インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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久々の投稿お待たせいたしました!

内容的にもネタ的にも平常運行と言う事をお伝えいたします

第一部である一年生編は予定としては十九話までとし、その後にカナードのキャラ設定とちょっとした短編集を上げるつもりです


十六話 無限の鼓動と八咫烏の産声

 

 季節の移り変わりが目に見える程に見え始めたIS学園では京都旅行の後、ハロウィンパーティーが有志により開催。

 カナードがシェルブリットに、一夏がナンバーズハンターに、箒がセーラー服姿で片手には『マネジメント』と言う本を持ち、シャルロットが季節外れの純白のワンピースに麦わら帽姿でしきりに「とぅっとぅるー」と口にしたり、ラウラが何処かの調査兵団の服を着たり、千冬が髪をポニーテールにしたかと思えば服装は暗色のタンクトップにホットパンツで二丁拳銃と言う出で立ちをしていた。本来のハロウィンとは違うのではないかと些か疑問に思う鈴音とセシリアをよそに、簪もカナードに合わせた仮装にすべきかを悩んでいた。

 そうして有志だったためか不埒な闖入者は現れず、平和に行事を終えることが出来た。

 翌十一月に入ると、カナードは目に見えて忙しく授業が終われば生徒会室に直行する事が多くなった。理由を知るとするならば生徒会に席を置く簪や本音、更に彼女たちの姉である楯無や虚だけであろう。ただカナードの同僚のシャルロットだけは知らされていなかった。

 

「あ、もしかしたら…あれ……かなぁ?」

 

 ふと、シャルロットには何か思い当たる節があるらしく、そう呟いた。時は昼休み、食堂にて本日の日替わりランチ(メンチカツ)に箸を突っつき、かき揚げ蕎麦のかき揚げを頬張るラウラがその呟きを拾った。

 

「何か心当たりでもあるのか?」

 

「あー、でも……食堂(こ こ)じゃ言えないし……」

 

「何っ、シャルロット…まさか…………猥談か?」

 

「そ、そんな訳ないよ! でもね、ここで話せないのは本当だよ」

 

「となると後は何が……ああ、そうだなそういえばそうだ」

 

 どうやらラウラも心当たりがあるのか、シャルロットの考えている事を察し、そして自身も納得した。

 

 

 

 

 その日の放課後、講堂に集められた生徒達。しかし集められたのは全生徒のうち、ある共通点を持つ女子生徒達だった。そんな彼女たちを、楯無だけでなくカナードら一年の専用機持ち達が壇上の陰から覗き見ていた。これから始まる事に、一夏は恐る恐るカナードに問いかける。

 

「な、なぁカナード。 お前………本気…なのか?」

 

「何を言うかアホンダラ。 その為のこれだ、今更退けるかっつーの」

 

そうは言うカナードではあるが、こめかみには数滴の脂汗。それはこれから起きるカナードの運命を物語っている様にも思える。簪が心配そうに彼の脂汗をハンカチで拭う。二度三度の深呼吸の後、気を引き締めたカナードは楯無の後に続き、壇上に姿をさらす。

 会場にざわめきが走るなか、壇上のマイク越しに楯無の声が講堂内に響き渡る。

 

『皆、放課後のこの時間に突然集めだしてごめんなさい。 今日皆に集まってもらったのは、実は今私の後ろにいる大和君から皆にお知らせがあるの。 勿論、この学園の生徒としてじゃなくて大和生物機械技術研究所職員としてのお知らせよ。 みんなしっかりと聞いてちょうだい』

 

 楯無から合図が出され、カナードはそれに従いマイクの前に移動する。

 

『只今ご紹介に預かりました、大和生物機械技術研究所所属、一年一組大和カナードです。 本日皆様を集めましたのは、私が開発した新型IS……『ダブルオー』の搭乗者をこの学園にて募集を致します。 募集するにあたり、皆さんには入り口にて手渡されたかと思います資料の1ページ目をご覧ください』

 

 騒めきつつも女子生徒たちはそれぞれ1ページ目を開く。

 

『まず募集いたしますのは、皆さん国家・企業・団体に所属しておらず且つ専用機を受領していない生徒のみです』

 

 そのカナードの一言に、同じく資料に記されていたその一行に、生徒たちは騒めきだした。

 無理もない。IS学園の一年一組の生徒にしてカナードの製作した新型ISの搭乗者を、今この瞬間募ったのだから。それを聞いた女子生徒たちは更に騒めきだし、戸惑いの様子を見せる。彼女たちの反応が予想通りのカナードは懐からリモコンを取り出してボタンを押し、スクリーンを降ろし更に講堂内のカーテンが一斉に閉まっていく。

 闇に包まれた講堂内のスクリーンに映し出されたのは、カナードが設計した『ダブルオー』の設計図と完成した本体の画像データだった。

 

『これが、私が設計し篠ノ之博士(はくし)が開発したダブルオーです。 現時点での詳細なスペックデータを明かす事は出来ません。 出来ませんが、一次試験二次試験の過程で順次明かしていくつもりです。 そして、晴れて装着員になった方は私や窓木シャルロットと同じく大和生物機械技術研究所の所属となります。 続きましては――』

 

 

 

 

「あー…、しんど…」

 

「お疲れ様、カナード」

 

 『ダブルオー』のテストパイロットを募る演説の後、放課後の食堂にてカナードは力尽き、テーブルの上に頭を乗せていた。その真向かいでは簪が彼の頭を優しく撫で、労っていた。

 搭乗者募集の開始は一週間後に、締め切りはその日から一週間以内に決った。そこから書類選考や面接を経て、最終的には三人を候補として採用する予定だ。あまり多すぎても少なすぎても、計画に支障がきたす恐れもある。もしそうなってしまえば、再度人員の補充やら選定やらで時間も掛かり、最悪下手をすれば亡国機業の連中に『ダブルオー』が強奪されるかもしれない。それだけは避けるべきである。

 

「さてと、ヘロヘロタイムは5秒で充分。 面接の質問内容の作成するんだけど、簪って今大丈夫? もし良けりゃあ質問内容見てもらいたいんだ」

 

「いいよ、見せて」

 

 すっかり元の調子に戻り、質問内容の草案が詰まったメモ帳を懐から取り出して簪に見せた。

 受け取った簪は文面に目を走らせる。

 なるべく中立の立場から、相手に質問する事を前提に一つ一つ添削していく。

 

「……大体こんくらいかな。 ありがとう簪、貴重な意見ありがとう」

 

「どういたしまして。 所でカナードのフリーダムなんだけど、マルチロックシステムの調子はどう?」

 

「ん? あーんー、四苦八苦してるよ。 ここ最近は浮遊型のドローンとか一夏とかで練習してんだけど……」

 

 言って左腕に巻かれている蒼色のリストバンドを操作してフリーダムの戦闘ログデータを投影する。

 大破したストライクに代わり、カナードの左腕に巻かれているのは待機状態のフリーダムだ。

 映し出されている戦闘ログデータを要所要所見回す簪は、二度三度頷いてみせた。

 

「これ…マニュアルでやってるんだよね?」

 

「あ、はい……え、何かまずった?」

 

「そう言うんじゃなくて、慣れてないならオートでやってみたらどうかな?」

 

「オートで、……か。 ストライクの時、ガンバレルのテストの時セシリアからも言われたなぁ。 あん時は個数の問題だったけど…」

 

「いきなり慣れる人はそうそういないよ?」

 

「でぇすよねぇー…」

 

「あとそれからなんだけど……」

 

「お、おう…」

 

 

 

 

 同じ頃、某国のある研究施設。

 そこは数十年前のバイオテロによって封鎖され、月日が経った今でもよほどのことが無い限り立ち入りを禁じられている。かつては人の声で充満していた部屋や廊下に、その名残は残っていなかった。そして二度と、ここに以前の様な活気はもう戻ることは無い事を物語っていた。

 ――つい先日までは。

 地下数百メートルにあるフロアに『黒』はあった。ドーム状の装甲に数十本単位のケーブルが幾重にも繋がれており、それら全ては『黒』を見下ろせる位置にある幾数ものガラスの向こうと、見上げる位置に設置してある電子機器と繋がっている。『黒』の大きさは全長およそ八メートルを軽々と超え、ドーム状の装甲は半楕円形でありそれを支える鳥のそれに近い足が三脚伸びていた。その足元では何人もの作業員が走り回りつつ、作業を続けていた。

 そんな作業風景を見下ろしていた男がいる。織斑春十は一番高いガラス窓の向こう側にいた。

 

「大体は出来上がっているな。 進捗状況はどうなっている?」

 

「既に七割近く完成しております。 このまま続けば少なくとも四か月、早ければ一か月以内に完成します」

 

 春十の問いに開発主任らしきスキンヘッドの男が答える。

 

「ふむ………、遅すぎる。 半月以内にしろ貴様らなら可能な筈だ」

 

「は、半月ですか?! そんな無茶な………」

 

 男の顔にイヤな汗が流れる。現場の作業員達はここ数日徹夜での作業を強いられており、その上納期の繰り上げでもされてしまえば、作業効率も落ち、最悪体調不良を訴える作業員も出るだろう。

 しかし、それでも春十はそんな些細な事しったことかと口を開く。

 

「もう一度言う。 半月以内に仕上げろ」

 

「……承知いたしました」

 

 春十から滲み出る威圧感が、これ以上逆らってはいけないと男の中で危険信号を鳴らさせた。結局、男は現場の作業員たちよりも自分の身が一番可愛いのだ。

 

「それで、生体CPUの方はどうか?」

 

「はっ、現在調整を終了したとの報告書が上がっております」

 

 今度は若い職員が報告する。春十はその職員から纏められた報告書を受け取っていた。

 報告書には多岐にも渡る幾つもの項目が事細かに記載されており、その生体CPUたるモノが如何なるものかを物語っていた。

 じっくりと見回したそれを若い職員に返すと春十は満足げに今いる部屋を出て、その部屋の外でスーツ姿のスコールが春十を迎える。

 

「スコールか。 待たせたな」

 

「いいえ社長(ボス)

 

「計画は順調に進んでいる事が知れただけで儲けモノだ。 しかし、そろそろお前のISも限界が来ているはずだ、どうなんだスコール」

 

 通路を進みながら春十は言った。それに対し、スコールは毅然とした態度で答える。その様子は企業の社長と女秘書と言えよう。

 

「いえ、あの機体はまだ大丈夫ですわ。 私独自のカスタマイズを少々施しておりますの」

 

「……それならばいい。 計画が遂行さえすれば、それだけで……いい」

 

 その後はスコールの運転する車に乗り込むと、市街へと走り出す。

 街灯の淡い光だけが夜道に点々と市街に続き、それに沿うように車は走行し、目的地へと向かう。

 その車内で、春十は流れる景色に目を遣りながら一息ついた。彼の表情をルームミラー越しにスコールが覗く。

 

「ダブルオーの件ですが…」

 

 緩やかなカーブに差し掛かり、車体に遠心力が掛かるなか、春十は何も答えない。そんな上司にこれ以上何を聞いても返ってこない事を悟るスコールは再び運転に集中する。

 市街に入ると、既に深夜である事もあってか人の気配も少なく同じように家々の明かりも消えている。市街の殆どは夢の中。その中でもよく目立つ高層ビル群の一つにスコールが運転する車がその地下へと走っていく。途中にある様々なセキュリティを通って駐車スペースに車を止めた。

 

「作戦決行の日取りは………分かっているな?」

 

「ええ、連絡は来ています」

 

「ならいい。 言っておくが、『八咫烏計画』に変更はない」

 

「……承知しました」

 

 重々しく、それでいて有無を言わさせない春十の重圧(プレッシャー)がスコールに覆いかぶさった。不快に感じるそれをスコールは堪えしのぎ、肯定してオフィスに向かう春十を見送った。

 

 

 

 

 日本時間翌日の土曜日のIS学園。そのアリーナの一つでは、二つの蒼が空を優雅に舞いながらも火花を散らしていた。

 甲高い金属音が辺りに響き渡り、片や蛇腹剣を携えた学園最強の名を冠した更識楯無と、片や直結したレーザーサーベルを握り締め何度も切りかかろうと迫る大和カナードの二人は互いに剣を交えていた。

 直結したレーザーサーベル『アンビテクストラスハルバート』は本来上下の発振部からレーザーで形成された刀身が出現されるのだが、今カナードがやっているのは片方にだけ刀身を現出させており、これによって通常の倍の大きさの刀身が現出されているので、見ようによっては薙刀に見えるそれで楯無とやり合っていた。

 

「んー、ラウラちゃんや鈴ちゃん程じゃないけど中々やるじゃない」

 

「お褒めに預かり光栄……です?」

 

「何でそこで疑問詞なのかはさておいて。 薙刀の扱いがウマいじゃない」

 

「まぁそこは名コーチがいますので」

 

 二、三言交わしてまた鍔迫り合い幾度かの剣戟の後、カナードはレーザーサーベルを納刀して二丁のレーザーライフルを構え射撃に切り替える。

 つい先日セシリアからBT兵器の手ほどきを受けていた恩恵か、拙いながらも二基のドラグーンがストライクフリーダムのウィングバインダーから射出される。イメージインターフェースを通し射撃命令を出して、後はオートに設定し独立機動を見せる。この技を会得するのにかなりの時間を要し、そのせいか簪の機嫌を損ねると言うデメリットが生まれてしまった。機嫌を損ねてしまった彼女と一緒に今度『ウルトラマン』の新作映画を見に行こうと、カナードは独り言ちる。

 時刻はそろそろ正午に差し掛かる時間帯。アリーナの使用時間も終了間際な事もあって、今回の模擬戦は終了となり、二人はピットに降り立って愛機を待機状態にする。

 楯無と別れたカナードは更衣室で着替えを済ませ、食堂へと向かう。

 十一月にもなると先月と比べて一段と肌寒くなり、吐く息の白さが一際寒さを感じさせた。

 先々週頃にはあったテレビの紅葉特集も、この時期になると大雪対策や冬グルメ特集などがよく目に入る。特に冬グルメに関してはここIS学園でも特に力を入れているのか、新メニューも今週から並んでいると言う。因みに、人気メニュートップ3は下から順にグラタン、シチュー、おでんだと言う。

 ――今日の昼飯はおでんにしよう。

 そう思ったカナードが食堂に差し掛かろうとした時、簪と遭遇。その際ではあるが若干不機嫌さも伺えてしまった。

 

「……お姉ちゃんと模擬戦してたんじゃないの? その前はセシリアとだったし」

 

 訂正、若干ではなかったようだ。短いその言葉の中にトゲを感じたカナードは苦笑いを浮かべながら手を合わせて謝罪の意を表して許しを請う。

 

「あー、ゴメン簪。 スマン、許せ、このとーり! お詫びに今度の休みに映画行こうぜ! 『ウルトラマン』と『仮面ライダー』の映画をはしごしてさ」

 

「………」

 

「なんなら鉄火堂の芭瑠芭奴洲(ばるばどす)まんじゅう帰りに食ってこうよ!」

 

「…………」

 

「だったら……だったら…えーっと………!!」

 

「……ふぅ、もういいよカナード。 許したげる」

 

「マジで?! ってかほんっとにゴメン! お詫びと言っちゃあナンだが簪の気が済むまで俺を好きにしていいから! あ、でも痛いのと恥ずかしいのは無しネ?」

 

「それなら、今日直ぐにでもしてくれる?」

 

「お安い御用で」

 

 そんな一幕の後、昼食の場となった食堂にて熱々のおでんをカナードに食べさせてあげる簪の姿が目撃されたとか。

 

 

 

 

 それからまた時間が経った、募集締め切りの一週間後のIS学園。いよいよ始まった『ダブルオー』のテストパイロットの一次選考試験の日。試験とは言ってもこの日は書類選考だけだ。判断基準は志望動機に重きを置く。

 操縦者に求めるのは『互いに理解し合う』事と、それ以上に必要なのはコアを二基搭載させている為に操縦者にはかなりの負担が掛かる恐れがある為、操縦者自身のキャパシティーの高さ。それらを考慮しなければならない。

 今それが行われているのは生徒会室。応募者はざっと二百人を軽く超えていて、志願書の山が出来ていた。しかし、カナードにとって二百枚もある志願書は敵じゃない。自宅ではその倍の資料に目を通す事は多かった事もあって、ものの四時間で終了した。十時前に始めて現在の時刻は三時を過ぎていた。

 選考結果は五十六人に絞り込めた。あとは面接を残すだけである。

 

「あら、もう終わったの?」

 

「終わったのでしたら、紅茶でもいかがですか? 良い茶葉が手に入ったんですよ」

 

 そう言って虚がトレーに載せたその紅茶をカナードと楯無に渡す。

 受け取ったカナードはそれを一口飲んで一息ついた。彼が先程こなした作業を脇で見ていた生徒会長更識楯無と、長年彼女の従者を務めた布仏虚の二人も紅茶を飲みながら同じように一息ついた。

 

「すみません会長に虚さん、お仕事お邪魔してしまって」

 

「そんなかしこまらなくていーわよ。 ね、虚ちゃん」

 

「そうですよ、楯無お嬢様よりも手が掛かりませんから」

 

「そうですかね?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「ねぇ、二人して私に何か恨みでもあるのかしら?」

 

 楯無のそんな一言がさらりと流されると虚は空のカップを片づけ、カナードは荷物を纏めて自室へと戻る。

 志願書は全て楯無によって生徒会室の保管庫に厳重に保管されており、並大抵の金庫破りでも突破する事は出来ないらしい。もっとも、並大抵以上の金庫破りが出ない事を祈るのみである。因みにその保管に関しては楯無が言い出した事であった。これにはカナードも断る理由もなく、むしろカナードにとって願ったり叶ったりであった。

 普段ふざけた態度を見せる楯無だが、仮にも対暗部用暗部の十七代目を務める身。やる時はやる学園最強の人材である。恋仲の簪の姉と言う立場から内心尊敬してはいる。いざと言うときは頼りになる人だ。

 

「あれ、カナード書類選考終わったの?」

 

「我が弟よ、よく頑張ったな」

 

 生徒会室を出て寮へ向かう道すがらに、アリーナで模擬戦してきた帰りだと言う簪とラウラに遭遇。珍しい組み合わせだ、とカナードは内心思いながら帰路を共にした。

 その道中で『デジモンセイバーズ』の話が盛り上がり、それに登場する好きなデジモンを語り合う内にラウラがあるデジモンのモチーフが気になりだした。

 

「そういえばカナードよ。 お前はヤタガラモンのモチーフを知っているか? 三本の足を持つカラスなど見た事も無い」

 

「あー、お国柄ラウラは知らなかったなそう言えば。 モチーフは八咫烏って言って、日本の古事記や日本書記によると神様の遣いと言う形で登場するんだ。 因みに八咫烏の八咫は『ヤアタ』と読み、とっても大きいと言う意味を持つんだってさ」

 

「成程……簪は知ってたか?」

 

「少しだけなら」

 

 その後寮に到着し、カナードは二人と別れ自分の部屋に向かった。

 夕食まで時間がまだある為、部屋で予習か復習でもしようと決め込んでいた。

 部屋のドアに手を掛けて入出すると、どう言う訳かそこにいたのはベッドの上で数センチほど顔を近づけていた一夏と箒がそこに居た。二人の方もカナードの存在に気づき慌てて離れてみせるが、二人の弁明よりも早くカナードはドアを勢いよく閉めた。

 

「………おやつ食べに行こう」

 

 未だに簪とキスどころか手をつなぐことが出来ないカナードは、先程見た光景を忘れ購買スペースへと足を運ぶ。

 ――明日はあの二人に「昨日はお楽しみでしたね」とでも言っておこう。

 そう心に決めたカナードの耳に、後ろから聞こえてくる一夏と箒の声は届いていなかった。

 

 

 

 

 一体どれ程の薬物を投与したのだろう。簡易ベッドの上でベルトに固定された女性はかつて見せていた獣の様な荒々しさを秘めた美しさなど無く、あるのは狂った獣の表情だけだった。いや、獣その物と言うにふさわしいだろう。時に暴れ、時に吠え散らかしてみせてはいるが固定された状態で何も変わらない。

 彼女の周囲には白衣姿の男女が機械を操作し、記録して、会話を交わしていた。その口々から出る単語を女性はもう理解する事は出来なかった。何故ならば彼女にもう言葉など、会話など必要なくなったのだから。

 女性の正体は生体CPUとなったオータムだ。そこにかつての面影を残していない今、彼女はオータムではなく生体CPUとして存在している。

 今行われている調整作業は最終段階に入っていた。これが成功すれば、人間と言う一個人ではなく、人間と言う使い捨ての駒が完成する。完成すれば『黒』の操縦者(パーツ)となり、春十の計画が進むことになる。

 もし失敗した場合は何処か適当な国から被検体をスカウトする。それが亡国機業(ファントム・タスク)なのだ。

 生体CPU(オータム)の調整作業を、『黒』の時と同じく春十は別室で眺めていた。前回とは違い、スコールもМも同じ部屋にいる。その三人以外にも一人の白衣姿の男性がいた。

 

「ふむ、こっちは順調そうだな」

 

「ええ。 この調整が完了次第直ぐにでも出せます」

 

「後は『八咫烏』の完成を待つばかりか……」

 

「……ヤタガラス?」

 

「あら、Мは確か知らなかったのよね? 『八咫烏』は別の施設で建造中の巨大ISって事しか貴方には言えないわ。 ですわよね、社長(ボス)

 

「ああ。 これも全ては秋百の為、家族の為だ」

 

 自分には知らされず、また知る事も許されないМは歯噛みする。

 隣の女はかつて恋人の様に振る舞ったオータムにこれと言って何の感情も見せず、それどころか春十と共に自分に何も知らせない事に内心憤っていた。

 しかし、これだけは理解できた。

 『八咫烏』の産声は確かに上げていると言う事を。

 

 

 

 

 

続く




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