インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE 作:バルバトスルプスレクス
あとこれ関係ない事ですが、PSPのタッグフォーススペシャルのデータがお陀仏となってしまいました。
あと一人で完全クリアだったのに余計残念です。
では、第二部第二話スタートです
進学して既に一か月近くが経った。人によっては漸く新たな環境に慣れ始めて来るか、五月病に
しかしてその道すがらで、目当ての二人とそれぞれ別の場所で落ち合ったのだが、今のところ詳細は教えられないが本当に行われることだけは確かだそうだ。兎に角噂が真実であることに納得がいったカナードはそのまま二組の教室に戻った。
今日もまた、いつもの様に真耶の授業が始まると、初日より幾分かマシになった鈴音と簪の落ち込み具合と言うか心の傷はさほど目立たなくなったが、休み時間ともなると呪詛の様な呟きを発するようになってしまった。
「……何なの? ねぇホントに何なの? 童顔で巨乳で眼鏡って……同じ眼鏡なのに…」
「………ほんっとに反則じゃないのよ…何なのよあれは……あれはぁぁぁ……」
「あー、今日も闇が深い事深い事……このテの話題は俺じゃどうしようもないもんなぁ。 あーよしよし、よぉしよしよし大丈夫だよ簪。 簪は今のままでもすっごい可愛いからさ、自信もって良いんだよ?」
「あっはははは………」
今日も今日とてカナードは机に突っ伏している簪の頭を撫でて慰めており、こちらもいつも通りでシャルロットは苦笑いを浮かべる。今となっては最早恒例となったこの光景を見慣れている二年二組のその他の女子生徒たちは、特に反応することは無かった。
「あ、いたいた。 ねぇー、凰さーん、今日ってさ確かクラス代表戦の打ち合わせじゃなかったっけー? さっき山田先生が呼んでたんだけどー」
そう言えばもうそんな時期かと、教室を出る鈴音の背中を見送りながらカナードは昨年のクラス代表戦を思い出していた。あの時は確かゴーレムなる無人機が襲撃して結局はお流れになった催し物。その事件後にカナードは簪に微かに惚れていて、自覚し始めたのは文化祭の前ごろだったかそれ以前だったか。
感慨深くなっているところで、今一度簪の顔を覗く。幾らか顔色は良くなり、呪詛の呟きは吐かなくなっていつものカナードの好きな優しく可愛らしい笑顔の表情に戻っていた。
◇
東京都内にある明日刃機業の本社ビル。その最上階の一角にある社長室ではカナードと同い年でありながら社長の座に就いている篝が今日もいつもの様に様々な書類一枚一枚に目を通していた。彼女の脇では秘書の
その書類の一部には、ヤタガラス戦におけるミーティアの可動データを記した書類もあった。
あの事件後、元々廃棄予定だったミーティアはヒビ等の損傷が入っていたとはいえ、ヤタガラスの翼を突きさした上に破壊して見せた事により、奇跡的に廃棄は免れて今後の自然災害による救助用や、月面開発用等の次世代型IS埋め込み式強化パッケージの基礎となった。こうなるとしばらくはアサギらもデータ収集作業に忙しく休む間も少なくなってしまうだろう、と篝は思いつつ一息ついて椅子の背もたれに身を任せた。
「ふはーっ……これで大体終わったか…」
一呼吸入れた篝が目頭を押さえて呟いた。いつもの作業であることに変わりはないのだが、やはりキツイ物はキツイ。
「ああ、そうだな。 だが、この後のスケジュールは…どうにも面倒だぞ?」
「面倒……?」
それはどういうことだ、と言いたげな篝の表情を見た木坂は手元のタブレット端末を操作して、篝にそのスケジュール項目をみせた。途端に篝の表情は苦虫を嚙潰したかのような顔に歪み、溜息までついてしまった。
そこに書かれていたのは現
静蘭カンパニーは明日刃機業とは別系統とは言え、IS関連の商品を生み出している企業の一つ。主にISスーツの方に力を入れており、高価ながらも防弾性は勿論速乾吸水消臭と優れている。そんな企業なのだが、篝が苦手としているのはそのCEOである
悠那は篝と年齢はそれほど離れていないのにも関わらず自社のCEOなのだが、その経営権は実質父親の静蘭
そして、篝が悠那を苦手としている最たる理由は彼の熱烈なアプローチである。
「(アイツは会う度に面倒をかけて来るからなぁ……正直言って苦手なんだがなぁ。 それに私は悠那と交際する気は全く無いと何度も言ったはずなんだがなぁ)仕方ないな……」
悠那との出会いは篝が社長に就任して間もない頃だった。その頃に初めて二人の会談が行われたのだが、悠那にとって篝はどストライクだったのか速攻に一目ぼれして今に至る。それからはプライベートで会う度に何度も悠那は交際を申し入れるのだが、当の篝にはその気がなく段々と悠那を毛嫌いしていったのだ。流石に仕事上ではつっけんどんに接する訳にもいかず、ある程度の距離を保っているのだが、やはり篝は悠那を好きになれないのだ。
ため息を漏らした彼女に秘書は「諦めろ」と言わんばかりに視線を送った。
「今車を用意する。 例え拒否し続けても、どの道奴は何度もしつこくアポ取るだろうからな、行くしかないだろう」
「だが、そのアポを取ってスケジュールを組んだのはどこのどいつなんだ? 木坂」
篝のその言葉を背に受けても木坂は特に反応を見せずに社長室から姿を消した。
悠那との面会場所は都内のホテルの一室。宿泊のためのではない小規模のパーティなどの催し物等に利用されるフロアだった。そこで先に到着していた悠那はやってきた篝に気が付くと、早速諸手を挙げて彼女を迎えた。
「やぁやぁやぁかがりカガリ篝かーがりィっ!!! 会えてうれしいよ篝! ボクはねぇ君と出会うために生まれて来たんだってつくづく……」
「そんな事より、私を呼び出した理由は何だ悠那。 わざわざアポを取ったくらいなんだ、下らない用事だったらはっ倒すぞ?」
ジト目で悠那から距離を取りつつも警戒を解かない篝。しかし、それに動じない悠那は終始緩みっぱなしだった表情を瞬時に強張らせると、離れた場所に待機させていた自身のSPに預けていたアタッシュケースを受け取り、中から幾つかの資料を篝に見せた。この時の悠那の神妙な面持ちを見て、篝も即座に表情を強ばらせた。
「事は丁度三か月前に起きた。 その日、何の予告もなしに
「強奪だと…?! しかし、確か保管されていたのは…」
「そう、保管されていたのはコア無搭載の第一世代の試作機の内の出来損ないの
ISの管理と言う物は本来国が厳重に厳重を重ねた上で保管しなければならないのだ。が、それはISのコアを搭載された場合のみ。それ以外の場合、製造企業が自己責任で凍結補完しなければならないのだ。
昨年起きたブルー・ティアーズ二号機サイレントゼフィルスの強奪以降、警備の底上げが全世界で図られたのだが、それはコアが搭載されている物、あるいは無搭載とは言え搭載すれば稼働できる状態の物のみであった為、搭載しても起動できないISに関しては比較的緩い警備なので今回の様な事件が起きてしまったのだ。
「でもってその今回盗まれた機体っていうのは篝も知ってる通りだと思うんだけど、起動テストの時、コアを搭載しても起動しなかった機体だったんだ」
「それが一体何故盗まれたんだ? そもそも、そこの当時の警備の方は一体どうなっていたんだ…」
「けど盗まれたのは紛れもなく事実。 現にその日に工場は何処からかクラッキングやらコンピュータウィルスやらの被害に遭ってね、その対処に追われている隙の犯行だったんだけど……亡国機業が壊滅した今、誰が何の目的で盗んだと思う? それに、ボクの会社以外の海外の企業や研究機関でも同じように、同じ境遇の失敗作が悉く強奪されているんだ。 機体パーツだけじゃなく武装とかもね」
「なっ……!」
「…驚くのも無理ないよね。 だけど、これも事実なんだ。 どこの国も企業も同じように、クラッキングなどで注意をそらされてのね。 それぞれの手口から見て同一犯であることは間違いないんだ」
しかし、悠那の言う事が真実ならば何故その様な報道が一切されてこなかったのだろうか。恐らくは何者かが不祥事をもみ消す為に情報を操作したのか、それとも報道する価値が全く無かったかの二つだ。
手渡された資料に目をやる篝。そこには有名どころや無名の各国の企業から強奪された機体及び武装が記載されていた。幸い明日刃機業やカナードの生家の大和生物機械技術研究所の名は無かったものの、警戒しない訳にはいかないと篝は強く思った。
◇
悠那との会談を終え、木坂の運転する車の中で篝は最近買い替えたばかりのスマートフォンを取り出し、電話帳から目当ての人物を見付けて即座に通話を掛ける。
時刻は正午を少し回った頃で、この時間帯であれば目当ての人物はスリーコール鳴った所で回線を開いた。
<――あ、もしもし篝どうしたの?>
「いや、詳しくは言えないが少しばかり気になる事案が他所で起きてな……お前の所で何か強奪されたとかそういう事は起きてないか? 勿論学園じゃなく、実家の研究所の方でだがどうなんだ」
<って言われてもなー、強奪されるつっても、俺が設計した『ダブルオー』は束さんが持ってったし……やっぱ家に強奪される物は特に無いな>
「そうか…。 ではストライクはどうなんだ?」
<あー、ストライクはもうボロボロだったからなぁ……だから今はもうシャルのストライクEとフリーダムの予備パーツに回してるぜ。 そもそもフリーダムに乗り換え直前に機体は京都で大破しちまったからな>
その事を聞いて篝はほっと胸を撫で下ろす。その息遣いが聞こえたカナードが電話越しに何事かを聞き出した。それに答えるかどうか篝は悩んだが、「詳しく言えない」と言った手前、取り敢えず話せる部分だけ答えることにした。
<去年の事……?>
「ああ。 亡国機業が各国家、施設などでISの強奪が今までに何度かあったろ?」
<あー…うん、まぁ確かにコアの製造は束さんにしかできないのが現状だからな。 つまりはその強奪模倣犯がいつ出てもおかしくないって言いたいんだろ? 俺の実家とか篝の会社とかにも>
「そうだ、そんな所だ」
<……うん、わかった。 ただ、何度も言うようだけど篝の方も気を付けろよ? 今のお前の立場を妬む奴は少なくないんだからな>
「そこから来る奴にも気を付けるさ…」
最後に従兄に心配されつつも篝は通話を切って、スモークの貼られたガラス越しの景色を眺めていた。まばらな高さのコンクリートの塔が車の走行に合わせて後方へと流れていく。
明日刃機業のトップに就任してから二年近くが経つ。十代の小娘には荷が重いという意見も少なくないが、それでも篝は病に倒れた父に追いつき、追い越そうと今も努力し続けている。そんな彼女の姿勢を見て、付いて行こうと互いに支え合える仲間も何人もいる。
木坂もその一人だ。彼は渦巳の時代から明日刃機業に属しており、共に篝の成長を見届けた人物でもある。言わば木坂は篝にとってただの秘書ではなくもう一人の父親でもあるのだ。
◇
新学期のIS学園の生徒会。前年度のポストはヘルパーだったカナードも正式メンバーに加わり、元々
一人は五反田蘭。今は卒業した元生徒会副会長
もう一人は先日カナードに告白をしてきた紗理奈・アドモスだ。件の事は互いに水に流している物の、やはりどこかで当事者の三人は何処か複雑な心境を抱いている。
前年度に引き続き生徒会長の座に就いている楯無はと言うと、身体をロープで椅子に繋がれながら書類作業に従事していた。
「会長、次はこれです。 職員室から至急にと言われていますので、早急にお願いいたします」
「……ね、ねぇー、簪ちゃんに義弟君。 このロープは一体何なのかなぁ? おねーさんはね、どちらかと言えば縛られる方より――」
「お願いだからちょっと黙ってお姉ちゃん。 それに、そのロープ外したりでもしたらお姉ちゃん逃げるでしょ絶対」
「逃げない、逃げないから! 今年からちゃんと真面目に取り組むから! ね、おねがーい!」
「しかし会長、私たちは虚さんから情け容赦なくやってくれと言われているのでこればかりは譲れません」
「なっ?! あ、貴方たち二人そろって誰の味方よ!」
「愚問ですね。 私は簪の――」
「私はカナードの――」
『――味方です!』
速さを信条にする某クーガーの兄貴の名言をパロった二人を見て呆然とする後輩二人に本音はいつもの事だとぶかぶかの袖を揺らす。蘭も気にするだけ無駄かと悟り、事務仕事を再開すべく書類の山と格闘し始めた。紗理奈もそれに続いて書類仕事に手を付け始めた。
せっせと仕事を
◇
翌日の放課後。前日の鬱憤を晴らすが如く楯無はその手に持った得物・蒼流旋を振るい、カナードの操るドラグーンを踏み台にして彼に迫る。
彼女の猛攻に四苦八苦しているカナードは避けるので手いっぱいだった。両腕に仕込んでいたビームシールドを展開するも、防戦一方で焼け石に水でしかない。
「ほぅらほらぁっ! どうしたのどうしたの?!」
やはり生徒最強の肩書は伊達ではないと痛感するカナードは、簡単にやられてたまるかと両手に握ったレーザーライフルを上に放り投げ、更に腕部のビームシールドを発生させて蛇腹剣・ラスティーネイルを白刃取りの要領で根本をがっしりと受け止めた。続けてクスィフィアスとカリドゥスを打ち込むも、簡単に避けられてしまい火線が虚空を切り裂いて無駄撃ちに終わってしまった。
落下する二挺のレーザーライフルをトンファーの様に持ち替えて即座に再接近。格闘戦に移行する。
「ハァッ!」
「無駄よぉっ!!」
今度は鮮やかに回避された上に、蒼流旋に埋め込まれた小型マシンガンの雨を全身に浴びてしまったその瞬間、カナードの敗北が決定した。
模擬戦通算27連敗目を喫してしまった事に項垂れつつも地表に降り立ち、愛機を待機状態にしたカナードは、その場にドサッと腰を下ろして空を見上げた。やはり勝てない。その一言に尽きる。
「どーお、大和君。 生徒最強の実力は?」
バサッと広げた扇子には『最強』の二文字。一体どういう仕組みなのかが気になるカナードは、真横から声を掛けて来た楯無に改めて敬服する。この学園の生徒会長でもある上に国家代表と二つの肩書を持ち、更にそれに見合った実力も備わっている。性格面に若干の難ありだが、それでもカナードにとっては尊敬するに値する人物である。
少しよろめきながらも立ち上がって訓練に付き合ってくれた彼女に最敬礼で頭を下げる。
「今日も指導の程、ありがとうございます会長!」
「もういいわよそんなの。 ぶっちゃけ未来の弟が強くなってほしいだけだから」
再度広げた扇子には『本心』とこれまた達筆に記されており、相変わらずの高性能な扇子である事が良く解る。
未来の弟と言われて顔を赤くして顔を覆ってしまうカナード。実際に言われてみると気恥ずかしさが強く、マトモに未来の姉になるであろう楯無の顔を見ることが出来なくなった。こうなってしまうと楯無のおちょくりに火がついてしまうのだが、そこに割って入るかのように三人の新入生が打鉄を纏って現れた。
よくいる思考が女尊男卑派に染まり切っている高慢な態度の持ち主。
彼女たちの言い分を纏めると、カナードの存在…男性でISが使える上に専用機を自作し、日本代表候補と交際をしているのが癪に障るので三人がかりでカナードを成敗すると言うのだ。
はた迷惑そうにするカナードをよそに、面白そうだからと言う理由で楯無がアリーナの仕様の再申請をいつの間にか出してしまっていた。
「やるしかないのかぁ……」
既に楯無との模擬戦で疲労が溜まっているだけでなく、フリーダムのシールドエネルギーも半分以下に減っている。せめて全回復まで待って居て欲しかったが、後輩三人にはその気が全くないことが解り仕方なしにカナードは愛機を起動。シールドエネルギーの節約目的としてインストールしておいたシュベルトゲベールを、フリーダムの起動と同時に呼び出して両手に握る。
眼前の三人も同じように近接ブレード葵を構えており、仕掛ける。
三人を相手取るのは昨年の夏休み以来だ。その時は機体はストライクで、相手は当時の三年生で実力も相当だった。ストライカーの性能に助けられて勝利した当時よりカナードの腕前は間違いなく上がっている。だからこそ、後輩に後れを取る訳にはいかない。
一人目との鍔迫り合いの最中にカナードはドラグーンを四基射出する。残った二人に二基ずつのドラグーンが撹乱して注意を奪う。
「ぐっ、この…卑怯者がぁーっ!!」
何度目かの鍔迫り合いの最中に後輩女子生徒が叫んだ。
「一体何を言うんだ。 これが卑怯だと言うなら、何がっ!」
正しいんだ、と言いながらクスィフィアスを至近距離で連発して一人目を打ち負かした。
残る二人は仲間がやられたことに隙を見せ、ドラグーンの吐き出すレーザーの直撃を受けてしまう。返す刀で残りの二人もシュベルトゲベールを叩きつけてシールドエネルギーをゼロにする。決して小さくないハンデを抱えているにも拘らず、先輩としての威厳を保てることが出来、フリーダムを待機状態にしてカナードはアリーナを後にした。
更衣室で汗を拭いて制服に着替えて出た所で簪が手を振って待ち構えていた。
「今日もお疲れ様カナード」
昨年では嫉妬心からかふくれっ面で恋人を迎えた簪だったが、今ではもう慣れているのか今日の様に笑顔で迎える事が多くなった。今も彼女は楯無との模擬戦とその後の後輩三人を相手取った模擬戦も見ていて、特に後輩三人相手の結果は予想通りだと言わんばかりに胸を張っていた。
因みに、翌日にはカナードに負けた三人の後輩が簪にも模擬戦を挑んだのだが、結果は簪の勝利に終わった。
勇ましく挑んでみたはいいものの、山嵐や春雷で翻弄撹乱された後に簪の接近を赦して夢現の錆となって瞬殺されたのだった。
これは当然と言うべきか、はたまた挑んだ後輩三人が愚か過ぎていたのか。
◇
失った片腕の再生もさせてもらえないまま一か月以上の時間、スコールは拘束されていたままだった。
天井、壁、床には自傷行為を防ぐためなのか衝撃吸収緩和材で出来ており、どんなに暴れようとも徒労に終わるのは想像に容易かった。また、中央には病院で一般的に使用されるベッド、部屋の至る所には小型カメラなどで随時監視されている。
本来ならば愛していた女性オータムと共に死ぬべき筈だったが、何の因果か今もこうして訳も分からないまま生かされていた。
食事はサングラスを掛けた所員らしき女性がトレーに載せたペースト食を食べさせてくれる為に飢えることは無いだろう。
現状を知るべく、ここが何処の国の施設なのか、何故自分がここで生かされているのか、そして死霊の騎士団の目的は何なのかを食事の時に聞いてみたのだが、女性職員は何とも返さない。クルーゼとやらから何も言わない様に言われているのだろうか。何にせよ、スコールには今以上の事を知ることが出来なかった。
◇
「申し訳ないなスコール。 残念ながら今はまだ君を自由にさせるわけにはいかないのだよ」
バスルームから出て独り言ちるクルーゼは身体に流れる水滴をふき取り、バスローブを羽織ってブレットに映るスコールの様子を監視していた。
グラスに氷を入れてブランデーを注ぎ、タブレットを操作して違う画面を表示する。
映し出されたのはグレーのISとその周囲に様々な機材とメカニックがせわしなく作業を進めていた風景だ。更にクルーゼはタブレットを操作して、グレーのISの設計図を表示してグラスを傾ける。
「摂理と天帝、その二つの名を冠するこの機体。 どれ程の性能を持っているかは定かではないが、機動テストの結果次第だな」
笑みを浮かべた彼はそのISが完成するのを今か今かと楽しみにしていた。
素体は静蘭カンパニーから、プログラムの一部はイタリア、左腕の複合兵装防盾システムはオリジナルではあるが部品の殆どはロシアから、更にはイギリスからはブルー・ティアーズやサイレントゼフィルスと同じようにBT兵器も盗用している。どれも強奪元で失敗作の烙印を押された物ではあるが、それらの良い所だけを抽出、再設計した結果できた。
クルーゼの眼には既に完成系が見えている。あとは自分たちの悲願を達成するための道のりを見直すだけだ。
彼ら死霊の騎士団は、主に裏社会でのみまことしやかに存在しているとされていた団体の一つ。その特徴というのが、表社会において
そんな彼ら彼女らの上に立っているのが、死霊の騎士団代表のミッシェル・ル・クルーゼなのだ。
彼もまたこの世の不条理によってここに居る。彼が仮面を付け始めたのも同時期だ。彼もまた、表社会から追いやられた人間の一人なのだった。
サイドテーブルにブランデーが入ったグラスを置いたクルーゼは、室内に設けられた内線電話を操作して目当ての部署に通話を始める。
「私だ。 例の物の開発はどうか?」
受話器から聞こえてくるのはその進捗状況。クルーゼはその報告を聞くと、様々な問題点を指摘し所員たちに期待の念を送り通話を終える。
◇
素顔を仮面に隠し、白い軍服に身を包んだクルーゼは拘束状態のスコールを車椅子に乗せて、無機質な白い通路を進んでいた。
長い時間をかけてようやく到着したのは、テニスコート三面分の広さと十メートルほどの高さのフロアだった。よく見ればそのフロアはISの稼働訓練などに使用される専用の物に似ているが、ISによって立場を追いやられた彼らが何のために使うのかスコールには解らない。だが彼らがこのフロアで何かを行う事は明白。
「これから君が見るのは、少々信じがたいかもしれないが、ある意味では見慣れている光景と言えるだろう」
刹那、スコールはニヤリと不気味に笑みを浮かべるクルーゼから恐怖を感じ取った。
程なくして、クルーゼの部下らしき数名の男女が台車に載せた打鉄を運び込んできた。恐らくこれもどこからか
「まさか……貴方、『三人目』だと言うの?!」
彼女の言う『三人目』はこの状況下においては誰がどう聞いても織斑一夏と大和カナードと言ったISを扱える男と言う事になる。そのスコールの言葉を肯定するかのように、クルーゼは打鉄にその身を預けた。すると、打鉄はたちまち彼を守護する鎧と化し、見えない翼を与えて宙に浮かぶ。
「――成程、これがISと言う物か。 確かに兵器運用したくなるのも分からなくないな」
ISを装着したクルーゼは近接ブレード葵を振るいながら浮遊しており、尚も仰天とした表情で見上げるスコールが視界に入ると、笑みを浮かべながらゆっくりと地に降下して足を付ける。
「あぁ、勘違いしないでほしいが、そもそも私は三人目ではない。 しかし秘訣を言うならば……このスーツの特性だと言っておこうか」
「特性……ですって?」
疑問に思いオウム返しに聞き返すスコール。
使用した打鉄のデータチェックを見守りながらクルーゼは説明する。
「現存のISは、織斑一夏及び大和カナードを除き基本は女性にしか反応しない。 しかし、我々の研究の末にある抜け道を見つけたのだよ。 どうやらISは装着者の遺伝子情報、特に女性のXX染色体に反応して起動する。 そこで我々はこの男性の持つXY染色体をXX染色体と誤認出来るスーツを開発した。 この計画自体は織斑一夏の報道直後から進められていてね、それがようやくつい先程君に見せたように男と言う性でもISは起動できたと言う訳だ」
解る人に例えるならば、リメイク版ガイキングにおけるプロイストがライキングとバルキングを操縦した時に着用した特殊変換スーツと言ったところだろうか。スーツを通して着用している人物の遺伝子情報を誤認させるにしても、相当の技術力と資金を要したに違いない。
もしそうだとしても、その資金源は一体どこから流れつくのだろうか。何より、死霊の騎士団と言う如何にも胡散臭い団体に資金提供するもの好きがこの世にいるだろうか。疑問に思うスコールだが、クルーゼがそこまで易々と話す事は無いだろうと結局その思考を放棄し、今度は別の疑問を抱きはじめた。
「……まさかとは思うけど、もしかして貴方達は既にそのスーツの量産体制に入っているのかしら?」
「少なくとも今日の結果次第では早くとも明後日には量産が始まる。 仮にこのスーツ……名付けるとすれば、さしずめジャミングスーツとしておこう。 今はまだ無理かもしれないが、これが世界各国の女尊男卑の被害男性たちの手に渡れば……後は簡単に想像がつくだろう。 よもや君にそれが予測できない訳が……ないだろう?」
「男達による報復が始まると言うなら……それは大きな間違いよ」
仮に、世界中の女尊男卑派による被害男性たち一人一人にジャミングスーツが出回ったとしても、肝心のISは一部の例外を除いてそう簡単においそれと盗める代物でもなければ、篠ノ之束以外生産できない限り増える事のないコアは現時点において500基にも満たない事から戦争はもとより、紛争どころかデモすら起きないだろう。
スコールの言い分を理解したクルーゼではあるが、彼女の言い分を否定するかのように立てた人差指を軽く横に振るやや古臭いアクションを取った。
「いいや始まるさ、間違いなくね。 君は知らないだけだ。 人間は古来より、自らに理性や本能を抑制する
彼の、クルーゼの笑みに含まれた狂気を垣間見た瞬間だった。
そしてこの時スコールは知る由もなかった。
彼が、クルーゼが、死霊の騎士団が掲げる理念とその内面に蔓延る狂気の実態が何であるかを……。
続く
ご感想お待ちしております
次回もお楽しみに!