インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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今回出る登場人物はいろんな意味ではっちゃけます

例えるなら、ビーストウォーズ位に


十九話 エピローグ

 

 あのヤタガラス事件から数日が経った。大型ISヤタガラスの生体CPUことオータムはヤタガラスの残骸と共に遺体となって発見され、海中から引き上げられた。しかし、オータムと運命を共にしたと思われるスコール・ミューゼルは左腕一本を残したまま遺体は見つかっていなかった。

 この事により、世間にはスコールが亡国機業の社長(トップ)として認識され、元々その位置にいた春十と工作員だったマドカは事件後に意識を取り戻し、二人はそれぞれ技術提供者とその実娘で同社のテストパイロットとして亡国機業に加担していたと言う事で翌年まで国際IS委員会に保護と言う名目で拘束されている。尚、この事件の捜索は難航しており、最悪被疑者死亡としてそのまま書類送検されるだろう。

 そして『ダブルオー』だが、最後の試験者エリナ・ヴェステンフルスでも起動しなかった。なので来年度にまた搭乗者採用試験を行う事が決定され、それまでは束が預かる事が決まった。と言うよりも束が勝手に持ち出していった。元より、束自身ISを宇宙開発の為に開発したのだから、武装を施して台無しにすることはまずないだろう。千冬と箒も束の去り際にきつく釘を刺していたから心配は無い筈だ。

 今日は12月24日のクリスマス・イブ。更識簪は紙袋やキャリーケースを手に、電車に乗って移動していた。昨日から冬休みに入ったIS学園の生徒たちは夏休みと同じように祖国に帰国するか、日本に残るかの二つに分かれており友人であるセシリアとラウラは前者に該当される。後者にあたる箒は実家が神社でもある為か初詣の準備やらがあるが、鈴音の場合は祖国中国よりも慣れ親しんだここ日本で冬休みを学園の寮で過ごすと言う。シャルロットは今朝方故郷のフランスへと母親の墓参りに小次郎と共に渡仏している。

 そして簪はと言うと……、

 

「簪ちゃーん、こっちこっち!」

 

「あ、静子さん。 短い間ですが、お世話になります!」

 

 夕暮時にカナードの実家の最寄り駅に降り立ち、そこで彼の母親・静子と待ち合わせていた。

 本来なら実家に戻ってあいさつ回りやら行事やらをやるはずなのだが、姉や家の方から「30日に戻ってくればいい」と言われ送り出された。傍から見ればそれでいいのかと疑問に思うのだが、現楯無が党首の座に就任した折、いやそれ以前から周囲から簪に対する風当たりがあり、姉とよく比べられたため憔悴しきっていた時にカナードと出会い本来の性格を取り戻した。この事により、十六代目元楯無である更識刀眞はカナードの事をとても気に入り、30日までとはいえ、簪に外泊許可を与えたのだ。

 そして、この日から数か月後に発覚する事なのだが、刀眞本人が「孫の顔が見たい」等とぼそりと呟いているのを家の人間によって多数目撃されたと言う。また、それが自分に対する事だと現楯無は勘違いした。

 話を戻して、静子の愛車の助手席に載せてもらった簪は、車窓の向こうに流れる風景に目をやっていた。

 カナードの故郷は学園周辺と比べれば比較的田舎だ。田んぼに畑、小川に山が視界一杯に入ってくる。

 

「この町ってさぁ…ホントなぁんにもないけど、ここ気に入った?」

 

「はい、とても! 私の実家の近所や学園の周辺よりも静かで自然豊かで私は好きです!」

 

「そう。 よかったぁ、これで安心して貴女をカナードの妻として迎えられるねぇ」

 

「……ゑ? あ、ああ……」

 

「恥ずかしがることじゃないよ。 私も愚息(カナード)から簪ちゃんの事よく聞かされたから気に入っちゃったよ。 ホントに良い娘ねぇ、正直言って貴女のような娘が欲しかったわ」

 

 正確には聞かされたではなく『聞き出した』と言うのが正確だが、簪はその事を知らずあとでカナードに恥ずかしい思いをさせた罪を償わせようと思っていた。完全にカナードのとばっちりである。

 そうして到着したカナードの実家。『大和生物機械技術研究所』の裏手にある二階建ての一般的な家屋。二階部分と一階部分は研究所本棟に通じる通路もあって、いつも部屋から研究室まではそこを通るのだろう。

 

「あ、そうそう。 家の人はまだ研究室に居てね」

 

「あ、はぁ……」

 

「私は私でこれから晩ご飯の準備しなきゃならないし」

 

「はぁ……」

 

「だからね、それまでカナードの部屋で待っててくれるかな?」

 

「はぁ……って、えゑェっ?!」

 

「え、そこまで驚く? あの子昨夜まで明日刃機業宛の報告書やら何やら書いてて徹夜してたけど……ま、大丈夫だよね」

 

 その後静子に送り出された簪はどうやってカナードの部屋の前に来たのか覚えていなかった。初めて来た夏休みのあの時は一夏や箒達が居てある程度気恥ずかしさは無かった。二度目のカナードの見舞いの時は静子もユーレンも一緒だったがそれは部屋に通されただけ。しかし今は違う、自分一人だけだ。気恥ずかしさを分け合う仲間はいない。

 五分経った。意を決し、ドアをノックする。

 

「………いないのかな?」

 

 しかしドアノブに手をかけると鍵は掛かっていなかった。静子は部屋で待てと言っていたからカナードはいるのだろう。

 

「お、おじゃましまー……す?」

 

 いざ入ってみれば部屋の主がベッドの上で仰向けになって寝ており、それを見た安心半分呆れ半分な簪は静かにドアを閉めると寝息を立てているカナードに近寄った。

 学園の寮では見た事ないカナードのその寝姿は、焦げ茶色の長い髪は一本に纏まっており、うっすらとではあるが目には隈が出来ていた。視線を移して机の上を見ると報告書らしき紙の束があり、ようやく出来あがって直ぐに寝たと言う事だろうか。だとしたら無理やり起こしたらカナードに悪い。

 

「寝顔……(少しくらい触っても………いいよね)ごめんね」

 

 恐る恐るカナードの寝顔に触ろうとするが、直前に寝返りを打ち空振り。また触ろうとするとまた寝返りを打たれる。その後何度か挑戦するもその度に空振りに終わってしまう。こうなれば、と半ばヤケ気味になった簪は大胆にも仰向けの姿勢に戻ったカナードに押し倒した後の様な姿勢で跨ぎ、片腕を顔の横に置き呼吸を整えていざ指を伸ばす。さしずめ壁ドンならぬベッドドンと言ったところか。

 次第に鼻息と心臓の鼓動が強くなり、指先にもブレが生じる。

 あと少し。あともう少し。触れるか触れないかのタイミングで、部屋のドアが開かれた。

 

「二人ともー、晩ご飯出来………あら?」

 

「あ…!」

 

「んー……ん? って………えぇぇ?」

 

「あぁっ!」

 

 静子が入室して驚く簪。更にその簪の声にカナードの目が覚めてまた驚く簪。

 漫画の中でもそうそう起きない状況が状況だけに、静子は何か早とちりしてにんまりとした某猫型ロボットの温かい目をした顔で足早に去っていった。

 弁解しようと簪は逃げる静子の後を追おうとするが……

 

「ああぁっ、ちょっ静子さ…!」

 

「みぎゃああああああああああ!!!!」

 

 慌てた拍子に誤ってカナードの下腹部を踏みつけてしまったのだった。

 

 

 

 

 その夕飯の席。食卓で事情を聞いてユーレンは苦笑いを浮かべるのに対し、静子は笑いっぱなし。テーブルを挟んで反対側に座っているカナードと隣に座る簪は顔を赤くして、それぞれ目を合せない様にしていた。

 食卓にはクリスマス・イブだからかスタンダードなホールケーキが切り分けられており、それだけでなくカナードの好物である料理が数品ならんでいるが、当の本人は手を付ける様子は無く、静子を恨めしそうにジト目で睨んでいた。

 

「笑うのはその位にして……母さん、俺今日簪来ること聞いてねぇんだけど?」

 

「あら、言ってなかったっけ?」

 

「いや、聞かされてねーよ。 父さんはどうなん?」

 

「聞いていたぞ? 簪ちゃん、キミはどう聞いていたんだい?」

 

「私はカナードにも伝えるって聞いてましたけど……静子さん?」

 

「あ、ごっめーん。 カナード(・・・・)にだけ伝えるの忘れてたわ」

 

 俗に言うてへぺろの格好をしてそう言ってのけた母に戦慄を覚えたカナードは、もうこれ以上母を追及するする事を止めて食事に専念する事にした。本来ならば箒がやりそうなネタだが、今はそんな事は関係ない。

 夕食後、カナードは自室の向かいの来客用の空き部屋に簪の荷物を運び終えて一息ついていた。と言っても、カナードの自室に置きっぱなしだったのを移しただけである。

 

「お疲れ様、カナード」

 

 先程まで簪は静子と共に食器洗いをしていた。話が弾んでいたのか、真下のキッチンからその話声がうっすらとではあったが聞こえていたくらいだ。

 

「その……荷物、重くなかった?」

 

「あー大丈夫だよ、これでも少しは鍛えてますから。 泊まってる間はこの部屋好きにしちゃっていいよ」

 

 部屋面積はカナードの部屋と同じくらいの広さ。建てた時に来客用の部屋として設計されており、使われていないときでも定期的に掃除はされているからか埃はそうそう目立っていない。

 その部屋の隅には既に布団も敷かれており、今夜は相当冷えるらしく毛布や厚い掛け布団が掛けられていた。

 

「それにしても……目ェ覚めた時は凄い驚いたんですが」

 

「あうぅぅ……それは忘れてよ」

 

 夕食前の出来事を思い出して、互いに顔を赤くして俯くカナードと簪。傍から見れば一線を越えようとする男女なのだが、今の二人はキスどころか手を繋いで人前で歩く事すら恥ずかしがって出来ない。一夏と箒の二人でさえ出来ていると言うのに。

 

「あ、そうだ。 風呂入る時間だけど、大体俺の家は八時頃からまばらに入り始めるけど、一声かけてな。 朝飯は六時半で昼飯は正午、晩飯は七時前ね」

 

「うん、わかった」

 

「じゃ、俺は部屋に戻ってるから何かあったら言ってくれよ」

 

「あ、待って」

 

 部屋を退室しようとするカナードを呼び止め、咄嗟に手を取った簪はその手を引き寄せて抱きとめた。

 突然の事に驚きを隠せないカナードも簪を優しく抱きしめた。

 あくまで人前(・・)ではこうやっていちゃつく事は互いに恥ずかしがって出来ないが、こうして二人だけの時は思う存分遠慮なくいちゃつくことが出来る。

 

「何はともあれ、すっげーサプライズだったよ。 俺メッチャ嬉しいよ。 こんなに嬉しいクリスマスプレゼントは最高だ、生まれて初めてだよ」

 

 抱き合ったまま床に座って耳元で優しく囁いた。いつも学園の寮でどちらか片方の部屋で二人っきりの時によくやる行為だ。二人にとって現状最上の愛情表現と言ったところだろう。

 

「ふふっ。 静子さんの怪我の功名だね」

 

「あー、うんそだねぇー……怪我の功名」

 

 母親のうっかりに喜んでいいのやらカナードは少し遠い目をするが、今はこの時間を堪能するだけ。密着しているだけでも、相手の体温が良く解る。

 

「それにね、プレゼントは別に用意してあるんだよ」

 

 部屋の電気を消し、更に体を密着し合う二人。良いムードを醸し出す中、互いに顔を近づけていくのだが、やはりこの様な時でも邪魔は入る物だった。

 

「カナードー! お父さん急に仕事が出来たから先お風呂入っちゃいなさーい!」

 

 今度こそ。今度こそキスくらいには踏み切れるだろうと思っていたのだが、例の如く毎度のことながら誰かしらの邪魔が入る。簪からしたら二度目、それも同じ相手からだ。

 邪魔が入り変な空気になってしまいキスどころではなくなった二人は、部屋の電気を付けて互いに顔を向けながら苦笑い。何てタイミングの悪いことだろうか。

 

「……も、もう台無し……だね?」

 

「すんません、家のおかんが……」

 

「ねー、聞いてんのカナード! 風呂入っちゃいなって言ってるんだけどー!」

 

 雰囲気もへったくれも無くなった空気に、苦笑いを浮かべる簪と手で顔を覆うカナード。静子には息子のラブロマンスの邪魔をしないと言う考えを持ってほしいモノだ。しかしこれ以上静子の催促の声が強くなっては面倒だと思い、後ろ髪を引かれつつもカナードは風呂場へと向かう。

 一人取り残された簪は待っている間に、持って来た荷物の中から虚に勧められた『仮面ライダーアマゾンズ』の映像ディスクを取り出した。この部屋には幸いにも再生機器があったため、直ぐに再生しようとした時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

 

 

 

 長い髪を束ねて浴槽内の壁に背中からもたれながらカナードは、ぼうっと湯気が立ち込める中天井だけを見上げていた。

 一番風呂に浸かれた事は幸いだが、折角愛する簪が家に来ているのにキスの一つも出来ない自分が情けなく感じた。強引にしてしまったら彼女を傷付けてしまうし、逆に慎重になりすぎると互いに溝が生じてしまう。

 ただ、傍から見た自分たちは充分お熱いらしいのだが、当の二人はまだ足りない位だと思っている。互いに膝枕をしたりすることも、カナードの腕で簪に腕枕をしたことも今日まで何度かあった。

 

「あー、ったく俺どこまでヘタレなんだろ………」

 

 簪に対するカナードの愛情は本物だ。彼女以外の女性に惚れる事はこの先一生涯無い。それだけは確かだ、嘘偽りはない。

 段々と身体も温まってきたところで、一度浴槽から上がり、髪を解いてシャワーの栓を捻って温水を流しだし、それを頭から被る。切るのも面倒になってそのまま伸ばした長い黒髪にシャンプーを泡立てていく。

 頭の中のマイナスな思考ごと頭皮に溜まった脂を取り除いて行く。

 段々と頭がさっぱりしていくその時、風呂場のドアが開く音がした。泡が目に入らない様に目をつむったままカナードはドアのある方へと顔を向けた。

 

「ん、母さんか?」

 

「!」

 

「どったの、何か用?」

 

「あ、……えっと…」

 

「………ゑ?」

 

 意外だった。いや、そういう可能性だってあったはずだったのに気が付かなかった。

 まさか簪がカナードの入浴中に風呂場に来るとは、カナード本人でさえ予想不可能だ。今カナードは洗髪中であった為に目を閉じたままだ。簪がどんな格好でいるのか見えていない。

 

「もしかして……(おいぃぃぃぃぃぃぃっ、どうする? どうするよぉぉぉぉっ、おい……ここは泡を流して彼女を見るべきか…それともこのまま………いや待てつーか、何で簪が風呂場に来たの?! いやいや、嬉しくない訳じゃないけどメッチャ嬉しいのは確かなんだけど……いやいやいやいやそれよりも俺の股間のビームサーベル見えてないよね、見えてたら俺変態じゃん! 落ち着け…、兎に角餅突く…じゃない落ち着くんだ!!)……え、簪……なのか?」

 

「あ、うん……」

 

「(うっわー合ってた!! 大丈夫か、俺のビームサーベル見えてないか? 見えてたら一大事だよ今何時どころじゃねぇよ、そうね大体ねでもねぇ)な、……何故に簪さんがここに居るのでしょうか? あ、いや…拒絶してるわけじゃないっつーか、嬉しくて戸惑ってるって言うか、何つーか……!!!」

 

「お、おおお落ち着いてカナード! だだっ大丈夫、大丈夫だから! 私今服着てるから!」

 

「あ、そうなの! あ、そうですかはい!! (嬉しいようなさみしいような……)」

 

 少し残念がるカナードは髪を洗い流して顔を拭き、股間を風呂場用のハンドタオルで隠して後ろを見る。そこには市販のジャージを着こんだ簪がいた。

 

「あの、背中……流してあげようかと…」

 

「あ、じゃあお願いします」

 

 妙に大胆な行動に走った簪に少し戸惑いつつも、嬉しさが勝ってるカナードの表情は緩みっぱなしだ。鏡越しにその表情を見た簪もまた、表情を緩ませる。

 今この瞬間がとても幸せだと感じる。

 思えば今日まで、二人が出会ってから半年以上の月日が経っている。初めは学園の整備室。そこで出会い、交流を深め、よき友となりそれが今では恋人同士となって今ここに居る。

 しかし、もしカナードがISに適合していなかったら、もし簪の打鉄二式が完成していたら…。今この瞬間は存在しないのかもしれない。

 

「どう……かな? 痛かったら言ってね」

 

「いやちょうど好い(ちから)加減だよ。 自分でやるより最高だ」

 

「ふふっ、良かった気に入ってくれて」

 

「よしっ、なら今度は俺が……」

 

「だめ」

 

「まだ何にも言ってないけど」

 

「私の背中を流してくれるのは嬉しいけど…その………恥ず…かしい」

 

 頬を赤く染めて顔を逸らす彼女に益々惚れ直すカナード。やはり体系がコンプレックスなのだろうか。そう思うカナードだが実際のところ気にしてはいなかった。むしろ同じ一年の専用機持ちの中で箒やシャルロットセシリア、姉の楯無、更には彼女の幼馴染の布仏本音たちの胸囲が大きすぎるのだ(ただし例外として鈴音とラウラがいるのだが……話題に出すのは野暮である)。

 そんな事を話題にしたらかえって彼女を傷付けてしまうと感じたカナードは、持ち前の悪い癖を発揮するしかなかった。

 

「あー、うん、ゴメン俺ががっつき過ぎた。 でもさ、俺は簪の全部が大好きだよ」

 

「…えっ?!」

 

「笑顔のときも怒ってるとき、アニメや特撮見てるときに弐式を調整してたとき、かき揚げ蕎麦食べてるときゲームしてるときの色んな表情の簪が俺は大好きなんだ」

 

「え、ええっ!!」

 

「簪はさ、もっと自信を持って良いんだよ。 大丈夫、俺が保証する。 こんなに可愛い彼女を持って俺は幸せ者だなぁ」

 

「あ、あわ、あわわわわわわわわわわわわ!!!」

 

「えっと………簪……さん?」

 

「も、もう上がるねッ!!」

 

 振り返ったカナードが見たのは、顔を真っ赤にした簪が逃げるように風呂場から逃げ出したところだった。

 少しやり過ぎたか。思った事をすぐ口に出す悪い癖が暴走してしまったようで、カナードは反省する。だが、後悔はしていない。自分が持つ簪への真っ直ぐな愛は充分伝えた。後は行動で示そうと決意したカナードは体を洗い、もう一度浴槽に浸かり、風呂を出た。

 その後、カナードは静子からクロスチョップを受ける羽目になるのであった。

 

 

 

 

 自室に戻ったカナードは学園から出された冬休みの課題をある程度終わらせて、ベッドの上で読みかけの『小説 仮面ライダークウガ』を開く。もうこの本を読むのは何度目だろう。結末を知っていても何度も読みたくなる。

 中盤まで読み進めると誰かがドアをノックする。ドアを開けると、そこにはパジャマ姿の簪がいた。来ているパジャマは本音が普段着用しているような着ぐるみ系のネコさんパジャマだ。

 早速部屋に招き入れると、簪は『仮面ライダーアマゾンズ』の映像ディスクをカナードに見せた

 

「一緒にこれ見よ? 出がけに虚さんから渡されたの」

 

「良いけど……これ、凄い怖いぞ?」

 

「らしいね。 でも、カナードと一緒なら……平気」

 

「うーん、そうだね。 前に一夏らが俺の部屋で『The Next』見てた時は簪だけケロリとしてたし」

 

「『真仮面ライダー序章』で慣れましたから。 今でも続編待ってるんだよ、私」

 

「続編は出ないんじゃなかったっけかなぁ……」

 

 そして一巻を観終わると、その内容に興奮してしまった二人から眠気はほぼ無くなっていた。

 ふと、カナードは枕元に置いてある時計に目をやった。時刻は午後11時。あと一時間でクリスマスになる所でカナードはベッド脇の紙袋から中身を取り出した。それは小さな包みで、梱包が丁寧に施されたプレゼントだった。

 

「なぁ簪。 今日もあと一時間だけどメリークリスマス!」

 

「ありがとうカナード! 私からも、メリークリスマスカナード!」

 

 先に簪からカナードにプレゼントが手渡される。彼女から開封の許可をもらったカナードは、早速包みを解いた。中から現れたのは、デフォルメされたストライクとフリーダムのぬいぐるみだった。所々特徴もよく捉えられており、デフォルメでも角度によっては格好良く可愛くも見えた。

 

「すっげー……ありがとう簪! 俺これ、大事にするよ!!」

 

「気に入ってくれて良かったぁ。 ねぇ、私も開けて良い?」

 

「もち!」

 

 簪も受け取ったプレゼントの包みを丁寧に剥がすと、そこにあったのは青い小箱。それが何なのか理解できた簪は一度カナードを見て、ゆっくりとその小箱を開けた。

 中にあったものは、どこか歪んでギリギリ簪の指のサイズの大きさの指輪だ。しかし、どこか温かみが感じられた指輪でもあった。

 

「今は俺の手作りが精いっぱいだけどさ、十年以内に今度は本物の指輪を贈るよ。 プロポーズ込みで。 ってか、本物高くて手が出せなくて……あは、あははは…」

 

 そう言って苦笑いを浮かべるカナード。

 しかし、例えこの指輪がイミテーションだろうと本物だろうと、カナードの簪に対する愛は本物だろう。そう感じた簪はカナードお手製の指輪を左手の薬指に嵌めた。少々歪で飾りっ気が無くとも、どんなに高価な指輪にも負けてはいない。

 

「もしかしてこれって……婚約指輪?」

 

「ああ」

 

「そっか……(はやいよ、バカ)嬉しい」

 

 愛おしそうにその指輪を眺める簪を見て、今までのクリスマスより幸せに感じるカナードはふと、カーテンの隙間から見えた窓を見た。一瞬、ほんの一瞬だったが微かに白い粉が待っている様に見えたのだ。簪もそれに気が付いたようで、二人はゆっくりとカーテンを開けた。

 

「おぉ……」

 

「わぁ……」

 

 闇夜に目立つ白い雪が、しんしんと降り注いでいた。

 これが世に言うホワイトクリスマスか。カナードは腕を組んで段々と白くなっていく故郷の風景を眺める。前世を含めれば何気に生まれて初めてのホワイトクリスマスを、それも愛する人と迎えるのはとても幸運だ。

 雪も降れば当然その分寒くなる。寒さで身震いしてしまうカナードに、可愛らしいくしゃみをしてしまう簪はさっとカーテンを閉じる。気が付けば日付も変わっており、一時間近くも外の景色を見ていれば寒い訳だ。

 

「やっべ寒いな。 なぁ大丈夫か、簪」

 

「うぅ…無理かも……やっぱり……寒いかな」

 

「ですよねー……じゃあ、身体温まるまで俺のベッドに入るか? あ、いや別にヤマシイ意味じゃなくて身体を温める為にですね」

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

「ところで貴女今日積極的すぎやしませんか?」

 

 ベッドに潜り込んだカナードはそう零しながら端に移動して簪を招き入れる。

 いずれはこうなるのが日常になるのだろうか。そう思いながら隣の空いたスペースに入って来た簪に顔を向ける。どうやら簪も同じことを考えていたようで、彼女はカナードの顔を見た瞬間顔を赤くして反対側に顔を向けてしまった。積極的すぎると思えばこれだ。だがしかし、そこが良いと思うカナードは背中から彼女を抱きしめる。

 

「んもぅ。 がっつき過ぎだよぉ」

 

「そういう簪だって積極的になってるじゃん」

 

「それは……そうだけど。 むぅ…」

 

 図星を突かれた簪はそう言うと体を反転してカナードと向き合う体勢になる。その頬はまだ赤く染まったままだった。

 それでも互いに相手を優しく包むように抱きしめて、顔を視線を合せる。

 昼間の様に邪魔が入る事はまずない深夜帯。しかもそれだけでなくホワイトクリスマスと言う事もあって、二人の心音は強くなるばかりである。

 やるとするならば、今がその時だ。

 

「簪……」

 

「カナード……」

 

 ほぼ無音に近い薄暗い闇に包まれたこの部屋の中で、二人の男女の影は今日になってやっと一つに重なった。最初は軽く、そして吐息を漏らしながら深くキスをする。

 

「やっと……だね」

 

「やっと……だな」

 

 

 

 

 同じ頃、更識家の近所にある二十四時間経営の居酒屋にて、刀眞とユーレンがテーブルを挟んで酒を酌み交わしていた。二人の他には静子だけでなく、楯無と簪の母・魅桜(みおう)がいた。

 実はユーレンに急な仕事とやらは入っておらず、そのまま家を出てから刀眞が指定したこの居酒屋に向かっていた。そして静子はカナードと簪が風呂から上がり、それぞれ部屋に向かったところを見届けてからここに合流していたのだった。

 尚、簪がカナードの入浴時に突入した際にはメールでユーレン達にその旨を実況するほど静子は楽しんでいた静子の行動は、母親らしからぬそれではあったものの、結局は彼女なりに二人の応援をしたかったからかも知れない。

 

「それでは、カナードと簪ちゃんの二人の未来に乾杯!」

 

「ユーレンよ、それで何度目だ。 お前は酒が入るといつもこうだ、同じことを繰り返す」

 

「いいんじゃないですか、それでも。 ねぇ、魅桜先輩」

 

「確かに…な」

 

 酒が回り切ったユーレン等気にせずに魅桜はジョッキの中のビールを一気に飲み干した。

 そんな魅桜の見た目はブラッドレイ夫人を若くした見た目で、年齢は静子より上である事は間違いない。

 魅桜と静子の関係は、同じ中学と高校の先輩後輩の関係で、今日何十年かぶりに再開できたのであった。

 

「私たちの再会は静子の息子のお陰だな」

 

「いいえ、それを言うなら簪ちゃんのお陰ですよ」

 

「じゃ、ここは二人のお陰って事で! イモ焼酎追加お願いしまーす!!」

 

「だから飲み過ぎだと言っただろうユーレン!!」

 

 かくして、大人たちの酒宴は夜が明けるまで続いた。

 

「私の出番はこれだけかッ?!」

 

 そして、刀眞の叫びには誰にも答えない。流されるだけだった。

 

 

 

 

 12月25日の朝。カーテンの隙間から差し込んだ積もった雪に反射した朝日によって目が覚めたカナードと簪は、結局同じベッドで寝てしまった事に苦笑いを隠せないでいた。しかし、キスまで行けた事に二人は何ら後悔はしていない。今日を含めてあと5日間簪と擬似結婚生活を送れることに喜びを隠せないカナードは、簪に目覚めのキスを贈った。

 

「おはよ、簪」

 

「おはよ、カナード」

 

 

 

 

続く




今回出た楯無(刀奈)と簪の母のモチーフはやはりハガレンのブラッドレイ夫人でした。

刀眞のモチーフがキング・ブラッドレイならと言う理由です
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