インフィニット・ストラトス 転生者はSTRIKE   作:バルバトスルプスレクス

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DMMのISのゲームやってるんですがね、新キャラよりも本音のデカさと専用機に度肝抜かれました


三話 三者面談と前触れと…

 

 前年度は闖入者たる無人機IS通称ゴーレムの襲撃が起きてお流れになってしまった大会が今年は何の問題もなく無事終わり、一週間近い連休に入ったIS学園。人工島であるこの学園と本土を結ぶモノレールには外出許可を取ったカナードが一人乗車していた。

 目的地である街の駅に到着したのは午前10時半。人と待ち合わせをしているカナードは指定された場所へと歩き出す。

 今カナードが歩いているのは人の通りが少ない、所謂シャッター通りと言われるかつては人で賑わっていたであろう商店街。この時間帯にシャッターが閉まってない店は全体の四割ほどしかなかった。その中でカナードが訪れたのは、数十年以上も続く老舗の個室付きの食堂だった。長く続いている為か、周囲の建物よりも重みのある風格がより一層強く感じられる。

 足を踏み入れると、店内は隅々まで清掃が行き届いており清潔さが保たれていた。外の寂れた風景とは打って変わったこの店の雰囲気にやや圧倒されつつ、カナードは今日自分を呼び出した人物の待つ店の奥へと店員に案内される。

 

「やぁカナード君、待っていたよ」

 

 そこに待っていたのは更識刀眞。しかも彼以外には何故かユーレンも同席しており、心なしかほくそ笑んでいる様に見えた。この時点で既に嫌な予感しかしなかったカナードは刀眞に促されユーレンの隣に腰を下ろした。

 ここが食堂とは言え、高級料亭のようなこの8畳間の個室の雰囲気に慣れず、緊張しっぱなしのカナード。突然刀眞に呼び出され、更に自身の父親も同席とはこれではまるで学校の三者面談のようではないか。そう思わざるを得ない彼は自分の父親と目の前にいる恋人の父親を交互に見やった。

 

「ふむ、これではまるで三者面談の様だな」

 

 苦笑いを浮かべながらカナードの考えと同じ事を言った刀眞。恐らく第三者が見ても同じような感想を出すであろうこの状況下で、表情を強張らせてカナードを見やった。当の本人は知らず知らずの内に刀眞の逆鱗に触れるようなことを仕出かしたかどうかを懸命に思い出しながら、流れ出る冷や汗に構うことなく記憶の扉を開き続けていた。

 しかし、幾ら思い出そうとしても簪との仲は良好で、例え喧嘩はしても内容は「きのこかたけのこか」「きつねうどんかたぬきそばか」「犬か猫か」「カレーはかき混ぜながら食べるかそうでないか」等子供じみた理由でしかない。結局最後にはいつの間にか仲直りしてるだけなのだが、一体刀眞の口から何が出るのかカナードは震えるしかなかった。が、その不安と恐怖は杞憂に終わる。

 

「単刀直入に言おう、君は簪のどこに惚れたのかね?」

 

「………はいぃ?」

 

「因みに私は妻の尻に惚れた!」

 

「あ、はぁ……」

 

「でもって父さんは母さんの太ももに惚れたぞ」

 

「いや、知りとう無かったわ親父のは」

 

 詰まる所、カナードから異性の好きな体の部位を直接この個室食堂の一画で聞き出そうと言うのだった。

 会う度に見せる荘厳な刀眞の雰囲気は既に見る影もなく、今いるのは親ばかな刀眞だった。同時に知りたくなかった父親のカミングアウトにカナードは突然の頭痛に悩まされた。

 

「ほう、ユーレン貴様は太もも派か…」

 

「そう言う刀眞は尻派か…」

 

「(え、これ俺も言うパターンなの? って言うかいわなきゃだめなパターンなの?!)」

 

 これは自分自身も言わなければならないだろうと悟り、必死になって簪の全身図を頭の中に思い浮かべた。身体の部位であれば、胸か尻、またはうなじの三か所を思い浮かべて顎に手の甲を当てて思案する。

 カナードが簪に惚れたのは一言に言えば内面性と言えばいいだろう。初めて会った時、専用機の開発が中止になって自分一人でも完成させなければならない彼女の姿勢に、カナードはいつの間にか惹かれていたのだった。自覚したのはその年の秋ごろだった。それまでは趣味と気の合う異性の友人と思っていた。

 色々と思案している時に、ユーレンの声でカナードは我に返る。

 

「今度はお前の番だぞカナード。 おっさん二人で白熱してても味気ないからな」

 

「ここからは君の意見も聞かせ願えるかな?」

 

 どうやら答えるしかないとカナードは呼吸を整えて言った。

 

「うなじ……です、はい」

 

「うなじか……ふむ」

 

「うなじねぇ……うん」

 

 奇妙な三者面談から、最早拷問ともいえる状況に変わって困惑しはじめる若人など気にも止めない壮年の男たちはそのまま止まる所を知らずに加速していった。伴侶とのなれそめから始まり、初デートとプロポーズの言葉など終始刀眞とユーレンの独壇場だ。

 こんな状態が一時間弱ほど続いて、店員に本日のお勧め定食を三人分の注文終えると、即座に刀眞は表情を強張らせた。どうやらここからがカナードを呼び出した本題らしい。

 

「さて、そろそろ本題なのだがカナード君、君は死霊の騎士団を知っているかね?」

 

 聞き覚えの無い単語に首をかしげるカナードの反応を見て、刀眞が話を続ける。

 

「私も最近名前だけ知ったんだが、各国の企業や研究施設等でIS関連の部品が強奪されている。 静蘭カンパニーを知ってるね?」

 

 その名前を篝からよく聞いていたカナードは知っていた。鬱陶しいアプローチを掛ける男がいる会社である事とその事業内容も。しかし、刀眞の先程の発言から恐らくはその企業も被害を受けていることは明白だろう。

 しかし問題は死霊の騎士団の正体だ。話を聞く限りでは亡国機業と似たような強奪事件を起こしているようだ。であるのに対し、対暗部用暗部の更識家でもその存在を今までに関知していない事を鑑みると、亡国機業よりマイナーなのか動くべき時ではなかったのか。

 

「それとこれはオフレコで頼むが、彼奴等の強奪した部品の数はおよそIS一機分に相当する。 仮にも部品自体は出来損ないとはいえ、彼奴等の手で完成でもされてしまったら亡国機業に代わる新たなテロ組織が結成され、テロ行為に及ぶ恐れもある。 既に各国の政府の一部(・・)はこれの対策を進めているが……」

 

「日和見主義者が多い。 そういう事だな?」

 

「うむ、それも利権団体が深く絡んでる方のな。 不良品の部品やプログラムでまともなISが出来る訳がないとい言っておる」

 

 高を括って何もできないだろうとふんぞり返っている主義者連中の様子が容易に想像出来た。

 事態が起きた時、主義者連中がどう対処するのだろうか。こちらの方は予想もできない。

 

「状況は最悪と言ってもいい。 いつ完成するのか、それとも既に完成しているのか、はたまたまだ部品の強奪を今も何処かで人知れず繰り返している最中なのかもわからないのだ。 17代目現楯無もこの事は周知しているが、あやつでもまだ情報を掴めていない。 まるで雲をつかむ様な感じだ、全くと言って良いほど実態が掴められないのだ。 組織の名前だけ知れたのは僥倖かも知れない」

 

 ギラリと光るその眼光に事態は深刻であることを再認識したカナードの頬を嫌な汗が流れる。

 仮にもし死霊の騎士団が友に、家族に、そして愛する人に牙を剝けたとして、カナードはその脅威に立ち向かえるだろうか。亡国機業の時は倒した、勝ったわけではない、相手が自らの手で幕引きをしたのだ。カナード達が勝利したわけではない。

 その後、運び込まれた本日のお勧めの定食の味が思い出せない程、カナードは目に見えない何かに鷲掴みにされる錯覚に陥っていた。

 

 

 

 

 同じ頃のIS学園のアリーナで、二年二組クラス代表凰鈴音は目の前の現実から逃げ出したかった。

 

「(そうよねー、時期的にもドンピシャだもんねー。 一年経ったんだもんねー)ひ、久々じゃないの…乱」

 

「ええ、お久しぶりね鈴『お姉ちゃん』!」

 

 やや厭味ったらしく、誇らしげに胸を張るのは台湾代表候補生凰乱音。性格は似ているが、髪型はツインテールの鈴音とは違い、こちらは左側のサイドテール。

 鈴音の一つ年下の従妹に当たる凰乱音は専用機甲龍・紫煙を駆る一年二組のクラス代表だ。今年度のクラス代表戦一年生部門の優勝者でもある彼女は展開している紫煙の主武装である一振りの青龍刀を肩に担ぐ。そんな彼女の仕草が鈴音は苦手なのだ。

 

「お姉ちゃんって言ってたけど、鈴の……妹?」

 

「その様ですわね…?」

 

「あー、違うわよ、従妹よいーとーこ。 そー言えば、こないだのクラス代表戦優勝したそうじゃないの」

 

 気だるげに乱音の成績を褒め称えるが、内心ではさっさとこの場を去りたい気持ちで一杯な鈴音。現に乱音に絡まれるまで、簪とセシリアの三人で模擬戦のローテを行っていて、それが終わって可動ログを見直していたところなのだ。それが終わり次第、カナードから借りていた『ウルトラマン超闘士激伝新章』の三巻を本人に返そうかと思っていたところ、今に至る。

 それ以上に鈴音が乱音が苦手なところがある。

 それは、年下の乱音の胸が鈴音より大きいこと。しかし、大きいと言っても簪と鈴音の間くらいだが、鈴音にとっては大きな問題らしい。

 そんな乱音は鈴音の気だるげな称賛を受け流してアリーナ中を見回す。

 

「そんな事より、あの二人はいないの? ほらあのISが動かせる男子ってやつ」

 

「一夏だったら今日は確か実家の掃除だって言ってたけど……ねぇ簪、カナードは?」

 

「うちのお父さんと食事だって言ってた。 お父さんからも聞いてる」

 

 どうやら乱音の目当ては一夏とカナードの様だった。

 昨年は全世界を揺るがしたISが扱える二人の登場。しかし今年は一人として現れず、乱音の興味が二年の一夏とカナードに向けられるのも当然だろう。

 曰く、二人の実力とやらを確かめるべく模擬戦を申し込みたかったそうだ。

 

「片やブリュンヒルデの実弟で、片や自作でISを組み上げた男でしょ」

 

「ええ、そうね。 冷静に考えたらカナードの奴全く経験無い筈なのに何でストライク完成出来たのかしら」

 

「何でだろうね……倉持じゃないからかな?」

 

「簪さんまだ引きずってますのね」

 

「いないなら仕方ないわね。 また明日出直すから二人には『首を洗って待ってなさい』って伝えといてね」

 

 そう言い残して去っていく乱音の背中を見送った三人は取り敢えず解散する事となった。

 更衣室で簡単にシャワーを浴びた後制服に着替えて昼食の時間なので一路食堂へと向かった。

 

 

 

 

「――と言う訳なんだけど」

 

「成程ね。 それにしても何で俺って今年に入ってから喧嘩売られてるんだかな」

 

 昼食後、寮の自室で自分が刀眞と父親との会食の時に起きた事を簪から聞いたカナードは今年度に入ってからの事を振り返っていた。アリーナで稼働訓練時に喧嘩を売られる要領で後輩達から模擬戦を申し込まれる事が、この二か月間で既に20回も起きている。今二人は『GE2RB』の通信プレイに興じており、ターゲットのアラガミを左右から交互に攻撃していた。因みに、カナードの神器はロングブレード・シールド・アサルトの組み合わせで、簪はショート・ブラスト・バックラーである。

 

「で、その乱音……だっけか? 専用機持ちなんだよな。 っし、ブラッドレイジ発動!」

 

「うん、一年二組のクラス代表で、今年度のクラス代表戦一年生部門の優勝者だって。 あ、ホールドトラップ設置したよ」

 

「って事は実力は高いって事だよな。 それにしても、もう一年か……」

 

「ほんと、もう一年経ったんだね……」

 

 ターゲットを仕留めた二人は、きっかりセーブして携帯ゲーム機の電源を切って、昨年度のクラス代表戦を思い出していた。

 たしかあの時だった。カナードと簪の二人の間に繋がりが出来たのは。それは一年経った今でもこの先も一生忘れることは絶体無いだろう。

 

「代表戦の映像って学園で撮ってるんだっけか?」

 

「うん、この学園のホームページに各イベントの様子を録画した動画を掲載しているんだって」

 

 備え付けのデスクの上に置かれたノートパソコンを操作して目的のホームページに辿りついたカナードは、『おもひで』と銘打たれたページにアクセスした。簪の言う通り、先日の代表戦の動画がいくつかピックアップされている。恐らく大いに盛り上がった試合だけアップロードされているのだろう。

 

「去年のは色々合ったから勿論歯抜け…だろうな……」

 

「掲載できない事ばっかりだったからね、無人機の襲撃とか亡国機業とか」

 

 案の定昨年の動画は殆ど掲載されておらず、簪の指摘通りだ。

 しかし、今の目的は今年度の動画だ昨年のではない。カナードは目的の動画を探し出して即座に再生する。

 甲龍・紫煙は鈴音の専用機甲龍の後継機に当たる。燃費をさらに良くし、試合継続時間延長に成功したIS。武装は青龍刀型ブレードが一枚、単一の龍砲が頭上にあり、その他には下半身の三本の鞭の様な武装などが装備されている。そしてそのフォルムはと言うと、一般的なISよりも軽装に出来ている。これも燃費の良さに通じているのだろうかとカナードが予想する。

 凰乱音の戦闘スタイルは親戚である鈴音によく似た近接型。反撃の隙を与えない青龍刀捌きは油断すればこちらが負けると言ってもよいほど鮮やか。

 対するカナードは射撃特化の高速格闘型。ドラグーンの精密性はここ最近上達はしており、フリーダムの理想的な戦闘スタイルが確立されている。距離を詰められればカリドゥスやクスィフィアスを叩きこむか、二本のレーザーサーベルによる斬撃で対処するだけ。

 

「……大体の試合は殆ど青龍刀だけで終わってるね」

 

「射撃が苦手なのか、下手に情報を明かさないかのどちらかだろうな。 実際その時にならないと対処のしようがないか…」

 

 何度も何度も二人が乱音の試合映像を再生していると、一夏が酷くやつれた様子で帰ってきた。

 聞けば午前中に自宅の掃除を終えて五反田食堂で昼食を済ませて、学園に戻って来るや否や一夏の目の前に突然現れた乱音が模擬戦の申し入れで絡んできたと言う。

 

「で、そっからどうなったらそんなやつれた顔になるんだよ(ま、何となく予想は出来そうだけど)」

 

「俺にも良く解らないんだけど……『まるで鈴弐号機だな』って言ったら殺されかけたんだよ。 逃げ切るのに精一杯でさ」

 

「女の子に『弐号機』とか言っちゃだめだから。 汎用ヒト型決戦兵器じゃないんだからね?」

 

 簪の言い分に「そうなのか…?」と首をかしげる一夏にカナードはある事を思い出していた。

 

「(やっぱりか……そう言えばこいつ、箒をファースト、鈴をセカンド幼馴染って言ってたっけな)まー、結果てきにゃお前の方にも模擬戦を申し込まれたんだ、今の内に乱音の試合動画でも見ておけ」

 

「あ、ああ…気を付ける。 カナードはどうするんだ? お前も模擬戦を申し込まれたんだろ」

 

「簪経由だけどな。 俺は俺でフリーダムの調整がてらに稼働訓練だよ。 今の内にセシリアまで行かなくともドラグーンの完全手動(マニュアル)操作を極めにゃなんねぇしな」

 

「私も手伝いたいけど、打鉄弐式の整備を本音と約束してるからそろそろ行かなきゃ」

 

 部屋に一夏だけを残して、カナードと簪はそれぞれの目的地へと歩いて行った。

 

 

 

 

 もう何度やれば彼らの気が済むのだろう。スコールは何度目かの稼働実験に繰り出されうんざりしていた。失われた片腕は義手が機能しており、悪い見た目とは裏腹に機能性が高く纏っているラファールの操縦にも差し支えない。他に利点があるとするならば高い防水性だけだろうか。とにかくそれだけならば何も問題はないのだが、いま彼女の頭上で浮遊している人物が特に問題だった。

 グレーを主体とし、円錐形ドラグーンが十数基接続されている円形の増設ユニットを背負ったそれは既存のISよりも異質と言えよう。

 ユーディキウムレーザーライフルを右手に、レーザーサーベル内蔵型の複合防盾が左腕を嵌め込んでいた。

 その他にも注目すべき兵装が多々見受けられるが、一番注目すべきはその操縦者なのだ。

 

「まだだ………まだ『プロヴィデンス』は、完全ではない」

 

 己の専用機を纏い、汗が滝のように体中から流れ、ドラグーン制御の影響か鼻血を流しているクルーゼが吐き捨てた。呼吸は荒々しく、肩で息するその姿はスコール以上の疲労感が見て取れる。

 フロアの端で待機していた所員がクルーゼのもとに近づいて体中の汗を拭きとったり、何人かで集まってタブレット端末を操作する。スコールの方にも所員は来たが、十人以上はいるクルーゼ側と違って二人だけだ。その内の一人からドリンクを受け取った彼女は乾いた喉を潤して一息ついた。

 

「一体何が完全じゃないって言うの? もう十分じゃないのかしら?」

 

 未だ納得のいってないクルーゼにスコールが質問を投げかけた。何度もプロヴィデンスの稼働実験に付き合わされた彼女はその機体性能を充分に理解しているのだが、終わりの見えない行動に少しばかり苛立ちをみせていた。

 ジャミングスーツを着用している為、男性でありながらISを操縦するクルーゼ。スーツのデメリットとして基本的なISのスペックが平均値よりも低くなっているが、時間の経過とともにクルーゼの操作技術が上達していき、同時にスーツのデメリットが気にならない程にもなっている。機体のコンディションもスコールの眼から見ても並のISより一線を画している。それでもクルーゼは納得がいっていなかった。

 

「まだ私とプロヴィデンスの呼吸が合っていないのだよスコール。 君も知っての通り、ISのコアにはコア人格なる物があるとされている。 人はそれを『友』と例え、『相棒』とも例え、『家族』や『兄弟』、または『恋人』としても例えてられている。 その様に擬人化しているのは何故か、それはヒトと同じようにISも日々成長していくからだと私は思う。 そしてその成長の度合と言うべきレベルがあるとして、私とプロヴィデンスのレベルはまだ噛み合っていないと言う事だ。 もっとも、プロヴィデンスが私についてこれないのか、私がプロヴィデンスについてこれないのか……どちらかは分からないがね」

 

「仮にもしそのレベルが噛み合ったとして、その時点でプロヴィデンス……いえ、貴方達の計画は始まると言うのかしら?」

 

「……いずれにせよ、計画の遂行にはプロヴィデンスの完成は急務だ。 完成を急がねばならないのだよ」

 

 滴る汗を拭い、クルーゼはプロヴィデンスを駆り、宙を舞う。所員が打ち出したターゲットドローンをレーザーライフルで撃ち抜き、複合防盾から展開したナノマシンで形成したレーザーサーベルで切り裂き、そしてプロヴィデンスの目玉と言うべき兵装ドラグーンが十数基プロヴィデンス本体から射出され次々とターゲットドローンを破壊していった。正に天帝の二つ名に恥じない性能である。

 プロヴィデンスのドラグーン制御はスコールから見てもとても洗練されている様に見えた。とても一か月も前に初めてISを扱ったばかりとは思えないほど上達していった。

 それはクルーゼの努力の賜であろう。鬼気迫る彼の並々ならぬ成長具合には目を見張るものがある。

 

「スコール、今日の所はもう休んでいい。 長時間付き合ってくれてすまなかったね」

 

 視線を合わせずにねぎらいの言葉を述べる辺り、スコールはどこか切羽詰まっていたように見える。

 しかしスコールにとって正直言ってクルーゼの計画や目的など初めは興味は湧かなかった。しかし、彼らとかかわっていく内に次第に自然と興味が湧いていたのだ。

 男性でもISが扱えるジャミングスーツ。その量産化の暁には一体どれ程の血が流れるのだろうか。簡単にはそうはならないだろうと思っていても、クルーゼの言った『(たが)』とやらが外れた瞬間を想像してしまう。

 今まで自分たちが優位に立っていると思っている女たちは、事が起きるその時まで地獄を味わうなどと言う考えなど持ち合わせていないのだろう。そんな愚かな考えが瓦解した瞬間世界はどう変わってしまうのかがスコールは気になっていた。

 与えられた部屋に戻ると真っ先に彼女は衣類の総てを備え付けのランドリーバスケットに投げ入れてシャワールームに入った。コックを捻って出る冷水に身を震わせながらも、先程の稼働訓練のときに湧き出た汗を洗い流した。

 

 

 

 

 雲一つない晴天。蒼穹ともいえるその青空の下、IS学園のアリーナの一つでは初夏の暑さを肌で感じ取りながらも、浮遊しながら対面し合うフリーダム…大和カナードと甲龍・紫煙…凰乱音が管制室の担当教諭の号令を合図に模擬戦を開始した。

 カナード側のピットに待機している簪とセシリア、そしてシャルロットと鈴音の四人が模擬戦の内容を記録していた。

 フリーダムの高機動による連続射撃を乱音は出来る限り躱し切るものの少なからず被弾している。甲龍・紫煙の武装の殆どは中・近距離タイプに集中している。その点を知っているカナードは二挺のレーザーライフル、腹部のカリドゥス、腰部左右のクスィフィアスや背面のドラグーン等のフリーダムにもとからある武装だけでなく、ストライク時代に愛用していたアグニを拡張領域内から呼び出して光の線を打ち出して甲龍・紫煙のシールドエネルギーを削る。

 

「あれは……去年カナードさんが最初に使っていた荷電粒子砲で名前は確かアグニだったではないでしょうか」

 

「名残だって本人は言ってたよ。 後はシュベルトゲベールも入ってるって言ってたよ」

 

 かつてその威力を身を以て思い知ったセシリアがカナードのストライク時代の懐かしの武装を目にして、シャルロットが補足説明をする。

 一方でアグニの火線により、甲龍・紫煙の三本の鞭の様な武装が破壊され乱音は小さく舌を打ち、青龍刀を構え直してフリーダムを見据える。やはり男と言えど一年先輩。場数が違えば実力も違うと言う事だろうか。

 

「(何なのよ、あのフリーダムってISは。 速いったらありゃしない)……だったらぁ!」

 

 乱音が上段の構えから捨て身の突進を繰り出した。相手が撃つ前に近づいて距離を詰めて切り付けるしかない。しかもカナードはアリーナの壁に追い詰められている為に反応が遅れているようだ。

 これで決まったと誰もが思う中、カナードはあくまでも冷静に迫る乱音を見据える。

 

「ちぇぇぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 青龍刀が振り下ろされる直前、カナードは二挺のレーザーライフルを真上に思いっきり放り投げ、物理シールドを展開しながら白刃取りで青龍刀を抑え込んで、乱音が驚愕して隙を見せるとすかさずカリドゥスとクスィフィアスを甲龍・紫煙のボディーに打ち込んだ。

 油断した。乱音は歯噛みしつつ、眼前の落下したレーザーライフルを回収するカナードを睨んで己の行動を悔いていた。今のでシールドエネルギーは残り三割近く。誘い込んだつもりがこちらが誘い込まれたのだと嫌でも理解してしまう。

 

「おぉぅらぁっ!!」

 

 逆袈裟にカナードがシュベルトゲベールを振り、得物が弾き飛ばされ残りの武装は単一の龍砲のみ。現状では焼け石に水かもしれないが乱音はそれを乱射する。

 見えない弾丸は避けようにもない。が、カナードとて一年も無意味にISを乗り回していたわけではない。八基のドラグーンを射出して、両腕部の物理シールドを展開してそのまま接近する。龍砲から打ち出された見えない弾丸は物理シールドに阻まれ何度目かの接近を赦してしまい、二本のレーザーサーベルの斬撃で龍砲を破損させられて八方から来るドラグーンの火線を集中的に浴びてシールドエネルギーが底を突いた。

 この瞬間、カナードの勝利が確定した。

 

「お疲れ様。 いやー、やっぱ強いね君」

 

「と、とーぜんよ! 何てったって一年生最強なんだから(って言うけど、正直言ってこっちが圧倒されっぱなしだったじゃないのよ。 もしかしたら鈴お姉ちゃんは……私なんかよりも、多分この人よりももっと強いのかも…)」

 

 模擬戦終了後、称賛の言葉を贈りながら握手を求めるカナードに応じた乱音。彼女は内心鈴音の現在の実力を予想して少なからず戦慄していた。

 昨年は亡国機業と幾度となく刃を交えたからか、カナード達は自然と実力が向上していた。しかし乱音は訓練と言う範疇の中で付けていった実力なので、その差は歴然と言って良いだろう。現に、二年の中で下から数えた方が早い実力の一夏との模擬戦でもあと一歩のところで零落白夜を受けて敗北している。

 そして、この日以降乱音は決して驕ることなく、実技と座学に真摯に取り組んでいった。それに対して乱音と同じ学年の女子生徒たちは驕った態度を崩さずカナードや一夏に模擬戦を仕掛けるも、乱音程善戦する事無く敗れ去っている。しかし、それでも自分と相手の実力差を認めないのがその内のごく一部存在しているので余計に性質が悪い。

 

「あっぶなかった……」

 

 乱音との模擬戦を終えた一夏が、疲労困憊と言った様子で自分が飛び出したピットに戻った。

 

「流石に一年生最強を豪語するだけはあるな。 戦い方次第では一夏が負けてもおかしくはなかった」

 

 手厳しい箒の評価にがっくりとうなだれてしまう一夏。その横で鈴音とラウラがフォローを入れるが、一夏自身己の力不足を認識しており、明日からはさらに精進しようと決意を新たにしていた。

 まだまだこれから自分自分は強くなれる。そのためにも、一夏は目標として個別連続(リボルバー)瞬時(イグニッション)加速(ブースト)の習得を掲げるのであった。

 

 

 

 

続く




次回から夏休み編に入りますお楽しみに
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