺りに何もない場所まで移動すると、タイミングを合わせて放り上げた。

 爆発までの限界時間(タイムリミット)が迫る前に、紅椿の穿千、ブルー・ティアーズのビット射撃、甲龍の衝撃砲、シュヴァルツェア・レーゲンとストライクEのレールカノン、そして白式の雪羅、打鉄二式の春雷、ストライクフリーダムのカリドゥスが一斉に吐き出され押し上げた。

 

「いっけええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 そしてカウントが、ゼロを迎えた。

 

 

 

 

 その後、カナード達は旅館に無事到着。

 爆発物となったアラクネーのユニットはどうにか高高度での爆破に成功。なぜこの様な作戦かと問われたカナードが、「頭がいっぱいいっぱいだったからこれしか考えられなかった」との事。しかし、どんな理由であれ勝手な単独行動のペナルティとしてカナードには学園に帰り次第反省文の提出を千冬から言い渡された。

 今カナードは旅館の割り当てられた部屋にて、起動して間もなく二次移行を迎えたフリーダム(もとい)ストライクフリーダムの報告書をまとめていた。纏めていく内に、カナードはある仮説を立てた。

 この急速な二次移行の原因はコアにあると言う事。

 もともとストライクの物だったコア。これまでの模擬戦訓練や戦闘において積まれた経験値が移植されたのを機にこうなったのではないかと推測。現にこの京都旅行の前までのストライクの反応速度が鈍かったのは、二次移行前の予兆で、蝶で例えると(さなぎ)かそれになる直前の幼虫と言えよう。

 兎に角納得して報告書を纏め終え、データを保存し今度は反省文の制作に取り掛かる。

 その時、誰かが訪ねて来たのか襖を叩く音がした。一夏は先程温泉に向かって行ったし、同室(みはり)の千冬は真耶と別室で会議なので真耶を含めたその三人ではないと推測。ドアを開ける。

 

「やっはろー」

 

「え、会長?!」

 

「えー、そこは義姉さんでしょう?」

 

「兎に角何なんですか貴女は。 確か簪と一緒に封をしたはずなんですが……」

 

「ま、そんな細かい所は置いといて、ちょっとおねーさんとお話ししましょ。 や、そんな身構えないでよ……流石の私でも妹の彼氏寝取る趣味なんてないわ」

 

「だといいんですけど…」

 

 このまま入り口に立たせたままではあらぬ誤解も生まれるので、カナードは渋々来客である楯無を迎え入れた。

 部屋に入るなり早速自室の様に寛ぐ楯無。それに対し、頭を抱え対面するように座るカナード。

 

「で、何しに来たんです?」

 

「簪ちゃんのどこが好きになったのかを聞きに来たんだけど」

 

「はいぃっ?!!」

 

「実際問題さ、男の子っておっぱい大きい娘とか大好きでしょ? 私の方がおっぱい大きいわよ!」

 

 何処か偏見とネタが混じりこんだ楯無に、カナードは呆れてしまい終いには蹴りだすように追い出した。

 やはり楯無の相手は付かれる、と二学期に入ってから何度も感じる何とも言えない疲労感。彼女の妹である簪はこれに慣れてるのかと思うと、心底尊敬しつつ今度何かしてあげようと思うカナードであった。

 反省文の作業に戻ろうとした時、また誰かが扉を叩く。

 また楯無かと思いつつゆっくりと扉を開ける。

 

「入っても……いいかな?」

 

 今度は簪だった。温泉から上がったばかりなのか、何処か色っぽく感じてしまいカナードは急に顔を赤くする。楯無の後なので安心感すらも感じられた。

 

「あ、ああ。 まー、うん、入りなよ」

 

 ぎこちなく簪を招き入れたカナードは、楯無の時とは違い部屋に備え付けられた緑茶を自分と簪の分を煎れて差し出した。

 

「あー、その、温泉入って来たんだろ? 何か湯気見えてるし」

 

「う、うん。 箒達と一緒に。 でも、入る直前に女湯から一夏が出たときは凄い驚いた……」

 

「あー、あれじゃね? 入浴しているのに気づかなかった仲居さんが暖簾入れ替えたとか」

 

 実のところそれは正解であった。アニメ二期最終回の記憶を引き出した結果だ。むしろ、原作時よりまだマシになっていた事にカナードは心底安心していた。

 

「(俺だってまだ簪の裸見てねぇのに一夏に見られたりしちゃあ………場合によっちゃ奴をムッコロスしかねえ)多分そういうのじゃねぇか?」

 

「多分そうかも。 それにしても……今日は助けてくれてありがとう」

 

「当然だろ。 むしろあんときゃリベンジしたかったし……」

 

――何より……

 

 座椅子から立ち上がったカナードは、簪に近づき両手で彼女を優しく包み込むように抱いた。

 突然の出来事だった。カナードは「やっちまったー!!」と内心絶叫し、簪に至っては目を点にしてフリーズしてしまっていた。しかし、それでも言いたいことは言おう、伝えたいことは伝えようとカナードは簪と目を合わせる。しっとりと濡れていた蒼く長い髪、頬はほんのりと紅潮し、眼鏡型(度なし)ディスプレイの奥に見える澄んだ瞳。どれもこれもカナードにとっては愛おしい簪の魅力だ。

 だからこそ、言えるうちにカナードは言葉を紡ぐ。

 

「何よりも、大好きな簪を守りたい。 誰よりも、何よりも……」

 

 そのままカナードは目を瞑り、簪も受け入れるように同じく目を瞑ると二人は静かに距離を詰めていく。

 やがてその影が重なる前に、扉が開く音と共に一夏と千冬の声が聞こえてきた。特に千冬の声が聞こえると同時に二人は押し入れの中に避難。やり過ごそうと息を殺して身を潜めていたのだが、そこは鬼教官織斑千冬。一足多い館内用のスリッパ、書き掛けの反省文に仄かに香る石鹸の香り。それらの少ないヒントから、千冬は何のためらいも無く押し入れを勢いよく開く。

 

「……何をしている、大和に更識妹」

 

「な、何をって……」

 

「……アクエリオンロゴスごっこ」

 

 そこにいたのは浴衣姿と言えど、アクエリオンロゴス一話の灰吹と月銀のハートの人文字の体勢を取ったカナードと簪であった。

 その後、二人には追加の反省文と織斑流ドイツ式IS教練メニューの強制参加要請が言い渡された。

 

 

 

続く




サブタイの訳は舞い降りる剣でした

しかし、長らくお待たせしてしまいました事を深くお詫び申し上げます

これからも私の作品の応援よろしくお願いいたします

ご感想その他もろもろお待ちしております
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