インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
ここから先はある意味獣道でございますが、頑張ります
こっから先何人ガンダム系のそっくりさん出すべきか……
一話 進級
IS学園の卒業式が終わり、あと数日で次学年への準備期間でもある春休みが始まるなか、カナードは早朝ジョギングの為に早起きした一夏より一時間遅れて目が覚める。今日は土曜で休み。今日はもう少し惰眠を貪ろうかと思ったが、その前に形態の電源を入れる。やがて『シェルブリットのカズマ』のコスプレ姿の自分と、彼に合わせて『由詫かなみ』のコスプレ姿の簪が写った待ち受け画面が映し出された。ハロウィンパーティーの後にこっそりと二人で撮った写真だ。あれから半年近く経った今でも昨日の様によく覚えている。
その写真データに被る様に映し出されたデジタル時計が午前六時を半分過ぎた頃を刻んでいた。
まだ意識は半分覚醒しているだけで完全に眠気も消えてない。食堂が開く時間まで少し二度寝をしよう。そう思い意識を手放そうとした瞬間、簪から通話の着信が入った。眠気に必死に抗いながらカナードは回線を開いた。
『あ、もしもしカナード?』
「…んぁ……よぉー、かん…ざしぃ…?」
『あ、ごめん。 起こしちゃっ……た?』
「いんや、二度寝しようかどうか迷ったところ。 ってか簪の声聞いたら目ェ覚めた」
『あはは…』
電話越しに聞こえる簪の苦笑い。彼女がどんな表情をしているのかカナードは想像しながら着替えを始める。まずは朝食を食堂で済ませるため制服に袖を通す。入学当時より腕を通し続けたその袖はややしんなりとしているように思えた。一年経って味が付き始めたのだろう。
その途中、制服のズボンを穿いてベルトを留めた頃に簪が提案する。
『それでね、今日ってカナード予定ある?』
「ん? いや、ねーけど」
『だったら今日映画を観に行こうよ! 十数年ぶりに帰って来た怪獣映画!』
「よし、それなら行こう!」
『そう言うと思った。 でね、待ち合わせしてから行こうよ、レゾナンスに新しく出来た映画館で十一時の回』
「そんじゃあ待ち合わせ場所や時間とかは食堂で決めようか?」
『うん。 じゃあ私食堂の入り口で待ってるね』
「おっけー、りょーかい!!」
通話を終えて一度時計を見やる。まだ食堂が開く時刻ではない事を確認して、顔を洗う。
蛇口を捻って出る流水に手をやると、春先であってもまだとても水が冷たく、顔に当てるとその冷たさで眠気が一瞬にして消え去った。
豆を砕いて目覚めの一杯のコーヒーの準備をしていると、豆を砕ききった所で汗まみれの一夏が返ってきた。カナードに気が付いた一夏は開口一番「シャワーを浴びる」と言ってシャワールームに消えた。
「(ついでに一夏の分も淹れてやっか……)」
そうしてコーヒーが出来上がると同時に一夏がシャワールームから出てきた。最初の頃は図々しくも自分の分をせがんできたが、今では一夏の分までカナードはコーヒーの用意をする。
飲みながら時間を確認しつつ、着替えを済ませた一夏の顔を見てカナードは首をかしげる。何やらここ最近やけにつやつやした様な感じで、先週よりも幾ばくか若く見える。少なくとも冬休み前よりかは肌のハリやツヤも違う気がした。
「ん? 俺の顔に何か付いているのか?」
カナードの視線に気づいた一夏が言った。面向かってみてもどこか違う気がしてしまう。
「いや、気にすんな。 俺の気のせいだ」
「ふーん……にっが」
先に飲み終えたカナードは部屋のシンクにマイカップを置き、やっぱり自分の気のせいかと切り捨てて一夏よりも一足先に食堂に足を向ける。
寮の廊下は春先の気候もあってか日向は昨日より徐々に暖かくなり、花壇の蕾もよりふっくらと膨らみ始めていた。もう少ししたら桜も開花し、花壇の花もより鮮やかになりより賑やかになるだろう。そんな事を考えつつ食堂の入り口で簪と合流したカナードは互いにハイタッチを交わす。それに気が付いた何人かは「いつもの光景」として捉えており、囃し立てるとこもなく、また慣れているせいか吐糖症状を発症する者もいない。
「おはよ、簪」
「おはよ、カナード」
互いに挨拶も済ませ食券を買い、カウンターで朝食を受け取って空いてる適当な席に座る。
食堂が開いて間もないからかカナード達以外に生徒は四人もいない。この時間帯他の生徒達はまだ夢の中か、早朝自主練の最中である事が多い。
「でも……よかったのカナード?」
おかずの鮭をほぐしているカナードに簪が突然聞いた。
「二年生になったらパイロット科とメカニック科のどちらかを選んで進学するのは知ってるよね?」
それがIS学園の特徴だ。パイロット科は主に代表候補生などが、将来モンド・グロッソに出場または操縦を主とする各企業のテストパイロット等を目指す生徒の為の学科。もう一方のメカニック科はISを操縦ではなく、製造及び整備を主とした学科であり、カナードは本来ならパイロット科に進むだろうと誰もが思われていたが、当の本人は何故かパイロット科を希望したのだ。
簪から理由を聞かれたカナードはワカメとネギの味噌汁を飲み干して答える。
「そりゃ、あれだよ。 俺自身技術者兼テストパイロットだからだよ」
「あ、そうか。 実家が研究所だから」
「ぶっちゃけそれもあるけどね。 だからテストパイロットでもあるからそのための操縦技術も学びたいんだ」
これに簪も納得してふと笑みをこぼす。如何にもカナードらしいとでも思ったのだろうか。
その後は今日この後のデートの打ち合わせだけで終わり、二人はそれぞれの部屋に戻る。
◇
食堂で別れた後、カナードは部屋に戻り今自分が所持している一部の私服に着替えて身形を整える。持っている衣服の中から特に気に入っているグレーのパーカーを主体に、黒いシャツ、そしてデニムのパンツのコーディネートだ。
「へぇー、デートかよ」
一夏が何処かの
先に準備を終え、そろそろ出かけるかと貴重品を持って部屋を出ようとする一夏に、今度はカナードがからかいだした。
「俺からしたらまだ地味過ぎるくらいだぜ。 もっと腕にシルバー巻くとかS☆A!」
「白式があるだろ! あと俺には合わないからな!」
王様ネタを王様ネタで返された一夏は律儀にツッコミを言い放ち朝食前とは違い、カナードよりも先に部屋を出た。
そう言えば先日春休み中に自宅の掃除をしなければならないと一夏は言っていた。定期的に外出の許可を取っては朝から学園を出て、夕方ごろには戻ってくる。今日もそれくらいは掛かるだろうとカナードは思いつつ部屋の戸締りをしっかりと確認してから軽い足取りで部屋を出る。つい最近になって楯無の不法侵入は少なくなってきたものの、やはり警戒は怠れない。最後に指差し確認もしてから部屋を出た。
簪とのデートも一か月ぶりだ。その時はホワイトデーで不器用ながらもチョコと抹茶とプレーンのクッキーをお返しに贈っていたカナード。その時の彼女の表情を思い出して思わず微笑んでしまう。
学園発のモノレールに乗り込み、数分経ってレゾナンスに到着する。待ち合わせ場所はモノレール駅前の時計台に九時半。今はその十分前で大分余裕を持てた。自分か簪のどちらが先かを考えながら軽い足取りで待ち合わせ場所に向かう。
道中ですれ違う人々は、恐らく新学期前のお祝いか何かなのだろう親子連れが多く、妻や子供に振り回される父親たちは満更でもなさそうに見える。あと数十年したら自分もあの父親と同じようになるのだろうか、とふと考える。その時の自分たちはどんな家庭を築いているだろう、子供は何人いるのだろう。見えない未来を描きつつ、簪の下へと急いだ。
そしてその待ち合わせ場所に到着すると、先に簪が待ち合わせ場所に到着していた。簪はまだカナードに気が付いておらず、キョロキョロと辺りを見渡しながらカナードを待っていた。
「悪いな簪、待ったか?」
もう少し観察してから合流しようと思っていたが、大分待たせるのも悪いしガラの悪い人間が寄るのも好ましくない。急いできた風を装って手を振りながら合流を果たす。それに気付いた簪も笑顔で手を振り返していた。
待ってないと返す簪も楽しみにしていた様子で目を
上映の時間まであと一時間近く。席の確保のため、先にレゾナンスのシネコンに足を運び、十一時の回のチケットを購入して、時間までその辺をぶらぶらするとになった二人は取り敢えず近くの中規模の書店に向かった。
好きなタイトルの漫画やラノベの新刊は既に購入を済ませており、立ち読み中心に書店内を巡る。
「ほぇー、やっぱIS操縦者ってモデルとかやんのね」
適当に取った雑誌のページをパラパラと捲って見たページには、たまにテレビで見る昨年度のモンド・グロッソの各国出場者や、学園内でたまに見かける先輩が映った写真がいくつか掲載されている。さながら本職のファッションモデルとも見間違えてしまう。
そう言えば、と何度か自分にもその手の取材が実家にも来ていたなとカナードは思い出す。その時は白衣姿で伊達メガネを付けさせられた事もあった。その時を思い出したカナードは、思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。
次のページを捲っても目ぼしい情報も無いので棚に本を戻して時間を確認する。
「そろそろ時間だね」
隣では簪も時間を確認していたようで彼女も読んでいたアニメ雑誌をもとあった場所に戻していた。
上映開始まであと二十分。二人はチケットを買ったシネコンに戻っていった。
◇
春休みが終って、それから間もない4月の入学式。昨年とは違って男性IS操縦者はいない新入生は後姿でもわかる程に緊張している様だった。昨年の今頃はあそこにいた事を思い出し、その後は何かと波乱が待ち受けていたことも思い出すカナード。今年一年くらいは、いやもっと言えば今年だけでなく来年も平穏な学生生活を送りたい。むしろ送らせて欲しいと望んでしまう。
壇上では昨年はいなかった楯無が新入生に向けての挨拶をしていた。形式的なものだが、随所に彼女らしいアレンジが見受けられる。
「(会長は日に何度かふざけないと死ぬ病気にでも罹っているのか)」
内心失礼な事を考えているカナード。楯無の普段を見ているので、その様なイメージを持ってしまうのは仕方ない事なのだが、未来の義弟になるだろうカナードにそう思われる楯無にも責任がある。覆しようがない事実だ。
それから少しして式は終了し、生徒達はそれぞれの教室に向かうのだが、カナードら旧一年生、つまり新二年生は今年度からパイロット科の一組と二組、メカニック科の三組と四組の教室へと向かう。
カナードが席に着いたのはパイロット科二組の教室。彼の他には昨年と同じく今年度も二組の凰鈴音、元ルームメイトにして同僚の窓木シャルロット、そして昨年は別クラスの四組だった更識簪がいた。残りの四人、一夏と箒、セシリアとラウラはパイロット科一組に進学している。そして本音は今年から整備科なので整備科三組か四組のどちらかだろう。
周囲を見回しても、他のクラスメイトの顔を見ると見知った顔はそう多くなかった。
少しして新学年一発目のホームルーム。このクラスの担任教師が教室に入って来た。
その教師の姿は、一年経っても『こどもが無理して大人の服を着た』と言う印象を放ちながらも主張が激しい胸を宿した眼鏡を掛けた女性だ。
「はい、皆さんおはようございます。 今日からこのクラスの担任教師となりました山田真耶です」
昨年度では一年一組の副担任だった真耶は今年度からこのクラスの担任。そうなると昨年までのドジっ子具合も幾ばくか減る事だろうと、内心で元一年一組生徒たちはそう思っていたのだが、初めて彼女から指導を受ける女子生徒たちは一部絶望に浸り、彼女らだけでなく鈴音も簪でさえも絶望に浸っていた。
教壇の真耶は女子生徒たちの絶望した理由が解らずおろおろしていたのだが、直ぐに気を取り直して早速一時間目を開始するのであった。そこから見せる真耶の姿は、いつも見せるマスコット的な一面は見せず一人の教師としての生徒達と真摯に向き合うものだった。
そしてクラス代表を誰にするかだが、元一年二組クラス代表である鈴音と二人目の男性IS操縦者であるカナードに票が分かれてしまったが、僅差で鈴音が上回っていたのでそのまま鈴音が二年連続でクラス代表の座を得るのであった。
それから休み時間になるまで授業は滞りなく進み、内容も分かり易いものだった。
しかし、未だ精神的ダメージを負う者もおり、特に顕著なのは鈴音。簪は幾ばくか精神状態は安定してはいるのだが、やはり心の傷は深かったのか、カナードの背中に抱き付いたまま顔を埋めている。
「……シャル、鈴任せた」
「え? あ、ちょっとカナード! 僕を見捨てないでよー!!」
「抜かせ、俺には簪がいる。 それだけだ!」
◇
その日の放課後のアリーナではカナードは愛機フリーダムを展開し、ドラグーン制御訓練に励んでいた。対するはストライクEノワールストライカーを展開したシャルロットで、その両手にはレーザーライフルショーティーではなく、ダミーバルーン射出機能を兼ね備えた改造型レーザーライフル。銃口から吐き出されて膨らむバルーンをカナードの制御するドラグーンが一つ一つダミーバルーンを狙撃する。
今のカナードの動きは入学当初のセシリアとほぼ同じで、移動しながらのドラグーンへのマニュアル指示はまだ完璧には出来ていない。だからこそ、まずはセミオートでドラグーンを制御しきる事が当面のカナードの目標である。
「(当たれッ!)」
射撃指示を受けたドラグーン数基は軌道を描いたのち、ダミーバルーンをあらゆる角度から射撃する。それをシャルロットからの射撃を避けながらでだ。
ハイパーセンサーを用いらなければその情報量の多さにより脳に深刻なダメージを負ってしまう。つくづくISのハイパーセンサーとやらは便利なものだと腹の中で思い、今日の訓練を終える。
「……ふぃー、シャルロットお疲れさん」
「お疲れ、カナード。 前より上達してるよドラグーンの制御」
「そうか…? 何か実感わかねぇんだよなぁ……ベイブレードだったら実感わくんだけどなぁ」
「ドラグーン違いだよねそれ。 あとカナードだったら多分ブルックリンのゼウスじゃないかな?」
それぞれ展開を解除し、別々の更衣室に向かう途中観客席の辺りに目を向ける。真新しい制服に身を包んだ女子生徒達、新一年生がいた。訓練開始の時からいた事は知っていが、その時から既に三時間近く経っており、余程勤勉なのだろうと推測する。のだが、それはカナードの見解であり、シャルロットの見解は違っていた。
「(あぁー、カナードも
「何故に棒読みなんだよ…」
れっきとした彼女がいるせいか、それともそう言う視線とは今まで無縁だったのかカナードはその視線が自分だけに注がれている事実を知らずにシャルロットとは別の先程まで自分が着替えに使っていた更衣室の方へと消えていった。
◇
日が沈み切った夕食時、二年専用機持ち達は纏まって食事を取っていた。因みに本日のオススメメニューはチキン南蛮定食で注文したのは一夏だけでカナードは野菜炒め定食、箒は豚の生姜焼き定食、簪とラウラはかき揚げ蕎麦、鈴音はいつもの如くラーメン、セシリアはビーフシチュー、そしてシャルロットは天ぷらそばである。
かき揚げの食べ方で早速火花を散らす簪とラウラの間に戦争を起こすまいと座ったカナードが、何度か食堂の入り口を見やっていた。誰かに監視されているようで落ち着かない。
「誰かに見られてるって気のせいではないのか?」
箒が言った。確かにそう言ってしまえばそうなのだが、やはり視線は感じるとカナードは言う。さらに細かく言うと、ドラグーン制御訓練が終わって寮に戻る道すがらからずっと感じていると言う。
さすがにそこまで来ると気のせいだと思えなくなってきたのだが、誰がどんな目的でカナードを監視するのだろうか。だとしたら昨年から感じてもおかしくない筈である。それが今年になって感じるようになったから薄気味悪さを感じるカナード。
「一年……じゃないかしらね」
「一年って……有り得なくはないがなぁ」
確かにその線はある。熱心なファンであればまだ可愛い方だが行き過ぎた場合はもはやストーカーだ。もしその視線が楯無であれば、気配を消すか小型カメラを設置して別の場所から監視するなどの二通りがある。もっとも、その気になれば昨年、もっと言えば簪と付き合い始めた頃にその行為に走っていても問題は無い。
だが、問題は動機だ。カナード自身後輩からストーキングされる理由がこれと言って思い浮かばないと言うが、それは違うとシャルロットが真っ向から否定する。
「はぁっ?! 一目惚れ?」
「……」
「簪アンタ大丈夫? 箸落としたわよ」
それほどまでに驚く事態になってしまったか。そう思いながらシャルロットは苦笑いを浮かべて、無表情で箸を落とした簪を横目で見た。簪にとっても充分衝撃的すぎた事実である事に間違いはない。
何をバカな。そう言わんばかりにカナードは食事を終え、カウンターに返却しようと席を立った所で食堂の入り口から誰かが覗き込んでいる事に気が付いた。しかし向こうもカナードの視線に気が付いたのか、その瞬間に姿を消した。ちらりと見えた限りでは髪が黒く長いと言う事だけだ。
「今のがそうなのかな……?」
どうやら気が付いたのはカナードだけではないらしい。とは言っても簪とラウラだけである。暗部の家の生まれである簪と、ドイツ軍現役少佐であるラウラの二人もこちらを見ていただろう人物には気が付いていたのだが、カナードと同じように顔は見えず後姿しか見えていなかったようだった。
逆に残りの一夏らは気が付いておらず、まさか今の今まで見られていた事に気が付かなかったようだ。
「どうやら気のせいじゃなかったようだったよ箒」
「む……」
ともあれ、今追いかけてもすでに逃げられている上に既に自室に戻っている場合もある。追いかけるだけ無駄であろう。
◇
翌日の放課後。今日は整備室でフリーダムのメンテナンスの為訓練は休みだ。
専用機を持つ人間であれば、愛機の調整は怠る事はない。日々問題なく動くように、細心の注意を払い調整を行わなければ、いつ不具合が起きて怪我をしてしまう恐れがある。学園で用意されている量産機も、日々整備科の生徒達が実習時に整備を行っているため、常時問題なく動いている。
システムログを見る限りでは、ドラグーンの制御は少しずつではあるものの日増しに良くなっている事が良く解る。しかしあくまでそれはサブだ。フリーダムの武器はドラグーンでなく、高い機動性によるヒットアンドアウェイとマルチロックから来る
繰り返すようだが、本来のフリーダムの戦い方は高速軌道からのレーザーサーベル二本による斬撃と、多対一を想定にした場合による一斉射撃のみだったはずなのだが、ストライクからコアを移植してからの二次移行が原因なのだ。
ストライクがガンバレルストライカーを経験した上で生まれたのがフリーダムのドラグーンと言う訳だ。他にもレーザーライフルとシールドを両腕にワンセットずつ使う事もあった為、最初からレーザーライフルは二挺で、シールドに至っては小型化されて腕に仕込まれており、さながら元ネタと同じようにビームシールドとして展開でき、更には物理シールドも展開できる。
「………上達したとは言えまだまだだ。 とりあえず、ドラグーンは予定通りセミオートで、あとは斬撃だけかな。 他は拡張領域の空きが多いからそうだな……試しにシュベルトゲベールをインストールしてみるか」
ここでふと時計を見やる。いつもなら食堂で夕食を取る時間帯だ。もうそんな時間か、とフリーダムを待機状態にして、忘れ物の有無を確認して整備室を出るカナード。
まだ食堂は開いている。今から歩いて行っても間に合うだろうと、移動すると廊下の曲がり角で一人の女子生徒と遭遇した。真新しい制服とリボンの色から一年である事は間違いない。それだけならばただの後輩なのだが、その女子生徒は黒く長い髪だけは見覚えがあった。昨日に感じた視線の主に違いなかった。
「あ、あの…大和先輩これから晩ご飯ですか?」
「え、あ、うん。 そうだけど……君は?」
「私は一年一組の紗理奈・アドモスっていいます。 昨日の大和先輩の起動訓練を見て私、先輩の事が好きになりました!」
「…………えっ?」
突然の告白に戸惑ってしまったカナード。紗理奈の『好き』が『Love』と『Like』のどちらかは分からないが、カナードには生涯愛すると決めた簪がいる。戸惑っているとはいえやんわりと彼女の真意を聞き出そうとするが、その前に紗理奈は足早に去ってしまった。
カナードが一体何だったのかが理解できずに呆然立ち尽くしている所に見知った顔が通りかかった。訝し気にカナードの顔を覗きこんだのは真耶だった。彼女だけでなく、食堂の方から簪がなかなか来ないカナードを心配して現れた。
その二人に声を掛けられ我に返るカナードは、二度三度深呼吸して心配している担任と恋人に言った。
「……さっき後輩から突然告白されたんですけど?」
それを聞いた瞬間に簪の目の輝きは消え失せ、真耶に至っては「青春ですねぇ…」と独り言ちる。
簪にとっては衝撃的すぎたそれは思考停止状態に陥ってしまうほどの衝撃が全身を駆け巡る。心配したカナードが簪の肩に触れると、彼女は目にも止まらぬ速さでカナードの身体に抱き付いて顔をうずめる。
「……」
あまりの事でショックを受けたのだろう。カナードは何も言わず、簪の頭を撫でながら真耶に会釈して彼女を連れて部屋へと送って行った。
「若いって、良いですねぇ…」
某パンツメダルと同じ心境なのか定かではないが、その言葉には一切の陰りも嫉妬心も無く、あるとするならばそれは羨望に近い感情だと言えよう。現役時代からの先輩である千冬もお見合い相手とはここ最近上手くいっていると聞いている。それが自分が受け持つクラスの生徒の養父である事も知っている。そしてカナードの同僚でもある事も。
しみじみ思う真耶は、二人の背中が見えなくなるまでそこにいた。
◇
簪の自室に到着したカナードはドアをノックして簪のルームメイトの有無を確認するが、その前にそのルームメイトの本音が部屋から先に出て来た。何も言わずカナードと簪の様子を見て、何か悟ったようで流石簪の従者と言えばいいのか、いつもの様子を見せてあだ名通りの『のほほん』とした空気を放ちながら、恐らくは昨年同じクラスだった谷本か相川辺りの所へと歩いて行った。
気を利かせてもらったカナードはその部屋に簪を運び込んで、以前教えてもらった手前のベッドに座らせた。
しかし、相変わらず眼は虚ろで口から何かが飛び出しているかの様に見えていた。ここまで深く心にダメージを負うところを初めて見てどう対処すべきだろうか。今は隣に座った状態で頭を撫でながら簪の身体を寄せているカナード。
「……えっと、大丈夫か簪」
「……なに?」
「その……さっきのだよ。 あまり知らん後輩から告白されて驚いたのは俺も同じだよ」
「……うん」
「でも靡かねぇから…うん、俺はお前一筋だからな」
「わかってる」
話していく内に簪の目の輝きも元に戻っていき、それに伴う様にカナードの身体に回していた腕に力が入っていく。
「でも、何があっても…」
「ああ、わかってるよ」
カナードも簪を深く抱きしめ、頭を撫でる。
しかし、良いムードになった途端、カナードの腹の音が強くなった。そう言えば夕食を食べ損ねていた事を思い出し、途端にばつが悪そうに溜息が漏れてしまった。これには簪も不意にくすくすと笑ってしまう。
しかし、怪我の功名と言うべきかカナードの腹の虫が不意に簪の笑いを誘った。これを吉とすべきか悩むカナードだったが、それとは反対に簪はすっかり元の調子で備え付けのキッチンへと向かって軽食を振る舞うと言った。何気にカップケーキ以外で彼女の手料理を食べるのは初めてであるカナードだった。
◇
五反田蘭はこの春から晴れてIS学園の生徒になった。寮生活を送るなかで得たルームメイトにして友人の紗理奈・アドモスは部屋に戻るなり妙にうきうきとした様子で手紙を書き始めていた。脇から覗くとそれが
噂ではこの学園でも同性愛者同士のカップルが少なからずいると言われるが、紗理奈もそう言う相手が見つかったのだろう。そうでなければ、一夏かカナードの二人だろう。
「……ねぇ、紗理奈。 やけにウキウキしてるけど、何かあった?」
恐る恐る蘭が訪ねた。手紙を差し出す相手が気になるのもあるしペンを走らせる紗理奈の背中が怖く感じたからもある。
振り返った紗理奈の眼は曇りなく輝いていたが、蘭にはそれが恐ろしく思えた。
「ああ、蘭。 実はね、好きな人が出来てさっき好きだって言ってきたんだ!」
「へ、へぇー……それで、どんな人なの?」
「二年の大和カナードって先輩でね、放課後の訓練を見学に行って――」
「ちょ、ちょっと待って紗理奈! 今誰が好きになったって言った?!」
「だーかーらー、二年の大和カナード先輩って」
「その人私あったことあるけどさ、彼女いるよその人……」
「…………え?」
紗理奈・アドモスの初恋が砂となって崩れた瞬間だった。
◇
某国の地下数十階の区画で、一人の女が目を覚ました。
ここは何処だろう、何故自分はここに居るのだろう。女は唯一残っていた腕を吊るされた状態で、両足はそれぞれ端を床に固定された鎖で繋がれているので自由が利かない。
周囲は暗闇に覆われ、明かりと呼べるものは真上のスポットライトのみで自分の周りだけが明るかった。
女の名はスコール・ミューゼル。亡国機業の幹部で、オータムと共に海に散った筈の女だった。スコール自身も何故自分が生き残っていたのか分からなかった。あの時自分はヤタガラスを自爆させてともども死んだはずだ。それなのに何故……?
「おやおや、お目覚めかな。 ミスミューゼル…」
暗闇の向こうからねっとりとした口調で喋る男が姿を現した。顔の上半分を無機質なマスクで隠しており、白一色の軍服は何処の国の物か分からないが、露出した顔下半分の色素の薄い肌を見ると白装束にも思える。
ここが何処で、男は何者で、そして何故自分が生きてここに居るのかスコールは問いたかったが、体中に激痛が走り声を出そうにも掠れた息しか出ない。
「無理はしない方がいい。 ふむ、麻酔の後遺症か………まぁ、そんな事は良い。 君が聞きたいことは予想できるが、今は落ち着いて方が良い」
上から物を言う男の態度にスコールは苛立った。
「今君に教えられるには三つだ。 まず一つは、君の専用機は既にコアの残骸もろとも国際IS委員会に回収されている。 これで君は闘う力を失ったと言う訳だ」
そんな事は大方の予想は出来ている。ヤタガラスの自爆に巻き込まれたのだから無事なわけがない。もし残骸が残っていれば、それを解析せんと委員会は回収しない筈もない。
「次に二つ、既に君はこの世にいない人物になっている。 君はもう死んでいるという事にね」
「……」
「最後に三つ、私の名はミッシェル・ル・クルーゼ。
続く
次回もお楽しみに!