インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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どうもお久しぶりです。

今回は時間をおいて一話ずつ

十八話を今日、

十九話を明日、

キャラ設定と時系列バラバラ短編集を明後日に投稿いたします



十八話 洋上にてカラスは鳴く

 

 海上自衛隊が保有する中で一番の旧式空母。その一角にある食堂にカナードと一夏を除いた専用機持ちはいた。彼女らと向かい合って座る壮年の男は、制服に縫い付けられた階級章を見るに二等海佐。分かり易く言うと旧日本海軍や外国軍隊で言う中佐と同じ階級である。

 戸高二等海佐は、やや濃い目に淹れたコーヒーを傾けながらIS学園から手渡された資料や、IS委員会から送られた指示書を交互に見やる。直後に頭痛に襲われた戸高は、何度目かの溜息をついた。その眉間に集まった皺は深く、今までに何度厄介ごとに悩まされたのだろうかと思ってしまう。

 

「……全く世知辛い世の中だな。 よもや海上自衛隊(われら)がタクシー代わりになるとは……。 救助支援の為とは言え、はてさて、喜んでいい事なのやら…」

 

 何故簪らがこの艦にいるのかは真耶が楯無らが敗北した報せを受けた頃に遡る。

 楯無らの敗北の知らせと同時にIS委員会からある命令が下されたのだ。

 

『現在日本に向けて進行中の巨大不明ISにより、海上自衛隊と委員会のIS部隊及びIS学園所属の更識楯無他三名が負傷したと思われる。これにより海上自衛隊の支援の下、更識楯無他三名の救助もしくは巨大不明ISの撃墜をIS学園生徒に命ずる。尚、一切の指揮系統はIS学園に一任する』

 

 簡単に言ってしまえば、カナードらに対して徴兵令が下されたのだ。これに難色を示した千冬は抗議に出たのだが、こちら側の要求を委員会は一切受け付けなかった。捻じ曲げる気は毛頭ないのだろう。その協力として海上自衛隊が挙げられたのだが、このご時世に於いて男手の多い自衛隊は実質委員会のパシリ扱いである。戸高の眉間の皺も増える一方だ。

 それとは別に一夏とカナードはと言うと、自衛隊の所有するタンカーに乗船しており、簪らがいる空母よりかなり後方を航行中で今に至る。

 戸高は簪ら一人一人の顔を一通り見回しながら、手元の資料とを交互に視線を向ける。

 日本代表候補、更識簪。専用IS『打鉄弐式』。

 中国代表候補、凰鈴音。専用IS『甲龍』。

 イギリス代表候補、セシリア・オルコット。専用IS『ブルー・ティアーズ』。

 ドイツ代表候補、ラウラ・ボーデヴィッヒ。専用IS『シュヴァルツェア・レーゲン』。

 大和生物機械技術研究所所属テストパイロット、窓木シャルロット。専用IS『ストライクE』。

 そして、ISの生みの親である篠ノ之束の妹、篠ノ之箒。専用IS『紅椿』。

 彼女たちはまだ十代の乙女たちであり、それをこれから戦場に送り出す事に戸高は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「正直言って、例え代表候補だろうと篠ノ之束や更識楯無の妹だろうと子供を戦線に出すのはハッキリ言っていいモノでは無いと私は思うんだがね。 しかしだ、そう言う指示が出れば従うのも当然だ。 我々が出来るのは近海まで諸君らを送り届ける。 ただ、それだけだ」

 

 堅い口調で言う真面目な印象を放つ戸高に、ラウラを除く面々は一瞬ではあるが委縮してしまった。それに対してラウラは戸高に礼を言い、それに倣うように簪らも続けて戸高に礼を述べた。

 その後彼女らは女性自衛官に連れられ、あてがわれた部屋に案内される。艦内通路は旧式艦と言う割には小奇麗に整頓されており、経年による劣化がほとんど見当たらず、前を歩く女性自衛官は現在の女尊男卑の風潮に流されている様子は無い様で、すれ違う男性自衛官には高圧的な態度は取らないでいた。

 程なくして彼女らは宛がわれた部屋に通される。二段ベッドが三セット用意された質素とも言える部屋だ。そこには既に作戦指揮官の立場にある千冬の姿も居た。彼女も駆り出されたに等しい。

 

「予定の海域まで到着に約三時間かかります。 それまで皆さんはここで待機してくださいね」

 

 そう言って女性自衛官は敬礼し、扉を閉めた。彼女の言う様に、決戦まで三時間を簪らはここで待機するほかなかった。

 

「……っとに一体何なのよ、亡国機業って」

 

 一番先に口を開いたのは鈴音だった。椅子に座るも行儀悪く貧乏ゆすりをしてしまうが、確かに彼女の言う通りだ。幹部が社長と同僚を切り捨てて退散したり、製造元及び搭乗者不明の謎の巨大ISの出現と、何の目的があっての事なのだろう。これが考えなしの行動であるのならば、それはそれで恐ろしいことこの上ない。

 しかし、問題はそれだけではない。負傷していると思われる楯無らとは未だに連絡も取れておらず、確認できたのはISの強制停止の信号だけだ。生きているか死んでいるかも解らない。何より、その楯無の妹である簪はいつもの様に落ち着いた様子は見せてはいるが、姉の生死が不明故に身体が僅かに振るえている。

 

「(あーあ、…こんな時にカナードが居てくれればなぁ……)だ、大丈夫……だよね、簪」

 

「ありがとうシャルロット。 でも大丈夫、大丈夫……だから」

 

 僅かにだが、明らかに無理している。そう感じたシャルロットは、今この場にカナードがいない事を盛大に呪っていた。主に、委員会に向けて。

 

 

 

 

 そのカナードが一夏と共に乗船しているタンカーには、幌に包まれた巨大な物体が積み込まれていた。観光バス程の巨大さを誇るそれは大小さまざまなケーブルが繋がれており、それを囲んでいる周囲は忙しなく駆けまわっていた。

 その中でカナードは繋がれたケーブルの先にある一つの端末に、視線を走らせながらキィを叩く。モニターに映し出されているのはケーブルが繋がれた先のデータ。それにカナードは新しく追加データを構築されていき、彼のサブに入っていた海自のメカニック達は、目を見開いて手を貸す隙間も無かった。

 そして、一方の一夏はというと。

 

「おい織斑ペンチ持って来い!」

 

「は、はいっ!」

 

「こっちはスパナだ大至急!」

 

「分かりましたぁっ!」

 

「ウェス何枚か持って来い!」

 

「はいぃぃっ!」

 

 もっぱらこの手の作業には疎い一夏は現在パシリ状態にあった。

 今カナードらは元々海自にあった月面開発兼災害救助用大型IS用拡張パッケージ、通称ミーティアの改造作業に入っていた。本来ならミーティアは海自でのテスト運用を経て、その都度改修し、遅くとも二年後に正式採用する筈だったのだが、本体が届いた状態で維持コスト等の問題が発覚。計画が頓挫されたところ、この事件が起きたのだ。

 海自のIS部隊に追加武装としてミーティアは使われるはずが、「必要ない」「邪魔」「趣味に合わない」と言う女尊男卑派の身勝手な理由や「機体と合わない」「合ったとしても調整する時間が無い」と言った女尊男卑否定派のまともな理由もあって、出発までこのタンカーに載せられていたのだ。皮肉にも今回の事件が起きなければそのまま船内で解体される筈が、今はこうしてカナード達の手によって解体されずに済んだのだから。

 改造作業中の技術者たちの中には明日刃機業の人材、それもカナードの知人が数名入っている。その中で篝とも交友関係にある三人の明日刃機業所属のテストパイロット。ウェーブのかかった金髪のセミロングの近衛(このえ)アサギ、茶色のショートカットの髪型の薔薇津(ばらつ)まゆら、メガネがチャームポイントだと言う雲丹恵朱里(うにえ じゅり)。彼女らは明日刃機業からメカニックとして派遣された。ミーティアの製造元は明日刃機業であるためだ。

 

「まゆら、この数値ちょっと見てくれる?!」

 

「火器管制システムは異常なしね。 ねぇ朱里、そっちはどう?」

 

「こっちは両アームとも問題なし。 あ、あとミサイルハッチに推進機構、可変機構その他諸々問題なしよ!」

 

 仮にもテストパイロットである彼女らも、自身の手で機体を整備する事もあるので作業に支障は出なかった。

 作業する中、銀の福音の時とは違う身体に掛かるプレッシャーでカナードの胸の辺りがざわつき始めた。あれから半年も経っていない筈なのに、あの時感じたプレッシャー(重 圧)が今再びカナードに襲い掛かったのだ。

 それ以上に心配な事がある。

 簪の事だ。

 彼女の腕はカナードも重々承知している。それに彼女以外にも信頼できる同僚や腕の立つ友がいる。だから過度に心配する必要はないのだが、それでも心配せずにはいられなかった。

 

「おっと!」

 

「あ、すいません、どこか間違ってましたか?」

 

 簪を心配するあまり余計なキィを叩いたせいか、サブに入っていた作業員が突然声を上げた。

 

「あー、いや。 大丈夫だよ大和君、少し驚いただけだよ問題ないさ。 いやぁそれにしても、中々の腕前だ」

 

「あ、…はい。 恐縮です」

 

 どうやらカナードの思い違いだったようだ。

 再び作業に集中し直す。

 キィを叩く速度は変わらず、カナードは黙々と作業を進めていた。

 やっと手が空いた一夏は休憩を取りながらカナードの様子を眺めていた。自分には踏み込めない領域…と言えばいいのか、カナードには敵わないとしか言いようがなかった。

 

 

 

 

 簪らを乗せた空母が順調に航海を続けていく中、艦橋では戸高が双眼鏡を手に遙か前方を見据えていた。

 目標の海域には依然巨大不明ISがどう言う訳か同僚や委員会のIS部隊に楯無らを急に空中で静止しているとの情報が既に戸高には届いていた。恐らくは先の戦闘でシールドエネルギーが予想以上に消費し、その為の休眠の様なプロセスなのだろうか。

 例えなんであろうとしても、それが脅威であることには変わらない。戸高たちはやるべきことをやるだけだ。

 

「………そろそろ、予定海域だな。 警戒態勢を厳に!」

 

 艦橋内でそれが復唱され、自衛官たちは忙しなく自らの持ち場へと足早に移動する。

 

「やはりこうするしかないのか……ならば止むを得ん。 乙女たちを送り出してやろう………盛大にな」

 

 戸高の合図で甲板が開き、次いでスピーカーから音楽が鳴り響く。

 デンドンデンドンデンドンデンドン……デーデデーン、デーデデーン、デデデデーン!

 勇ましい『ヱクセリヲンマーチ』と共に、箒をセンターとして並び立つIS学園一年専用機持ち達が開かれた甲板の中から腕を組んだ仁王立ち姿の所謂「ガイナ立ち」と呼ばれる格好で現れた。なぜこんな演出なのかは誰も気にせず疑問も持たなかったが、戦いに赴く乙女たちを勇気付けさせるのには十分だった。

 吹き付ける潮風が彼女たちのしなやかな髪を優しく撫でる。福音の時に感じた夏の心地より、冬目前の秋の潮風は少し厳しい。

 

「全機、発進!」

 

 インカムを付けた千冬から出された号令に、箒らは勢いよく大空へ舞った。

 彼女たちを見送った後の艦橋で戸高がまた深いため息をつく。技術の進歩と共に自分より若い世代が戦場に立つこの時代はどこか間違っている。飛び立った彼女らはまだ子供で、本来ならその手は銃や剣を握るのではなく未来を創る為のはずだ。となりに立つ千冬も、顔を顰めている。やはり彼女も戸高と同じ心境なのだろう。

 どこでこの世界は狂ってしまったのだろう。

 誰がこんな世界にしてしまったのだろう。

 誰でもいい、答えてくれ。誰か自分にこの世界の心理を教えてくれ。

 しかし、その問いに答える者は果たしているのだろうか。いたとしてもそれは戸高にどう答えるのだろう。晴れぬ疑問を抱えたまま、戸高は奥歯を噛みしめた。

 

 

 

 

 洋上を飛行し続ける箒達は、目の前に浮かんだ風鈴の様に佇む黒い巨大ISを見た。

 その名が『ヤタガラス』であることを箒達はまだ知らない。

 ISと言う規格に収まらないその巨体さに内心圧倒されるが、それで臆する彼女たちではない。あくまで彼女たちの目的は、楯無らの救助だ。

 

『篠ノ之と更識妹が正面を狙い、窓木と凰は二人の援護に。 ボーデヴィッヒとオルコットはその間救助活動に入れ!』

 

 オープンチャネルを通じて届く千冬からの作戦指示が飛び、箒達は了承してそれぞれ行動に移した。

 箒の左手に握られた空裂から放たれる光刃を合図に、簪は春雷を放つ。着弾と同時にヤタガラスは起動音を響かせ迎撃態勢に入った。その間にラウラがセシリアと共に、楯無らを救助するのだが、如何せん要救助者は数が多い。数を確認したところで、ラウラが千冬にオープンチャネルで通信。更にその情報をカナード達の方へと流す手はずになっている。

 カナードらの到着まで、簡易ボートに要救助者達を乗せたラウラとセシリアはその壁となる。補給用のシールドエネルギーを用意する事は出来たが、委員会から派遣された血気盛んな操縦者が勝手な行動を取って余計しなくていい破損をしてしまう恐れがあるからだ。回復能力を持つ箒の紅椿の『絢爛舞踏』も同じ理由で、現在はヤタガラスの注意を引き付ける役目を担っていた。

 

「何なのよホントに、堅いったらありゃしない!!」

 

 もう何度目か分からない程、ヤタガラスの装甲に双天牙月も刃を突き立てた鈴音がそう吐き捨てた。

 堅牢とも言えるヤタガラスの黒い鋼のボディはどの様な威力を持った武器でさえ、表面にはかすり傷程度しか負わない。こうなるとシールドエネルギーも消費していないだろう。

 ヤタガラスの防御力は並ではないと知り、思わず歯噛みしてしまう。その上迎撃機能も備わっており、逆に箒達自身のシールドエネルギーだけが削られていく。垂れ下がった三本の脚にある合計9つの爪は誘導弾。一度打てば直ぐに次が装填される。何度避けても直ぐに次の爪が飛んでくる。

 

「流石にきついな……だが、何故だ?」

 

 飛んできた爪を切り捨て、ヤタガラスの各部に備わっているCIWSを避け続けながら箒は呟いた。

 生徒最強の楯無を含めた強豪とも言える精鋭たちが敗退した。それに対し、自分たちは彼女らとは実力が下なのにまだ誰一人として撃墜されていない。単純に自分たちが優秀とは思えない。自分たちは遊ばれているのだろうか、それとも何かを待っているのだろうか。

 

「くっ、仮に遊ばれているにしても理由が分からなくてはッ!」

 

 雨月を振るいながら吐き捨てた箒。その額に汗が流れ、深いと感じながらもそれを拭う余裕すらない。

 今度は空裂を構え、ヤタガラスを見据える。

 

 

 

 

 ミーティアのチェックを終えたカナード達は先行した簪達が要救助者達を保護し、巨大ISと対峙している報せを受けていた。

 待ってましたとばかりに一夏は手の平に拳を打ち付け、その後ろではカナードがアサギ達から説明を受けていた。

 

「いい? 種や種死みたいにバカスカビームやレーザー出せないんだからね?」

 

「むしろエネルギー効率の問題だな。 出来たとしても連続可動時間は五分以下だ」

 

「下手したらそれ以下かもね」

 

「そろそろ時間よ。 織斑君も白式を展開して。 追加装甲を付けます」

 

 眼鏡の位置を直して朱里が言った。

 何事かと疑問に思いつつ白式を展開した一夏。すると手の空いた作業員が外付けの武装を次々と用意しては両腕部に二連装のガトリングが一セットずつ、さらにそこに物理シールドを追加。更に同じものを背部に一セット。その脇にはミサイルポットを詰めた小型コンテナを備え付けたバズーカ砲が二挺追加される。両足にも小型ミサイルコンテナが装備され、おまけとばかりにブースターユニットが二つ装着された。

 これは、そう。まるで……

 

「ってこれフルアーマーユニコーンじゃねぇかよ! おいカナードどういうことだよ!! 俺は可能性の獣かッ?!」

 

「ま、どっちかってーとフルウェポンだわな」

 

「いやだからそういう意味じゃねーよ!!」

 

「慌てんなっての。 雪羅代わりだよ」

 

 曰く、シールドエネルギーの燃費が悪いエネルギー武装の代わりにミサイルやバズーカなどの実弾攻撃や、ブースターユニットによる移動でいざと言うときの為の『零落白夜』が温存するための措置だ。

 確かに、と一夏は納得する。ここ最近の訓練でも『零落白夜』や雪羅の荷電粒子砲等の無駄撃ちによる敗北は目立たなくなったものの、訓練後の残留シールドエネルギー値もカナード達と比べて一番低い。

 理由に納得した一夏を見て、カナード自身も愛機を展開しミーティアを装着する。両腕の延長たる大型アームは大型レーザーもサーベルも出ないが、ミサイルハッチが複数存在する。まるで動く弾薬庫だと独り言ちるカナードはハイパーセンサーを通してくるミーティアの情報処理をフリーダムに任せ、開いて行く天井の隙間から覗く青空を見上げた。

 

 

 

 

 シールドエネルギーの心配は箒の紅椿の単一仕様『絢爛舞踏』で解消はされるものの、弾薬や操縦者の疲労は流石に回復はされない。幸いにもヤタガラスの装甲の一部に深い傷を負わせることが出来た。斬撃を一か所に集中する事で出来たのだ。

 しかし、その代償は小さくなかった。刃が(こぼ)れだした雨月と空裂を見て、箒は思わず舌を打ってしまう。

 

『何と言う堅牢(かた)さだ……』

 

 空母から届く千冬の声音に戸惑いの色が混じっていた。恐らくは簪らと同じ感想なのだろう。

 

「これだけやってもまだ健在ですの?!」

 

「……私たちは遊ばれていた。 どうやらその仮説が当たったわけだ」

 

 冷静に分析するラウラは頬に流れる汗を拭う。

 すると、ヤタガラスが耳障りな機械音を発したかと思うと、その各部から今度は駆動音が響く。

 三本の脚は向きを反転し、上部ユニットは装甲が開かれてその中身を露わにした。

 変形を遂げたそれは、古来より日本に神話として伝わる三本足の鴉(ヤタガラス)そのものだった。上部ユニットは一対の翼と尾羽に開き、隠された頭部の眼が赤黒く輝いていた。

 名は体を表すと言うよりも、その名の通りの姿と言えよう。黒い鳥型のボディに三本の脚、正しくそれは日本神話に登場する鳥…八咫烏(ヤタガラス)だ。

 その一部始終に驚く箒達だったが、何よりも衝撃的だったのはその胴体部分。一人の女性が十字架に磔にされているかのような体勢で、ヤタガラスを操縦していた。指先足先が筒状のコンソールに包まれ、外に露出しているのは胴体と頭のみだった。

 獣の様に笑い狂うその操縦者を、簪は知っている。

 

「ひゃーーっははははははははははははははは!!」

 

 かつて、京都旅行のあの日。リニアの運転席から見たアラクネーの操縦者。オータムがそこに居たのだ。

 もはやそれは操縦者や搭乗者の括りではなく、パーツと言う単位でしかなかった。何度か相対する度に人間性を失われていく彼女を見て如何に亡国機業が恐ろしい組織である事が嫌でも理解できる。

 変形してすぐにヤタガラスがどんなものか、簪達は体感する。

 変形した事により、頭部やそこかしこに仕込まれた火器などの高火力が得られた。更にそれに加え変形前の装甲の堅牢ささえも顕在している。これにより簪らはその高火力に翻弄され、いたぶられるばかり。

 楯無らが撃墜されたのも納得がいく。変形前の風鈴の様な形態は恐らくはエネルギー節約の為のセーブモード。そしてその名の通りの形態が戦闘用の形態なのだろう。

 

「……楯無さんが負けた理由が良く解る。 単純な力ではあちらの方が上か!」

 

 圧倒的すぎるヤタガラスの存在に勝利をイメージする事は出来ず、ラウラが考察する。

 だがしかし、対策が無い訳ではない。

 

「箒、雨月の稼働状況は?!」

 

「大丈夫だ、すこし歯が毀れただけだが問題は無い!」

 

「だったらそれをアイツの胴体に集中的に使って! こっちも山嵐を使うから!」

 

 つまりは弾幕を張りヤタガラスに当て、体勢を逸らせること。その隙に攻撃を集中させるのが簪の狙いだ。その狙いが理解できた箒は空裂を収納し、雨月を両手で握り構えを取る。その間に簪は山嵐の調整を行っていた。

 最後の修正を終えた瞬間、山嵐の一斉発射と同時に箒は雨月を力強く振るう。

 撃ちだされたミサイルと光弾が広範囲に広がった。

 その結果、簪の予想通りヤタガラスに直撃しほんの少しではあるが隙を見せた。好機とみてシャルロットのフルバースト攻撃を皮切りに、彼女たちの反撃が始まった。どんなに堅かろうと力を一点に集中すればダイヤモンドだって粉々に出来る。

 狙うはヤタガラスの喉元。オータムの頭上に集中的に攻撃を与えていく。黒い装甲は徐々に傷ついて行くが、それだけだった。

 オータムが獣のように叫び嗤う。そんなモノなど通用しないと言わんばかりに。

 

「あーっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

 

 ヤタガラスの眼の輝きが更に紅く、更に強く輝いた。

 その瞬間簪らに緊張が走った。そして見た。上下に開いた(くちばし)が左右に分割し、砲塔が太陽光を反射させてその姿を現せたのを。

 しかもその射線は簪らではなく、彼女らの背後…海自の空母だ。光が収束されつつある砲塔に近づけさせない様に、ヤタガラス各部のCIWSが一斉に機動する。

 収束が完了し誰もが諦めた瞬間、突如ヤタガラスの頭部が爆発した。エネルギーが臨界に達した頭部レーザー砲が直撃を受けてヤタガラスの頭部を巻き込んで爆発したのだ。

 攻撃する隙が与えられなかった簪らは、待ってましたと言わんばかりに振り向いた。

 

「ふぃー、間に合った見てェだな!」

 

 白亜の大型ユニット・ミーティアを装備したフリーダムを装着した大和カナード。

 

「千冬姉をやらせるかよ!」

 

 そして、追加武装だらけの白式を装着した織斑一夏。

 先程の爆発は白式に装備されたブースターユニットを切り離し、ミサイルの代わりに発射しそこにミーティアのミサイルを発射し、砲塔ごと爆発させたのだ。

 

「悪い簪、遅くなっちまった」

 

「ううん、私たちは大丈夫。 それよりも、お姉ちゃん達を空母に」

 

「分かった。 一夏、会長たちは俺が保護するから後は任せた!」

 

「応、任された!」

 

 背部に備え付けられたバズーカを両手に持ち、狙いを定めながら一夏はカナードに返す。撃ちだされた弾は散弾で破壊され、残った弾はヤタガラスのボディに直撃した。

 手ごたえが無いことに一夏は歯噛みする。

 

「一夏、奴の装甲は堅牢だ! 狙うとすれば頭のあった場所を狙え!」

 

 穿千を呼び出して冷静に弱点に気が付いた箒の言葉に一夏はその場所を見やった。

 回路や配線がむき出しになった頭部。先程の爆発で出来たそこが活路だ。そこを狙えばヤタガラスは活動を停止する。

 しかし、そうはさせてくれないヤタガラス。三本の脚から撃ちだされる9つの爪。撃ちだされては直ぐに装填されまた撃ちだされる。弱点が露出した事でより近づきにくくなってしまった。

 弾が無くなったバズーカやミサイルポットとヒビが入り始めたシールドを切り離し、飛来する爪を両腕のガトリングで撃ち落とす一夏は何とか近づこうとするが、羽ばたき移動するヤタガラスは決して速いとは言えないが各部のCIWSも相まって零落白夜すら使えない。

 背後を取ったラウラのリボルバーカノンに簪の春雷、そして箒の穿千が一点に集中する。すると、ここに来てやっとひびが入り始めた。更にセシリアのティアーズビットが右翼を、シャルロットと鈴音の猛攻により左翼にもひびを入れた。

 あと少し、もう少しで止められる。そう望んでいた一夏達であったが、既にシールドエネルギーの残量が残り四割を下回っていた。

 絢爛舞踏も搭乗者である箒本人のスタミナが切れかかっており、いくらシールドエネルギーを回復したとしても現時点で四時間を優に超えた連続戦闘時間の中で疲労が蓄積されている。それに一夏の方もスタミナが不足しており、残りシールドエネルギーも零落白夜一発分しかない。

 無理に攻め入ったとしても、CIWSに迎撃されシールドエネルギーが底を突くことは目に見えている。

 ――もう無理か。と、一夏が内心思ったその時、カナードが再び合流した。

 

「どうしたんだカナード。 やけに遅かったな」

 

「いやー、救助した後俺も行こうとしたんだけど……ね、血気盛んな操縦者のお姉さんがいちゃもんかけてきて織斑先生に助けてもらえなかったら更に遅れてた」

 

 ラウラの問いにカナードが冷や汗を掻きながらそう答えた。やはり一夏よりもカナードがISを操縦する事に難色を示す操縦者はいるのだ。こういう状況でもいちゃもんの一つくらい言いたくなるのは少しおかしい気がするが、何はともあれ今は目の前の状況を片づけるのみだった。

 ミーティアの大型アームの先端。元ネタ的には大型レーザーブレードが出るのだが、現実的に出てくるのは打鉄にも採用されているブレード『葵』と同系統の大型の実体剣、名は『芙蓉(ふよう)』だ。ついで、ミーティアの特徴とも言える推進力。爆発的に生み出された推力で一気にヤタガラスに突っ込むカナード。両アームの芙蓉がヒビが走ったヤタガラスの翼を刺し貫いた。

 

「どぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 勇ましい雄たけびをあげ、無理やりこじ開けるかのようにその翼を破壊した。

 これで頭部のあった所と合わせて三か所の弱点が生まれた。今が好機(チャンス)と見てトドメを刺そうとしたその時、黄金の輝きを放つ機影がカナード達の前に立ちはだかった。スコールとその専用機、ゴールデン・ドーンだ。

 

「よくも………、よくも父さんを!」

 

 一夏の父・春十に銃撃を加えた張本人を前に、一夏は激昂し雪片で切りかかるが、手練れでもあるスコールの前では赤子同然にいなされてしまった。

 

「勘違いしないでくれるかしら。 私の目的は貴方たちじゃなくて、あくまでオータムただ一人なの」

 

 そう言ってスコールは、磔の搭乗者の頬を撫でながらカナード達を見た。

 

「……」

 

「ま、信用しないならそれでいいわ。 実を言えば織斑一夏、貴方のお父様にはほとほと嫌気がさしたのよ。 会えるかどうかも解らない上に生きているのか死んでいるのかさえも解らない妻の為に、私の愛しい恋人(オータム)をモルモットにするから。 だから貴方たちも、もうこれ以上彼女には手を出さないでくれるかしら?」

 

「だが、そう言う訳にも行くまい!! 貴様は然るべき場所で然るべき罰を受けるべきだ!!」

 

 ラウラが強く言った。

 話の通じないやつらだ、とスコールは小さく呟くとヤタガラスの頭部のあった部分に己の身を合せた。その恰好はデモンゾーアの頭から生えたカミーラの様に。ゴールデン・ドーン自体もヤタガラスと合体していき、コントロールがスコールに移る。しかし、無理に合体をしたせいなのか、所々スパークが走っている。

 

「いま、ヤタガラスの自爆装置を作動したわ。 あと一時間もしない内に半径10キロの爆発を生むわ。 もうこれ以上、オータムを苦しませるわけには……」

 

「なっ?! 貴女は……貴女は死んで逃げるって言うんですか?!!」

 

 カナードが叫ぶ。しかし、スコールの決意も堅い様で、CIWSで弾丸のカーテンを張りその隙にヤタガラスはカナード達から大幅に距離を取り、スピードに乗ってそのまま海中へと沈んでいった。

 一方の空母の方から千冬の退避の指示が飛んだ。艦橋からでもヤタガラスのコアの反応を確認し、残り爆破時間もスコールの供述とも一致している。カナード達も空母に着艦し、それぞれ展開を解いて海原を見た。

 

「………何で」

 

「え?」

 

「何でこんな結末になったんだ……」

 

 憂える瞳をしたカナードが、握り拳を作りながら言った。

 春十の目的は『ダブルオー』を使い、白式のコアから彼の妻で、千冬と一夏の母・秋百(あきえ)を救い出す事だった。そのためにヤタガラスと言う巨大ISを建造してオータムを調整し、手薄になった学園にМとスコールを連れて現れて。何も相手から奪うだけが道では無い筈だ。もっと他に道もあったはずではないのか。

 一夏もカナードと同じだった。なにもあの場で学園で銃撃せずとも、機業の社長ならばそれなりの手順を踏んでその座を降ろすことだってできる筈だ。それなのに、どうしてこんな行動にでたのだろう。

 

「それ程……それ程あの女の人にとってオータムって人が大切なんだと思うな。 それに私だって、カナードがあんな風にされたら我慢ならないよ」

 

「簪……」

 

 カナードの疑問に簪がそう答えたその時、轟音と共に巨大な水柱が上がった。轟音はヤタガラスの断末魔。水柱はその墓標の様にカナード達には見えた。

 

 

 

 

続く




今回一番やりたかった事。

ガイナ立ち
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