インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
次々回でエピローグになり、その後はカナードと篝のちょっとしたキャラ設定と三話程度の時系列めちゃくちゃな短編をやります。
せめて三年生編までオリジナル構成で頑張ります
なので、応援よろしくお願いいたします
雲一つない快晴の広がる空の下で、『ダブルオー』正装着者採用最終試験はIS学園のアリーナを貸し切って行われる。それが今日この日なのだ。
書類選考から始まって、一次面接二次面接を終えた段階で残った三人はそれぞれ国もクラスも違う女子生徒達。既に彼女たちには『ダブルオー』の真価が『対話』である事を理解している。後は起動試験を行うのみである。
「――では何度も言うようで申し訳ないんですが、この『ダブルオー』はコアを二基搭載しており、起動の際脳に負担を掛ける事も起き得ます。 なのでもし、万が一の事が起きた場合は自己責任でお願いします。 それが無理でしたら、ここで辞退しても構いません。 その上でよくお考えください」
採用試験官を務めるカナードのその一言に三人の女子生徒たちの顔に嫌な汗が流れる。下手をすれば廃人になるかもしれないこの試験だが、彼女たちはそのデメリットを理解した上でここまで残って来たのだ。毒を喰らわば皿までと言う言葉もある。
アリーナ中央の『ダブルオー』には様々な機械に繋がれており、己の主人を待つ鎧の様にも見える。
青と白をメインとしたカラーリング。背面には両肩部にある二つのコアを支えるバインダーが伸びている。武装は何一つ無く、それだけでも『ダブルオー』は非戦闘用ISである事が良く解る。
「…それでは試験を開始いたします。 まずは二年四組、
まずは一人目。美鈴は一度、深呼吸をして『ダブルオー』に手を伸ばす。
手の平が完全に接触したその時、『ダブルオー』は自身の担い手を受け入れれば成功。弾き飛ばせば失敗。しかし、たとえ受け入れたとしても搭乗者の脳に負担をかけて失敗。正にハイリスク。
美鈴の手が『ダブルオー』に触れた瞬間、小さくスパークが走ったかと思うと美鈴は軽く弾き飛ばされた。
一人目が失敗に終わった。この事にとても残念がる美鈴だったが、軽く尻餅を突くだけで済んだ事には喜んでいた。
◇
IS学園にて『ダブルオー』の正装着者採用最終試験が行われていると同じ頃の某国。
ドーム状の建物が左右に広がり、その中から半円形のボディの下からのびる三本足の『黒』こと、大型ISヤタガラスが飛び立った。名は体を表すと言うが、その名に似合わず海面を漂うクラゲを思わせる飛び方は、PICの恩恵を受けての飛行だ。宙に浮かぶヤタガラスは三本の足を垂らし、それらの先端にある三本爪は一定間隔にカツカツと音を鳴らす。
重々しい巨体を見送るのは織斑春十。にやりと見つめていた彼は後ろに控えていたスコールとМに視線を移し、指示を下す。
「――作戦開始だ。 華々しく行こう」
短いその一言を合図に、Мはヤタガラスの後に付いて行き、スコールは春十を掴み、それぞれサイレントゼフィルスとゴールデンドーンは飛翔する。
◇
二人目は一年三組の
残るは三人目の二年一組のエリナ・ヴェステンフルス。彼女が『ダブルオー』に触れるか触れないかの所で、突如千冬の搭乗者採用試験の中止の声がスピーカー越しにアリーナ中に鳴り響いた。この事態試験は急遽中止になり、美鈴、心愛、エリナの三人は千冬の指示の下半強制的に解散を言い渡され、カナードは待機状態に出来ない『ダブルオー』をストライクフリーダムを展開してピットへと運ぶ。そこには無線マイクを持っていた千冬と、何故か束までもがいた。
「一体何があったんですか」
『ダブルオー』を束に任せ、カナードは千冬に事情を問う。
「非情に面倒な事が起きた。 ただそれだけだ」
短絡且つ簡潔なその一言に、今何が起きているのかカナードは直ぐに理解した。
亡国機業が動き出したと言う事を。
その仮の緊急対策室である生徒会室に連れられたカナードは先に集められていたメンバーを見渡していた。簪をはじめとした一年の専用機持ち以外に、楯無と同じ二年のフォルテ・サファイアとサラ・ウェルキンソン、そしてメンバーの中で最年長三年のダリル・ケイシーの十一人。
「さて、全員そろったな。 実は先程、委員会からある通達が学園に届いた。 レーダージャミングが施されている正体不明の大型ISの対処に学園から数名の専用機持ちが駆り出されることが決まった」
簡単に言ってしまえば徴兵令に近いそれを聞いて、カナード達は表情を一斉に強ばらせる。福音戦の時と同じではないのだろうか、とカナードは内心思うが千冬は淡々と続ける。
大型ISの進行ルート上にはIS学園がある為、こちら側にその様な指示が飛んだのだ。現在その巨大ISは太平洋上で海上自衛隊や委員会のIS部隊等により足止めされている物の、戦力の差で足止めの効果は微々たるものだそうだ。そこで三年と二年の専用機持ち達は応援としてこれに合流し、残るカナードら一年は学園にて待機だそうだ。
その後に解散の指示が出されカナードは一人、今回の事件に疑問を持っていた。ステルス機能を装備していながら、何故今回の様に目立つ様に戦闘を引き起こしたのだろうと。中止になってしまったが、今日の試験にいつぞやの様に一夏と千冬の父とその側近が襲撃に来るだろうとは予測していた。それなのに何故わざわざ途中で足止めを喰らう事になっているのだろうと。
思考にふけっているその時、四つの線が彼方へと伸びているのが見えた。楯無ら先輩方が今し方飛びったったのだろうとカナードは納得する。
「ねぇカナード、これってもしかしたら……」
「ああ、多分……そうなんだろうな。 それにさ、さっきっから嫌な予感しかしねぇんだよなぁ。 例えっとどっかの総司令官が『私にいい考えがある』と同じくらい嫌な予感しかしねぇ」
その例えに納得した簪もカナードと同じように表情を歪め、神妙な面持ちになる。姉が戦線に飛び立つ事に一種の不安感を抱き始め、ついこの間まですれ違っていた事はあったが、今はそれから来る劣等感より強いモノをひしひしと感じていた。
これ以上嫌な予感がしない事を祈るばかりのカナードは、一夏の方に目を向けた。彼の父・春十は亡国機業のトップ。この状況も春十が出した命令の結果なのかもしれない。実の息子からすれば、何とも言えない言い表せない心境だろう。
その時だ。それぞれの専用機を通して千冬の声が響く。サイレントゼフィルスの反応を捉えたと同時に迎撃に出ていた教師部隊が突破された事により、残っていたカナードら専用機持ち達に出撃命令が出された。
「多分……大型ISは恐らく囮、そんでサイレントゼフィルスも囮だとすれば本命は……だとしたら早めに片付けるしかねぇな!!」
校舎を出て、地下通路を駆けながらカナードは一つの答えを見出していた。自分らはまんまと相手の囮に掛かったと言う事を。
二段構えの囮作戦だろうと予測するが、今は目先のサイレントゼフィルスを相手にするだけだ。『ダブルオー』は今束と共にある為、そこには千冬と真耶が護衛に入る。
全員制服の下に常にISスーツを着用しているおかげか、スタイリッシュに制服を脱ぎ捨てそれぞれ専用機を纏い、ピット内のカタパルトに足を固定し、それぞれ発進する。
『フリーダム、白式、打鉄弐式、紅椿のカタパルト固定を確認。 コンディションオールグリーン。 進路クリア、発進どうぞ!』
「大和カナード! フリーダム、行きます!」
「織斑一夏! 白式、行きます!」
「打鉄弐式は更識簪で行きます!」
「篠ノ之箒! 紅椿、押して参る!」
『you have control』
「I have control! セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ! 目標を狙い撃ちますわ!」
『続けて甲龍、ストライクE、シュヴァルツェア・レーゲンのカタパルト接続を確認。 進路クリア、発進どうぞ!』
「凰鈴音、甲龍で出るわ!」
「窓木シャルロット、ストライクE! 行きます!」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン! 目標を破壊する!!」
八つの機体がそれぞれ空を舞う。彼方に見える蝶に似た蒼い銃士・サイレントゼフィルスは、ただ静かにBT兵器を射出して迎え撃つ。
数で勝るカナード達ではあったが、機体性能と操縦技術はサイレントゼフィルスの方に軍配が上がる。しかしそれでも、カナード達は負けるわけにはいかない。勝たなければならないのだ。
ブルー・ティアーズビットが四基が射出され、それが開始の合図となりアンビテクストラスハルバード・ナギナタモードと
「この程度……かッ!」
「…がはっ! っく、ラウラァッ!」
「応ッ!」
蹴り飛ばされてしまったシャルロットだったが即座に体勢を立て直し、一瞬の隙を突いてラウラのペンデュラムブレードと同時に
しかし、当のМがそうはさせまいとビットを全基射出して格子状にレーザーを撃ちだして簡易的なバリアーを貼ってみせた。得意の中距離戦に持ち込み、専用のライフルを呼び出すと同時に発砲。更にビットの火線も加わりレーザーの雨がカナード達を襲う。
レーザーの雨を掻い潜りながらも何とか接近を試みるが、簡単にそうさせてくれないのがМだ。技量からして格が違う。
「……弱いな」
ため息とともに出たМのその感想はまさにその通りだった。恐らく一年の中では強豪に入るだろうカナードらではあるが、ラウラの様な自国の軍に所属するISパイロットを除けば、所詮は井の中の蛙で公式試合のルールに
埋められない操縦技術の差を、機体性能と数の差で補う形でカナードらはそれでも怯まずに応戦する。
もはや手を温存していられないと思ったカナードは、ドラグーン全基に射出命令を出し、同時にマルチロックオンシステムを起動してサイレントゼフィルスとそれに追従するサイレントゼフィルスビットに照準を当てる。慣れない動作故か、理想とする時間内に照準が中々定まらない。
「のろまがッ!」
そんな隙をМが見逃すはずもないのだが、どうにもフリーダムに入るカバーが厄介で吹きり切る事は叶わない。
そして十三もの火線ハイマットフルバーストがフリーダムから放たれ、ビットの四割と本体のビットラックが蒸発した。
撃ちだした当の本人は、ぶすぶすと煙を上げた砲身とサイレントゼフィルスの状況を交互に見やり、顔を青ざめてしまう。
「うっわー、俺が言うのもナンだけど……威力あり過ぎでしょうに」
「言っとる場合か!」
とは言え、これでどうにかМの、サイレントゼフィルスの戦力を削る事に成功した。現にМもバイザーから露出した口元を歪めて小さく舌を打つ。
「形勢逆転……でいいんだよなコレ?」
以前同じような事を口にして手痛い目に遭った事を思い出したカナード。今回も同じような事が起きないよう願うばかりだが、もしそうなろうとしても臨機応変に対処するのみである。
レーザーライフルを構え直し、連結してロングレンジライフルモードにしてカナードはМの出方を伺っていた。ロングレンジライフルモードは高威力のレーザーを撃ちだせるだけでなく、引き延ばされた銃口から出現するナノマシンで形成されたレーザー刀による突きと斬撃の攻撃も可能である。これによりМがどう動いてもある程度対処できる。
未だ反応を見せないМに奇妙な感覚を覚えるカナードら。フリーダムのハイマットフルバーストを受けて大幅な戦力ダウンを被ったのだが、以前見せた様な狂った笑みどころか、爆発的な怒りすら感じない。
「どういう事? 何で何の反応も無いのよ、あいつ」
連結していた双天牙月を二振りの状態に戻し、警戒しつつも鈴音はそう言った
確かに彼女の言う通りだ。気味が悪いほど静かで、それでいて人形のようだった。
すると、サイレントゼフィルスの機能が急に低下したかの様なアクションを取ったかと思えば、突如装甲が消失。更に強制解除が起きてしまい、Мの身体が重力に従い落下し始めた。
突然の事態で直ぐに体は動かなかったが、真っ先にラウラがМを抱きとめた所でカナードと一夏は胸を撫で下ろす。バイザーがなくなったその顔は、間違いなく一夏の誕生日に見た時と変わりない。
「どういう事だこれは?! 何故こいつは……こいつの顔は千冬さんの顔に似ている! 答えろ一夏、カナードォッ!」
「なもん俺が知るか! 逆に俺が知りたいわっ!! ……つっても、何でまた装甲展開が……はッ…ま、まさか、威力が強すぎた……とかか? い、いや、でも………」
「それよりもカナード、早く千冬姉の所に!」
「そ、それもそうだ! 簪、この子を任せた」
「任された!」
簪との短いやり取りを済ませたカナードは一夏と共に『ダブルオー』と千冬の下へと飛び立った。
◇
待機状態の『ダブルオー』は一輪の花を儚げに模している。稀代のマッドサイエンティスト・篠ノ之束に掛かれば正装着者の介入がなくとも出来る芸当だ。待機状態のそれは専用のケースの中に入れられ、更にジュラルミンケースの中にマトリョーシカの様に厳重に納められている。
そのジュラルミンケースを抱える束の前にはIS用のブレードを軽々と持ち上げている千冬と、チューンアップを施したラファールを装着した真耶、更にその向こうには追加武装を施したゴールデン・ドーンを展開するスコールと拳銃を構える春十の姿があった。
正に袋のネズミと言う状況はこの事なのだろう。春十を前にして真耶は気を引き締めつつもそう思う。
「大型ISもサイレントゼフィルスも囮だったと言う考えは正しかったか」
誰に言うまでもなく呟いた千冬。元はと言えば束が『ダブルオー』を建造しなければこの様な事態にはならなかったはずだ。しかし今となっては取り返しようもない事態。今は目の前の敵を追い払うのみだ。
「まったく、いい加減父さんの話を聞かないか。 それさえあれば、篠ノ之束の抱えているそれを使えば、また昔の様に母さんと四人……いや、マドカを入れて五人で暮らせるんだぞ?」
優しく諭すように言う春十のその言葉を千冬は聞き入れない。話し合いには応じない、と言わんばかりの気迫を放ち、ブレードを構え直す。
今千冬たちは学園の整備室に追い詰められていた。何とか束と合流できた二人はゴールデン・ドーンの襲撃に遭い、手持無沙汰だった為に退避する事しか出来なかった。搭乗するリスクが高い『ダブルオー』を展開装着する考えもあったが、そもそも『ダブルオー』が受け入れるかどうかも解らない上に展開装甲の暇さえなかった。こうなった今、「袋のネズミとはこの事か」と毒づく余裕すらない。
ゴールデン・ドーンの追加武装の内の一つである
「ハチの巣にしちゃいましょうか、
冗談交じりに言ったスコール。本気にも思えるそれに春十は表情を曇らせる。そんな事をされては春十にとってとても寝覚めが悪い。
その時だ。整備室の入り口の方からフリーダムと白式の姿が見えた。
「……ったく、感動の再会たぁ到底思えないなこりゃ」
「あら、もう来たのね。 社長、ちょっと相手してきても宜しいかしら?」
「いや、いい。 まだ手を出すな」
「……了解。 ちぃッ」
不満げに言うスコールは小さく舌を打ちながらもゴールデン・ドーンの展開を解かずに武装を降ろす。
「カナード……」
「ああ。 わーってるから……お前はお前のしたい事をしろよ。 けどよ……後悔だけはすんじゃねぇぞ」
カナードもスコールと同じように展開を解かずに、クスィフィアスを移動し両手のレーザーライフルを両腰のアタッチメントに装着した。
ここに居るのは一夏以外に、姉である千冬、副担任の真耶と幼馴染みの姉束、友のカナード、そして父親の春十とその部下であるスコールがいる。この場合真耶は関係ないのだが、『ダブルオー』と束の護衛の為ここを離れるわけにもいかない。
今一夏の前には、父がいる。生まれてきて今日まで約16年、物心ついた頃から記憶が無かったからか、再会と言うべきか初対面と言うべきか、いや今日で二度目だから再会と言うべきだろう。
成すべきことを成す為に、一夏は白式の展開を解いた。
「一夏、何の真似だこれは!」
「ごめん千冬姉。 でも、俺は……俺は俺のやるべきことをやるだけなんだ!」
いつになく強く輝く弟の眼を見て、千冬は一夏から可能性の様な物を感じ取った。
ならばここは弟に任せよう。そう思った彼女は手を出さず、かといってその場を離れるわけでもなく弟と父のやり取りに視線を放さない。春十もまた掲げていた拳銃を降ろし、一夏に向かい合うように体を向ける。
「こうやって、お前とサシで話す日が来るなんて……思いもよらない様で、何処か待ち望んでいた気がするなあ」
「――俺もだ。 だけど…だけど今は……!」
途端に一夏の中で今まで抑え込んでいた疑問がふつふつと湧き上がっていく。
何故、千冬と自分を残して消えてしまったのか。
何故、今日まで自分たちの前に姿を見せてくれなかったのか。
公園で一組の親子がキャッチボールをしているのを見て羨ましいとさえ思った。
それ以外にも色々と父と話したいことがある。一夏はそれらを吐き出したかったが、どうもうまく口にすることが出来なかった。
それを察しても、春十は挙げた拳銃をそのままにする。目の前にいた一夏は勿論、千冬も、真耶に束も、そしてカナードも。
「……やはりどうあっても一夏、お前も私の計画に賛同してはくれないのか?」
そう言った春十の顔は、悲しみの念が感じられた。彼がこれまでに亡国機業のトップとしてしてきたことは、決して褒められたモノではないだろう。しかし、だからと言って『ダブルオー』を強奪してそれを介しての春十の妻にして一夏と千冬の母・秋百を呼び戻して良い理由にはならない。その計画に関しては少なからず千冬に一夏、ひいては束やカナードの協力が欠かせないとは言うがやはり賛同は出来ない。だからこそ、一夏は首を縦に振らなかった。
冷たく重く張り付いた空気の中で、カナードには頬を伝う汗に構う余裕すら無かった。腕で拭えば隙が生じる。そうなれば自分が狙われるうえに、一夏達にも被害が無いとは言いにくい。
拮抗する織斑親子だったが、タイムリミットが来たと言わんばかりにスコールのゴールデン・ドーンが突然アクションを起こす。外付けの武装からスモークが炊き上げられ、整備室一帯を満たす。ジャミング効果もあるのだろう、炊きあげられたスモークの向こうをフリーダムを以ってしてもカナードには見る事は出来ない。昨今のIS技術によってスモークによる目くらまし効果はほぼ無意味となっている。しかし、先程ゴールデン・ドーンから炊きあげられたそのスモークにはハイパーセンサーの機能を妨害するナノマシンが含まれているのか、一寸先は闇というよりは一寸先は煙だ。
その時だ。乾いた音が周囲に響く。銃声だ。次にカナードの耳に入ったのは、春十のうめき声と真耶の悲鳴だった。
「父さん……、父さん!!」
一夏の叫びが煙越しに響く。
煙が晴れたその先に居たのは、腹部に銃撃を受けて腹から血を流していた春十と彼を抱えた一夏の姿だった。
◇
結果から言えば、春十は腹部に銃弾を受け重傷。『ダブルオー』は幸いにも強奪を免れた。それ以外にあるとすればスコールだ。『ダブルオー』を強奪する訳ではなく、どう言う訳か春十を撃ち、逃亡するだけだった。
今カナード達はもう一つの問題である学園の地下施設の一角にある医療施設のベッドの上で寝ているМ、もといマドカの周囲に集まっていた。
その寝顔を注意深く見ると、やはり千冬に瓜二つ。先日の、束が『ダブルオー』を引っ提げてカナードと千冬の頭痛が酷かったあの日に、春十の言った事が正しければ、マドカは一夏の妹と言う事になる。いや、事実そうなのだろう。
「最後に見た母の姿は、母体にマドカを宿していた。 それだけは確かだ」
千冬がベッド横の丸椅子に座りマドカの頬を撫でながらそう言った。今までは敵として、春十の尖兵として何度もカナードらと刃を交えてきたが、既にその形相はない。その寝顔は年相応の少女のモノだ。
その隣のベッドには腹部に包帯が巻かれた春十が、酸素呼吸器を顔に装着して意識を失ったまま眠り続けている。幸い致命傷にならなかったものの油断できない状態だ。出来るなら彼にはこれまでの罪を償ってほしい所だが、意識を取り戻さない限りそれは無理だろう。
「二人そろって意識が戻ればいいんですけどね」
二人の顔色を窺ったカナードがポツリとつぶやいた。誰にも聞こえる吐かれたその言葉に、今はただ頷く事しか出来ない。それをとてももどかしく感じたのは千冬と一夏の二人だ。父と妹が、今まで敵として相対し、家族として接する事は出来なかったが、これから先その様な事が果たして出来るのだろうか。
暗い雰囲気を漂わせ、息がつまりそうになる。そう思ったカナードはふと、スコールの取った最後の行動が気になりだした。『ダブルオー』を奪わず、春十を撃ってそのまま離脱したその理由が解らない。
彼女自身春十を見限ったのだろうか。そうだとしても立場上有り得なくはない。春十が雇われ店長ならぬ雇われ社長であればそうだ。目的が不明瞭過ぎて理解できない。
そんな時、真耶が息を切らして現れた。千冬らは彼女の様子を見てただ事ではないのを悟り、彼女を一旦落ち着かせると真耶は自身の口からとんでもない事実を口走ったのだ。
「さ、更識楯無さん達の信号が……途絶えました」
続く
今回一番やりたかった事、
カタパルト発進シーン
ご感想お待ちしております