インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
張り切りすぎたせいか、少々長めになってしまいました
一話 ストライク起動
桜舞う四月、カナードは来月には16歳になる高校一年生になっていた。が、彼がいるのは普通の高校ではない。右を向けば女子、左も女子、前も後ろも女子、ななめも女子、でも少し離れた場所に男子が一人。その男子は目の前の教師から自己紹介をするように言われた。
「織斑一夏です……っとその…よろしくお願いします」
たったそれだけの挨拶、そして女子の黄色い歓声。やはり原作通りか、とカナードは内心思う。その後の一夏と実姉である千冬とのやり取り、千冬の挨拶と彼女を慕うその他の女子生徒の黄色い歓声、やはりここも原作通り。しかし、自分はイレギュラー、介入することによって展開が大きく変わることがあるのかもしれない。そう懸念していると、千冬がカナードを指名する。
間をすっ飛ばしてカナードに自己紹介をさせるのは、手本としてなのだろう。カナードは席から立ち、自己紹介を始めた。
「大和カナードです。 大和生物機械技術研究所の研究員でもあります。 ですが、自分の本業は学生ですので、座学や訓練等に励み、充実した学生生活を送ろうと思います。 三年間、よろしくお願いします」
終わってコンマ一秒ほどで黄色い声。彼女らの言葉を全て受け流し、静かに席に着いた。
「どうだ分かったか、織斑。 これが自己紹介だ」
言われて申し訳なさげに頭をうなだれる一夏に、カナードは少しばかり同情する。
その後は簡単なレクリエーションだけで、一時限目は終わった。
◇
休み時間が始まってすぐ、カナードの席の周囲に女子生徒が集まりだすと、質問攻撃。視界の端で一夏とその幼馴染みである篠ノ之箒の二人が教室の外に出ていった。
転生前からファース党だった彼は二人の仲を応援しつつも、冷静に質問攻撃一つ一つに対処していった。
「ねぇ大和君、いつから研究員やってるの?」
「小学校入学と同じだが?」
「お~、新手の冗談か何か?」
「いや、マジだ……つっても信じないか」
「じゃあさじゃあさ、好きな女の子のタイプは?」
「ん、しいて言えば……面倒見が良く、腹割って話せる相手だな。 これくらいだな」
「じゃあ最後に質問、どこでIS動かしたの?」
「さっき言った研究所だ。 研究用の打鉄の構造を理解して、こちらもISを開発して企業に売ろうとして……俺以外の研究員の男たちが触ってて…で、俺も触ったら今に至るって訳だ」
言い終えると同時に、二時限目の授業が始まるベルが鳴った。それを耳にした女子生徒たちは颯爽と去っていった。余程千冬が怖いのか、それとも根が真面目な連中なのかとりあえずカナードは彼女らに感心する。
◇
二時限目の休み時間になると、織斑一夏がカナードの席に近づいてきた。同じISが扱える男同士、親睦を深めようとの事だろう。そう思ったカナードは出来るだけフレンドリーに接した。
「初めまして織斑君。 俺はカナードだ、名前で呼んでくれればいい」
「お、おう。 俺も一夏で良いぜ、カナード」
「しかし……どうやったら必読の文字が書いてある本を振るい電話帳と間違えるんだい? 違う意味で敬服する」
「ううっ。 ほじくり返すなよ……」
「いや、済まない。 同じ男のIS使い同士、互いに精進しよう」
カナードの差し出した手を、一夏は握り返した。
この時教室の一部では腐った女子の妄想があったようだが、カナードも一夏もそんな事知る由もなかった。と言うより、知る必要もなかった。
ところで、と一夏がカナードに本当に研究員かどうかを尋ねた。カナード自身飽きるほど聞かれた質問なのだが、快く一夏に答える。
「リアルに研究員だ。 詳しい事はあまり話せないが、見学だったら俺が口添えしとくぜ?」
「それはありがたいな」
「日にちが決まったら伝えるよ」
見学の件は一夏にだけ聞こえる様な小さい声で話した。見学者が多いと、他の研究員にも迷惑を掛けるのではないかと危惧しての事。小学校と中学校の友達を呼ばなかったのもこのためだ。が、一夏にそれを切り出したのは、彼が少なからず良識人であることをカナードが知っているからだ。
そろそろ三限目が始まる。その時間もISの座学だ。
◇
放課後、カナードと一夏は教室に残っていた。座学が少し駄目な一夏にカナードが出来るだけ分かり易く解説していた。そこに、担任である千冬が二人に声をかけ、鍵を手渡していた。番号を見ると、一夏が1025号室、カナードはその隣の1026号室だった。
何故いきなり寮なのか、何故部屋番号が違うのかを問う一夏に、千冬が答えた。
「いいか、お前らは国の保護プログラムによって、今日から寮生活だ。 部屋割りに関してはこちらの手違いだ、本来なら大和と同室だったのだがな」
「着替えとかはどうするんですか」と、カナードが千冬に問う。
「織斑の方は私が、大和の方は親御さんが持ってきた。 織斑は着替えと携帯電話の充電器だけでじゅうぶんだろうが、大和の方は色々と大変だな」
「ええ、まぁ……」
千冬から鍵を受け取った一夏とカナードは寮の方へと向かった。
その道中、カナードの携帯電話に着信が入った。相手は同じ研究所に居る同僚の一人だ。回線を開いて出ると、あるモノを持って来ているとのことで今から指定の場所に来いとの事。察しがついたカナードは一夏に一言言って、直ぐに指定の場所へと向かった。
その場所とは主にISの製造設備などに使用する整備室。その一角で、カナードに気が付いた一人の白衣の男が手を振っていた。
「持って来てくれたんですか?」と、カナードは言った。
「まぁね。 それにしても入るのに手間取ったよ」
白衣の男の名は窓木小次郎。カナードと同じ頃に研究員になった青年だ。
「ごめんなさい窓木さん。 お忙しい所を…」
「いやいや、そんなことないよ。 それにしても、これ……ISだよね? ユーレン教授が持って行けって言ってたけど…」
小次郎が持って来たという二メートル強の幌が掛かった物体を指さしながら言った。
「そうですね、俺の……専用機と言っておきましょう」
◇
翌日、一夏とカナードが前の授業で出ていたことの簡単な復習をしていると、上品さを漂わせている女子生徒が二人に声をかけた。一夏は知らないだろうが、カナードは知っていた。女子生徒の名はセシリア・オルコット。前世で原作を知っていたカナードは出来るだけ穏やかに接しようとするが、先に一夏が答えてしまう。
「少しよろしくて?」
「ん?」
「まぁ、何ですのそのお返事は?」
原作を知っていたカナードは最低でもこの事態を起こしたくなかった。が、やはり避ける事は出来ないのかと、カナードは頭を抱えたかった。
「申し訳ない。 一夏がとんだ失礼をした」
「あら、そちらは礼儀がなっておりますのね。 私の様な者に声をかけられた事を、光栄に思う事ですわね」
やはり彼女は今の世相…女尊男卑を擬人化したような感じだとカナードは思う。
「私の名はセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生にして学年首席でありますの」
下手に刺激しないよう細心の注意を払おうとするカナードだが、一夏はそんなもの知らない。
「じゃあ、質問」
「下々の者の意見を聞くのも貴族の務め、何ですの?」
次の一夏の爆弾発言を防ごうとするカナードだが、防ぐ事はかなわなかった。
「代表候補生て……何?」
その瞬間、カナードは頭を抱え、周囲の女子たちは盛大にコケた。一夏からすれば疑問に思った事を素直に聞いているのかもしれないが、傍から見れば同じISを扱える人間なのにその知識がない人間にしか見えなかった。
「読んで字の如く、国家の代表の候補生…例えばそうだなぁ、オリンピック選手の候補と言ったら良いかな? で、ISの代表候補生になるには、かいつまんで話すと相当辛い努力が必要なんだ」
カナードが代表候補生について分かり易く説明すると、気を取り直したセシリアが続いた。
「…とにかく、本来ならば私の様な選ばれたエリートと同じクラスになるだけでも幸運ですのよ? お分かりになって?」
「そうか、それはラッキーだ。 なぁ、カナード」
「一夏、それじゃ皮肉だ」
そう小さく呟いたカナードの言葉は、一夏たちの耳には届かず、セシリアの堪忍袋は切れかかっていた。いつ噴火するか分からないセシリアと言う名の火山はあくまでも冷静にいようとしているものの、つい語尾が強くなってしまっていた。
「ば、馬鹿にしてますの?!」
「別に」
「一夏もうお前黙ってろ。 火に油注いでどうする」
一夏の発言に業を煮やした彼女は憤慨しつつ、訳のわからない持論と理屈を並べ、女尊男卑の世界で自分達女性が優位に立っているとの事か、一夏とカナードを見下している彼女は終いに期待はずれと吐き捨てた。
「まぁでも、私は優秀ですからあなたの様な人間にも優しく接してあげますわ。 ISについて解らないのでしたら泣いて頼んでも宜しくてよ。 教えて差し上げますわ。 何せ私は、入試の際に共感を唯一倒す事が出来た、いわばエリート中のエリートですわ!!!」
長いセリフをかまずに言えたセシリアを見て、一夏はまたも爆弾発言。
「それなら俺も倒したぞ」
「…えっ?」
「申し訳ないけど……、俺も」
「カナードもそうだったんだな」
「わ、私だけだと聞きましたわ!? あ、貴方方も教官を倒したと言いますの?!!」
その時、授業開始の鐘が鳴った。カナードにとって救いになったが、セシリアにとってはタイミングが悪い事態。結局セシリアの聞きたかった事実は聞けずじまいになってしまい、仕方なく席に戻った。
千冬と真耶が教室に入り、通常通り授業に入ると思ったが、何かを千冬が思い出した。それがクラス代表についての事とこれから起きる事をカナードは知っていた。
「そうだ、諸君の中からクラス代表を決めようと思う。 まぁ言ってみれば、学級委員みたいな役職だ。 決まれば一年間変更は出来ないから覚悟をしろ。 自薦他薦は問わないが、他薦されたものは拒否は出来ない」
「織斑君を推薦しまーす!」
「私は大和君を推薦します!」
集中する一夏とカナードを推薦する声。彼女たちには彼らが珍しいからなのか、それともその器があると思っての事なのか、推薦されているカナードからしてみれば、恐らく前者なのだろうと苦笑いしていると、セシリアが抗議に出た。
「お待ちください!」
「何だオルコット?」
「私は納得がいきませんわ! その様な選出は認められません! 大体男がクラス代表などいい恥さらしですわ! 私に、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか?!! 実力から言えば、私がクラス代表になるのは当然で必然! それを珍しいからと言ってそのような理由で極東の
「いい加減にしろ!」
一夏よりも先にカナードが激怒。言葉一つ一つに怒りを込めながら、カナードはセシリアに対して強くいった。
「大体なんだ? 男がクラス代表が恥さらしだぁ? そんな決定権が貴様にあると思っているのか! それが嫌なら自分から自薦しろ!! それとも何か? エリート様は他薦されなきゃ出来ない軟弱者ですかそうですか。 それに極東の猿? 人種差別も甚だしいね、アンタ忘れてないか? ISの開発者と俺らの担任の先生、この二人はお前が言う猿なのかい? まったく、イギリスは紳士淑女の国だと聞いてはいたが、アンタは自国の顔に泥を塗っていることに気が付かないのか?! それでよくまぁ代表候補に選ばれたよ、尊敬するよ、中身がもっと上品だったらね。 そう言うんだったらイギリスにも大した伝統がおありなんでしょうね、シャーロック・ホームズにウィンブルドンにサッカーと。 でもね、世界一マズイ飯何年覇者だよ逆に尊敬するよ!!!」
「あ、貴方私の国を…」
「シャラップ!! 先にお前は俺たち日本を侮辱した。 それで御相子だと何故気付かん! 自分の意見を押し強めるのがイギリス人なのか?! 代表候補なのか?!! それがお前と言う人間なのか?!!!」
「ぐぬぬ……ならば、決闘ですわ!! それでクラス代表を決めませんか?!」
「上等だよ。 ねぇ、一夏君」
「なぜ俺に振るんだ? でもま、四の五の言ってるよりかはその方が手っ取り早い。 ハンデはどれぐらい付ける?」
「あら? もう負けを見越してますの?」
「いや、一夏が言ってるのは、ハンデを負うのは『アンタが』じゃなくて、『俺たちが』ってこと」
カナードが言ったその時、殆どの女子が笑い声をあげ、代表して一人が笑いながら言った。
「あのね大和君織斑君、男性が女性より強かったのって何年も前の話だよ……ぷふぅっ!」
最後には噴き出していたが、対するカナードはニヤッと口角を吊り上げながら、冷静に言った。
「そんな方式、誰が決めた? 同じ土俵に立った者の間には絶対なんてない。 そんな方式、捻じ曲げてやるよ」
言い終えると、千冬が強引に締めくくり、決闘は一週間後でそれまでカナード、一夏、セシリアの三人に当日万全の状態に挑むように言い渡した。
◇
それから数時間後の食堂。一夏は箒とカナードを昼食に誘っていた。簡単な作戦会議と見たカナードは、注文した醤油ラーメンを啜りながら提案する。
「確か、一夏と箒って剣道やってたんだって? だったら当日までさ、二人で剣道の練習したらいいんじゃないかな?」
「なっ、何を唐突に…!」
箒が戸惑いながらそう言い、更にカナードは続ける。
「前に新聞かニュースで見たんだけど、箒が剣道の大会で優勝したのは事実だろ? ISを動かす基礎運動になるし、何よりISの性能が良くても動かす本人がひょろひょろモヤシだったら形無しだろうね」
「そうは言うけどさ、カナードはどうなんだ?」
アジフライをかじりながら一夏が言った。当のカナードは飄々とした表情で更に続けた。
「そだね、俺は仮にも研究者だけど運動不足にならない程度に体は動かしていたし、たまに軽いスポーツをしていたよ。 趣味程度だけどね」
そうカナードは言うが、一夏と箒はいまだにカナードが研究者だという事を信じていないようである。彼らの様子に苦笑いしつつも、ラーメンのスープを飲み干して食器を片づけながら二人に言った。
「そうだ、放課後君たちに見て貰いたいものがあるんだ今から言う場所に、放課後来てくれるかい?」
その場所の名前を言うと、カナードは去り際一夏の耳元で小さくささやいた。
「君と箒が結ばれることを願うよ。 決めるのは君自身だけどね」
そういうと、カナードは振り返らずに食堂を後にした。悪ふざけが過ぎたか、と反省しつつ時間を確認しつつ自室へと向かった。
部屋に戻ると、カナードは真っ先にデスクの椅子に座ると、投影パネルのディスプレイを起動し付属のキーボードのキーを叩いて行く。これも生まれ持った才能なのか、キーを叩く指の速さは並外れた速さである。転生の恩恵が複数あるとは贅沢だなと思うカナードだが、今は目の前の作業に集中したかった。
「パワーフロー、コアネットワークシステム、火器管制システム、良好。
ディスプレイにはあるISの基本設計が映し出されており、先程カナードが入力したのはその最終調整で、あとは本体の最終調整を行い、このデータを機体にインストールするだけで完成する。
クラス代表決定戦までには間に合いそうだ。そういいざるを得ない程だった。
時刻を確認する。授業開始十分前だとわかると、カナードは作業の手を止めて教室へと戻った。
◇
「織斑の機体だが、訓練機の申請が降りない為、こちらで専用機を用意する事となった」
四時限目開始とともに、千冬がそう言った。が、当の一夏は何の事やらと言わんばかりの表情をしているところ、カナードが補足説明する。
「一年になりたてのこの時期に訓練機を回す予定が無いから、学園側で一夏に専用機が用意されるって事」
「って事は、それスゲェ事じゃないか……、って待てよ? カナードはどうするんだ?」
「大和の機体だが、自宅である研究所で開発したISを使用する事となっている。 そうだな?」
「ええ、後は細かな調整で終わります」
周囲から彼ら二人を羨ましいとの声が聞こえていたが、カナードはそんな声など聞き流していた。ふと、セシリアの方を見ると、悔しいと言わんばかりの表情をしていたのがカナードの視界に入っていた。
◇
放課後、カナードに言われた場所である整備室に訪れていた一夏と箒はそこで幌に覆われた二メートル強の物体を目にしていた。これがISだという事は直ぐに分かった。
「先に来ていたのか」
彼らの後ろでカナードが学園の制服の上に白衣を着た姿をしており、手にはタブレット端末が抱えられていた。
一夏と箒の脇を通り、勢いよく幌を取り除いてカナードはそこに鎮座していたISとタブレット端末をコードで繋いだ。
「これで俺が研究者っての、理解できた?」
「す、すまんカナード」
「私も一夏も、正直半信半疑だ。 もしかして小学校入学と同時に研究者になったのも……」
「そのとぉおーり! おかげで自分専用機を製作するまでに至れたよ」
「け、けどコアは? 確かあれは世界に400個以上あるんだろ?」
「そ、量産の打鉄とラファールを含め、467個のコア。 その内の一つが運よく手に入ってね。 入学準備期間に開発し始めたんだけど、後は今のこの状況だよ」
一夏の言葉にカナードは笑顔で答える。
「今日二人に来てもらったのは、最終調整を手伝ってもらいたいからなんだ。 難しい事じゃない、展開時のオプション装備を二人に決めてもらいたいんだ」
コードがつながっている状態のタブレットを、カナードは言いながら一夏と箒に手渡した。そこに映っている物は、身の丈ほどの大きさの大剣装備の近距離型、ライフルとシールドと大型スラスターの三セットの中距離型、大口径レーザー砲とミサイルランチャーを装備した遠距離型。それら三つだった。
先に提案してきたのは一夏だ。彼は接近戦装備で良いだろうと言うが、それを箒が否定する。
「いいか一夏。 私たちはオルコットの機体がどのような装備かを知らないんだ、うかつに接近戦装備にして相手が射撃特化だとしたら、それはいい的だ」
「あ、確かに。 俺たち三人オルコットの機体がどんなのか知らなかった…」
その三人の内のカナードは前世でセシリアの機体を粗方知ってはいたが、敢えて知らないふりをした。下手に言うと何かが壊れる気がしたからだ。
最終的には箒が提案した中距離戦装備に決定した。
「今日はありがとな、一夏に箒」
「いや、俺もずぶの素人だからさ、少し学べた気がするよ」
「そうだな。 まだ時間もある。 一夏、修練場に行くぞ、今から稽古つけてやる」
整備室を去る二人の背中に手を振って送り出すと、カナードは誰もいないはずの整備室に響き渡るような声で喋りだした。
「隠れてないで出てきな。 話をしよう」
反響が無くなると、機材の陰から蒼い髪をして眼鏡をかけていた女子生徒が姿を現した。
「急に声をかけて申し訳ない。 俺は一組の大和カナードだ」
「……簪」
女子生徒は自分の名を名乗ると、再び隠れようとするが、カナードが再び声をかける。
「噂は聞いているよ。 でもね、これだけは言っておく。 自分と言う人間は他人にはなれない、自分は自分であって他の誰でもない。 相手が姉だろうと何だろうと……ね?」
言い終えると、簪は機材の陰に再び隠れていた。
カナードの前世の記憶が正しければ、彼女の正体は更識簪。生徒会長である姉がコンプレックスであること。そして、自身の専用機打鉄弐式の開発が現時点で手詰まっていること。いま
◇
決戦と言う日には太陽と青空が良く似合う。とカナードは待機状態の専用機である左腕に巻いたリストバンドをなでながら思う。一夏の専用機が先程届いたのだが、一番手はカナードに決まった。今彼がいるのは代表決定戦の為に使用しているアリーナのピットである。
「来い、ストライク!」
主の声に応えるかのように、左腕のリストバンドを中心に眩い光。それが止むと、カナードに純白の装甲、レーザーライフル、大型のシールド、そして大型スラスターのエールストライカーが装備された。
これがカナードの専用機、ストライクである。装着が完了すると、両足をカタパルトに固定。前傾姿勢を取った。
『発射タイミングを、大和君に譲渡します』
ピットの管制室から通信が入った。あとは自分の好きなタイミングで射出される。
「大和カナード、ストライク行きます!」
ブザーが鳴ると同時に、カナードは大空へと飛翔すると、装備していたスラスターの折りたたまれたウィングが展開された。
カナードの目の前では、対戦相手である第三世代ISブルー・ティアーズを纏ったセシリアが腕組みの体勢から、メインウェポンであるスターライトMarkⅢを展開する。
「今までの非礼を詫び、私の奴隷となるのであらば、ここはおとなしく引いて差し上げますわ」
「それがあんたのハンデかい? 冗談はその態度だけにしなよ」
言い切ると、ストライクのハイパーセンサーが反応する。相手のセーフティーが解除された事を示している。銃口がこちらに向かれる前に、カナードは上昇しレーザーライフルの引き金を引いた。撃ちだしたレーザーはブルー・ティアーズのショルダーアーマーを焼いた。
そこからカナードは止まることなく引き金を引き続けるが、業を煮やしたセシリアが四基の機体と同名の
「踊りなさい! 私とブルー・ティアーズの奏でる
「そんなのやだね!」
レーザーライフルの残量は一割程度、最後まで撃ち切る訳でもなく、それをビットに向けて投げ飛ばしヘッドギアから小型小銃でレーザーライフルを爆発させた。これで浮遊しているビットは残り三つ。これからどう料理してやろうかと、シールドで防ぎつつ思案していた。
カナードが背面から白い円筒の物体を取り出すと、円筒の物体からビームサーベルが出現。右手でそれを振るい、ビットをテンポよく落としていく。浮遊物体が全て落とし切ると、今度は両手に一本ずつビームサーベルを持った。
「さて、分身たちは消えたぜ? Lady?」
「お生憎さま、ブルー・ティアーズは四基だけではありませんのよ?」
「腰部左右のそれが五基目と六基目だろ? 撃ってみろよ」
言い終えると同時にカナードはセシリアに突貫。間髪入れずにセシリアがミサイルビットの火を吹かそうとするが、直前にカナードが持っていたビームサーベル二本でミサイルビットの砲塔を刺し貫いた。
「く、インターセプ…あぁっ!」
接近武器を呼び出そうとするセシリアを蹴り放したカナードはエールストライカーとシールドをパージする。替えの武装を拡張領域から呼び出した。遠距離戦闘武装を呼び出すと、右肩にはバルカン砲とミサイルポットが併合したユニット、そして背面には大口径荷電粒子砲『アグニ』がマウントされたランチャーストライカーが装備された。
左わきに
引き金を引くと極太の荷電粒子の筋が真っ直ぐにセシリアを包もうとしたが、彼女はスターライトMarkⅢを破壊されただけで、間一髪避けた。
「(あちゃー、やっぱシールドエネルギー減っちゃってるし……早めにきりかえるか)ランチャーパージ、ソードストライカー!」
カナードは掛け声と共にユニットとストライカーをパージし、近接戦闘装備を選択。左肩にはビームブーメラン、同肘にはアンカーワイヤー、そして背面のストライカーは大剣『シュベルトゲベール』が供えられたソードストライカーが装備され、カナードは両手で大剣を握りしめて構える。カナードの知る限り、彼女…セシリアの武装はあのインターセプターただ一つ。
「私をここまで一方的に追い詰めるなんて、貴方本当に素人ですの?」
「触れたのは中三の時、人生初装着もその時。 で、実際に動かしたのは昨日一昨日くらい。 後は自分の機体特性を十分に理解したくらいかな」
「なら! そんな素人のあなたに、何故私が!」
「アンタの敗因は三つ。 一つは俺と一夏を男だからと言うだけで見下したこと、二つは戦う相手に対し軽率な態度を取ったこと、そして三つはアンタが傲慢だと言う事だ! いい機会だから言ってやる。 今まで自分が見てきたことが、物が、人が世界の総てじゃない!! もっと広い視野で総てを知るんだ! 世界の総てをっ!!」
距離を詰める二人。セシリアはインターセプターの切っ先を向け、カナードはシュベルトゲベールを腰だめに構える。
インターセプターの切っ先はカナードのヘッドギアに亀裂を入れたが、この時すでにセシリアの胴にはカナードがフルスイングしたシュベルトゲベールの刃が直撃していた。
『試合終了。 勝者、大和カナード』
試合終了のアナウンスが勝者の名を告げた。既にセシリアのシールドエネルギーは空も同然。飛行もままならない彼女をカナードはソードストライカーからエールストライカーに変え、ゆっくりと地表へと降りていく。
湧き上がる歓声をバックに、カナードはセシリアに右手を差し出し、握手を求めた。
「一週間前と先程は頭に血が上りすぎた。 申し訳ない」
「いえ、大和さん。 謝らなければいけないのは私もです。 男と言うものを、日本と言う国を理解していなかった私にも非はあります。 本当にごめんなさい、そして私の目を覚まさせていただきありがとうございます」
二人が握手を交わすと同時に歓声はさらに大きくなった。
次のセシリア対一夏戦まで一時間の猶予があった。それまでセシリアは自機の修復に向かい、カナードは一夏の下へと向かった。
ピットに降り立つと纏っているストライクを待機状態のリストバンドにして、カナードは観客席へと向かう。その前に整備室へと向かう。目的はそこにいるだろう人物に会うためだ。
到着すると、やはりいた。機体を前にタブレットとにらめっこしているところ、どうやらプログラムの面で手間取っているようだった。出来るだけ気配を消して、彼女…更識簪に近づきタブレットを覗き込んだ。
「あ、そこの計算間違ってるよ」
「…あ、ありが……え…?」
「それと、こことここの数値だけど…凄いな、俺じゃとても割り出せないどうやったのこれ?」
「…っと、ここを基礎として……それでこことこことを……で、割り出したんだけど…」
「じゃあここをこうすると…どう?」
「……すんなり行けた。 と言うか何で…?」
「何でって……気に障ったかしら?」
某猫型ロボット風に答えるカナードは首を傾げながら言った。
「…別に……」
「所で聞いたよ。 倉持技研の技術者が君のでなく、一夏の機体の方へ集中しているらしいね。 同じ技術者として恥ずかしいもんだ」
カナードのその発言に簪はどこで聞いたかを問い質すが、風の噂と返すばかり。本当は前世で読んだ原作で得た知識なのだが、下手に言うと逝っちゃってる奴に見られてしまうと危惧し口をつぐんだ。そこを敢えてぼかして答えるカナードは、簪の持っていたタブレットに自分のリストバンドをコードで直結。ランチャーストライカーのデータを明け渡す。
本来ならばここは一夏が楯無生徒会長から言われてやるのだが、どう言う訳か自分でもわからずカナードは簪に対し純粋に手伝いたいと言う感情があった。
「理由としてはいくつかあるけど、俺こう見えて大和生物機械技術研究所で科学者やってる身だからさ、さっきも言ったとおり、倉持の連中が何も殆ど一夏の機体の方へ回された事が気に入らないし、何より少しでも話が合う友達が欲しかったんだよね」
「友……だ、ち…?」
「そ。 深い理由なんてないさ。 これから時々手伝ってもいいかな?」
カナードの差し出された手をしばらく見ていた簪だったが、おずおずと握り返した。
「あ、そうだ。 簪はさ、『仮面ライダークウガ』って知ってる?!」
「…知ってる…と言うか、大好き」
「俺も! 俺の初めてのヒーローなんだ、クウガは」
「でも今見返すと…少し残酷」
「だが、そこが良い!」
そこから十分ほど特撮やアニメについての話に花を咲かせていたが、一夏の試合が開始されて二十分が経っていた。特撮やアニメが前世から好きだったカナードは、同じ特撮とアニメ好きの簪と波長が合う事がとても清々しかった。
簪の居る整備室を後にしたカナードはアリーナへと向かった。そろそろ一夏の白式が
到着したアリーナには一組の生徒も観戦しており、揃って一夏対セシリアの試合を観戦していた。
どこか空いている席は無いものかと、ウロウロと通路を歩いて行くとブカブカな長い袖をカナードに向けブンブンと振る女子生徒がいた。いつも眠たそうな表情をした布仏本音だ。
「かなかな~、こっちこっち~!」
振ってない方の手で隣の空いた席を叩いていた。カナードがその席に座っていいか、と指さしてジェスチャーすると、本音は首を縦に振った。
「一夏どうなった?」
「ん~、おりむー苦戦中? でもぐいぐいいってる~」
「成程」
空中では、なんとかビットに取りつこうとブレードを握りしめながらセシリアの射撃を避け続けている一夏の姿が見えた。投影ディスプレイの時計を見ると、試合開始からまだ十五分ほどしかたっていない事が分かる。あと十三分で
本音以外の女子生徒の表情を見る限り、全員一夏の敗北で終わると言わんばかりの表情で心なしか状況によってはセシリアを応援するのではないかと、カナードはそんな風に感じ取った。
◇
「…試合開始からおよそ28分。 そろそろか?」
誰に言う訳でもなくカナードは呟いた。シールドエネルギーはまだセシリアの方が上回っていた。と言うよりもそれほど減ってもなかった。しかし、ビットを操っている分セシリアも集中力を費やしている。ある意味五分と五分。
先に動いたのは一夏だ。一つ、また一つとビットを切り落としていく。どうやら彼もビットを攻略したようだ。三つ、四つと切り捨てていく中、一夏の左手がせわしなく動いていた。一夏特有の調子に乗ってますサインで、大抵これが出るとつまらないミスが起きると言う。それが今起きていた。
射撃特化の機体には少なからず近接武器等が備え付けられる場合もあり、現にセシリアのブルー・ティアーズには近接武器インターセプターと、両腰部には実弾を撃ちだす五基目六基目のブルー・ティアーズビットがある。零距離ともなればそれら二つの餌食。そして今、接近していた一夏にブルー・ティアーズビットの実弾が直撃した。
「あちゃ~、おりむーヤラレチャッタぁ~?」
煙が発生する。セシリアは少し距離を開け、無言でそれを眺めていた。原作ではここでもまだ傲慢な態度が垣間見えていたが、カナード戦の折に態度を改めたのか礼節を弁えている様に見えた。良いように変わってよかったとカナードが感心すると同時に、煙を切り裂くように一夏が姿を現した。
各部装甲がスライドしたその姿は先程と打って変わって、翼を広げた騎士の様に見えた。
「さて、剣道の成果、見せてもらおうかな」
しかし、原作の通り物語が進むのか白式の
◇
試合終了後、カナードは管制室のドアの前で千冬と会話していた。
「何、クラス代表を辞退したいだと?」
「突然の申し出で申し訳ありませんが、その通りです。 私の生家を御存じですよね」
「大和生物機械技術研究所だったな、確か」
「はい、私自身もそこで研究者の身分です。 学生と研究者を両立して忙しい身なので、私自身辞退し、織斑君を推薦します」
言い切って深々と千冬に礼をするカナード。それを見た千冬は少し考え、承諾した。
再度千冬に頭を下げたカナードは、再び整備室へと向かった。
◇
「と言う訳で、クラス代表は織斑君に決定しました! あ、一繋がりで、縁起がいいですね」
はっきりと、はつらつにそう宣言したのは山田真耶だった。カナードはセシリアと共に辞退理由を述べる。どちらも名目上一夏の成長を促し見届けるというものだ。本当はどちらも明確な辞退理由があるのだが、それを語るにしても伝えるかどうか迷った上でそう言うしかなかった。
が、クラス代表に決まった当の一夏はと言うと、未だに納得がいかない様子で席に座っていた。
カナードはこれから先に起きるであろうイベントを待ち焦がれつつ、今日も授業を受けるのであった。
続く
次回には鈴音を出せるよう頑張ります